昨日の報道で、飲食店アルバイトに対する1ヶ月単位変形労働時間制の適用が否定された裁判例が報じられています(こちら)。
報道によれば、同社では、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用するものの、あらかじめ決定していたのは半月分のシフトに過ぎなかったようです。
同変形労働時間制は特定日・週に法定労働時間を超過したとしても、対象期間を平均して1週40時間以内に収まる場合、労働時間規制(労基法32条)および割増手当規制(労基法37条)が適用除外される制度です。しかし、同変形労働時間制を導入する際には、あらかじめ対象期間の労働日、労働時間を特定することが求められています。上記事案は、まさにその点に不備があったようです。したがって、同判決は従来からの行政解釈・裁判例に沿うものであり、特に先例的意義はありません。
サービス業においては、天候、商品の売れ行きその他様々な不確定要素によって、業務量が変動するため、あらかじめ1ヶ月単位で完全にシフト表を組むことが難しい実情があるように思われます。そのため、本件のようなサービス業において、1ヶ月単位の変形労働時間制の適用が全く不可能にも思われるところですが、一つの対応策としては、シフト表が組める範囲内(例えば半月、2週間など)を平均して1週40時間に設定する方法もあります。
このように変形対象期間を短くすることによって、変形労働時間制を適用することも考えられますが、実はサービス業において更なる難問が残っています。それは変形対象期間内における労働日・休日・労働時間の変更です。同変形労働時間制は前述のとおり、対象期間内の労働日、労働時間の特定を求めており、同対象期間内の融通無碍な労働日・労働時間の変更を前提としていません。あまりに融通無碍に同変更を行っていると、労働日・労働時間の「不特定」を理由に、変形労働時間制が違法とされる恐れがあるものです(先例として、JR東日本(横浜土木技術センター事件) 東京地判平成12.4.27 労判782-6)。
サービス業については、やはり1ヶ月変形労働時間制の導入は容易ではありません。サービス業向けの変形労働時間制としては、他に1週間単位の非定型的変形労働時間制(法32条の5)という制度があります。小売・旅館、料理店および飲食店において、30人未満の事業場が対象となる制度であり、1週間平均40時間以内に収まる場合は、特定日が10時間(上限)であっても、労働時間・割増賃金規制が適用されない制度です。また同制度の場合は、労働日、労働時間数の特定は同週間が開始する前に書面で行うことで足りる上、緊急でやむをえない事由があれば、前日までに特定日の労働時間を変更することも許容されています(則12条の5 3項)。事業場規模で対象になるサービス業であれば、導入検討する価値はあろうかと思われます。
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