2011年3月31日木曜日

大震災と労災保険ー厚労省Q&A、精神障害の労災認定をめぐる課題などー

 時事通信が「勤務中の震災被害、労災認定へ 厚労省方針」と報じております(こちら

 東日本大地震で事業所や作業場が倒壊、焼失したり、大津波で流失したりして勤務中に被害に遭った人について、厚生労働省が労災認定する方針を決めたことが31日、分かった。阪神大震災の時も同様の措置を取った。

 三陸地方は明治三陸地震(1896年)など、何度も津波被害を受けているため、津波による被害を「危険な環境下で仕事をしていた結果」として、災害と業務の因果関係を認めた。大地震の発生が午後2時46分ごろと平日の昼間で勤務中の人が多かったため、対象者はかなりの数に上るとみられる。

 厚労省によると、30日までに2件の労災申請があった。岩手、宮城、福島の各労働局は避難所などで労災に関する出張相談をする予定。厚労省は「事業主や医療機関の証明書がなくても受理する。近くの労働基準監督署に問い合わせを」と呼び掛けている。

 労災と認められるのは事業所、作業場の倒壊や水没、焼失で被災した場合や、避難中や救助中、通勤中に巻き込まれた場合。休憩時間中も適用される。認定されれば遺族年金や一時金、葬祭料のほか、けがの療養費や休業補償が支払われる。

 行方不明者については本来、不明になったときから1年後に死亡とみなされた場合に請求ができるが、今回は特例として1年以内でも認定することを検討している。

 阪神大震災は発生から1年で472人が労災申請し、申請者としての要件を満たさなかった2人を除く470人(うち通勤中86人)が認定された。発生時間が午前5時46分と多くの人が勤務時間前の早朝だったため、被災者数に比べ申請者は少なかった。


 厚労省はすでに震災関連の労災事務取扱いについて通達を発出しており(こちら)、さらに「震災と労災保険」Q&Aが新たにHP上でUPされています(こちら)。時事通信の記事はこれらを確認したものと思われますが、厚労省Q&Aのとりわけ以下回答が重要です。

Q1-1 仕事中に地震や津波に遭遇して、ケガをしたのですが、労災保険が適用されますか?

(A)
仕事中に地震や津波に遭い、ケガをされた(死亡された)場合には、通常、業務災害として労災保険給付を受けることができます。これは、地震によって建物が倒壊したり、津波にのみ込まれるという危険な環境下で仕事をしていたと認められるからです。「通常」としていますのは、仕事以外の私的な行為をしていた場合を除くためです。


 従前の通達をみると(昭和49年通達、平成7年通達)、地震による災害に係る業務上外の判断は原則として天災地変によるものであるため業務外ではあるが、「被災労働者が作業方法、作業環境、事業場施設の状況等からみて危険環境下にあることにより、被災したものと認められる場合」は業務に内在する危険が現実化したものであり、業務上の災害として取り扱うとします。従って、過去の通達を前提とすると、被災した際の作業方法、環境・施設等が「危険環境下」か否かが個別に問題となりえますが、先の時事通信記事によれば、特に津波災害について「三陸地方は明治三陸地震(1896年)など、何度も津波被害を受けているため、津波による被害を危険な環境下で仕事をしていた結果と捉えるとの事。同判断によって、就業・避難中さらには通勤中に被災地で津波に遭遇し、負傷等された場合は業務上とすることが明確になったものです(避難、通勤中の考え方についても先のQ&A参照)。同行政解釈を見ると、社会全体のリスクを労災保険で引き受けるという「政策的判断」がなされたと理解しえなくもないと感じるところです。

 同通達・Q&Aによって、大震災に伴う労働保険の取り扱いが相当程度明確にはなりましたが、様々な課題が山積しています。例えば同震災に遭遇した従業員(特に自らは負傷等していない場合)が精神疾患を発症させた場合、これが業務上となるのでしょうか。また海沿いの地域で就労・避難・帰宅中、津波被害を目撃した場合と、内陸部において震度6クラスの地震に遭遇(本人、周辺の人的被害なし)した場合で判断が異なりうるのかどうか。神戸大震災の際には大きな問題となりませんでしたが、精神障害の労災認定についても、これから申請事案の増加が予想されており、検討が必要です。
 

