2009年12月31日木曜日

今年1年誠にありがとうございました

 今年も残すところあとわずかとなります。本年1年、誠にありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
 作家太宰治も仰ぎ見たであろう、三鷹駅近くの陸橋から見える富士山の遠望です。

2009年12月28日月曜日

「今後の労働者派遣制度の在り方について」の答申について

 本日(12月28日)、厚労省労働政策審議会は「今後の労働者派遣制度の在り方について」の答申を取りまとめました(こちら)。

 拙ブログで紹介した12月18日付けの公益委員たたき台がほぼそのまま成案化されたものですが、登録型派遣禁止について、一部業務(今後、詳細を具体化)の施行猶予を2年延長(計5年)する点と使用者側委員の反対意見付記(登録型、製造派遣禁止ならびにみなし雇用に対する反対意見)が新たに追加されています。

 いよいよ来年1月からの通常国会において、派遣法改正の審議が本格化することになります。現与党としては、参院選挙までの成立を目指すことになるため、是が非でも成立させると思われますが、雇用市場への影響と規制内容の明確性そして違憲への疑念の払拭はぜひとも、国会審議の場で切にお願いしたいものです。

2009年12月25日金曜日

金沢ぶらぶら散歩

 前月、大学1年時に入寮していた泉学寮同窓会が金沢で開催されました。またその翌週、石川県社労士会の講演にお招きいただき、不思議なことに2週続けて金沢を再訪。

 時間の合間にぶらぶらと金沢を散策途中、撮った1枚です(東山)。この狭い路地は自動車で行き来するのは大変ですが、散歩には最適です。

 迷路のような路地を歩き疲れた後の一杯がとても美味しい訳ですが、最近の東山界隈は、居心地のよいカフェ・洋食屋さんが増えて、旅行者には更に有り難い次第。

個人請負型就労者に関する研究会の動向について

 派遣法改正案の素となる審議会報告書の取りまとめが大詰めを迎えておりますが(直近の報告書案はこちら)、来年に向けて人事労務関連で注目すべき動きとして、「個人請負型就労者」をめぐる問題があります。

 厚労省は今年から「個人請負型就労者に関する研究会」を立上げ、精力的に開催しています。前回の研究会では、個人請負型就労者に関する裁判例の動向について、報告がなされています(こちら)。来年3月に報告案が取りまとめられる予定です(こちら)。

 雇用に対する規制(労働法・社会保険)が強化されればされるほど、個人請負等へシフトチェンジを行う動きが生じるのは、諸外国の例からみて明らかです。日本においても、派遣法規制の強化、あるいは有期雇用への規制が仮に強化されれば、この個人請負へのシフトが問題視されるようになることは必至と思われます。

 同研究会報告はただちに個人請負等に対し、何らかの規制を求めるものにはならないと予想されますが、労働者性判断に際するガイドライン等を示す可能性はあります。今後の厚労省の政策動向は注目されます。

2009年12月22日火曜日

松下PDP最高裁判決と不更新条項付き有期雇用契約雇い止め

 松下PDP最高裁判決が最高裁HPに掲載されました(こちら)。
 発注者との間に黙示の雇用契約が成立したか否かという争点がもっぱら注目されていますが、個人的には、有期雇用契約の雇い止めに係る最高裁判断に大変、注目しておりました。ここでは、その問題について雑感を述べます。

 本事件では、偽装請負が発覚し、労働局からの指導等を受けて、発注者が請負会社社員と次のような契約を締結しました。
 契約期間:平成17年8月22日から平成18年1月31日まで(ただし平成18年3月末日を限度として更新することあり)。

 請負会社社員(弁護士)は期間制限等について異議を留める旨、内容証明郵便送付をもって通知した上で、上記雇用契約を締結しています。

 発注者は同契約書の記載のとおり、平成18年1月31日付で雇用契約終了としましたが、本事案ではこのような雇い止めの可否も争われておりました。

 これについて、最高裁は本件有期雇用契約について次のとおり判示します。「雇用契約は1度も更新されていないうえ、上記契約の更新を拒絶する旨の上告人の意図はその締結前から被上告人および本件組合に対しても客観的に明らかにされていたということができる。」

 「そうすると、上記契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないことはもとより、被上告人においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合にもあたらないものというべき」とし、「上告人による雇い止めが許されないと解することはできず、上告人と被上告人との間の雇用契約は、平成18年1月31日をもって終了したものといわざるを得ない」と結論づけました。

 事例判断ではありますが、まず異議留保が付された不更新条項付き有期雇用契約に「雇い止め法理」が適用されないことを初めて明らかにした最高裁判例と位置づけることが可能と思われます。

 ビジネスガイド2月号の拙稿(峰先生共著)「「2009年問題」に対応した有期雇用契約の法律実務」(こちら)を執筆していた時から抱えていた疑問に対する答えを頂いた気がしております(同稿では、そのほか不更新条項に係る最近の裁判例等を解説しておりますので、ご覧いただければ幸いです。)

 しかしながら、最高裁判決を更に読み進めますと、次の疑問が生じます。本最高裁判決は、請負会社社が労働局に偽装請負等の申告をしたことに対し、発注会社が不利益取り扱いを行ったことを認め、慰謝料請求認容した高裁判断は維持しました(90万円)。

 問題はここでいう不利益取り扱いが何かということですが、「リペア作業」を行わせたということとともに「被上告人の雇止めに至る上告人の行為も、上記申告以降の事態の推移を全体としてみれば上記申告に起因する不利益取扱いと評価せざるを得ないから・・不法行為にあたるとした原審の判断も、結論において是認することができる」としています。
 さらに今井判事の補足意見を見ると、「雇い止めについても、これに至る事実関係を全体としてみれば、やはり上記申告に対する不利益取り扱いといわざるを得ない」と判示しました。

 どうも上記説示から見ると、本最高裁は本件雇い止めが派遣法49条の3に反する解雇そのほか不利益取り扱いにあたると解しているように読めます。とすれば、改めて雇い止め自体が無効となりえないのか。そのような疑問も生じるところです。これに対して、前述のとおり、不更新条項が付されていることから本件については、「雇い止め法理」は適用されず、ただ損害賠償請求のみ生じうるという見解もありうるところであり、今後さらに検討を深めるべき課題と思われます。

2009年12月18日金曜日

改正派遣法案の動向と松下PDP事件最高裁判決

 本日、労働政策審議会労働需給調整部会において、派遣法改正に向けた公益委員たたき台が示されました。同内容はこちらです。事前の報道のとおり、登録型派遣、製造業派遣の原則禁止とみなし雇用制度などが盛り込まれています。

 色々と論じべき課題が多い中、とりわけ注目されるのが、「同資料6 違法派遣の場合における直接雇用の促進」における④いわゆる偽装請負の場合です。

 同たたき台によれば、偽装請負の場合、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなすとしています。本日の審議会の席で厚労省側は、同申し込み時期は「違法派遣=偽装請負を行った時期であり、継続行為であればその端緒」と説明しました。また同申し込みに対して、派遣労働者が応諾した場合、ユーザー会社と雇用契約が締結されることとなりますが、その契約内容は派遣元との内容が引き継ぐと説明しておりました。つまり、元との間の契約が4ヶ月契約などの有期であれば、それがそのまま派遣先との契約内容となりますし、また賃金その他労働条件も原則として、元との内容がそのまま先に引き継ぐということになるとします。
 それでは、社宅の貸与などを元が行っていた場合、先はどうすればよいのかという問題も想定されます。これについて厚労省側は労働条件の引き継ぎが不能なものについては、労働条件変更(ユーザー企業が派遣労働者に対して)を行えば良いと説明しますが、なかなかミステリアスです。

 同みなし雇用制度について、三菱樹脂事件最高裁判決が認めた使用者の「雇傭の自由」に抵触するのではないかとする鋭い批判がなされておりました。これに対して、公益委員の先生から「公序良俗に反しない限り」との留保が同最高裁にもふされており、今回のみなし雇傭は違法派遣の場合にのみ適用されることから問題がないとの見解が示されました。しかし、この点はなお議論あるところと思われます(偽装請負とされる行為が全て「公序良俗違反」と解されるべきものか否かなど)。

  その一方、同日付けで松下PDP最高裁判決が示されました。まだ判決原文を確認しておりませんが、報道等によれば、ユーザー会社との雇用契約確認請求については大阪高裁判決を破棄した上で、原告敗訴(ただし高裁判決における慰謝料請求一部認容は維持した模様)を自判したとのことです(asahi.com記事はこちら)。

 最高裁が偽装請負時におけるユーザ会社との黙示の雇用契約成立を否定した一方、立法で偽装請負時のみなし雇用制度が創設されようとする点は、我が国のこれまでの立法制定過程を振り返ると、非常にちぐはぐな気もいたします。何よりも憲法29条等が保障する使用者の「雇傭の自由」を損なう立法であり、違憲立法審査の対象になりうるのではないか。法律畑から見ると、同派遣法たたき台は、憲法訴訟の対象になりうる懸念も感じております。

 いずれにせよ、年内には同建議が取りまとめられ、年明けの通常国会に改正法案が提出される見込みです。様々な懸念を払拭し、実務的に堪えうるものとなりうるのか引き続き注目しております。

 

労働者派遣制度の長い1日

 労働者派遣制度にとって、本日平成21年12月18日は歴史に残る1日になるやもしれません。

厚生労働省の労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会において、改正法案に向けた報告書案が示されるとともに、最高裁において松下PDP事件の上告審判決が下されると聞き及んでいます。

 この二つは、今後の労働者派遣制度、請負に大きな影響を与えることが必至であり、注目されるところです。

2009年12月17日木曜日

季刊労働法227号拙稿掲載について


 季刊労働法227号(最新号)に拙稿を掲載いただきました(こちら)。濱口先生のブログにおいて拙稿をご紹介を頂き、感激しております(こちら)。

 筑波大学労働判例研究会「東京労働局長ほか事件」の判例評釈です。筑波大学労働判例研究会に参加させていただいておりまして、その席で報告させていただいたものをまとめたものとなります。同報告および掲載に際しまして、筑波大学の川田先生、江口先生、田中さん、小田倉さんその他院生の方々に的確な指導・助言を頂きました。誠にありがとうございます。

 労働保険徴収法上の元請負人に「注文者」が含まれうるかという極めて地味な論点が争われた裁判例ではありますが、実務的には検討課題が多い事案です。派遣労働者に対する労災保険制度の在り方などに興味をお持ちの方もぜひ一読いただければ幸いです。ご参考になる点もあろうかと考えております。

2009年12月16日水曜日

企業年金制度変更のプロセスについて

 先日、上田憲一郎先生の講演について紹介しましたが、その解説の中で強調しておられたのが、年金制度変更に伴う制度周知の問題でした。どのような方法で、どこまで従業員に変更内容を説明しなければならないのか難しいと感じていたところ、今朝の朝日新聞朝刊にJAL企業年金の受給者団体の方のインタビュー記事が掲載されておりました。

 それを読むと、会社側が企業年金制度変更に伴う個々の年金減額の詳細を明らかにしないまま、制度変更の説明会、同意書聴取の手続きを進めていることに対して、一部の受給者の方々が反発しておられることが伺われます。

 たしかに個々の受給者に対して、個々の減額内容を事前に明らかにした上で、同意書を得るのが最善と思われますが、その一方、企業再建の中で同手続きを進めていることから、会社側としても、減額内容をフリーハンドで決定できる状況にないということも指摘できます。そのような中でなされるべき周知とは、どのようなものであるのか。今後、同種紛争が多発する恐れがある中、研究しておくべき課題と考えております。

2009年12月15日火曜日

雇用保険法の改正動向について

 来年1月からの通常国会提出に向けて、厚労省内の各審議会が報告書取りまとめを進めつつあります。雇用保険法改正については、労働政策審議会職業安定分科会において順調に審議が進められており、今月9日には「検討のたたき台」が示されました(こちら)。新聞等においても、すでに報道されています(こちら 共同通信)。
 大きな改正としては、雇用保険料率見直し、雇用保険の適用範囲、雇用保険の遡及適用の3つと思われますので、以下、たたき台の内容を紹介いたします。

 まず雇用保険料については、来年度から引き上げの方向でたたき台が取りまとめられています。

 (平成21年度雇用保険料率(一般)) 1000分の8 → (来年度案) 1000分の12

 本年度の雇用保険料率の引き下げはリーマンショック後の経済危機に伴う特例的措置でした。しかしながら雇用保険財政の悪化が進んでおり、来年度も引き続き特例措置を維持することは困難なようです。これに対して、雇用保険財政に対する国庫負担割合は法律の付則どおり4分の1に戻す方向でたたき台が示されました。

 次に雇用保険の適用範囲ですが、現在「週所定労働時間20時間以上、6カ月以上の雇用見込み」との適用基準がありますが、これを「週20時間以上、31日以上雇用見込みの者」に見直す旨、たたき台が示されています。セーフティネットの拡大という観点からの対応といえます。その一方、受給資格については従前通りとしていますので、今後、雇用保険に加入するも、受給資格が得られない短期パート・アルバイトが増加する懸念はあります(資料としては、こちら p6参照)。

 最後に雇用保険の遡及適用ですが、従来は被保険者であったことが確認された日から2年前まで遡及して雇用保険に遡及適用できますが、2年以上前の期間については、遡及適用されませんでした。今回のたたき台では、2年の遡及適用では十分に労働者側が救済されないとの批判等を受けて、「2年以上前の期間において、事業主から雇用保険料を控除されていたことが確認された場合については、2年を超えて遡及して適用できることとしてはどうか」とされました。
 また事業主から見て気になる記述として、以下のものがあります。「また2年を超える遡及適用の対象となった労働者を雇用していた事業主のうち、事業所全体として保険関係成立届を提出しておらず、保険料を納付していないことが明らかな場合には、保険料の納付に関し、事業主に対して一定の措置を講ずることを検討すべきではないか」。この一定の措置は明らかにされていませんが、事業主に対してなんらかのサンクションを科す可能性が示唆されるところであり、成案となった場合、その詳細が気になるところです。
 さらに雇用保険料未納の問題が生じる背景として、労働者に対する雇用保険被保険者証交付が十分に履行されていないことが指摘されています。同たたき台において「運用面での必要な改善を図るべき」とされており、これも成案になれば、実務担当者としては注視すべき改正点となりそうです。

 そのほか、マルチジョブホルダー等への対応については、当初、厚労省担当課がその取り組みに意欲的に見えましたが、今回の改正には含まれず、「引き続き検討」となりました。複数の事業場にかけもちで勤務する契約社員、パート・アルバイトが増加する傾向にあるため、今後また検討課題となることは必至と思われるところです。

 12月末までには、同審議会は報告書を取りまとめ、来年1月からの通常国会に改正法を提出する段取りが進められています。今後の動向を注視する要があります。

企業年金の給付引き下げについて

 昨日、「企業年金をめぐる最新判例動向と実務」(こちら)を聴講いたしました。上田憲一郎先生にお願いをして講演をいただいたものですが、大変分かりやすく、かつ丁重に企業年金の不利益変更に係る裁判例の動向をご解説いただきました。

 最近の裁判例として、自社年金のみならず、確定給付企業年金、厚生年金基金の給付引き下げ(受給者、在職者双方)、また適格退職年金制度廃止に伴う制度変更に係る給付引き下げが争われる事案などを紹介いただきました。

 昨年のリーマンショック以降、株式市場など乱高下しており、企業年金の資産運用が予断を許しません。今後ますます企業年金をめぐる法的紛争が増加すると思われますが、上田先生からは実務対応策など示唆に富むお話をいただき、大変参考になる講演でした。

 今朝、某社の企業年金問題が報じられておりましたが、昨日の勉強のお陰で同問題も大変、理解しやすいと感じた次第です(NEWSはこちら

2009年12月14日月曜日

「人を活かす働きかた」発刊について

 清水信義編著「人を活かす働きかた」(日本リーダーズ協会)が出版されました。ワークライフバランスとダイバーシティの実現に向けて、総論部分では清水先生そして各論において、多様な執筆者が論考を掲載しています。私も原稿を掲載していただきました。
 「サービス残業克服に向けて」p134以下
 いわゆるサービス残業問題について、社内OJTという切り口等から検討を行った論考です。最近も労災訴訟で技術士試験対策のための在宅学習と過重労働との関係が争われた事案なども登場しています。今後は、これらの裁判例の検討も踏まえて、もう少し検討を深め、実務対応策を考えていきたいと思うところです。

 ワークライフバランスという言葉だけが一人歩きしがちな問題に対して、多様な観点から議論を深め、かつ実務対応上参考となる論考が多く盛り込まれている本著はぜひお勧めをしたい一書です。
 

2009年12月2日水曜日

雇用調整助成金の支給要件緩和について

 昨日、厚労省HPに「雇用調整助成金の支給要件緩和」がUPされていました。

 雇用調整助成金は、言うまでもなく、厳しい経済情勢の中、従業員の雇用維持に努力する中小企業事業主を支援するため、休業等を行った事業主に休業手当、賃金等の賃金負担額の一部を助成する制度です。

 同助成金の受給を受ける際、申請企業は従来、次のような要件を満たす必要がありました(※その他要件などの詳細はHP等参照(こちら))。

●売上高又は生産量の最近3ヶ月間の月平均値がその直前3ヶ月又は前年同期に比べて5パーセント減少していること(ただし直近の決算等の経常損益が赤字であれば5パーセント未満の減少でも可)。

 しかしながら、リーマンショック以降の経済状況悪化の長期化が続く中、すでに売り上げ低迷が1年以上続いている企業も少なくありません。また昨年同期の生産量から見ると、若干の持ち直しはしたとはいえ、平常期から見ると、今なお生産量が大幅減少している企業なども見られるところです。

 しかしながら現状の基準では、上記企業については、生産量等の要件を満たさないこととなり、雇用調整助成金の支給がなされないということになります。昨日の見直しは、この点について要件緩和を行い、雇用調整助成金の継続支給に途を開くものといえます。

(緩和内容)
●売上高又は生産量の最近3ヶ月間の月平均値が前々年同期に比べ10パーセント以上減少していることに加え、直近の決算等の経常損益が赤字であること(ただし、対象期間の初日が平成21年12月2日から平成22年12月1日までの間にあるものに限る」。

 最近の円高、株安の動きから、一層、年の瀬が厳しくなる中、改めて雇用調整助成金について注目が集まるところと思われます。

2009年11月20日金曜日

久々の書き込み



 今月は顧問先との打ち合わせ、執筆、講演と「懇親会」(?)が五月雨式に続き、ブログへの書き込みがなかなかできませんでしたが、久々ながら再開いたします。


 M先生のアドバイスを受けて、CX2というデジタルカメラを購入いたしました。今後は下手な映像が増えると思いますが、ご容赦のほどを。
 講演先駅近くの名城 福山城です。

2009年10月30日金曜日

富士山


 先日、出張途中に楽しんだ富士山の美景です。

 久しぶりに仰ぎ見ましたが、心が洗われる思いが致します。
 最近読んだ関川夏央「「坂の上の雲」と日本人」」(こちら)は、司馬遼太郎の同著がたびたび引用されるのですが、「富士山」が持つ象徴的意味を改めて感じさせられました。
 今日も良い天気ですので、うまく行くと富士山がみれるかもしれません。期待しております。


