2009年12月22日火曜日

松下PDP最高裁判決と不更新条項付き有期雇用契約雇い止め

 松下PDP最高裁判決が最高裁HPに掲載されました(こちら)。
 発注者との間に黙示の雇用契約が成立したか否かという争点がもっぱら注目されていますが、個人的には、有期雇用契約の雇い止めに係る最高裁判断に大変、注目しておりました。ここでは、その問題について雑感を述べます。

 本事件では、偽装請負が発覚し、労働局からの指導等を受けて、発注者が請負会社社員と次のような契約を締結しました。
 契約期間:平成17年8月22日から平成18年1月31日まで(ただし平成18年3月末日を限度として更新することあり)。

 請負会社社員(弁護士)は期間制限等について異議を留める旨、内容証明郵便送付をもって通知した上で、上記雇用契約を締結しています。

 発注者は同契約書の記載のとおり、平成18年1月31日付で雇用契約終了としましたが、本事案ではこのような雇い止めの可否も争われておりました。

 これについて、最高裁は本件有期雇用契約について次のとおり判示します。「雇用契約は1度も更新されていないうえ、上記契約の更新を拒絶する旨の上告人の意図はその締結前から被上告人および本件組合に対しても客観的に明らかにされていたということができる。」

 「そうすると、上記契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないことはもとより、被上告人においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合にもあたらないものというべき」とし、「上告人による雇い止めが許されないと解することはできず、上告人と被上告人との間の雇用契約は、平成18年1月31日をもって終了したものといわざるを得ない」と結論づけました。

 事例判断ではありますが、まず異議留保が付された不更新条項付き有期雇用契約に「雇い止め法理」が適用されないことを初めて明らかにした最高裁判例と位置づけることが可能と思われます。

 ビジネスガイド2月号の拙稿(峰先生共著)「「2009年問題」に対応した有期雇用契約の法律実務」(こちら)を執筆していた時から抱えていた疑問に対する答えを頂いた気がしております(同稿では、そのほか不更新条項に係る最近の裁判例等を解説しておりますので、ご覧いただければ幸いです。)

 しかしながら、最高裁判決を更に読み進めますと、次の疑問が生じます。本最高裁判決は、請負会社社が労働局に偽装請負等の申告をしたことに対し、発注会社が不利益取り扱いを行ったことを認め、慰謝料請求認容した高裁判断は維持しました(90万円)。

 問題はここでいう不利益取り扱いが何かということですが、「リペア作業」を行わせたということとともに「被上告人の雇止めに至る上告人の行為も、上記申告以降の事態の推移を全体としてみれば上記申告に起因する不利益取扱いと評価せざるを得ないから・・不法行為にあたるとした原審の判断も、結論において是認することができる」としています。
 さらに今井判事の補足意見を見ると、「雇い止めについても、これに至る事実関係を全体としてみれば、やはり上記申告に対する不利益取り扱いといわざるを得ない」と判示しました。

 どうも上記説示から見ると、本最高裁は本件雇い止めが派遣法49条の3に反する解雇そのほか不利益取り扱いにあたると解しているように読めます。とすれば、改めて雇い止め自体が無効となりえないのか。そのような疑問も生じるところです。これに対して、前述のとおり、不更新条項が付されていることから本件については、「雇い止め法理」は適用されず、ただ損害賠償請求のみ生じうるという見解もありうるところであり、今後さらに検討を深めるべき課題と思われます。

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