2011年3月29日火曜日

雇用調整助成金と支店・営業所休業等との関係(東北関東大震災の特例)

 雇用調整助成金は、経済上の理由等から企業の経営状態が急速に悪化した際、雇用への影響を極力回避するべく設けられた国の大きなセーフティネットです(詳細はこちら)。

 通常、同制度を活用しようとする企業は、3ヶ月間の売り上げ等の低迷を受けて、あらかじめ休業等に係る計画書・労使協定等を用意し、ハローワークに対し事前提出することが必要です。雇用調整助成金は提出された後の休業等に対して、一定の助成がなされるものであり、計画書提出前に遡った助成はされません(原則)。しかしながら今回の東北・関東大震災は、被災地において突然に予期しない被害をもたらしており、あらかじめ同計画書等を作成の上、職安に提出することは不可能です。

 厚労省はその点を鑑みたのか、以下の事業所については、雇用調整助成金の申請に際し、計画書等の事後提出を認める通達を発出しています(こちら)。(制度概要はこちら、Q&Aはこちら

特例適用の対象事業主
 東北地方太平洋沖地震等被災地域事業主 
  青森県、岩手
県、宮城県、福島県、茨城県のうち災害救助法の適用を受けた地域に所在する事業所の事業主であって、以下のいずれかに 該当するもの (※災害救助法の適用対象地域についてはこちら なお上記5県以外は本特例の適用に含まれていない点に注意)

 イ 生産指標の最近1ヶ月間の値がその直前の1ヶ月又は前年同期に比べ5パーセント減少している事業所の事業主
 ロ 生産指標の震災後1ヶ月間の値がその直前の1ヶ月又は前年同期に比べ5パーセント以上減少する見込みである事業所の事業主
 ※平成23年6月16日まで また本助成金は経済上の理由により事業活動が縮小された場合が対象とされる点に注意(Q2参照(こちら))

 同事業主については平成23年6月16日までの間に提出された場合、平成23年3月11日(震災当日)に遡って「事前に届け出られたものして取り扱って差し支えない」とするものです。また前述のイ、ロのとおり、支給要件についても生産指標の確認期間を3ヶ月から1ヶ月に短縮するとともに、平成23年6月16日までの間は生産指標の値が減少する見込みでも受け付けるなどの緩和がなされています。

 それでは本社が東京等にあり、支店・事業所が上記被災地域に所在する場合はどのように取り扱われるのでしょうか。多くの企業では同支店等の労働保険手続きについては、その便宜上、本社事業場等の「継続事業の一括」として取扱っています。

 前述の通達では「地域に所在する事業所の事業主」としていますので、継続事業の一括であろうとも、個々の事業場・支店が指定被災地に所在する限りにおいて、同特例の適用対象と読めなくもありません。

 これに対して先の通達は特段、答えるものではありませんが、昨日(3月28日)、東京労働局のハローワーク助成金事務センターに電話で照会を行ったところ、概略以下の回答がなされています(要旨)。

・継続事業の一括の場合、被災地にある事業所は本社等の事業所として取り扱われるため、特例適用は原則として不可
・同取り扱いについて、批判があることは承知している。本省もそれを踏まえて以下の例外を認めることにしている
・継続事業の一括であっても、被災地に所在する事業所における売り上げ等が全社の3分の1を占める(※以上か超か未確認)場合は例外として特例適用を認めることとした
・特例適用対象についての要望は本省に適宜伝えている

