2014年11月21日金曜日

有期特例法の可決成立について

 本日午後(平成26年11月21日)、衆議院本会議において有期特例法案が可決され、ようやく成立しました。名実ともに衆議院解散直前の成立であり、大変な難産でした。法施行は来年4月1日を予定しています。

2014年11月19日水曜日

有期特例法の命運(平成26年11月19日現在)

 労働契約法に基づく無期転換の特例を定める法律(「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法案」)が成立するのか否か。今月21日の解散が決せられた中、世間的には極めてマイナーな話題ではありますが、人事労務担当者サイドから見ると、相応の関心事項ではないかと思われます(厚労省による同法案の概要解説はこちら)。

 同法案は誠に数奇な運命を辿っており、実は前国会において衆院可決(賛成多数)→参院審議未了継続審議→本国会の参院本会議ですでに可決されています(10月29日)。

 衆院・参院双方の本会議を可決したことから、常識的には同法案は可決成立したように思われるところ、国会ルールが変更されており、継続審議法案を成立させるためには、次国会において改めて参院そして衆院本会議での可決が必要との事(法案経過はこちら)。

 したがって本法案は再度、本国会会期内に衆院本会議を可決しなければ成立しないものですが、21日の解散が近づいています。このまま衆院本会議で可決されなければ、同法案は衆院本会議可決(前国会ですが)、参院本会議を可決するも「廃案」になるという「悲劇的」な運命を辿る法案となるものです。

 さすがに昨日、衆院厚生労働委員会は委員長職権で同法案を可決し、衆院本会議への採択に付しました(こちら)。本日の衆院本会議での可決成立が期待されていましたが、こちらは「流会」(TT)。

 21日の解散までに、同法案が衆院本会議で可決され、成立するのか。はたまた「廃案」の憂き目を辿るのか。明後日までには命運が決することになるものです。

2014年11月14日金曜日

改正社会保険労務士法の可決成立

 平成26年11月14日、衆院本会議において改正社会保険労務士法が無事に再可決され、成立しました。可決成立に至るまで、前国会で衆院可決→本国会で参院可決→衆院可決・成立という複雑な経緯を辿ったものです。

 改正内容としては、社労士会の行う民間ADRの訴額上限の引き上げ(60万円→120万円)、補佐人制度の創設、一人による社労士法人設立の許容となります(こちら)。

2014年11月12日水曜日

【訂正】改正社労士法の参院可決と衆院再可決の必要性

 平成26年11月12日、参議院本会議において改正社会保険労務士法(こちら)が全会一致で可決しました。前国会で衆院を全会一致で可決していたことから、同法案は成立していたものと理解しておりましたが、国会ルールが変更されており、会期を跨いでの継続審議法案(衆院通過(前会期)・参院送付)については、再度衆院での可決が必要になった模様です(衆院議案経過情報はこちら)。

 現在、同法案は衆院の厚生労働委員会に再付託されている状況にありますが、仮に同法案が再可決されないまま衆院解散になると、「廃案」という事になろうかと思われます。
「廃案」の場合、可決成立を改めて目指すとすれば、次期以降の会期で再度、衆院そして参院の厚生労働委員会・本会議で審議時間を取り、可決成立させる要があるものです。

 現時点で同じ運命を辿っている労働関連法案として、「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法案」があります(同じく衆院議案経過情報はこちら

 会期を跨いでいるとはいえ、特段の修正なく衆院・参院本会議で可決した法案(社労士法案はいずれも全会一致、付帯決議有)が成立しておらず、再度衆院での可決が必要。その挙げ句、衆院解散によって廃案となれば、一から法案提出・審議をしなければならないという事。なんだかミステリー小説みたいな話です(笑)。

 この話は一納税者としてにわかに理解しがたい(正直、腹立ってきました。これまでの両法案審議のため支出した莫大な公金は一体何なのでせう!)ところであり、両法案ぐらいは、国会の先生方の良識でこの会期中で何とかしていただきたい(仮に来週解散としても、衆院厚生労働委員会で即日審議・可決し、解散前の本会議で可決成立させる等)と思う次第。

