2010年12月31日金曜日

今年1年誠にありがとうございました

 今年もあっという間に過ぎていきました。今年1年を振り返ると、書籍の発刊、各種専門誌への記事掲載等の仕事が広がっていくとともに、顧問先・スポット企業様へのサービス内容が深まったように感じております。これもひとえに大勢の方々にご支援頂いているおかげです。

 来年は更に充実したサービス内容をご提供し、ご支援にお応えしたいと考えています。来年もよろしくお願い致します。

2010年12月30日木曜日

改正労働安全衛生法案における受動喫煙防止対策

 先日(平成22年12月22日)、厚労省労働政策審議会は「今後の職場における安全衛生対策について」を取りまとめ、厚生労働大臣に対し建議しました(こちら)。同建議を受けて、厚労省は来年1月からの通常国会に「改正労働安全衛生法案」を政府提出法案として提出すべく、準備を進める予定です。

 今回の建議において、まず注目されているのが受動喫煙防止に係る建議です。従前から厚生労働省(労働基準関係)も受動喫煙防止対策をガイドライン等を通じて展開してきましたが、これは「快適な職場環境形成」を目的としたものであり、法律上、事業者に対し義務づけられる性格のものとしていませんでした。これが今回の建議では「労働者の健康障害防止」とその施策の目的を転換するとともに、労働安全衛生法において事業主に同措置を義務づけることが提案されています。具体的には事業主(事務所、製造業等)に対し、職場の全面禁煙、空間分煙が法的に義務づけられるものです。これは大きな政策転換にあたるといえるでしょう。ただし同義務付けに際し、当面はその施行は行政指導によることとし、「罰則規定」は設けないこととされました。

 確かに最近では多くのオフィス、工場では、全面禁煙、空間分煙(喫煙室の別途設置)が進んでおり、これが法律上義務化されるとしても、さほど大きな影響を与えないことが見込まれています。これに対して、飲食店などのサービス業では、顧客が煙草を楽しみながら、飲食を楽しむ姿が今なお一般的です。同サービス業においては、接客等を担当する従業員は顧客が喫煙する環境の中、業務に従事する事になりますが、この場合、上記問題をどのように考えるべきでしょうか。

 この点が同建議取りまとめに際しても、大きな問題となっていました。これについて同建議では、以下のように取りまとめを行っています。
 飲食店、ホテル・旅館等の顧客が喫煙できることをサービスに含めて提供している場所についても、労働者の受動喫煙防止という観点からは、全面禁煙や空間分煙の措置をとることを事業者の義務とすることが適当である。しかしながら、顧客の喫煙に 制約を加えることにより営業上の支障が生じ、全面禁煙や空間分煙の措置をとること が困難な場合には、当分の間、可能な限り労働者の受動喫煙の機会を低減させること を事業者の義務とする。具体的には、換気等による有害物質濃度の低減等の措置をとることとし、換気等を行う場合には、浮遊粉じん濃度又は換気量の基準を達成しなけ ればならないこととすることが適当である。

 以上のとおり、サービス業の一部については、全面禁煙・空間分煙の措置を講じることが困難な場合、当分の間として「労働者の受動喫煙の機会を低減させること」つまりは「換気等による有害物質濃度の低減等の措置」を講じることで、全面禁煙等の措置に代替することを許容するとします。

 問題はこの「換気等による有害物質濃度の低減等の措置」ですが、建議では基準として以下のものを挙げます。
 換気等による有害物質濃度の低減等の措置により、浮遊粉じん濃度又 は換気量の基準については、粉じん濃度:0.15mg/m3 以下、n 席客席がある喫煙区域 における 1 時間あたりの必要換気量:70.3×n m3/時間とすることが適当である。

 同濃度の測定方法、換気設備設置・維持費用の概算などが安全衛生分科会の資料として提出されています。同資料については、人事労務担当者はもちろん、総務担当者、店舗管理担当者も早急に確認・検討すべきものといえます。

受動喫煙防止対策に係る測定方法(こちら
飲食店における換気対策に係る試算について(こちら

 なお同建議では同義務化に伴い、中小企業等に対し一定の財政支援等の施策を講じるべきとしています。

現在の政治情勢をみると、この労働安全衛生法案の行方も全く不透明ではありますが、まずは情報の整理まで。

2010年12月28日火曜日

あっという間に年の瀬

 公私ともに激動の11月~12月でしたが、年の瀬となり、ブログ再開を思い立つほどに落ち着きを取り戻しました。いやいや、我ながらよくぞ乗り切ったものです(笑)。しかしながら、まだまだ仕事は終わりません。
 目下、1月刊行予定の著書「有期雇用のトラブル対応実務チェックリスト」(日本法令)の再校中。また来年以降の拙事務所運営体制の見直しも進めなければなりません。

 何とか除夜の鐘が鳴る頃までには、終わらせておきたいところ(笑)。

 

2010年11月30日火曜日

労働保険加入状況のインターネット公開について

 12月1日正午から厚労省HP上で「労働保険の適用事業場検索」サービスがスタートするとの事(こちら)。同サービスがスタートすると、従業員あるいはそれ以外の第三者も、自由にネットで事業場の労働保険加入状況が確認できるようになるようです。

 厚労省は同新制度について、次の期待を示しています。

労働保険の加入状況を誰でも簡単にチェックできるようにすることで、労働保険未加入の事業主に対し、加入手続を促すことにつながると期待しています。

 行政規制の新たな手法といえるかもしれません。注目すべき動きですが、今後さらに同手法が広がる可能性がないか(例えば36協定の届け出の有無等どうか)、また同行政手法は法的に問題が生じ得ないのか(根拠法は必要ないのか、事業主から見て保護に値する情報といえないのかどうか、同公開によって損害を被った場合の問題など(行政側の不備が原因))。色々と検討すべき課題も多いように思われます。

2010年11月16日火曜日

宅直勤務の労働時間性否定(県立奈良病院事件高裁判決)

 県立奈良病院事件の大阪高裁判決が出されたようです(こちら)。 以下産経新聞HPより

病院の当直勤務は割増賃金が支払われる「時間外労働」に当たる、として、県立奈良病院の産科医2人が県に相当額の支払いを求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は16日、計約1500万円の支払いを命じた一審奈良地裁判決と同様に「当直は労働時間」と認定。双方の控訴を棄却した。

 産科医側の弁護士は「高裁では初めての判断。同様の問題は全国にあり、影響は大きい。労働環境の是正には医師を増やすしかなく、国レベルでの対応が必要だ」と話している。

 判決理由で紙浦健二裁判長は、分娩の6割以上が当直時間帯だったことや、通常勤務と合わせて連続56時間勤務になることもあった過酷な労働実態に触れ「入院患者の正常分娩や手術を含む異常分娩への対処など、当直医に要請されるのは通常業務そのもので、労働基準法上の労働時間と言うべきだ」と指摘。

 また、当直医は勤務を途中で離れられないことから「(実働時間以外も含む)当直勤務全体について割増賃金を支払う義務がある」とした。

 呼び出しに備えて自宅などで待機する「宅直勤務」については、一審に続き労働時間と認めなかったが、紙浦裁判長は「負担が過重になっている疑いもある」と言及し、県知事らに実情調査と体制の見直しを促した。

 判決によると、奈良病院の産婦人科では2004~05年、医師5人のうち1人が交代で夜間や休日の当直勤務を担当。産科医2人は2年間で各約210回、当直勤務に就いた。分娩に立ち会うことも多く、十
分な睡眠時間が取りづらかったが、一回につき2万円の手当が支給されるだけで、時間外労働の割増賃金は支払われていなかった。

 研究会で同地裁判決を議論した際、最も白熱したのが宅直勤務の「労働時間性」でした。この点について1審判決がは必ずしも説得的な理由付けを示していないように感じておりますので、高裁がどのような論旨で、労働時間性を否定したのかが気になります。

2010年11月12日金曜日

労務事情トーク&トーク執筆について

 「労務事情」11月1日号(産労総合研究所)から5回連載で、巻頭コラム「トーク&トーク」を執筆しております。

 11月1日号が「パワハラ問題」(こちら)、同15日号は「事業場外みなし労働」を取り上げました。労務事情編集部より掲載誌をお送りいただき、ありがとうございました。

 本日12月1日号の原稿戻しを致しました。あと残り2本。コラムの連載はなかなか大変ですね(^^;)。読者の皆様に少しでもお役に立つところがあれば誠に幸いです。

2010年11月1日月曜日

11月三鷹労働法セミナーのご案内

 あっという間に11月を迎えました。近頃は朝方、必ず暖房を入れるようになりました。今年の夏の暑さが嘘のようです(笑)。

 今月も定例の三鷹労働法セミナーを開催いたします。今月は諸般の事情から、上旬の11月11日(木)18時から「精神障害の労災認定をめぐる最新動向」を取り上げます(詳細はこちら)。ご利用頂ければ幸いです。

2010年10月7日木曜日

労災審査請求手続きの一部変更について

 厚労省HPに本年10月から労災審査請求手続きの一部を変更する旨、UPされています(こちら)。

審査請求の際に、処分庁(労基署長)から示される意見書をあらかじめ審査請求人に示すよう改正するとの事。

今までそのような取扱いではなかった点にこそ、少なからず驚かされました。

労災審査官制度自体が行政不服審査法の全面改正に伴い、廃止が提言されている中(行政不服審査法の改正案の概要はこちら 国会審議進んでいない状況)、同手続きを一部見直すという事がどれだけ意義のあることか諮りかねますが、社労士としては、注目すべき改正点ではあります。

なお業務見直しに伴い、労災保険の不服審査案件の概要がHPでUPされるようになっています(こちら)。同案件について、ぜひ集中的に検討してみたいと思う次第。とりわけ労働判例として研究されにくい治癒判断、障害等級決定などに関心があります。





 

2010年10月5日火曜日

精神障害の労災認定基準 再び見直しか?

 本日(10月5日)、厚労省HPを見ておりましたら、大変気になる案内がありました。

第1回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」の開催についてこちら

第1回「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」の開催について

標記検討会について、下記のとおり開催いたしますので、お知らせいたします。



1.日時
平成22年10月15日(金) 9:00~11:00

2.場所
厚生労働省共用第9会議室(中央合同庁舎第5号館19階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)

3.議題
精神障害の労災認定の基準について


 
 精神障害の労災認定基準は昨年(平成21年4月)に見直されたばかりです(こちら)。

 1年半足らずでまた見直しのための研究会を発足するのは異例と言わざるを得ません。今のところ、同検討課題は示されていませんが、一つあるとすれば、最近の裁判例において、相次ぐ精神障害の労災不支給決定処分取消があるように思われるものです。

 私自身の印象では、近時の裁判例は心理的負荷の過重性評価を「本人」基準にしているように思われる事案や、配転による心理的負荷の過重性を強調しているものが目立ちます。またパワハラによる精神障害を主張する事案が増加していますが、現行基準では極端な上司による暴言を除き、適合的な判断基準がいまなお示されていないようにも思われます。

 いずれにしましても同研究会において、どのような労災認定基準の見直しが検討されるのか注目されます。

 

2010年10月4日月曜日

3件目の事業場外みなしに係る地裁判決

本ブログにおいて、かねてから取り上げておりました旅行添乗員に対する事業場外みなし労働について、3件目の地裁判決が登場しました(こちら)。

村田一広裁判官は「添乗員は長距離にわたる移動をし、旅程を管理するという業務の性質上、労働時間を認定することは困難が伴う」とみなし労働制の適用は適切と指摘。一方、添乗員らの従事したツアーごとにみなし労働時間を判断し、割増賃金計約1,140万円と、さらに同額の付加金も併せて支払うよう認定した。 (JILPTメールマガジンより)。

判決文をまだ確認しておりませんが、同記事によると、結論は7月判決と同様ではありますが、みなし労働の適用を肯定した理由付けは異なるようです。7月判決が4・6通達に基づき判断を行ったことに対し、9月判決は「業務の性質」を中心に判断しているようですが、いずれにしても判決文の精査が必要です。

労働側、会社側ともに控訴するようですので、東京高裁がどのような判断を行なうか大変に注目されるところです。






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2010年9月22日水曜日

細川厚労大臣の決意表明? 臨時国会における改正派遣法案の動向

 来月10月1日からの臨時国会開会が本決まりとなりました。人事労務畑では改正派遣法案の動向が気になるところですが、細川律夫新厚生労働大臣は今朝の日経新聞インタビューにおいて、改正派遣法案の成立に意欲を示しています(こちら)。

細川律夫厚生労働相は労働者派遣法改正案について「雇用のセーフティーネットを考えれば、どうしてもやらなければならない法案だ」と述べ、次の臨時国会での成立を目指す方針を示した。同法案は製造業派遣の原則禁止などを盛り込んでおり、先の通常国会で継続審議になっている。

 審議未了となった先の国会においても、派遣法案に関する国会答弁は主に細川氏が担当されていました(当時 副大臣)。また労働契約法等の修正にも携わった経緯等からも、民主党内にで労働法分野の第一人者と目されるところと思われますので、上記ご発言も当然かと。

 問題はいうまでもなく参議院における与野党合意の難しさですが、この点を踏まえて、法案修正に応じるのか、応じるとして、いかなる修正がなされるのか。臨時国会における審議状況が注目されるところです。

2010年9月21日火曜日

有期労働契約研究会報告書の公表について

 厚労省は先日(9月10日)、有期労働契約研究会報告書を取りまとめ、公表しました(こちら)。

 明日(9月22日)、弊事務所主催で三鷹労働法セミナーを開催いたしますが、同日のテーマとして、この有期労働契約研究会報告書の解説を予定しております(こちら 若干の空席有)。

 厚労省は今後、労働政策審議会で1年かけて有期雇用法制の在り方について審議を進め、平成23年度通常国会(再来年1月以降)での法案提出・成立を目指しているようです。同報告書において、とりわけ注目されるのが、有期雇用の締結事由あるいは更新回数・利用可能期間に対する規制の在り方に係る記述です。

 今後の法案動向を探る上で、同報告書の検討は不可欠であることは間違いのないところです。

2010年9月17日金曜日

パワハラ問題と労働組合の対応~ある裁判例から~

 濱口先生ブログの「職場の組合はどこへ行った?」(こちら)を拝読し、あるパワハラ裁判例を思い出しました。

 A生命保険ほか事件 東京地判平成21年8月31日(労判995-80)。

 同事件は試用期間満了前に解雇(本採用拒否)された中途採用社員が、会社に対して解雇無効・地位確認等を行うとともに、労働組合の書記長に対して民事損害賠償請求を提起したものです。

 同損害賠償請求の理由として、原告側が挙げるのが「労働組合に上司等からの嫌がらせについて相談したが、解決につながるような特段の措置を講じなかったこと」です。これが債務不履行(原告と労働組合書記長間)にあたるとして、慰謝料20万円の請求を行っています。

 これに対して同地裁判決では会社側に対する請求を斥けるとともに、組合書記長に対する訴えについては「被告D(書記長)は、原告から本件組合の書記長としての対応を求められたのであって、個人としては、原告との間で何らかの契約法上の法的義務を負うことはない」とし、こちらも請求棄却しました。

 上記判示部分を見ると、書記長個人はともかく、労働組合と組合員の間において、適切にパワハラ等の相談に対応しないことが債務不履行(そもそも組合と労働組合員との間に如何なる債権・債務があるのかが問題)に該当する余地があるか否かは判断されていません。今後の検討課題ではないかと感じるところです。

2010年9月16日木曜日

改正労働安全衛生法案の検討項目

 昨日(9月15日)、厚労省において労働政策審議会労働安全衛生分科会が開催されました。同日の主なテーマな労働安全衛生法の検討項目。来年1月からの通常国会での成立を目指し、労働安全衛生法の改正案策定が本格化したものです(改正に向けた検討項目はこちら)。

 今回の改正において、とりわけ注目されるのが、職場における受動喫煙防止対策とメンタルヘルス対策です。詳細については、今後の審議会での議論さらには国会での審議等に委ねられる訳ですが、昨日の議論を傍聴し、今後の議論の焦点になると感じたのが次の点です。

受動喫煙防止対策 
・レストラン・居酒屋等における受動喫煙防止のための施策をどのように設計するか。
・履行確保手段として、いかなるものを想定するのか(刑事罰を背景とした労基署の監督指導、刑事罰を背景としない指導、またはガイドラインにとどめるか)。

メンタルヘルス対策 
・パワハラ等のメンタルヘルス問題予防のための対応をどうするか(審議会では、分科会で検討はするものの、労働条件分科会等での議論が適切との事務局見解あり)
・1年1回の定期健診による問診をもって、実効性のあるメンタルヘルス対策が可能であるのか(使用者側委員からの質問)
 確かに同質問のとおり、今回のメンタルヘルス健診案は、その目的と実効性が今ひとつ判然としません。これに対して、事務局側はメンタルヘルス健診の目的を「疾病の発見よりも、従業員本人の気づきを促すこと」等と説明していました。

 従業員の気づきを促進する方法として定期健診の活用が適切か否かが、今後の大きな検討課題になりそうです。

2010年9月14日火曜日

地域別最低賃金(平成22年度) 各都道府県答申まとまる

 厚労省HPに平成22年度地域別最低賃金の答申状況がUPされています(こちら)。

 本日段階、多くの都道府県では答申に対する異議申立手続きを進めており正式発効していませんが、今月中には概ね同内容で決定するものと思われます(本日段階での決定状況はこちら)。

 個人的には長らく住み、愛着ある北海道の金額がどうしても目を引きます。ドライブ途中に寄った札幌市外のコンビニ等にも、当然に道地域別最低賃金額が適用されることになりますが、大丈夫でしょうか。もちろん生活保護費との均衡含め様々な考慮要素を基に公労使が審議を重ね答申が示されたものですが、なかなか厳しい印象を受けました。とはいえ一度決められたものは当然ながら守られなければなりません。最低賃金法の施行は年々、厳しさを増しています。

2010年9月9日木曜日

メンタルヘルス対策のための外部専門機関とは?ー事業場における産業保健活動の拡充に関する検討会の発足

 メンタルヘルス健診が論じられた当初、拙ブログにおいて次の指摘をしたことがありました(こちら)。

特に、メンタルヘルス不調者の把握及び対応においては、実施基盤の整備が必要であることから、これらについて十分な検討を行う。

同報告書において的確に指摘されているとおり(太字部分)同問題は実施基盤の整備が重要ですが、その際、何よりも相当数の精神医学に精通した産業医・保健師・産業衛生スタッフの養成が不可避です。労使ともに、実のところ、メンタルヘルス問題について安心して相談できる産業医学の専門家を心待ちにしており、まず厚労省も基盤整備に優先して取り組んでいただきたいと思うところです。 


 メンタルヘルス対策検討会報告書においても、同問題意識が共有されており、次の提言がなされていました。
メンタルヘルス対策を新たな枠組みで行うことが適当であるが、
・ メンタルヘルスに対応できる産業医の数は十分でない、
・ 嘱託産業医は専ら産業医の業務を行っていない状況等を踏まえると十分な対応が困難な場合もある、
・ 精神保健分野等様々な分野の複数の産業医を選任した場合に多くの経費を要する
等の問題が指摘され、メンタルヘルスに対応できる産業医等で構成される事業場外の組織(外部専門機関)を整備・育成し、メンタルヘルス不調者への対応等に関する産業医の職務を効率的かつ適切に実施可能とすることを検討することが必要である


 外部専門機関の整備・育成とはどのようなことを想定しているのか、よく分からなかったのですが、厚労省は同問題を検討すべく、新規に研究会を立ち上げるようです(こちら)。

 特に「事業場外組織の満たすべき要件について」などがどのように議論されるのか、注目されるところです。

2010年9月8日水曜日

健康診断の適用対象労働者拡大?ー職場におけるメンタルヘルス対策検討会報告書から

 「職場におけるメンタルヘルス対策検討会報告書」(こちら)を読み進めていたところ、次の記述が目につきました。

カ 健康診断の対象労働者の拡大
メンタルヘルス不調に影響を与えるストレス等の要因への対応が幅広く実施されるようにするため、健康診断の対象となる非正規労働者の範囲の拡大について別途検討が必要である。