2009年10月29日木曜日

新型インフルエンザに伴う休業手当Q&A(厚労省)について

 厚労省HPに「新型インフルエンザに関連して労働者を休業させる場合の労働基準法上の問題に関するQ&A」が掲載されました(こちら)。

 内容については以下のとおりであり、O157流行時に示された考え方と基本的に同一のものです(詳細についてはQ&A参照)。

●新型インフルエンザに感染し、医師等による指導により労働者本人が休業する場合 → 休業手当の支払い義務なし

●感染の有無が定かでないが、発熱など一定の症状がある場合 → 本人が自発的に休む場合は通常の病欠と同様。これに対し、会社側が「熱37度以上」を一律休業させる措置を取る場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、休業手当の支払い義務有り。

●濃厚接触者については、保健所からの「協力要請等」により休業させる場合 → 休業手当の支払い義務なし。これに対して、会社側の自主的判断あるいは保健所による協力要請の範囲を超えた休業については、休業手当の支払い義務あり(同僚・家族が感染した場合、いずれも同じ)。

 また年次有給休暇の利用については、会社側が「一方的に取得させることはできない」と釘をさしていますが、当然ながら本人が上記休業の際、年休権を行使すること自体は否定されていません。

 感染者が病欠することは当然として、かねてからの問題は濃厚接触者への対応でした。これについて上記Q&Aを見ると、保健所による「協力要請等」がポイントとなる訳ですが、近隣の保健所に確認をしたところ、流行中の新型インフルエンザの弱毒性が確認された以降については、濃厚接触者に対する「自宅待機」などの「協力要請等」は行っていないとのことです。おそらく現状においては、全国的にも同様の対応と思われます。

 とすれば、当面、会社が濃厚接触者を休業させるにしても、最低限、平均賃金の6割を休業手当として支払う必要があるということになりそうです。

 しかしながら、同通達は明らかに現状の新型インフルエンザの弱毒性を前提としています。これが万が一、強毒化した新型インフルエンザが登場した場合、同様の見解で良いか改めて考える必要がありそうです。

2009年10月16日金曜日

求職と生活保護、ハローワークで一括申請の動きについて

 今朝の読売新聞等に標記の記事が掲載されていました。「求職と生活保護、ハローワークで一括申請へ」(こちら)。一般論として、いろいろな役所に行かなくても済むことは、利用者にとって誠にありがたい話ではあります。

 しかしながら、この問題は申請窓口一本化で済む話とは思えません。ハローワークの就職斡旋、雇用保険給付等と市町村の生活保護との関係性をどのように構築するかが、まず議論されるべき問題のように思われます。

 とりわけ生活保護法4条でいうところの保護の補足性原則(「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」) において求める「能力の活用」の意義について、従前の行政解釈どおりとするのか、あるいは全く新たな定義とするのかによって、実務対応と制度設計の在り方が大きく異なってくるように思われます(詳細については、加藤智章ほか「有斐閣アルマ社会保障法(第三版)」335頁以下(有斐閣,2007)参照。

 いずれにしても、国民および利用者がそれぞれ納得感を持ち、かつ真に役立つ制度設計と実務運用を目指す必要があることは、今も昔も変わらない永遠の課題です。
 

2009年10月14日水曜日

「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」紹介HP他


 お陰さまで今年7月に峰隆之弁護士と共著で出版させていただいた同著の売れ行きが好調のようです。
先日、出版元の日本法令様から増刷の報が届きました。末永く版を重ねられる書籍を峰先生、編集担当のSさん、Mさんともども目指しておりましたので、まずはその一歩ということで感慨無量です。

 同著の紹介が月刊「人材教育」HPに掲載されておりました(こちら)。著者の意図を的確に掴んでいただいた案内を掲載いただき、誠に有難い次第です。

 また今月末に発売される「ビジネス法務12月号」(中央経済社 HPはこちら)に拙稿「ダラダラ残業防止のための就業規則」が掲載される予定です。同著をコンパクトにまとめた論考ですので、こちらもご参考までにご覧いただければ幸いです。

2009年10月7日水曜日

鳩山政権における労働政策の始動ー雇用保険・派遣法ー

厚生労働省における労働政策立案がようやく動き出し始めたようです。

①雇用保険法について(労働政策審議会雇用保険部会 資料(こちら))
  ⇒短時間就労者の適用拡大、マルチジョブホルダー対応ほか

②派遣法改正について(労働政策審議会への諮問 こちら

 派遣法については、前回紹介した長妻大臣会見のとおり、しっかりと審議会で3者間で審議し直した上で、政府法案を提出することに決したということになろうかと思います。同審議においては、前回の提出法案における措置事項のほか、次の宿題が示されています(検討事項)。

・製造業務への派遣や登録型派遣の今後の在り方
・違法派遣の場合の派遣先との雇用契約の締結促進 (※諮問文でここまで書くのですね・・)
・派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進のために追加的に措置すべき事項

 日程的に見ると、やはり改正法案は来年1月からの通常国会提出を念頭に置いているということでしょうか。

 これから雇用保険・派遣法案について、審議会における審議が進められていくこととなりますが、その審議の進め方なども含め、大変注目されるところです。

 

2009年9月28日月曜日

最近みた映画ー空気人形ーのことなど


 是枝監督の新作で、しかもペ・ドゥナが主演しているからには見ない訳にはいかぬと思い、公開初日に立川まで見に行ってまいりました(映画公式HPはこちら)。

 深い味わいの残る作品ですので、軽はずみに「感動した」などと言えないのですが、しばらくは時折この映画のことを思い出しては、色々と物思いにふけることとなりそうです。特に主人公たちの隣人である父娘をどう見るかについて、個人的に宿題としております。

 それにしても、東京の風景は美しくも、儚いものですね。本作の撮影は、ウォン・カーウァイ監督の「花様年華」などで知られるリー・ピンビン氏が担当されたとのことですが、月島の風景など忘れ難いものがあります(ぜひ公式HPをご覧ください)。

 現代東京の街とそこに住み人々に関心がある外国の方には、末永く良いガイドになることでしょう。

2009年9月26日土曜日

山梨のぶどう狩り


 先日、JRのお座敷列車にのって、ぶどう狩りに行ってきました。最寄駅から約1時間半ほどで、全くの別世界に行けるというのは、本当に有難い。また、お座敷列車は快適そのもの。















 巨峰が美味しそうに実っていました。

2009年9月25日金曜日

派遣法改正の動向について


 厚労省HPに長妻大臣の記者会見がUPされております(こちら)。この中に派遣法改正に関するコメントが以下のとおり、掲載されております。

(記者)

派遣労働についてですが、製造業派遣の原則禁止などを盛り込んだ労働者派遣法の改正案はいつ提出されるおつもりかということと、労政審議会の議論を経るなど、これまでどおりの手続きを踏んでいくのでしょうか。

(大臣)

通常国会で野党として法案を提出いたしましたが、これについては、我々は製造現場への労働者派遣は原則禁止ということを言っております。ただ、例外的に、製造現場における専門業務については例外だということで、その定義も我々持っておりますけれども、実際には政令で定めるということになりますので、これについては、現場に詳しい専門家を交えた検討というのも欠かせないと考えておりますので、そういうプロセスを辿って実施に向かっていきたいと考えております。決めるプロセスについては、与党ですから議員立法ということがあるのかないのか、あるいは閣法の場合は決められたプロセスがあるわけですので、十分関係各所とも御相談のうえ、進めていきたいと考えております。

 衆院解散前の通常国会において、すでに民主党・社民党・国民新党3党が合同で派遣法改正案を提出しています(こちら なお衆院解散のため、廃案)。同法案を再度提出し、速やかな成立を目指す可能性が指摘されておりましたが、大臣会見を見ると、「現場に詳しい専門家を交えた検討というのも欠かせない」「プロセスを辿って実施に向かっていきたい」などとコメントしています。これを見ると、改めて専門家による研究会および厚労省内の審議会で公益・労・使の3者で議論の上、法案を取りまとめていく意向が強いように思われるものです。今後の動向が注目されるところです。

 なお厚労省の副大臣に細川律夫氏が就任することとなりました。細川氏は野党3党による派遣法改正案の取りまとめなどを行っており、労働政策のかじ取りは主に同副大臣が行うこととなりそうです(細川副大臣のHPにおけるコメントとして、こちら)。


2009年9月17日木曜日

松下PDP事件上告審の弁論指定について


 松下PDP事件上告審について、最高裁第2小法廷は上告受理の上、弁論指定を行った旨、報じられております(時事ドットコム こちら)。最高裁が弁論指定を行う場合は、控訴審判決の見直しを行うことが通例とされています。

 松下PDP控訴審判決については、社会的に大きな注目を浴びましたが、労働法学上も「黙示の契約成立の成否」、「派遣法違反と職安法違反(労働者供給事業の禁止)との関係」などの論点について、議論が絶えないところです。

 最高裁がこれらの論点に対して、まとまった判断を示すことが確実ともいえ、来年には示されるであろう判決が大変注目されるところです。

2009年9月16日水曜日

人事のこと


 nikkei newsによると厚生労働大臣に長妻氏が内定とのこと(こちら)。これからの厚生・労働行政をどのように展開されるのか、また今後、行政内部がどうなるのか、興味が尽きません。

 ただ一つ願うことは、日々の地道な仕事もしっかりと見据えた上で、大臣の職責を果たしていただきたいということでしょうか。

改正労基法における中小事業主の範囲について

 最近、来年4月から施行される改正労基法への対応に係る相談が増えてきています。その相談の中で多いものの一つとして、中小事業主の範囲があります。

 今回の改正では、月間60時間を超える時間外労働に対して、割増賃金率が5割に引き上げられたものですが、中小事業主については、その適用が猶予されることになりました(※法施行から3年経過後に改めて検討予定)。

 問題は、この中小事業主の範囲です。今回の改正法では猶予される中小事業主の範囲を次のとおり定めます。

 ①資本金の額若しくは出資の総額が
    小売業 5000万以下
    サービス業 5000万以下
    卸売業   1億円以下
    上記以外 3億円以下
または
 ②常時使用する労働者数が
    小売業 50人以下
    サービス業 100人以下
    卸売業   100人以下
    上記以外  300人以下
※事業場単位ではなく、企業(法人または個人事業主)単位で判断。また労働者数にパート・アルバイトは原則として含まれる(ただし日々雇用等は除く 中小企業庁Q&A Q4参照(こちら))。

 この①または②いずれかを満たした事業が、特別割増賃金引き上げが猶予される中小事業主となります。したがって、例えば小売業で労働者数が150人いるが、株式会社で資本金が1000万に留まる場合は、ここでいう「中小事業主」に該当し、特別割増については適用が猶予されることになります。

 分かりにくいのが、ここでいう業種の判別です。例えば、飲食業を例にしてみると、一般にはサービス業にあてはめられると思われます。その一方、総務省統計局が出している日本標準産業分類に目を転じると、大分類で独自に「M 飲食店・宿泊業」が設けられており、「Q サービス業」と異なる区分をされています(日本標準産業分類はこちら)。その上、中小企業庁が中小企業基本法に定める中小企業者の定義Q&Aをみると、何と飲食店は小売業と同じ取扱いをするとの表記があるものです(こちら Q9参照)。

 ここまで調べて頭がくらくらしてきましたので、管内の労基署に確認したところ、「局に聞いてください」との回答(このような対応は如何なものか・・・・)。そこで労働局労働時間課に確認したところ、大変、明快な表をご紹介いただきました。東京労働局HP等に中小企業の業種一覧がUPされております(こちら)。

 ちなみに施行通達には以下の記載が見られます。「法第138条の中小事業主」の判断における業種の分類は、日本標準産業分類(平成21年総務省告示第175号に基づくものであること」。どうも解せない気がいたしますが、まずはこの表をもって業種の判断をおこなうこととなります。

 先の飲食店については、一覧をみると、中小企業基本法に従い、「小売業」に該当することとしています。同様に「医療・福祉」、「教育・学習支援業」などは日本標準産業分類の大分類において独立していますが、「サービス業」に該当することとなります。なお「社労士事務所」「弁護士事務所」などの「学術研究、専門・技術サービス業」も大分類上独立していますが、同じく「サービス業」に該当するとのこと。資本金が5000万を超え、かつ常時使用する労働者数が100名を超えている同業者様がいらっしゃれば、改正労基法が晴れて全面適用されることになりますが、存在するのか否か、大変興味があるところです(笑)。

 改正労基法の中小事業主の適用範囲のとおり、「その他の業種」にあたるか、あるいは「小売」「卸売」「サービス業」か否かで、その労働者数および資本金等が大きく異なってきます。改めて、同表に照らし、自社がどの業種にあたるのか確認することが肝要です。

 なお一つの事業主が複数の業種にまたがる事業展開を行っている場合は、施行通達において以下の記載が見られます。ご参考ください。「一の事業主が複数の業種に該当する事業活動を行っている場合には、その主要な事業活動によって判断されるものであること。主要な事業活動とは、過去1年間の収入額・販売額、労働者数・設備の多寡等によって実態に応じて判断されるものであること」。

2009年9月11日金曜日

夏休みの宿題を提出して



 昨日、労働法律旬報2009.10月上旬号掲載予定の「東芝事件判例評釈」を出版社に校正戻しをいたしました。夏休みの宿題をようやく提出し終えたような気がしてなりませんが、もう季節は秋。すでに2週間ほどの提出期限超えで、学校であれば不可となることでしょう(笑)。

 保育園はもうあきまつりを迎えています。

2009年9月3日木曜日

労働条件履行確保と事業許可取り消し(タクシー業)


 国土交通省が過重労働等を理由に、都内大手タクシー業者に対し事業許可取り消し処分を行ったことが報じられています(asahi.com 09.09.01)。

 同事案の詳細については、国土交通省関東運輸局HPでプレス発表をUPしていました(こちら)。それを見ると、指導の経緯と内容が一覧表の形で分かりやすく紹介されています。

 これをみると、A営業所が平成19年に陸運から指導されていたにもかからわず、その後、改善が見られず、労基署の監督指導⇒陸運への情報提供⇒陸運当局の2度目の厳しい指導 という流れが見てとれます。

 改善基準告示(参考資料としてこちら)における拘束時間、休息時間に係る指導に対する改善が見られなかったことが、今回の厳しい行政対応の背景にあるように思われます。とくに平成21年2月の指導にある「指導監督不適切」には、陸運当局の強い姿勢が感じられます(運輸規則条文はこちら)。

 本件とは別の動きですが、最近では、国土交通省は社会保険料未納付(健保・厚生年金・労災・雇用保険)についても、道路貨物運送業者等の監査事項としており、違反が見られた場合、車両停止などの行政処分を行っています(こちら)。

 省庁縦割りと言われ続けていますが、以上の動きにみられるとおり、厚生労働行政と国土交通行政が連携を取り、労働条件・社会保険制度監督への取り組みが見られるところです。柔軟かつ多様な「労働基準等」の履行確保手法の好例といえるでしょう。

 ただし、その基準が公平なものであり、かつ明確であることが必要不可欠と思われます。ここで基準自体に不公平感、不明確さが残れば、監督指導を受ける側には混乱と不満しか残りません。その点については、更に検討が必要でしょう。

2009年8月28日金曜日

労働審判制度の動向その他

 昨日は労働法学研究会例会「労働審判の実務マニュアルー労働者側代理人の立場から」(こちら)を聴講いたしました。講師の棗一郎弁護士に、大変丁重で分かりやすいご講演を頂き、労働審判に対する理解を深めたものです。

 講演の中で大変、印象的であったのは、労働審判を含めた裁判所への個別労働紛争事件の係争件数の推移です。労働審判制度発足までは、仮処分事件含めて年間3000件程度で推移していたものが、制度発足後、労働審判が急速に件数を伸ばすとともに、本裁判もさほど減少傾向をみせず、昨年度実績で5400件に達しています(最高裁行政局調べ)。今年度は不況の影響からか、更に伸びが顕著で、このまま推移すれば6000件の大台を超える可能性があるとのことでした。

 その順調な件数増加の要因は、何よりも労働審判制度の迅速性・簡便性・公平性が労使双方から高く評価されていることにあるようです。また昨日の講演で、勉強になりましたのは、労働審判制度の間口の広さです。労働審判は簡易迅速性が求められるため、労働事件の中でも複雑困難な事案は、同制度になじまないと指摘されていました。とすれば、管理監督者性や賃金制度(職務手当等の残業代みなし)の性格、あるいは配転出向、労災民事損害賠償請求などは、労働審判では一見、無理に見えるところですが、労働審判はこれらの法的紛争にも、相応に対応しているようです。

 労働審判については、仮処分・本訴訟と異なり、判決文が公刊される訳ではなく、その実態が第三者から見えにくい制度です。今後も労働審判制度の現状とその動向について、裁判所はもちろん、労使双方の弁護士の先生に、ぜひ定期的な情報公開をお願い致したいところです。
※その取り組みの好例として、菅野和夫監修 日本弁護士会連合会編「ジュリスト増刊 労働審判事例と運用実務」。この中に棗一郎先生の論文も掲載されております(こちら)。

追記
 昨日、濱口先生ブログに本ブログをご紹介いただきました。誠にありがとうございます。先日の問題に一言付け加えると、労働基準の履行確保手段自体は多様であるべきであり、その一つの方法としての公契約による監視は大変有効な策だと考えます。これに対して、新たな「労働基準」を地方自治体がどのように策定すべきであるのか、また国の基準との位置づけをどのように考えるかについては、議論がさほど尽くされているようには思えないため、思いつくままに若干の論点提起をした次第です。

2009年8月26日水曜日

市条例による第2の最低賃金規制?


 昨日、asahi.comにおいて以下のニュースが配信されていました。「最低賃金、市が決定 千葉・野田市、業務委託契約条例案」(こちら)。

 同報道によれば、野田市が以下の条例案を9月の市議会に提出することを決めたようです。

 同条例案では、野田市が業者と一定金額以上の公共工事、業務委託契約(※施設清掃・機器の保守管理等に限定)を締結する際、同受注業者は「市長が定める最低賃金以上の給与」を支払わなければならないとし、これに違反した場合は、契約の解除、損害賠償請求を行うことができるとする他、下請け業者がこれに反した場合、受注者が連帯してその責任を負うことを求めるものです。

 また同市独自の最低賃金額の基準は「農林水産省と国土交通省が公共事業の積算に用いる労務単価や、市職員の給与条例を勘案して決める」としています。

 以前から、公共部門から民間への業務委託の拡大と、一般競争入札の広がりに伴い、受託業者に雇用される労働者の労働条件の低さが顕在化し、指摘され続けていました。何らかの対応が要請されていることはそのとおりと思いますが、その際も以下の点への考慮は必要ではないかと考えます。

・同一価値労働同一賃金の観点から見た公務員(これに準ずる職員)と業務受託業者等の労働者との労働条件格差(特に賃金)の問題

 ・上記問題に際して、民間市場における業務受託料金の水準をどのように考えるのか、あるいは同水準を考慮することなく、公務員給与水準に合わせる方向で対応するのか

 ・公務員給与水準をどのように考えるか

・市条例等で最低賃金額を設定する際の決定プロセス・関与者、その内容の合理性
(※国の最低賃金決定に準じ、公労使3者構成で協議・決定するのか、あるいは市独自で判断?)