 それにしても再度衆院可決が必要との国会ルール変更は幾ら考えても理解できないですね。何の目的・意義があるのかご存じの方がいればご教示いただきたいです。

2014年10月16日木曜日

永田町労働法セミナーのご案内(ストレスチェック制度)

 このたび拙事務所の移転に合わせて、来月11月18日に新事務所会議室で労働法セミナーを開催する事と致しました。
日時:平成26年11月18日(火) 午後3時15分〜午後4時50分
場所:アイオス永田町2階会議室1・2(会場アクセスはこちら
セミナー詳細についてはこちら

 来年12月に施行される改正安衛法のストレスチェック制度をめぐる法的課題と実務対応上の留意点について解説致します。顧問先様以外も有料でのご参加を受け付けております。ぜひともご活用いただければ幸いです(参加者多数の場合、申込み順でお断りする場合はあります)。

2014年10月13日月曜日

事務所移転のお知らせ

平成26年11月1日付けで事務所を移転致します。どうぞ引き続き宜しくお願い致します。
事務所移転先
〒100-0014 東京都千代田区永田町2-17-17 アイオス永田町519号室
電話 03-6206-6685 / FAX 03-6735-7784
なおメールアドレス、HP・ブログは変更ございません。


新事務所 アクセスマップ

2014年9月4日木曜日

拙稿「労災民訴(精神疾患)における業務過重性評価と過失相殺・素因減額の関係性」(季刊労働法246号)掲載のお知らせ

 季刊労働法の最新号(246号 こちら)に拙稿「労災民訴(精神疾患)における業務過重性評価と過失相殺・素因減額の関係性 ー東芝事件最高裁判決ー」(筑波大労働判例研究会)が掲載されました。同最高裁判決は労災民訴事案において過失相殺・素因減額判断を行った高裁判断を否定し差戻したものですが、今後の同種事案における過失相殺・素因減額判断に大きな影響を与える可能性があります。本評釈では同種下級審裁判例における過失相殺・素因減額判断を確認・類型化した上で、本最高裁判決の位置づけと射程を明らかにすることを試みたものです。
 
 同問題は、まだまだ未開拓な領域であり、試みがどの程度成功しているか分かりませんが、実務上も極めて重要な課題であることは間違いないところです。ぜひご一読の上、ご指導等を頂ければ幸いです。




季刊労働法246号(2014・秋季)

特集
近時の立法・改正法令の検討課題

改正労働安全衛生法の考察
京都大学大学院教授 小畑史子

改正パートタイム労働法と均等・均衡待遇
近畿大学教授 奥田香子

次世代育成支援対策推進法の改正と今後の課題
京都産業大学教授 高畠淳子

性差別解消の現在から見た均等法施行規則の改正
―次なる法改正へ向けての考察
北海道教育大学教授 菅野淑子

過労死防止法の意義と課題
弁護士(過労死防止法基本法制定実行委員会事務局長) 岩城 穣

ブラック企業対策から見た近時の立法・改正法令の検討課題 
NPO法人POSSE代表 今野晴貴

■論説■
NHK受託業務従事者の労契法・労組法上の労働者性
NHK前橋放送局事件・前橋地判平成25・4・2(労働法律旬報1803号50頁)
同志社大学教授 土田道夫

フランチャイズ・コンビニ加盟店主の労組法上の労働者性
山梨大学教授 大山盛義

非正規の正規化
その実態の法的課題 
UAゼンセン会長 逢見直人

■研究論文■
配偶者のうち夫にのみ年齢要件を課す遺族補償年金の合憲性
地公災基金大阪府支部長(市立中学校教諭)事件(大阪地裁平成25年11月25日判決)
中央大学大学院博士後期課程 西 和江

働く児童と教育を受ける権利
―労働法制における就業と就学の両立に着目して―
武蔵大学非常勤講師 常森裕介

■投稿論文■
社会的(保護的)就労への労働法適用を巡る考察
神奈川大学法学研究科博士前期課程修了 石原康則

■労働法の立法学 第37回■
労働人権法政策の諸相
労働政策研究・研修機構統括研究員 濱口桂一郎

■神戸大学労働法研究会 第29回■
派遣労働者に対するパワハラ行為と派遣先会社の損害賠償責任
アークレイファクトリー事件・大阪高判平成25年10月9日労判1083号24頁
弁護士 千野博之

