マスコミ各紙において「「日本海庄や」過労死訴訟、経営会社に賠償命令」が大きく報じられています(以下、読売新聞)。同報道においても特記されているのが、役員の賠償責任を認めた点です。
5月25日11時27分配信 読売新聞
全国チェーンの飲食店「日本海庄や」石山駅店(大津市)で勤務していた吹上元康さん(当時24歳)が急死したのは過重な労働を強いられたことが原因として、両親が経営会社「大庄」(東京)と平辰(たいらたつ)社長ら役員4人に慰謝料など約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、京都地裁であった。
大島真一裁判長は「生命、健康を損なわないよう配慮すべき義務を怠った」として、同社と4人に対し、約7860万円の支払いを命じた。
原告側の弁護士によると、過労死を巡る訴訟で、役員の賠償責任を認めた司法判断は珍しいという。
判決によると、吹上さんは2007年4月に入社後、石山駅店に配属されたが、同8月11日未明、自宅で就寝中に急性心不全で死亡。死亡まで4か月間の時間外労働は月平均100時間以上で、過労死の認定基準(月80時間超)を上回り、08年12月に労災認定された。
大島裁判長は、同社が当時、時間外労働が月80時間に満たない場合は基本給から不足分を控除すると規定していたと指摘。「長時間労働を前提としており、こうした勤務体制を維持したことは、役員にも重大な過失がある」と述べた。
閉廷後に記者会見した母の隆子さん(55)は「従業員が過労死した企業には公表義務を課すなど、社会全体で厳しい目を向けて監視していく必要があると感じた」と語った。
大庄広報室は「まだ判決が届いておらずコメントできないが、今後は内容を十分に検討して対応する」としている。
役員の損害賠償責任を認めた根拠条文が報道では明らかではありませんが、恐らくは役員等の第三者に対する損害賠償責任を認めた会社法429条1項(旧商法266条の3)ではないかと思われます。
会社法429条1項 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
同法を根拠に安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を取締役にも連帯して支払うよう命じた裁判例は、これが初めてではありません。おかざき事件(大阪高判平成19年1月18日 労判940-58)が挙げられます。同事案については、濱口桂一郎先生のブログにおいてもすでに紹介されています。(こちら)。
おかざき事件は小規模会社における代表取締役の連帯責任が問われたものです。また本ブログにおいても、以前、残業手当請求に係る取締役の連帯責任を認めた裁判例を紹介したことがあります(こちら)。同事案も中小企業における取締役等の連帯責任が認められた事案です。
これに対して、上記事案は東証一部上場企業における役員の連帯責任を認めたものであり、この点で大きく異なります。更に報道記事によれば、「長時間労働を前提とした勤務体制、賃金制度の構築」が取締役の重過失を構成すると判示したとの事です。同判示部分については先例的な意義を有するものであり、今後、これが会社法429条1項に係る判例法理として形成されていくのか否か。同判断基準の適否とその適用、その射程など今後注意深く見守っていく要がありそうです。まずは同判決文をじっくりと勉強しなければなりません。
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