・国の最低賃金制度との関係をどのように考えるか

 いずれにしても注目すべき動きであるといえ、今後の動向を追っていきたいと思います。


2009年8月20日木曜日

男性の育児休業取得率10%(2017年)は達成困難な数値目標か


 先日、新聞各紙で育児休業取得状況(厚労省発表 雇用均等基本調査)が報道されていました(nikkei news)。
 報道では育児休業取得率に焦点があてられ、中でも男性の取得率が低調である上(1.23%)、前年比で減少したことが、大きく報じられておりました。
 また取得期間の状況についても、女性の育児休業取得が10カ月から12カ月が3割近くを占める一方、男性は1ヵ月未満が大半である旨、報じられております。

 実は、男性の育児休業取得率を2017年までに「10%」に引き上げることが、政府のWLB行動指針の数値目標(こちら)で明記されておりますし、企業によっては次世代行動計画を策定し、ここに男性の取得率の数値目標を明記した例も多いように思われます。

 上記の調査結果からみると、数値目標達成が絶望的に見えるところですが、実は男性の育児休業取得「率」を向上させるヒントが、この調査結果に隠されているようにも思われます。それは取得期間です。前述のとおり、男性の取得日数は1ヵ月未満が大半を占めています。

 恐らく、この中には、妻が出産した直後の産後休暇中(産後8週間(労基法65条))に、夫が育児休業を取得したケースが相当程度含まれているように思われます。本ブログでも前述したとおり(こちら)、これは労使協定で、専業主婦(夫)の配偶者がいる労働者を制度の適用除外と定めた場合においても、妻の産後休暇中は育児休業を取得可能です。
 私の知る限りでは、このような取得例はあまり見聞きしておりませんでしたが、調査結果を見ると、まだ数は少ないとはいえ、上手に男性が育児休業を取得されている例があるのだなと感心した次第です。たしかに、妻が出産してから退院まで、そして生活が落ち着くまでは、いかに役立たずな旦那(私のことです)とはいえ、買い物・洗濯・掃除など少しは役に立つこともあるでしょう(笑)。また、その間(産後8週間内)、雇用保険からの育児休業給付があれば、会社からの補てんがなくても(あればなお良いですが)、1~2カ月程度は十分にやっていけるものと思われます。

 また先般からお伝えしているとおり、改正育児介護休業法が成立しました(こちら)。施行は来年夏頃を予定しているようですが、同改正では、更に男性の子育てができる働き方の実現を促すべく以下の制度等が新設されました。

・父母がともに育児休業を取得する場合、1歳2カ月(現行1歳)までの間に、1年間育児休業を取得可能とする(パパ・ママ育休プラス)。
・父親が出産後8週間以内で育児休業を取得した場合、再度、育児休業を取得可能とする。
・配偶者が専業主婦(夫)であれば育児休業の取得不可とすることができる制度を廃止する。
(これにあわせて、育児休業給付についても所要の改正)

 お父さんの中には、子が1歳になるまで何があるか分からないので、産後に育児休業を使うのはやめておこうと権利行使を控えていた方もいるやもしれません。また配偶者が専業主婦であるため、そもそも育児休業は使えないと誤解していた方も多いと思います(実はわたしめも・・)。今回の改正は、これらの障壁をなくすものといえ、上手に労使双方が利用することによって、男性の育児休業取得率が急激に増加する可能性を秘めていると思われます(1~2カ月の取得の限りにおいて、前言撤回)。

 そのように考えていくと、政府のWLB行動指針の目標数値(男性の育児休業取得率)は、十分に達成できるのではないでしょうか。もちろん、男性の育児休業期間についても、産後1~2カ月に限らず、今回の改正を活かして、更に上手く活用されるべきでしょう。

2009年8月19日水曜日

懐かしくなる味、八角

 北海道で食べる魚、たとえばニシン、ホッケは、いずれも大ぶりで脂が乗っており、美味この上ありません。

 しかし、それを上回る魅力ある魚として「八角」があります。写真で見てのとおり、外見はスマートとは言い難いのですが、一口食べてみると、その旨さに驚かされます。焼いても煮ても、うまい魚です。

 北海道とくに小樽まで足を延ばされた際は、ぜひとも地元の食堂、鮨屋でお試しあれ。

民主党マニフェスト・政策集にみる労働政策の考え方(雇用保険)

 民主党HPに政権政策(政権公約(マニフェスト))と民主党政策集「INDEX2009」が掲載されています。


 両者の関係について、産経NEWSに掲載された民主党政調幹部の言を借りれば、「われわれが選挙で国民に示して約束するのはマニフェストであり、政策集は公約ではない」(産経NEWS)とのことですが、政策集はマニフェストよりも、かなり詳細な記述がみられ、民主党の考え方を知る上で有意義です。


 ここでは、主に民主党マニフェストにおける労働政策(雇用保険)の記述を中心に紹介することとし、同政策集は必要に応じて、合わせて言及することといたします。


 マニフェストの3頁以下に、まず同工程表が掲載されています。この中には雇用対策として「雇用保険を非正規労働者に拡大適用、求職者支援等」が主要8項目の一つとして挙げられています。同工程表を見ると、この雇用対策については、平成22年に半分程度実施し、平成23年から同25年にかけて完全実施としており、予算規模として総額1.1兆円(4年)を見込んでいるようです。
 
 マニフェストの20頁以下では、雇用・経済部門のマニフェストの一つである雇用保険適用拡大について、以下の記載が見られます(こちら)。

38.雇用保険を全ての労働者に適用する
【政策目的】
○セーフティネットを強化して、国民の安心感を高める。
○雇用保険の財政基盤を強化するとともに、雇用形態の多様化に対応する。
【具体策】
○全ての労働者を雇用保険の被保険者とする。
○雇用保険における国庫負担を、法律の本則である1/4 に戻す。
○失業後1年の間は、在職中と同程度の保険料負担で医療保険に加入できるようにする。
【所要額】
3000 億円程度

 ところで現行では、週20時間以上でかつ6カ月以上の雇用見込みがある社員が雇用保険の適用対象者となります(こちら)が、「全て」とは具体的にどのような労働者まで想定しているのでしょうか。これについて、政策集p32には以下の記述が見られます(こちら)。

現在、雇用保険の被保険者となることができるのは、原則として6月以上の雇用の見込みがある場合ですが、31日以上の雇用期間がある全ての労働者を原則として、雇用保険の一般被保険者とすることとし、雇用のセーフティネットから排除されてきた非正規労働者のセーフティネットを拡充します。」

 同記述を前提とすれば、民主党案は週あたりの労働時間数を適用要件から除き、31日以上の雇用期間がある者全てを雇用保険の適用対象とすることを考えているようです。

 最近のハローワークにおける窓口指導を見ると、すでに6カ月以上の雇用見込みがある週20時間以上のパート社員については、雇い入れ段階からの加入を事業主に促す方向での指導が強められつつあります(こちら)。非正規雇用の比率が高い企業においては、現行法を前提としても、雇用保険適用への対応が急務といえると思われます。

 ところで民主党マニフェスト(雇用保険)の最後にある医療保険(失業後1年の間~)の記述は、趣旨・内容が分かりかねます(同指摘をすでに行っているものに、労務屋さんのブログ「吐息の日々~労働日誌~)(こちら))。

 分からないなりに以下、私なりの推察を行ってみます。まず離職者の医療保険加入を整理すると、現行法においても、健康保険加入者(サラリーマン)が離職の際、「任意継続被保険者」となることを選択できます。その際の保険料額は退職時の標準報酬月額×8.2%(9月以降は各都道府県で決定 上限が現行で月額22960円(こちら)となります。
 これに対し、任意継続を選ばず、離職者が市町村の国保に加入した場合、国保保険料の算出方法は、市町村の基準によって異なりますが、前年度年収が一定程度あれば、上限額年額47万円程度(月額で約4万円)になることが多いと思われます(保険料算出方法について、例えば札幌市であればこちら)。

 いずれにしても離職者が健康保険の被保険者資格を喪失した場合、任意継続にせよ、国保にせよ、医療保険額が増額するのは間違いのないところです。民主党マニフェストはこれに対し、離職1年間は前年度と同程度の保険料を維持の上、「医療保険」に加入できるようにするとのことですが、この医療保険は健康保険(任意継続)、国民健康保険どちらを指すのでしょうか。財政上は当然、任意継続の方が負担が少なく済みます(※なお離職者のうち、任意継続被保険者を選択せず、国保に移行した方の中には、「離職後20日以内の手続き」が不知のため、自らにとって有利であった任意継続制度に移行できなかった例が少なくないように思われます。)

 また健康保険料との差額は、いずれにしても月額で1万~3万円にも上ると思われますが、この差額をどこから手当するのでしょうか。全くの推測ですが、雇用保険の項目にこれが入っているということは、雇用保険の給付メニューに新たに同差額補てん分を追加することを想定されているのやもしれません。

 社会保障制度はその時々の政治・経済情勢や国民のニーズに制度構築が影響されますが、分かりやすい制度体系の構築が求められることも、最近の年金制度をめぐる議論で明らかになったところと思われます。雇用保険制度についても、個別ニーズの対応とともに、制度全体の目的やその体系を見失うことのない改正論議を一介の実務担当者として望むものです。

2009年8月13日木曜日

ビジネスガイド9月号への拙稿掲載について

 ビジネスガイド9月号(日本法令)に拙稿「施行後に予想される労基署監督・指導内容の変化と企業の対応策」が掲載されました(同号の案内はこちら)。

 来年4月の改正労基法施行に伴い、新たにどのような点が監督指導の対象となるのか、そしてこれに対する企業実務対策上の留意点を解説したものです。

 読者の方に少しでもお役に立つところがあれば、誠に幸いです。

 さぁ明日からの盆休み。山積している原稿書き・未読論文と格闘することといたしましょう(笑)。

 

2009年8月12日水曜日

大通公園の啄木


 石川啄木の碑は、北海道の各所で見られます。大通公園にあるのが、この銅像と碑です。

 刻まれているのが、「一握の砂」の一編

「しんしんと幅広き街の
秋の夜の
玉蜀黍の焼くるにほひを」

 ちょうど訪れたのが夏の暑い盛りでしたので、あまりピンとこないのですが、晩秋の人気がない大通公園でこの碑をみると、とてもしみじみとした情感が味わえます。

 ところで小樽駅前にも啄木の碑がありますが、昔から如何なものかという気がしております(色々な解釈がありうるのでしょうが・・)。

 「かなしきは小樽の町よ
  歌ふことなき人人の
  声の荒さよ 」

 今現在でいえば、小樽市民の「文化度」の高さは、道内でも随一と思われます。「歌ふ人々」は、今や東京よりも多いやもしれません(笑)。
 

2009年8月11日火曜日

北海道への旅

 先週、北大社会法研究会主催のクールセミナーに参加するべく、久しぶりに北海道を訪れました。その際、余市まで足をのばし、ニッカウイスキー工場見学へ。

 労働法・社会保障法研究者の先生方と一緒に訪れたためか、工場見学の案内をしていただいた方に、「従業員は何名くらいか?、ウィスキーを製造しない期間の対応は?」などと、あまりに無粋な質問をしてしまった次第。もはや職業病でせうか。

 それはさておき、同工場限定で試飲(有料)、販売しているシングルカスク25年、同20年は絶品です。お立ち寄りの際はぜひともお試しください(同工場のHPはこちら)。

 同工場で毎年、開催している「10年目のマイウイスキー」(1泊2日でウィスキー製造のお手伝いをさせていただき、10年後、そのウイスキーを受け取りに行くという余市工場の企画(こちら))のちらしを頂きました。子供と行くと、とても楽しそうな気が・・・(父親だけの妄想?)。近いうちにぜひとも行きたいものです。

2009年7月31日金曜日

改正パート法の施行状況と事例集の公表について

 先日、厚労省はパートタイム労働法の施行状況を公表しました(こちら)。
 平成20年度のパートタイム労働に関する相談件数と均等室の行政指導件数、紛争解決援助の状況が発表されておりますが、予想以上に積極的な行政指導状況が見られ、驚かされました。

 当初から改正パート法施行に伴い、労働条件の文書交付に係る指導は多いとは考えていましたが、公表資料によれば、転換推進措置に係る指導がそれを上回っています(労働条件文書交付約2100件に対し、転換推進措置が2953件)。
 また、これ以上に驚かされるのが、賃金の均衡待遇(9条)に係る指導件数の多さです(約1000件)。9条の賃金均衡待遇はいずれも努力義務規定ですが、均等室は同規定の遵守を行政指導をもって、積極的に指導している状況が伺えるところです。

 これに対し、改正パート法施行時に最も注目されていた「正社員と同視できる短時間労働者」に対する差別的取り扱いの禁止(8条)については、年間での行政指導件数が全国でわずか7件でした。また紛争解決援助において局長指導の申し立てがあったのが4件、均衡待遇調停会議に至っては全国でわずか3件(いずれも差別的取り扱い禁止の申し立て)とのことです。

 同公表結果をみると、改正パート法への対応は、差別的取り扱い禁止よりも、まずは労働条件明示と賃金制度の整備(職務内容、勤続年数、意欲等の客観的評価基準に基づいた賃金制度の構築)そして転換推進措置の導入が急務ということが分かります。

 これについて、厚労省はようやく昨年度の「有期契約労働者の雇用管理の改善に関する研究会」に課された宿題である企業取り組みの事例集を取りまとめ、公表しました(こちら)。フルタイムを含めた有期契約労働者の雇用管理の取り組みについて、13もの多種多様な企業事例が掲載されています。とくに先ほどの改正パート法上の指導が目立つ転換推進措置、賃金制度構築などで参考になる事例が多く、パート雇用管理に悩む実務担当者にとって有益な資料と思われるところです。

 このような企業事例集の策定・公表は他の分野も含めて、今後も引き続き厚生労働省にお取り組みいただきたいものです。

2009年7月30日木曜日

「東京物語」再見

 先週日曜、事務所の向かいにある三鷹産業プラザで小津安二郎の映画上映会が開催されました(こちら)。ぜひこの機会にスクリーンで「東京物語」を見直したいと思い、足を運びましたが、本当に良かった。何度めの観賞かもう分かりませんが、何度見ても、本当に味わいのある作品です。

 10代の頃、初めて見たときは、香川京子さん扮する「京子」に感情移入していたことが思い出されますが、先日見返してみると、原節子さん扮する「紀子」の次のセリフが切々と胸に響きました。「そう、いやなことばっかり・・・」。

tougyouさんという方のブログに、大変丁重に紀子・京子のセリフが再現されておりますので、小津作品の無常感をしみじみと味わいたい方はぜひこちらを(tougyouさんブログ)。tougyouさん、誠にありがとうございます。

小津、成瀬監督作品は、大人になればなるほどその深みが味わえる気がいたします。そのような邦画がこれから出てくれば良いのですが・・・・。

2009年7月28日火曜日

確定拠出年金の拠出限度額引き上げへ


 先日の衆院解散を受けて、企業とともに加入者本人も掛け金を拠出できるマッチング制度創設などを含んだ改正確定拠出年金法案は廃案になりました。

 政府はこれとは別に、政省令改正を行い、確定拠出年金の拠出限度額(非課税限度額)を引き上げることとしました。先日の閣議(7月24日)で政省令改正が閣議決定され、その施行は平成22年1月1日とするものです。これはすでに昨年12月の与党税制改革大綱で調整済みとのこと。
(時事ドットコムNEWSはこちら

 引き上げ額は
  企業型確定拠出年金 
    確定拠出年金のみの場合     
     月額5万1000円(現行は同4万6000円)
    他の企業年金との併用の場合  
     月額2万5500円(現行は同2万3000円)

  個人型確定拠出年金(サラリーマン向け(第2号被保険者))
     月額2万3000円(現行は同1万8000円)
なお自営業者が加入する個人型確定拠出年金の限度額は月額68000円のままで変更がありません。

 ところで最近、「なぜGMは転落したのかーアメリカ企業年金の罠」(アマゾンはこちら)を読みましたが、株価変動に「直接」加入者が左右されるDCの功罪(とくに罪の部分)を思い知らされました(※エリサ法と官公労というアメリカ特有の論点も印象的でしたが。)。とはいえ、他の年金制度も多かれ少なかれ、金融市場において利回りを上げて初めて成り立つものであることは変わりありません。そのリスクを保険者である政府、企業、あるいは加入者個人の誰が負うのか、またどのような割合で負うのかという問題は、今後更に検討されるべき社会的課題でしょう。


2009年7月22日水曜日

衆議院解散の報を受けてー重要法案の仕切り直しー


 昨日、衆議院が解散されました。その結果、国会に内閣提出法案として係属していた改正派遣法、被用者年金一元化法案などの人事労務関連重要法案も廃案となります。

 いずれも重要法案であり、9月以降、改めて審議されることになろうかと思います。その際は更に大きなグランドデザイン(前者は非正規雇用に対する雇用政策全般、後者は国民年金第3号被保険者を含めた年金・雇用政策全般)とともに、実務的視点を踏まえた実のある議論が展開されることを強く望みたいと思います。

2009年7月18日土曜日

取締役の善管注意義務と時間外割増賃金について


 企業における時間外割増賃金の法的リスクは、残業代の遡及払い、過労死・過労自殺などがよく指摘されるところですが、先日公刊されたある判決を見ると、更なる拡大の可能性が見られます。

 S観光事件(代表取締役ら・割増賃金支払義務)事件(大阪地判平成21年1月15日 労判979-16)です。同事件では、従業員が会社の代表取締役および取締役を相手取り、商法上の善管注意義務ないし忠実義務違反を理由に未払い割増賃金についての損害賠償請求を行い、これが認められたものです(確定)。会社ではなく、役員の個人責任が法的に認められたという点で稀有な判決といえます。

 今後、同判決の以下判示部分をどのように評価すべきであるのか。そして同判示部分が今後どのように判例法理として形成されていくのか(いかないのか)、大変注目されます。なお同事件については、別訴で従業員に対する割増賃金支払いが命じられているにもかかわらず、会社側が同確定判決を無視するなど特異な事情があり、結論として取締役の個人責任を問うて然るべき事案ではあったとは思われます。


「株式会社の取締役及び監査役は、会社に対する善管注意義務ないし忠実義務として、会社に労働基準法37条を遵守させ、被用者に対して割増賃金を支払わせる義務を負っているというべきである」

「商法266条の3(280条1項)にいう取締役及び監査役の善管注意義務ないし忠実義務は、会社資産の横領、背任、取引行為など財産的範疇に属する任務懈怠だけではなく、会社の使用者としての立場から遵守されるべき労働基準法上の履行に関する任務懈怠も包含すると解すべきである」