 担当者によって同回答にブレがみられ、労働局自体も混乱している印象を受けています。いずれにしても同回答を前提とすると、被災地において甚大な被害を受けた支店、営業所等において、その雇用を維持し、休業手当を支給していたとしても、3月11日に遡及して雇用調整助成金を受けることはできないという事になります(これからの申請・助成金給付(原則どおり)は要件を満たせば当然可)。被災地にある支店、営業所の苦境と雇用維持への尽力を伺っていると、特例適用に係る取り扱いが柔軟かつ適切に運用できないのか思うところです。

追記
 政府は「被災者等就労支援・雇用創出推進会議」を立ち上げ、被災者雇用対策について検討を進めるとの事(asahi.comはこちら 、また政府の同会議資料はこちら

 「厚労省が中心となり、近く編成する補正予算案に盛り込む雇用対策や法改正などを検討する。・・・助成金の要件緩和や手続きの簡略化など、予算を必要とせず緊急的にできることについては来週中にまとめる方針だ。」

 来週以降の動向に注目いたします。

2011年3月28日月曜日

被災地における未払賃金立替払制度の申請簡略化

 東北関東大震災に伴う厚労省の対応の中に「未払賃金立替払制度の申請簡略化」が含まれています(こちら)。地味ではありますが、実務的に重要性が高いと思われるため参考までにご紹介を。

 被災地に本拠をおく事業場においては、震災によって事業活動が停止し、今月分の給料支払いに困難をきたすところも少なくないと思われます。国は震災前から、未払賃金立替払制度を設け、賃金未払いの被害にあった従業員に対し、給料を一部立替払いする制度が設けられています(所掌は主に労基署 詳細はこちら)が、同制度は「会社が事実上倒産し、賃金支払い能力がないこと」の認定と、各労働者の未払い賃金額等の確認に際し、資料収集・調査が必要です。これを今回の被災地にそのままあてはめてしまうと、各種帳簿等含め関係書類が散逸している事業場等で勤務する従業員に対し、救済が得られない結果を招きます。

 そこで新たに示された通達では、賃確法施行規則9条3項但し書き(認定)、同14条2項但し書き(確認)を活用し、以下の事業場については申請簡略化を図るよう示達しています。
 地震に伴い、災害扶助法2条の規定に基づきその適用の対象とされた地域(※帰宅困難者対応として適用された東京都除く)に本社機能を有する事業場が所在している中小企業事業主であって、地震による建物の倒壊等の直接的な被害(以下「地震被害」という)により事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ、賃金支払い能力がないものとすること。

 同通達によれば、罹災証明書などをもって、極力現地の実情に沿った認定・確認業務を進めるとの事です。詳細については、各労働基準監督署にご相談ください(被災地における監督署の開庁・相談窓口状況はこちら

 

2011年3月25日金曜日

被災地において賃金台帳等が散逸した場合、失業給付手続きはどうすれば良い?(神戸大震災時の商工会Q&Aから)

 先日から神戸大震災時の労働・社会保険関係の文献等を収集しておりますが、神戸大付属図書館の震災文庫に貴重なQ&Aが残されていました。

『事業主の方へ 被災に伴うパートタイム労働者雇用Q&A』 神戸商工会議所 平成7年3月 P1~P33(こちら

 当時と現在では、雇用調整助成金などが相当に様変わりしていますので、同Q&Aをみる際にはその点の注意が必要ではありますが、今でも参考になるQ&Aが多く盛り込まれています。

特に以下のQ&Aは被災地において、とても役に立つ情報だと思いました。

Q7

 当社は、雇用保険に未加入です。一般社員やパート社員から失業給付の手続きを依頼されました。どのようにすればよろしいでしょうか。また今回の震災で賃金台帳も出勤簿もなくなってしまった場合はどうでしょうか?