■同志社大学労働法研究会 第12回■
複数就業者の労災保険給付
―ドイツ法との比較法的研究―
同志社大学大学院 河野尚子

■北海道大学労働判例研究会 第34回■
公務員のした退職の意思表示の撤回と退職承認処分の有効性
豊富町事件・旭川地方裁判所平成25年9月17日判決・判例時報2213号125頁
琉球大学准教授 戸谷義治

■筑波大学労働判例研究会 第40回■
労災民訴(精神疾患)における業務過重性評価と過失相殺・素因減額の関係性
 東芝事件(最2小判平成26.3.24 裁判所時報1600号1頁)
社会保険労務士 北岡大介


■文献研究労働法学 第13回■
労働契約論
北九州市立大学准教授 石田信平

■イギリス労働法研究会 第21回■
イギリスにおける「株主被用者(employee shareholder)」制度の導入
―株の取得と引き換えにした雇用諸権利の放棄
久留米大学准教授 ・敏

■アジアの労働法と労働問題 第21回■
韓国の女性労働法制と課題
日本大学教授 神尾真知子

●重要労働判例解説
希望退職応募勧奨とその拒否した従業員に対する出向命令の有効性
リコー(子会社出向)事件(東京地判平25・11・12労働判例1085号19頁)
専修大学法科大学院教授 小宮文人

違法解雇と代表取締役の責任
I式国語教育研究所代表取締役事件(東京地判平25・9・20労経速2197号16頁)
小樽商科大学准教授 南 健悟

2014年5月24日土曜日

【法案】過労死等防止対策推進法案の衆院委員会採決

 平成26年5月23日の衆院厚生労働委員会において、過労死等防止対策推進法案が委員長提案され、採決されたとの事。本通常国会内での成立目処がついたようです(yahooニュースはこちら)。

 報道によれば、同法案は過労死や過労自殺を社会の損失ととらえ、国の責任で防止対策を実施するよう促すとしており、具体的には①過労死の実態の調査・研究、②国民の関心と理解を深める啓発、③相談体制の整備、④民間団体の活動支援等が盛り込まれ、さらに地方自治体、事業主の協力、11月の啓発月間などが規定化されているようです

 法案の内容を確認しようと衆院HPを見ると、各党調整を経て委員長が上程したもののため今時点では未登載です(来週早々にはUPされるかと)。ちなみに衆議院提出法案を見ると、「過労死等防止対策基本法」がありますが(泉健太衆院議員(民主党)ほか提出)、法案のタイトル(「過労死等」→「過労死」、「基本」→「推進」)および法案内容が修正されているようで注意を要します(参考までに泉議員提出法案はこちら)。

 例えば泉議員提出法案では、対象とする「過労死等」について「業務における過重な身体的若しくは精神的な負荷による疾患を原因とする死亡(自殺による死亡を含む。)又は当該負荷による重篤な疾患」と定義していました。

 これが日経新聞報によると、採決された法案(過労死等防止対策推進法案)では、同法が対象とする「過労死」を「業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患や精神障害を原因とする死亡や自殺」と定義づけたとの事(こちら)。

 過重労働による重篤な疾患はさしあたり同法案の定義する「過労死」から外れることになります。この点、与野党間の調整経緯は分かりませんが、「重篤な疾患」の定義が難しく、同文言を見送った可能性があります。

 ただ産経新聞報(こちら)では、同法における調査研究では定義外のものも含めて幅広く取り扱うとしており、過重労働等による「重篤な疾患」の取扱いなども成立後の法施行に委ねられているものと思われます。

 思うに過労死の防止対策として、企業等の「過重労働防止」はもちろんですが、国民(従業員とその家族含めた)への意識啓発もやはり重要です(上記②)。また産業医はもちろん、従業員を実際に診療する開業医・勤務医の先生方はじめ地域の医療体制等は、今後ますます「過労死防止」のキーマンとなることが期待されうるものと思われます(上記③、④)。

 過重労働防止対策とともに、国民への啓蒙活動や地域の医療等を含めた産業保健の充実に、本法案が寄与することを願うものです。


(追記 2014.5.27)衆議院HPに過労死等防止対策推進法案がUPされました(こちら)。これを見ると、第2条の定義規定において、次のとおり定められています。「第二条 この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。」。