 これをどのように読むべきでしょうか。短時間労働者に対する定期健診の取扱いについて、現行法では以下の取扱いとされています(愛知労働局HPの解説はこちら)。

 1年以上の雇用見込みがある者(有期でも見込みがあれば対象)で、かつ1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること

 上記研究会報告はそもそも定期健診等の適用対象拡大を検討課題としているのか、あるいはメンタルヘルス健診に限って適用対象を拡大しようとしているのか定かではありませんが、いずれにしても、適用対象者の拡大は企業にとって相応のコストと準備を要します。この点について、これから始まる労働政策審議会でどのように審議が進められていくのか、注視しておく要がありそうです。

2010年9月7日火曜日

職場におけるメンタルヘルス対策検討会報告書に対する実務対応上の疑問

 厚労省HPに「職場におけるメンタルヘルス対策検討会報告書」がUPされました(こちら)。定期健診時に医師が問診を行った際、労働者のストレスに関連する症状・不調を確認し、必要と認められるものについて医師による面接を受けられるしくみを導入すること等が提案されています。今後は同研究会報告を基に、労働政策審議会で審議が開始され、来年の通常国会に改正労働安全衛生法案が提出される見込みです。

 すでに濱口先生がブログで迅速にコメントUPされておられますが(こちら)、当初同問題に関し懸念していた「労働者のプライバシー」については、以下のとおり相当配慮した形で報告書が取りまとめられています(拙ブログでの指摘はこちら)。

・医師は労働者のストレスに関連する症状・不調の状況、面接の要否等について事業者に通知しない

・医師による面接の結果、必要な場合には労働者の同意を得て事業者に意見を提出

 ざっと見た限り、企業における実際の運用に際して、以下の点に疑問が生じました。法制定の際には、そのうちの幾つかはクリアになるとは思いますが、さしあたり疑問点を挙げます。

1 定期健診を実施した医師が面接の要否等を直接、労働者に連絡することとされたが、その方法をどうするか(従来の定期健診の結果通知は医師→会社→労働者本人ルートで問題なし。医療機関等が直接本人宛送付している事例有)。

2 面談する医師を会社側があらかじめ指名しておくこととされているが(産業医をイメージしている模様)、同医師は精神科医でなくても良いのか(恐らくは良いとするのでしょうが、外科医・内科医の産業医が実際に実効性のある(※提案趣旨からすると自殺予防含む)面談を行うことができるか否か)。

3 同面談に対する費用負担は会社若しくは本人(会社との折半など)、あるいは労災保険・健保による負担が想定されているのか(健保の場合、自己負担分があるのか否か)。会社が負担する場合、「通知しない」こととの整合性を如何に保つか。

4 労働者側が同面談の受診拒絶、又は同面談に伴う意見提出を拒絶した場合、何らかの法的影響があるのか否か(安全配慮義務、労災の業務上外判断等)。

5 上記改正案によって、会社側の安全配慮義務又は労災の業務上外認定判断に何らかの影響がありうるのか。

 4、5については法改正がなされた後の判例法理の動向を見守る他ないところではありますが、大変に気になるところです。また1~3は企業が実務対応する際、必ず問題となる点と思われます(すでに研究会の中で議論されているところとも思われますが)。

 今後の労働政策審議会における議論が注目されます。

2010年9月1日水曜日

東京都最低賃金引き上げの答申と企業実務対応上の準備

 8月末、東京地方最低賃金審議会が東京労働局長に対して、東京都最低賃金額の引き上げを答申しています(こちら)。

 本年度地域別最低賃金(791円)から30円引き上げて、821円
 発効は平成22年10月24日

 昨年であれば答申が8月5日、その後の公示手続き等を経て8月31日付けで局長決定、翌日官報掲載の上で、10月1日付け発効でしたが、本年は中央最低賃金審議会における地域最低賃金額目安の答申が8月6日(こちら)であり、その分、地域別最低賃金審議会の答申・公示手続き・決定・発効予定時期が遅れているものです。今後の流れとしては、公示手続き等の上、9月24日前後に局長決定・官報掲載、10月24日発効が考えられます。

 1時間あたりの時給単価が30円増ということですが、1ヶ月の所定労働時間が1ヶ月173.8時間(ほぼ法定労働時間)、年間労働時間数2085時間で算出した場合、月額賃金で5214円、年間で62550円の引き上げ額になります。

 同引き上げを前提に、パート・アルバイト社員の時給見直しの準備を今から進めておく要がありますが、それとともに注意しておきたいのが、月額給与の対象者です。最近、正社員とともに契約社員に対しても月額給与を導入している場合が多いものですが、ここ数年の大幅な最低賃金額引き上げの結果、月額給与の設定額によっては、最低賃金割れを起している懸念があります。

 東京都に限ってみると、平成18年度地域別最低賃金額が719円であったところ、この4年間で100円以上の引き上げがなされることになります。特に契約社員等に係る初任月給額が821円の時給単価を下回る可能性がないか、再確認しておく要があるものです(月所定労働時間が173.8時間とすれば、単純計算で月額給与が142、690円以上である要有。対象賃金等については以下URL参照)。

 チェックの方法については、厚生労働省HPが参考になります(こちら

2010年8月12日木曜日

行政調査・指導・罰と刑事告発の関係性~証券等監視委委員長コメントから

 asahi.comの「法と経済のジャーナル」に証券等監視委の佐渡委員長インタビューが掲載されています(こちら)。

 佐渡氏の前職は検察官であり、金丸事件捜査などを担当されたとの事。当時の捜査、そして政治資金絡みの案件に対する興味深いコメント、経済事件における暴力団の暗躍(まさに「レディ・ジョーカー」の世界)など非常に読み応えあるインタビュー記事ですが、個人的にとても興味深かったのが、証券等監視委員会における行政調査・指導と刑事告発等案件の関係です。

 同委員会が設立されてから佐渡委員長が就任するまでは、内部告発案件などの貴重な情報を刑事告発等を担当する出向検事等が情報を囲い込んでしまい、行政調査・指導のセクションにうまく同情報が流れていかなかったとの事です。これを佐渡委員長が内部告発等の情報の流れをかえ、行政調査・指導担当部署に流し、調整することにしたようです。

 また同委員会は行政権限を拡充し、「課徴金」などの行政罰を充実させ、これと刑事罰の棲み分けを行う取組みを進めているとの事(以下コメントのとおり)。

「カギのひとつは課徴金だね。むしろ課徴金を活用することによって、犯則手続で処理すべき案件との境界線が明瞭になってきた。それまでは、課徴金で処理してもいいような事件まで検察に持ち込んでいた。なんでこんなものを持ち込んでいるんだ、とやめさせたケースもある。そんなものを犯則でやろうとしたら、検察との間でいろいろ議論になるに決まっている。そういうことでもごたごたしていた。犯則事件として取り掛かった以上は何とか告発したいという発想になっていた」

 「いまは、情報を、その情報処理に合った部門に適切に配転し適切に処理するようになった。だから、いまは、犯則で持ち込む事件はまったく問題がなくなった。課徴金をうんと活用してもらった方がいいんだ」


 この問題は労働・社会保障分野における行政権限と刑事罰との関係を考える上でも、大変に示唆的であるように思えます。労働基準法の罰則規定をぱらぱら読み直して、改めて感じる次第。

2010年8月11日水曜日

iPad書類管理に関する好解説

 iPadを用いた書類管理について、大変参考になる解説が日経ビジネスonlineに紹介されています(こちら)。

 この中で個人的に大変参考になったのが、iAnnotate PDFの活用法。前から使っておりましたが、ペンでの日本語表記がうまくいかず、ストレスの素でした。

 それが同解説を読むと「ポイントは、文字を書くときに表示をできるだけ拡大すること。倍率を上げて、余白に文字を大きく書こう。大きすぎると思っても、本来の倍率に戻すと、適度な大きさになって読みやすくなる。

 う~ん、こんな簡単な方法ですらすらと日本語がうまく書けるのですね。これは目から鱗でした。更に同アプリの使い勝手が良くなりそうです。

2010年8月6日金曜日

拙稿「派遣・請負をめぐる動向とビジネスチャンス」SR19号掲載の件

 「開業社会保険労務士専門誌 SR」(日本法令)の最新号(8月5日発売)に拙稿「派遣・請負をめぐる動向とビジネスチャンス」が掲載されました(こちら)。
 最近の派遣・請負をめぐる法動向と社労士が提供しうるサービス内容(一例に過ぎませんが)を解説したものです。ぜひご覧いただければ幸いです。

 また同誌には敬愛する田代英治先生の「トータルコンサルティング編」など参考になる実務解説が多く掲載されており、参考になりました。他の先生のお仕事ぶりを知ることは、良い刺激になりますね。

2010年8月5日木曜日

有期雇用チェックリストの執筆について1

毎年8月は「宿題」を自らに課すことにしていますが、今年は「有期雇用チェックリスト」(仮題)の執筆をまず第一の課題としました。

パート・アルバイト・契約社員など様々な有期雇用が企業各社において広く活用されていますが、顧問先等からのご相談を伺っていても、有期雇用管理をめぐるトラブルが非常に多いように思われます。

例えば、雇用契約書一つ取ってみても、例えば24時間365日営業のサービス業において、労働日・労働時間を毎月(あるいは1週〜4週)のシフト票で確定しているケースなど、「始業・終業」「休憩」「休日」を如何に明記すべきでしょうか。同じく、月によって営業時間、要員配置が異なり、労働時間数段が上下変動する可能性が高い場合なども、この「雇用契約書」の作成一つが実のところ容易ではありません。

この点について、特に配慮なく、既製の契約書(正社員用)等をそのまま有期雇用社員に用い、後日トラブルが生じる例が最近、増えているように思われます。

これらの問題に対して、ケーススタディと参考にしていただける契約書式等をお示しできるものを、ぜひ作ってみたいと考えております。現在のところ、まだ道なかばではありますが、今月中にめどをつけたいと考えている次第。このブログでも執筆の進捗状況を経過報告することをもって、自らに鞭打つつもりです(笑)。




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2010年8月4日水曜日

セクハラ・パワハラ調査機関判断の意義とは? 京大セクハラ事件の報から

 今朝の共同ニュースに大変、難しい問題が報じられています。
「女子大生が京大提訴 教授セクハラにも大学は「訓告」」(こちら)。

京都大経済学研究科の男性教授からセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)を受けたという女子学生の申告に、京都大の調査・調停委員会が7項目の不適切行為を指摘して懲戒相当と判断したのに対し、経済学研究科が2項目しか認定せずに訓告処分としていたことが、3日に分かった。女子学生は「関係者の影響力を排除し、全学の教職員による公正な手続きを保障した委員会設置の趣旨に反する」などと主張し、大学に約465万円の損害賠償を求めて京都地裁に提訴した。

 訴状によると、京大の人権委員会ハラスメント専門委員会は2008年5月、女子学生の申し立てに基づき、複数の学部の5教員で構成する調査・調停委員会を設置した。同委員会は09年9月に(1)「大学院をやめてしまえ」という趣旨の発言(2)論文指導の拒否(3)飲食に付き合わせて体を触り、自宅に誘った-など7項目を「不適切な言動」と認め、「経済学研究科は懲戒手続きを開始するのが相当」と結論付けた。

 これに対し、経済学研究科は今年3月、(1)と(2)のみを認め、教授を訓告処分とした。

 京大は「対応を検討しているところです」とコメントし、調査・調停委員会と経済学研究科の判断が異なったことについては「処分内容は一切言えない」としている。


 同記事では調査・調停委員会の判断が、その後の学部教授会の人事権行使にどのような意義を有するのか、特に報じられていません。恐らくは「諮問」的な役割を持たされており、懲戒権含む人事権行使の判断は教授会に委ねられていたのではないでしょうか。

 人事権者が調停委員会における諮問内容のとおり、人事権(事実認定の上で懲戒権を行使)を行使しなければならないかどうか。この問題が裁判所において争われることになりそうですが、調停委員会判断に対し、規則等でどのような法的効力を付与しているのかがポイントになるように思います。

 会社によっては、パワハラ・セクハラについて、相談・調査機関を人事部門と別に設置する例が見られますが、同機関の判断をどのように位置づけるか規程等で明確化していないと、同種問題が争われる懸念がありますね。

2010年8月2日月曜日

事業場外みなしの典型的否定例?~某省大臣答弁から~

厚生労働大臣の記者会見(厚労省HP)を眺めておりましたら、以下のような興味深いご答弁がありました。

(記者)
 それに関連してですが、厚生労働省は以前から残業が非常に多い役所として有名だったのですが、新しい体制になって更に残業が増えたというデータが組合の調査で分かったのですが、これまで残業を減らすような努力を政務三役でされていたのか、もしもそうでなければこれからそういうことを考えて行くことがあるのか教えてください。

(大臣)
 そのアンケートを私も詳細には拝見しておりませんが、労働組合がやって厚生系は横ばい、労働系は残業時間が増えているという結果が出たということです。昨日も幹部と話をいたしましたが、労働系は新たな雇用施策を矢継ぎ早に打ち出しているのでその影響もあるのではないかということです。いずれにいたしましても、残業時間というのは多いと私も思っておりまして、我々も担当部局に改善を指示をして取り組んでいるところです。一番業務として指摘をされるのが、国会待機の問題があります。それについてはいちいち待機をしないでも、メールで連絡が常に取れる体制であればいいとか、いろいろ各部局で帰りの施錠時間を少しでも短縮しましょうということで、その目標を朝礼でも各部局から出していただいてどうすればいいのかという議論もしているところです(以下後述)。


 各部局で施錠がされた後、「メールで連絡が常に取れる体制」で、案件によっては即戻り執務に就くという状態は、労働法上、どのように評価されるのかは大変、気になるところではあります(今回問題となっている国家公務員(非現業)に労基法が適用されませんので、労基法の労働時間規制を論じる実益は実のところないのですが、国家公務員法上はどのように評価されうるのかも興味深い問題です)。濱口先生が懸案されていた事業場外みなし労働対象者に対する「携帯所持」も、まさにこのような状況での運用を指摘されていたのではないかと感じた次第です。

 なお大臣の以下の答弁続きは、全く正論だと感じました。この正論をいかにして実現していくかが、かねてから問われている訳ですが・・・。
必要のない業務、そして、無駄な事業をなくして行くことが重要でして、ある意味では省内事業仕分けを通じても無駄な事業をなくすことは職員の負荷も軽くなりますし、税金もそこで助かります。また、不必要な天下り団体があることで、そこで流れる金もありますし業務も付随して参りますので、それについて厳しくメスを入れて行くことで適正な業務量にして行きたいと思います。その一方で、部局間のばらつきも感じておりまして、法案を抱えている部局はその時期集中して忙しくなります。当初私も感じましたのは、縦割りでなかなか人がスムーズにそこに集中して、ある意味で助っ人として支援が回らないということもありました。それは我々も改善をすべく法案が集中する部局には、出来る限り人が回るような形をこれまでも実践して来ておりますので、そういうことを通じて少しでも改善する必要があります。
 もう一つは人材が不足している部分もありますので、社内の研修制度も充実して的確に業務が出来るような体制、今は部局の基礎知識がなく人事異動で放りこまれて、オン・ザ・ジョブ・トレーニングと言えば体裁はいいのですが、なかなかそこで業務がスムーズに行かないということもありまして、圧倒的に厚生労働省は研修が不足しておりますので、そういうことを含めて役所文化を変えることは、国民の皆様にとっても税金の無駄遣いがなくなるということでしょうし、職員の皆様にとっても不必要な業務がなくなるということですので、それについてはきちんと説明をしながら取り組んで行きたいと思います。

2010年7月27日火曜日

東京都主催労働セミナー「派遣労働者の人事・労務管理のポイント」講演について

 平成22年9月6日、13日(いずれも月、14時~16時、会場は飯田橋の東京しごとセンター9F、参加費無料)、東京都主催の労働セミナーで「派遣労働者の人事・労務管理のポイント」について講演いたします(詳細はこちら)。

 恐らく9月のセミナー講演時点でも、まだ改正派遣法案の命運は定まっていないと思われますが、その最新動向はもちろん、派遣法の基礎および最近、実務上大きな問題として浮上している「専門26業務適正化プラン」への対応なども解説する予定です。

 ぜひともご利用いただければ幸いです。

2010年7月26日月曜日

「ケータイを持たせて事業場外みなしが可能か」再論

 以前、濱口桂一郎先生の「EU労働法政策雑記帳」ブログで「ケータイを持たせて事業場外みなしが可能か」について、ご指導を頂いたことがありました(こちら)。この問題が阪急トラベルサポート事件(東京地判平成22年7月2日(判例集未掲載))において、まさに論じられておりましたので、ご紹介まで。

 同事件は先日の拙ブログ(こちら)において紹介したとおり、旅客添乗員の事業場外みなし適用を肯定した上で、裁判所が「必要時間数が11時間」であったと認定し、法定労働時間との差額分3時間(1日あたり)の残業手当請求を認容したものであり、過去の裁判例・行政解釈と比較しても大変に特異な判断を示したものであり注目していました。

 同判決ではまず事業場外みなし労働は「事業場外での労働は労働時間の算定が難しいから、できるだけ実際の労働時間に近い線で便宜的な算定を許容しようという趣旨」とした上で、労働時間適正把握義務、4・6通達をひもとき、次のように指摘します。

 「みなし労働時間制が適用される「労働時間を算定し難いとき」とは、労働時間把握基準が原則とする前記アおよびイ(※筆者注 上司の現認およびタイムカード等の客観的な記録による確認)の方法により労働時間を確認できない場合を指すと解される」。

 そのように判示した上で「自己申告制による労働時間を算定できる場合であっても「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合があると解される」旨明言しています。その理由として「自己申告制・・を排除するとすれば・・事業場外労働であって、自己申告制により労働時間を算定できない場合は容易に想像できず、労基法が事業場外みなし労働時間制を許容した意味がほとんどなくなってしまうから」とするものです。また原告が事業場外みなし労働時間制は実労働時間算定原則の例外規定であり、限定解釈すべきと主張した点については「しかし、この制度が実労働時間算定原則の例外であるとしても、労働者は実際の労働時間に即した算定を主張することができるから、必ずしも厳格に限定解釈をするべきとはいえない。」
 
 従来の裁判例をみると、事業場外みなし制度は例外的な制度とし、限定解釈を行うことが通例でした。また自己申告によって労働時間数の把握が可能であれば、特段異論なく「労働時間を算定できる」と解し、事業場外みなし適用を否定してきたものであり、この点に本判決の大きな特徴があります。その上で原告に主張に答える形で本地裁は次のとおり答えます。

「また・・通信手段が相当発達しており、使用者は、労働者が今どこにいるかリアルタイムで把握することができ、思い立ったときには指示をし、報告を求めることができるから、事業場外みなし労働時間制は相当の僻地への出張など極めて限定された場合にのみ妥当すると主張する。」「しかし、電話やファクシミリなど必要な場合は連絡可能な設備が備え付けられている在宅勤務について、事業場外みなし労働時間制の適用があることを完全に否定することにもなりかねず、原告の主張は、採用できない。」
 その上で本判決ではあてはめにおいて、派遣先が貸与していた携帯電話が使用されていたか否かを検討し、いずれも本件においては「携帯電話により具体的な指示を受けたことはなかった」と評価しています。

 労基署どころか裁判所においても「ぶれ」が生じてしまった次第です。また本判決は濱口先生が指摘される「携帯電話の即応性」に答えるものではありません。もう少し理由付けを示していただきたかったところでありますが、本件は海外旅行の添乗員という性質上、日本国内から連絡がなされる可能性が低く、その点を考慮した事例判断と解する余地もあるやもしれません。

 いずれにしましても、同一会社のさほど事実関係が異ならない旅行添乗員(国外旅行の方が日程変更等の自由度が高いのは間違いないようですが・・)に対する事業場外みなし適用可否で判断が分かれておりますので、東京高裁にまとまった判断を示していただきたいところです。

 また同事件のニュースだけを見て、もう「事業場外みなし」の適用は法的リスクがないと思われた方もいらっしゃるやもしれませんが、仮に適用が肯定されたとしても、「必要時間数みなし」「賃金制度」の問題が残ります。本事件でも事業場外みなしの適用が肯定された一方、賃金制度の面で会社に厳しい判断が示されており、実質使用者側が一部敗訴しています。この問題については、事業場外みなしの適用可否のみならず、時間管理、賃金制度設計なども含めて対応策を検討していかなければならないことも、本判決が示唆するところです。