 また労働基準法上の履行が取締役の善管注意義務にあたるとしても、第3者(従業員含む)に対する取締役の善管注意義務違反を理由とした損害賠償は「悪意又は重大な過失」がある場合に限られます(旧法266条の3(現行会社法第429条))。
 本件については、取締役側が職務手当に時間外割増賃金が含まれていると当時理解していたことと、労基署の2度にわたる調査において割増賃金に係る是正勧告が行われないことをもって、「悪意又は重大な過失」がなかったと主張しました。これに対し、裁判所は少なくとも労基署が就業規則の周知義務違反を行政指導していたことをもって、職務手当に係る規定の周知とその趣旨どおりの運用が不十分であったことを役員が認識することは、「極めて容易なことであった」とし、その「悪意又は重大な過失」の成立をも認め、損害賠償請求を認容しています。

 商法改正に際し、株式会社における内部統制構築が大きな課題でしたが、その際、労働法令遵守がこれに含まれるとの認識は比較的薄かったように思われます。しかし、本判決内容を前提にすると、時間外割増賃金などの労基法に係る法令遵守は、取締役の「株主」に対する善管注意義務に含まれ、明らかに内部統制事項に含まれることになります。そしてその義務不履行とその悪意又は重過失は上記裁判例を見る限り、比較的容易に認められる可能性があることが示唆されています。

 時間外割増賃金支払いをはじめとした労働法令遵守は、もはや労務・人事などの部門に留まる問題ではなく、取締役が責任をもって対応しなければならない時代を迎えたといえるのかもしれません。

 なお時間外割増賃金をめぐる法的リスクとこれに対する実務対応について、北岡・峰隆之弁護士共著で単行本を出版することになりました。「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」(㈱日本法令)です(こちら)。同リスク問題を企業実務対応の視点から詳細に解説しておりますので、ぜひともお買い求めいただければ幸いです。

2009年7月15日水曜日

「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」発売決定(7月20日)について


 昨日、念願の単行本「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」(峰隆之弁護士・北岡大介共著㈱日本法令)が刷り上がり、感動の対面を果たしました(笑)。峰先生、編集の松本さん、誠にありがとうございました。

 今週末(17日頃)には、本屋さんに並ぶとのことでした。日本法令さんのHPにも、すでに案内が貼り付けられています(こちら)。ビジネスガイド8月号の案内をみて、すでに多数の予約を頂いている旨、伺いました。本当にありがたい次第です。

 読者の方に少しでもお役に立つところがあれば、筆者の一人として誠に幸いです。多くの方に読んでいただけることを願っております。

2009年7月9日木曜日

判例研究会報告について

 昨日、早稲田大学の労働判例研究会で判例報告(東芝事件)をさせていただきました。同研究会は島田陽一先生、石田眞先生、浅倉むつ子先生など早大の社会法系の先生方と大学院生が中心に、週1回のペースで判例研究・比較法研究を行っている研究会です。貴重な報告の機会を頂きましたので、ここ数日、その準備にかかりっきりになっていました。

 準備において何が大変かですが、何よりも「論点の切り出し」と、その論点への検討を肉付けるための関連文献・判例の収集・読み込み・整理にあります。免許皆伝されている研究者・弁護士の先生は、これを最短距離で突っ走れる訳ですが、わたくしのような若葉マークの若輩者は、あっちに行ってみたり、こっちに行ってみたりと寄り道に寄り道を重ねて、トロトロと歩まざるを得ません。その分、時間と労力がかかる訳ですが、その寄り道もまた別のところで肥やしになることもあります。まさに犬も歩けば棒にあたる!。とはいえ、当然ながら、研究会報告では寄り道ではなく、筋のとおった報告をしなければなりません。

 北大大学院時代、「寄り道」ばかりの報告をして、よく道幸先生、倉田先生などの先生方に「指導」いただいておりましたが、あれから少しは進歩したのだろうか。研究会報告後の美味しいビールを飲みながら、感慨にふけった次第です。

2009年7月1日水曜日

東京都両立支援研修会意識改革コースの講演について

 昨日、標記コースの講師を2時間ほど務めさせていただきました。飯田橋の東京しごとセンター地下講堂には、受講生として訪れたことはありましたが、今回、講師としては初めてでした。話してみてよく分かりましたが、音響施設含め講演しやすい良い会場です。

 中小企業の人事ご担当者向けに両立支援施策の必要な背景、同施策の具体的内容そして改正育児介護休業法などを2時間ほどお話させていただいた次第です。大変熱心に受講いただき、誠にありがとうございました。

 帰宅して同講演の話をしたところ、蜂の一刺しの如き一言。「家にいるときの行動と、外での講演に大きなギャップがあるのでは?」。

 全国の30代のお父さん、お互い頑張りましょう(笑)。

2009年6月30日火曜日

時間帯加算賃金と割増賃金について


Q  当社は小売流通業を展開しています。日中の基本時給を700円としていますが、夜22時から閉店26時までの深夜加算を250円と設定しているものです。パート社員に法定時間外労働が生じた場合、深夜時間帯においても、基本時給700円をベースに残業単価を算出しておりましたが、ある時、パート社員から時間帯加算給も含めて残業手当を支払うよう請求されました。このような請求に応じなければならないものでしょうか。
 また時間帯加算が深夜ではなく、午後7時~10時に夕方加算なるものが行われていた場合、どうか。

 小売・外食などの業界では、パートアルバイトの採用力確保などのために、時間帯によっては加算給を支払うケースが多いものです。この時間帯加算と残業手当の算定方法との関係は、非常に複雑であるためか、今なお誤解・混乱が多いところと思われます。

 設問1の深夜時間帯の加算についてみると、これは深夜午後10時~午前2時までの深夜時間帯に対して支払われているものであることは明らかです。同手当は労基法の定める深夜割増賃金であると認められるため、同加算給は当然、残業手当算定の基礎には含まれません。したがって、夜22時~26時までの時間帯に時間外労働をしていたとしても、残業単価の算出は1時間あたり700×1.25ということになります。

 これに対して次の夕方加算は難問です。この加算については、深夜割増賃金等とはいえません。「同時間帯の作業」において、時間外労働が生じた場合は、残業単価の算出方法は基本時給+夕方加算を基に原則として算出することになるものです(参考資料として、東京労働局資料(こちら))。

 これに対して、仮に午前10時からシフトに入っているパート社員が午後7時以降、残務業務を30分行っていた場合はどうでしょうか(休憩1時間)。厚労省の労働基準法コンメンタールをみると、例えば特殊作業手当を残業単価の基礎に含めるか否かは、「割増賃金を支払うべき時間にいわゆる特殊作業に従事した場合において、特殊作業についていわゆる特殊作業手当が加給される定めになっているときは・・含まれる」(昭和23年11月23日 基発第1681号)としています。

 この解釈を前提とすれば、時間帯加算給についても、残業時間における業務内容とこれに対する賃金制度によっては、先の時間帯加算が残業単価に含まれないとの判断も導き出せるものと思われます。

 

2009年6月29日月曜日

改正育児介護休業法成立について


 平成21年6月24日、参議院において改正育児介護休業法が成立しました。内閣提出法案に対し、衆議院で一部修正がなされたものが、参院において全会一致で可決成立したものです(成立法はこちら 参議院HP)

 内閣提出法案における改正ポイントは以前ブログでご紹介しております。また厚生労働省HPに見やすい資料が示されています(こちら)ので、そちらを参照いただくとして、ここでは短時間勤務制度の適用除外と企業名公表制度について解説いたします。

1 短時間勤務制度・所定外労働免除制度について
 まず本改正において、3歳未満の子を育てる労働者に対する短時間勤務制度と所定外労働免除制度の導入が新たに義務化されることとなりました。但し100人以下の労働者を雇用する事業主については、同改正の適用が猶予されています(公布日から3年以内に見直しの予定)。
 本改正の適用を受ける企業は、自社の就業規則・運用を再確認し、上記2制度が未整備の場合、施行(来年夏予定)までに、その準備を行う必要が生じます。

 その際、問題となるのが、同制度の適用対象労働者です。まず所定労働時間が3~4時間の労働者に対して短時間勤務制度導入の要があるかですが、厚労省審議会では1日6時間以下の短時間労働者は法令上、適用除外とすることが確認されています。
 これに関連して、1日の所定労働時間短縮は、1日6時間を上回る分の短縮措置が求められることになりそうです。

 次に職場の性質や実施体制等に照らして、所定労働時間短縮が困難な業務も想定されます。例えば国際線のキャビンアテンダントの業務などは、その性質上、所定労働時間短縮が困難といえます。あるいは流れ作業による製造業務などもその業務の性質や実施体制によっては、短時間勤務制度が困難である場合も考えられます。また労働者数が少ない事業場において、当該業務に従事し得る労働者数が著しく少ない業務なども、その実施体制上、短時間勤務制度の導入が困難なケースが想定されるでしょう。

 今回の改正では、このような業務の性質あるいは、業務の実施体制に照らして制度の対象とすることが困難な業務について、「労使協定」を締結することを条件に、短時間勤務制度等の適用除外とすることを認めました(但し、その代わりとしての配慮措置は必要)。

 本法改正への企業対応においては、同制度の導入準備とともに、上記理由から適用除外とする労働者層の検討と労使協定締結のための交渉が不可避ということになります。なお、審議会において、経営側から、時間的支障等から同労使協定が締結できない場合、特例として就業規則による適用除外制度を認めるよう主張されていましたが、厚労省事務局はこれを否定する回答を行っています。施行までに労使協定を結べない場合は、適用除外としたい労働者層含めて、本改正法が適用されることになるものです。
参考資料 短時間勤務について(論点) 審議会資料 (こちら
第90回労働政策審議会雇用均等分科会議事録 (こちら


2 育休切りへの対応
 前述のとおり、衆院において同法案の一部修正がなされています。同修正において注目すべきは「企業名の公表制度」の前倒し施行です(政府案では公布日から1年以内とされていたものを、公布日から3ヶ月以内に修正)。
 現行法においても、育児休業申し出・取得を理由とした解雇その他不利益取扱いは禁じられており(育介法10条)、これに反する事業主に対して、厚生労働大臣は助言、指導もしくは勧告を行えることとしています(同法56条)。今回の改正では、この勧告に従わない事業主に対して、公表制度が新たに設けられることになりましたが、これを前倒しで施行するということです。

 この前倒し施行の背景には、「育休切り」といわれる育児休業等を理由とした解雇その他不利益取扱いの蔓延があるようです。厚労省が先日、公表した指導状況を見ても、その深刻さが伺えます(こちら)。
今回の改正では、これらの問題を踏まえて均等室の行政指導・労使紛争斡旋権限が大きく拡充されています。今後の均等行政の動きも、大変注目されるところです。

 

2009年6月28日日曜日

IPHONEのことなど

 今週から来週にかけて講演続きの毎日の中、IPHONEを導入いたしました。久しぶりのMAC?回帰でした。昔、見慣れた「爆弾」マークがいつ出るかひやひやしながら操作しておりますが、思いの外、快調です。技術の進歩に負けないよう、わたくしめも仕事の研鑽を励まねばならぬと思う今日この頃です(笑)。

2009年6月15日月曜日

改正育児介護休業法案の審議動向

 先週末(6月12日)、衆議院厚生労働委員会で育児介護休業法案が可決され、衆議院本会議に上程されることが決定しました。今週中には衆議院を通過する見込みです(毎日新聞報道はこちら

 同報道によれば、内閣提出法案に一部修正が入ったものが全会一致で可決されたとのこと。衆院はもちろん参議院においても、特段問題なく可決され、法案成立するものと思われます。

 まだ成立していませんが、同法の施行は来年4月1日を予定している上、企業・労働組合も相応の準備が求められる改正法案といえます。もうそろそろ情報収集の上、対応の準備を進められるべきと思われます。

過去ブログについて
 改正育児介護休業法案の動向(労働開発研究会HP)(こちら
 育児介護休業法案の国会提出について(こちら
 育児休業法トリビア(こちら
 WLBと労使自治(こちら

追伸
 育児介護休業法案のとりまとめに尽力しておられた村木局長の逮捕の報を聞きました。大変残念な話といわざるをえません。

 

2009年6月11日木曜日

改正労基法施行通達にみる代償休暇の考え方

 
 先日、厚労省は改正労基法の施行通達を発出しました(平成21年5月29日付基発第0529001号 こちら)。同通達は厚生労働省本省が、改正労基法の施行にあたり留意すべき点を都道府県労働局長に示達したものです。

 同通達の詳細と想定される労基署監督指導については、来週末予定しておりますセミナー(こちら)で講演を予定しておりますが、施行通達で特に気になったものとして、代償休暇の問題があります。

 この通達が出るまでは、同休暇は使用者が同休暇を労働者に付与し、社員は原則としてこれを拒めない(取得義務あり)とする見解が示されてきました(例えば中田成徳「改正労基法案による特別割増賃金と代償休暇制度」 岩出誠編著「論点・争点現代労働法(改訂増補版)」(民事法研究会)273頁以下、岩出誠著「改正労働基準法と企業の実務対応」(日本法令)49頁以下など)。

 私自身もそのように考えていましたが、前述の施行通達を見ると、以下の「新解釈」が示されておりました。「代替休暇を取得するかどうかは、労働者の判断による(法第37条第3項)ため、代替休暇が実際に与えられる日は、当然、労働者の意向を踏まえたものとなること」(施行通達p9)。

 そこで慌てて、労基法37条3項を読み返してみますと、「・・当該割増賃金の支払いに変えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(※代替休暇を指す)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは・・同項但し書きの規定による割増し賃金を支払うことを要しない」と規定しています。

 私は「与えること」の文言から、使用者による代替休暇「付与」と理解してきましたが、厚労省はその下の「取得したときは」の文言から、「代替休暇の取得は労働者の判断による」との解釈を示してきたものと思われます。

 この問題については労働基準法施行規則などの政省令に定めはありませんので、法解釈に委ねられており、どちらの解釈も成り立ちうると思われるところです。何らかの形で、この解釈をめぐり裁判上の係争事案が生じた場合、裁判所が厚労省と異なる解釈を示す可能性はないとはいえません。

 とはいえ当面、実務家としては、この厚労省の見解を基に対応を考えざるをえないでしょう。労働者の意向をその都度、確認の上、当月末から2ヶ月という短い間に取得していただくということですが、実際の導入はいよいよ難しいとお感じの企業実務担当者が多いように思われるところです。
 また以前のブログで指摘していた代替休暇の付与始期(こちら)についても、懸念どおりの内容が施行通達で示されており、これも従業員の健康確保という観点から、制度の柔軟性を欠いています。

 代替休暇導入を検討している企業は、これらハードルを前提の上で、導入準備を進めていく必要があります。前述のセミナーでは、これら代替休暇制度のほか、時間外割増賃金引き上げ、改正限度基準告示および時間単位年休付与をめぐる施行通達のポイントと予想される労基署監督指導の内容等をご解説する予定としております。お時間がございましたら、ぜひともご活用いただければ幸いです。

 また社内、労組内での研修会、会議等でこの問題等について、出張講演させていただく機会も増えてまいりました。お気軽にご用命ください(講師派遣についてはこちら)。
 

2009年6月9日火曜日

雇用調整局面における団体交渉の法律実務セミナーについて

 昨日は三上安雄弁護士(ひかり協同法律事務所)による標記テーマの講演を聴講いたしました(こちら 企画担当)。労働組合との団体交渉、とりわけ賃金引き下げ、希望退職募集、整理解雇などの厳しい局面における団交は、労使双方にとって、非常に厳しく難しい問題です。

 三上先生には、このような難しいテーマを大変分かりやすく、かつ先生の実務経験をふんだんに織り込んでいただきながらご解説を頂きました。他の参加者の方々にも、大変参考になった講演ではなかったでしょうか。

 ご講演の中でとりわけ印象的であったのは、賃金引き下げなどの厳しい局面における団体交渉、個別説明の際には、当事者の「得心」はありえないということ。そして会社側としては、誠意をもって会社側事情の説明を行っていく他ないというお話です。

 労使紛争の事案の多くは、どこかで労使間のボタンが掛け違って生じることが多いように思われます。そのボタンの掛け違いは、労使間のコミュニケーションが十分取れていないことに起因するものです。はじめはほんのささいな掛け違いが、労使紛争が長期化すればするほど、どんどん大きくなっていく感がありますが、それを元通りにするためには、初期段階の数十、数百倍の労力がかかってしまうことが多いものです。労使関係もやはり「はじめが肝心」であり、労働条件変更、希望退職募集などの際に、十分な労使コミュニケーションを取っておくことが、やはり最重要というべきでしょう。三上先生のご講演を拝聴し、改めて痛感しました。

2009年6月5日金曜日

37号告示の疑義応答集セミナーについて

 1~2年前、ある先生が名調子でおっしゃられたのが、「泣く子も黙る37号」との言葉でした。たしかに偽装請負問題がマスコミにおいて大々的に報道されていた一時期、派遣請負区分基準である37号告示は、大変な権勢(?)を誇っていました。

 その際、耳にしたことがある都市伝説の一つに、ある局(北関東地方)で請負労働者と社員のトイレを別にするよう口頭で指導がなされたとの話がありました(混在がダメということの一つとして?)。そのような噂が流れ飛ぶほど、この37号告示が分かりづらく、また不透明な行政指導がなされているとの不満が一部に根強くあったものです。

 それが昨年からの不況を受け、偽装請負問題が下火(派遣切り・請負切りの問題が深刻化)となった今年3月末になり、唐突に出されたのが厚労省「37号告示に関する疑義応答集」です(こちら)。(※なお同トイレ問題は同疑義応答集Q12で、そのような馬鹿げた解釈を明確に退けています。当然だと思いますが、質疑応答集にわざわざ書いているということは・・・・)。

 昨日、特定社会保険労務士で元需給調整指導官でもあった田原咲世先生が、この疑義応答集について解説するセミナーを聴講いたしました(こちら なお企画を担当しました)。田原先生には以前もセミナーで講師をお務めいただいたことがあるのであるが、前回同様、大変分かりやすく、かつユーモアあふれる講演で勉強になりました。

 この37号告示の問題は、構内下請の場合、使用施設の賃貸借契約など非常に細かいことも含めて見ていく必要があります。田原先生のように、実務経験があり、かつ関係法令に精通している専門家は見あたらず、本当に有り難いご講演を頂けたと感じております。(なお田原先生のブログはこちら。私も北海道在住が長く、先生のブログにある美味しそうな食べ物をみては望郷?の念にかられております(笑))。

 現状では偽装請負の問題が沈静化していますが、製造業の復調が見られた場合、請負・派遣活用が急激に進むものと予想されます。その際、この偽装請負、37号告示問題が再燃することは、まず間違いないところです。今のうちに、同質疑応答集を前提とした実務対応策を研究しておくべきでしょう。

2009年6月3日水曜日

コンビニオーナーの労働組合結成の動きについて


 今朝の朝日新聞(09.06.03)において、コンビニ店オーナーが年内に労働組合を結成する動きがある旨、報道されていました(こちら)。

 最近の労働判例、地労委・中労委命令をウォッチングしていますと、今最も混沌としているのが、労働組合法上の「労働者」です。一方では委託事業者、派遣労働者、あるいはプロ野球選手の労組法上の労働者性を認める地労委・中労委命令が出される一方、裁判例を見ると、新国立劇場事件におけるオペラ歌手の労働者性が否定される裁判例(東京高裁)が登場しています。