 同定義規定のみについて言えば、泉議員提出法案よりも、「過労死等」に該当する範囲は広がったものといえそうです。なお同法案は、本日(5月27日)の衆院本会議に上程されました。

2014年5月23日金曜日

【読書】ワークルール検定中級テキストについて

 道幸哲也先生・加藤智章先生・開本英幸先生・淺野高宏先生・國武英生先生著「ワークルール検定中級テキスト」(旬報社)を献本いただきました(こちら)。時期遅れとなりましたが、誠にありがとうございます。

 NHKなどでも広く報道されたワークルール検定も今年で2年目に入り、新たに中級編のワークルール検定が開催される予定です。本テキストは中級検定の教科書であり、ワークルール初級編をパスし、同検定を受講される方は必ず目を通すべき必読書です。

 ただ本書をワークルール検定中級受験のためだけの本とするのは、勿体ない気がいたします。労働法を本格的に学び、労働相談などの力を身につけたいと考える実務家にとっても、とても有益な書籍に仕上がっています。

 特に社労士の先生で、社労士試験合格後、労働相談対応などのため、さくっと労働法を一通り勉強しておきたい場合などに最適のテキストです。各々の章がとてもコンパクトに記述されている上、具体的な設例と裁判例が的確に紹介されています。オススメします。

2014年5月18日日曜日

読書「賃金差別を許さない」(中窪裕也訳 リリー・レッドベター他、岩波書店)

 アメリカにおいて「平等賃金の祖母」とも称されるリリー・レッドベッター女史の自叙伝を、アメリカ労働法研究の第一人者である中窪裕也一橋大教授が訳した本です(こちら)。

 アメリカ合衆国は、我が国やフランス、ドイツ等と比べると、労働法の規制が弱い(典型例が解雇規制の程度)ことで有名ですが、他方、性別等を理由とした差別規制が厳しいことはよく知られています。ただ、その運用実際のイメージが掴みがたかったところ、本著は巨大企業において現場監督として長年働いてきた女性が、定年間近に男性社員と比べ著しい賃金格差が生じていたことを知り、賃金差別訴訟を1人で争ったことが克明に描かれています。結果的に連邦最高裁で同氏の敗訴が確定しますが、その後、マスコミや議会を動かし、オバマ大統領が就任後、初めて署名した法律〜リリー・レッドベター公正賃金復元法〜に繋がっていくものです。

 まず本書はアメリカ労働法、とりわけ差別規制について知りたい方には最適の本といえそうです。また中窪先生の名著「アメリカ労働法(第2版)」(弘文堂)の副読本としても優れています。

 アメリカ労働法に関心がない方でも、リリー女史の半生の描写はとても魅力的で、引き込まれるものと思われます。恐らくハリウッドも虎視眈々と映画化を狙っているところかと(笑)。

 

2014年5月17日土曜日

映画「そこのみにて光輝く」の感想めいたもの

 新宿テアトルで呉美保監督「そこのみにて光輝く」(こちら)を鑑賞。

 函館は映画の街です。函館山、五稜郭はもちろん市内の石畳と洋館や路面電車、何よりも海と坂道が素晴らしく、昔から多くの映画の舞台になっています。例えば、森田芳光監督の「キッチン」では函館の夜景が印象的に描かれており、感激しました。

 その函館の地で生まれ育った作家、故佐藤泰志氏の長編小説を映画化し、全編同地でロケしたのが本作に他なりません。佐藤泰志氏が描く函館はロマンチックなものではなく、産業が衰退し、疲弊しつつある街です。
 本作でも、舞台となる函館は概ね荒涼としています。主人公たちが住む海近くのバラック小屋、アパートは寒々としており、各々の孤独感を感じさせます。

 ただ時折、函館の街の美しさが垣間見せることがあります。短い夏の海、函館山、そして早朝・夕方の朝日。厳しい現実に打ちのめされる主人公達を函館が優しく包み込んでいます。これが本作の大きな救いになっているように感じました。