 

2010年7月23日金曜日

「スト続発!変わる中国の労働者」

昨夜のNHKクローズアップ現代で取り上げられていたのが「スト続発!変わる中国の労働者」(こちら)。大変、見応えのある番組でした。若い農民工たちの「より豊かになりたい」という強い思い、そして携帯電話・メールなどを用い、他社のスト情報を収集する姿が大変、印象的です。中国の地方政府も最低賃金の大幅増(前年比20パーセント増!)以外は静閑の姿勢を崩していないとの事。
企業側としても、ストライキ対応として色々な対策があるのでしょうが、中国における日本への感情のしこりがあるため、取れる対策に限りがあるように感じた次第。それにしましても、昨日のtvでは中国の正式な労働組合(工会)の存在感が薄かったですが、一体何をやっているんでしょうね。その点も大変気になりました。

2010年7月22日木曜日

改正派遣法案の動向ー前国会委員会審議にみる公明党とみんなの党の立場の近さー

先の通常国会における派遣法案の審議状況を確認しようと、衆議院hpの厚生労働委員会議事録を読みふけっておりましたところ、これからの派遣法案動向を左右する公明党、みんなの党の質問内容の近さに気がつきました(平成22年5月28日衆議院厚生労働委員会)。

公明党からは坂口力委員(前厚労大臣)が質問されていますが、そこで主に議題とされていたのが、派遣法規制強化による雇用市場全体への影響、とりわけ請負へのシフト化を前提とした請負会社の就労条件でした。政府側も請負会社に関する政府調査が十分に行われていない関係上、坂口委員の質問に十分に答えうるところではありませんでしたが、答弁によると概ね派遣社員と請負社員の労働条件に大きな相違性がないように思われました。

みんなの党は柿澤委員が答弁にたっていますが、そこでも指摘されていたのが、派遣規制強化による「請負へのシフト化」とこれに伴う当該従業員の労働条件低下への懸念でした。

同質疑からみると、9月以降の国会で改正派遣法案が審議される場合は、派遣規制強化に伴う「請負シフト化」への対応策が「国会対策上」も重要なポイントとなる可能性があるように思われます。

それはさておき、同委員会議事録をみておりますと、大臣答弁などで以下の注目すべき発言がみられます。改正法案が成立した場合は、通達、指針等の改正がすでに予定されているとみるべきでしょう(主に平成22年4月23日衆院厚生労働委員会議事録から)
・専門26業務の内容については再検討をおこない、登録型派遣の原則禁止(施行から3年以内)までに目処をつける
・常用雇用の定義から、日々雇用で1年以上の雇用見込みがあるものを除くこととする
・常用雇用の派遣労働者については、雇用契約書等で更新回数を明らかとするよう派遣元指針に明記し、指導。



2010年7月12日月曜日

みんなの党アジェンダにみる労働政策~派遣法案改正~

 昨日の選挙において、みんなの党が躍進しました。参議院の過半数を失った与党は今後、みんなの党を初めとした野党と連携を強めていくものと思われますが、同党の労働政策はどのようなものでしょうか。アジェンダをみると、以下の記述が見られます(こちら)。

2.格差を固定しない「頑張れば報われる」雇用・失業対策を実現する
原則として全ての労働者(非正規を含む)に雇用保険を適用。
同一労働同一待遇(賃金等)や正規・非正規社員間の流動性を確保。
雇用保険と生活保護の隙間を埋める新たなセーフティーネットを構築。雇用保険が切れた長期失業者、非正規労働者等を対象に職業訓練を実施。その間の生活支援手当の給付、医療保険の負担軽減策、住宅確保支援を実施。
民主党政権の「派遣禁止法案」は、かえって働き方の自由を損ない、雇用を奪うものであり反対。
景気や中小企業の経営状況を見極めながら、最低賃金を経済成長により段階的にアップ。残業割増率を先進国並みに引き上げ、サービス残業の取締りを強化(雇用拡大と子育て支援にも効果)。
ハローワークを原則民間開放。民間の職業紹介・訓練への助成を拡充。


 この中でとくに興味深いのが「民主党政権の派遣禁止法案」への明確な反対の姿勢です。改正派遣法案は次期国会において継続審議扱いとされていますが、みんなの党が明確に反対している状況では、現法案のまま可決成立する可能性は極めて低くなったと思われます。その一方、非正規労働者の格差問題是正に言及していますので、「派遣禁止」ではなく「派遣労働者の格差是正」には関心があるようです。

 同スタンスが今後の派遣法案改正に対して、どのような影響を与えるのか注目されます。

2010年7月10日土曜日

拙稿「専門26業務派遣における雇入申込み義務」労働法令通信掲載について

 労働法令通信(2010.7.8号)に拙稿「判例研究 専門26業務派遣における雇入申込み義務」が掲載されました(こちら)。

 三洋アクア事件を題材に専門26業務派遣における雇入申込み義務の解説を行ったものです。この問題は継続審議扱いとなった改正派遣法案と密接な関わりがありますし、また実務上も労使トラブルが増加傾向にあり、重要性を増しています。ご関心ある方はご一読いただければ幸いです。

 判例実務研究会の報告内容を掲載いただいたものですが、同研究会では判例法理・行政運用および実務対応双方の面で、毎回、活発かつ深い議論が展開され、大変勉強になっている次第です。

2010年7月6日火曜日

(安衛法改正)受動喫煙防止のための保護具?

 先日、拙ブログにおいて「職場における受動喫煙防止に対する検討会報告」を取り上げましたが、具体的な提言の中で次の記述が気になっていました(拙ブログはこちら)。

3 具体的措置
・ 一般の事務所や工場においては、全面禁煙又は喫煙室の設置による空間分煙とすることが必要。
・ 顧客の喫煙により全面禁煙や空間分煙が困難な場合(飲食店等)であっても、換気等による有害物質濃度の低減、保護具の着用等の措置により、可能な限り労働者の受動喫煙の機会を低減させることが必要。


 この「保護具の着用」が何を指すのかイメージできなかったのですが、他国(ここではカナダ)では本当に着用している例があるようで、びっくりいたしました。時事ドットコムの特集記事はこちら
 それにしても、マスク着用のまま、バーテンダーはシェーカーを振り、カクテルを作ってくれるのでしょうか。謎が深まります(笑)。

 また同時事ドットコムの特集記事の中の道庁編(こちら)は、思わず泣きました(笑)。

2010年7月5日月曜日

事業場外みなし労働をめぐる混乱(阪急トラベルサポート事件から)

 先週末、北大の社会法研究会で「阪急トラベルサポート事件」(東京地裁平成22年5月11日)の判例報告を行いました。旅行添乗員に対する事業場外みなし労働適用の可否等が争われた裁判例ですが、同判決では、みなし労働の適用を否定し、原告請求を全額認容しています(時間外割増賃金および付加金請求)。

 拙報告では、一部判旨に疑問を指摘するものの(携帯「所持」を否定要素とした点および飛行機搭乗中の労働時間性など)、概ね結論・理由を支持する報告を行いました。その席で先輩会員から「今朝の新聞に、同じ会社で事業場外みなし労働の適用を肯定した判決が登場した」とご紹介を受け、驚愕。

 慌ててインターネット検索をしたところ、確かに同判決が出たようです(時事通信社 こちら)。
添乗員みなし労働は妥当 HTSに逆の司法判断

 阪急トラベルサポート(HTS、大阪市)から「事業場外みなし労働制」の適用を理由に残業代を支給されなかったとして、派遣添乗員の女性が計約44万円の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁は2日、適用を妥当と判断した上で約24万円の支払いを命じた。

 事業場外みなし労働制は労働基準法で定められ、会社の指揮・監督が及ばず、労働時間の算定が困難な場合に一定時間働いたとみなされる。HTSをめぐっては5月に、別の添乗員の訴訟で東京地裁の別の裁判官が適用を否定する判決を出しており、判断が分かれる形となった。

 田中一隆裁判官は「原告は単独で業務を行い、旅先に到着後も会社に必ず連絡して指示を受けたりはしていない。日程も大まかで変更などもあった」と指摘、労働時間の算定が困難な場合に当たると判断した。

 その上で1日のみなし労働時間をHTS側の主張と同じく11時間と認定。労働基準法に基づき8時間を上回る3時間分と休日労働については時間外の割増賃金計約12万円、さらに同額の付加金も併せて支払うよう命じた。

 判決によると、女性は2007年12月~08年1月にかけ、ヨーロッパへの二つのツアーに参加した


 私が報告した事件は主に国内ツアーが中心(JR、バスなどを主として利用)でしたが、上記事案は国外ツアーの添乗業務に対する事業場外労働みなしが争われていたようです。

 上記2事案がかくも結論を異にしたのは、事案の相違性か(国内と国外の違い?)、あるいは事業場外みなし労働に係る規範とそのあてはめに起因するものか。東京地裁平成22年7月2日判決を早く確認し、分析したいところです。

2010年6月29日火曜日

高年齢者雇用継続と経営危機ーJAL定年後の再雇用凍結の報からー

 今朝(6月29日)の日経新聞HPに以下の興味深い記事が掲載されていました(こちら)。

日航、定年後の再雇用凍結 事業の大幅縮小で‎
日本経済新聞 - 8時間前
会社更生手続き中の日本航空は28日、60歳以上の定年退職者を契約社員として再雇用する制度を当面凍結する方針を固めた。今秋以降に国内外45路線を廃止するなど事業規模を大幅に縮小するため、退職者に就業機会を提供するのは困難と判断した。 ...


 この記事だけでは断定できませんが、JALは高齢者雇用継続措置として、60歳定年後の継続雇用制度を行っていたようです。今回、会社更生に伴う事業再編にあたり、同継続雇用制度をいったん「凍結」する方針を固めたとの事。

 高齢者雇用安定法を改めてひもとくと、平成22年4月からは64歳までの社員で希望する者に対し、雇用継続措置を行うことを求めておりますが、条文上「会社更生手続き会社は除く」とか「経営危機に陥った会社は除く」などの除外規定は設けられていません。厚労省が同法に対するQ&Aを公表していますが、その中においても、そのような特例を容認するものはみられませんでした。むしろ以下のQ&Aからみると、そのような例外を認められないとする見解と思われます(Q&Aはこちら)。

NEW!
Q16:Q7のとおり継続雇用制度の対象者に係る具体性・客観性のある基準を定めたのですが、その基準に該当する者全員の雇用を確保しなければ、改正高年齢者雇用安定法に定める高年齢者雇用確保措置を講じたものとは解釈されないのでしょうか。

A:継続雇用制度の対象者の基準に該当する者であるにもかかわらず継続雇用し得ない場合には、基準を定めたこと自体を無意味にし、実態的には企業が上司等の主観的選択によるなど基準以外の手段により選別することとなるため、貴見のとおり改正高年齢者雇用安定法に定める高年齢者雇用確保措置を講じたものとは解釈されません。


 労使協定で定めた基準に該当した社員が雇用継続を希望するものの、「会社の経営が厳しいから」という理由で雇用継続を認めないことは、上記Q&Aによると「法に定める措置を講じたものとはいえず」、行政指導の対象になりうるものと思われます。

 上記日経NEWSによると、一部労組がこの点について懸念を指摘しているようですが、JAL管財人が「関係省庁からは一定の理解を得ている」とコメントしています。この関係省庁が厚生労働省なのか(経産省?)、また一定の理解とは何を指すのかが、大変気になるところです。この問題はJALに留まらず、大変波及効果が大きい問題であるため、厚労省も早々に見解を明らかにしていただきたいものです。

2010年6月27日日曜日

iPadの活用 メモ管理

iPadを日々の業務に活用しようと、色々と試行錯誤を行っておりますが、最近その効用に気づいたものとして、メモアプリがあります。iPhoneでも、このメモ書きを試してみましたが、画面が小さいため、なかなか使いづらいのです。自らの見解をまとめるためのメモであれば、まだしも、例えば講演などで講演内容のメモを取ろうにも、なかなかついていけませんでした(私の技量の問題もありますが)。

これに対して、iPadは画面が大きい分、何よりも書きやすい(笑)。また記録したメモが即PDFデータにしてメールで送付できたり、ネット上に保存することができます。これはメモ書きの管理に困っていた私にとっては、大変ありがたい機能です。特に一部のアプリ(speedtextなど)では、evernoteに直接保存してくれるのが、とても便利。

これからはアイディア管理がとても楽になりそうで、有難い次第です。
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2010年6月24日木曜日

iPadの活用例 pdfの閲覧・書込み

今週からiPadを使い始めていますが、私のようなパソコン音痴にも、なかなか楽しいマシーンです。

買ったばかりの状態では、仕事上どれだけ役に立つものか若干、疑心暗鬼でしたが、いろいろなアプリをインストールして試行錯誤しながら使っていくと、新たな可能性に気付かされます。

例えばpdfの閲覧があります。厚労省関係の通達、各種報告書は今やほとんどがHP上でpdf提供されています。また最高裁HPでは裁判例がpdfで公開されています。これらの中には数100pに及ぶものがありますが、今までは全て紙に印刷の上、閲覧、メモなどをしておりました。やはりパソコン上でpdfを読むには目が疲れますし、何よりも書き込みができません。これに対してiPadはpdfを快適に閲覧するアプリが充実しています。またpdfに書き込みができるアプリもすでに登場しています(まだまだ満足できる仕上がりではありませんが、今後のバージョンアップに期待)。
本日も30数ページに及ぶ裁判例をiPadに入れて、時折メモを取りながら快適に読み進めた次第。紙を出さないので地球にも優しいです(笑).


しばらくはこのiPadにすっかり夢中になりそうです。



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2010年6月20日日曜日

ipad導入のこと

ようやくipadを入手しました。iphoneユーザーが使う分には、ほとんど違和感なく、即使用可能だと思います。この新しいツールをうまく仕事に役立てていきたいですね。まずはブログ更新にはじめて活用してみた次第。今後は各種法令、判例のデータベースはもちろんセミナー等のプレゼン、原稿執筆などにもうまく使ってみたいものです。それにしても、キーボードの使い勝手がiphoneに比べて格段と向上してますね。今後とも頼みます、アップル社!。

2010年6月16日水曜日

平成22年度通常国会の閉会

 本日、会期通り平成22年度通常国会が閉会しました。5月末から6月初旬にかけて、派遣法改正案関係で国会の動向を追っかけておりましたが、「一体何だったんだろう」というのが正直な感想です。

 いずれにしましても、拙ブログでウォッチングしておりました「改正派遣法案」は本国会で成立せず、次期国会で継続審議されることになります(毎日新聞記事こちら)。

 あまり報じられていないのですが、厚労省関係の法案で「障害者自立支援法改正案」が与党・自民・公明の共同提出(衆法)で提出されており、衆院通過、参院厚生労働委委員会可決し、参院本会議での採決を待つのみでした。私も社会保障法学会で取り上げられていた報告を聞いていた程度の知識しかないのですが、サービス利用の際の自己負担額見直しなど、当事者から見ると重要な改正内容が含まれていたようです。
(衆院通過段階での朝日新聞記事はこちら)。

 同法案については、本日の参院本会議で採決される予定であったと思われますが、それも「政治判断」でお流れの模様。また拙ブログで少し取り上げました民訴法改正案も参院委員会で6月1日可決され、参議院本会議での採決を待つのみでした(こちら)が、これも同様。
 参院に残っている法案は、参議院選挙の改選を控えているため、軒並み廃案になります。閣法の成立率がワースト記録を更新する旨、報じられていますが、参院にかけてしまい審議未了で廃案になる重要法案がこれだけ多い通常国会も例をみないのではないかと思われます(日経新聞記事はこちら)。

 霞ヶ関の悲哀をよそに、先生方はこれからが本番。暑い7月を迎えることになりそうです。

(6月17日追記 さきほど法務省に確認を取りましたが、やはり改正民訴法案は廃案扱いとの事。障害者自立支援法案(衆法)も廃案。やるとすれば、また一から出し直しとなります。)

判例報告を終えて

 母校の善戦に励まされながら(北大 準々決勝延長で散る(こちら))、レジメを仕上げ、週末に筑波大労働判例研究会で精神疾患の労災不支給決定処分取消しが争われた裁判例の判例報告を行いました。

 メンタルヘルス労災における「平均的労働者」と心理的負荷の過重性判断について改めて過去の裁判例を総ざらいし、検討判例の分析を行いましたが、やはり難しい・・・。

 個別事案の妥当性と労災保険制度に求められる中立公平・迅速的確な補償実務とのバランスをいかにして取ることができるのか、本当に悩ましいと思います。研究会では、議論が良い意味で「紛糾」し、報告者としても、大変報告しがいがあった次第。同研究会での大変有益な議論を踏まえて、また拙稿をまとめてみたいと考えております。その際には、検討の結論を「改説」しているかもしれません(笑)。

2010年6月10日木曜日

念願の神宮へ! 北大野球部

 先ほどNEWSを見ましたら、北大野球部が本日も快勝!。夢のようです(こちら)。

東海大・慶大が4強入り、北大は準々決勝へ 全日本大学野球
 全日本大学野球選手権第3日は10日、神宮球場と東京ドームで5試合を行い、準々決勝は東海大(首都)と慶大(東京六大学)が勝って4強入りを決めた。

 東海大は同大(関西学生)を7―0の七回コールドゲームで下し、先発の菅野は参考記録ながら、無安打無得点に抑えた。慶大は中央学院大(千葉)を6―0で退け、13年ぶりに準決勝へ進んだ。

 2回戦では今大会唯一の国公立大で8年ぶり出場の北大(札幌)が、広島経大(広島六大学)を3―1で下し、国公立勢として12年ぶりに準々決勝に進出。2年ぶりの優勝を目指す東洋大(東都)は函館大(北海道)に3―2、前回大会4強の創価大(東京新大学)は奈良産大(近畿)に8―1の八回コールドゲームで勝って8強入りした。〔共同〕


 明日はいよいよ準々決勝で八戸大と対戦。北大らしく、のびのびと戦ってほしいと思います。明日、勝利してしまえば、準決勝。私事ながら土曜は筑波大労働判例研究会で報告を行うため、準決勝は見に行けません。このままの勢いでぜひとも日曜の決勝戦まで進出してほしいものです。更なる夢が叶えば、私も子供を連れて、神宮に応援に行きます!。

2010年6月9日水曜日

実に嬉しいNEWS

 最近、NEWSをみるたびに血圧が上がり、健康を害している気がしておりましたが、久々に嬉しい記事を読みました(誠に個人的な話ですが・・)。iphone4発売の報ではなく、こちら。

北大、歴史的1勝!石山「幸せ」1失点完投 スポニチ北海道(こちら)。

創部110年目の快挙との事。東京ドームで「都ぞ弥生」(歌詞はこちら)。

 いいですねぇ、私も一緒に応援し、勝利後に肩を組んで寮歌を歌いたかったです。明日もぜひとも勝利していただきたいと念じる次第。

雇用関連助成金の行方~事業仕分けの影響?~

 先日の共同通信HPで以下の報道が目につきました。

厚労省、育休促進などを廃止判定 事業見直しで
 厚生労働省と国土交通省は7日、所管事業の無駄を自ら洗い出す「行政事業レビュー」をそれぞれ実施した。厚労省の育児休暇の取得促進事業や、国交省の建設業の経営相談事業など計5事業を「廃止」と判定した。

 厚労省は、育児休業や短時間勤務制度の利用を積極的に進めている企業へ助成金を支給する「育児休業取得促進等助成金」(2010年度予算は6億1千万円)について、効果がうかがえないなどとして直ちに「廃止」と結論。中小企業の労働時間短縮を進める「労働時間等設定改善援助事業」(同1億5千万円)も直ちに「廃止」とした。

 中小企業の人材確保などを支援する「雇用開発支援事業費等補助金」(同82億2千万円)と、職業能力開発費を助成する「キャリア形成促進助成金」(同47億6千万円)の2事業は、一定期間経過後に「廃止」とした。

 国交省は、建設業の経営相談などを行う「建設市場の整備推進事業」(同1億7千万円)について、国が実施する必要性への疑問が相次ぎ「いったん廃止」と判定。中小企業支援や地方自治体との役割分担を通じ、より実効性のある施策にするよう再検討を求めた。

