2009年12月31日木曜日

今年1年誠にありがとうございました

 今年も残すところあとわずかとなります。本年1年、誠にありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
 作家太宰治も仰ぎ見たであろう、三鷹駅近くの陸橋から見える富士山の遠望です。

2009年12月28日月曜日

「今後の労働者派遣制度の在り方について」の答申について

 本日(12月28日)、厚労省労働政策審議会は「今後の労働者派遣制度の在り方について」の答申を取りまとめました(こちら)。

 拙ブログで紹介した12月18日付けの公益委員たたき台がほぼそのまま成案化されたものですが、登録型派遣禁止について、一部業務(今後、詳細を具体化)の施行猶予を2年延長(計5年)する点と使用者側委員の反対意見付記(登録型、製造派遣禁止ならびにみなし雇用に対する反対意見)が新たに追加されています。

 いよいよ来年1月からの通常国会において、派遣法改正の審議が本格化することになります。現与党としては、参院選挙までの成立を目指すことになるため、是が非でも成立させると思われますが、雇用市場への影響と規制内容の明確性そして違憲への疑念の払拭はぜひとも、国会審議の場で切にお願いしたいものです。

2009年12月25日金曜日

金沢ぶらぶら散歩

 前月、大学1年時に入寮していた泉学寮同窓会が金沢で開催されました。またその翌週、石川県社労士会の講演にお招きいただき、不思議なことに2週続けて金沢を再訪。

 時間の合間にぶらぶらと金沢を散策途中、撮った1枚です(東山)。この狭い路地は自動車で行き来するのは大変ですが、散歩には最適です。

 迷路のような路地を歩き疲れた後の一杯がとても美味しい訳ですが、最近の東山界隈は、居心地のよいカフェ・洋食屋さんが増えて、旅行者には更に有り難い次第。

個人請負型就労者に関する研究会の動向について

 派遣法改正案の素となる審議会報告書の取りまとめが大詰めを迎えておりますが(直近の報告書案はこちら)、来年に向けて人事労務関連で注目すべき動きとして、「個人請負型就労者」をめぐる問題があります。

 厚労省は今年から「個人請負型就労者に関する研究会」を立上げ、精力的に開催しています。前回の研究会では、個人請負型就労者に関する裁判例の動向について、報告がなされています(こちら)。来年3月に報告案が取りまとめられる予定です(こちら)。

 雇用に対する規制(労働法・社会保険)が強化されればされるほど、個人請負等へシフトチェンジを行う動きが生じるのは、諸外国の例からみて明らかです。日本においても、派遣法規制の強化、あるいは有期雇用への規制が仮に強化されれば、この個人請負へのシフトが問題視されるようになることは必至と思われます。

 同研究会報告はただちに個人請負等に対し、何らかの規制を求めるものにはならないと予想されますが、労働者性判断に際するガイドライン等を示す可能性はあります。今後の厚労省の政策動向は注目されます。

2009年12月22日火曜日

松下PDP最高裁判決と不更新条項付き有期雇用契約雇い止め

 松下PDP最高裁判決が最高裁HPに掲載されました(こちら)。
 発注者との間に黙示の雇用契約が成立したか否かという争点がもっぱら注目されていますが、個人的には、有期雇用契約の雇い止めに係る最高裁判断に大変、注目しておりました。ここでは、その問題について雑感を述べます。

 本事件では、偽装請負が発覚し、労働局からの指導等を受けて、発注者が請負会社社員と次のような契約を締結しました。
 契約期間:平成17年8月22日から平成18年1月31日まで(ただし平成18年3月末日を限度として更新することあり)。

 請負会社社員(弁護士)は期間制限等について異議を留める旨、内容証明郵便送付をもって通知した上で、上記雇用契約を締結しています。

 発注者は同契約書の記載のとおり、平成18年1月31日付で雇用契約終了としましたが、本事案ではこのような雇い止めの可否も争われておりました。

 これについて、最高裁は本件有期雇用契約について次のとおり判示します。「雇用契約は1度も更新されていないうえ、上記契約の更新を拒絶する旨の上告人の意図はその締結前から被上告人および本件組合に対しても客観的に明らかにされていたということができる。」

 「そうすると、上記契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないことはもとより、被上告人においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合にもあたらないものというべき」とし、「上告人による雇い止めが許されないと解することはできず、上告人と被上告人との間の雇用契約は、平成18年1月31日をもって終了したものといわざるを得ない」と結論づけました。

 事例判断ではありますが、まず異議留保が付された不更新条項付き有期雇用契約に「雇い止め法理」が適用されないことを初めて明らかにした最高裁判例と位置づけることが可能と思われます。

