2011年12月27日火曜日

選定基準廃止と継続雇用の対象外(高年法改正案)

高年法改正案でどうもよく分からないのが、選定基準の廃止と健康状態・能力不足の社員に対する適用排除の関係です。現行では、労使協定で、健康状態・能力不足等の選定基準をあらかじめ設け、これに該当する者に対し高齢者雇用継続措置を講じない取扱いが容認されています。
 これに対し、今回の改正案では、厚労省(事務方)は「選定基準」の廃止を早くから打ち出しており、使用者側が強く反発していますが、これを受けてか、昨日の労働政策審議会で報告書素案として示されたのが、以下の内容です(報告書素案はこちら)。


現行の継続雇用の対象となる高年齢者に係る基準は廃止することが適当である。 

その際、就業規則における解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する者について継続雇用の対象外とすることもできるとすることが適当である(この場合、客観的合理性・社会的相当性が求められると考えられる)。  


 2行目以降の文章をどのように読めば良いのか、理解に苦しむところです。そもそも選定基準廃止によって、再雇用制度導入企業は、60歳を超えて雇用継続を希望する労働者がいれば、会社側の承諾の意思表示を要せずとも、「再雇用契約」が成立するといえるのかどうか。また会社側が不承諾とした場合、これは「雇用契約成立」後における「解雇」の意思表示とみるのか、あるいは有期契約の雇い止めに係る判例法理と同様に「解雇権濫用法理の類推適用」の局面と見るべきかどうか。

 また同報告書素案において「継続雇用の対象外とすることもできるとすることが適当」と記載されていますが、これは立法によって、判例法理等を修正しようとする意図と見て良いのかどうか。そのような意図がなければ、当該記述は「解雇」又は「定年雇い止め」に対し、裁判所が解雇権濫用法理を適用する可能性が高い旨述べたものに過ぎません。「適当」云々は、今後の判例法理の展開を待つほかなく、同報告書素案において記述すべき事項ではないようにも思えるところです。

 いずれにしても、明日には最終報告書が取りまとめられる予定です(もしくは越年?)。同報告書を待って、この問題も深掘りして考えていきたいと思います。

2011年12月26日月曜日

有期労働契約の利用可能期間規制案について(労政審建議)

平成23年12月26日、労働政策審議会は「有期労働契約の在り方について」(建議 こちら)を公表しました。厚労省は同建議を受けて、法案要綱案を取りまとめ、審議会で答申を得た上で平成24年度通常国会に関係法案の提出準備を進める予定です。

 先日の拙ブログでも取り上げたとおり、同報告書において最も注目すべきは「有期労働契約の利用可能期間」規制を提案している点です。前回の分科会では、利用可能期間を初めとした具体的数字が示されませんでしたが、今回初めて具体的な数字が明らかとなりました。

 有期労働契約の利用可能期間 上限5年
 クーリング期間 原則6ヶ月(有期契約が通算で1年未満の場合は、その2分の1)

これを超過し、有期労働契約を反復更新した場合、労働者の申出によって、当該労働契約は無期契約に転換する制度が提案されているものです。

問題はまずいつ転換されるかですが、厚労省担当者によれば、有期契約が終了した日の翌日から、無期契約になるとの事。

 また無期契約に転換した場合、その労働条件等が気になるところですが、これについて前述の建議では以下の記述が見られます。
「別段の定めのない限り、従前と同一とする。」

 したがって無期に転換したとしても、必ずしも既存の「正社員」と同様の処遇にすることが義務づけられるものではなく、労働条件等は有期契約時と同一のものが引き継がれることが「原則」となります。ただ気になるのが「別段の定めのない限り」との留保です。これについては、実務的にも十分に検討を要する点と思われます。

2011年12月15日木曜日

有期雇用法制の動向(利用可能期間制限案 平成23.12.14労政審段階)

昨日(平成23年12月14日)、労働政策審議会労働条件分科会を傍聴しておりましたが、同会に「有期労働契約の在り方に関する論点(改訂」が示されました(こちら)。労使ともに同ペーパーに対する評価を留保しており、ここに記載されていることが審議会報告書、さらには法案化されるのか未知数です。その点を留保しつつも、同ペーパーには幾つか大変注目すべき記述が見られますが、特に重要と思われるのが、以下の利用可能期間制限に関する提案です。

 有期労働契約が一定年数を超えて反復更新された場合には、労働者からの申出により、期間の定めのない労働契約に転換させる仕組み(転換に際し期間の定めを除く労働条件は従前と同ーとする。)を導入することについては、雇用の安定や有期労働契約の濫用的利用の抑制という観点から、評価できるのではないか。
この場合、次のような論点について、更に検討を深める必要があるのではないか。
①利用可能期間は何年とするか。
②同ーの労働者と無期転換の対象とならない有期労働契約を再度締結することができるようになるまでの期間(クーリング期間)を設けるとすれば、どのくらいの期間とするか。
③適用除外を設けることとするか。
④利用可能期間到達前の雇止めの懸念について、どのように対応するか。
⑤制度導入後に締結又は更新された有期労働契約から、利用可能期間の算定を行うことでよいか。

 研究会報告の段階から、有期雇用の不安定への対応として、更新回数・利用可能期間に対する制限が対応策の一つとして提示されていましたが、その一方、利用可能期間満了直前の雇い止め・雇用不安の懸念も強く指摘されてきました。そのため私見では、今回の報告書には回数・利用可能期間制限は盛り込まれず、雇い止め法理の明文化に留まる(なお策定されるであろうガイドラインに注意すべき)と観測していましたが、厚労省の事務方は、かなり踏み込んだ素案の方向性を示してきたものです。

 案の上、経団連は同方向性に対して、一様に強い抵抗感を示しており、最終報告書に残るかどうかは未知数です(残るとしても、両論併記型になるのでしょうね)。またこの方向性を示すとしても、①〜⑤の具体的数字等を如何に設定するか。この点については、労働側も産業ごとの事情もあり、一枚岩ではないようです。時間的にも2週間を切っており、数字の結論を示すことは容易ではなく、「政省令に委任」「同決定に際して、労政審で再度検討する」といったところが、厚労省側が考えそうな着地点でしょうか。

 なお数字として①について、7年〜10年あるいは3年〜5年などが非公式の形で飛び交っておりました。また②については、3ヶ月あるいは雇用保険の給付日数などの数字も上がっておりましたが、いずれにしても今後の課題と思われます。事務方は昨日の段階では「黙して語らず」であり、労使双方の意向を今なお探っている様子です。


2011年12月3日土曜日

労働安全衛生法案の国会提出

昨日(12月2日)、「労働安全衛生法案」が国会に提出されました(こちら)。産経ニュースによれば、以下の観測記事が示されています(こちら)。

政府は2日、事業者に全従業員への医師によるストレス検査の実施を義務づける労働安全衛生法改正案を閣議決定した。与野党が切り離しを求めた全面禁煙か喫煙室以外での喫煙禁止を義務づける規定も盛り込んだため、成立は困難な見通し。法改正への意欲を示すため、当初の提出見送り方針を転換した。 

 今国会の会期末が12月9日、会期延長したとしても「派遣法案」の審議が優先されるため、いずれにしても今国会での成立は困難で、来年の通常国会に持ち越しになるのが必至というところでしょうか。

2011年11月18日金曜日

改正労働安全衛生法案の提出あるのかないのか?

昨日の小宮山大臣記者会見がUPされておりましたが、これをみると「改正労働安全衛生法案」の本臨時国会提出を完全に諦めている訳ではないようです(こちら)。

(記者)
 今国会の会期末まで1ヶ月を切りましたけれども、ストレスチェックを従業員に義務付ける労働安全衛生法改正案とか、主婦年金の切り替え忘れ問題で過去の過払い分を減額しない国民年金法改正案の2法案の閣議決定の見通しはどうなっているのでしょうか。
(大臣)
 今、鋭意閣議決定が出来るように努力している最中です。これまでは、会期末1ヶ月前までが国会対策委員会の方で受け付ける締め切りになるということが多かったと思うのですが、今回はそういう形ではなくて、なるべく通せる態勢を作ってから、閣議決定をしてほしいというような意向もありまして、その中で年金の運用3号について閣議決定を出来るように準備を進めていますし、労働安全衛生法改正案も参議院先議とか色々なことを野党とも協議してきた経過なども踏まえて、なんとか出せるように努力しているところです。

2011年11月16日水曜日

<石綿被害>退職者に団交権確定 最高裁初判断

「<石綿被害>退職者に団交権確定 最高裁初判断」の報(こちら)。団交権を認めるとしても、誠実団交義務の中身が問題かと。職場環境などの問題は交渉事項になるとしても、退職後の損害賠償請求・示談交渉など代理人的事柄も誠実団交義務に含まれうるのかどうか。最高裁判決の射程が気になるところです(多分、その点は何も触れていないと思いますが・・)。

2011年11月15日火曜日

改正派遣法案成立の可能性高まる

今国会において派遣法案成立の可能性が高まったようです(毎日新聞ニュースはこちら)。確かに次の通常国会では、有期・パート・高齢者雇用から年金制度改革まで厚労関係の法案が山のように提出される予定ですから、この国会で何としても仕上げたいという政府・与党の意向は当然のことかと。

基本的に今回の修正によって、自公連立政権下での「派遣法案」に戻すことになろうかと思いますが、「みなし雇用制度」が3年後施行とはいえ、残っている点が大変気になるところです。これから国会での審議がスタートすることになろうかと思われますが、ぜひ「みなし雇用制度」等はその要件・効果について、しっかりとした検討をして頂きたいところです。

2011年11月13日日曜日

「改訂4版 年次有給休暇制度の解説とQ&A」出版

労働調査会様からご依頼頂き、改訂作業に関わった「改訂4版 年次有給休暇制度の解説とQ&A」が出版されました(こちら)。

 年次有給休暇制度をめぐる法と行政解釈・裁判例を網羅的に取り上げ、Q&A解説を行っている書籍です。年次有給休暇制度はとかく難解・複雑で、顧問先様からもご相談を頂くことが多いテーマですが、同書籍が年休に伴う実務対応上の疑問払拭にお役立ちいただければ誠に幸いです。

2011年11月12日土曜日

改正労働安全衛生法案の提出見送り

本臨時国会に法案提出される予定であった「改正労働安全衛生法案」。労働政策審議会において法案要綱の答申を受けておりましたので、国会提出は間違いのないところと見ておりましたが、卓袱台が引っ繰り返されたようです。産経ニュースの報から(こちら)。
 そもそも「対立法案」ではなかったはずですが、現大臣の得意げな「煙草税」会見と自民党大森副総裁がうまそうに煙草をふかすテレビ映像を見た時から、危ない予感がしていました。案の上というべきでしょうか。通常国会では厚労関係の法案提出が盛り沢山ですが、改正労働安全衛生法の優先順位がどの程度となるか。法案成立時期が相当程度遠のく可能性もあるように思われます。


厚労相の“禁煙”へのこだわりが裏目 労働安全衛生法の今国会提出を断念

2011.11.9 01:30 たばこ
厚生労働省は8日、事業者に全従業員を対象とした医師によるストレス検査の実施を義務づける労働安全衛生法改正案について、今国会への提出を見送る方針を固めた。
改正案のもう一つの柱である受動喫煙防止策に与野党の愛煙家らが反発し審議入りのメドが立たなくなったため。嫌煙家で知られる小宮山洋子厚労相だが、今回ばかりは煙たがるたばこに足下をすくわれた格好だ。
改正案は、労働行政に精通する小宮山氏が今国会への提出を強く求めていた。過剰なノルマや上司の叱責などが原因で鬱病となり、労災申請をする労働者は年々増加しており、これを防止しようと10月の政務三役会議で提出が決まった。
だが、改正案には、すべての事業所と工場に「全面禁煙」か、喫煙室以外での喫煙を禁止する「空間分煙」を義務づける受動喫煙防止策が小宮山氏の強い意向で盛り込まれた。
厚労省は参院での先行審議を予定していたが、与野党から「受動喫煙部分を切り離さないと審議に応じない」との声が続出。12月9日の会期末まで1カ月しかないため、来年の通常国会までに仕切り直すことになった。