2010/06/07 21:12 【共同通信】


 現在、労働基準、職業安定、雇用均等3局がそれぞれ多種多様な雇用助成金制度を設けています。その実施を外郭団体等に委任する例が多いものですが、これがまさに「事業仕分け」で脚光を浴びているところです。

 ところで上記事業はただちに「廃止」とされていますが、先ほどハローワークの担当部局に確認してみたところ、今のところまだ本省から指示が出ていないようです。したがって、上記助成金の支給申請を行えば、窓口で受理するとの事ですが、実際に支給決定・支給処分がなされるかどうかは定かではない模様。
 行政法的に素朴に考えれば、正式な廃止手続きがなされる前に申請を行えば、廃止前のルールに従って処分がなされるべきと思われます。いずれにしても、助成金についての法的検討は、先行研究がさほどなく、色々と検討すべき課題が多いものです。

2010年6月8日火曜日

専門26業務適正化プランの広がり?~違法派遣で是正指導~

 本日(6月8日)、中日新聞に以下の記事が掲載されています(こちら)。

【社会】
違法派遣で是正指導 宇部三菱セメント名古屋支店に
2010年6月8日 09時14分

 セメント大手・宇部三菱セメント名古屋支店(名古屋市中区、本社・東京)が労働者派遣法に反し、専門職として派遣された女性にお茶くみなどをさせていたとして、愛知労働局が是正指導していたことが分かった。派遣元のスタッフサービス(東京)は3月、東京労働局から同様の違反が相次いだのに改めないとして、事業改善命令を受けたばかり。愛知労働局は、同社が今回の違反を知っていたかも調べている。是正指導は今月2日付。

 派遣契約外の仕事をさせられていたのは、愛知県の30代女性。この女性によると、2006年10月から今年5月まで、パソコン操作などの担当としてスタッフサービスから派遣され、宇部三菱の名古屋支店の総務担当課に勤めていた。

 ところが、実際の仕事は半分以上が派遣業務と無関係のお茶くみや、宅配便の発送、備品管理など庶務的な仕事。契約が3カ月ごとの更新のため「長く働かせてほしいと思い、専門業務以外のことを頼まれても嫌と言えなかった」という。

 厚生労働省の指針では、派遣先は契約業務以外の仕事をさせないよう上司への指導を徹底することなどを定めているが、同社は十分に指導していなかった。

 同社総務部の担当者は「専門業務の付随的なものとしてやってもらったことが、結果的に限度を超えてしまった。管理の甘さがあった」と認めている。

 女性は4月下旬、愛知労働局に業務内容の“偽装”を申告。同労働局は5月中旬、同社名古屋支店に立ち入り調査し、派遣法違反があったと確認した。

(中日新聞)


 たしかに上記大手派遣元については、すでに同種指導例が本年3月1日付けで東京労働局からなされており、4月の拙セミナーでご紹介させていただいたところでした(同局HPでのプレス発表記事はこちら)。

 派遣元に問題がありそうな気がいたしますが、マスコミが総じて大きく報道するのが、やはり派遣先の大手企業名。本ブログにおいても、すでにご案内のとおりではありますが、改めて派遣先企業自身の内部監査が同種案件を防止するために有効と考える次第です。拙事務所は同内部監査の支援をスポット契約でご提供させていただいております。お気軽にお声がけ頂ければ幸いです

 なお拙関連ブログは以下のとおりです。
2010年2月10日 「専門26業務派遣適正化プラン」に基づく監督指導強化への対応(こちら
2010年3月11日 「専門26業務派遣適正化プラン」に基づく行政指導例について(こちら
2010年4月15日 「専門26業務適正化プラン」講演について(こちら
2010年5月28日 「専門26業務に関する疑義応答集」の発出(こちら

 ところで改正派遣法案の行方はどうなるのでしょうか。新国対委員長が「連立方程式」と称したようですが、支持率、選挙協力、選挙資金など複雑多岐な計算の中に「改正派遣法案」が絡まっている感があります。残された会期の少なさ(延長したとしても、最大2週間程度であればやはり厳しい)、強行採決による支持率への悪影響(+に転じる可能性はない?)などを考えれば、継続審議が順当なところと思われますが、政界の名言「一寸先は闇」。改正派遣法案の動向も、もう少し見守る要があると感じております。

2010年6月4日金曜日

「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」第1回配布資料から

 先日(5月31日)、厚労省「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」が開催されており、同資料がHPにUPされています(こちら)。

 同研究会の具体的な検討事項として次のものが挙げられています(こちら)。

1 労働者のメンタルヘルス不調の把握方法
 労働安全衛生法に基づく定期健康診断において、労働者が不利益を被らないよう配慮しつつ、効果的にメンタルヘルス不調者を把握する方法について検討する。

2 把握後適切に対応するための実施基盤の整備について
 メンタルヘルス不調者の把握後、事業者による労働時間の短縮、作業転換、休業、職場復帰等の対応が適切に行われるよう、メンタルヘルスの専門家と産業医を有する外部機関の活用、産業医の選任義務のない中小規模事業場における医師の確保に関する制度等について検討する。また、外部機関の質を確保するための措置についても検討する。特に、メンタルヘルス不調者の把握及び対応においては、実施基盤の整備が必要であることから、これらについて十分な検討を行う。

3 その他 職域と地域の連携強化など


 先日、拙ブログで紹介した「自殺・うつ病対策プロジェクトチーム」で示された検討課題がほぼそのまま横滑りしてきたものといえます(拙ブログはこちら)。改めて同検討事項を見ると、基盤整備以外の問題で若干気になるものが1点あります。それは「労働者が不利益を被らないよう配慮しつつ」、定期健診でメンタルヘルス不調者を把握する方法を検討するとの記述です。ここでいう「不利益」とはそもそも何を指すのか。例えば、メンタルヘルス不調者に対して、勤務時間短縮、休職等を命じることがありますが、この結果、賃金が減額ないし不支給となることがあります(ノーワーク・ノーペイ 但し私傷病休職であれば、傷病手当の支給あり)。これが「不利益」にあたるのか。また職務給制度の企業において、配置転換措置を講じた場合、給与減となる場合もありえますが、これも「不利益」となるのか否か。更には勤務時間短縮・休業・職務転換等の結果、「想定していた昇進・昇格が遅れる」という本人の懸念も「不利益」となり、企業として何らかの「配慮」を求められることになるのか。

 おそらくは同研究会でいう「不利益」は、まずメンタルヘルス健診不同意である労働者に対し、企業が直接不利益措置を行うことを禁じる趣旨での問題提起ではないかと思われますが、上記「不利益」こそが実際上、大きな課題といえます。検討課題でいえば、むしろ2に該当する内容になろうかと思われますが、この問題もメンタルヘルス健診義務化検討の際、避けて通ることはできない問題と考えます。

 なお同研究会配布資料には「メンタルヘルス不調の把握および把握後の対応等の現状」など有益な資料が含まれており、参考になります(こちら)。かなり急ピッチで研究会報告をとりまとめ、労働政策審議会での議論を開始する予定のようですが、産業医、法曹、研究者から同問題に精通するメンバーが参集された同会で如何なる報告書がまとめられるのか、注目されます。

2010年6月2日水曜日

内閣総辞職の報?と改正派遣法案

 今朝、午前9時から衆院厚生労働委員会で派遣法案の審議がなされる予定でしたが、一向に開催される様子なし。どうなっているのかなと思っていましたら、Yahoo newsで「鳩山首相が辞意 閣僚明かす」との報(こちら)。

6月2日9時37分配信 産経新聞

 鳩山由紀夫政権の閣僚の1人が「鳩山首相が辞めると聞いている」と語った。民主党議員が2日朝、明らかにした。

 民主党は午前10時から両院議員総会を開き、首相から進退も含めた今後の党運営について話を聞くことにしている。

 山岡賢次国対委員長は国会内で記者団に「場合によって総会後、役員会、常任幹事会を開く。午前の委員会はすべて止めた」と説明した。午前に予定されていた参院本会議、午後の衆院本会議の審議もすべて中止される見通し。


 大政局の中、右往左往している「改正派遣法案」ですが、上記報道のとおりとすれば内閣総辞職・新内閣組閣がその後、待っています。新内閣のもとでこの派遣法案がどのように取り扱われるかは、会期末(6月16日)までの日程、社民党との関係そして世論調査次第ではないかと思われます。いずれにしても肝心の派遣法案の内容については、あまり先生方はご関心がないような気が・・・。

2010年5月31日月曜日

うつ病健診の動向(プロジェクトチーム報告書から)

 先週末、厚生労働省 自殺・うつ病対策プロジェクトチームが報告書を取りまとめています(こちら)。

 先般も取り上げました定期健康診断項目へのうつ病検査追加案について、以下の言及があります。

(3)職場におけるメンタルヘルス不調者の把握及び対応
労働安全衛生法に基づく定期健康診断において、労働者が不利益を被らないよう配慮しつつ、効果的にメンタルヘルス不調者を把握する方法について検討する。
また、メンタルヘルス不調者の把握後、事業者による労働時間の短縮、作業転換、休業、職場復帰等の対応が適切に行われるよう、メンタルヘルスの専門家と産業医を有する外部機関の活用、産業医の選任義務のない中小規模事業場における医師の確保に関する制度等について検討する。また、外部機関の質を確保するための措置についても検討する。特に、メンタルヘルス不調者の把握及び対応においては、実施基盤の整備が必要であることから、これらについて十分な検討を行う。
<プロジェクトチームでの意見>
○中小企業の社員へのメンタルヘルスケアが必要。(第2回河西氏)
○定期健康診断項目の追加検討が必要。(第2回清水氏)
○定期健康診断におけるメンタルヘルス不調の把握に当たっては、労働者が不利益を被らないようにすることが必要。(第3回生越氏)


 定期健康診断項目の追加検討の提案は、内閣府参与の清水康之氏によるものです。なお同氏はNPO法人自殺対策支援センター ライフリンク代表を務めておられるとの事。
 
 同報告書において的確に指摘されているとおり(太字部分)同問題は実施基盤の整備が重要ですが、その際、何よりも相当数の精神医学に精通した産業医・保健師・産業衛生スタッフの養成が不可避です。労使ともに、実のところ、メンタルヘルス問題について安心して相談できる産業医学の専門家を心待ちにしており、まず厚労省も基盤整備に優先して取り組んでいただきたいと思うところです。 

2010年5月28日金曜日

「専門26業務に関する疑義応答集」の発出

 本日付(5月28日)で、厚労省HPに「専門26業務に関する疑義応答集」が掲載されました(こちら)。

 ざっくりと眺めた限りにおいて、非常に重要と思われる記述として以下のものがあります(事務用機器操作関係)。

⑦Q:物の製造、製品の梱包等の業務をコンピュータ制御により行っているが、当該コン
ピュータの操作の業務は第5 号業務に該当するか。
A:製造工程の機械や梱包のための機械の操作の業務は、コンピュータを活用した場合
であっても、事務用機器操作に当たらず、第5 号業務には該当しない。

⑧Q:事務用機器操作の業務のほかに、会議室での会議の準備や後片付け、備品の発注、
銀行での振込等の業務も行うようないわゆる一般事務は、第5 号業務に該当するか。
A:いわゆる一般事務については第5 号業務に該当しない。

⑨Q:スキャナーを利用した読取業務は第5 号業務に該当するか。
A:専らスキャナーを利用して読取るだけの業務については、迅速かつ的確な操作に習熟を必要としないので、第5 号業務には該当しない。

⑩Q:メール送受信業務は第5 号業務に該当するか。
A:文字や数値の入力、ファイルの添付によりメール作成・送信する業務や、受信したメールの振り分け、転送等の業務は第5 号業務には該当しない。一方、データベース用のソフトを活用しての一斉送信等、ソフトウエア操作に関する専門的技術を活用して行うメール送受信業務については、第5 号業務に該当する。

⑪Q:文書作成ソフトにより、文字の入力、編集、加工、レイアウトを行うのみならず、文書とすべき内容を企画検討し、文書作成する場合は、第5 号業務に該当するか。
A:文書とすべき内容を企画検討し、文書を作成する業務は、企画業務であり、もはや事務用機器操作の業務とはいえないことから、第5 号業務には該当しない。

⑫Q:街頭の意識調査の一連の作業として、①意識調査の内容について企画・検討を行う業務、②街頭での意識調査を実施する業務も併せて行った場合、第5 号業務に該当するか。
A:質問の①のような企画・検討する業務や②のような調査の業務は、事務用機器の操作の過程で一体的に行われる準備及び整理の業務でないことから、事務用機器の操作の業務に併せてこれらの業務を行う場合は、第5 号業務には該当しない。

⑬Q: 事務用機器を操作し作成した書類を梱包し発送する業務は第5号業務に該当するか。
A:書類の梱包又は発送の業務は、一般的には、事務用機器の操作の過程において一体的に行われる準備及び整理の業務ではなく、事務用機器の操作の業務に伴って付随的に行う業務とも判断できないので、これらの業務を併せて行わせる場合は第5 号業務には該当しない。


 特に⑬をみると厳しすぎる印象を受けます。専門26業務の「付随的業務」に該当しない「全く無関係の業務」に係る厚労省判断ですが、そもそも上記の解釈を「疑義応答集」なるもので小出しに示していくのは如何なものか。本来は法・政省令、更には正式な通達で示すべきではないかと考えます。

 現在、某誌に掲載すべく「専門26業務派遣適正化プランの解説」を執筆中なのですが、いずれにしても頭の痛いものが締め切り前に出てきました(泣)。

派遣法案の衆院委員会強行採決は来週水か?

 さきほど昼ご飯を食べながら、衆院TVを眺めておりましたら(5月28日午後1時過ぎ)、衆院厚生労働委員会において、大村先生(自民党)が「派遣法案を来週水曜日に強行採決すると聞いているが、本当か」と重ねて、鉢呂吉雄委員長に質問しておりました(当然、鉢呂委員長からは強行採決する旨の言明はありませんが)。

 6月2日(水)厚生労働委員会での派遣法改正案強行採決の可能性が高まっているやもしれません。強行採決したとしても、残り2週間(会期末が6月16日)。会期延長せずに参院で可決できるかどうかは、やはり微妙ですね。

 

顔やけどの労災補償「女性との差は不合理」 男性差別に初の違憲認定

 昨日(5月27日)、京都地裁で障害補償等級の違憲性を理由に、障害補償給付不支給決定処分を取り消した裁判例が出されたようです(産経NEWS)。

顔などに著しい傷が残った際の労災補償で、男性より女性に高い障害等級を認めているのは違憲として、京都府内の男性(35)が国に障害補償給付処分の取り消しを求めた訴訟の判決が27日、京都地裁であった。瀧華聡之裁判長は「合理的な理由なく性別による差別的扱いをしており、憲法14条に違反する」として原告側の主張おおむねを認め、国に同処分の取り消しを命じた。原告側代理人によると、労災補償の障害等級の違憲性が認められたのは全国初という。

 判決理由で、瀧華裁判長は訴えの対象になっている障害等級の男女の差について「著しい外見の障害についてだけ、男女の性別で大きな差が設けられていることは不合理」と指摘。「法の下の男女平等」を定めた憲法14条に違反していると認めた。


 判決文の要旨が徳島新聞HPに掲載されています(こちら)。

労災障害補償給付の性差別をめぐる訴訟で、京都地裁が27日言い渡した判決の要旨は次の通り。
 【障害等級表の合憲性】
 障害等級表において、人に嫌悪の感を抱かせるほどではない外貌(外見)の醜状(けがなど)障害について、男女に差を設け、差別的取り扱いをしていることが憲法判断の対象となる。
 ▽労働力調査
 国は「労働力調査における産業別の女性比率や雇用者数によると、女性の就労実態として、接客など応接を要する職種への従事割合が男性に比べて高いと言える」と主張する。しかしこの「産業」は、就業者が実際にした「職業」とは異なる。
 サービス業全体で女性の雇用者数の増加が男性より大きいことも根拠となると主張するが、サービス業の中には廃棄物処理業などが含まれ、根拠となるとは言えない。
 ▽国勢調査
 国は「国勢調査の職業小分類別雇用者数データを分析すると、女性の接客を要する職種への従事割合が男性より高いと言える」と主張する。
 本件取り扱いの合理性を根拠付ける男女間の差は、外見の醜状障害で生じる本人の精神的苦痛などで就労機会が制約され、損失補てんが必要だと言えるような差である必要がある。多くの不特定の他人と接する機会が多い職業も含めて考えるのが相当で、少なくとも音楽家や美容師などを合計して分析すると、国勢調査の結果は実質的な差の根拠になり得るとは言えるものの、顕著なものとも言い難い。
 ▽精神的苦痛
 国は「化粧品の売り上げなどから、女性が男性に比べて外見に高い関心を持つ傾向があることがうかがわれ、外見の醜状障害による精神的苦痛の程度について明らかな差がある」と主張する。
 ただ男性でも苦痛を感じることもあり得ると考えられ、実際に原告が大きな苦痛を感じていることも明らかだ。外見への関心の程度や性別が精神的苦痛の程度と強い相関関係にあるとまでは言えない。
 ▽判例
 国は「外見の醜状障害に関する逸失利益などが問題となった交通事故の判例により、男女間に実質的な差があるという社会通念の存在が根拠づけられている」と主張する。確かに男女差を前提とするような記述が見受けられるが、記述自体の合理的根拠は必ずしも明らかではない。
 ▽まとめ
 本件差別的取り扱いの策定理由には根拠がないとは言えないが、男女の性別で(障害等級表では)5級の差がある。等級表では年齢や職種、経験など職業能力的条件について、障害の程度を決める要素となっていないが、性別がこれらの条件と質的に大きく異なるとは言い難く、外見の醜状障害についてだけ、性別によって大きな差が設けられている不合理さは著しいというほかない。
 【結論】
 本件は合理的な理由のない性別による差別的取り扱いで、障害等級表は憲法に違反すると判断せざるを得ない。処分は障害等級表の憲法に違反する部分に基づいてされたもので違法。取り消されるべきだ。


 たしかに現在の障害等級をみると、女性従業員の顔に著しい損傷が残った場合は、障害等級7級に該当し、障害補償年金が継続して支給される一方、男性従業員が同様の労災に被災したとしても、障害等級11級等に該当し、年金支給がなされません(一時金が支給)。大きな差があることは間違いありませんが、これが憲法14条に反する差別(性別を理由)にあたるとまでいえるのか否か。上記要旨をみると、一応は立法事実を踏まえた上で、同差異に合理的な理由があるのか否か判断しているようですが、高裁判決さらには場合によっては最高裁判決が待たれるところです。

 ところで万が一、違憲判断が確定した場合(現大臣が地裁判断に従う旨の「ご英断」をされる可能性がない訳ではありません・・)ですが、後始末をどうするか問題が残ります。

 当該原告については不支給決定処分を取消し、障害補償年金を支給するとして、問題は他の請求案件をどうするか(同様の事案)。将来的に障害等級表を見直し、今後の請求案件について、男性も年金支給をするとしても、更に過去の確定分について、見直しの要がないのかどうか。すでに同様の事案で、障害補償一時金の支給を受け、これが確定した従業員は、現行法上、改めて障害補償年金不支給決定処分を争いようがありませんが、国に対して国家賠償請求を行い、障害補償年金と一時金の差額分支給を求めることが可能か否か(時効の問題?)。
 同違憲判断が仮に確定したとしても、様々な難問が残されることになりそうです。いずれにしましても、まずは国側が控訴するか否か見守る必要があります。

 

2010年5月27日木曜日

「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会」報告書について

 昨日(5月26日)、厚生労働省か「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会」報告書をプレス発表しました(こちら)。

 報告書のポイントとして次のものが挙げられています。

1 今後の職場における受動喫煙防止対策の基本的方向
・ 快適職場形成という観点ではなく、労働者の健康障害防止という観点から取り組むことが必要。
・ 労働安全衛生法において、受動喫煙防止対策を規定することが必要。