A

(1) 雇用保険被保険者の種類
 雇用保険は前述の通り、1人でも他人を雇うことになれば、強制適用ですので加入していただくこととなります。週30時間以上勤務する一般被保険者と週20時間以上30時間未満勤務する短時間被保険者の2種類があります。 前者は6か月以上継続勤務すれば雇用保険の基本手当が受給でき、後者は1年以上勤務すれば同じく受給できます。

(2) 雇用保険加入等の手続
 会社として早急に雇用保険の加入手続きをすることが必要です。時効の関係で2年以上遡及できませんが、今なら平成5年4月1日もしくは平成6年4月1日にさかのぼり保険料を収めることによって、各社員の資格取得に基づき受給資格ができます。雇い入れ日と社員の住所等を記入した労働者名簿を作成し、過去からの賃金台帳を整えて、管轄の労働基準監督署にて保険関係成立届と労働保険申告書を提出し、その後所轄の公共職業安定所で事業所設置届と被保険者資格取得居を提出してください。

(3) 従業員への離職票作成
 事業廃止・休止等で事業の継続ができなくなった場合や事業の縮小が余儀なくなり社員を解雇した場合等、雇用保険を受給する権利が当然社員にはありますので、退職の日にさかのぼって社員それぞれに離職票を作成し、所轄の公共職業安定所へ届出をし、発行された離職票を各社員に手渡してあげてください。

(4) 地震で賃金台帳等がない場合
 地震で賃金台帳も出勤簿もなくなってしまい、正確な賃金支払額が不明の時は、社会保険の標準報酬月額か、もしくは源泉徴収の給与支払報告書を持参して、公共職業安定所の窓口で相談してください。以上の証明する書面もなく何もない場合でも、事業主として社員の今後を考え、急ぎ手続きを行えるよう公共職業安定所で相談をしてください。



 神戸大震災の中、2〜3ヶ月足らずで懇切丁寧な同冊子をまとめられた神戸商工会議所専門相談員(社会保険労務士)の岡西英二郎氏、富岡忠彦氏、中川秀和氏に敬意を表するものです。

2011年3月22日火曜日

計画停電に伴う休業に関する大臣・副大臣会見

 今朝の厚労省HPに細川大臣党の会見内容がUPされています(こちら)が、先日来、拙ブログで取り上げているパート等に対する休業期間中の所得保障等に関し、以下のとおり注目すべき答弁がみられます。

(記者)
 労働関係のご質問なのですが、災害で労働基準法26条適用が、天災ということで企業さんの計画停電や被災に伴う企業の補償で、賃金の6割適用が外されましたが、それに伴って期間工や派遣社員の方が休業補償の適用を受けられず、そのまま無給状態になってしまう状態が発生しているのですが、これについて何か手当や対策を講じるようなお考えはありますでしょうか。

(大臣)
 計画的停電が長期化するか私どもも予測がつきませんが、そういう問題についてはそれで検討していきたいと思います。今のところ明確なお答えは差し引かえさせていただきます。

(副大臣)
 雇用調整助成金で対応するようなことは言っておりますので、いろいろなケースについてきちんと対応出来るように検討して、また総合的にお伝えしたいと思います。

(大臣)
 雇用調整助成金の方は休業した場合には、これはこれで対応出来ると思いますが、いろいろなケースが考えられますからもちろん検討していきたいと思います。


 失業保険給付あるいは雇用調整助成金の弾力的運用などが検討課題になるように思われます。今後の施策の動向が注目されます。

追記
 厚労省は新たに「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第1版) 」(平成22年3月18日付け)を発出しています(こちら)。基本的には従前から発表されているものを整理したものですが、雇用調整助成金の対象となる休業が「使用者の責めに帰すべき事由」のみならず、これに該当しない場合も含まれる旨、明言した点は個人的に参考になった次第。

2011年3月19日土曜日

計画停電時の休業に伴うパート等の生活保障と雇用調整助成金

 読売新聞に「計画停電で休業は補償義務なし・・組合が撤回要請」との記事が掲載されています(こちら)。

計画停電で休業した企業は休業手当を支払う義務はないとする厚生労働省の通知が生活不安を招いているとして、派遣労働者やパートなどでつくる労働組合「全国ユニオン」は18日、厚労省に通知の撤回などを要請した。
 労働基準法では、企業の都合で労働者を休業させた場合、企業は生活保障のため休業手当を支払うよう規定。しかし、厚労省は15日、「計画停電による休業に使用者責任はない」として、休業手当を支払わなくても同法違反には当たらないとする通知を全国の労働局に出した。
 これに対し同ユニオンは、「無給休業は労働者、特に収入の低い非正規労働者の生存権を脅かす」と反発。同ユニオンには、震災による経営悪化を理由に解雇通告された被災者からの相談も寄せられているという。
(2011年3月18日21時29分 読売新聞)