2011年11月9日水曜日

「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」報告書の公表

 昨日(11月8日)、厚労省は「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」報告書を公表しました(こちら)。同発表文に以下の記述が見られます。

厚生労働省では、この報告書を受け、速やかに精神障害の労災認定の基準を改正し、業務により精神障害を発病された方に対して、一層迅速な労災補償を行っていきます。また、分かりやすい基準とし、業務により精神障害を発病された方から労災請求が行われやすくすることにより、認定の促進も図っていきます。


 現行判断指針(こちら)の見直しも「速やか」に行われるとの事。同改正の目的は「処理の迅速化」にありますが、同見直しを通じて請求件数の急増も予想されるところです。とりわけ「転勤」「配転」等と長時間労働の重なりが契機となったメンタル不調事案などの請求が増える可能性が高いと思われます。これらの案件に対して、労基署の認定実務がどのように対応し、更に裁判所が取消訴訟において如何なる判断を行うか。大変注目しています。

2011年11月8日火曜日

第5回虎ノ門セミナーのご案内

 厚労省は来年の通常国会に「有期雇用法制」、「改正パート法」を提出すべく、労働政策審議会における検討を本格化させています。

 第5回虎ノ門人事労務セミナーは、同法案の最新動向と企業の実務対応策を取り上げることとしました。ぜひともご利用いただければ幸いです。

セミナー:「パート・有期雇用法制の動向と企業の実務対応策」
日時:平成23年12月5日 18時半〜20時半
場所:TKP新橋ビジネスセンター カンファレンスルーム3E

詳細についてはこちらをご覧ください。

2011年10月31日月曜日

「労働基準関係情報メール」の正式発表

先ほど厚労省HPに「労働基準関係情報メール」が正式発表されました(こちら)。

入力フォームは以下URLとの事(こちら)。

※内容のところに、3000文字以内で会社名、所在地、労基法違反の事実を記載するとの事。どんなものか体験したく、試しに以下のようなものを書いてみました(^^;)。

※内容
会社名:虎ノ門商事
会社所在地:東京都港区虎ノ門●○

労基法違反の内容
 同社は●○の卸小売を主に営む会社であり、従業員●名であるが、私を含む社員○名に対して月80時間〜100時間以上の残業を行わせているにも関わらず、残業の自己申告時間を上限月30時間とし、これを超えた自己申告を受けず、月30時間を超えた残業代を平成○年以降、一切支払っていない。自己申告と実際の就労との矛盾点については、各自に支給されているPCのログインログオフ記録を確認することで判明するもの。長時間労働のため健康を害する同僚もいるので、なるべく早く労基署の調査を希望する。

これで300文字程度です。3000字となると、この10倍に及ぶため、かなりのボリュームのものが書けますね。

「強制労働」(労基法5条違反)の立件に思うこと

今朝の読売新聞ニュースに以下の記事が掲載されています。


「逃げたら殺す」強制労働容疑で男2人を逮捕



山口県警柳井署は30日、、建設業●○(49)、土木作業員●△(46)の両容疑者を労働基準法違反(強制労働)容疑で逮捕した。
 発表によると、2人は共謀し、昨年12月30日と今年4月1日、離職しようとした福岡県内の男性土木作業員(41)に対し、頭を殴るなどの暴行を加え、「逃げたら追いかけて殺す」などと脅し、複数の土木工事現場でそれぞれ約3か月間と約40日間、労働を強制した疑い。2人とも容疑をほぼ否認しているという。(2011年10月31日07時40分  読売新聞 一部固有名詞を伏せ字に) (こちら

 労基法5条(強制労働の禁止)などは普段、紐解く機会がないのですが、まだまだこんな事件が日本で生じることがあるのですね。
 それはさておき山口県警が労基法違反の容疑で逮捕した点は、色々と検討の余地があろうかと思われます。被害者の申立(告訴かもしれませんが)では「逃げたら追いかけて殺す」と言われたとの事。同事実関係が認められれば、労基法5条違反の立件は容易だと思いますが、気になるのが被疑者側が「ほぼ否認」している点です。被疑者が頭を殴った事を認めている一方、上記供述を完全に否認している場合、労基法5条違反での立件が可能かどうか懸念が生じます。

 厚労省コンメンタールを見ても「暴行があっても、労働の強制の目的がなく、単に「怠けたから」又は「態度が悪いから」殴ったというだけでは本条の違反は構成せず、単に刑法の暴行罪を構成するにとどまるとの事(厚労省「労働基準法 上」90頁(労務行政))。同供述が否認された場合、暴行行為の前後において、被疑者が「労働の強制」の目的で、不当に拘束する手段によって「労働の強制」に至らしめたことの立証を要することになります。同事案は「拘束期間」が長いため事実関係を丹念に洗っていけば、この点の立証も可能と思われますが、捜査に手間がかかります。

 それであれば、何故、警察が「暴行罪」ではなく、畑違いの労基法5条違反で立件したのか疑問が残るところですが、思うに罰則の重みがあるのやもしれません。労基法5条違反であれば、罰則は使用者に1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処せられる一方、暴行罪のみであれば2年以下の懲役又は30万円以下の罰金です。傷害罪を問えれば、労基法違反よりも重い罰則で問えますが、暴行後就労している事実からすると、傷害罪まで問うのは難しい可能性があります。
 報道に接し、つらつらと考えたことを備忘録として。

2011年10月28日金曜日

賃金不払残業等情報メール受付(厚労省)について

毎年11月は厚労省による「労働時間適正化キャンペーン」が実施されていますが、本年新たな取り組みとして行うのが「賃金不払残業等の情報メール受付」です。その詳細が厚労省HPにUPされています(こちら)。

 某インターネットニュースには「メールでの告発受付」と書かれていましたが、厚労省の発表を見ると「労基法等における問題の内容」についてメールで情報を受け付け、これを「関係する労働基準監督書へ情報提供するなど、業務の参考とさせていただく」との事。メール送信者からの照会については、「受け付けた情報に関する照会や相談に応じることはできませんので、あらかじめご承知おきください」としています。またメール送信者の名前は記入する要がないとする一方、会社名と所在地は必要記載事項となっています。

「真に権利救済を求めるのであれば、所轄労基署に申告等の手続きを取って下さい。このメール送付は、あくまで情報提供の一つにすぎませんよ」という事でしょうか。
厚労省は、本取組によって、様々なレベルでのメール情報を大量に受け付けることになると思われますが、この多種多様な情報を監督指導にどのように活用していくのか。また情報管理と活用が適切に行われるのか。様々な課題もありそうですが、まずは11月の運用がどうなるか注目されるところです。



2011年10月7日金曜日

「社会保障と税の一体改革」のスケジュール

厚労省は10月7日付けで「社会保障改革推進本部」を設置しました(こちら)。いよいよ官界では「税と社会保障の一体改革」推進の動きが本格化しているものです。

当面の作業スケジュールはこちら
今後の検討の進め方についてはこちら

年金・医療・介護はもちろん、就労支援、子育て支援、障害者福祉も含まれており、厚労省全省を挙げての取組であることが見て取れます。

「大風呂敷」のように見えなくもありませんが、これがどのように年末年始にかけて「成案」として着地していくのか、注意深く見守りたいと思います。

2011年9月20日火曜日

第4回虎ノ門労働法セミナーのご案内(社会保険適用拡大関係)


 当事務所では定期的に日頃からお世話になっている顧問先様、出版社様その他人事労務ご担当者様向けに労働法セミナーを開催しております。第4回目につきましては、平成23年10月5日(水)18時半から「パート等の社会保険適用拡大をめぐる法的問題」(こちら)をテーマに開催いたします(場所は第1~3回目と同様にTKP新橋)。

 野田政権が誕生し、「社会保障と税の一体改革」をめぐる論議が本格化しつつあります。同論議の中で、人事労務上極めて影響が大きいのが「パート等の社会保険適用拡大案」といえます。本セミナーでは同論議の動向とともに、社会保険・労働保険未加入に伴う法的・行政リスクと実務対応策について解説するものです。ご利用いただければ幸いです。

最近の掲載原稿について(仕事の棚卸し)

最近の仕事の棚卸しを少しばかり。7月〜9月に掲載された雑誌原稿等は以下のとおりです。

ビジネスガイド7月号(日本法令) 「管理職をめぐる労務リスクと対策」(峰隆之弁護士と共著) 

労働経済春秋2011.vol5(労働調査会) 「厚労省による東日本震災関連緊急・特例措置(労基法・労災保険関連)について」 単著

労務事情8.1-15合併号1213号(産労総合研究所) 「平成23年度地方労働行政運営方針の内容と実務上の留意点」 単著

経営法曹研究会報68号「個別労使関係において弁護士・人事担当者が直面する税務・社会保険の諸問題」(経営法曹会議) 講演録・質疑応答・レジメ

企業実務9月号「社員がボランティア活動を行う際の法律・労務問題」(日本実業出版社) 単著

季刊労働法234号「企業側実務家から見たエンフォースメントと労働法」(労働開発研究会) 単著

その他毎月連載しているものとして、労務事情(産労総合研究所)に「トレンド解説 労働行政&労働法制に関する動き」、労働法学研究会報(労働開発研究会)に「事例で見る労働法」があります。


2011年8月31日水曜日

社会保障と税の一体改革 by 細川厚労大臣

 内閣総辞職により、細川氏も厚労大臣を辞任されました。前大臣と比べ、手堅く確実に厚労行政を進めていただいたのではないかと感じております。1年間、誠にお疲れ様でした。ところで閣議後記者会見で「税と社会保障の一体改革」について次のとおりコメントしています(こちら)。

(記者)
 それから先程触れられました社会保障と税の一体改革、新体制でどう実現するかが問われていると思います。民主党の中には、消費税引き上げについて非常に慎重な意見もまだ根強くありまして、国の借金、次世代への先送りで社会保障制度がやっと維持されているというような現状への危機感があまりないように見受けられるんですけれども、今後、社会保障と税の一体改革をしっかりと実現していくためには、大臣としては何が必要だとお考えですか。
(大臣)
 私はこの間、社会保障と税の一体改革の議論をしてまいりまして、それについては、財務の関係をどう手当をしていくかということが大変重要な問題だったと思います。それについては消費税でしっかりやっていくということも、この成案の中にはありますし、そしてこれが進んでいくという風に思うのは、新しい総理が野田財務大臣でございますから、この社会保障と税の一体改革については、野田新総理は間違いなくしっかり進めていくということでございますから、ここは、厚生労働省も一体となってこれを進めていくと、特に工程表を着実にこなして、法律をつくっていくということが大事かと思っています。その時に国民のみなさんに出来るだけ詳しく色々とお話をさせていただく、国民のみなさんにお知らせをするということが大事だと思います。そういう工程表に従って、社会保障の改革を進めていく、それには、財源が必要だと、それを国民のみなさんに負担をしていただくということをこの法案を作る時など本当にあらゆる機会を通じて国民のみなさんに社会保障そのもののどういうところを改革していくのかということをよくお知らせをすることが大事だということを、説明して納得していただく。そしてそのためには、消費税の引き上げについて理解していただくということになろうかと思います。
(記者)
 大臣は今後、閣外でも協力していきたいとおっしゃいましたけれども、この社会保障の改革では今後どういったことをやっていくお考えでしょうか。