2 受動喫煙防止措置に係る責務のあり方
・ 労働者の健康障害防止という観点から対策に取り組むことが必要であることから、事業者の努力義務ではなく、義務とすべき。

3 具体的措置
・ 一般の事務所や工場においては、全面禁煙又は喫煙室の設置による空間分煙とすることが必要。
・ 顧客の喫煙により全面禁煙や空間分煙が困難な場合(飲食店等)であっても、換気等による有害物質濃度の低減、保護具の着用等の措置により、可能な限り労働者の受動喫煙の機会を低減させることが必要。

4 事業者に対する支援
・ 事業場の取組を促進するため、技術的支援及び財政的支援を行うことが必要。

5 今後の課題
・ 現状では直ちに禁煙とすることが困難な場合においても、国民のコンセンサスを得つつ、社会全体としての取組を計画的に進めていくことが必要。


 同研究会報告では、労働安全衛生法において、受動喫煙防止を事業主の「法的義務」とすることを提案しています。それでは、この法的義務として、如何なるものを想定しているのでしょうか。

 まず上記3で記載されているように、一般のオフィス・工場では全面禁煙または空間分煙とすること。またサービス業の店舗においては、換気、保護具(?)などの着用による受動喫煙の低減措置を法的に義務づけることなどが想定されているようです。また研究会報告書本文を見ると、サービス業店舗については、同低減措置を講じた上で「更なる上乗せの対策メニューとしては、ばく露時間短縮するための禁煙タイムの導入、人員配置に係るローテーションの導入等が考えられる」と提言されています。

 その他としては以下の措置を何らかの形で法制化することも提案されています。
「事業場内で行う受動喫煙防止対策の取組について、これを検討する組織や責任者を明確にするなど、体制を整備することが必要である。その際、労働衛生スタッフの参画や連携を図る他、既存の衛生委員会等の活用を行うことが考えられる。受動喫煙防止対策の取組を確実に実施するためには、喫煙区域又は禁煙区域を明確に示すことが重要であることから、区域分けの表示等を行い、労働者等に周知することが必要である。受動喫煙防止対策の取組を円滑かつ継続的に実施するためには、事業者及び労働者双方が対策の必要性を理解することが不可欠である。このため、事業者及び労働者に対して、受動喫煙による健康影響について教育を行うことが重要である。
 なお、建物内を全面禁煙にする事業場については、屋外に喫煙所等を設置することが考えられるが、その場合には、たばこ煙が屋内に流入しないことや付近を通る労働者がたばこ煙にばく露しないよう配慮することが必要である。」


 これから労働政策審議会において、受動喫煙防止に係る労働安全衛生法改正案の検討が本格化することになります。恐らくは来年の通常国会への法案提出を目指しているものと思われますが、同改正案は企業の総務部門、更にはサービス業(特に飲食・娯楽業)に対するインパクトが大です。法的義務とするとしてもその方法(具体的措置を全て労働安全衛生法、規則に明記するか、あるいは包括的な義務規定のみ定め、具体的な細則はガイドラインとするのか)、その履行確保手段が如何なるものとなるのか(罰則の有無、罰則規定を設けない場合の履行確保手段など)を含め、同法改正の動きに注目する要がありそうです。

2010年5月26日水曜日

労働関係の国際裁判管轄の明確化(民訴法改正案、衆院通過)

 昨日(5月25日)、衆院において全会一致で民訴法改正案が通過し、参院に送付されたようです(日経新聞記事

 国際的な取引や契約を巡る問題について、どのような際に国内で裁判ができるかのルールを定めた民事訴訟法改正案は25日の衆院本会議で全会一致で可決、参院に送付された。与党は今国会での成立を目指す。

 民事裁判の国際管轄を定めるものであり、いわゆる「国際私法」領域の問題となります。実はこの問題は人事労務分野においても、無縁ではありません。例えば海外工場で勤務している日本人社員と会社間の労使紛争を海外の裁判所または日本の裁判所いずれで争うべきか等の問題が生じた場合、解決指針が必要となります。この問題に対して、実定法でルールを明らかにしようとするのが、今回提出されている民訴法改正案になるものです。

 法務省HPに概要が掲載されています(こちら)。同資料の6頁以下に労働関係の国際裁判管轄に係る法案内容が紹介されておりますので、ご関心ある方はご覧ください。

2010年5月25日火曜日

「「日本海庄や」過労死訴訟、経営会社に賠償命令」と会社法429条

 マスコミ各紙において「「日本海庄や」過労死訴訟、経営会社に賠償命令」が大きく報じられています(以下、読売新聞)。同報道においても特記されているのが、役員の賠償責任を認めた点です。

5月25日11時27分配信 読売新聞

 全国チェーンの飲食店「日本海庄や」石山駅店(大津市)で勤務していた吹上元康さん(当時24歳)が急死したのは過重な労働を強いられたことが原因として、両親が経営会社「大庄」(東京)と平辰(たいらたつ)社長ら役員4人に慰謝料など約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、京都地裁であった。

 大島真一裁判長は「生命、健康を損なわないよう配慮すべき義務を怠った」として、同社と4人に対し、約7860万円の支払いを命じた。

 原告側の弁護士によると、過労死を巡る訴訟で、役員の賠償責任を認めた司法判断は珍しいという。

 判決によると、吹上さんは2007年4月に入社後、石山駅店に配属されたが、同8月11日未明、自宅で就寝中に急性心不全で死亡。死亡まで4か月間の時間外労働は月平均100時間以上で、過労死の認定基準(月80時間超)を上回り、08年12月に労災認定された。

 大島裁判長は、同社が当時、時間外労働が月80時間に満たない場合は基本給から不足分を控除すると規定していたと指摘。「長時間労働を前提としており、こうした勤務体制を維持したことは、役員にも重大な過失がある」と述べた。

 閉廷後に記者会見した母の隆子さん(55)は「従業員が過労死した企業には公表義務を課すなど、社会全体で厳しい目を向けて監視していく必要があると感じた」と語った。

 大庄広報室は「まだ判決が届いておらずコメントできないが、今後は内容を十分に検討して対応する」としている。


 役員の損害賠償責任を認めた根拠条文が報道では明らかではありませんが、恐らくは役員等の第三者に対する損害賠償責任を認めた会社法429条1項(旧商法266条の3)ではないかと思われます。

会社法429条1項 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

 同法を根拠に安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を取締役にも連帯して支払うよう命じた裁判例は、これが初めてではありません。おかざき事件(大阪高判平成19年1月18日 労判940-58)が挙げられます。同事案については、濱口桂一郎先生のブログにおいてもすでに紹介されています。(こちら)。

 おかざき事件は小規模会社における代表取締役の連帯責任が問われたものです。また本ブログにおいても、以前、残業手当請求に係る取締役の連帯責任を認めた裁判例を紹介したことがあります(こちら)。同事案も中小企業における取締役等の連帯責任が認められた事案です。

 これに対して、上記事案は東証一部上場企業における役員の連帯責任を認めたものであり、この点で大きく異なります。更に報道記事によれば、「長時間労働を前提とした勤務体制、賃金制度の構築」が取締役の重過失を構成すると判示したとの事です。同判示部分については先例的な意義を有するものであり、今後、これが会社法429条1項に係る判例法理として形成されていくのか否か。同判断基準の適否とその適用、その射程など今後注意深く見守っていく要がありそうです。まずは同判決文をじっくりと勉強しなければなりません。

2010年5月24日月曜日

今国会で派遣法案は成立するのか?(平成22年5月24日現在の個人的観測)

 本ブログにおいても、たびたび取り上げている改正派遣法案ですが、その法案審議が一向に聞こえてきません。衆議院のHPを見て、ようやく状況が見えてきました。

まず4月23日の衆議院厚生労働委員会において、自民党・改革クラブ等が欠席の中、改正派遣法案提案理由の説明(長妻大臣等)および社民党・民主党との質疑がなされています。

 その後ですが、5月12日の流会以後、同委員会では派遣法案の審議はなされておらず、児童扶養手当法案、厚生系の独立法人改革法案の審議が先に進められています(5月21日まで)。今週も恐らく水・金に厚生労働委員会が開催されると思われますが、独法改正案の審議終結・採決が行われた後、また「改正派遣法案」の審議入りに入るか否かが、大きな焦点となりそうです。

 衆院HPに5月14日の厚生労働委員会議事録が掲載されております。同日は主に児童扶養手当法案が審議されていましたが、その際、大村衆院議員(自民党 前厚生労働省副大臣)と長妻大臣の間で、次のようなやりとりがされており、4月末以降の経緯が「何となく」伺えるものです(衆院HP 厚生労働委員会議事録はこちら)。

○大村委員 次に参ります。

 労働者派遣法の取り扱いについてでございます。これは一言だけ申し上げたいと思います。

 労働者派遣法の法案に入っていたかと思いましたら、今回はこの児童扶養手当の法律に入るということであります。与党側の要請でありますから、予算関連ということもあって我々は受け入れました。ということは、労働者派遣法については、この改正はあきらめたということでよろしいですか、長妻大臣。

○長妻国務大臣 これは、内閣として閣議決定をして国会に出させていただいておりますので、もう速やかに成立をしてくださいということをお願いしているところでございます。

○大村委員 どうやってやるんですか。では、この児童扶養手当をやめて派遣法にしましょうか。それでもよろしいんですか。お答えください。

○長妻国務大臣 基本的に、国会でその段取りというのは話し合っていただくことだと思いますけれども、私としては、これは内閣として閣議決定をして提出した法案でございますので、当然成立をお願いするという立場でございます。

○大村委員 いや、議院内閣制ですから、政府・与党一体で調整をしながらやっているというふうに承知をいたしております。そういう中で、与党側から、本来の派遣法を、重要広範議案である派遣法をやっているところをやめて、この児童扶養手当をやってくれということですから、それはそれで了解をしたわけでありますけれども、そういうことをやって、次はまた独法の法律をやるということで与党側から要請をいただいております。

 そういうことになってきますと、この派遣法についてやるということには、率直に言って、もう残りの会期を含めてはなかなか難しいと言わざるを得ないというふうに思います。ですから、この派遣法について、もうこの国会ではあきらめた、これはもういいんだということでよろしいかということを聞いているのでありますので、答弁をいただきたい。(発言する者あり)

○藤村委員長 静粛に願います。静粛に願います。

○長妻国務大臣 これは繰り返しでございますけれども、内閣として閣議決定をして、国会に審議をお願いしている法律でございますので、成立をお願いするという立場でございます。

○大村委員 では、この後、理事会で協議しましょうか。やめましょうか、これを。派遣法に戻しましょうか。やめましょう、それだったら。後ほど理事会協議しましょう。そういう不誠実な、あなた方からこの児童扶養手当そして独法をやってくれということを言ってきたから、本来イレギュラーだけれども、これを受け入れて、この児童扶養手当、そしてこの後独法ということを、日程協議もしながらやってきたわけです。そういう意味で、民主党を初め、この国会のルールというのを全く理解していない。その点については極めて問題だということを申し上げておきたいというふうに思います。

 この派遣法についてはもう事実上難しいということを正直に認めて、この後、では、この派遣法について、いろいろな課題、問題点がある。関係の皆さんは非常に不安になっている。実際、派遣で働いている人たちの雇用ももう維持できないんじゃないか、そういうふうな不安もある。中小企業の人材の確保もできないんじゃないか、そういういろいろな問題点があって、私は、事務方にもいろいろな資料も、データも含めてこれは要求しておりますけれども、そういったシミュレーション、それからそういった対策も全然出てこない。したがって、この派遣法については引き続き、さらにさらに、もっともっと問題を深掘りにして議論していこうということを申し上げているのでありますけれども、なかなかそのデータが出てこない。

 そういう中で、この法案を、こちらを先にやってくれということでありますから、私は、これはちょうどいい時間ができた、十分これから、まだ秋は通常国会があるかどうかわかりませんけれども、そのままいけば、また来年の通常国会ということになろうかと思いますが、それに向けて十分これは問題点を議論し、深掘りをしていきたい、そのことを申し上げておきたいと思います。


 なかなか盛り上がっています。これは実況中継を見たかったですね(笑)。それはともかく自民党側は同法案に対する強い疑念を示しており、慎重な審議を求めるスタンスを取っていることが明らかです。これに対し、民主党がどこまで同法案成立に熱意を持っているか(つまりは強行採決するか否か)。通常国会の会期延長がない限り、それは今週末に明らかとなりそうです。色々と現与党連立政権内における「政治的」に難しい問題も絡み、どうなることか予断を許しません。

 個人的には大村先生のご議論とりわけ「この派遣法については引き続き、さらにさらに、もっともっと問題を深掘りにして議論していこうということを申し上げている」とのご主張はもっともではないかと思うところではあります。

2010年5月21日金曜日

平成23年度労働基準監督官採用数半減か?

 本日(5月21日)、平成23年度の国家公務員採用削減の方針が閣議決定されたようです(時事通信)。

「国家公務員の新規採用39%減=11年度、半減目標達成できず-政府」

 政府は21日、2011年度の一般職国家公務員の新規採用数を閣議決定した。09年度(7845人)比で39%減の4783人にする。鳩山由紀夫首相は4月27日の閣僚懇談会でおおむね半減を目指すよう指示していたが、刑務官や海上保安官など専門職種を抱える府省から急激な採用抑制に対する異論が強く、当初目標は達成できなかった形だ。 
 海上保安官や刑務官など治安関係の4職種を除外すると、抑制率は47%となる。(2010/05/21-10:33)


 先ほど総務省にUPされた報道資料をみると、以下の記述が見られます(こちら)。
ⅲ 専門職種でその専門的な知識をいかして行政サービスを提供すること等を目的とする採用者 5割

 この専門職種に「労働基準監督官」は含まれるものですが、問題は上記報道にいう「治安4職種」です。これに労働基準監督官が該当するのであれば、来年度採用が5割減とならないことになります。
 色々とネット検索をしてみると「治安4職種」について、以下の報道がありました(読売新聞)。

政府は19日、2011年度の一般職国家公務員の新規採用数を09年度採用実績と比べて「おおむね半減」させるとした抑制目標について、刑務官や海上保安官など治安・安全業務に携わる専門職種に限り、削減幅を圧縮する例外を認める方針を固めた。

 抑制目標には、法務省が刑務官などを含む一律削減に反対していたが、特例措置によって同省も抑制目標を受け入れるため、21日にも閣議決定される見通しとなった。

 特例は「治安と安全には一定の業務水準を確保する必要がある」との判断から認めることとなった。削減幅の圧縮を認める専門職種はほかに、入国警備官と航空管制官とする方向だ。閣議決定では「原則は半減だが、総務相が特別に認める場合はこの限りでない」との規定を設け、対象を明示する。

 特例が認められる専門職種の09年度採用実績は、刑務官888人、入国警備官158人、海上保安官452人、航空管制官92人。総務省は当初、09年度実績比でいずれも5割削減を求めていたが、特例規定により、海上保安官と航空管制官はそれぞれ09年度実績並みの新規採用を認め、刑務官と入国警備官も新たな削減幅を調整している。

 
 やはりというべきか、労働基準監督官は「治安4職種」に該当しないようですね。とすれば、先の閣議決定のとおり、来年度の採用数は例年の100名前後から50名程度ということになりそうです。国家財政上の問題とはいえ、同専門職への新人採用が半減するということは、色々な面でマイナスが多いように思われるところです。

2010年5月19日水曜日

改正育児介護休業法関連の最新拙稿について

 書店発売中のビジネスガイド6月号(日本法令)に拙稿「改正育児・介護休業法に関するQ&A」から読み解く実務への影響(上)」が掲載されました(こちら)。

 今年2月に厚労省から示された「改正育児・介護休業法に関するQ&A」を解説するものです(同Q&A原文はこちら)。

 上ということは下もある訳ですが、この下が大変、くせものです。ゲラが先日上がってきまして、今見直しをしているところですが、なかなか読み応えあるものになりそうです。来月号のビジネスガイド(7月号)に掲載予定ですので、ご期待ください。

 また「パパ・ママ育休プラス」という難しい制度が新たに本年6月30日から施行されますが、これについては、労政時報6月上旬号に同解説が掲載される予定です。

 改正育児・介護休業法については、さほど話題になることもなく、まもなく施行を迎える訳ですが、考えれば考えるほど、人事労務担当者にとって思わぬ盲点が多い法改正です。今後、従業員の活用が増大すれば、色々と難しい法的トラブルが増加する懸念を持っています。また機会があれば、同改正法について、もう少し踏み込んで検討したものをどこかで書きたいですね。

2010年5月18日火曜日

改正独占禁止法が人事労務に与える影響

 先ほどYAHOO-NEWS(毎日新聞配信)で「<地位乱用>岡山のスーパーを初の立ち入り検査 公取委」が報じられておりました(こちら)。

 取引上の立場が弱い納入業者に対し不当な値引きや従業員を店舗に派遣させるなどしていたとして、公正取引委員会は18日、独占禁止法違反(優越的地位の乱用)の疑いで岡山市のスーパー「山陽マルナカ」を立ち入り検査した。1月施行の改正独禁法で「優越的地位の乱用」も課徴金の適用対象となり、施行後この容疑での立ち入り検査は初めて。

 関係者によると、立ち入り先は山陽マルナカ本社や店舗、納入業者など二十数カ所。納入業者に不当に値下げや返品を強いたり、従業員の派遣や協賛金を求めていた疑いが持たれている。

 同社は岡山、兵庫、広島県、大阪府に計71店舗を展開し、年商約1230億円。04年にも納入業者に不当な値引きや返品をしたなどとして公取委から排除勧告を受けている。

 1月施行の改正独禁法では、厳罰化を図るため違法行為に対する課徴金の適用範囲が広がり、不当廉売や不当な手段を用いて競争相手を市場から排除する「排除型私的独占」なども対象となった。「優越的地位の乱用」の課徴金額は、乱用行為を受けた事業者と違反行為者の取引額の1%。

 山陽マルナカは「公取委から立ち入りを受けたのは事実で、調査には全面的に協力する」と話している。【桐野耕一】


 改正独占禁止法が本年1月から施行されています(公正取引委員会の解説資料はこちら)。
一般には経済法と労働法は全く縁遠い法律のように思われるところですが、近年、様相が変わってきました。特に関わりが深くなるのが、いわゆる偽装請負問題です。人事労務部門は同問題については、もっぱら派遣請負区分告示(37号告示)の観点から構内請負等と発注者との関係を点検する事になりますが、法務部門との打ち合わせの際、間違いなく問題となるのが、独占禁止法、下請法との関係性です。

 先のニュースでも、納入業者が自社の社員をスーパーに「派遣した」と報じられておりますが、恐らくは派遣法に基づく適正な派遣ではなく、形式上も業務委託の形であろうかと思われます。従来はこれが「偽装請負」にあたるか否かが問題視されてきましたが、先の報道では、これが更に改正独占禁止法が規制する「排除型私的独占」に該当し、取引額の1㌫もの課徴金が課される可能性があるとの事。企業実務的には相当にインパクトある処分になろうかと思われます。

 これからの人事労務は労働法のみならず、独占禁止法、下請法さらには商法までも見据えて対応策を検討する要があるようです。なかなか骨がおれます(笑)。

2010年5月17日月曜日

日本労働法学会(2010春学会)

 昨日、名古屋大学で開催された日本労働法学会に出席しました。個別報告(戸谷会員「フランスにおける企業倒産と解雇」)、シンポジウムいずれも大変に勉強になり、刺激を受けました(こちら)。

 今回のシンポジウムは東アジアの個別労働紛争解決制度がテーマとなり、韓国、台湾、中国、日本の4国の各制度の現状と課題について、勉強させていただきました。同シンポジウムで印象的であったのが、日本の労使紛争件数の少なさです。以前からヨーロッパ諸国との比較で日本の労使紛争件数の少なさが指摘されるところでしたが、野田進先生の報告では、中国、韓国、台湾と比べてもその少なさが顕著であることが指摘されています。

 その後の質疑応答の中で、野田先生からは日本の労使紛争解決制度が今なお十分ではないことが、件数が少ないことの主要原因ではないかとのコメントがありました。確かにその面もあろうかと思いますが、一つの仮説として、我が国では企業内の自主的な労使紛争解決(一例として、会社側が労働者からの苦情を聞き、一定の対応を講じようとする傾向が高いということ等)が相応に機能している面もその要因の一つに挙げられないか。同仮説の立証を社会科学分野(法社会学の分野でしょうか?)において行うことは大変、難しいとは思いますが、そのような雑感を感じた次第。

2010年5月14日金曜日

旅行添乗員の事業場外みなし労働適用について

 先日(5月11日)、東京地裁で旅行添乗員の事業場外みなし労働の適用を否定し、未払い残業代とともに同額の付加金支払いを命じた裁判例が出されました。会社側は控訴するようです(asahi.comはこちら)。

 同問題については、すでに労基署においても、事業場外みなしの適用を否定し、是正勧告を交付する例が相次いでいる上、労働審判においても、同適用を否定する旨の審判が示されておりました。

 労基署の是正勧告書において、事業場外みなし適用を否定する理由の一つとして挙げられているのが、旅行日程です。私もたまに家族と国内バスツアーを利用することがありますが、どこに何時に立ち寄るか事細かに定められています。添乗員も当然に、その旅行日程を遵守するべくガイドされているものですが、この結果、同添乗員については「事業場外」とはいえ、その就労状況の把握は極めて容易といえます。また同添乗員が旅行日程に反した就労を行うことは、通常不可能といえます(旅行日程に反するということは、職場放棄を意味し、顧客からクレームが出ることが必至)。

 先日の東京地裁判決はまだ未入手ですが、報道を見る限り、同様の判断を行ったものと思われます。会社側は控訴する意向のようですが、かなり厳しいと思います。他方、事業場外みなしの適用が否定された場合、労働時間の把握が問題となります。これについては、旅行同行中における添乗員の「休憩時間」が論点となりうるでしょう。

 ところで先日、某国のバスツアーを楽しんだところ、同添乗員の対応に新鮮な驚きを受けました。目的地に着けば、もうお客任せ。何もアテンドいたしません。お客さんもそれに何ら不満なく、ぞろぞろと好きなところに行って、定刻までに帰ってきていました。日本の場合、あまりにお客に過保護すぎる(お客も甘えすぎる)ような気もいたします。バスツアーを愛用する立場からいえば、添乗員の長時間拘束(労働?)問題も、この辺りの問題がキーポイントであるように感じます。

 

2010年5月13日木曜日

自転車通勤中の事故は通勤災害に該当するか?