 そのような中、新たにコンビニ店のオーナーが労組法上の労働者といえるのか否かが問われる可能性が高まっていますが、これは大変難しい問題です。フランチャイズ契約に基づく拘束は一定程度あると主張されているようですが、それが労働者に対する指揮命令関係と同質なものといえるのか。またオーナーの事業者性をどのように見るのかなど多くの難問が残されているように思われます。

 仮にこの労働者性が認められ、労働組合活動が適法といえるのであれば、その影響は思いのほか、大きいと思われます。つまり、これが認められるのであれば、一定程度の拘束(ここがどの程度のものを指すのか問題ですが)がある請負・委託事業者は、それぞれ団結して発注者に対し、交渉をし場合によっては「争議」行為を行うことが、労組法上(憲法28条)保障されると理解しうるからです。

 新国立劇場事件の最高裁判決含めて、今後の動きに注目していきたいと思います。
 

2009年6月2日火曜日

(ご案内)労働法基礎セミナー

 先週水・木、阿修羅展でごった返す上野にて、峰弁護士とともに労働法基礎セミナーの講師を務めさせていただきました(こちら)。

 まる2日間で労働契約、賃金から労働組合法にわたる労働法の全領域を駆け足で解説するというものです。「労働法の基礎」という目的からして、退屈な印象を受ける方がいるやもしれませんが、私自身このセミナーについては飽きることはありません。

 同セミナーは設問70問を参加者の方々にお答えいただきながら、進行している点に大きな特徴があります(時間の都合上、講師が解説する場合もありますが)。そのお答え一つ一つがやはり、受講生の方々のご経験等が反映されることがあり、講師にとっても、おそらくは受講生の方々にとっても貴重な勉強になることが多いものです。また峰先生、私も時間の許す限り、押さえておきたい労働法の基礎知識を実務に即した形でお話させていただいております。よく調子にのって、峰先生・私が労働法上の「雑談」をしていることがありますが、案外その雑談の中にこそ、実務的にお役立ちいただける情報が濃縮されているものと自負しております(笑)。

 企業・労働組合内の研修としても、すでに同セミナーをご活用いただいております。ご関心ございましたら、お気軽にお声がけください。なお(株)労働開発研究会においても、7月に同セミナーが再度開催される予定です(こちら)。ぜひご利用いただければ幸いです。

2009年5月30日土曜日

雇用調整助成金申請・支給の急増について


 先日、東京労働局の助成金窓口に照会のため、電話をしたところ、なかなか繋がりません。実際に足を運んでみると、納得。窓口には長い長い行列ができており、座る場所すらない状態でした。ほとんどの方は雇用調整助成金申請のためにお越しになられています(雇用調整助成金の概要はこちら、中小企業緊急雇用安定助成金はこちら)。

 そのような状況から見ても、雇用調整助成金申請・支給の増加は、まず間違いないところと承知しておりましたが、先日厚労省が公表した支給決定件数の動向を見ると、改めてその急増ぶりに驚かされます(平成20年度との比較はこちら)。本年4月の各都道府県ごとの計画届受理件数一覧をみると(こちら)、やはり東海地方がずば抜けて多いことが見て取れます。

 同助成金が下支えをなし、雇用維持がされている企業が多いことが予想されます。この助成金も無限に支給されるものではありませんので、何とか支給期間内に需要が回復してもらいたいものです。

2009年5月27日水曜日

平成20年労働災害発生状況について

 昨日、厚労省が平成20年の労働災害発生状況を公表しました(こちら)。

 昨年に比べ、死亡災害・重大災害ともに減少しましたが、そのうち交通事故(道路)、墜落・転落災害の減少が目立つようです。この災害減少は、何よりも企業・従業員の地道な安全活動の結果ですが、それと同時に昨年からの不況の影響がここにも出ているように思われるところです(輸送量、建設現場の減少→災害の減少)。

 忘れてならないのは、過去に比べ大幅に減少したとはいえ、昨年も1268名もの尊い人命が労働災害によって失われているという事実です。前々職で災害現場に立ち会うことがありましたが、今なお被災労働者遺族の悲痛の声を思い出し、胸が痛くなります。

 死亡・重大労働災害防止のためには、結局のところ、地道な安全活動が最も早道です。今朝も様々な職場で、安全朝礼がなされていると思いますが、労使双方ともに大事にやり続けていただきたいと折に願うものです。

2009年5月26日火曜日

改正障害者雇用促進法と特例子会社・企業グループ特例

 昨日、経団連の輪島忍氏が講師を務められた「改正障害者雇用促進法への企業の実務対応策」(労働開発研究会例会)を聴講しました(セミナー企画担当)。

 障害者雇用促進法の基礎(法定雇用率の考え方等)から、法改正事項、そして今後の動きとして注目される障害者権利条約批准に向けた対応、助成金まで多岐にわたり、誠に要領よくご講演いただきました。(改正障害者雇用促進法についての厚労省資料はこちら

 輪島氏の講演の中で非常に勉強になったのが、特例子会社設立に向けた動きです。厚労省は第二次補正予算において、特例子会社等設立促進助成金を創設し、同制度奨励を積極的に進めようとしているものです(千葉労働局による案内はこちら)。かなり手厚い奨励金ともいえ、会場でも同奨励金利用を契機に、特例子会社設立を真剣に検討しているとの声も出ておりました。

 しかしながら同じく話が出ていましたのが、特例子会社設立のハードルの高さです。実際に導入を検討すると、特例子会社の認定基準(こちら)とその運用、また社内的にコンセンサスを得られるかどうかなど、導入に向けたハードルが思いの外、高く感じられ躊躇する企業が多いようです。導入企業グループの大半が1000人以上規模の大企業であり、中小企業には敷居が高い制度の感があるやもしれません(※なお特例子会社の設立件数の実数をみると、ここ5年で急速に増加 2002年113社→2007年223件)

 このような声を受けてか、今回の法改正では、特例子会社を持たなくても、企業グループ全体で実雇用率を算定できる特例制度が設けられました(詳細については、こちら p6)。ただし、同パンフレットにあるとおり、すべての子会社において障害者雇用率が1.2㌫以上であることなど、一定の要件が課されています。これらの点をチェックの上、同制度活用を検討する方向も考えられそうです。

 また今後の課題ではありますが、障害者権利条約における障害者差別禁止、合理的配慮の理念と特例子会社制度、企業グループ特例との関係をどのように考えるか、大変難しい問題が残されています。厚労省の研究会が今年中に中間報告を出す予定とのことですので、注目したいと思います。

 なお季刊労働法の最新号(6月15日発売予定)は、障害者雇用問題を特集しております。研究者による力の入った論考が多数掲載されておりますので、ご関心のある方はぜひ(詳細はこちら

2009年5月21日木曜日

新型インフルエンザと時間外労働

 田代眞人監修・岡田晴恵編著「新型インフルエンザの企業対策」(日本経済新聞出版社)を斜め読みしました。強毒性の鳥インフルエンザを想定した書物のため、これがそのまま現状にあてはまる訳ではありませんが、インフルエンザの基礎知識から、パンデミック時のシュミレーション、企業の事業継続計画まで大変、読み応えのある一書です。

 その中で読みやすく、かつ参考になったのが、企業事例の紹介です。ここでは東京電力、イオン、大幸製薬の対策例が紹介されています。いずれもシュミレーションに基づく具体的な対策例ですので、他業種の担当者の方がみても、参考になるところが多いと思われます。

 そこで労基法がらみの問題で気になった点が1つ。同書206pに東京電力さんの企業事例が紹介されている中に、「パンデミック時には事業所に泊まり込みとなって少人数で業務を遂行する事態も想定されるが、その場合、時間外労働や休憩・休日など、労働基準法上の保護規定を完全に遵守することは難しいということである」との記述がありました。

 確かにパンデミック時には、欠勤者が2割あるいは4割にも及ぶとされており、電力供給を継続する場合、出勤者がその穴埋めのため、長時間・休日労働をせざるを得ないことが容易に想定されるところです。この場合、特に限度基準告示どおりの36協定であれば、それを超えた残業をさせざるを得ない恐れが生じます。おそらくはこの点をさして「労基法上の保護規定を完全に遵守することは難しい」と結論づけておられると思われます。

 その一方、労基法には「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等」(同法33条)という規定があります。この規定は災害等によって時間外労働等の臨時の必要性があり、かつ事態急迫のために労基署に事前許可を受ける暇はないときは、事後に届け出ることをもって、時間外労働を行わせることができるとするものです。例えば、鉄道事業等で想定しない積雪があり、夜を徹して除雪作業を行わなければならない場合など、その翌日にこの33条届が労基署に提出されることがあります。

 ここでいう災害は自然災害のみならず、火災、爆発などの非自然災害、あるいは内乱、暴動などの事変も含むとされています。つまり人の身体生命や企業の財産等の危害を及ぼす事故又はそのおそれのある事故を意味するとされており、先の新型インフルエンザの爆発的流行(パンデミック)も、ここにいう「災害」に含まれるものと考えます。

 特に生活インフラを支える電力、水道、鉄道、小売流通などの事業は、パンデミックの際も極力、事業の継続が社会的に強く要請されます。その観点から見れば、欠勤率が高い中、出勤者に対し、36協定を超える時間外労働を命じることは「臨時の必要性」「事態急迫性」が認められると思われます。したがって、同書の東京電力については、33条に基づく事後的届けをもって、労基法上も適法化しうる余地が高いと考えるものです。もちろん事後届けを忘れてはならないのは当然ですし、事態が沈静化した際は速やかに従前どおりに切り替えることが必要でしょう。

 幸いなことに現状においては、ここまで深刻な企業対応を考える要はないようです。いずれにしましても、新型インフルエンザ問題が一刻も早く収まることを願います。
 

2009年5月20日水曜日

昨日のセミナー講演について

 昨日は(株)労働開発研究会例会セミナーで「平成21年度労働行政運営方針の解説」を講演いたしました。大勢の会員にお越しいただき、誠にありがとうございました。

 前半は労基署行政の概要を、後半は本年度の行政運営方針において注目すべき点を解説させていただきました。アンケートを拝見したところ、お越しいただいた会員の皆様におおむねご満足いただけたようで、胸をなでおろしております。

 昨日の講演は全体像を中心としたものでしたが、今後は労働時間、問題社員対応、安全衛生など個別テーマごとに行政活動の現状とその対応をご解説するセミナー等を企画する予定です。

 それにしましても、講演後に飲むビールはうまいものです(笑)。

 

2009年5月18日月曜日

新型インフルエンザと休業手当(労基法)

 先週末から関西地方を中心に、新型インフルエンザ問題への対応が深刻化しつつあります。企業によっては、すでに「出張抑制」、「手洗い・マスク着用の上でのサービス提供」、「時差出勤」など、一定の対応を取りつつあるようです(nikkei net 09.05.18)。

 このような企業人事対応の中で、悩ましいのは休業手当の問題ではないかと思われます。ある都市銀行では、窓口担当者の発症を受け、行員70名を自宅待機とした旨、報じられています(産経ニュース 同)。発症した社員は私傷病を理由とした休業であり、諸規定に基づき対応することは当然として、問題となるのは、それ以外の社員に対する休業です。

 また今回のインフルエンザは若年者に対する感染が目立つため、学校の一時休校が相次いでいます。中高生であれば、一人でお留守番させることは可能であるとしても、保育園・小学校低学年の場合は、休校の際、親も休まざるをえません(その場合も無認可保育園に預けるということもありえますが、やはり難しくなってきているようです 関連NEWS)。
 このように本人が発症していないものの、同僚の発症を受けて感染が疑われる場合、または子の休校の場合における休業に対して、賃金支払いをどのように考えるべきでしょうか。

 労基法では、同法26条において次のとおり、規定を設けています。「使用者の責に帰すべき事由による休業においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の60以上の手当を支払わなければならない」。ここでいう「使用者の責に帰すべき事由」について、厚労省は「第一に使用者の故意、過失又は信義則上これと同視すべきものより広く、第二に不可抗力によるものは、含まれない」としています。

 先の休業がこれに該当する場合、使用者は休業手当の支払い義務を負うことになりますが、まず子の休校に伴う休業については、いかに考えても「使用者の責に帰すべき事由」にあたりません。したがって、この場合は無給でも法的に問題はありませんが、従業員の「子育て支援」対策の観点から、対応を行うことも一方では望まれるところです。

 これに対して、従業員感染に伴う他社員への対応は難しい問題です。新型インフルエンザは2~3日の潜伏期間後、症状が出るとのことです。また潜伏期間中も感染させる恐れがあるとされていることから、他社員・顧客・通勤時の周辺者等への感染を防止する意味でも、潜伏期間中の一時待機は十分に合理的なものと思われます。このように、同一時待機の目的が、感染防止という社会的危機への対応と捉えれば、その休職はやはり「不可抗力」にあたるものといわざるを得ず、一時待機に対する休業手当の支払い義務は生じないものと考えます。

 しかしながら、この議論の前提としては、他社員への感染の可能性があります。別フロアーの社員で、すべての行動範囲からみて感染の恐れがないにもかかわらず、一時待機を命じるような場合は、その待機に合理的理由がなく、休業期間中の賃金支払い義務が生じる可能性もあります。デリケートで、かつ迅速な対応が望まれるところではありますが、感染の恐れがあるか否かについては、産業医など専門家の意見を聞きながら判断を行う要がありそうです。

 また法的にはともかく、潜伏期間中の一時待機期間を無給とすると、従業員(感染社員含めて)が会社に対して、適切な報告を躊躇し、早期対応が図れない懸念もあります。会社出入り口で体温を測定するなどの動きも見られますが、やはり自己申告が新型インフルエンザの早期発見・対応にあたり、不可欠であることは論を待ちません。発症前の潜伏期間中の休業については、この見地から、特別に会社側が賃金を支給することも、新型インフル対策上、十分に検討されるべきと思われます。

2009年5月13日水曜日

(読書)「走ることについて語るときに僕の語ること」

 村上春樹さんのエッセー集。タイトルのとおり、マラソン・トライアスロンなど、「走る」ことをテーマにしています。これが実におもしろい。村上春樹さんが小説家となった経緯が触れられている「人はどのようにして走る小説家になるのか」は、何度読み返しても、新鮮な示唆が与えられます。

 その中でもお気に入りの部分は、仕事の仕方です、村上さんは朝5時前に起きて、早朝の数時間で大事な仕事に集中されるとのことです。私の僅かな経験でも、何かを書くという作業は、早朝が最も適していると確信しています。

 それぞれが最も効率的な仕事の仕方が発見でき、選べること。仕事の仕方、働き方の将来像という問題は、これからの勤労者(サラリーマン・自営含め)が今より少しわくわくできるテーマのように感じています。暗い話題が多いところではありますが、そのようなテーマもこれから考えていきたいですね。

2009年5月10日日曜日

ロックアウト法理についての雑感②

 前述のとおり、使用者によるロックアウトが法的に認められるものとして、その法的効果は如何なるものがあるのでしょうか。

 労働組合の争議戦術として、よく取られてきたのは、争議中の操業を防止すべく、ストライキ期間中の職場内占拠・滞留でした。まずロック・アウトを使用者側が通告することをもって、労働組合側に退去等の法的義務が生じるか否かが問題になります。過去の裁判例をみると、ロック・アウトからただちに同法的義務が生じるかのような判断を示した下級審判決も少なくありませんが、現在の通説ではおおむね否定説が有力です。ただし、使用者側が施設の所有権・占有権(施設管理権)等を根拠に、労働組合側に退去等を求め、これに従わないものに対して、裁判上の請求を行うことは当然許容されるものです。また職場占拠中、施設備品を毀損した場合に、損害賠償請求を行えることも当然です。

 次に問題となるのは、ロック・アウト期間中の賃金請求権です。これについては丸島水門製作所事件最高裁判決において、次のとおり判示されています。
 (使用者側ロックアウトの)「相当性を認めうる場合には、使用者は、正当な争議行為をしたものとして、右ロックアウト期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務をまぬかれるものといわなければならない。」

 ロックアウトの正当性が認められる限り、同期間中の賃金支払い義務は免れることになるものです。これに対して「争議期間中に賃金支払い義務はそもそもないはずだから、このような判示部分は意味がないのでは」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。実は私も初めて、このロック・アウトを勉強していた際、よく分からなかった点でした。
 これについては、前回ご紹介した争議戦術の多様性を思い出していただく必要があります。我が国の労働組合の争議は、全日ストライキだけではなく、波状スト、時限スト、部分ストから怠業、車両のキー保管戦術まで多種多様です。この戦術の中には、部分スト、怠業等のように、争議行為と労務提供が混在しているようなものが含まれています。

 この混在型の争議戦術の際、部分的な労務提供に対し、使用者に賃金支払い義務が生じるとすればどうでしょうか。これに対する対抗手段として、使用者側が正当な「ロックアウト」を行うことによって賃金支払い義務が生じないとすれば、同対抗措置は法的にも大いに意義あることとなります。

 しかしながら、その前提自体に疑問がない訳ではありません。そもそも、怠業、部分ストなど争議と労務提供が混在している場合における労務提供に、賃金支払い義務が生じるものといえるのでしょうか。もちろん事案によって異なるものですが、例えば1時間の労務提供のうち、最後の5分間の労務が決定的意義を有し、これを怠ることは55分間の労務提供を無価値にする性質のものも当然、存在します。一例を挙げれば、自動車教習所における教習時間において、教官が50分の教習を終えた後の最後の確認テストを「ストライキ」した場合、それ以前の50分間はすべての利害関係者にとって無価値になることは明らかです(学生にとっては、よい練習になったかもしれませんが、単位を取れないことには変わりありません・・・)。
 この場合における賃金請求権の問題をどう考えるかは、私にとって大学院入学以来の積み残し続けてきた課題です。裁判例の集積を待つとともに、勉強を深めていきたいと考えています。

 

2009年5月9日土曜日

ロックアウト法理についての雑感①

 最近、暇をみつけては勉強をしているのが、労働組合法におけるロックアウト法理です。ロックアウトとは、労働組合によるストライキなどの争議戦術に対抗して、使用者側が同労組の労務提供不受理もしくは事業場閉鎖などを行うことを指します。昭和30~40年までは、人事労務実務そして労働法学などで非常に関心を持たれていましたが、著名な最高裁判決(丸島水門事件 最3小判昭和50年4月25日)以降、労働法学上の論争が下火になるとともに争議件数自体の低下に伴い、ここ何十年かは、あまり関心を持たれてこなかったテーマです。しかしながら今年に入り、労働組合とりわけ地域労働組合が積極的な活動を行っています(最近では京品ホテルにおける生産管理闘争など)。改めて労組の争議戦術とこれに対する使用者側の対抗手段を法的に振り返っておく意義が高まっていると感じており、整理をしている次第です。