(大臣)
 これは多分党内あるいは国会でのいろいろな法案に対する対応というのが、これから大きな課題だろうと思います。そういう意味で、厚生労働省を離れましたら、民主党の中あるいは国会の中での対野党との関係などについて、色々と私なりに出来ることをしっかりやっていきたいと思います。 


 9月から12月までの4ヶ月が同改革案策定の正念場ですが、様々な利害が交錯する中で舵取りができるのかどうか。野田総理の手腕がまさに問われるところでしょう。

2011年8月30日火曜日

民主新代表と「税と社会保障一体改革」

 昨日、民主党新代表に野田氏が選出されました。人事労務畑ではさしあたり「税と社会保障の一体改革」の動向が注目されるところです

 野田氏は「税と社会保障の一体改革」(閣議報告)のとりまとめの際、財務大臣を務めており、同策定に深く関与しています。他の候補が選出された場合、同改革案が棚晒しとなる可能性もありましたが、野田氏が代表、新総理に選出されることになったため、今後は同氏のかわら版(こちら)のとおり「このような改革の実現のためには、立場を超えた幅広い議論の上に立った国民の理解と協力が必要です。今後は、この成案に基づき、野党各党に社会保障改革のための協議を提案していくことになります。」が焦点となってくるのでしょう。

 毎日新聞が早速、同問題について情勢分析を行っており、参考になりました(こちら)。

2011年8月26日金曜日

社会保障審議会年金部会の始動

 本日、厚労省において社会保障審議会年金部会が開催されました(こちら)。委員を見ますと、労働・社会保障法の研究者では、上智大の森戸先生、早稲田大の菊地先生がメンバーに入っています(こちら)。

 同審議会の検討課題とスケジュールが示されておりますが(こちら)、まず何よりも注目される非正規労働者に対する社会保険適用拡大については、同会に特別部会を設け、本年末までに検討審議を進め、来年の通常国会に法案提出するイメージとの事。

 その他、年金給付の最低保障機能の強化、第3号被保険者制度の見直し、在職老齢年金の見直しなど重い検討課題が盛りだくさんであり、これを12月まで月2回ペースで審議を進めていくとしています。

 いずれも非常に重要なテーマであり、今後大きな議論を呼んでいくものと思われます。これだけの重い課題をどれだけ来年の国会までに一定の方向性を示し、法案提出・成立まで至るものか。現在の政治情勢、国民の議論状況に鑑みると、かなり厳しいと言わざるを得ませんが、動向が注目されるところです。

2011年8月5日金曜日

誰かが行かねば、道はできない by 木村大作


最近、心底しびれた本。木村大作「誰かが行かねば、道はできない」。出張の際に帯同しましたが、あまりのおもしろさに搭乗時刻を忘れそうになるくらい。木村大作氏は映画「八甲田山」から「駅(station)」など数々の伝説的邦画のキャメラを担当された名カメラマン(※最近作「剱岳」は監督を務められています)。木村さんのカメラマンとしての経歴を辿っていますが、おもしろいのは、独断専行ぶりです(もちろん映画に対するあくなき情熱がそうさせているのです)。撮影現場で「油断している役者等」をどなりつける様は読んでいて楽しくなってきました(現場の阿鼻叫喚ぶりは如何ばかりか?)。お勧めです。

 ところで木村大作さんのように、「職務権限・分掌」を無視し、良い映画を撮るために猪突猛進するようなカメラマンは「労働者」になるのかどうか。新宿労基署長事件がずっと頭にひっかかっているのですが、なかなか難しいですね。労災保険法における「労働者」と労基法のそれとはやはり区別して良いようにも思えるところです(立法論になりますが)。

2011年7月15日金曜日

少し一息つけそうです


 昨日、日本経団連労働法フォーラムにおける「震災に伴う社会保険・労働保険の実務」講演が無事終了。ご静聴頂いた企業人事ご担当者様、弁護士の先生方、そして事務局の皆様に深く感謝いたします。

 今朝改めて気がついたのですが、同講演は相当に大きなプレッシャーであったようで、肩の荷がどっと軽くなった感がございます。講演直前、敬愛する両M先生からのサポートが身にしみて有り難く感じた次第。

 さてさて夏に向けて、いよいよご依頼頂いている出版企画にも本腰を入れていかねばなりません。写真は今週訪れた博多の山笠。今朝早朝に「追山」が行われており、今からBS実況中継の録画を見るのが楽しみ。博多の男衆の熱気を感じ、暑い夏を乗り切ってまいりたいところです。

2011年6月24日金曜日

当事者にしか事実関係が明らかでない場合の調査(セクハラの社内調査)

 最近、お問い合わせが多い問題としてセクハラ(パワハラ)事案の社内調査があります。問題になる案件をみると、加害者が認めていたり、加害事実が現認されている場合は殊の外少なく、多くの同種事案は人事・ヘルプラインに相談が寄せられた段階では、事実関係が不明確です(まさに黒澤明監督「羅生門」の世界(芥川龍之介原作))。特に被害者・加害者とされる者のみが別室等にいた際に生じたとされる同種案件は、事実関係の認定が至極困難といえます。

 厚労省は精神障害の労災認定迅速化を目指して、検討会を精力的に開催していますが、同検討会のセクハラ分科会でセクハラの労災認定に係る分科会報告書の素案を取りまとめています(こちら)。

 同報告書の中でまさに上記困難事案に対する調査上の留意点が示されており、実務担当者に参考になる面があろうかと思われます。
「当事者にしか事実関係が明らかでない場合の調査 セクシャルハラスメント事案はその事実関係を当事者のみが知る場合も少なくなく、さらに事実関係を客観的に示す証拠がない等の事情により、行為者や一部の関係者がセクシャルハラスメントの事実を否認するものが多く見られる。事実関係が客観的に明らかでなく、当事者の主張に大きな相違がある事案の事実関係の把握は非常に困難を伴うものとなる。このような場合、次のような手法が有効である場合があることに留意すべきである。
・当事者の供述のほか、当時の日記、メモ等を収集し、それらの資料に基づき関連する出来事を時系列的に整理すること
・行為者及び被害者の主張を否定する関係者の聴取では、必要に応じ、具体的な情報を示しつつ、整合しない点の釈明を求めながら聴取を行うこと」

 やはり基本はこの留意事項のとおりでしょう(私自身も今までそのように回答してきましたし、困難案件に係る外部調査受任時は同スタンスで調査してきました)。とはいえ、上記留意事項は「言うは易く、行うに難し」です。同調査を行うには、相応の知識・経験(特に実戦経験)が必要となります。同種事案対応の経験が少ない人事・ヘルプライン担当者等には、かなり酷な調査対応であり、同調査に限って外部の専門家に依頼するケースが今後も増加する可能性が高いように思われます。

 なお同報告書には、セクハラの労災認定基準を見直すこと等が明らかにしていますが、これを見るとセクハラ発生後の会社側対応が業務上判断の重要な考慮要素とするなど、企業への実務的な影響が大きい見直しとなりそうです。今後の見直しの動向が注目されるところです(更に本検討会では、「労働時間数」の具体例を示すことが検討されており、こちらも重要)。

 来月7月19日(火)、産労総合研究所・日本賃金研究センター共催「メンタルヘルス予防策・ラインケア充実への解決策セミナー」に於いてケース別検討の講師を務める予定ですが、その際にも上記問題は取り上げるべき課題の一つとなりそうです(セミナー案内はこちら)。

2011年6月8日水曜日

節電に向けた労働時間の見直しQ&Aについて

 厚労省から「節電に向けた労働時間の見直しQ&A」が発表されています(こちら)。

 夏季の節電対応策として、すでに検討が進んでいる始業・終業時間の繰り上げ、変形労働時間制、計画年休導入に伴う疑義応答が示されているものです。概ね従来からの通達を整理したものといえますが、新たな見解が示されているものとして、変形労働時間制の中途変更・解消および子の養育を行う労働者に対する所定労働時間の短縮措置に係るものが挙げられます。複雑難解な制度が同質疑応答によって更に混迷を深めている感がありますね。
 

2011年6月7日火曜日

セクハラに対する懲戒処分と労災認定

 今朝の朝日新聞に以下の記事が掲載されています(asahi.comはこちら

山形労働局内、セクハラ7年間 05年発覚、3人懲戒

厚生労働省山形労働局(山形市)は6日、男性職員3人が7年間にわたって非常勤の同僚女性にセクハラ行為を繰り返していたとして、同日付で1人を懲戒免職、2人を停職12カ月と停職6カ月の懲戒処分にしたと発表した。懲戒免職の職員は自主退職したため処分が及ばず、退職金の返還も求めないとしている。

 同局によると、3人は山形県南部の公共職業安定所(ハローワーク)に勤めていた1998~2004年度、女性職員に所内のロッカールームや出張先などで体を触ったりキスをしたりするなどのセクハラ行為を繰り返したという。

 民間の職場などにセクハラの防止を呼びかける立場の労働局内でセクハラ行為が続いていたことについて、同局の宮野修総務部長は「行政運営への信頼を損ね、誠に申し訳ありませんでした」と謝罪した。


 セクハラ防止の指導を行う立場である労働局(ハローワークとはいえ、同じ労働局であることに変わりなし)でこのような破廉恥な事があったこと自体が大変恥ずかしい訳ですが、何よりも疑問に感じたのは、セクハラ行為の発覚と処分時期の大きなズレです。2005年段階ですでに同事態が発覚していたにもかかわらず、処分が2012年まで遅れた理由として、局幹部は「公務労災の判断を待っていたため」と説明している(朝日新聞報道)ようですが、理解に苦しみます。セクハラ被害に対する公務労災の問題と、局内の規律・秩序維持のためになされる懲戒処分は別個の問題であり、2005年段階で加害者が概ね事実関係を認めた時点で、懲戒処分自体はなされるべきであったと思われます(厚労省が策定したセクハラ指針においても、「 職 場 に お け る セ ク シ ュ ア ル ハ ラ ス メ ン ト が 生 じ た 事 実 が確 認 で き た 場 合 に お い て は 、 行 為 者 に 対 す る 措 置 及 び 被 害 を 受 け た 労働 者 ( 以 下 「 被 害 者 」 と い う 。 ) に 対 す る 措 置 を そ れ ぞ れ 適 正 に 行 うこと。」との記載あり(こちら))。

 懲戒免職相当の職員はすでに自主退職していることから退職金の返還を求めないという事ですが、この点などは批判を受けて当然ではないかと思うところ。

2011年6月2日木曜日

第106回日本経団連労働法フォーラムにおける講演について

 来月7月14日〜15日に開催される第106回日本経団連労働法フォーラムにおいて、「震災対応にかかる労働・社会保険の実務」のテーマで講演させて頂くこととなりました(案内はこちら)。

 リスク分散・所得再配分の機能を有する社会保険・労働保険制度は、震災という不可抗力の事故に対し、どのような役割を果たすべきであるのか。この問題意識を持ちながら、使用者側の視点で雇用調整助成金、雇用保険、労災保険および社会保険料免除等の現状と実務上の課題・対策を分かりやすく解説したいと考えております。

 私の報告はさておき(もちろん最善を尽くします!)、同フォーラムは14日の「震災時の人事労務管理と労働法」(中井智子弁護士)、翌15日の「高年齢者の雇用をめぐる問題と今後の課題」(延増拓郎弁護士)のご報告と各討議、中町誠弁護士の講演「労働組合法上の労働者性に関する最高裁判決の解説および企業実務上の法的留意点」が予定されており、例年同様、大変に充実しています。私も両日、会場に詰めて先生方の講演・討議を拝聴するのが楽しみであるのですが、自らの報告が終了するまで肩の荷がずっしりと重いところ(TT)。