 ビジネスガイド2月号の拙稿(峰先生共著)「「2009年問題」に対応した有期雇用契約の法律実務」(こちら)を執筆していた時から抱えていた疑問に対する答えを頂いた気がしております(同稿では、そのほか不更新条項に係る最近の裁判例等を解説しておりますので、ご覧いただければ幸いです。)

 しかしながら、最高裁判決を更に読み進めますと、次の疑問が生じます。本最高裁判決は、請負会社社が労働局に偽装請負等の申告をしたことに対し、発注会社が不利益取り扱いを行ったことを認め、慰謝料請求認容した高裁判断は維持しました(90万円)。

 問題はここでいう不利益取り扱いが何かということですが、「リペア作業」を行わせたということとともに「被上告人の雇止めに至る上告人の行為も、上記申告以降の事態の推移を全体としてみれば上記申告に起因する不利益取扱いと評価せざるを得ないから・・不法行為にあたるとした原審の判断も、結論において是認することができる」としています。
 さらに今井判事の補足意見を見ると、「雇い止めについても、これに至る事実関係を全体としてみれば、やはり上記申告に対する不利益取り扱いといわざるを得ない」と判示しました。

 どうも上記説示から見ると、本最高裁は本件雇い止めが派遣法49条の3に反する解雇そのほか不利益取り扱いにあたると解しているように読めます。とすれば、改めて雇い止め自体が無効となりえないのか。そのような疑問も生じるところです。これに対して、前述のとおり、不更新条項が付されていることから本件については、「雇い止め法理」は適用されず、ただ損害賠償請求のみ生じうるという見解もありうるところであり、今後さらに検討を深めるべき課題と思われます。

2009年12月18日金曜日

改正派遣法案の動向と松下PDP事件最高裁判決

 本日、労働政策審議会労働需給調整部会において、派遣法改正に向けた公益委員たたき台が示されました。同内容はこちらです。事前の報道のとおり、登録型派遣、製造業派遣の原則禁止とみなし雇用制度などが盛り込まれています。

 色々と論じべき課題が多い中、とりわけ注目されるのが、「同資料6 違法派遣の場合における直接雇用の促進」における④いわゆる偽装請負の場合です。

 同たたき台によれば、偽装請負の場合、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなすとしています。本日の審議会の席で厚労省側は、同申し込み時期は「違法派遣=偽装請負を行った時期であり、継続行為であればその端緒」と説明しました。また同申し込みに対して、派遣労働者が応諾した場合、ユーザー会社と雇用契約が締結されることとなりますが、その契約内容は派遣元との内容が引き継ぐと説明しておりました。つまり、元との間の契約が4ヶ月契約などの有期であれば、それがそのまま派遣先との契約内容となりますし、また賃金その他労働条件も原則として、元との内容がそのまま先に引き継ぐということになるとします。
 それでは、社宅の貸与などを元が行っていた場合、先はどうすればよいのかという問題も想定されます。これについて厚労省側は労働条件の引き継ぎが不能なものについては、労働条件変更(ユーザー企業が派遣労働者に対して)を行えば良いと説明しますが、なかなかミステリアスです。

 同みなし雇用制度について、三菱樹脂事件最高裁判決が認めた使用者の「雇傭の自由」に抵触するのではないかとする鋭い批判がなされておりました。これに対して、公益委員の先生から「公序良俗に反しない限り」との留保が同最高裁にもふされており、今回のみなし雇傭は違法派遣の場合にのみ適用されることから問題がないとの見解が示されました。しかし、この点はなお議論あるところと思われます(偽装請負とされる行為が全て「公序良俗違反」と解されるべきものか否かなど)。

  その一方、同日付けで松下PDP最高裁判決が示されました。まだ判決原文を確認しておりませんが、報道等によれば、ユーザー会社との雇用契約確認請求については大阪高裁判決を破棄した上で、原告敗訴(ただし高裁判決における慰謝料請求一部認容は維持した模様)を自判したとのことです(asahi.com記事はこちら)。

 最高裁が偽装請負時におけるユーザ会社との黙示の雇用契約成立を否定した一方、立法で偽装請負時のみなし雇用制度が創設されようとする点は、我が国のこれまでの立法制定過程を振り返ると、非常にちぐはぐな気もいたします。何よりも憲法29条等が保障する使用者の「雇傭の自由」を損なう立法であり、違憲立法審査の対象になりうるのではないか。法律畑から見ると、同派遣法たたき台は、憲法訴訟の対象になりうる懸念も感じております。

 いずれにせよ、年内には同建議が取りまとめられ、年明けの通常国会に改正法案が提出される見込みです。様々な懸念を払拭し、実務的に堪えうるものとなりうるのか引き続き注目しております。

 