 先日の日経新聞(2010.5.11)に「ゴールドウィン社 自転車通勤容認」との記事が掲載されていました。同社では通勤距離が2~20kmの社員を対象に自転車通勤を容認することとし、通勤手当もその距離数に応じて支給する事にしたようです。また同対象者には任意保険の加入を義務づけるとの事。

 都内における朝の通勤電車を思うと、自転車通勤はとても魅力的に見えます。健康にも良いですし、電車賃もかからない事などから、いいことだらけに思えますが、企業サイドからの懸念として、駐輪場の確保と事故対応の問題があります。特に問題となるのが、通勤途上に本人が交通事故にあった場合に、通勤労災の対象となるのか否かです。

 通勤労災の判断基準の一つとして、通勤が「合理的な経路および方法」による移動であることが求められます(労災法7条2項)。問題は自転車通勤が合理的な経路および方法によるといえるか否かです。特に通勤経路に他の交通機関があり、それが迅速かつ低廉な価格で用意されており、本人もそれを長期間利用していた場合、自転車通勤が「合理的な経路および方法」と言いうるのか

 先日、労基署の担当者と雑談いたしましたが、同種事例は扱ったことがないようです(全国においては、すでに同種事案があるやもしれませんが)。たとえ話として、ある社員が2~3駅早めに下車して、ランニングして会社に向かう途中、事故に被災した場合、通勤災害にあたるか否かについては、担当者見解では該当しないとの事。同じように健康保持増進目的で自転車で通勤した場合は、他の適切な通勤経路・方法がある限り、認められないとする考え方は成り立ちうるものです。

 その一方、厚労省は省を挙げて、健康保持増進に取り組んでいます。この動きから見れば、会社が公認する限り、通勤災害として認めるべきとの価値判断があってもおかしくはありません。

 いずれにしても、当面はこの問題について、新たな行政解釈の登場を見守る必要がありそうです。それまでは任意保険の加入(被害者対応+自転車運転者本人分)を強制し、事故対応を行う他ないでしょう。問題は任意保険の適用・給付範囲ですが、これは労災保険と比べると、見劣りするのは間違いないところです。

2010年5月9日日曜日

映画「南極料理人」

 南極調査隊の料理人(海上保安庁派遣)と調査隊メンバー7名(むさ苦しい男ばかり!)の南極での1年を「食」の視点から物語化した作品(同作品のHPはこちら)。

 料理人役の堺雅人その他キャスティングが絶妙。男どもを見ていると、寮生時代を思い出します。男ばかりの共同生活はやはり、どこか似てくるものですね(笑)。

 本作の何よりの主人公は、やはり食べ物。おむすび、豚汁、ぶりの照り焼き、卵焼き、伊勢エビフライ(?)、そして凄いのが苦心の末、作り上げた「ラーメン」。オーロラが出ようが出まいが、久方ぶりのラーメンに夢中になる姿は、ある種感動的です。

 見れば気持ちよくお腹が減ってくる好作品でした。

2010年5月7日金曜日

警察から会社への通知(痴漢逮捕)について

 5月6日付け東京新聞夕刊に以下の記事が掲載されていました(こちら)。

「電車の痴漢 会社員が過半数 先月、首都圏で一斉摘発」

首都圏の四都県警が四月に実施した電車内の痴漢一斉取り締まりで、摘発された七十七人中四十八人の職業が「会社員」で、このうち二十一人は過去にも痴漢で摘発された経験があったことが警察庁のまとめで分かった。

 通勤電車内で痴漢を繰り返すサラリーマンが存在する実態が垣間見えた形。摘発された際の警察から勤務先への通知は、現在は身元確認が必要な場合などに限られているが、再犯を防ぐ目的で拡大も検討されそうだ。 (以下略)


 痴漢が許し難い犯罪行為であり、厳正な対応が必要であることは言うまでもありません。その一方、近時、痴漢の冤罪・無罪事案なども相次いでおり、警察の送致、検察の起訴で100㌫同人の有罪が確定する訳ではありません(当たり前のことではあるのですが・・)。

 この問題を考える際、いつも思い出すのが、周防正行監督の「それでもボクはやっていない」です(公式サイトはこちら)。警察段階で大森南朋扮する刑事が、被疑者の取り調べを行うのですが、開口一番「やったんでしょう。調書捺印したら、早く帰れるから」(※実際はそのような調べはないと思いたいのですが・・・)。
 仮に冤罪事案で被疑者がこの警察官の「誘い」にのってしまい、かつ同情報が警察から会社に通知された場合、会社としてはどのように対応すべきでしょうか。

 恐らく会社としても懲戒処分を検討せざるを得ないと思われますが、その際、当人が冤罪などと主張されれば、対応はとても難しいものになります。

 JRの設置した防犯カメラ等によって、痴漢行為自体が全て記録化できれば、先のような問題も解消されるのでしょうが、通知に伴う会社の対応は当面、慎重たるべきでしょう。

 あとは素朴な疑問として、警察が会社に通知できる法的根拠はどこにあるのでしょうか。冤罪事件で警察が会社に通知、会社が同通知を根拠に解雇された労働者が、国家賠償請求を行い認められる余地は十分に残されているとも思います。

2010年5月6日木曜日

三鷹労働法セミナー第5回「平成22年度労働行政運営方針の解説」

 弊事務所主催の5月三鷹労働法セミナーは「平成22年度労働行政運営方針」を取り上げることとしました。

 同方針は毎年、厚生労働省本省から各都道府県労働局に示されるものであり、企業で例えて言えば「年間経営方針、経営計画」を指す大変重要な文書です(同文書はこちら)。

 同セミナーでは本年の労働行政運営方針、特に労働基準監督行政の運営方針を中心に解説いたします。同文書は一見だけでは、毎年代わり映えしないようにも思えるものですが、子細に内容を見ていきますと、毎年新たな「発見」があります。本年度の労働行政運営方針も然り。特に労働安全衛生分野においては、注目すべき記述が見られるものです。

 ご関心ある方はぜひともご利用いただければ幸いです。

開催日時 5月27日(木)午後6時~8時

場所 三鷹産業プラザ7階会議室 702号室

その他詳細はこちら  参加申し込みはこちら又はFAXで

 

 

2010年4月30日金曜日

「アモーレと労働法」松下PDP最高裁判決評釈に対する雑感

 労働法関係で愛読しているブログの一つに神戸大の大内伸哉先生のブログ「アモーレと労働法」があります。 労働法関係はもちろん映画評、読書評を大変、楽しみに拝読しているのですが、本日のブログ(こちら)では、大内先生が松下PDP最高裁判決の評釈をジュリストに掲載する準備を進めておられることが綴られております。その同ブログの最後ですが、次のような謎が出されました。

「ところで,3月の東大の研究会で,この事件を報告したとき,私が見たところでは,どの解説でも指摘されていなかった論点がありました。判決が会社に損害賠償責任を認めた理由として,原告が労働局に偽装請負の申告をしたことに対する報復目的があるのですが,それなら,雇止めはそもそも無効となるのではないか,という点です。立教大学の竹内(奥野)寿君(括弧内は結婚前の旧姓です。クリス・エバート・ロイドみたいですね)が指摘してくれました。私は無効とならないと考えていますが,では,私はどういう理由をあげたでしょうか。その答えは,ジュリストの掲載号(何号か知りません)を御覧下さい。」

 この謎については、拙ブログにおきましても、以前に次のような回答を仮案として出したことがあります(こちら)。大内先生のジュリスト評釈による「謎解き」が今から楽しみであります。

2010年4月27日火曜日

「個人業務委託・請負をめぐる法的問題と企業実務対応」セミナー無事終了

 昨日、三鷹において標記セミナーを開催いたしました。参加者の皆様には、お忙しいところお越しいただき、誠にありがとうございました。

 同セミナーでは、冒頭にある裁判例を紹介し、請負・業務委託に伴う法的リスクの所在について確認いたしました(同関連拙稿はこちら)。この法的リスクとは、労働者性に他なりません。企業が当初、請負・業務委託と考えていたとしても(契約上その形を取っている)、労働法規が適用されるべき「労働者」か否かは実態に応じて判断されます。従って、同実態が裁判例・行政解釈に照らして「労働者性」が認められる場合は、請負・業務委託者も「労働者」となり、様々な労働法規上の保護を受けることになります。
 この法的保護の中には労働時間規制、賃金支払いルールの適用、労災・社会保険適用はもちろん、割増賃金請求も当然に含まれることになります。この結果、「業務委託」と思い込んでいた(故意・過失関わりなく)使用者は、後日遡ってこれら労働法規を守る必要が生じ、高額な割増賃金請求、雇用保険・社会保険料の被用者負担分納付などの問題が生じうるリスクをはらんでいます。

 昨日のセミナーではこれら問題状況(その他、団体交渉問題有り)の概要を説明の上、厚労省「個人請負型就業者に関する研究会報告」を読み解き、今後の厚労省の施策動向について解説させていただきました。終了後大変、有意義な質疑応答を頂き、私自身の考えも深まった気がしております。
 今後も継続して同テーマに取り組み続ける要がありそうです。
 

2010年4月26日月曜日

むれてまどわす

 井の頭公園内にある自然文化園の展示物から。

    「むれてまどわす」。


 思わずうなってしまいました。色々と人事労務分野においても同じような問題があるような気が(笑)。








2010年4月23日金曜日

管理監督者問題(日本マクドナルド事件)と菅野「労働法(第9版)」

 思い起こしますと一昨年、日本マクドナルド事件東京地裁判決において、店長の管理監督者性が否定され、企業実務にも大きな衝撃が走りました。

 その後、一部行政指導等の中には、同東京地裁判決を根拠に、管理監督者たるものは全社的な経営に関与していなければならず、店舗などの組織をいかに労務・経営管理していても管理監督者にあたらないとするものが散見され、大変強い違和感を感じておりました(以前述べたブログはこちら)。同判決の規範部分に対する批判的検討として、拙「ファーストフード店店長の管理監督者性」(季労222号)、峰隆之弁護士著「管理監督者問題とは何か」(労働法学研究会報2432号)などがありますが、少数説の感がありました。

 これに対して、今回の菅野「労働法(第9版)」では管理監督者問題に対して、相当に踏み込んだ記述がみられます(p284以下)。特に以下部分に大変刺激を受けました。
 「近年の裁判例を見ると・・・これを企業全体の運営への関与を要すると誤解しているきらいがあった。企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ、それらを連携統合しているのであって、担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが「経営者と一体の立場」であると考えるべきである。そして、当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば、その管理を通して経営に参画することが「経営に関する決定に参画し」にあたるとみるべきである」。

 その上で菅野先生は日本マクドナルド事件の結論については、注22において「店長の権限と役割からは、店長の業務にのみ従事しているのであれば十分に管理監督者と認められえたが、シフト・マネージャーの業務が加わったことによって、労働時間規制を適用除外するには不適切になったと思われる」 とします。

 菅野先生の明快かつ周到な記述に及ばないにしても、日本マクドナルド事件東京地裁判決に対する見解自体は前述の拙評釈も比較的近いものがあると思われ、私的には大変勇気づけられました。峰論文と比較すると、更にその近時性を感じました。

 いずれにしましても、同菅野先生の記述を受けて、判例法理等において、管理監督者の判断基準が明確かつ妥当性を有し、何よりも予測可能性が高いものとなることを願います。 

2010年4月21日水曜日

菅野和夫「労働法(第9版)」を読む1

 菅野和夫先生著「労働法」(弘文堂)の第9版が先日、出版されました。巻末を見ますと、初版が昭和60年。私が学部時代に手を取り、学部演習・試験および公務員試験勉強のために精読していたのが第3版。公務員時代が第4~5版、大学院で修行していた時が第6版~第7版。色々と思い出の尽きない書籍です。

 さて今春出版された第9版。はしがきで述べられているとおり、本改訂は新たな立法のフォローに留まりません。まず「労働者派遣、労災補償、労働者や使用者の概念、等々にわたる裁判例の動きも見逃しがたい。今回の改訂は、・・判例に生じている発展をフォローし、本書を最新のものにすることが第1のねらい」とされます。

 まさに松下PDP事件、脳心臓疾患・精神疾患の業務上外認定をめぐる裁判例、および新国立劇場事件などの労働者性に係る最新裁判例について、菅野先生のコメントが本文あるいは注に述べられている点がまず大変に勉強になるところです。

 その他、個人的に大変刺激を受けていますのが、「管理監督者問題」、「就業規則の不利益変更と労働者の個別同意との関係」に係る菅野先生の新記述です。これにつきましては、また後日。いずれにしましても、すでに第8版をお持ちの実務家の方々も、仕事で労働法に接する機会があれば、第9版を購入しておくことをお勧めいたします。

2010年4月20日火曜日

うつ病チェック、企業健診で義務化へ

 今朝(4月20日)のasahi.comに「うつ病チェック、企業健診で義務化へ 厚労省方針」が掲載されています(こちら)。

 厚労省労働安全衛生部担当者は法令改正が必要か、省令改正で対応しうるのか今後検討するとコメントしていますが、いずれにしても今年中には、専門家研究会および労働政策審議会安全衛生分科会で同問題が審議される事になるのでしょう。

 その際、間違いなく大きな論点となるのが、労働者本人の個人情報保護の問題です。メンタルヘルス疾患に係る健康情報は個人情報の中でも保護の優先順位が極めて高いものであることは論を待ちません。これを既存の労働安全衛生法における定期健康診断項目にそのまま追加すると、同情報が本人同意なく事業主がこれを把握することになります。事業主としては、同情報を基に労働安全衛生法・安全配慮義務による就労制限などの措置を講じやすくなりますが、労働者の中には、同情報を事業主に知られたくないというケースも想定しえます。

 現に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」策定にあたり、重要な基盤となった研究会報告書(職場におけるメンタルヘルス対策のあり方検討委員会)においても、個人情報保護の観点からメンタルヘルスチェックに際し、本人から同意を得ることなどが指摘されています(こちら p24以下)。

 労働安全衛生法の改正によって、労働者本人の同意を不要とするのか、あるいはメンタルヘルス情報の性質に照らして、他の健診項目と異なる取扱いとするのか。今後の研究会・審議会等の議論を見守る要がありそうです。

 

2010年4月19日月曜日

過労死訴訟ー障害を考慮し労災認定

 先日、名古屋高裁において、国の労災不支給決定処分が取り消される判決が出され、マスコミにおいて大きく報じられています(こちら)。

 判決文をまだ見ておりませんので同判決の規範とその射程などをまだ評価できませんが、今年6月に筑波大学の判例研究会で報告を予定している高裁判決(福岡高判平成21.5.19)と規範定立の面で類似性があるように感じています。

 労災認定における業務起因性と被災労働者の個体的要因との関係をどのように考えるべきか。また民事損害賠償請求において求められる使用者の予見可能性と労災認定の過重負荷との関係性はどうか。この設問自体の適否を含めて、6月までに検討を深めておきたいと考えています。私にとって大きな宿題です。

2010年4月17日土曜日

映画「sweet little lies」

 好き嫌いがはっきりと分かれる作品のように思われます。中には主人公である夫婦の描き方が理解できず、不愉快に感じる方もいるやもしれません。私自身はというと、好きです、こういう作品。同夫婦像を少し抽象度を上げて見てみると、同作品の世界観がなにがしら理解できる気がしています(同作品の公式サイトはこちら)。



 映画の世界観に対する好き嫌いはさておき、何よりも主演女優の中谷美紀が素晴らしい。中谷美紀の憂いのある表情を見るだけで、十分に価値ある作品ではないかと思っています。

2010年4月16日金曜日

改正労働者派遣法案の審議入り

 いよいよ本日(4月16日)、午後からの衆院本会議において、改正労働者派遣法案が審議入りするようです(日経ニュース)。

 本通常国会の会期は6月中旬までありますので、かなり余裕を持った審議入りといえるのではないでしょうか。このまま順調に審議が進めば、同改正派遣法案は5月~6月中には成立・公布される可能性があります。

 その場合、登録型派遣、製造業派遣の禁止はさておき(公布から3年以内が施行予定)、その他の重要改正点である「みなし雇用制」などは、平成22年中に施行されることになります(公布から6ヶ月以内が施行予定)。

 先日の講演でも申し上げましたように、専門26業務適正化プランと「みなし雇用制」は密接な関わりがあります。同問題については、早め早めの情報収集と対応準備が不可避と考えます。私自身も前倒しで研究を進める要を感じております。

新たな人事労務部門の課題ー海外委託先等の国際労働基準遵守

 今朝のNEWSで次のような報道を見ました(M社からの製造委託工場における未成年労働者酷使(こちら))。
企業が国境を越えて事業展開していく動きは、今後更に強まるものと思われますが、海外進出に伴い様々なリスクが生じ得ます。その一つとして、今後懸念されるのが、児童労働禁止などの労働基準違反です。

 今回の報道のように、いつ何時、海外委託工場において、児童労働などが問題化し、現地受託会社のみならず発注会社にその責任追求(法的もしくは道義的)がなされるか予断を許しません。

 またISO26000(組織の社会的責任に関する国際ガイダンス規格)が今年9月にも発行される見込みです。今年の秋以降、グローバル展開している企業においては、新規格への対応と併せて、海外進出先の国際労働基準遵守の点検が大きな検討課題になっていくものと思われます。

 企業の人事労務部門に求められる機能・責務が更に広がっていきそうですね。引き続き注目していきたいと思います。

2010年4月15日木曜日

「専門26業務適正化プラン」講演について

 昨日、「専門26業務適正化プランと改正派遣法の動向」というタイトルで講演させていただきました(こちら)。100名以上のお申し込みを頂いていたようで、大変盛況でした。講演にお越しいただきました企業・労組等のご担当者様に感謝申し上げます。

 昨日の講演では、まず新たに示された事務用機器操作・ファイリングの定義とこれに伴い重要である「付随業務、付随的業務」について解説いたしました。その上で、「付随的業務」が伴う場合のルールとこのルール遵守のために厚労省側が勧奨している実務対応手法、さらには同プラン以降の監督指導事例(プレス発表分)、さいごに改正派遣法案との関係性についてお話をさせて頂いた次第です。