 たしかに同記事のとおり、計画停電中の休業に使用者責任がないとすれば、とりわけ時間給で働くパート・アルバイトに所得減少が生じる事となります。これに対して、ユニオン側は使用者に休業手当支払いを求めるようですが、計画停電という社会的強制(ないし要請)によって被害を受けているのは従業員だけではありません。何よりも営業活動を継続したいにもかかわらず、電力の供給がストップした結果、操業を停止し、経済上甚大な不利益を受けているのは、他ならぬ使用者といえます(もちろん計画停電を口実に他の動機・目的で計画停電の前後不相応な長時間にわたって休業するような事案があれば、その休業の一部が「使用者の責めに帰すべき事由」による休業に該当し、休業手当の支払い義務を負う)。

 計画停電に伴う休業に対応したパート等への生活保障は大変に重要な問題ですが、同リスクは社会全体で引き受けるのが適切と考えます。そして、その要請に応えるのが、まさに社会保障制度の役割となりますが、残念ながら、現状では社会保障制度の方でうまく対応ができていないのが現実です。

 例えば雇用保険法では、計画停電によって経済上影響を受け、休業を余儀なくされた事業主に対して、雇用調整助成金が休業手当相当額の一部(中小企業で原則8割)を助成する制度がスタートしています(こちら)。パート・アルバイトの休業についても、事業主が同制度を活用してもらえれば良いのですが、同労働者の労働時間が週20時間未満である場合は、雇用保険の被保険者に該当しないため、同雇用調整助成金の対象とならない結果を招いています。そもそも同制度は正社員の雇用保障を目的に設計されている面が多々あり、非常に手続きが煩雑です。

 また大震災の被災地に所在する事業場では、雇用保険制度上、休職を離職とみなし、失業保険給付の対象とする特例措置が実施されています(こちら)。今のところ計画停電による一部休業については同様の対応は取られていませんが、計画停電時において同様の特例措置を講じることも検討に値します(一部休業への失業給付支給 現行制度との整合性が良いとはいえませんが)。以上のとおり社会保障制度とりわけ雇用保険法を中心に、パート等の休業に対する支援を手厚くする方策は大いに検討されて良いと考えるものです。

2011年3月18日金曜日

雇用調整助成金・雇用保険法の対応(大震災関係)

 東北関東大震災による甚大な被害は、雇用に対しても大きな悪影響を及ぼすことが懸念されています。これに対して、厚労省は雇用維持等を目的に、矢継ぎ早に雇用保険法上の施策を講じています。神戸大震災の教訓を活かしており、非常に迅速な対応であると評価して良いと考えます。

第一 失業保険給付について(厚労省HPにおける案内はこちら)。

①休業に対する「離職」みなし
 事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業を余儀なくされ、賃金を受けることができない状態にある場合は、実際に離職していなくても失業保険給付(基本手当)の支給を行う。 ※事業所が職安に「休業証明書」の提出必要
②再就職予定に対する「離職」みなし
 災害扶助法の指摘地域にある事業所が災害により事業が休止・廃止したために、離職を余儀なくされた場合、事業再開後の再雇用が予定されていたとしても離職と扱い、失業保険給付(基本手当)の支給を行う
③その他
   失業認定日の特例、失業給付の受給手続きの特例など