労働者派遣制度の長い1日

 労働者派遣制度にとって、本日平成21年12月18日は歴史に残る1日になるやもしれません。

厚生労働省の労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会において、改正法案に向けた報告書案が示されるとともに、最高裁において松下PDP事件の上告審判決が下されると聞き及んでいます。

 この二つは、今後の労働者派遣制度、請負に大きな影響を与えることが必至であり、注目されるところです。

2009年12月17日木曜日

季刊労働法227号拙稿掲載について


 季刊労働法227号(最新号)に拙稿を掲載いただきました(こちら)。濱口先生のブログにおいて拙稿をご紹介を頂き、感激しております(こちら)。

 筑波大学労働判例研究会「東京労働局長ほか事件」の判例評釈です。筑波大学労働判例研究会に参加させていただいておりまして、その席で報告させていただいたものをまとめたものとなります。同報告および掲載に際しまして、筑波大学の川田先生、江口先生、田中さん、小田倉さんその他院生の方々に的確な指導・助言を頂きました。誠にありがとうございます。

 労働保険徴収法上の元請負人に「注文者」が含まれうるかという極めて地味な論点が争われた裁判例ではありますが、実務的には検討課題が多い事案です。派遣労働者に対する労災保険制度の在り方などに興味をお持ちの方もぜひ一読いただければ幸いです。ご参考になる点もあろうかと考えております。

2009年12月16日水曜日

企業年金制度変更のプロセスについて

 先日、上田憲一郎先生の講演について紹介しましたが、その解説の中で強調しておられたのが、年金制度変更に伴う制度周知の問題でした。どのような方法で、どこまで従業員に変更内容を説明しなければならないのか難しいと感じていたところ、今朝の朝日新聞朝刊にJAL企業年金の受給者団体の方のインタビュー記事が掲載されておりました。

 それを読むと、会社側が企業年金制度変更に伴う個々の年金減額の詳細を明らかにしないまま、制度変更の説明会、同意書聴取の手続きを進めていることに対して、一部の受給者の方々が反発しておられることが伺われます。

 たしかに個々の受給者に対して、個々の減額内容を事前に明らかにした上で、同意書を得るのが最善と思われますが、その一方、企業再建の中で同手続きを進めていることから、会社側としても、減額内容をフリーハンドで決定できる状況にないということも指摘できます。そのような中でなされるべき周知とは、どのようなものであるのか。今後、同種紛争が多発する恐れがある中、研究しておくべき課題と考えております。

2009年12月15日火曜日

雇用保険法の改正動向について

 来年1月からの通常国会提出に向けて、厚労省内の各審議会が報告書取りまとめを進めつつあります。雇用保険法改正については、労働政策審議会職業安定分科会において順調に審議が進められており、今月9日には「検討のたたき台」が示されました(こちら)。新聞等においても、すでに報道されています(こちら 共同通信)。
 大きな改正としては、雇用保険料率見直し、雇用保険の適用範囲、雇用保険の遡及適用の3つと思われますので、以下、たたき台の内容を紹介いたします。

 まず雇用保険料については、来年度から引き上げの方向でたたき台が取りまとめられています。

 (平成21年度雇用保険料率(一般)) 1000分の8 → (来年度案) 1000分の12

 本年度の雇用保険料率の引き下げはリーマンショック後の経済危機に伴う特例的措置でした。しかしながら雇用保険財政の悪化が進んでおり、来年度も引き続き特例措置を維持することは困難なようです。これに対して、雇用保険財政に対する国庫負担割合は法律の付則どおり4分の1に戻す方向でたたき台が示されました。

 次に雇用保険の適用範囲ですが、現在「週所定労働時間20時間以上、6カ月以上の雇用見込み」との適用基準がありますが、これを「週20時間以上、31日以上雇用見込みの者」に見直す旨、たたき台が示されています。セーフティネットの拡大という観点からの対応といえます。その一方、受給資格については従前通りとしていますので、今後、雇用保険に加入するも、受給資格が得られない短期パート・アルバイトが増加する懸念はあります(資料としては、こちら p6参照)。

 最後に雇用保険の遡及適用ですが、従来は被保険者であったことが確認された日から2年前まで遡及して雇用保険に遡及適用できますが、2年以上前の期間については、遡及適用されませんでした。今回のたたき台では、2年の遡及適用では十分に労働者側が救済されないとの批判等を受けて、「2年以上前の期間において、事業主から雇用保険料を控除されていたことが確認された場合については、2年を超えて遡及して適用できることとしてはどうか」とされました。
 また事業主から見て気になる記述として、以下のものがあります。「また2年を超える遡及適用の対象となった労働者を雇用していた事業主のうち、事業所全体として保険関係成立届を提出しておらず、保険料を納付していないことが明らかな場合には、保険料の納付に関し、事業主に対して一定の措置を講ずることを検討すべきではないか」。この一定の措置は明らかにされていませんが、事業主に対してなんらかのサンクションを科す可能性が示唆されるところであり、成案となった場合、その詳細が気になるところです。
 さらに雇用保険料未納の問題が生じる背景として、労働者に対する雇用保険被保険者証交付が十分に履行されていないことが指摘されています。同たたき台において「運用面での必要な改善を図るべき」とされており、これも成案になれば、実務担当者としては注視すべき改正点となりそうです。