 ロックアウトが昭和30年代などに実務で行われていた背景としては、当時の労働組合の多様な争議戦術がありました。ストライキ一つとっても、終日行うものから、時限スト(時間を区切って行う)、指名スト(指名された組合員のみのスト)、波状スト(争議を波状的に繰り返す)、部分スト(争議組合員の一部がストをし、それ以外の作業部門を計画的に麻痺またはストップさせること)などがありました。
 またその他、争議戦術として、怠業(能率を低下させるサポタージュ)、納金スト、車両のキー保管戦術、さらには極端なものとして、生産管理(労働組合が生産設備等を自己の占有下におき、自らの管理下で企業経営を行うこと)がなされていました。

 これら多様な争議戦術の中には、波状スト、時限ストのようにストライキの時間自体は短くとも、企業経営に対し、非常に深刻なダメージを与えるものが含まれていました。たとえばテレビ局の例でみると、番組放送は行うも、コマーシャル放送の2~3分のみストライキとして、放送を行わないとすればどうでしょうか。このようなケースにおいて、使用者側の争議対抗手段として取られてきたのが、ロックアウトでした。このロックアウトはそもそも労働組合法上、何らの規定がなく、わずかに労働関係調整法において「作業場閉鎖」の名称で規定化されているにすぎませんでした。ロックアウトが果たして使用者側の争議対抗手段として法認されるのか否か長い論争が繰り広げられていましたが、その終止符を打ったのが、先の丸島水門事件です。同最高裁判決は以下のとおり判示します。

「労働者の提出する労務の受領を集団的に拒否するいわゆるロックアウト(作業所閉鎖)は、使用者の争議行為の一態様として行われるものであるから、それが正当な争議行為として是認されるかどうか、換言すれば、使用者が一般市民法による制約から離れて右のような労務の受領拒否をすることができるかどうかも、右に述べたところに従い、個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度、経過、組合側の争議行為の態様、それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし、衡平の見地から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうかによってこれを決すべく、このような相当性を認めうる場合には、使用者は、正当な争議行為をしたものとして、右ロックアウト期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務をまぬかれるものといわなければならない。 前記二のような見地からすれば、前記三のような具体的事情のもとにおいてされた本件ロックアウトは、衡平の見地からみて、労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当であると認めることができる。」(全基連HP 参照

 以上のとおり衡平の見地から使用者側のロックアウトの相当性を判断する基準は、同最判によって確立しており、現在においてもその基準に変化はありません(個別判断の積み重ねあり)。

 では、このロックアウトが認められたとして、その法的効果はどのようなものがあるのでしょうか。この問題は次回改めて整理してみます。

2009年5月6日水曜日

事務所開きと川村カオリさんのこと

 5月1日から三鷹のSOHO施設を借りて、事務所を設けることになりました。
このゴールデンウィークはその準備+子育てにてんてこ舞いでしたが、ようやく形になりつつあります。

 落ち着いて仕事ができる環境ができたことは何よりも嬉しいことと実感しております。また、おかげさまで幸先から幾つかお仕事を頂けることとなり、嬉しい限りです。

 ところで昨日、川村カオリさんのLIVEに旧友と連れだって行きました。中高生の時、彼女の歌声に励まされたことを思い出しながら、昔の曲を聴くのかなぁと感傷的な思いでコンサート会場に向かいました。しかし、彼女は良い意味で期待を裏切ってくれ、昨日のLIVEも新しい曲、取り組みに幾つも挑戦していました。何よりも彼女の歌い続けるという情熱に強く胸を打たれた次第。

 私もこれから少なくとも30数年、事業を継続していかなければなりませんが、彼女の歌声はこれからも大いに力を与えてくれるものと思います。川村カオリさん、ありがとう。

2009年4月28日火曜日

(読書)自壊する帝国

佐藤優「自壊する帝国」(新潮社 2006)

  起訴休職外務事務官の佐藤優氏が、ソ連崩壊までの外交官活動・個人的交友等を振り返った一書。タイトルに示すとおり、ソ連がいかにして自壊していったのか、佐藤氏の外交官経歴の流れで述べられており、大変読みやすい。またクレムリンを取り巻く共産党・教会・大学・知識人の視点から、ソ連そしてロシアが描かれている点がとても興味深いところ。

 イデオロギーを組織統合(国家まで含む)の求心力であるとすれば、その求心力が失われゆく中の混乱こそがソ連の自壊であったとの念を強くしました。そのように考えれば、このソ連の自壊と再生の物語は、他国・他組織においても貴重な示唆を与えてくれるやもしれません。

 同書を契機に、ソ連崩壊とロシアが至ったここ数10年の歴史を改めて勉強したいと思う次第。

2009年4月24日金曜日

改正労基法における「代償休日」の謎

 先日、改正労基法の政省令要綱案が取りまとめられました(こちら)。残るは施行通達の策定です。同通達は、おそらくは5月~6月中には策定・公表され、今回の法改正に係る第一次資料はほぼ出そろうことになります。

 以前、本コラムにおいて代償休日についてコメントをいたしましたが(こちら)、審議会資料を見ておりますと、同制度はいよいよ混沌としてきた感があります。

 厚労省は審議会(09.3.27)における説明資料として、「代償休日の取得と割増賃金の支払い日」を配布しています(こちら)。これを見ると、代償休日に係る労使協定を締結している事業場において、賃金締切日に月間60時間を超過した残業が生じていた場合、社員に対して「代償休日を取得する意思があるか否か」早期に確認することとしています。その上で意思がある場合は翌月から2か月以内に取得させる一方、取得意思がない場合は5割増の割増賃金を支払うこととしています。

 同資料の図は理解できますが、企業実務において、このようなことが果たして可能なのでしょうか。素朴に疑問を感じるところです。例えば、以下A君のつぶやきをどう考えるべきでしょうか(大多数を占める声と個人的には考えておりますが)。

A君 この3か月は大規模なプロジェクトに参加しており、とても忙しい。今月は残業が60時間を超えており、人事から10日以内に(20日締め、当月末日払)に代償休日なるものを取得するのか、残業代を取るのか選択してほしいとの問い合わせが来ている。できれば休みを取りたいが、忙しいので、翌月・翌々月にそのような休日を取れるのか否かはっきりしない。どうすればいいのか。

 年休取得すら半分を切っている現状を見ると、社員本人の取得意思に重きを置く制度設計では、いよいよ活用が少なくなるものと思われます。むしろ同休日をどうしてもやるとするならば、会社側が健康配慮の観点からイニシアチブを取って、取得候補日を示し、本人同意の上で取得させる仕組みの方が、円滑に活用されるのではないでしょうか。施行通達の内容に期待したいところです。  

2009年4月21日火曜日

データブック国際労働比較2009について

 先日、JILから毎年恒例の「データブック国際労働比較2009」(こちら)が出版されました。早速買い求め、たまにぱらぱらめくって眺めているのですが、実に面白いです。

 同書は「我が国および諸外国の労働面の実態について分かりやすく理解できるように、労働に関する各種指標のなかから代表的なものを精選し、グラフや解説を盛り込むなど、労働統計の国際比較資料として編集作成」(同書はしがきから)したものです。
 
 ぱらぱら眺めていまして、改めて衝撃を受けたのが「生産年齢人口(15歳~64歳人口)」でした。少子高齢化と普段から口にはするものの、同書p62の諸外国との比較を見ると、愕然とさせられます。2050年までの予測数値で見ると、他の主要諸外国は激増(インド・ブラジル等)、増(米・加・英等)とともに減(独・仏・伊・中等)の国があるものの、日本の8489万(2005)から5233万(2050)に大幅減少に比べると、その割合は大きくありません。わずかながらの例外といえるのが、露(10200万⇒6593万)、韓国(3400万⇒2300万)ですが、その減少幅はなお日本の方が大きいものです。

 これに対して、救い(?)となる指標も同書は入念にも示しています。p70に労働力人口の国際比較が掲載されていますが、これを見ると、労働力人口の下に65歳以上の労働者数が付記されています。我が国における65歳以上労働者数が国際比較において群を抜いていることに驚かされます。

 この指標から、近年、高齢者雇用施策に大きく軸足を移しつつある労動政策の背景が少し垣間見れる気がした次第です。その他にも労働争議件数・日数の日仏比較など、考えさせられる題材が数多く盛り込まれている一書といえ、お勧めします。

追伸
 JILがHPで同比較データを公開しています(こちら)。ご参考までに。

2009年4月16日木曜日

改正育児介護休業法案の国会提出について

 昨年末、審議会から建議が出されていた「改正育児介護休業法案」ですが、昨日(4月15日)、法律案要綱が審議会に示され、同日「おおむね妥当」との答申が出されました(時事通信)。改正内容については、おおむね同報告書建議を法律要綱に取りまとめたものです(報告書の概略はこちら)。

 法律案要綱において新たに明らかにされた点としては、改正項目に対する中小企業への適用猶予があります。従業員100人以下の事業主等については、今回新たに新設される所定労働時間の短縮、所定外労働の免除、介護休暇等は当面、適用しないこととされるようです。

 厚労省・内閣が急きょ国会に育児介護休業法案の提出に踏み切った背景には、衆院解散が遠のいたとの情勢判断があるように思われます。同法案については、昨日の審議会において見られたとおり、労使双方に先鋭な対立がなく(もちろん不満は残る面は双方にあろうかと思いますが)、国会においても与党・野党間の激しい対立はさして生じないところと予想されます。すでに提出済みの改正派遣法案の前に、同法案を審議入りするのであれば、本国会での成立の成算は高いと思われるところです。

 同法案が成立した場合、施行は来年度(4月1日?)を予定しています。同改正法への対応準備も相当程度、必要になるものと思われます。

2009年4月10日金曜日

平成21年度労働行政運営方針と管理監督者問題

 先日、厚労省HPに平成21年度労働行政運営方針がUPされました。同方針は、その年度の労働行政を運営するにあたっての重点施策が示されているものです。これをみれば、平成21年度に労働基準監督署その他労働行政が何を重点事項とし、定期監督を初めとした行政活動を展開しようとしているのか自ずから明らかとなります。
 詳細については、5月19日に労働法学研究会例会で講演する予定としております(こちら)。ご関心ある方はぜひお申し込み頂ければ幸いです。本ブログでは、本年度行政運営方針の中で大変、興味深い一節のみをご紹介いたします。

労動基準行政の重点施策の中に次の記載がありました(p23参照)。

「さらに、多店舗展開する小売業、飲食業等の比較的小規模の店舗における管理監督者の範囲については、その適正化を積極的に推進する。」

 過重労働に対する監督指導の強化はここ数年来、継続して取り上げられている重点施策ですが、その中に、上記記載が新たに追加されたものです。

 チェーン展開している小売・飲食業界全体の傾向として、店舗店長その他社員を労基法上の管理監督者として取り扱う例が多く見られたものですが、本年度、労働基準行政は昨年示された通達に基づいた監督指導を「積極的に推進」することを明らかにしました。昨今の雇用不安の影響からか、同問題に対するマスコミ等での報道は下火になりつつありました。しかし労働基準行政は少なくとも通達に基づく監督指導を強化していく方向であることは、十分に注意すべきと思われます。早め早めの対応が肝要です。

<筆者HPはこちら。ぜひお立ち寄りください。>

2009年4月7日火曜日

パワハラ等に係る労災判断指針変更について

 昨日(平成21年4月6日)、厚労省HPに「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」がUPされていました。いわゆる職場内パワハラ等による精神疾患に係る労災の業務上外判断指針を変更したものです(こちら)。
 以前のブログに研究会段階での変更の経緯とそのポイントをまとめております。まずはこちらをご覧いただければ幸いです。

 今回の改正のポイントは 「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」を出来事に追加の上、(強度3)とした点ですが、これを「上司とのトラブル」「部下とのトラブル」(強度2)、「同僚とのトラブル」(強度1)とどのように判別するのか。事案によってはその判断に争いが生じることが予想されるところです。

 今回の改正の基になった有識者研究会報告書の該当部分には次のような記述があります(こちら p7)。「その内容・程度が業務指導の範囲を逸脱し、人格や人間性を否定するような言動が認められる場合には、ひどい嫌がらせ、いじめ等に該当する」。

 先日ブログで紹介した裁判例における上司の言動は、まさにこれに当たるということでしょうか。少なくとも、同判断指針変更に伴い、改めてマネージャー層については、部下の指導にあたり「人格・人間性否定と取られるような言動」は断じて認められない旨、社内教育・周知を徹底する要があるやもしれません。

付記ーパワハラ言動の記録化についてー
 昨日のNHKニュースを見ておりましたら、パワハラ労災認定の見直しが大きく報じられていました。その中で印象的であったのが、パワハラ被害を主張する社員所有の携帯電話に録音されていた営業所員の生々しいパワハラ言動でした。おそらくは同所員は録音されることなど想像だにせず同発言を行ったのでしょうが、今日では携帯電話、固定電話はもとより、胸ポケットに入れたICレコーダー等で記録化することは容易です。
 上司等が部下に対して不適切な言動を行わないことはもちろんですが、記録化されている可能性があることも念頭に入れながら、業務指導を行わなければならない時代が到来していることが痛感させられました。特にこの問題は本社以上に、多店舗展開する店舗・営業所のマネージャー等のマネージメントが懸念されるところです。チェーン展開している会社において、直営店舗等で勤務する契約社員・パート・派遣等に対して、店舗店長等が不適切な言動を行った場合、即、会社の法的リスクが顕在化することになります。その被害の記録化も大変容易であることから、従来以上に現場レベルでの社内教育・周知の徹底が求められるところと思われます。

2009年4月2日木曜日

価値が見えにくいものー職業訓練ー

 昨日、季労編集部と諏訪康雄先生の研究室にお邪魔し、職業訓練の問題についてご指導を頂きました。以下、その折に感じた個人的雑感です。

 「職業訓練」と聞くと、山田洋次監督の「学校Ⅲ」で取り上げられたような職業訓練校のボイラー技師職業訓練などを連想しがちです。同専門職の養成も大変重要ですが、日本において最も職業訓練として一般的であり、かつ汎用性が高いのは、正社員として採用されてからのOJT、OFFJTではないでしょうか。自らを振り返っても、仕事をしながら、あるいは仕事継続中に社外で様々な経験・研修を積むことにより、職業能力が次第に高められていった感があります。

 今まではそれが「当たり前」であり、会社も社員もそれぞれ特に意識することなく、これら職業訓練が社内において継続的になされてきたものと思われます。しかし、いわゆる非正規雇用と言われる、有期、派遣あるいは請負社員についてはどうでしょうか。有期社員については、契約範囲内の限られた業務については教育訓練を行うことはあれ、正社員のように幅広い訓練・研修は行われていないのではないでしょうか。また派遣・請負社員については、なおのことユーザー側が積極的に同人らの職業訓練に乗り出すことはありません(請負会社がユーザー企業と協力して、組織的に職業訓練等を行う動きはあるようです)。

 これら職業訓練が正社員層に比べ十分でない非正規社員層が失業した場合、再就職が非常に難しくなります。その問題が派遣村問題等を通じて、社会的に共有化された結果、当面の緊急対策として、雇用保険給付、適用範囲の拡大などが矢継ぎ早に講じられていますが、残念ながら対症療法に過ぎないところがあります。なかなか価値そして効果が見えにくいものではありますが、職業訓練、特に企業内でのOJT、OFFJTを、正社員はもちろん、非正社員、そして更に社外の方(特に若年・青年層)に提供することこそが、本道の対策のように思います。

 最近、ウィルスミス主演の「幸せのちから」という映画を見る機会がありましたが、あの映画で描かれていたインターンシップに、受け入れ企業・公的支援による一定の生活保障を組み合わせて機会提供することなど、職業訓練として大変、有意義ではないかと感じました(あの映画のインターンシップは厳しすぎる気もいたしますが)。

 問題は職業訓練に要する費用の負担です。職業訓練それから当面の生活保障など、費用を積算していくと膨大な予算が必要となります。これを誰がどのように負担するのか(→国がどの程度、負担するのかしないのか)。このような論点が、来るべき解散後の総選挙で争われるべきと思うところです。見えにくいものではあるが、大変価値が高い「職業訓練」。この問題に今後、社会的関心が高まっていくことに期待しています。
 

2009年4月1日水曜日

改正雇用保険法施行に伴う実務対応②

 改正雇用保険法が施行されました。厚労省も動きが早く、3月31日早々にHPで改正法の周知施行規則案等のUPを行っています。ここでは、同改正法施行に伴う企業の実務課題として、雇用保険適用漏れの非正規社員からの遡及適用請求の問題を取り上げます。

 今回の改正では、非正規雇用の雇い止めに対して、雇用保険から手厚い保障を行うことが大きな特徴です。またマスコミにおいても非正規雇用に対する雇用保険からの保障拡大が大きく報じられたことから、有期雇用の社員が雇用保険制度に抱く「期待」はこれまでになく高まっています。
 今までは従業員側が雇用保険料折半分の負担を厭い、いわば労使の暗黙の了解のうちに、「継続雇用の見込みがない」ことを理由に同手続き・保険料納付を行ってこなかったケースも多いと予想されますが、その場合も社会保険は強制加入であるため、従業員側が態度をいわば豹変させて、雇用保険加入を事後的に迫ったとしても、適用対象であれば、これに応じるほかありません。法令上も従業員が事後的に、職安に対して雇用保険の適用を確認する権利が付与されています(雇用保険法8条 確認の請求(※過去2年に遡ること可))。

 問題は適用要件である、「1年継続雇用見込み」(平成21年3月31日まで)、もしくは「6か月継続雇用見込み」(平成21年4月1日以降)の判断基準です。これについては、厚労省資料の中に大変分かりやすい資料が示されていました(こちら)。
 この資料をみて、頭を抱える人事担当者が多いのではないでしょうか。特に下から2つ目の例とその適用判断は、ハローワークの現場レベルでも混乱が見られるところがあり、十分に伝えられてこなかった判断部分のように思われます。例えばスーパーなどで勤務する週20時間以上のパート社員について、1年以上継続して勤務した場合は、更新以降に雇用保険を加入させるものの、初回契約時は「更新の有無が明らかではない」ことから未加入としてきた例が多いと思われます。これが先のペーパーによれば、「雇入れの目的、同種社員の雇用実績等から継続雇用が見込まれる」場合は、初回契約から雇用保険の適用対象になる旨、示されています。すでに初回契約から適用済みの企業は慌てる必要はありませんが、そうではない企業はこの点について、改めて実務対応策を検討する要があります。

 先日の審議会の席においても、厚労省事務局は再三再四、非正規雇用の雇用保険適用の適正促進と周知に努める旨、答弁していました。今後、同適用については、従業員からの確認あるいはハローワークの調査・指導等を契機に法的リスクが増大することが予想されます。この問題については、早めに社内点検の上、加入漏れへの対応、退職者からの請求に対する対応準備などを検討しておく要がありそうです。

2009年3月31日火曜日

今朝の朝日1面報道の誤り又は分かりずらさ(改正雇用保険法)

 今朝の朝日新聞1面(3月31日 14版)は「値下げ競う春」との題で、小売価格の変動と年金医療・暮らしなどの改正事項を図表でまとめています。その中の働くという欄に以下の記載がありました。「雇用保険の適用拡大 非正社員の加入要件が、現行の「週20時間、1年以上の雇用見込み」から「6か月以上の雇用見込み」に(3月31日施行)。