第2 雇用調整助成金について(厚労省HPはこちら

 震災被害に伴う経済上の理由により雇用調整助成金を利用する事業主のうち、当面、特に被害の大きかった青森、岩手、宮城、茨城の5県の災害救助法適用地域に所在する事業所の事業主については、支給要件の緩和(事業活動縮小の確認期間を3ヶ月から1ヶ月に短縮すること、生産量等が減少見込みの場合でも申請を可能とすること、計画届の事後提出を可能にすること)を実施等。その他、詳細については上記URL参照

2011年3月16日水曜日

計画停電時の休業手当について

 厚労省は昨日(平成22年3月15日付け)、「計画停電時の休業手当について」を行政通達として発出しました(こちら)。

●計画停電中の休業について
 計画停電時には多くの事業場で操業・営業を停止することになります。その結果、従業員に対し休業を命じざるを得ませんが、同休業時間中、使用者に休業手当(労基法26条)の支払い義務が生じるかが問題となりえます。

 この問題について、まず計画停電実施中の操業・営業不能を理由とした休業は、一般に事業主の関与範囲外の事由によるものであり、労基法26条のいうところの「使用者の責めに帰すべき事由」に該当しないと考えられます。厚労省も先の通達で以下のとおり明確に休業手当の対象外となる旨、明言しています。

 計画停電の時間帯における事業場に電力が供給されないことを理由とする休業については、原則として法第26条の使用者の責めに帰すべき事由に該当しないこと

●計画停電前後の休業について
 これに対して計画停電の前後または終日を休業した場合、これが「使用者の責めに帰すべき事由」によるものか問題となりえます。これについて先の行政解釈では以下の判断基準を示しています。

 計画停電の時間帯以外の休業は、原則として法第26条の使用者の責に帰すべき事由による休業に該当すること。ただし、計画停電が実施された日において、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて休業とする場合であって、他の手段の可能性、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるときには、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて原則として法26条の使用者の責めに帰すべき事由による休業には該当しないこと。

 以上の通達のとおり、計画停電以外の時間帯における休業は原則として休業手当の支払い義務があるとしますが、その一方、例外として「計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるとき」には、他の時間帯含め、休業手当の支払いを要しないとするものです。問題は如何なる場合がこの例外事由にあたるかですが、これについて同通達では「他の手段の可能性、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案」とします。

 もう少し具体的な事例を基に考えてみると、例えば計画停電の結果、工場・物流等に大きな乱れが生じ、製品・原材料納入が欠品したため店舗等での終日休業等を余儀なくされた場合などは、「休業回避」の努力を尽くしているといえるため、この例外事由に該当するものと思われる。

 なお同通達では計画停電が予定されるも、実際に実施されなかった場合については「計画停電の予定、その変更の内容やそれが公表された時期」を踏まえて、上記に基づき判断することとします。ここ数日来の計画停電の未実施例については、直前又はその後に未実施が告知されることが多いようですが、同ケースなどは公表された時期があまりに切迫している事等から、使用者側が休業を回避する事は困難であり、休業手当の支払い義務は負わないものと思われます。

 まずは行政通達のご紹介と簡単な解説にて。

2011年3月12日土曜日

大震災と企業の実務対応ー有益な参考資料のご紹介

 昨日午後、東北太平洋沖大震災が発生し、今もなお余震が続いております。同震災によって、大きな被害を受けた方々に心よりお見舞い申し上げます。私自身は事務所、自宅ともに無事でしたが、あれほどの地震に遭遇したことはなく、大変に驚きました。まずは何よりも家族と自身、そして近隣の安全が重要です。

 同大震災に直面し、企業各人事労務部門は目下、震災地域における人命救助・安否確認のところと思われます。またライフラインに携わる業種については、事業継続、物流維持等、大変困難な課題に直面しておられるのではないでしょうか。

 これについて内閣府が「阪神・淡路大震災」の教訓・資料をまとめた貴重な情報を以下HP(阪神淡路大震災教訓情報資料集)においてUPしており、今後の企業実務対応の際、大変参考になるものと思われます。(こちら)。