2011年5月22日日曜日

非正規雇用の社会保険加入要件拡大案について

 労務事情5月15日号の連載拙稿「労働行政&労働法制の潮流」(こちら)でも簡単に紹介しましたが、政府は「税と社会保障の一体改革」に非正規雇用の社会保険加入拡大を盛り込むことを検討しています。その加入要件について、厚労省が叩き台案を示してきたようです(共同通信5.22 こちら)。

非正規労働者の加入要件緩和へ 厚生年金で厚労省検討

 厚生労働省は21日、パートなど非正規労働者の厚生年金への加入要件を大幅に緩和する検討に入った。雇用保険の加入要件を参考に(1)労働時間が週20時間以上(2)勤務期間が31日以上―の2点に絞り込む方向で、収入を要件に加えず、中小企業に勤める人も含めることを検討する。少なくとも100万人以上の非正規労働者が厚生年金に加入でき、さらに増える可能性もあると試算している。

 また、保険料の基準となる「標準報酬月額」の下限(9万8千円)を引き下げることも同時に検討。保険料負担を軽減し、払いやすくする。ただ、加入拡大には、経済界からは懸念の声があり、調整は難航する可能性がある。


 ところで平成21年7月に衆院解散に伴い廃案となった法案(閣法)では、非正規雇用の適用拡大要件を以下の通りとしていました。
① 労働時間が週20時間以上
② 賃金水準が「月額98000円以上」(賞与、通勤手当、残業代含まず毎月支給額)
③ 勤務期間が1年以上であること
④ 学生は適用対象外
⑤ 従業員が300人以下の中小零事業主は当面猶予

 これが先の検討案によれば、②の収入要件をなくし、③を31日以上と大幅緩和するものとの事(④は不明ですが、雇用保険では学生を適用対象としている関係から同じ取扱いとなる可能性有り)。更に⑤についても当面の適用猶予を行うか定かではないものです。

 企業とりわけ非正規雇用の比率が高いサービス業への影響は大きく、今後の動向を注視する要があります。

【追記】5月23日夕方から開催されている政府の社会保障改革に関する集中検討会議において、厚労省から以下の資料が配付されています。同資料の7pに非正規雇用の社会保険加入要件拡大案が示されています(こちら)。

 また朝日新聞報道によれば、管直人総理が社会保障改革の重点検討課題の一つとして、本問題を取り上げるよう指示したとの事(こちら)。

非正規社員への社会保険適用拡大など検討指示 菅首相
2011年5月23日11時28分

 6月末に取りまとめる消費増税と社会保障の一体改革に向けて、菅直人首相は、正社員ではない非正規労働者に対する社会保険の適用拡大など3分野を重点検討事項として指示することを決めた。23日夜に開かれる「集中検討会議」(議長・菅首相)で表明する。

 3分野はこのほか、幼稚園と保育所の機能を併せ持つ「こども園」創設など子育て支援強化と、医療、介護、保育などのサービス利用時の自己負担の総額に上限を設ける「総合合算制度」(仮称)の創設。

 社会保障は、費用全体の7割を占める高齢者に重点が置かれている。そこで菅首相は、今回の一体改革で「全世代対応型」にかじを切る方針。3分野への重点指示で、就労や子育てなど現役世代に対する支援に加え、低所得者対策に力点を置く姿勢を明確にする。

2011年5月18日水曜日

求職者支援制度の成立について

 先週末(5月13日)、国会において改正雇用保険法案とともに、求職者支援制度(職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律案)が成立しました(議案情報はこちら)。

 すでに平成21年度から緊急人材育成支援事業として、同制度の原型となる職業訓練および訓練期間中の生活給付が「基金事業」として先行実施されてきました(こちら)。しかしながら、同制度は臨時的な措置であり、今回の法律案成立によって、初めて制度が恒久化された事になります(法施行は本年10月1日)。

 制度の概要については、こちら。また制度内容の素案については審議会資料のこちらが詳しいものです。

 今後、雇用情勢に懸念が強まる中、同制度恒久化が失業者の生活保障と就職促進に大きな役割を果たすことが期待されるところです。

経営法曹会議等「労働法実務研究会」での報告

 先週末(5月13日)、経営法曹会議・東京経営者協会共催「労働法実務研究会」において、以下のテーマでご報告と研究討議に参加させていただきました。

 「個別労使関係において弁護士・人事担当者が直面する税務・社会保険の諸問題」

社会保険パートを私、税務パートを旧知の幡野利道税理士が担当したものです。私の方からは、主に割増賃金の遡及払い、解雇トラブル時の社会保険料問題、さらにリハビリ復職と傷病手当金の問題等について報告させていただきました。

 会場には100人近い弁護士の先生方と人事担当者等がお越し頂いており、大変に緊張しましたが、第一東京弁護士会の伊藤昌毅先生の的確な司会・進行のもと、山中健児先生、小鍛治広道先生から適宜、適切有益なご質問(時にはフォロー)を頂きつつ、何とか講演・研究討議を務めおおせました。レジメ資料の準備段階から当日の発表後打ち上げまで周到なご指導・ご助言を賜りました伊藤先生、山中先生、小鍛治先生、そして幡野先生に改めて感謝申し上げる次第です。また普段からお世話になっている先生方を講演席からお見かけし、大変心強い思いを致しました。後日、改めてご指導頂きますよう、よろしくお願い致します(笑)。

 報告・研究討議内容につきましては、後日、経営法曹研究会報に掲載されますが、今から講演録のゲラ直しに頭の痛いところです。
 

2011年5月3日火曜日

加害企業がユッケ販売禁止を求めるの愚

 今まで韓国料理店等でユッケを好んで食しておりましたが、北陸地方の焼肉チェーン店による食中毒事件(もはや業務上過失致死事件と見るべきでしょう)には大変ショックを受けております。まずは子供に食べさせるべきものではない事を改めて再認識させられた次第ですが、同チェーン店社長の弁を見て、大変憤りを感じた事がありました(yomiuri online記事はこちら)。

(中略)
対応していた石野浩平・マネジャーに対し、厚生労働省基準の「生食用」ではない加熱肉をユッケとして提供していたことに質問が及ぶと、勘坂社長が突然、会見場に現れた。

 勘坂社長は何度も頭を深く下げては、「被害者を全面的に最後までケアしたい」「できることは一つしかない。経済的な支援を踏まえ、アフターのフォローをしたい」などと被害者への対応を神妙に語った。

 一方で、資料を見ながら、「生食用として市場に流通している牛肉はありません」と大声を上げ、厚労省に対し、基準を満たしていない肉をユッケなどに使うことを法律で禁止すべきと訴えた。


 この段になって、お上が法律で禁止していないから、食中毒事件を起こしてしまったとの趣旨にも取れる発言をするとは・・・。安全な食品を提供することは、飲食事業を営む事業者に本質的に求められる事であり、加害者自身が国の法律規制云々を取りざたすること自体がナンセンスに思えるものです(これに対して被害に遭われた方が同社とともに厚労省の監督責任を追求される事は当然です)。

2011年4月28日木曜日

労基法Q&A(第3版)の発出からー非常時の時間外労働

 昨日付で東日本大震災に伴う労働基準法等のQ&A(第3版)が発出されています(こちら)。

 第3版は「労働基準法第24条(賃金の支払)、労働基準法第25条(非常時払)、労働基準法第33条(災害時の時間外労働等)、労働基準法第36条(時間外・休日労働協定)、労働基準法第39条(年次有給休暇)等についての記載を追加」しているものです。

 個人的に興味深いと思われましたのは、労基法33条(災害時の時間外労働等)のQ&Aです。これは災害等による臨時の必要がある場合に事業主は「その必要の限度において」時間外労働を命じることができる旨の定めですが、原則としては事前に労基署長の許可が必要です。しかしながら「事態急迫のため許可を受ける暇がないとき」については、事後的に届け出て許可に替えることも可能とされています(労基法33条1稿ただし書)。

 今回の震災の影響で、電気・水道・ガス・鉄道などはもちろん、一般の製造・運送・建設業、また流通・サービス業(特に小売流通・飲食など)も早期の事業復旧を目指し、3月〜4月においては相当な長時間労働を各従業員にお願いしているところと思われます。そのため、36協定に定める時間外労働時間数、さらには特別条項をも上回る時間外労働に従事させたとする事業場も見られるところです。

 これについて労基法33条の「事後届け」をなすべきか否かという問題がありますが、先のQ&Aは同届出を想定しているものではないようです(以下抜粋)。

Q8−1
 今回の震災により、被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインの早期復旧のため、被災地域外の他の事業者が協力要請に基づき作業を行う場合に、労働者に時間外・休日労働を行わせる必要があるときは、労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するでしょうか。

A (中略)御質問については、被災状況、被災地域の事業者の対応状況、当該労働の緊急性・必要性等を勘案して個別具体的に判断することになりますが、今回の震災による被害が甚大かつ広範囲のものであり、一般に早期のライフラインの復旧は、人命・公益の保護の観点から急務と考えられるので、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。
 ただし、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくまで必要な限度の範囲内に限り認められるものですので、過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を月45時間以内にするなどしていただくことが重要です。また、やむを得ず長時間にわたる時間外・休日労働を行わせた労働者に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じることが重要です。


 33条の「必要な限度の範囲内」について思いのほか、抑制的な解釈を示したものです(「・・・することが重要」としていますので、必ず45時間以内でなければ認めないとするものではありませんが・・)。33条の事後届出のハードルを上げてきた印象があります。

 いずれにしても、3月〜4月に長時間労働に従事させた従業員については、割増賃金の適正支払いはもちろん医師による面接指導の確実な実施と事後措置の検討・実施、更に衛生委員会における報告と再発防止対策の検討・実施が何よりも重要と思われます。

労働保険料・社会保険料免除制度創設の動向(震災関係)

 東日本大震災の被害が甚大である災害救助法適用地域等では、すでに労働保険料・社会保険料の納付期間延長又は申請猶予が取られてきました。しかしながら同制度は保険料納付が「延長」されているに過ぎず、いずれ納付することが求められます。震災によって甚大な被害を受けた事業主・従業員が同保険料を納付することが容易ではないものですが、「免除制度」についても、ようやく同立法措置の準備が動き出したようです。以下、細川厚生労働大臣の閣議後記者会見から(こちら)。

 今日は、閣議で東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律案が閣議決定されました。この法律案には厚生労働省関係としては医療機関や社会福祉施設などの各種施設の災害復旧に関する費用の補助、それから、健康保険や厚生年金の保険料の免除といった事項を盛り込んでおります。また、こうした阪神淡路大震災の際の事項に加えまして、今回新たに、通常1割負担とされている介護保険の利用者負担について市町村がこれを減免する場合にその減免分を国が負担すること、あるいは最大360日とされている雇用保険の基本手当についてその支給日数を個別に60日まで延長できるようにすること、また、被災者の死亡を要件とする遺族年金などについて、行方不明の方がたくさんおられますが、この要件というのが民法では1年となっている失踪宣告を待たずに震災から3ヶ月間不明であれば、これを支給出来るということとするといった内容が含まれているところです。厚生労働省としてはこの法律に基づいて、震災の復旧復興に全力で取り組んでいきたいと考えております。

 同日、厚労省から発表された「日本はひとつ」しごとプロジェクト フェーズ2(第2段階)において、同免除制度の概要が示されています(こちら)。 

(イ)各種保険料等の免除等(補正予算・法律改正) 1,139 億円
 医療保険、介護保険、労働保険、厚生年金保険等に関し、被災地の事業所で、震災による被害を受けたことにより、賃金の支払に著しい支障が生じている場合に、保険料等の負担の免除や減免等を行い、被災事業所の業務の再開を支援する。