 講演させていただき、改めて感じましたのが、厚労省が定める専門26業務の定義(とりわけ事務用機器操作、ファイリング業務)と実際の派遣受け入れ現場との間の大きなギャップです。以前からその問題は指摘されていましたが、厚労省側の定義自体(業務取扱要領)が曖昧かつ時代遅れ(事務用機器の例として、タイプライター・テレックスなどが挙げられている!)であったため放置されていた感がありましたが、これが同プランによって、深い眠りから覚めてしまったものです。

 同プランは集中監督指導実施を本年3月~4月としますが、厚労省はその後も継続して監督指導に取り組むとしており、派遣元はもちろんユーザー企業も同問題を看過することはできません。同問題対応のための情報収集、検討と対応を早めに取り組まれることをお勧めするものです。

 同問題につきましても、助言・指導、模擬監査等のサービス(スポット契約可)をご提供させていただいておりますので、お気軽にお問い合わせください(こちら)。
 

2010年4月14日水曜日

iPadのことなど






 iPadの発売日が近づいてきました。某所で一足早く販売されておりましたので、apple storeを覗いてみましたら、いやはや大変な盛況です。




 無我夢中でデモ機をいじる様子などは、万国共通でした(笑)。




 さて買うべきか、買わざるべきか。我が家の財務省(事業仕分け?)折衝はもちろん、手持ちのiPhoneへの仁義もあり、悩みがつきません。
(付記 2010.4.15) 今朝の朝刊にiPad発売延期の報が・・・。ロイターニュース(こちら)などを読みますと、色々と後悔の念がつのります(笑)。

2010年4月12日月曜日

「残業代請求権の放棄」と労働者の自由な意思表示

 先日、毎日JPで次のようなNEWSが報道されていました(こちら)。

 残業代未払い訴訟において、会社側が残業代の権利放棄がなされたと主張するケースがままありますが、これに対して同事案の従業員側代理人は、同権利放棄を誘導したものであり、違法無効との反論を行ったようです。

 「労基署を愚弄している」等のコメントが見られますが、それよりも法的に問題となるのは、同残業代放棄が労働者の「自由な意思に基づくものであることが明確であるのか」という点です(賃金債権放棄に係る先例として、シンガー・ソーイング・メシーン事件ほか)。同判断のポイントになるのが、労働者からの残業代放棄確認書提出までのプロセスですが、そもそも労働者が自らの残業代を放棄すること自体が不自然ですので、それを払拭するような合理的理由がありうるのか。

 同事案が判決で示された場合には、また改めて注目したいと思います。

2010年4月8日木曜日

サービス業における1ヶ月単位変形労働時間制の難しさ

 昨日の報道で、飲食店アルバイトに対する1ヶ月単位変形労働時間制の適用が否定された裁判例が報じられています(こちら)。

 報道によれば、同社では、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用するものの、あらかじめ決定していたのは半月分のシフトに過ぎなかったようです。

 同変形労働時間制は特定日・週に法定労働時間を超過したとしても、対象期間を平均して1週40時間以内に収まる場合、労働時間規制(労基法32条)および割増手当規制(労基法37条)が適用除外される制度です。しかし、同変形労働時間制を導入する際には、あらかじめ対象期間の労働日、労働時間を特定することが求められています。上記事案は、まさにその点に不備があったようです。したがって、同判決は従来からの行政解釈・裁判例に沿うものであり、特に先例的意義はありません。

 サービス業においては、天候、商品の売れ行きその他様々な不確定要素によって、業務量が変動するため、あらかじめ1ヶ月単位で完全にシフト表を組むことが難しい実情があるように思われます。そのため、本件のようなサービス業において、1ヶ月単位の変形労働時間制の適用が全く不可能にも思われるところですが、一つの対応策としては、シフト表が組める範囲内(例えば半月、2週間など)を平均して1週40時間に設定する方法もあります。

 このように変形対象期間を短くすることによって、変形労働時間制を適用することも考えられますが、実はサービス業において更なる難問が残っています。それは変形対象期間内における労働日・休日・労働時間の変更です。同変形労働時間制は前述のとおり、対象期間内の労働日、労働時間の特定を求めており、同対象期間内の融通無碍な労働日・労働時間の変更を前提としていません。あまりに融通無碍に同変更を行っていると、労働日・労働時間の「不特定」を理由に、変形労働時間制が違法とされる恐れがあるものです(先例として、JR東日本(横浜土木技術センター事件) 東京地判平成12.4.27 労判782-6)。

 サービス業については、やはり1ヶ月変形労働時間制の導入は容易ではありません。サービス業向けの変形労働時間制としては、他に1週間単位の非定型的変形労働時間制(法32条の5)という制度があります。小売・旅館、料理店および飲食店において、30人未満の事業場が対象となる制度であり、1週間平均40時間以内に収まる場合は、特定日が10時間(上限)であっても、労働時間・割増賃金規制が適用されない制度です。また同制度の場合は、労働日、労働時間数の特定は同週間が開始する前に書面で行うことで足りる上、緊急でやむをえない事由があれば、前日までに特定日の労働時間を変更することも許容されています(則12条の5 3項)。事業場規模で対象になるサービス業であれば、導入検討する価値はあろうかと思われます。

  

2010年4月2日金曜日

「マイレージ、マイライフ」から見るアメリカ

 先日、米映画「マイレージ、マイライフ」を見に行ってきました(こちら)。監督のジェイソン・ライトマンは、前作(ジュノ)、前々作(サンキュー・スモーキング)ともに実におもしろく、本作も大変楽しみにしておりましたが、やはり期待どおりでした。

 ジョージ・クルー二ー扮するアウトプレースメント社社員(クライアント会社から依頼を受けて、解雇通告等を代わりに行う業務)が、似たもの同士の異性と出会うこと等を通じ、自らの人生に向き合うといった物語です。引きつけられるストーリー展開はもちろん、ジョージ・クルー二ーのあまりに格好良い出張ぶり(搭乗手続き、ホテルのチェックインのシーンは特にお勧め(笑))、あるいは飛行機の窓から眺めるアメリカの風景等が素晴らしいのですが、人事労務の見地から見ても、大変おもしろい映画です。

 ジョージ・クルーニーが解雇通告を行う際、まず言うのが「貴方の職務がなくなりました」。同通告を受けた社員は、その後の生活保障や不当解雇の疑い等について申し立てを行いますが、この「職務がなくなったこと」自体はあまり問題視していないようでした。

 日本の場合は、まずもって、「貴方の職務がなくなった」と言われれば、多かれ少なかれ「何か違う仕事に配転してくれ」「なぜその措置を検討しないのか」といった話になりそうです。そもそも解雇通告をアウトプレースメント会社社員に完全に委ねること自体も、日本ではまだまだ稀であるように思われます。

 同映画では、その後、リストラ宣告業務が更に「効率化」されようとしていきます。どのような「効率化」であるか、またそれがどうなるかについては、ぜひ本作をご覧いただければ幸いです(笑)。

 本作を見て、アメリカという国を見てみたくなりました。 

2010年4月1日木曜日

改正雇用保険法(平成22年度)におけるモラルハザードの懸念

 昨日(平成22年3月31日)、改正雇用保険法が成立しました。
同改正の概要についてはこちらをご覧いただくとしまして、同改正事項の中で腑に落ちない点を指摘しておきたいと思います。

それは「雇用保険に未加入とされた者に対する遡及適用期間の改善」です(こちら)。

 従来は雇用保険加入の対象労働者が未加入扱いとされていた場合、被保険者であったことが確認された日から遡及適用されるのが、2年間とされていました。この取扱いの結果、失業した労働者がいざ雇用保険を受給しようとする際、遡及適用される被保険者期間が2年限りとされるため、その所定給付日数が不当にも短くなるとの指摘がなされていたところです。

 本改正では、その点を改善し、事業主から雇用保険料を控除されていたことが給与明細等の書類により確認された者については、2年を超えて遡及(天引き確認された時点まで)される事となりました。

 失業労働者から見ると良い改善であることは間違いありませんが、その反面、雇用保険料納付の問題が残ります。同取扱いのケースにおいて、事業主は保険料を納付していません(なお2年遡及適用分については、事業主に未納保険料の納付が命じられるとともに、追徴金、延滞金の問題が生じます)。
 その点を放置してしまうと、2年遡及を超える部分の保険料については、このように考える事業主が出てきても不思議ではありません。「どうせ国が立替えてくれるのだから、雇用保険料については申告納付ともにしなくても良い」。いわゆるモラルハザードの問題です。

 これに対して、今回の改正では以下の措置を講じる(労働保険徴収法の改正)との事ですが、これが先のモラルハザード対応として十分か否か。その点が今のところ、私にはよく分かりません。

 遡及適用の対象となった労働者を雇用していた事業主のうち、事業所全体として保険関係成立届を提出しておらず、保険料を納付していないケースについては、保険料の徴収時効である2年経過後でも納付可能とし、その納付を勧奨する。

 まず同納付対象となるのが、「事業所全体として保険関係成立届を提出していない」と限定する点。この文言だけを見ると次のような悪質な事業主から遡及納付を求められないことになるようにも読めます。
(例)保険関係成立届は出す一方、一部の労働者について(例えばパート・アルバイトで週20時間以上30時間未満等)は、事業主独自の見解で被保険者資格取得届を提出しない。その上で同労働者からは保険料を徴収(給与から天引き)しているようなケース

 また「納付」を勧奨するという点からは、その強制力が伺えません。恐らくはすでに時効消滅しているものを、改めて使用者に納付を強いること自体が、法制上許されないという見地からの判断とは思われます。確かに過去分についてはやむを得ないと思いますが、本年4月以降の労働保険料については、異なる取扱いも可能ではないかと考えるところです。

 桜を見ますと、どうも「学生」に戻っていけませんが、以上私見まで。

2010年3月31日水曜日

部下の暴力行為による負傷は労災に該当するか?

 先ほどnewsを見ておりましたら、「「口うるさい上司」社内で金づちで殴る」とのNEWS(yomiuri online(こちら))が報じられていました。

 アメリカ労災法のケースブックなどを見ると、職場内の暴行行為をめぐる労災法上の問題に1章を割いており、当地の関心の高さと判例の蓄積に大変驚いた記憶があります。それに比べると、我が国は同問題に対する危機感はさほどありませんが、今後同種事案が増加してくるとすれば、同問題をめぐる法的課題と企業実務対応について研究しておく要があるやもしれません。

 少なくとも現状でいえるとすれば、職場内における社員同士の暴行が「業務上」に該当するか否かは、加害行為の動機が判断の主なポイントとなります。厚労省の行政解釈においても、現場巡回を行っていた建設部長が現場大工に対して作業の手抜きをやり直すよう指示したところ、口論となり同大工が部長を角材で強打し負傷せしめた事案について、業務上と判断したものがあります(昭和23年9月28日 基災発第167号)。

 このように業務上の注意等に起因する暴行行為であれば、業務上と判断される可能性がありますが、難しいのが次のようなケースです。「折り合いが悪い」ため、かねてから犬猿の仲であった者同士において何かのはずみで暴行沙汰が生じた場合、これを業務上と取扱い、労災補償の対象とすべきか否か。「何かのはずみ」とする動機の解明が非常に難しいことから、労災認定も困難を極めるものと思われます。

 報道された案件については、加害者が警察に対して「毎日のように仕事のことで口うるさく注意され・・」などと自供しているようです。同供述が事実であるとすれば、同暴行行為による上司の負傷は先の行政解釈に照らしても、「業務上」に該当する可能性は高いと思われます。

 若干気になりますのが加害者が被害上司について「有給休暇を与えてくれずに・・・」等と供述している点です。上司自体が労基法等に反するパワハラ行為を繰り返しており、これが起因して部下の暴行行為を招いたような事案については、どのように考えるべきか。なかなか難しい問題ですね。じっくりと考えてみたい課題です。

2010年3月26日金曜日

「個人業務委託・請負をめぐる法的問題と企業実務対応」セミナー開催のお知らせ(三鷹労働法セミナー第4回)

 最近、労務相談において「個人請負」に関するものが増えています。例えば、会社内に一人で常駐している業務請負が「偽装請負」に該当しないのか、あるいは従来、雇用していた部門をまるごと「業務委託」に切り替えたいが可能か等。

 個人請負・委託の企業活用が増大するにつれ、法的トラブルも増大しつつあります。最近の労働判例を見ても、個人請負者が発注者に対して「時間外割増賃金請求」を求める例や、同事業者が団結し労働組合を結成し、発注者に団体交渉を求める事の可否が争われる例が登場しています。

 これらの動きを受けてか、厚労省は平成22年3月中に「個人請負型就業者に関する研究会報告」を策定し、これを公表する予定としています(研究会における報告書案(未確定)はこちら)。

 三鷹労働法セミナー第4回目は、同研究会報告書を中心に、今後の個人請負型就業に係る厚労省の施策動向と企業対応上の留意点を検討したいと考えております(セミナー案内はこちら)。自社・グループ企業において、すでに個人請負型就業を多数活用されている企業ご担当者様、あるいは今後の活用を検討されている企業担当者様はぜひご利用いただければ幸いです。

セミナー開催日時 平成22年4月26日(月) 午後6時~8時
場所 三鷹産業プラザ7階703室 (地図はこちら
申し込みはこちらからでも可能です(セミナー番号4と記入ください)

「パワハラ防止のための就業規則と実務対応」セミナー無事終了(三鷹労働法セミナー第3回)

 昨日は第3回目の三鷹労働法セミナーを開催いたしました。「パワハラ防止のための就業規則と実務対応」をテーマに、最新のパワハラ関連裁判例動向とパワハラ防止のための就業規則規定例と運用上の留意点について解説したものです(こちら)。年度末の上、雨の中、お越しいただきました参加者の皆様に御礼を申し上げる次第です。
 同セミナーに際し、最近のパワハラ関連裁判例を整理し直しておりましたら、改めて色々な発見がありました。昨夜の質疑応答を通じ、私自身も大変、理解が深まったように感じているものです。いずれ機会があれば、裁判例をケーススタディとして、同事案における企業対応の問題点と改善方法をまとめてみたいと考えております。
※パワハラ問題に係る拙稿については、労政時報3770号(こちら)、企業実務2010.3号(こちら)。

2010年3月22日月曜日

労政時報3770号80頁拙稿掲載について

 労政時報最新号に拙稿「パワーハラスメント対応のための就業規則例と懲戒処分の適用」を掲載いたしました(こちら)。ぜひご覧いただければ幸いです。

 最近、この1年間ほどの労働判例をじっくりと読み返す機会を得ましたが、やはりパワハラ問題が争われる訴訟が増えている上、その争われ方も多様化しつつあります。この流れは当面、止まらないとすれば、労使もその対応準備を進めていく必要性が高い訳ですが、拙稿がその取り組みに参考となれば誠に幸いです。

2010年3月14日日曜日

高村薫「レディ・ジョーカー」文庫版 出版の報

 高村薫「レディ・ジョーカー」の文庫版が3月末に上・中・下の3巻同時発売されることになりました(新潮社HPこちら)。

 既存本の文庫化と思いきや、高村薫に限って言えば、今までも文庫化にあたり、全面改訂することはファン間では周知の事実(タイトルまでもが見直された前例も(こちら)。本作も単行本出版から、はや10数年。間違いなく全面的に改訂された作品かと。

 発売日が待ち遠しいです(3月27日らしいです)。

2010年3月11日木曜日

「専門26業務派遣適正化プラン」に基づく行政指導例について

 先日、拙ブログにおいて「「専門26業務派遣適正化プラン」に基づく監督指導への対応」を取り上げました(こちら)が、早速、労働局が専門26業務派遣に対する指導監督を行った例がプレス発表されています。

 東京労働局HP「労働者派遣事業改善命令について」(こちら)。

 朝日新聞においても同指導例が報道されていました(こちら asahi.com 2010.03.01)。同報にある「事務用機器操作」で派遣しながら「来客受付」「記念品配布」など全く異なる一般業務を行わせていたケースは従来からも指導されており、ユーザー企業から見ても認められない派遣受け入れであることは明らかです。

 これについては派遣先企業としても、派遣契約内容を確認した上で、専門26業務派遣で派遣されているか否か、派遣されている場合に実際の受け入れ業務が上記ケースのように全く異なるものではないか、早急に確認すべきものと思われます。

 東京局プレス発表を見ていて、気がかりであるのは、スタッフサービスに対する指導事例の中の5です(こちら)。
 同指導事案は事務用機器操作での派遣は間違いないものの、班長業務、発送業務などの付随的業務を行わせたにもかかわらず、その就業時間管理を行わなかった点について指導を行っているものです。

 専門26業務派遣においても、付随的業務に従事してもらうことは派遣先において広く行われていますが、この就業時間管理をどこまで行っているかについては、心許ないユーザー企業も多いように思われます。この点について、踏み込んだ指導を行い、かつこれをプレス発表している点は実務的に大変、気になるところです。

 今後の行政動向を派遣元はもちろん、派遣先も注視すべきでしょう。
 

 

2010年3月3日水曜日

「労働基準法違反です」(プロ野球選手談)

 
 T-岡田「労働基準法違反です」(デイリースポーツ(こちら))。

 「労働基準法違反」という言葉を若手のプロ野球選手がさらりと使うということ。それだけ「労基法」が社会的認知されるようになったということでしょうか。

 関西のオリックスファンが同コメントをどのように酒の肴にされるのか、私鉄ガード下の飲み屋で聞いてみたい気がいたします(笑)。何はともあれ、けがをしては、元も子もない世界ではありますので、そこは気をつけていただきたいです。

2010年3月1日月曜日

権丈先生コラム(東洋経済)の凄み

 今朝、週刊東洋経済最新号(2010.3.6)をぱらぱらめくっておりましたら、慶応大の権丈善一先生のコラム「経済を見る眼「市場に挑む社会の勝算とは?」が目に飛び込んできました。

 権丈先生ブログにも早速、冒頭部分が紹介されております(こちら)。1ページのコラムですが、非常に読み応えがあり、かつ歴史研究の重要性とその凄みが感じられます。必読ですね。

2010年2月26日金曜日

三鷹労働法セミナー第3回「パワハラ防止のための就業規則と実務対応」のご案内

 本年1月から三鷹で労働法セミナーを毎月1回の頻度で開催しております。来月3月は予定どおり、「パワハラ防止のための就業規則と実務対応」について解説するセミナーを開催する予定としております(ご案内はこちら)。

 昨年からクオーレ・シーキューブ様主催の「パワハラ研究会」、「ハラスメント問題 ケース検討分科会」(こちら)でパワハラ問題について継続的に研究させて頂いておりますが、勉強すればするほど、この問題への対応は、事前準備と各種規定の整備が必要不可欠と感じています。

 同セミナーでは、規定例含めて企業の実務対応策について解説する予定としておりますので、ご利用いただければ幸いです(お申し込みはこちらから その際はセミナー番号「3」と記入頂きますようお願いいたします)。

2010年2月17日水曜日

派遣法改正案ー社民党等の修正案に応じずー

 平成22年度通常国会に派遣法改正案が提出される予定ですが、同案について社民党等が一部修正を求めていました。昨日ようやく原案通りで法案要綱を策定する方向で決したようです(こちら)。

 「常用雇用」の定義と施行期日が問題となっておりましたが、改正法要綱案は原案通りで取りまとめられることになります。

 長妻大臣が報道陣に「原案がそのままでも運用上でいろいろ検討を加えるかなどの議論がある」とコメントしたようですが、上記2点は法文を変更しない中で、「運用」で対応するような性質の事項とは思えません。大臣の真意がどこにあるのか(とりあえず仰られただけ?)、つかみかねる気はいたします。いずれにしましても、今後の法案要綱、閣議決定を経た後の国会論戦を待ちたいと思います。

 ところで同法案は閣議決定前に内閣法制局のリーガルチェックを受けるのでしょうか?。閣法提出であれば、当然受けるはずですが、この場合、みなし雇用制度案等について何らかの指摘がなされる可能性がないか。個人的には与党内修正よりも、そちらが気になります。