 詳細についてはぜひ上記HPをご覧いただくとして、私自身がさしあたり示唆を受けたものとして以下のものがあります。

●企業の緊急対応(こちら

特にライフライン(小売流通)維持について、胸にひびいたのが次の記述でした。

◆[引用] (震度7エリア企業・食料・物資供給担当者ヒアリング結果)緊急対策本部が各店舗に出した「速やかに生活物資の供給を再開せよ」という指令が届くのを待つまでもなく、各地域では既に職員の判断で、潰れた店にもぐり込んで食料を引っ張り出してきては、店の駐車場に戸板を敷いて並べて供給を開始していた。しかもそれは、必ずしも店長の指示によるものではなく、パート職員などの判断で始めた場合も多い。職住近接や危機管理のあり方が言われてはいるが、店長の立場にいるような職員は、郊外に住んでいる傾向がある。一方、パート職員は店の近くに住んでいる方が多いため、その方々を中心に、各々の現場で「誰のために何をしなければならないのか」を判断をして供給活動が開始された。当団体が生活物資の供給を早期に再開したことは、地域の被災者の不安を解消することにかなり役立ったと思う。[『平成10年度防災関係情報収集・活用調査(阪神・淡路地域) 報告書』国土庁防災局・(財)阪神・淡路大震災記念協会(1999/3),p.16]

●食料・救援物資の供給について(こちら

 今回の大震災においても、交通網が寸断されており、被災地への食料・救援物資の供給体制が懸念されます。神戸の地震の際には、全国から救援物資が届けられるものの、物流が混乱しており、被災地への供給が円滑に進まなかった事が記憶に新しいものです。これについて先のHPでは、物流担当者から貴重な改善策が示されていました。


◆[引用] (関西周辺地域業界団体・物資輸送担当者ヒアリング結果)阪神・淡路大震災の場合、物資の集結場所を神戸の消防学校に設定したが、被災地の道路が閉塞した状況の中を大型トラックで搬送することになり、また集結場所には荷物をトラックから上げ下ろしするための機材や人員がなかったため、物資を運ぶプロであっても被災地の真ん中に集結地をもってこられると活動しにくい。集結場所にトラックが集中してしまったら身動きが取れない。被災地の真ん中に物資の集結地を持ってこずに、被災地の周辺部に物資を集結するようにすれば、全国から届けられた物資もそこで仕分けもでき、混雑の影響も少ない。そのためには、物資の集結地を被害の少ない周辺の自治体に設定して、そこから被災地へ輸送する計画を作る必要があるが、各自治体の調整が難しい。しかし、被災地での混乱を少なくするためには、緊急物資の仕分けは、被災していない地域で行い、そこから被災地の避難所や目的地に輸送するシステムづくりが必要である。また、仕分けや配車の手配をするプロが被災地の目的地にいないことがあった。荷物ターミナル等で行う仕分けの方法を用いないと、とてもさばけない。プロに任せる体制が必要である。特に、大量の物資を運ぶ場合に、それをさばくプロの手が重要となる。最終的に届ける必要があるのは避難所であるが、今回の災害の場合、取り敢えず市役所なりその近くに運んだ。協会に輸送を頼む時には、どこそこの避難所に何人分というように依頼するとスムーズにいくのだが、被災地でも情報がつかめなかったという問題があった。...(中略)...人海戦術では対応できない状態であったので、フォークリトを現地事業者から調達し、作業を行った。途中から車の燃料もタンクローリーを手配した。[『平成10年度防災関係情報収集・活用調査(阪神・淡路地域) 報告書』国土庁防災局・(財)阪神・淡路大震災記念協会(1999/3),p.56-57]