 先日開催された厚労省労働政策審議会職業安定分科会において、以下のとおり労働保険料の免除制度の概要が示されておりましたが、社会保険料免除も同様のものとなりそうです(審議会配布資料によれば、①かつ②を満たす事業主に対して保険料を免除)。
 ①平成23年3月11日に、適用事業場等が特定被災区域(特定被災区域とは、災害救助法(昭和2 2年法律第118号)が適用された市町村の区域(東京都を除く。))に所在
 ②震災被害により、労働者の賃金に著しい支障が生じている等の事情
 →免除対象期間は②が認められる間(最長平成23年3月〜翌2月まで)

 神戸大震災時の対応では、同免除期間についても被保険者期間とカウントし、さらに受給の際にも納付期間と同様の取扱いをしていました。詳細がまだ明らかにされておりませんが、同様の対応が取られることが予想されます。また標準報酬額の改定緩和なども併せて取られるものと思われます。

 同法案については、第一次補正予算と合わせて順調に国会において審議され、可決成立するものと期待されますが、なお問題は残ります。まずは免除を求める際、被災地域に所在している事業場であっても、「労働者の賃金に著しい支障が生じている等の事情」が求められる点です。同要件の結果、全国展開をしている企業が被災地域に支店を設けており、これが重大な被害を受けていたとしても、同社全体としてみれば当該事情に該当しないとされ、免除制度の利用ができない可能性が高いものと思われます(支店では困難としても、「全社」的な資金繰りで払えるのであれば、免除制度など利用できなくても良いのではないかというご見解も当然にありうるところですが・・・)。
 また特定被災区域以外に所在する事業場で、計画停電・風評被害・客数減・物流毀損等様々な要因で資金繰りに困難をきたしている場合については、今回の免除制度等の対象から外れています。企業にとって社会保険料額の負担は、かってないほど重くのしかかっており、今後は徴収上の困難が更に拡大することが予測されます。

 話は変わりますが、このような中、政府は更に「税と社会保障の一体改革」でパート(短時間労働者)の社会保険適用(「緩和」→事業主の視点からみると「拡大」)を検討しています(こちら 毎日jp記事)。労働・社会保険徴収・適用の動向は、同免除制度も含めて当面注視が必要です。

2011年4月20日水曜日

「持病の薬飲み忘れた」をどう考えるべきかー病気・障害と告知ー

 先日18日、クレーン車による痛ましい交通事故が起こりました。大変なショックと憤りを感じていたところ、以下の続報を目にしました(読売新聞(こちら))

「持病の薬飲み忘れた」6人死亡事故の運転手
読売新聞 4月20日(水)3時9分配信
 栃木県鹿沼市樅山(もみやま)町の国道293号で18日朝、集団登校中の同市立北押原(きたおしはら)小学校の児童6人がクレーン車にはねられ死亡した事故で、自動車運転過失傷害容疑で逮捕された同県日光市大沢町、運転手柴田将人容疑者(26)が、栃木県警の調べに対し、「持病の発作を抑える薬を飲み忘れていた」と供述していることが19日、捜査関係者への取材でわかった。

 県警は事故原因との関連について裏付け捜査を進めている。

 捜査関係者によると、柴田容疑者は「てんかんの持病があるが、この日は発作を抑える薬を飲み忘れていた」と供述。また、事故直前にハンドルに突っ伏し、事故後もしばらく車内で動かないでいる姿が目撃されており、県警は発作を起こし、意識を失っていた可能性もあるとみている。


 18日発生時点で会社側は容疑者がてんかんの持病があるとの認識を示していませんでした(こちら)。ここからは推測に過ぎませんが、同容疑者は自動車運転免許・クレーン免許取得の際、および同社採用の際、「てんかん」であり、かつ治療中である旨、告知していなかった可能性があります。

 自動車運転免許については法改正がされており、てんかんの既往症がある方についても運転に支障がない場合、個別に公安委員会から適性判断がなされた上で、免許交付を行うこととしています(日本てんかん協会発行「波」における詳細な解説はこちら)。これを見る限り、本件容疑者が公安委員会から適性判断を受けることは困難と思われます。では何故、免許を取得していたかですが、本人が自動車運転免許・大型特殊免許を受験する際、てんかんの既往症を告知していない可能性があります。この場合は同人の学科・技能試験等のみで免許が交付される事になります。

 また同人が建設重機関係の会社に採用面接を受ける際も、同既往症の告知をしなければ、会社として本人の既往症を知りようがありません。厚労省は「公正な採用選考について」において「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施」を原則として禁止しており(こちら)、一般に採用選考時に会社側が健康診断の受診を命じることは容認されていません。また健康診断書の提出を命じたとしても、診断書発行が同人の主治医でない限り、本人の申告がなければ、他の医師が初見診断のみで、同人がてんかんの既往症を有している旨診断することは一般に不可能でしょう。

 では何故、申告しないのかですが、それは「差別」を恐れている、これが大きいと思われます。「てんかん」に対し、正しい知識普及が今なお十分でない中、既往症を告知することが「差別」につながる可能性は残念ながら高いのではないでしょうか。

 答えが容易に見つからない問題ですが、日本てんかん協会発行の「やさしいてんかんハンドブック」に以下の記載がありました。たしかにその通りだと思います(こちら)。

就職面接の際にてんかん発作があることを面接者に伝えると、展開が厳しいのが現状です。年中発作があって仕事に支障が出ると考える人事担当者が多いようです。しかし、服薬さえきちっと守っていれば大きな発作が出ることはめったにないことも事実です。発作があったとしても、1年間に発作で仕事ができない時間は、他の病気で休む時間とくらべても特に長い時間でないのですが、いつ発作が起きるか予測がつかないことが否定的理由になるのかもしれません。発作があると就職できないということはありませんが、不採用になる大きな理由の一つになっていることはやはり否定できません。
 不採用になった場合、「人事担当者がてんかんに偏見があったか無理解であった」、「てんかん発作についての説明が不十分であった」、「発作の有無ではなく、適性や能力などに足りないものがあった」など、客観的に見つめ直さなければ、目標である「就職」は難しいのではないかと思います。
 イギリスや韓国などでは、てんかんなどの障害があることを理由に雇用の差別をすることは、障害者差別禁止法などで禁止されていますが、日本ではまだそのような法律はありません。
 (中略)
 
 自動車運転などの免許は、以前はてんかんであるという理由だけで取得できませんでした。現在は、発作の有無や抑制期間の長さなどの条件によっては取得できます。免許・資格の法令・規則等では、てんかんがあるからということではなく、その業務を行うのに発作があって支障があるかどうかで判断されます。
 自動車社会では、発作があっても運転免許を取得している人も現実にはあり、運転はしないが身分証明書に利用しているだけなら支障はありませんが、運転中に発作を起こし重大な事故を起こしてしまった例もあります。自分の症状と責任を自覚しましょう


 最近、皆が不安に感じている「もの」と同様に、病気・障害についても、ご本人、家族、周りの者、社会全体それぞれが「正しく恐れる」事が重要だと感じます。

 

 

2011年4月12日火曜日

労組法上の労働者性に係る最高裁判決ー新国立劇場事件・INAX事件ー

 本日、最高裁は労組法上の労働者性について、2本の重要判決を下しました。新国立劇場事件、INAX事件最高裁判決です。早速、asahi,comで以下のとおり報じられています(こちら)。

 住宅設備のメンテナンス会社と業務委託契約を結ぶ個人事業主であっても、団体交渉が認められる「労働組合法上の労働者」に当たるかどうかが争点となった訴訟で、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は12日、「労働者に当たる」との判決を言い渡した。

 似た形態の個人事業者についても、労働者としての権利を認める先例となりそうだ。

 住宅設備会社「INAX」の子会社の「INAXメンテナンス」(IMT、愛知県常滑市)は一定の資格要件を満たした人と「カスタマーエンジニア」(CE)の契約を結び、製品修理などを委託している。

 CEの労働組合は2004年9月、労働条件を変える際には事前協議を開くことなどを申し入れたが、同社が拒否。この対応を、中央労働委員会が不当労働行為と認定し、団体交渉に応じるよう命じたため、同社が命令の取り消しを求めて提訴していた。

 2009年4月の一審・東京地裁判決は労働者と認定したが、同年9月の二審・東京高裁判決は労働者とは認めず、判断が一、二審で分かれていた。

 また、この訴訟とは別に、新国立劇場のオペラ公演に1年間出演する契約を結んだ合唱団員が、同様に「労働組合法上の労働者」に当たるかが争われた訴訟の判決も12日にあり、第三小法廷は同じく労働者と認める判断を示した。一、二審判決は「労働者に当たらない」と判断していた。


 先ほど最高裁HPを覗いてみると、すでに新国立劇場事件最高裁判決がUPされており、大変驚きました(こちら)。

 労組法上の労働者性判断にあたり、有力学説は「組織への組み入れ」の有無を重視するよう論じていましたが、本最高裁もまさにその点について次のとおり判示し、労組法上の労働者性を肯定する要素の一つとして捉えているようです。

「契約メンバーは,上記各公演の実施に不可欠な歌唱労働力として被上告財団の組織に組み入れられていたものというべきである。」

 まだざっくりとしか目を通しておりませんが、本最高裁判決を見ると、オペラ歌手に対する指揮命令の有無、場所的・時間的拘束性、報酬の労務代償性などいずれも強く肯定しています。同判示を見る限り、本件オペラ歌手は労組法上の労働者性のみならず、労基法上の労働者性をも肯定するかのように読めなくもありません(本判決上、明示していませんが)。

 INAX事件最高裁判決は残念ながら掲載されておらず、今後、何らかの機会に目を通すことになりそうですが、2つの重要最高裁判決は労組法上の労働者性のみならず、労基法上の労働者概念に対しても相応の影響を与える可能性がないか。その点が最も個人的に関心あるところです。

2011年3月31日木曜日

大震災と労災保険ー厚労省Q&A、精神障害の労災認定をめぐる課題などー

 時事通信が「勤務中の震災被害、労災認定へ 厚労省方針」と報じております(こちら

 東日本大地震で事業所や作業場が倒壊、焼失したり、大津波で流失したりして勤務中に被害に遭った人について、厚生労働省が労災認定する方針を決めたことが31日、分かった。阪神大震災の時も同様の措置を取った。

 三陸地方は明治三陸地震(1896年)など、何度も津波被害を受けているため、津波による被害を「危険な環境下で仕事をしていた結果」として、災害と業務の因果関係を認めた。大地震の発生が午後2時46分ごろと平日の昼間で勤務中の人が多かったため、対象者はかなりの数に上るとみられる。

 厚労省によると、30日までに2件の労災申請があった。岩手、宮城、福島の各労働局は避難所などで労災に関する出張相談をする予定。厚労省は「事業主や医療機関の証明書がなくても受理する。近くの労働基準監督署に問い合わせを」と呼び掛けている。

 労災と認められるのは事業所、作業場の倒壊や水没、焼失で被災した場合や、避難中や救助中、通勤中に巻き込まれた場合。休憩時間中も適用される。認定されれば遺族年金や一時金、葬祭料のほか、けがの療養費や休業補償が支払われる。

 行方不明者については本来、不明になったときから1年後に死亡とみなされた場合に請求ができるが、今回は特例として1年以内でも認定することを検討している。

 阪神大震災は発生から1年で472人が労災申請し、申請者としての要件を満たさなかった2人を除く470人(うち通勤中86人)が認定された。発生時間が午前5時46分と多くの人が勤務時間前の早朝だったため、被災者数に比べ申請者は少なかった。


 厚労省はすでに震災関連の労災事務取扱いについて通達を発出しており(こちら)、さらに「震災と労災保険」Q&Aが新たにHP上でUPされています(こちら)。時事通信の記事はこれらを確認したものと思われますが、厚労省Q&Aのとりわけ以下回答が重要です。

Q1-1 仕事中に地震や津波に遭遇して、ケガをしたのですが、労災保険が適用されますか?