2010年2月10日水曜日

「専門26業務派遣適正化プラン」に基づく監督指導強化への対応

 昨日(2月9日)の日経新聞に「厚労省、違法派遣の防止を要請へ 関係団体に」が掲載されていました(こちら)。

 大手企業を見渡してみますと、事務系職場に少なからず派遣社員が働いておられますが、その多くが「事務用機器操作」あるいは「ファイリング」の専門26業務で派遣されています。同26業務に該当する限り、派遣期間制限(原則1年、労使協定で3年)を受けないものですが、事務系派遣社員の就労実態を見ますと、本当に「事務用機器操作」「ファイリング」業務であるのか、首をかしげるケースも少なからずあったように思われます。

 ここ数年、労働局需給調整事業部は同専門業務と称する事務系派遣についても、「実態」を調査の上、指導を行うケースが増えてきていましたが、まだまだ派遣元・先ともに危機感が希薄であった感があります。

 そのような現場をもはや放置できない可能性が出てきました。これが上記記事で紹介されております新通達の発出です。昨日の厚労省HPにも、同通達がUPされています(こちら)。
 同記事を見ますと、主に派遣元に対する指導強化と受け取れるところですが、上記HPの別紙4にある平成22年2月8日付け職発0208第1号「専門26業務派遣適正化プランの実施について」を見ますと、以下の記述が見られます。

 「専門26業務での労働者派遣の実績の多い派遣元事業主を対象に、集中的に、・・特に事務関連業務での派遣について・・・専門26業務と称した違法派遣の是正に向けて厳正な指導監督を行うこと」。
「この場合、必ず当該派遣元事業主から当該専門26業務での労働者派遣の役務の提供を受けている派遣先についても併せて指導監督を行い、法違反があった場合には是正指導を行うこと」

 ユーザー企業側も同通達に基づく監督指導については、全く他人事ではありません。同HPの別紙1別添に掲載されている「一般事務と混同されやすい事務用機器操作とファイリングについての留意事項」を基に事務系派遣社員の業務内容とその実態を再点検しておく要があるものです。

 同通達によれば、労働局需給調整事業部は平成22年3月~4月に2ヶ月間に集中的な指導監督を実施するとしています。本当に急な話ではありますが、今月から来月に向けて、人事労務担当部門の緊急課題となります。私もすでに何件か、派遣・請負に係る監査のご依頼を大手企業より頂いておりましたが、その重要性が更に増した感があります。その後の対応も含めて、知恵を絞っていかなければなりません。

2010年2月5日金曜日

朝青龍「退職」と労働法ーニシムラ事件からの示唆

 「朝青龍、突然の引退劇 解雇と迫られ、観念」(スポニチアネックス 10.2.5)の報、私もびっくりいたしました。小沢幹事長の問題がどこかに吹き飛んでしまった感があるほどです。

 同記事を読んでおりましたら、人事労務の観点から見ても大変、重要な問題である「退職」「懲戒解雇」の問題が潜在していることが見てとれます。

 外部機関である審議会が「引退勧告相当」との意見を理事会に示し、これを基に理事会の審議において「解雇」相当との意見が有力となる中で、九重親方がその意を伝え、暗に引退(退職)を促したところ、これに朝青龍側が応じたと報じられています(本当かどうか、私に確認のすべはございませんが・・・)。

 このように懲戒解雇相当と経営陣が判断した事案について、本人に退職勧奨を行うことは、相撲協会のみならず、企業においてもよく見られる対応と思われます。現に就業規則の懲戒処分事由の中に「諭旨解雇」なる処分が含まれていることが通例ですが、これなどまさに同対応を明文化したものといえます。

 しかしながら如何なる場合も、先のような対応が可能かといえば、さにあらず。ニシムラ事件(大阪地決昭和61.10.17 労判486-83)という興味深い下級審裁判例があります。

 事案の概要・判旨はさしあたり全基連データベースのこちらをご参照ください(こちら)。同判決において、「使用者の右懲戒権の講師や告訴自体が権利の濫用と評すべき場合に、懲戒解雇処分や告訴のあり得べきことを告知し、そうなった場合の不利益を説いて同人から退職届を提出させることは、労働者を畏怖させるに足りる脅迫行為・・・これによってなした労働者の退職の意思表示は瑕疵あるものとして取り消し得る」と判示した点が重要です。

 つまり懲戒解雇に該当しないような事案について、使用者側が「懲戒解雇になるぞ、処分前であれば退職届を受領し退職金を支払ってやる」とする対応は、後日、脅迫を理由に退職自体を取消しうるということです。

 それでは朝青龍は「懲戒解雇」相当であったのか。昨日の記者会見を見る限り、当人はマスコミ報道と事実が違うとの主張を繰り返していました。知人男性に対する暴行が仮に事実無根(酔っていたので、何かの拍子に手が当たってしまったなど)であれば、ニシムラ事件と同様の問題状況といえるのかもしれませんね。
 

2010年2月4日木曜日

「改正労働基準法・育児介護休業法の対応業務チェックリスト」(日本法令)来週出版

 いよいよ来週(2月12日)、書店に新著「改正労基法・育介法の対応業務チェックリスト」(日本法令、峰隆之弁護士と共著)が並ぶ予定です。

 今回、大変ご尽力頂いております編集担当T様から頂いた表紙レイアウト案が上図になります。現物を来週早々お送りいただけるとの事で今から楽しみにしております。

 書店でご覧いただきましたら、ぜひお買い求めいただければ幸いです。

 なお同書はB5判でページ数は80p、価格は800円(税込)を予定しております。

2010年2月3日水曜日

確定申告のことなど

 開業からずっ~~~と気にはなっておりましたが、いよいよ「確定申告」が近づいてきました。ここ数日、いよいよやるしかあるめぇと覚悟を決めて、その準備に取り組んでおりました。

 初心者の私にとって、今回バイブルとなったのが、はにわきみこ他著「日本一かんたん! フリーのための確定申告ガイド」(情報センター出版局 アマゾンはこちら)。この本と「弥生の青色申告」ソフトのお陰で、一筋の光明が見えてきた気がいたします(笑)。本当によく作り込まれている本です。本の作り方を見るだけでも、大変参考になりました。

 何とか無事に申告を終えたいものです。

2010年1月29日金曜日

労働法学研究会例会企画の思い出

 昨日、労働法学研究会例会に於いて「35協定をめぐる法律実務」について、講演いたしました。企業実務担当者の方が中心に、160名近くのお申し込みを頂き、大変盛況でした。誠にありがとうございます。

同例会については講師のほか、2006年9月から足かけ3年5ヶ月間ほどセミナー企画を担当してきましたが、残り4月予定分の例会2本をもって、企画担当から退くこととなりました(昨年5月からは業務委託契約で同企画業務を継続。本年4月企画分をもって契約終了との事)。

振り返ると3年5ヶ月もの間、毎月毎月、セミナー企画2本~3本を立て、講師の先生と打ち合わせの上、セミナー企画を詰めていく作業を行っていたことになります。例会本数でいえば2405回から2515回までの延べ100本以上(その他関西例会年間16回×3、有料セミナー等)を担当したことになりますが、我ながらよくこれだけ企画を作り続けることができたと思います(笑)。

例会2405回~2410回まで(こちら
 同 2411回~2443回まで(こちら
 同 2444回~2474回まで(こちら
 同 2475回~2507回まで(こちら)
 同 2508回~2515回まで(こちら

 これもセミナー講師を快く引き受けていただいた講師の先生方のお陰です。自らセミナー講師を務めるようになった後、改めて先生方のご尽力に気がつき、感謝申し上げる次第です。

 また何よりも、同例会にお越しいただいた参加者の方々には、並々ならぬご支援を頂きました。同例会は毎回10分~30分、必ず質疑応答がありますが、毎回毎回、活発な質疑等を頂き、企画者として、いつも嬉しい思いをしておりました。また思い起こせば、携わりだした当初は閑散としていた会場も年を追うごとに参加者の方が着実に増えていく様は、担当者として心強いものでした。


 今後の労働法学研究会例会の更なる発展を祈念しております。

 私自身も今後、何らかの形で、セミナー企画、司会進行など企画的な仕事に携われるチャンスを得られるよう、精進してまいる所存です。

2010年1月28日木曜日

平成22年通常国会提出法案の動向2(派遣法)

 先日、改正雇用保険法案が通常国会に提出されました(閣法)。法律案要綱などはこちらにUPされています。

 厚労省内に新たに設置された政策会議資料において、本通常国会に提出する法案が一覧で示されていますが、これを見ると、改正雇用保険法のほか、改正派遣法案、改正確定拠出年金法案などの提出を予定しているようです(こちら)。

 派遣法については、前回ご紹介のとおり、昨年末に審議会報告書(こちら)が示され、現在、同答申を基に厚労省が法案要綱案策定の準備に着手しているところです(同報告書についての解説はこちら)。

 登録型派遣および製造業務派遣の原則禁止が実務的に大変注目されている訳ですが、同改正法案には更に実務的に大きな影響を与える可能性がある改正案が含まれています。
 それは「違法派遣の場合における直接雇用の促進」です。同報告書では、以下のような記述が見られます。
「違法派遣の場合、・・派遣先が、以下の違法派遣について違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合には、違法な状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して、当該派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなす旨の規定を設けることが適当」とした上で、次の事項をみなし雇用の対象とします。

④いわゆる偽装請負(労働者派遣法の義務を免れることを目的として、労働者派遣契約を締結せずに派遣労働者を受け入れること)の場合

 この④がみなし雇用に含まれる結果、改正派遣法案は派遣のみならず、いわば「グレーゾーンの請負・委任契約」に対する規制を強化する方向で舵を切ることになります。
 確かに請負・委任活用が、派遣形態のものときちんと区別しておけば、同改正法案は請負・委任に対する規制強化につながる訳ではないのですが、実態を見ると、今なお派遣請負区分基準に照らし、現場で悩むケースが多いように思われます。
 本報告書を注意深く読むと、派遣先の「違法性の認識」をみなし雇用の前提としているため、偽装請負即「みなし雇用」にはならないと思われますが、この「違法であることを知りながら」の判断基準によっては、限りなくそれに近い運用がなされる可能性もあります(緩やかな解釈)。今後の国会審議等、さらには法案が制定された場合の施行通達等を注視する要があるものです。 

2010年1月26日火曜日

2月三鷹セミナーのご案内(改正育介法)

 本年1月から拙事務所向かいの三鷹産業プラザ会議室で、毎月セミナーを開催することとしました(年間予定はこちら)。来月2月については、2月18日(木)午後6時~8時から同会場にて「改正育児介護休業法への実務対応」をテーマにお話をする予定としております(こちら)。

 改正育児介護休業法は企業の実務担当者様もさほど気にしていない印象がありますが、実際に見ていくと実務対応上、留意すべき課題がいくつも浮かび上がってきます。同セミナーでは、その問題の確認と実務対応策の解説を予定しております。顧問先以外もご利用いただけますので、ご活用いただければ幸いです。なおホームページからもお申し込みいただけます(こちら)。

2010年1月20日水曜日

里帰りのことなど(改正育介法)

先週末、久しぶりに北海道大学社会法研究会に里帰りし報告をさせていただきました。

「改正育児介護休業法施行に伴う企業対応をめぐる法的課題」というテーマで、1時間ほど報告をさせていただいた次第ですが、やはり「生まれ育った」研究会はいいものです。

 道幸先生の的確なご指導、院生・会員同士のやりとりが本当に自由闊達で、ここで自分が育てられたことを実感させられました。どの程度、育っているかは疑問なしとしませんが・・(笑)。

 同日の議論で焦点となったのが、短時間勤務措置義務化の「権利性」、同制度の適用除外対象者を労使協定で定めることの可否、短時間勤務措置の希望者に対する配転の可否および復職問題でした。研究会の議論を通じて、大分問題が見えてきた気がいたします。


 
雪祭りの準備が始まりつつある大通公園の雪景色です。

2010年1月9日土曜日

来週の研究会報告(国・福岡東労基署長事件)についての頭の整理

 来週水曜日に研究会で報告を予定している「国・福岡東労基署長事件」(労判964-35)について頭を悩ませております。

 事案としては、ガソリンスタンドで現業職に従事していた中途入社社員が本人(父親?)の希望どおり、金融部門に配転されたのですが、共済等の新規営業開拓がうまくできない等から、配転2ヶ月未満で精神疾患に罹患、その後2ヶ月後に自殺し、その遺族が国に対して、労災遺族補償年金等の支給を求め提訴されたものです。国側は「同種労働者」から見て、業務による心理的負荷は業務上とするほど高くないと判断し、不支給決定処分としていましたが、福岡地裁がこの判断を覆しました(控訴も棄却され、地裁判断確定(上告せず))。

 いわゆる「過労自殺」の労災認定に係る法的紛争については、従来「長時間労働」が問題とされてきました。長時間労働に慢性的に従事してはいるが、精神疾患発症の6ヶ月前までに目立つ「出来事」がない事案について、労基署は「出来事」の心理的負荷が低いことを理由に不支給決定処分としてきたものです。しかし、これについてはT自動車事件控訴審等において、一定の判断が示される(不支給決定処分取消)とともに、判断指針が変更され、運用(出来事とこれに対する修正、出来事後の変化等に長時間労働の実態を加味することにより、評価を上げること可)によって十分に対応が可能となりました。現に近時の審査事案を見ると、審査会レベルで支給決定に転じる例が多数見られます(こちら)。

 これに対して、今回検討している事案は、長時間労働はさほど問題とされておらず(ただし所定時間終了後、本人が顧客回りを午後9時頃までしていた可能性はあり、この点地裁は一定程度評価)、焦点となった心理的負荷が、配転と年間目標、そして会社側の支援です。

 同地裁は、まず本件被災労働者について、もともと営業職の適性に欠けると断じた上で(この点の判断は、実務担当者から見て相当違和感を覚える気が・・)、本人が同意するものの適性に欠く金融業務に配転させたことが、まず業務上の心理的負荷が相当重いとするものです。また年間目標についても、同社では新人以外は同じ営業目標を掲げており、月額給与にもその達成度合いを連動させていませんが、適性に欠く社員に対する目標としては高すぎるとし、その負荷が極めて高かったとします。最後に会社側の支援について、一定の研修・OJTの実施を認めるものの、適性に欠く社員に対する支援としては不十分であるとし、以上からその業務による心理的負荷が極めて大と結論づけたものです。

 心理的負荷が過重か否かを判別するにあたり、「本人」にとって大であれば認めるのか、あるいは「平均的労働者」から見て大であれば認めるのか二つの考え方がありえます。これについて、厚労省は後者を採用しており、本地裁も後者の立場を取り、前者を取らない旨明言しています。

 では、この「平均的労働者」をどのように設定するのか。以前からこの点について争われてきましたが、本地裁判決は従来の裁判例に照らし、どのように位置づけられるのか。またその射程は如何なるものか。そして同判断を前提とすることにより、精神疾患の労災認定実務、企業の労務管理にどのような影響があるのか。

 ここが報告において、最大のポイントになるのではないかとうっすら考えておるところです。これをまとめるのが大変に一苦労ではありますが、労災法研究そして実務的にも大変、重要な問題と思われるものであり、もう少し突っ込んで勉強してみたいと思います。中間報告まで。

2010年1月8日金曜日

新年早々のお仕事(単行本出版の予定)について

 今年の年末年始は単行本ゲラ戻しのための作業等にせっせと取り組んでおりました。

 同単行本は、峰隆之弁護士との共著「改正労基法・育児介護休業法対応業務チェックリスト(仮題)」(2010.2予定、(株)日本法令)です。先日も峰先生とY町で充実した打ち合わせが行われ、その後、トルコの名酒「ラク」の杯が何度も空いた次第(笑)。
 日本法令の編集Tさんの素晴らしい仕事のお陰で、良い本に仕上がりそうとの思いを強めているところでございます。同書につきましては、2月初旬出版に向けて鋭意作業を進めております。

 労使の実務担当者から見て、両改正法対応にあたり最低限、押さえておくべき事項と規定・書式例等を簡潔に取りまとめた書籍(B5版)を目指しており、お値段も低廉な価格帯となりそうです。無事、日の目をみましたら、ぜひともお買い求めいただければ幸いです。

2010年1月6日水曜日

債権の消滅時効統一の動き(法制審)

 昨日、共同通信NEWSを何気なく見ておりましたら、目が点になりました。
「法制審、債権の消滅時効統一へ 民法改正で短期特例廃止」(こちら)。
 同報道において紹介されているとおり、現行民法では、会社員の給料については短期消滅時効1年と定められています。

 これを修正するのが、労基法115条であり、賃金その他請求権は2年、退職手当は5年という特別の短期消滅時効を定めているものです。

 これが先のニュースによれば、民法の短期消滅時効を3、4、5年に統一する方向で法制審が見直しに入ったとの事。同改正が成立すれば、労基法で定める短期消滅時効(特に賃金その他請求権)も見直しする必要があるやもしれません。

 賃金その他請求権の中には、労基法37条が定める時間外労働に対する割増賃金も含まれています。従来はサービス残業に対する遡及是正は過去2年までとされてきましたが、同改正の動向によっては、3年以上となる可能性もあります。

 民法(債権法)改正は実のところ、労働法、人事労務と密接につながっています。今後の動向を注視したいと思います。

平成22年通常国会提出法案の動向1(雇用保険法)

 昨年末、厚生労働省労働政策審議会および研究会は立て続けに報告書・建議を取りまとめています。これらの報告書・建議を基に、厚労省は法律要綱案を策定し、審議会での議論を経て、最終的に内閣が通常国会に閣法として提出することとなります。

 人事労務関係で重要と思われるのが、次の報告書、建議です。
雇用保険法関係(こちら
派遣法関係(こちら
労災関係(こちら) ※研究会報告書

 今回は改正雇用保険法に係る報告書を取り上げます。雇用保険法については、被保険者の適用範囲の更なる拡大(週所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込み)および雇用保険料未納の事業場に勤務していた被保険者に対する救済措置(2年を超えて保険料納付を可能とし、遡及期間を拡大等)が、実務的に一定の対応を求める改正点になりそうです(詳細については、すでにこちらで紹介。なお未納事業場に対する新たな制裁措置については、同報告書で特に触れられず。今後の運用動向を注視する要あり)。

 そのほか、同報告書を基にした改正法案が成立した場合、雇用保険実務の見直しが求められそうであるのが、雇用保険被保険者証の管理です。同報告書を見ると、雇用保険未加入者が生じる背景として、同被保険者証が従業員に対して適切に交付されていないことを指摘しています。その上で使用者に対して同証の交付を確実に履行させることとともに、従業員本人が保有しているか自ら確認することを促すよう、運用手続きについて必要な改善を図るべきとします。
 企業における現状の取扱いを見ると、雇用保険被保険者証を従業員本人に逐次交付せず、会社保管とし、退職手続きなど必要となる際に本人に交付する取扱いとしてきた例も多いように思われます。その理由を尋ねてみると、労働者の紛失防止など、従業員の便宜として同取扱いを行ってきた企業が大半と思われますが、先の報告書に基づき、法・政省令、施行通達等が改正された場合、運用の見直しを行う必要があります。もちろん現状においても、会社保管はあくまで「本人同意」が大前提であり、従業員本人が被保険者証の返還を求めれば、これに応じなければならないのは当然です。

 その他、実務的に注目されるのが、被保険者資格取得手続きの際に、同取得届に添付する書類の簡素化です。今回の報告書では、被保険者の適用基準に係る雇用見込み期間を6ヶ月から31日に短縮することから(週20時間以上は変わらず)、パート比率が高い企業によっては、雇用保険被保険者取得手続事務が急増する可能性もあります。このような事務負担に配慮して、今回の報告書では、雇用保険の被保険者資格届において必要とされる添付書類を簡素化するとしています。現行では、添付書類について、雇用保険被保険者証、労働者名簿、出勤簿(タイムカード等)および契約書もしくは雇用通知書(週20時間~30時間未満(詳細についてはこちら))とされていますが、改正法が成立すれば、このうちのいずれかの添付書類は簡素化されることとなります。詳細については、改正法案成立を待つ必要があります。

2010年1月5日火曜日

明けましておめでとうございます

 新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 本年は非常に先行き不透明感が漂うところではありますが、非正規雇用問題(派遣、有期雇用)、業務請負、個人請負問題が例年以上に注目される年になると考えています。
 これらの動向も見据えつつ、本年度も顧問先ならびにお客様に価値あるサービスを提供させていただけるよう努めてまいります。よろしくお願いいたします。


 井の頭公園の眺望です。