●雇用上の問題(こちら
 また人事労務分野においても、今後様々な課題が生じることが懸念されますが、神戸大震災の際には、特例の雇用調整助成金と失業給付が大きな役割を果たしたようです。しかしながら、上記HPにも指摘されているとおり、短時間(週20時間未満)のパート・アルバイトは同対象から外れる等の課題が生じています。近年、雇用保険の被保険者資格は広がっていますが、週20時間という基準自体は今なお変更ありません(雇用見込みが「1年」から「31日」(現行法)に短縮)。まだ先の話になりますが、厚労省には雇用調整助成金の特例措置を含め、可能な範囲内で柔軟な対応を検討して頂きたいところです。なお以下記述によれば、神戸大震災時、適用対象であるにもかかわらず、雇用保険未加入であった労働者について、ハローワークは遡及適用・失業給付支給を認めています。今回も同様の対応を講じることが期待されます。

◆[引用] 一週間後の一月二十三日には、やむを得ない休業で従業員の雇用維持を図る事業主に賃金等の助成をする雇用調整助成金制度の特例措置がはじまった。事業所の休業や一時的離職であっても失業給付の支給を行う特例制度も、同日通達され、一月十七日までさかのぼって適用された。前者は、一年ごとに更新され九八年一月二十二日までの三年間で、一万九千三百七十四件の事業所、対象者数は五十九万二千六百八十五人、後者については九六年一月十六日までの一年間で、一万四百七件の受給資格決定がされた。[『阪神・淡路大震災10年 翔べフェニックス 創造的復興への群像』(財)阪神・淡路大震災記念協会(2005/1),p.156]☆

◆[引用] 法律相談の中で指摘されている問題点は、「雇用保険未加入者が多い」ことで、雇用保険が義務化されている企業においても、未加入のまま労働していた雇用者がかなりいたということである。これらの相談者に対しては、未払いの保険料を支払うという遡及条件で、失業給付を支給するといった柔軟な対応も実施されている。その中でとくに指摘されている問題点としては、「パート労働者、零細自営業者およびそこで働く人たちなど雇用保険法の適応を除外されてきた弱者への救済措置、適応対象者についても、さらに雇用保険の柔軟な
運用(未加入者への遡及適応など)と特別措置の延長などを含めた対応が求められている。」(連合兵庫「なんでも相談報告書」1995年12月p.33)と述べられている。後者については、弾力的運用、支給期間の延長が特例措置としてとられたわけだが、前者の雇用保険法適用除外者の問題は、残されたままである。[下﨑千代子「多様なワークスタイルづくりを通じたしごとの創造等、しごと・雇用対策」『阪神・淡路大震災 復興10年総括検証・提言報告(5/9)


まずは参考資料の簡単なご紹介にて。
 

2011年3月5日土曜日

最近勉強していることー社会保険をめぐる法律問題などー

 最近、必要に迫られ「企業実務の観点からみた社会保険の法律問題」を勉強し直しております。大学院時代に社会保障法を専攻していた関係上、同分野に土地勘があるつもりでしたが、なかなかに難しい問題が山積しており、大変新鮮な気持ちで勉強しております。

 例えば厚生年金・健康保険でいえば、解雇トラブル等係争中の被保険者資格喪失の可否、和解解決した場合における被保険者期間の取扱い(解雇から和解成立時点まで)、賃金差別事案確定判決後(男女賃金差別認定など想定)における各保険給付額変更の可否(標準報酬額への反映?)などなど。

 教科書、解説書を机に引っ張り出しては、これら難問に悩みもだえる(それが楽しいのですが(笑))今日この頃ですが、本当に役立っている好書が掘勝洋先生の以下体系書です。

 堀勝洋「年金保険法−基本理論と解釈・判例」(法律文化社) (アマゾンはこちら

 今後、年金保険を法的に論じる際には、同書籍がとにもかくにも、基本書と位置づけられることは間違いのないところと思われます(岩村正彦先生の「社会保障法Ⅱ」も首を長くしてお待ちしておりますが・・・すでに刊行済みの「社会保障法Ⅰ」はこちら)。
 
 なお社会保障法の大枠と個別論点の概略を掴む上では、「社会保障法」(有斐閣アルマ こちら)をお勧めしております。今回の勉強でも、まず真っ先に同著を読み返し、予習・復習を致した次第。