 そのほか、マルチジョブホルダー等への対応については、当初、厚労省担当課がその取り組みに意欲的に見えましたが、今回の改正には含まれず、「引き続き検討」となりました。複数の事業場にかけもちで勤務する契約社員、パート・アルバイトが増加する傾向にあるため、今後また検討課題となることは必至と思われるところです。

 12月末までには、同審議会は報告書を取りまとめ、来年1月からの通常国会に改正法を提出する段取りが進められています。今後の動向を注視する要があります。

企業年金の給付引き下げについて

 昨日、「企業年金をめぐる最新判例動向と実務」(こちら)を聴講いたしました。上田憲一郎先生にお願いをして講演をいただいたものですが、大変分かりやすく、かつ丁重に企業年金の不利益変更に係る裁判例の動向をご解説いただきました。

 最近の裁判例として、自社年金のみならず、確定給付企業年金、厚生年金基金の給付引き下げ(受給者、在職者双方)、また適格退職年金制度廃止に伴う制度変更に係る給付引き下げが争われる事案などを紹介いただきました。

 昨年のリーマンショック以降、株式市場など乱高下しており、企業年金の資産運用が予断を許しません。今後ますます企業年金をめぐる法的紛争が増加すると思われますが、上田先生からは実務対応策など示唆に富むお話をいただき、大変参考になる講演でした。

 今朝、某社の企業年金問題が報じられておりましたが、昨日の勉強のお陰で同問題も大変、理解しやすいと感じた次第です(NEWSはこちら

2009年12月14日月曜日

「人を活かす働きかた」発刊について

 清水信義編著「人を活かす働きかた」(日本リーダーズ協会)が出版されました。ワークライフバランスとダイバーシティの実現に向けて、総論部分では清水先生そして各論において、多様な執筆者が論考を掲載しています。私も原稿を掲載していただきました。
 「サービス残業克服に向けて」p134以下
 いわゆるサービス残業問題について、社内OJTという切り口等から検討を行った論考です。最近も労災訴訟で技術士試験対策のための在宅学習と過重労働との関係が争われた事案なども登場しています。今後は、これらの裁判例の検討も踏まえて、もう少し検討を深め、実務対応策を考えていきたいと思うところです。

 ワークライフバランスという言葉だけが一人歩きしがちな問題に対して、多様な観点から議論を深め、かつ実務対応上参考となる論考が多く盛り込まれている本著はぜひお勧めをしたい一書です。
 

2009年12月2日水曜日

雇用調整助成金の支給要件緩和について

 昨日、厚労省HPに「雇用調整助成金の支給要件緩和」がUPされていました。

 雇用調整助成金は、言うまでもなく、厳しい経済情勢の中、従業員の雇用維持に努力する中小企業事業主を支援するため、休業等を行った事業主に休業手当、賃金等の賃金負担額の一部を助成する制度です。

 同助成金の受給を受ける際、申請企業は従来、次のような要件を満たす必要がありました(※その他要件などの詳細はHP等参照(こちら))。

●売上高又は生産量の最近3ヶ月間の月平均値がその直前3ヶ月又は前年同期に比べて5パーセント減少していること(ただし直近の決算等の経常損益が赤字であれば5パーセント未満の減少でも可)。

 しかしながら、リーマンショック以降の経済状況悪化の長期化が続く中、すでに売り上げ低迷が1年以上続いている企業も少なくありません。また昨年同期の生産量から見ると、若干の持ち直しはしたとはいえ、平常期から見ると、今なお生産量が大幅減少している企業なども見られるところです。

 しかしながら現状の基準では、上記企業については、生産量等の要件を満たさないこととなり、雇用調整助成金の支給がなされないということになります。昨日の見直しは、この点について要件緩和を行い、雇用調整助成金の継続支給に途を開くものといえます。

(緩和内容)
●売上高又は生産量の最近3ヶ月間の月平均値が前々年同期に比べ10パーセント以上減少していることに加え、直近の決算等の経常損益が赤字であること(ただし、対象期間の初日が平成21年12月2日から平成22年12月1日までの間にあるものに限る」。

 最近の円高、株安の動きから、一層、年の瀬が厳しくなる中、改めて雇用調整助成金について注目が集まるところと思われます。