昨日(5月27日)、京都地裁で障害補償等級の違憲性を理由に、障害補償給付不支給決定処分を取り消した裁判例が出されたようです(産経NEWS)。
顔などに著しい傷が残った際の労災補償で、男性より女性に高い障害等級を認めているのは違憲として、京都府内の男性(35)が国に障害補償給付処分の取り消しを求めた訴訟の判決が27日、京都地裁であった。瀧華聡之裁判長は「合理的な理由なく性別による差別的扱いをしており、憲法14条に違反する」として原告側の主張おおむねを認め、国に同処分の取り消しを命じた。原告側代理人によると、労災補償の障害等級の違憲性が認められたのは全国初という。
判決理由で、瀧華裁判長は訴えの対象になっている障害等級の男女の差について「著しい外見の障害についてだけ、男女の性別で大きな差が設けられていることは不合理」と指摘。「法の下の男女平等」を定めた憲法14条に違反していると認めた。
判決文の要旨が徳島新聞HPに掲載されています(こちら)。
労災障害補償給付の性差別をめぐる訴訟で、京都地裁が27日言い渡した判決の要旨は次の通り。
【障害等級表の合憲性】
障害等級表において、人に嫌悪の感を抱かせるほどではない外貌(外見)の醜状(けがなど)障害について、男女に差を設け、差別的取り扱いをしていることが憲法判断の対象となる。
▽労働力調査
国は「労働力調査における産業別の女性比率や雇用者数によると、女性の就労実態として、接客など応接を要する職種への従事割合が男性に比べて高いと言える」と主張する。しかしこの「産業」は、就業者が実際にした「職業」とは異なる。
サービス業全体で女性の雇用者数の増加が男性より大きいことも根拠となると主張するが、サービス業の中には廃棄物処理業などが含まれ、根拠となるとは言えない。
▽国勢調査
国は「国勢調査の職業小分類別雇用者数データを分析すると、女性の接客を要する職種への従事割合が男性より高いと言える」と主張する。
本件取り扱いの合理性を根拠付ける男女間の差は、外見の醜状障害で生じる本人の精神的苦痛などで就労機会が制約され、損失補てんが必要だと言えるような差である必要がある。多くの不特定の他人と接する機会が多い職業も含めて考えるのが相当で、少なくとも音楽家や美容師などを合計して分析すると、国勢調査の結果は実質的な差の根拠になり得るとは言えるものの、顕著なものとも言い難い。
▽精神的苦痛
国は「化粧品の売り上げなどから、女性が男性に比べて外見に高い関心を持つ傾向があることがうかがわれ、外見の醜状障害による精神的苦痛の程度について明らかな差がある」と主張する。
ただ男性でも苦痛を感じることもあり得ると考えられ、実際に原告が大きな苦痛を感じていることも明らかだ。外見への関心の程度や性別が精神的苦痛の程度と強い相関関係にあるとまでは言えない。
▽判例
国は「外見の醜状障害に関する逸失利益などが問題となった交通事故の判例により、男女間に実質的な差があるという社会通念の存在が根拠づけられている」と主張する。確かに男女差を前提とするような記述が見受けられるが、記述自体の合理的根拠は必ずしも明らかではない。
▽まとめ
本件差別的取り扱いの策定理由には根拠がないとは言えないが、男女の性別で(障害等級表では)5級の差がある。等級表では年齢や職種、経験など職業能力的条件について、障害の程度を決める要素となっていないが、性別がこれらの条件と質的に大きく異なるとは言い難く、外見の醜状障害についてだけ、性別によって大きな差が設けられている不合理さは著しいというほかない。
【結論】
本件は合理的な理由のない性別による差別的取り扱いで、障害等級表は憲法に違反すると判断せざるを得ない。処分は障害等級表の憲法に違反する部分に基づいてされたもので違法。取り消されるべきだ。
たしかに現在の障害等級をみると、女性従業員の顔に著しい損傷が残った場合は、障害等級7級に該当し、障害補償年金が継続して支給される一方、男性従業員が同様の労災に被災したとしても、障害等級11級等に該当し、年金支給がなされません(一時金が支給)。大きな差があることは間違いありませんが、これが憲法14条に反する差別(性別を理由)にあたるとまでいえるのか否か。上記要旨をみると、一応は立法事実を踏まえた上で、同差異に合理的な理由があるのか否か判断しているようですが、高裁判決さらには場合によっては最高裁判決が待たれるところです。
ところで万が一、違憲判断が確定した場合(現大臣が地裁判断に従う旨の「ご英断」をされる可能性がない訳ではありません・・)ですが、後始末をどうするか問題が残ります。
当該原告については不支給決定処分を取消し、障害補償年金を支給するとして、問題は他の請求案件をどうするか(同様の事案)。将来的に障害等級表を見直し、今後の請求案件について、男性も年金支給をするとしても、更に過去の確定分について、見直しの要がないのかどうか。すでに同様の事案で、障害補償一時金の支給を受け、これが確定した従業員は、現行法上、改めて障害補償年金不支給決定処分を争いようがありませんが、国に対して国家賠償請求を行い、障害補償年金と一時金の差額分支給を求めることが可能か否か(時効の問題?)。
同違憲判断が仮に確定したとしても、様々な難問が残されることになりそうです。いずれにしましても、まずは国側が控訴するか否か見守る必要があります。
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