(A)
仕事中に地震や津波に遭い、ケガをされた(死亡された)場合には、通常、業務災害として労災保険給付を受けることができます。これは、地震によって建物が倒壊したり、津波にのみ込まれるという危険な環境下で仕事をしていたと認められるからです。「通常」としていますのは、仕事以外の私的な行為をしていた場合を除くためです。


 従前の通達をみると(昭和49年通達、平成7年通達)、地震による災害に係る業務上外の判断は原則として天災地変によるものであるため業務外ではあるが、「被災労働者が作業方法、作業環境、事業場施設の状況等からみて危険環境下にあることにより、被災したものと認められる場合」は業務に内在する危険が現実化したものであり、業務上の災害として取り扱うとします。従って、過去の通達を前提とすると、被災した際の作業方法、環境・施設等が「危険環境下」か否かが個別に問題となりえますが、先の時事通信記事によれば、特に津波災害について「三陸地方は明治三陸地震(1896年)など、何度も津波被害を受けているため、津波による被害を危険な環境下で仕事をしていた結果と捉えるとの事。同判断によって、就業・避難中さらには通勤中に被災地で津波に遭遇し、負傷等された場合は業務上とすることが明確になったものです(避難、通勤中の考え方についても先のQ&A参照)。同行政解釈を見ると、社会全体のリスクを労災保険で引き受けるという「政策的判断」がなされたと理解しえなくもないと感じるところです。

 同通達・Q&Aによって、大震災に伴う労働保険の取り扱いが相当程度明確にはなりましたが、様々な課題が山積しています。例えば同震災に遭遇した従業員(特に自らは負傷等していない場合)が精神疾患を発症させた場合、これが業務上となるのでしょうか。また海沿いの地域で就労・避難・帰宅中、津波被害を目撃した場合と、内陸部において震度6クラスの地震に遭遇(本人、周辺の人的被害なし)した場合で判断が異なりうるのかどうか。神戸大震災の際には大きな問題となりませんでしたが、精神障害の労災認定についても、これから申請事案の増加が予想されており、検討が必要です。
 

2011年3月29日火曜日

雇用調整助成金と支店・営業所休業等との関係(東北関東大震災の特例)

 雇用調整助成金は、経済上の理由等から企業の経営状態が急速に悪化した際、雇用への影響を極力回避するべく設けられた国の大きなセーフティネットです(詳細はこちら)。

 通常、同制度を活用しようとする企業は、3ヶ月間の売り上げ等の低迷を受けて、あらかじめ休業等に係る計画書・労使協定等を用意し、ハローワークに対し事前提出することが必要です。雇用調整助成金は提出された後の休業等に対して、一定の助成がなされるものであり、計画書提出前に遡った助成はされません(原則)。しかしながら今回の東北・関東大震災は、被災地において突然に予期しない被害をもたらしており、あらかじめ同計画書等を作成の上、職安に提出することは不可能です。

 厚労省はその点を鑑みたのか、以下の事業所については、雇用調整助成金の申請に際し、計画書等の事後提出を認める通達を発出しています(こちら)。(制度概要はこちら、Q&Aはこちら

特例適用の対象事業主
 東北地方太平洋沖地震等被災地域事業主 
  青森県、岩手
県、宮城県、福島県、茨城県のうち災害救助法の適用を受けた地域に所在する事業所の事業主であって、以下のいずれかに 該当するもの (※災害救助法の適用対象地域についてはこちら なお上記5県以外は本特例の適用に含まれていない点に注意)

 イ 生産指標の最近1ヶ月間の値がその直前の1ヶ月又は前年同期に比べ5パーセント減少している事業所の事業主
 ロ 生産指標の震災後1ヶ月間の値がその直前の1ヶ月又は前年同期に比べ5パーセント以上減少する見込みである事業所の事業主
 ※平成23年6月16日まで また本助成金は経済上の理由により事業活動が縮小された場合が対象とされる点に注意(Q2参照(こちら))

 同事業主については平成23年6月16日までの間に提出された場合、平成23年3月11日(震災当日)に遡って「事前に届け出られたものして取り扱って差し支えない」とするものです。また前述のイ、ロのとおり、支給要件についても生産指標の確認期間を3ヶ月から1ヶ月に短縮するとともに、平成23年6月16日までの間は生産指標の値が減少する見込みでも受け付けるなどの緩和がなされています。

 それでは本社が東京等にあり、支店・事業所が上記被災地域に所在する場合はどのように取り扱われるのでしょうか。多くの企業では同支店等の労働保険手続きについては、その便宜上、本社事業場等の「継続事業の一括」として取扱っています。

 前述の通達では「地域に所在する事業所の事業主」としていますので、継続事業の一括であろうとも、個々の事業場・支店が指定被災地に所在する限りにおいて、同特例の適用対象と読めなくもありません。

 これに対して先の通達は特段、答えるものではありませんが、昨日(3月28日)、東京労働局のハローワーク助成金事務センターに電話で照会を行ったところ、概略以下の回答がなされています(要旨)。

・継続事業の一括の場合、被災地にある事業所は本社等の事業所として取り扱われるため、特例適用は原則として不可
・同取り扱いについて、批判があることは承知している。本省もそれを踏まえて以下の例外を認めることにしている
・継続事業の一括であっても、被災地に所在する事業所における売り上げ等が全社の3分の1を占める(※以上か超か未確認)場合は例外として特例適用を認めることとした
・特例適用対象についての要望は本省に適宜伝えている

 担当者によって同回答にブレがみられ、労働局自体も混乱している印象を受けています。いずれにしても同回答を前提とすると、被災地において甚大な被害を受けた支店、営業所等において、その雇用を維持し、休業手当を支給していたとしても、3月11日に遡及して雇用調整助成金を受けることはできないという事になります(これからの申請・助成金給付(原則どおり)は要件を満たせば当然可)。被災地にある支店、営業所の苦境と雇用維持への尽力を伺っていると、特例適用に係る取り扱いが柔軟かつ適切に運用できないのか思うところです。

追記
 政府は「被災者等就労支援・雇用創出推進会議」を立ち上げ、被災者雇用対策について検討を進めるとの事(asahi.comはこちら 、また政府の同会議資料はこちら

 「厚労省が中心となり、近く編成する補正予算案に盛り込む雇用対策や法改正などを検討する。・・・助成金の要件緩和や手続きの簡略化など、予算を必要とせず緊急的にできることについては来週中にまとめる方針だ。」

 来週以降の動向に注目いたします。

2011年3月28日月曜日

被災地における未払賃金立替払制度の申請簡略化

 東北関東大震災に伴う厚労省の対応の中に「未払賃金立替払制度の申請簡略化」が含まれています(こちら)。地味ではありますが、実務的に重要性が高いと思われるため参考までにご紹介を。

 被災地に本拠をおく事業場においては、震災によって事業活動が停止し、今月分の給料支払いに困難をきたすところも少なくないと思われます。国は震災前から、未払賃金立替払制度を設け、賃金未払いの被害にあった従業員に対し、給料を一部立替払いする制度が設けられています(所掌は主に労基署 詳細はこちら)が、同制度は「会社が事実上倒産し、賃金支払い能力がないこと」の認定と、各労働者の未払い賃金額等の確認に際し、資料収集・調査が必要です。これを今回の被災地にそのままあてはめてしまうと、各種帳簿等含め関係書類が散逸している事業場等で勤務する従業員に対し、救済が得られない結果を招きます。

 そこで新たに示された通達では、賃確法施行規則9条3項但し書き(認定)、同14条2項但し書き(確認)を活用し、以下の事業場については申請簡略化を図るよう示達しています。
 地震に伴い、災害扶助法2条の規定に基づきその適用の対象とされた地域(※帰宅困難者対応として適用された東京都除く)に本社機能を有する事業場が所在している中小企業事業主であって、地震による建物の倒壊等の直接的な被害(以下「地震被害」という)により事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ、賃金支払い能力がないものとすること。

 同通達によれば、罹災証明書などをもって、極力現地の実情に沿った認定・確認業務を進めるとの事です。詳細については、各労働基準監督署にご相談ください(被災地における監督署の開庁・相談窓口状況はこちら

 

2011年3月25日金曜日

被災地において賃金台帳等が散逸した場合、失業給付手続きはどうすれば良い?(神戸大震災時の商工会Q&Aから)

 先日から神戸大震災時の労働・社会保険関係の文献等を収集しておりますが、神戸大付属図書館の震災文庫に貴重なQ&Aが残されていました。

『事業主の方へ 被災に伴うパートタイム労働者雇用Q&A』 神戸商工会議所 平成7年3月 P1~P33(こちら

 当時と現在では、雇用調整助成金などが相当に様変わりしていますので、同Q&Aをみる際にはその点の注意が必要ではありますが、今でも参考になるQ&Aが多く盛り込まれています。

特に以下のQ&Aは被災地において、とても役に立つ情報だと思いました。

Q7

 当社は、雇用保険に未加入です。一般社員やパート社員から失業給付の手続きを依頼されました。どのようにすればよろしいでしょうか。また今回の震災で賃金台帳も出勤簿もなくなってしまった場合はどうでしょうか?

A

(1) 雇用保険被保険者の種類
 雇用保険は前述の通り、1人でも他人を雇うことになれば、強制適用ですので加入していただくこととなります。週30時間以上勤務する一般被保険者と週20時間以上30時間未満勤務する短時間被保険者の2種類があります。 前者は6か月以上継続勤務すれば雇用保険の基本手当が受給でき、後者は1年以上勤務すれば同じく受給できます。

(2) 雇用保険加入等の手続
 会社として早急に雇用保険の加入手続きをすることが必要です。時効の関係で2年以上遡及できませんが、今なら平成5年4月1日もしくは平成6年4月1日にさかのぼり保険料を収めることによって、各社員の資格取得に基づき受給資格ができます。雇い入れ日と社員の住所等を記入した労働者名簿を作成し、過去からの賃金台帳を整えて、管轄の労働基準監督署にて保険関係成立届と労働保険申告書を提出し、その後所轄の公共職業安定所で事業所設置届と被保険者資格取得居を提出してください。

(3) 従業員への離職票作成
 事業廃止・休止等で事業の継続ができなくなった場合や事業の縮小が余儀なくなり社員を解雇した場合等、雇用保険を受給する権利が当然社員にはありますので、退職の日にさかのぼって社員それぞれに離職票を作成し、所轄の公共職業安定所へ届出をし、発行された離職票を各社員に手渡してあげてください。

(4) 地震で賃金台帳等がない場合
 地震で賃金台帳も出勤簿もなくなってしまい、正確な賃金支払額が不明の時は、社会保険の標準報酬月額か、もしくは源泉徴収の給与支払報告書を持参して、公共職業安定所の窓口で相談してください。以上の証明する書面もなく何もない場合でも、事業主として社員の今後を考え、急ぎ手続きを行えるよう公共職業安定所で相談をしてください。



 神戸大震災の中、2〜3ヶ月足らずで懇切丁寧な同冊子をまとめられた神戸商工会議所専門相談員(社会保険労務士)の岡西英二郎氏、富岡忠彦氏、中川秀和氏に敬意を表するものです。

2011年3月22日火曜日

計画停電に伴う休業に関する大臣・副大臣会見

 今朝の厚労省HPに細川大臣党の会見内容がUPされています(こちら)が、先日来、拙ブログで取り上げているパート等に対する休業期間中の所得保障等に関し、以下のとおり注目すべき答弁がみられます。