 これ以上の補足記事は見当たりません。一読すれば、これから雇用保険の適用範囲は週20時間、1年以上の雇用見込みから「6か月以上の雇用見込み」と理解される方が大半ではないでしょうか。

 しかしながら、今回の改正はあくまで雇用見込みを1年から6か月に短縮したものであり、週20時間以上の基準は変更がありません。この点はもちろん議論のあるところであり、昨日の審議会においても、大沢委員がドイツの例など(週15時間等)を紹介された上で、今後も継続的な検討を行う必要がある旨、指摘されておられました。朝日新聞として、この点を今後の課題として取り上げられることは重要とは思いますが、事実関係の報道については、読者の誤解なきよう正確を期していただたきたいと思うところです。なお同適用拡大は法改正事項ではないため、施行は「4月1日」とのことです(本省担当者の回答)。
 
 

2009年3月30日月曜日

改正雇用保険法施行に伴う企業の実務対応①

 前回のブログでは、雇用保険法の適用要件の緩和について、以下の問題提起を行いました。ここでは1に対する検討を行います。
1 平成21年4月1日施行(適用拡大部分は4月1日)に伴い、週20時間以上でたとえば6か月以上の有期契約社員で雇用保険未加入の者への取扱をどうすべきか。

2 平成21年3月末付で雇止めを行う週 20時間以上でかつ契約社員(1年以上継続雇用しているが、雇用保険未加入)から、雇用保険の遡及適用と受給手続きの督促がなされた場合、企業人事としてどのように対応すべきか

 本日、厚労省の審議会傍聴後、厚生労働省本省の担当官に確認したところ、上記問題について、以下のとおり考える旨コメントを頂きました。まず本年4月1日付で週20時間6か月以上の継続雇用の事実があり、かつ有期雇用契約の更新見込みがある限り、原則として4月1日から雇用保険適用拡大の対象になるとのことでした。これに対し、4月1日時点で6か月以上の有期雇用の実績があったとしても、同有期契約満了をもって終了し、更新の見込みがない場合は4月1日から契約満了までの間、雇用保険手続きを取る要がないとのことです。つまり契約更新の可能性がないことから、雇用継続の見込みがないと判断されることになるものです。
 実は私もこの回答を得るまでは、少なくともすでに6か月以上の初回有期契約を締結している社員(契約締結段階で1年以上の雇用継続見込みがなく雇用保険未加入)については、契約満了まで雇用保険手続きのことは考える要がなく、更新の時点で適用の可否を考慮すれば良いと考えておりました。しかしながら、本省担当者の見解は上記のとおりであります。個人的には少々分かりずらい面があり、実際の適用は現場レベルにおいて、かなり難しいのではないかと感じるところです。
 いずれにしても、週20時間以上の有期契約社員で雇用保険未加入のものがいる場合は、4月1日以降改めて再確認の上、上記のとおり6か月以上の雇用継続が見込まれ、かつ有期契約更新の可能性があれば、適用の方向で検討を進める要がありそうです。

 次回のブログでは2の問題を検討いたします。なお本日の審議会では、改正雇用保険法の施行規則等について答申が出されました。改正法の準備は着々と進められています。

改正雇用保険法成立に伴う企業実務上の課題

 先週末(3月27日)、参議院本会議で改正雇用保険法が可決成立しました。同法の施行は明日3月31日となります(nikkei-netはこちら)。通常、同改正法の施行は翌年度初日にあたる4月1日とされることが通例です。内閣提出法案もその通例に従い策定され、国会に提出されましたが、非正規雇用に対する近年の雇用不安の高まりを受けて、衆議院で次の点が修正され、衆参可決成立に至ったものです。(内閣提出法案についてはこちら
衆議院修正箇所 
・基本手当の支給に関する暫定措置等について、離職の日等が平成二十一年三月三十一日から平成二十四年三月三十一日までの間である受給資格者をその対象とすること
・施行期日を平成二十一年四月一日から平成二十一年三月三十一日に改めること等


 今回の改正点については厚労省資料のこちらが要領よくまとめています。使用者側から見ると、まず雇用保険料率の引き下げ(0.4%引き下げ)が若干の朗報といえるかもしれません。また育児休業給付の支給水準維持と休業・復職給付の一括支給も、実務的に喜ばれる改正点と思われます。

 これに対し、社会的に注目されているのは、非正規労働者に対するセーフティネット拡充の点でしょう。企業実務の視点で見ると、特に雇用保険の適用基準の変更が気になるとことと思われます。今回の改正では、有期雇用契約社員等に対する雇用保険適用の取扱を以下のとおり変更することとしています。
(従前)週20時間以上勤務・反復継続し就労している者(1年以上引き続き雇用されることが見込まれるもの) (審議会資料p4以下参照)
(変更後)週20時間以上勤務・反復継続し就労している者(6か月以上引き続き雇用されることが見込まれるもの)
 
 明日からの施行を前に、週20時間以上でたとえば6か月以上の有期契約社員で雇用保険未加入の者への取扱をどうすべきか。あるいは明日付で雇止めを行う週20時間以上で1年契約社員(雇用保険未加入)が雇用保険の遡及適用と受給手続きの督促がなされた場合、企業人事としてどのように対応すべきか、不透明な点が多々あるように思われます。ここでは問題の指摘にとどめ、次回改めて取り上げることとします。

2009年3月26日木曜日

管理職向けパワハラ防止研修について

 ここ数年、切に感じることが多いのが、管理職向け労働法研修の重要性です。労働判例を見ていても、前回のブログで紹介した国・静岡労基署長(日研化学)事件東京地裁判決を例に挙げるまでもなく、上司の管理職業務の拙さが、即会社の法的責任に繋がる傾向が見られます。これは一私見に過ぎませんが、管理能力が低い上司はその反面、プレイヤーとしては秀逸した実績を挙げており、企業から見ると「プラスマイナス0か+」との算盤勘定が成り立っていた側面があるように感じています。

 このように従前までは、管理業務の拙さも管理職それぞれの「個性」と許容してきた向きもあったと思われますが、先の法的リスクが増大していく中、企業としてもその拙さを放置できないと感じているところではないでしょうか。

 では、どのような取組を行うべきか。これについては決定打はなく、地道に管理職登用とその研修、そしてホットライン等による対応を講じていく他ないところと思われます。そこで重要であるのが、予防策としての管理職向け研修です。

 この管理職向け研修には二つの方向性があるように感じております。第一は心理学・精神医学等の面からアプローチするパワハラ防止のための研修です。私も何度か拝聴する機会がありましたが、色々な示唆が得られる研修でした。一言でいえば、相対する部下等の心に対する「気づき」を与えてくれるものです。
 第2は法的側面からアプローチするパワハラ防止のための研修です。こちらはパワハラ等による精神疾患が生じた場合、どのような法的問題が加害者・法人に対して生じるのか、そして実際の裁判例の分析を通じて、法的責任の範囲やその防止策を深く理解させるセミナーです。こちらの研修は一言でいえば、管理職にパワハラに伴う「リスク」を理解してもらう上で意義のある研修です。

 管理職向けパワハラ防止研修は、この二つを両輪のようにして行っていくことが重要と思われるところです。我田引水ながら、第2の法的側面からのパワハラ防止研修はわたしめも多少の心得はございます(笑)。
 

2009年3月25日水曜日

精神疾患と労災認定

 近年、「パワハラ」問題に対する労使実務担当者の関心は高まる一方です。実は労災請求件数だけでいえば、精神疾患がすでに脳心臓疾患を上回っています。また昨年、国側が行政取消訴訟で立て続けに敗訴しており、今後更に精神疾患の労災請求および認定件数は増加する可能性が高いと思われます(厚労省資料はこちら)。

 先日、厚労省の有識者研究会が精神疾患の労災認定に係る判断指針見直しのための報告書を取りまとめました。厚労省HPではまだ公開されておりません(研究会中途段階の素案はこちら)が、第3回目研究会の配布資料を確認しますと、判断指針における「心理的負荷評価表」に係る具体的出来事の追加・修正が提案されています。

 同追加・修正項目の中でとりわけ注目すべきものとして、心理的負荷の強度「3」に「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」を新規追加する旨の提案があります。同報告書では更にこの点について、「従前、例えば、上司からの嫌がらせ・いじめ等については「上司とのトラブルがあった」で評価していたところ、その内容・程度が業務指導の範囲を逸脱し、人格や人間性を否定するような言動が認められる場合には、ひどい嫌がらせ、いじめ等に該当することとし、この項目で評価するものである。心理的負荷の強度は3が適当である」とするものです。同報告書で指摘されているとおり、従前から上司からのパワハラも精神疾患の労災認定に係る判断指針に含まれていましたが、専ら心理的負荷強度が2である「上司とのトラブルがあった」と評価されていました。その結果、労基署もこれだけでは労災認定することはできず、その他過重労働なども含め、認定判断するべきか考慮されてきました。

 これが改められる契機となったのが、国・静岡労基署長(日研化学)事件 東京地判平19.10.15労経速1989号7頁です。同事件はMR職社員が上司からの言動が起因して精神疾患を発症し、自殺したことの業務起因性が争われました。従来の同種事案では長時間労働等が介在しているケースが大半でしたが、同事案はさしたる長時間労働はなく、上司の言動のみが業務起因性判断において問題となったものです。具体的には以下言動が問題となりました
①存在が目ざわりだ、居るだけでみんなが迷惑している。おまえのカミさんも気がしれん。お願いだから消えてくれ。
②車のガソリン代がもったいない
③何処へ飛ばされようと俺はAは仕事をしない奴だと言いふらしてやる
④お前は会社を食い物にしている、給料泥棒 等々

 東京地裁判決は、 これら上司の発言は「過度に厳し」く「嫌悪の感情の側面」があり、「極めて直截なものの言い方」であって、「通常想定されるような「上司のトラブル」を大きく超え」ており、「Aの心理的負荷は、人生においてまれに経験することもある程度に強度のものということができ、一般人を基準として、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重なものと評価するのが相当である」とし、業務起因性を認めました。国側も控訴せず、同地裁判決が確定しています。先の判断指針見直しにより、今後同種事案が発生した場合、労基署も業務起因性を認め、支給決定処分を行うことになるものと思われます。 

 当面、厳しい経済・雇用環境が続くことが予想される中、従来に増して上司と部下の関係が険悪化する危険性があります。このような中、上司の言動が「パワハラ」と捉えられないためにどのような配慮が必要か。企業に対して、極めて難しい問題が突きつけられています。少なくとも、上司に対する管理職教育において、部下とのコミュニケーションの取り方を取り入れること、そしてヘルプラインの設置・運用などが最低限、求められると考える次第です。

2009年3月21日土曜日

日本マクドナルド事件控訴審和解の報から思うこと

 先日、「名ばかり管理職」問題の端緒ともいえる日本マクドナルド事件が、控訴審において和解が成立した旨、報じられています(東京新聞)。労使双方ともに大変な事件であったと推察されるだけに、関係者にとって和解成立は本当に喜ばしいことと思います。

  しかしながら、同事件は労使利害関係者の手を離れ、社会的に大きな影響を与えた事案です。その見地から見ると、地裁判決に対する東京高裁判断が明らかとならなかった点は残念です。使用者側が和解に応じた点をみれば、東京高裁も地裁判決を維持する方向であったことが推察されるところではありますが、その理由付けが地裁判決と異なった可能性もあったのではないか個人的には考えております。

 いずれにしましても、同事件は収束しました。しかし、今なお同業他社あるいはその他業種含め、会社側が位置づける管理職と労基法上の管理監督者性の齟齬は多く残されたままです。当面、労基署が昨年発出した通達に基づく行政監督の形で、同問題が顕在化する可能性があり、企業実務担当者の着実な準備・検討が求められ続ける課題と思われます。

2009年3月17日火曜日

年次有給休暇の時間単位付与を考える(改正労基法)

 有休休暇の時間単位付与に関する労使協定締結の件でsosコラムに少しばかりコメントをいたしました。ご覧いただければ幸いです。

 ところでこの有休休暇の時間単位付与。仮に導入するとしても、細切れとなる有休休暇の時間単位申請をどのように管理するのか難問が残されています。紙台帳で管理しているのであれば、それぞれ記載をしていくことで足りるのでしょうが、多くの企業では年休もコンピュータで申請・承認・管理・賃金反映を一元的に行っているのではないでしょうか。その場合、この時間単位申請は既存の勤怠管理システムで対応は可能なのでしょうか。畑違いでよく分かりませんが、給与制度変更の際、システム部門と折衝を重ねた少しばかりの経験を思い出してみると、相当煩雑なシステム改編作業が予想されるところです。

 例えば所定労働時間が6時間、7時間、8時間の社員が混在する会社において、それぞれが1時間ごと年休の時間単位取得を複数回行ったとしましょう。システム上、それぞれの社員の残有給時間数が適切に管理されるか否かが問題となるものです。
 あるいは所定8時間のある社員が有給日数分を使いはたしてしまい、残っていた時間単位年休3時間分を取得するとして、賃金システム上、これが3時間分の有給取得⇒賃金支給までスムーズに対応できるでしょうか。今つらつら考えているだけで頭が痛くなる問題が幾つも湧き上がってくるものです。
 
 そのように考えると、来年4月施行とはいえ、この時間単位付与制度は当面導入するか否か先送りする企業が相当数出るものと思われます。その際はsosコラムで指摘した誠実団交応諾義務等の問題はご留意いただきたいところです。

2009年3月13日金曜日

マッコリのこと

 昨晩、M先生に韓国料理を御馳走になりましたが、その際、痛飲したのがマッコリなるお酒。白いお酒となると、「にごり酒」=美味しい=飲みすぎ=二日酔いの連立方程式が自然に脳裏をよぎり、おそるおそる飲んでおりました。
 マッコリはさっぱりとしていて、とても美味しいお酒です。キムチやホルモン焼きに大変、マッチします。特に昨夜のお店は緑茶、抹茶などの味をつけたマッコリを出しており、これもまた美味。ということで、いつも通り、よく飲んだ訳ですが、今朝は思いのほか頭がしゃきっとしております。
 これからはマッコリを愛飲しようかと思う今日この頃。近所の韓国料理屋を開拓せねばなりませんね。

2009年3月11日水曜日

ラーメン屋「きら星」のこと

 昨日、何気なくテレビを眺めておりましたら、いきつけのラーメン屋さんが出てきて、びっくりいたしました。その名は「きら星」。濃厚な豚骨スープに太い麺がうまく絡む、美味しいラーメンを出す店です。そこに梅宮辰夫先生ら5名の食の達人が試食の上、5人中3人が支持すれば認証されるというテレビ企画。残念ながら、きら星は認証されずじまいでしたが、店主の研究熱心ぶりは誰もが高く評価していました。
 よりよいものを創り出していくという気概は見習わなければならぬと思った次第。

2009年3月8日日曜日

改正労基法の代替休暇をめぐる法的問題(諮問案から)

 平成22年4月施行の改正労基法に関する施行規則案が、先日の労働政策審議会労働条件分科会において諮問されました(こちら)。今後、同審議会で審議の上、遅くとも4月~6月までには、改正労基法の施行規則および施行通達等が出そろう予定です。

 ここでは、先日示された施行規則案(諮問案)を通じて、新設される代替休暇をめぐる法的問題を考えてみたいと思います。

 昨年成立した改正労基法では、1か月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合、割増賃金率が5割以上(従前に比して2割5分増し)に引き上げられる旨、法律で明記されました(改正労基法37条1項但書き) (改正労基法に関する厚労省資料はこちら)。
 これに合わせて新設されたのが、代替休暇制度です。改正労基法37条3項において、使用者が労使協定を定めることによって、先の引き上げ部分については割増賃金の支払いに代えて、休暇取得を付与することを許容しました。その目的としては、長時間労働に従事した社員を労動から解放し、その健康確保を図ることにあるものです。

 代替休暇制度の詳細については不明な点が多かったところ、先般示された施行規則案を見ることによって、若干ではありますが代替休暇の制度設計(案)が見えてくるところがあります。ここでは主に代替休暇の単位と、その付与期間を取り上げます。

 まず第1は代替休暇の単位です。同制度は60時間を超える時間に対して設けられるものであり、数字だけを見ると、例えば1か月あたり61時間の時間外労働が生じた場合、これに対応して15分の代替休暇を与えることも考えられなくもありません。しかしながら、15分などの短い時間で代替休暇を付与することは、労使双方のニーズが未知数の上、その運用が煩雑になる恐れもないとはいえません。

 そのためか、施行規則案(諮問)を見ると、労使協定において定める代替休暇の単位は1日又は半日とすることを求めています。従って、1か月あたりの時間外労働時間が76時間の場合は半日、同じく92時間の場合は1日を引き上げられた割増賃金分の支払いに代えて、代替休暇付与に替えることが可能です。では、仮にある月の時間外労働時間が75時間あるいは91時間の場合はどのように考えるべきでしょうか。先の施行規則案を前提とすれば、半日あるいは1日に満たない部分は、3時間あるいは7時間等の形で代償休暇を付与することはできず、原則どおり割増賃金支払いが求められることとなります(※なお使用者側が端数を切り上げて、半日あるいは1日単位で付与すること自体は当然可能)

 問題はこの代替休暇は当月の時間外労働時間数ごと付与しなければならないのか、あるいは一定期間、時間外労働時間数を通算した上で付与することが可能かどうかです。先のケースでいえば、例えば1月は75時間、2月は77時間の場合、2か月の総和(60時間超過分)は32時間となることから、これを3月に代替休暇「1日」として付与することが許されるか否かが問題となります。この点については、先の施行規則案からは定かではなく、その後示される施行通達等に委ねられることになりますが、私見では、次に示すとおり代償休暇の付与が2か月以内ということからも、最低2か月以内の通算は許容されてしかるべきと考えるものです。

 第2は付与期間(いつまで付与すればよいか)です。制度設計上、代替休暇の付与期間については特に規制を設けず、労使自治に委ねることも考えられるところですが、1点考慮すべき事項として、健康確保の問題があります。つまり同代替休暇の目的は前述のとおり、労働者の健康確保にあることから、長時間労働状態からなるべく早い段階で休暇を与えることが本来的要請であるということです。

 この見地からか、施行規則案においても、付与期間について労使協定への縛りを設けることが示されています。つまり「時間外労働が1か月について60時間を超えた当該1か月の末日の翌日から2か月以内とする」というものです。

 「2か月以内」という数字は先の趣旨から理解できるところでありますが、実はこの施行規則案には大きな問題があると考えています。それは、付与の始期です。先の施行規則案にはその始期が「1か月について60時間を超えた当該1か月の末日の翌月」とされています。つまり、60時間を超過した当月内における代替休暇の付与は認めないという取扱いになっているものです。

 最近の企業における勤怠管理システムの中には、人事部等が当該月内において逐次、各社員の時間外労働状況を把握し、適宜残業抑制等の指示を行っている例も少なくありません。例えばある月において、76時間の時間外労働が生じた日の翌週に、代替休暇を付与することも、これらの企業では何ら不可能ではなく、現に行っているものといえます。これを厚労省が「代替休暇の付与は労使でどのように考えようが当月中はダメです。翌月に代替休暇を付与してください」ということを、何故、労使合意を排斥する施行規則上のルールとしようとするのか、理解に苦しむところです。