 主演の3人、綾野剛、池脇千鶴、そして菅田将暉は素晴らしかったです。特に菅田君。どこかで見た顔かなぁと思っていたら、仮面ライダーWの主演(フィリップ)だったのですね。彼が本当に名演でした。今後大いに期待できる役者さんです。

 本作を見て、無性に函館の街を訪れたくなりました。旧友のトルコ料理屋さんにぶらり寄ったりしながら、ゆっくりと函館の街を散策したいものです。

 2年前に旅した時に撮影した函館山ロープウェイと沈み行く夕陽の写真を。

2014年5月16日金曜日

「雇用改革の真実」(大内伸哉、日本経済新聞出版社)の書評

 大内伸哉先生の新著「雇用改革の真実」(こちら)を一読しましたので、その備忘録を。

 本書は解雇、限定正社員、無期転換制度、派遣法、政府による賃上げ要請、ホワイトカラーエグゼンプション、育児休業制度、定年延長など最近の雇用政策上のトピックスを取り上げ、労働法学者の視点から政策の当否等を解説するものです。

 本書の大きな特徴として指摘できるのは、以下の問題意識に基づく雇用政策の再評価にあります。

 大内先生がまず一例として挙げるのが労働契約法における無期転換制度の導入です。一般に当該制度の導入は、本来、無期雇用で働くべき労働者が使用者による濫用的な有期雇用の利用によって著しい不利益を受けていたものを、立法によって是正させたと評価する向きがあります。

 これに対し、大内先生は有期雇用の多くは、企業側から見ると経済合理性に基づくもの(景気変動の調整弁としての利用を一例として挙げます)であり、「無期転換制度」による法の介入は、結果として「無期雇用が増えるのではなく、無期転換が起こらないように短期に雇用を打ち切るという企業の行動を誘発する危険がある」、「一見、労働者の保護のためになりそうな政策が逆効果となるおそれがある」とするものです。

 企業の経済合理性に基づく行動を直視しつつ、「その中で、いかにして労働者が幸福に職業キャリアをまっとうできるかを考えていくことこそが、真の意味での労働者の保護」になるという立場から、雇用政策の再評価を行っているのが本書の大きな特徴といえます。

 本文中の各雇用政策をめぐる評価は極めて刺激的であり、いずれも労働法制に係る議論再活性化を促すものです(時に「劇薬」にすぎると感じる面もありますが。特に第7章の「育児休業」)。

 個人的には第3章「有期雇用を規制しても正社員が増えない」における「無期転換申込権の放棄」をめぐる議論に共鳴しました。賃金債権放棄に係る判例法理などを紹介の上、無期転換申込権の放棄も「労働者に不利な同意だからといって無効と決めつけず、それが真に自由な意思による同意であることを厳格なチェックの上で確認できれば、有効とする解釈の方が望ましいと言えないだろうか」とするものです。問題はこの「厳格なチェック」の中身と思われ、この点についての精査が重要と考えています。

 思うに最近の裁判例(例えば、定額残業代をめぐるもの)等を見ると、労使による合意を重視(むしろ軽視?)しないものが一部見られ、違和感を感じていました。労使自治の重要性を強調される大内先生の一連の関連文献を改めて読み進めたいと思うところです。

 

2014年5月14日水曜日

企業労働法実務入門(日本リーダーズ協会)について

 先日、盟友田代英治先生から倉重公太郎編「企業労働法実務入門」(日本リーダーズ協会)の献本を頂きました。誠にありがとうございます。本書は気鋭の若手弁護士である倉重先生、小山先生、岡村先生、石井先生、横山先生、田島先生と社労士の田代先生、原田先生が共同で執筆された労働法の入門書です。

 初めての地に旅に出る時、優れたガイドブックが手元にあれば大変心強いものですが、良いガイドブックは概ね以下の条件を満たしてます。
・見やすい地図や索引が付いており、すぐに知りたい情報を入手できること
・情報が簡潔かつ分かりやすく記されていること
・旅を楽しくするコラムや写真などが要所要所に配置されていること