(記者)
 労働関係のご質問なのですが、災害で労働基準法26条適用が、天災ということで企業さんの計画停電や被災に伴う企業の補償で、賃金の6割適用が外されましたが、それに伴って期間工や派遣社員の方が休業補償の適用を受けられず、そのまま無給状態になってしまう状態が発生しているのですが、これについて何か手当や対策を講じるようなお考えはありますでしょうか。

(大臣)
 計画的停電が長期化するか私どもも予測がつきませんが、そういう問題についてはそれで検討していきたいと思います。今のところ明確なお答えは差し引かえさせていただきます。

(副大臣)
 雇用調整助成金で対応するようなことは言っておりますので、いろいろなケースについてきちんと対応出来るように検討して、また総合的にお伝えしたいと思います。

(大臣)
 雇用調整助成金の方は休業した場合には、これはこれで対応出来ると思いますが、いろいろなケースが考えられますからもちろん検討していきたいと思います。


 失業保険給付あるいは雇用調整助成金の弾力的運用などが検討課題になるように思われます。今後の施策の動向が注目されます。

追記
 厚労省は新たに「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第1版) 」(平成22年3月18日付け)を発出しています(こちら)。基本的には従前から発表されているものを整理したものですが、雇用調整助成金の対象となる休業が「使用者の責めに帰すべき事由」のみならず、これに該当しない場合も含まれる旨、明言した点は個人的に参考になった次第。

2011年3月19日土曜日

計画停電時の休業に伴うパート等の生活保障と雇用調整助成金

 読売新聞に「計画停電で休業は補償義務なし・・組合が撤回要請」との記事が掲載されています(こちら)。

計画停電で休業した企業は休業手当を支払う義務はないとする厚生労働省の通知が生活不安を招いているとして、派遣労働者やパートなどでつくる労働組合「全国ユニオン」は18日、厚労省に通知の撤回などを要請した。
 労働基準法では、企業の都合で労働者を休業させた場合、企業は生活保障のため休業手当を支払うよう規定。しかし、厚労省は15日、「計画停電による休業に使用者責任はない」として、休業手当を支払わなくても同法違反には当たらないとする通知を全国の労働局に出した。
 これに対し同ユニオンは、「無給休業は労働者、特に収入の低い非正規労働者の生存権を脅かす」と反発。同ユニオンには、震災による経営悪化を理由に解雇通告された被災者からの相談も寄せられているという。
(2011年3月18日21時29分 読売新聞)


 たしかに同記事のとおり、計画停電中の休業に使用者責任がないとすれば、とりわけ時間給で働くパート・アルバイトに所得減少が生じる事となります。これに対して、ユニオン側は使用者に休業手当支払いを求めるようですが、計画停電という社会的強制(ないし要請)によって被害を受けているのは従業員だけではありません。何よりも営業活動を継続したいにもかかわらず、電力の供給がストップした結果、操業を停止し、経済上甚大な不利益を受けているのは、他ならぬ使用者といえます(もちろん計画停電を口実に他の動機・目的で計画停電の前後不相応な長時間にわたって休業するような事案があれば、その休業の一部が「使用者の責めに帰すべき事由」による休業に該当し、休業手当の支払い義務を負う)。

 計画停電に伴う休業に対応したパート等への生活保障は大変に重要な問題ですが、同リスクは社会全体で引き受けるのが適切と考えます。そして、その要請に応えるのが、まさに社会保障制度の役割となりますが、残念ながら、現状では社会保障制度の方でうまく対応ができていないのが現実です。

 例えば雇用保険法では、計画停電によって経済上影響を受け、休業を余儀なくされた事業主に対して、雇用調整助成金が休業手当相当額の一部(中小企業で原則8割)を助成する制度がスタートしています(こちら)。パート・アルバイトの休業についても、事業主が同制度を活用してもらえれば良いのですが、同労働者の労働時間が週20時間未満である場合は、雇用保険の被保険者に該当しないため、同雇用調整助成金の対象とならない結果を招いています。そもそも同制度は正社員の雇用保障を目的に設計されている面が多々あり、非常に手続きが煩雑です。

 また大震災の被災地に所在する事業場では、雇用保険制度上、休職を離職とみなし、失業保険給付の対象とする特例措置が実施されています(こちら)。今のところ計画停電による一部休業については同様の対応は取られていませんが、計画停電時において同様の特例措置を講じることも検討に値します(一部休業への失業給付支給 現行制度との整合性が良いとはいえませんが)。以上のとおり社会保障制度とりわけ雇用保険法を中心に、パート等の休業に対する支援を手厚くする方策は大いに検討されて良いと考えるものです。

2011年3月18日金曜日

雇用調整助成金・雇用保険法の対応(大震災関係)

 東北関東大震災による甚大な被害は、雇用に対しても大きな悪影響を及ぼすことが懸念されています。これに対して、厚労省は雇用維持等を目的に、矢継ぎ早に雇用保険法上の施策を講じています。神戸大震災の教訓を活かしており、非常に迅速な対応であると評価して良いと考えます。

第一 失業保険給付について(厚労省HPにおける案内はこちら)。

①休業に対する「離職」みなし
 事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業を余儀なくされ、賃金を受けることができない状態にある場合は、実際に離職していなくても失業保険給付(基本手当)の支給を行う。 ※事業所が職安に「休業証明書」の提出必要
②再就職予定に対する「離職」みなし
 災害扶助法の指摘地域にある事業所が災害により事業が休止・廃止したために、離職を余儀なくされた場合、事業再開後の再雇用が予定されていたとしても離職と扱い、失業保険給付(基本手当)の支給を行う
③その他
   失業認定日の特例、失業給付の受給手続きの特例など

第2 雇用調整助成金について(厚労省HPはこちら

 震災被害に伴う経済上の理由により雇用調整助成金を利用する事業主のうち、当面、特に被害の大きかった青森、岩手、宮城、茨城の5県の災害救助法適用地域に所在する事業所の事業主については、支給要件の緩和(事業活動縮小の確認期間を3ヶ月から1ヶ月に短縮すること、生産量等が減少見込みの場合でも申請を可能とすること、計画届の事後提出を可能にすること)を実施等。その他、詳細については上記URL参照

2011年3月16日水曜日

計画停電時の休業手当について

 厚労省は昨日(平成22年3月15日付け)、「計画停電時の休業手当について」を行政通達として発出しました(こちら)。

●計画停電中の休業について
 計画停電時には多くの事業場で操業・営業を停止することになります。その結果、従業員に対し休業を命じざるを得ませんが、同休業時間中、使用者に休業手当(労基法26条)の支払い義務が生じるかが問題となりえます。

 この問題について、まず計画停電実施中の操業・営業不能を理由とした休業は、一般に事業主の関与範囲外の事由によるものであり、労基法26条のいうところの「使用者の責めに帰すべき事由」に該当しないと考えられます。厚労省も先の通達で以下のとおり明確に休業手当の対象外となる旨、明言しています。

 計画停電の時間帯における事業場に電力が供給されないことを理由とする休業については、原則として法第26条の使用者の責めに帰すべき事由に該当しないこと

●計画停電前後の休業について
 これに対して計画停電の前後または終日を休業した場合、これが「使用者の責めに帰すべき事由」によるものか問題となりえます。これについて先の行政解釈では以下の判断基準を示しています。

 計画停電の時間帯以外の休業は、原則として法第26条の使用者の責に帰すべき事由による休業に該当すること。ただし、計画停電が実施された日において、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて休業とする場合であって、他の手段の可能性、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるときには、計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて原則として法26条の使用者の責めに帰すべき事由による休業には該当しないこと。

 以上の通達のとおり、計画停電以外の時間帯における休業は原則として休業手当の支払い義務があるとしますが、その一方、例外として「計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるとき」には、他の時間帯含め、休業手当の支払いを要しないとするものです。問題は如何なる場合がこの例外事由にあたるかですが、これについて同通達では「他の手段の可能性、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案」とします。

 もう少し具体的な事例を基に考えてみると、例えば計画停電の結果、工場・物流等に大きな乱れが生じ、製品・原材料納入が欠品したため店舗等での終日休業等を余儀なくされた場合などは、「休業回避」の努力を尽くしているといえるため、この例外事由に該当するものと思われる。

 なお同通達では計画停電が予定されるも、実際に実施されなかった場合については「計画停電の予定、その変更の内容やそれが公表された時期」を踏まえて、上記に基づき判断することとします。ここ数日来の計画停電の未実施例については、直前又はその後に未実施が告知されることが多いようですが、同ケースなどは公表された時期があまりに切迫している事等から、使用者側が休業を回避する事は困難であり、休業手当の支払い義務は負わないものと思われます。

 まずは行政通達のご紹介と簡単な解説にて。

2011年3月12日土曜日

大震災と企業の実務対応ー有益な参考資料のご紹介

 昨日午後、東北太平洋沖大震災が発生し、今もなお余震が続いております。同震災によって、大きな被害を受けた方々に心よりお見舞い申し上げます。私自身は事務所、自宅ともに無事でしたが、あれほどの地震に遭遇したことはなく、大変に驚きました。まずは何よりも家族と自身、そして近隣の安全が重要です。

 同大震災に直面し、企業各人事労務部門は目下、震災地域における人命救助・安否確認のところと思われます。またライフラインに携わる業種については、事業継続、物流維持等、大変困難な課題に直面しておられるのではないでしょうか。

 これについて内閣府が「阪神・淡路大震災」の教訓・資料をまとめた貴重な情報を以下HP(阪神淡路大震災教訓情報資料集)においてUPしており、今後の企業実務対応の際、大変参考になるものと思われます。(こちら)。

 詳細についてはぜひ上記HPをご覧いただくとして、私自身がさしあたり示唆を受けたものとして以下のものがあります。

●企業の緊急対応(こちら

特にライフライン(小売流通)維持について、胸にひびいたのが次の記述でした。

◆[引用] (震度7エリア企業・食料・物資供給担当者ヒアリング結果)緊急対策本部が各店舗に出した「速やかに生活物資の供給を再開せよ」という指令が届くのを待つまでもなく、各地域では既に職員の判断で、潰れた店にもぐり込んで食料を引っ張り出してきては、店の駐車場に戸板を敷いて並べて供給を開始していた。しかもそれは、必ずしも店長の指示によるものではなく、パート職員などの判断で始めた場合も多い。職住近接や危機管理のあり方が言われてはいるが、店長の立場にいるような職員は、郊外に住んでいる傾向がある。一方、パート職員は店の近くに住んでいる方が多いため、その方々を中心に、各々の現場で「誰のために何をしなければならないのか」を判断をして供給活動が開始された。当団体が生活物資の供給を早期に再開したことは、地域の被災者の不安を解消することにかなり役立ったと思う。[『平成10年度防災関係情報収集・活用調査(阪神・淡路地域) 報告書』国土庁防災局・(財)阪神・淡路大震災記念協会(1999/3),p.16]

●食料・救援物資の供給について(こちら

 今回の大震災においても、交通網が寸断されており、被災地への食料・救援物資の供給体制が懸念されます。神戸の地震の際には、全国から救援物資が届けられるものの、物流が混乱しており、被災地への供給が円滑に進まなかった事が記憶に新しいものです。これについて先のHPでは、物流担当者から貴重な改善策が示されていました。