 むしろ、当月中に代替休暇を取らせるインセンティブを高めることの方が、法の目的である「労働者の健康確保」の面から有益と考える次第です。今後の労働政策審議会における議論が注目されるところです。 

2009年3月4日水曜日

ダラダラ残業について考える③

「ダラダラ残業」は法律上の「労働時間」にあたるのか否か。

 よく酒場で話題にのぼるのが、この問題です。この問いに対しては、もう少し条件設定が必要です。
  ①上司等が明確な指示をなし、残業に行っているものの、その成果物の質・量が労働時間に比して低い場合
  ②上司等が明確な指示をしていないが仕事を続けており、その成果物の量・質が労働時間に比して低い場合

 まず①のケースについては、明確な指示があるため、労働時間性があることは法的に異論ないものです。仮に使用者側がその成果物やその過程に不満を有するのであれば、これに対して逐次、指示し、その改善を求め、なお問題が残る場合は懲戒処分等のステップを考えていくことになります(※懲戒処分の適法性には注意する要あり)。

 実は①のケースについては、ホワイトカラー正社員層において稀であり、むしろ次の②が大半です。これについては、よく「明確な指示」がないことをもって、「使用者の指揮命令下」にないので、労働時間にあたらないという見解が示されることがあります。

 しかしながら、多くのケース②では、上司が職場にいて、部下の所定時間外在社を「現認」しています。あるいは、その業務量を把握しているものです。これをもって「黙認」といいうるのか、そして事前ないし事後に上司から明確な指示がなくても、「黙示の指揮命令関係」が認められるか否かが問題となりえます。これについては、すでに裁判例の中でも黙示の指揮命令に基づく労働時間性を肯定した事案があります(ユニコンエンジニアリング事件・東京地裁平成16年6月25日労経速1882号3頁ほか)。

 このように現状の結論からいえば①、②いずれのケースも「労働時間性」が認められやすい状況にあります。しかしながら、使用者側から見ると、事前の許可なく会社に残り、しかも仕事をしているかしていないのか分からないものを何故、「労働時間」と把握し、時間外割増賃金を支払わなければならないのか腑に落ちないところがあると思われます。

 同問題のポイントとして、実は「休憩時間」の問題があります。次はダラダラ残業と休憩時間の関係を考えてみます。

2009年3月3日火曜日

ダラダラ残業について考える②

「何故、ダラダラ残業が生じるのか?」雑感

 ダラダラ残業は当然のことながら、法律用語ではありません。さしあたり定義をするとすれば、「労務提供の量・質が低い状態で、所定乃至法定時間を越えて在社し続けている状態」になると考えています。

 このようなダラダラ残業はおそらく、昔に比べれば激減したとはいえ、多くの職場において今なお見受けられるところではないでしょうか。では、このようなダラダラ残業は何故、あるのでしょうか。

 従業員が残業代ほしさでこのようなことをやっていると指摘する向きがありますが、従来はこれら在社に対して、残業代を請求する社員は稀でした(もちろん退職後に請求する例あり)。

 先日、紹介した大竹論文ではワーカーホリックになりやすい社員の特性に着目して、「後回し行動」傾向のある者が長時間労働に陥りやすいと指摘します。もちろん、そのような面もありますが、それだけともいえない気がいたします。

 何よりも職場、上司が所定時間後の在社にどのような評価を行っているのか、その点も大きな要因と思われるところです。例えば上司等が夜10時ぐらいに部下(もちろん午前9時出社のケース)が机でかりかり「何か」をしている姿を見て、どのようなに感じ、それをどのように表現しているのか。仮に「よしよし、よく頑張っている」と評価し、それが賞与等に反映されるのであれば、残業代が出ようが出まいが夜遅くまで在社すること自体が従業員の経済合理性にかなうことになります。

 このように考えると、最後は人事考課の問題に行きつくのかもしれません。人事考課制度は情意評価から成果評価へとシフトチェンジが進んできましたが、成果主義賃金制度に移行後も、なお情意評価の部分は残されてるケースが多いと思われます。その中で長時間在社をどのように評価していくべきか。ここがダラダラ残業問題を考える上で、実務的に大きなポイントになる気がしています。

2009年3月1日日曜日

ダラダラ残業について考える①

 最近、ダラダラ残業についての勉強を続けています。その中でつらつら考えていることを書き連ねてみたいと思います。
 
 昨年RIETI主催シンポジウムで阪大の大竹文雄先生のご講演を拝聴した際、ワーカーホリックに陥りやすいキャラクターを、小学校夏休みの宿題をどのようにこなしていたかという視点から分析するというお話を伺い、その発想のユニークさに驚嘆したことがあります。その発表では、宿題の後回し行動と男性のワーカーホリックに一定の相関関係があること、この結果を前提とすれば、残業に対する割増賃金増額の効果は乏しく、むしろ「つい残業をするということができないようなコミットメントメカニズムをつくることが必要である」と結論づけておられました。そのための「定時に仕事を強制的に終わらせるメカニズム」として、具体的には、職場に残ることを不可能とする、強制的に休みを取らせることとする等を挙げておられます(詳細については上記シンポジウム配布資料)。

 畑違いの私には正直よく分かりませんが、その結論は一定の共感を覚えました。もちろん使用者側が過重・過大な業務を命じ、それが原因で長時間労働に陥らざるを得ないケースが多いことも否定しません。しかしながら、周りを見渡すと、さほど過重・過大な業務が命じられていないにもかかわらず、長時間労働の状態にある男性中高年社員が散見されることも否定できないところではないでしょうか。私もよく企業の人事担当者から、ご相談を頂くのが、「何故か帰らない社員の長時間在社」の問題です。

 大竹先生が言うところの「定時に仕事を強制的に終わらせるメカニズム」をどのように構築していくのかは、労働経済学者の仕事というより、むしろ企業人事労務の実務家である担当者、社労士がまさに考えるべき課題ではないかと感じております。現場の知恵を活かし、問題解決に取り組むべき課題です。

 

2009年2月28日土曜日

金沢・湯湧温泉で考えたこと

 先週13年ぶりに金沢を訪れる機会を得ました。

 「ニューシネマパラダイス」という映画で、故郷を何十年も離れていた主人公トトが故郷を訪れ、その変貌ぶりに衝撃を受けるシーンがあるのですが、まさにそれでした。特に母校があった金沢城跡の変わりようには、しばし呆然としておりました。もちろん石川県・金沢市の観光資源という面では、城跡が公園化することは有意義と思いますが、ここで勉強し、議論し、遊んだ者としては、やはり切ないものです。

 「私が好きだった金沢ではない」などと呟きながら、旧下宿先に近い浅野川・東山へ。この「女川」と東山は、今だに変わりなく、小京都風情を濃厚に残しており、一安心。とくに東山は古い民家等を心地よい喫茶店・バーに改装しており、そこでようやく落ち着くことができた次第。旧下宿先のアパートも無事を確認(笑)。

 それから湯湯治のため、金沢郊外にある湯湧温泉へ。竹久夢二記念館の隣にある公営温泉で湯を浴びました。竹久夢二のように原稿等を抱えて、ここに何か月か逗留し、それから・・・・等と妄想にひたりながら湯を楽しみましたが、肌に優しく良い湯です。そこでお仕事関係についても、つらつら考えていたことをまとめたのがこちら

 第2の故郷とも言うべき金沢への再訪は、期せずしていろいろなことを教えてくれました。また機会をみつけては、「里帰り」したいと思います。
 

2009年2月26日木曜日

深夜シフトのパート社員に対する特定健康診断受診義務

 会社は深夜シフトのパート社員の方に対して、深夜業務の特定健康診断を年2回、行うべきであるのか。実はこの問題はなかなかやっかいで、パート社員の雇用割合が多い企業のご担当者様から、よくご質問を頂くことがあります。

 たしかに労働安全衛生法(法66条 則45条)をみると、事業者は「深夜業を含む業務」に「常時使用する労働者」に対して、年2回、特定健康診断の実施が罰則付きで義務付けられています(法120条 罰金50万円)。問題はいわゆるパート社員がこの対象に含まれるか否かです。

 「常時使用する労働者」について、厚労省はかねてから以下の判断基準を示してきました。

 次のイ.ロ.のいずれの要件も満たす者
 イ  期間の定めのない契約により使用されるものであること。
 なお、期間の定めのある契約により使用される者の場合は、更新により1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されている者。----(特定業務従事者健診の場合、1年以上を6か月以上と読み替えます。)        

 ロ その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。(「2分の1以上である者に対しても実施することが望ましい」とされています。)

 ここで実務運用上、気をつけておきたいことは、特定健康診断の対象となる深夜シフトのパート社員は、通常時間帯のパート社員に比べて、健診対象になりやすいという点です。つまり通常の定期健診はイにあるとおり、有期契約の場合は、「1年」以上使用される予定または実際に「1年」以上使用されている社員が対象となりますが、深夜特殊健診については「6か月使用見込み」ないし「6か月使用実績」があれば対象になるものです。なかなか運用上、やっかいなところではありますが、留意しておきたいところです。

 またロにあるとおり、正社員の所定労働時間が週40時間であれば、週30時間以上勤務するパート社員が定期健診および深夜特殊健診の対象になるものです。反対に言えば、これより短い勤務のパート社員については、健診を受診させる義務が生じないこととなります。

 その他、細かい問題として、月に1~2回しか深夜シフトに入らないパート社員等にも深夜業務の特殊健診を行う義務が生じるのか否かということがあります。これについては、今のところ明確な解釈通達等が示されていないようですが、「深夜業務従事者の自発的健診」受診支援助成金の取扱が参考になります。これによれば、6か月を平均して月4回以上の深夜業務従事者を対象としていることから、少なくともこの基準以上、つまり6か月平均で月4回以上の深夜シフトに入る予定か否かで判別されるべきものと思われるものです(同様のご見解を示されるものとして、竹林社会保険労務士事務所HP 労働問題Q&A)。

2009年2月24日火曜日

有期労働契約のルール法制化は進むか?

 先日の日経新聞等に「有期労働契約のルール法制化」に関する記事が掲載されていました。本ブログにおいても、民主党が先の国会において議員立法として提案した「有期労働契約遵守法案」について、取り上げたことがあります。今回の動きは、さながら政府版「有期労働契約遵守法案」提出の動きといえるかもしれません。

 実は有期労働契約に対するルール設定の動きは、今日までもなかった訳ではありません。かねてから「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」に基づいて、労基署が有期労働契約に関し指導を展開していました。また昨年出された「有期契約労動者の雇用管理の改善に関する研究会報告書及びガイドライン」は法規制ではないにしろ、ガイドラインの形で事業主に対し、有期労働契約の雇用管理にあたり留意すべき点を示しています。
 これらは罰則等を背景とした法規制ではありませんが、有期労働契約に対するルール設定は少しずつ進められてきたものと思います。

 これに対して、我が国の有期労働契約に係るルールは以下の点で十分ではないという指摘も、かねてからなされていました。

 ・諸外国(フランス、ドイツなど)に見られるように、有期契約を締結する際の目的をあらかじめ規制すべきでないか(入口規制) ※ドイツ・フランスの法規制を知る上で参考となる文献としてJIL報告書「ドイツ・フランスの有期労働契約法制」(橋本陽子先生、奥田香子先生執筆分)

 ・有期労働契約の雇い止めについて形成されている判例法理を、立法化すべきではないか

 先の民主党提出法案はまさに、これらの問題意識に立ち、法制化を行おうとしたものです(なお同法案は前国会において参院可決後、衆院で否決され未成立)。

  今回の厚労省の動きは、学識経験者による研究会を1年4~5か月ほど行った上で2010年夏までに報告書をまとめる予定とのことです。その後のシナリオを 予想すると、2010年秋の労動政策審議会で議論の上、2011年の通常国会に法案を提出するシナリオではないかと推察されます(どこかで見たようなシナ リオのような・・・。労働契約法案のような空中分解(2006.6)が生じることのないよう願います(笑)。)

  先のJIL報告書など、すでにこの分野については、比較法研究が相当程度進められています。同研究会では更なる比較法研究はもちろん、我が国における有期 労働契約のあるべき姿、現状における課題、そして法制化すべき問題とその履行確保手段など踏み込んだ議論が展開されることを切望したいと思っております。 個人的には、特にエンフォースメントの問題が、この分野を論じる上で最も重要と感じるところです。

2009年2月19日木曜日

「管理監督者問題」再考

 思い起こせば昨年の今頃、「管理監督者」問題が火のついたようになり、いたるところで大きな関心を呼んでいました(※参考:その際、所属先で小冊子発行)。それから1年が過ぎ、今は9月の海水浴場(北海道ではお盆後の小樽マリンビーチ?)のように、閑散として「一夏の思い出」の如く、忘れられつつあるように感じておりました(控訴審判決が出れば、また火がつくとは思いますが)。

 しかしながら、労基署の一部担当者においては「一夏の思い出」に終わっていないようです。最近、散見される指導事案を見るに、担当官が日本マクドナルド事件東京地裁平20.1.28判決を金科玉条の如く扱い、これに反するものは全て過去にさかのぼって残業代を支払えと「口頭ベース」で指導を行う動きがみられます。例えば、年収700万以上の課長職で、かつ相応の労務管理上の権限・責任を有する者に対しても、同判決を持ちだし、「企業全体の事業経営に関する重要事項に関与していない」ことを理由に、管理監督者性の再考を求める例などがあります。

 日本マクドナルド事件地裁判決については、別のところで判例評釈を書く機会を頂きましたので、詳細はそちらに譲るとして、先の指導については少なくとも以下3点を申し上げるべきではないかと考えています。

1 日本マクドナルド事件判決は地裁判決に過ぎないうえ、控訴中であり確定をみていないものであること
2 同事件は行政通達がいみじくも指摘するとおり、多店舗展開する小売等業店長の管理監督者性に関する下級審裁判例であり、同判決を前提としても、異業種ライン管理職、スタッフ管理職にそのままあてはまるか否か異論があること
3 同判決はスタッフ管理職において用いるとされてきた「企業全体の事業経営に関する重要事項への関与」をライン管理職の判断に持ち込んだ点に異論があること(※この判断を前提とすれば、いかに課レベルで採用・配置・人事考課等の権限を有するライン管理職も、企業全体の事業経営の重要事項への関与がなければ、すべからく「管理監督者性」が否定されることになる!)

 昨年、発出された通達の限りにおいて、行政指導を展開することは行政官として当然の責務だと思います。しかし、それを離れて一下級審判決(未確定)をもちだし、しかも口頭ベースで指導を展開する動きについては、個人的に強い違和感を覚えるものです。

  「一夏の思い出」はアルバムにしまい、堅実な仕事をしていただきたい次第です。

2009年2月15日日曜日

(読書)半藤一利「幕末史」

 半藤一利「幕末史」読了。カルチャーセンターの連続講演を基にしたものだそうで、半藤先生の親しみやすい語り口と相まって、大変読みやすい一書。またその内容も初めて知る視角・歴史的事実が多く盛り込まれており、勉強になりました。
 幕末史で、いつも興味深いと思うのが、薩摩藩そして大久保公、西郷公らの動きです。歴史探偵の半藤先生らしく、本書においては、幕末の薩摩藩の政略について、新説・大胆な説が紹介されており、興味が尽きません。お勧めの一書です。

2009年2月14日土曜日

雇用調整局面における成果主義賃金制度の行方

 昨年末からの雇用環境悪化は、よくバブル経済崩壊後の「失われた10年」の雇用環境と比較されることが多いと思われますが、幾つか大きく異なる点があります。その一つは大企業を中心とした成果主義賃金制度の「定着」ではないでしょうか。言うまでもなく、2000年前後から職能給から成果主義的要素を高める賃金制度への移行が進みました。その後、極端な成果主義賃金制度が運用上、様々な問題を抱えていることが指摘され、その修正がなされる動きがみられましたが、90年代の賃金制度と比べると、制度・運用ともに様変わりしている企業が多いと思われます。

 この雇用調整局面化においては、売上・利益が低迷し、賃金引き下げへの企業シフトが高まることになります。従来は集団的な労使協議を経て、一律1割などの賃金引き下げを妥結し、就業規則・労働協約をもって賃金引き下げを行っていました。今でもそれが主流とは思いますが、成果主義的な年俸制などを導入している企業では、それとは異なる動きが出てくるものと思われます。

 それは成果評価等を通じた個別協議の上での、賃金額引き下げです。では仮に個別協議がまとまらない場合で、かつ次年度も継続して就労し、会社も労務を受領していた場合、その賃金額はどのように考えるべきでしょうか。最近の裁判例をみると、中山書店事件、学校法人実務学園ほか事件、日本システム開発研究所事件、明治ドレスナー・アセットマネジメント事件など、年俸制における賃金引き下げの効力が争われる事案が目立つようになってきました。

 この問題は今後、実務的にも大きな課題になると思われます。裁判例の分析が必要です。

2009年2月11日水曜日

副業時に労災に被災した場合の平均賃金算出方法

 先日のブログで副業時に労災に被災した場合の法的問題を少しばかり検討してみました。その件で、ある先生からご助言を頂き、少しばかり調べたところ、2004年に以下のような動きがあったことを承知した次第。

 その内容とは、二重就労時に労災に被災した場合、労災保険給付を行うに際し算出する平均賃金について、就労先それぞれの賃金額を合算して計算するという方策が厚労省内の有識者研究会で検討されていたというものです(結論としては未改正。研究会報告段階における当時のNEWS,建議段階で「今後の検討課題」とされた経緯についてJIL報告書参照)

 実は昭和28年に、旧労働省はこの問題について通達を発出し、二重就労時の平均賃金算出は、被災先の事業所における平均賃金をもってこれに当てるとしました(昭和28年10月2日 基収第2048号)。この場合、特に本業を持つ社員が、副業先の短時間アルバイトで労災に被災した際は、非常に低水準の労災保険給付しか受けられないこととなります。

 2004年の有識者研究会では、上記のとおり、その見直しを求める報告書を取りまとめたものですが、その後の審議において、法改正・通達改正に至らず、今なお昭和28年通達が実務において維持されているものです。

 先日のブログで指摘したとおり、兼業を許可していた社員が過労死・過労自殺した場合、仮に業務上認定されたとしても、その平均賃金をどのように算出するかは、今なお不明確と言わざるをえません。例えば脳・心臓疾患が深夜のアルバイト先で生じた場合は、被災事業場がアルバイト先とされ、平均賃金も同アルバイト時給をもって算出することになるのでしょうか(なお労災保険の場合は、最低保障額が設定されており、これに修正される余地はある)。何らかの顕著な出来事がアルバイト先であれば別として、疲労蓄積型の脳・心臓疾患、精神疾患発症のケースについては、落ち着きどころが悪い結論のようにも思えます。この問題については、今後も引き続き行政動向等を注視しておく必要があると考えております。
 なおすでに同種事案について、労災認定がなされた例が報道されております(JILメールマガジン2007.5)が、同事案はパワハラも含まれている点にも注意が必要です。平均賃金額がどのように算出されたのかは、同記事では明らかにされておりませんが、同事案は本業先の平均賃金をもって算出したのではないかと推察されるところです。