 本書は分野は異なれど、上記条件を見事に満たしており、「企業労働法実務」の優れたガイドブックたりうるものです。

 まずお薦めできるのが、本書の「目次」と巻末の用語集です。研究者の手による労働法の概説書は法を体系的に習得させる目的があるため(当然に体系的理解は重要、学生さんはきちんと勉強しましょう(自戒をこめて))、実務家から見て、章立てや目次、索引が使い勝手の良いものは少ないように思われます。
 これに対し、本書は単独でメンタルヘルスの章(10章)や、派遣法などの重要な法規のみを取り上げる章(第12章)を設けるなど、章立てに周到な工夫が見られる上、巻末の用語集には「普通解雇・・懲戒解雇以外の解雇のこと  ●p」などのとおり、用語解説と参照ページが記され、企業担当者のニーズに見事に応えています

 また本書が何よりも優れているのは本文の内容です。優れた経営法曹、社労士による労働法・労務管理・社会保険に係る解説は、いずれも過不足なく、かつバランスが取れたものであり、安心して読める内容となっています。何よりも難しい法律・人事労務関係の用語が平易な表現で記されているのが素晴らしいと思います(これが本当に難しいのです)。

 その上、本書を魅力的なものとしているのが、各章の「コラム」「一歩前へ」です。初心者はもちろん、中上級者から見ても読み応えがあり、例えば「未消化の有休休暇と会計処理」(131p)では、国際財務報告基準と残存有休の関係という最先端の問題が取り上げられています。私も思わず読みふけった次第。その他、読み応えあるものが多く、労働法への興味をかき立てる内容となっています。

 以上のとおり、本書は「実務労働法」の素晴らしいガイドブックであり、ぜひ企業の人事労務担当者はデスクに1冊、常備されることをお薦めします。

 なお同著「終わりに」には、「本書をマスターした方の「今後の勉強方法」」として、「まずは実務で現に問題となっている箇所の専門書」に目を通すこと等が推奨されています。さいごに我田引水ではありますが、以下の問題に更に関心をお持ちの方には、ぜひ拙書もご一読いただければ幸いです(笑)。

●ブラック企業と呼ばれないための企業対応にさらに関心がある方には
「会社が泣きを見ないための労働法入門」(単著、日本実業出版社)
●メンタル不調による休職・復職に係る企業対応にさらに関心がある方には
→「企業におけるメンタルヘルス不調の法律実務」(峰隆之弁護士と共著、労務行政)
●精神障害の労災認定問題にさらに関心がある方には
→「精神障害の労災認定と企業の実務対応」(単著、日本リーダーズ協会)
●サービス残業・過重労働防止対策にさらに関心がある方には
→「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」(峰隆之弁護士と共著、日本法令)
 


2014年5月12日月曜日

会社が「泣き」を見ないための労働法入門発刊のお知らせ

 新著「会社が「泣き」を見ないための労働法入門」(日本実業出版社)が5月10日に発刊されました(amazonはこちら)。

 同書はブラック企業等と指摘される恐れがある人事労務上の様々な課題について、事例形式で法令解説と実務対応策などを解説したものです。

 1章では「ブラック企業」問題の背景と企業人事担当者として知っておくべきブラック企業論と厚労省指導との間の相違点を整理しています。

 その上で第2章以下において、企業側が「泣き」をみないための労働法上のポイントを以下の流れで解説するものです。

 サービス残業問題(第2章)、過重労働防止対策(第3章)、パワーハラスメント問題(第4章)、若年労働者等の使い捨て問題(第5章)、その他労働法上の課題(第6章)。最終章(第7章)ではブラック企業と指摘されないためのチェックリスト等を解説しています。

   本書が良好かつ規律のある職場環境と健全な労使関係づくりに日々取り組んでおられる会社の人事労務担当者、社労士の先生方などに役立つところがあれば誠に幸いです。

2014年1月5日日曜日

新年の御挨拶と事務所部屋移動のお知らせ

新年明けましておめでとうございます。

平成二六年は労働法制の大きな転換点になる年のようにも思われ、年初から身が引き締まる思いを感じております。

本年も各専門誌、セミナーそして本ブログその他様々な形でお世話になると思いますが、よろしくお願い致します。

なお昨年末に以下の通り事務所の部屋番号のみ移動しました。その他変更はございません。

(移動先)東京都港区西新橋1-6-12 アイオス虎ノ門506号(503号から移動)