◆[引用] (関西周辺地域業界団体・物資輸送担当者ヒアリング結果)阪神・淡路大震災の場合、物資の集結場所を神戸の消防学校に設定したが、被災地の道路が閉塞した状況の中を大型トラックで搬送することになり、また集結場所には荷物をトラックから上げ下ろしするための機材や人員がなかったため、物資を運ぶプロであっても被災地の真ん中に集結地をもってこられると活動しにくい。集結場所にトラックが集中してしまったら身動きが取れない。被災地の真ん中に物資の集結地を持ってこずに、被災地の周辺部に物資を集結するようにすれば、全国から届けられた物資もそこで仕分けもでき、混雑の影響も少ない。そのためには、物資の集結地を被害の少ない周辺の自治体に設定して、そこから被災地へ輸送する計画を作る必要があるが、各自治体の調整が難しい。しかし、被災地での混乱を少なくするためには、緊急物資の仕分けは、被災していない地域で行い、そこから被災地の避難所や目的地に輸送するシステムづくりが必要である。また、仕分けや配車の手配をするプロが被災地の目的地にいないことがあった。荷物ターミナル等で行う仕分けの方法を用いないと、とてもさばけない。プロに任せる体制が必要である。特に、大量の物資を運ぶ場合に、それをさばくプロの手が重要となる。最終的に届ける必要があるのは避難所であるが、今回の災害の場合、取り敢えず市役所なりその近くに運んだ。協会に輸送を頼む時には、どこそこの避難所に何人分というように依頼するとスムーズにいくのだが、被災地でも情報がつかめなかったという問題があった。...(中略)...人海戦術では対応できない状態であったので、フォークリトを現地事業者から調達し、作業を行った。途中から車の燃料もタンクローリーを手配した。[『平成10年度防災関係情報収集・活用調査(阪神・淡路地域) 報告書』国土庁防災局・(財)阪神・淡路大震災記念協会(1999/3),p.56-57]

●雇用上の問題(こちら
 また人事労務分野においても、今後様々な課題が生じることが懸念されますが、神戸大震災の際には、特例の雇用調整助成金と失業給付が大きな役割を果たしたようです。しかしながら、上記HPにも指摘されているとおり、短時間(週20時間未満)のパート・アルバイトは同対象から外れる等の課題が生じています。近年、雇用保険の被保険者資格は広がっていますが、週20時間という基準自体は今なお変更ありません(雇用見込みが「1年」から「31日」(現行法)に短縮)。まだ先の話になりますが、厚労省には雇用調整助成金の特例措置を含め、可能な範囲内で柔軟な対応を検討して頂きたいところです。なお以下記述によれば、神戸大震災時、適用対象であるにもかかわらず、雇用保険未加入であった労働者について、ハローワークは遡及適用・失業給付支給を認めています。今回も同様の対応を講じることが期待されます。

◆[引用] 一週間後の一月二十三日には、やむを得ない休業で従業員の雇用維持を図る事業主に賃金等の助成をする雇用調整助成金制度の特例措置がはじまった。事業所の休業や一時的離職であっても失業給付の支給を行う特例制度も、同日通達され、一月十七日までさかのぼって適用された。前者は、一年ごとに更新され九八年一月二十二日までの三年間で、一万九千三百七十四件の事業所、対象者数は五十九万二千六百八十五人、後者については九六年一月十六日までの一年間で、一万四百七件の受給資格決定がされた。[『阪神・淡路大震災10年 翔べフェニックス 創造的復興への群像』(財)阪神・淡路大震災記念協会(2005/1),p.156]☆

◆[引用] 法律相談の中で指摘されている問題点は、「雇用保険未加入者が多い」ことで、雇用保険が義務化されている企業においても、未加入のまま労働していた雇用者がかなりいたということである。これらの相談者に対しては、未払いの保険料を支払うという遡及条件で、失業給付を支給するといった柔軟な対応も実施されている。その中でとくに指摘されている問題点としては、「パート労働者、零細自営業者およびそこで働く人たちなど雇用保険法の適応を除外されてきた弱者への救済措置、適応対象者についても、さらに雇用保険の柔軟な
運用(未加入者への遡及適応など)と特別措置の延長などを含めた対応が求められている。」(連合兵庫「なんでも相談報告書」1995年12月p.33)と述べられている。後者については、弾力的運用、支給期間の延長が特例措置としてとられたわけだが、前者の雇用保険法適用除外者の問題は、残されたままである。[下﨑千代子「多様なワークスタイルづくりを通じたしごとの創造等、しごと・雇用対策」『阪神・淡路大震災 復興10年総括検証・提言報告(5/9)


まずは参考資料の簡単なご紹介にて。
 

2011年3月5日土曜日

最近勉強していることー社会保険をめぐる法律問題などー

 最近、必要に迫られ「企業実務の観点からみた社会保険の法律問題」を勉強し直しております。大学院時代に社会保障法を専攻していた関係上、同分野に土地勘があるつもりでしたが、なかなかに難しい問題が山積しており、大変新鮮な気持ちで勉強しております。

 例えば厚生年金・健康保険でいえば、解雇トラブル等係争中の被保険者資格喪失の可否、和解解決した場合における被保険者期間の取扱い(解雇から和解成立時点まで)、賃金差別事案確定判決後(男女賃金差別認定など想定)における各保険給付額変更の可否(標準報酬額への反映?)などなど。

 教科書、解説書を机に引っ張り出しては、これら難問に悩みもだえる(それが楽しいのですが(笑))今日この頃ですが、本当に役立っている好書が掘勝洋先生の以下体系書です。

 堀勝洋「年金保険法−基本理論と解釈・判例」(法律文化社) (アマゾンはこちら

 今後、年金保険を法的に論じる際には、同書籍がとにもかくにも、基本書と位置づけられることは間違いのないところと思われます(岩村正彦先生の「社会保障法Ⅱ」も首を長くしてお待ちしておりますが・・・すでに刊行済みの「社会保障法Ⅰ」はこちら)。
 
 なお社会保障法の大枠と個別論点の概略を掴む上では、「社会保障法」(有斐閣アルマ こちら)をお勧めしております。今回の勉強でも、まず真っ先に同著を読み返し、予習・復習を致した次第。

 

 

2011年2月13日日曜日

久々に映画のことなどーしあわせの雨傘

 確定申告の準備に少々うんざりしてきましたので、最近見た映画の感想めいたものを少しばかり。

しあわせの雨傘(こちら

 フランソワ・オゾンの新作を札幌シアター・キノ(こちら)で鑑賞。映画の魔術師ともいえる切れ味、おもしろさ。万人にお勧めできる作品です。映画のストーリーは上記HPをご覧頂くとして、面白いのが70年代フランスのストライキが物語の重要なエピソードとして取り上げられている点。

 オゾンが取り扱っているだけに、映画的魔術がふんだんに散りばめられているものではありますが、ストライキが街全体での騒ぎとなる事と市長等が介入してくる点などは、フランスのストライキそのものではないかと感じた次第。

 そのような難しい話は抜きにして、カトリーヌ・ドヌーブ演じる「奥様」の活躍にはたまらないものがあります。正月早々、古巣シアターキノでオゾンの映画的魔術に魅せられる時間を持てたことは誠に幸福でした。

2011年2月8日火曜日

派遣法案は予算関連法案成立のための約束手形?

 今朝の朝日新聞の報道(こちら)に以下の記事が掲載されています。

首相は7日、首相官邸で記者団に「社民党、国民新党とともに(2009年の)3党連立合意に盛り込んだ政策を実現したい」と語った。社民党が求める労働者派遣法の抜本改正と、国民新党がこだわる郵政改革法案を衆院「3分の2」に相当する318議席以上の賛成を得て再可決、成立させる姿勢を示すことで、予算関連法案への賛成を取り付けたい考えだ。


 派遣法案が予算関連法案成立のために、いわば約束手形として振り出される(「振り出され続けている」ともいえる)との事ですが、問題はその手形の支払い期日(成立日)です(これだけでは「お金」(議席)を貸していただけないようですが)。外野席から見ると、債権者・債務者ともに信頼関係が著しく失われているため、支払い期日を先に延ばすのは一般に難しいようにも思えます。
 年度末(さすがにないと思いますが)もしくは来年度当初の派遣法案強行採決があるかどうかが、当面気になるところです。

 それにしましても、労働者派遣法案そのものがきちんと顧みられず、名実ともに「政争の具」として扱われ続けている状況を憂慮するものです。先生方には法律の「製造責任」があることをお忘れなく(アメリカの立法(タフト・ハートレー法など)のように、法律に政治家の名前を付ければ、もう少しは製造責任を考えていただけるようにも思いますが如何に。派遣法であれば「福島・亀井・管」法でしょうか(笑))。

2011年2月4日金曜日

未払賃金立替払い制度の詐欺事件について

 先日、未払い賃金制度の詐欺事件が大きく報じられていました(読売新聞報はこちら)。

 会社の事業実態がなく、雇用する従業員、未払い賃金債権などあろうはずがないにもかかわらず、破産手続きを取った上で未払い賃金立替払い制度を詐取したとの事です。

 当然に許されるものではありませんが、そもそも国がそんな「古典的な」詐欺に何故引っかかるのか疑問に感じるところです。先の報道では、その疑問に対し、以下のように報じています。

同制度では、破産管財人などが作る未払い賃金の証明書や賃金台帳、元従業員の申請書などをもとに同機構が審査するが、担当職員は8人。1日の処理件数は数十件に上るといい、職員は「書類上不備がなければ通さないと、とても処理しきれない」と話している。

 
 未払賃金立替払いの処理を行う独法自体の審査が甘いかのように読めなくもない記事ですが、ここでの問題はむしろ「破産管財人」または「労基署」の破産・事実上の倒産・未払い賃金の認定にあります。今回の事件は法律上の破産手続きを取り、破産管財人の選任を受けた事案のようですが、同管財人が何故、「事業実態」を認めたのか、また従業員とその未払い賃金を確認したのか、その点こそが大きな問題であると思います。おそらくは同事案の破産手続き処理が形式的な「書面」審査で通ってしまったという事でしょうが、労基署での処理も含めて、再発防止対策がどのように講じられるかに注目するところです。

 ところで現政権の「事業仕分け」やらで未払い賃金立替払い制度の存亡が危ぶまれておりましたが、その後どうなったのでしょうか。この事件が変に使われないか、その点を少し懸念していますが、制度の必要性自体は異論ないところと思います(労使関係者間では)。

2011年2月3日木曜日

労政時報セミナー無事終了

 昨日、労政時報セミナーでの講演が無事終了いたしました。100名近くの企業人事・法務ご担当者様等にご参加頂き、大変に盛況でした。誠に有り難い次第です(案内はこちら)。
 パワーハラスメント問題は「パワハラ」の定義自体が難しい上に、損害賠償、労災、懲戒および休職・復職など様々な法的トラブルとして争われることが多いため、なかなかに難問です。そのためか、いざ社内で同トラブルが発生した場合、人事担当者等が迷路に迷いこんでしまうことが多いとの印象を持っておりました。そこで昨日の講演では、同問題対応への道先案内になるよう心がけましたが、如何だったでしょうか。3時間あまりの講演でしたが、お越しいただいた人事・法務ご担当者様等に少しでも同問題の「土地勘」を掴んでいただけたとすれば、講師として誠に幸いです。

2011年1月30日日曜日

道幸哲也先生の最終講義(北大)

 本年3月をもって恩師道幸哲也先生が北大の定年退官を迎えられることとなり、先日、最終講義が開かれました。大教室には現役の学生はもちろん、道幸ゼミOB・OGが多数参加され盛況。懐かしい面々にお会いすることができ、大変に嬉しい思いを致しました。
 道幸先生の最終講義の内容は、今年度中に北大法学論集に掲載される予定(こちら)ですので、詳細はそちらをご覧いただくとしまして、先生の幅広く、かつ深い研究・教育・公務の業績に改めて感じ入った次第。先生から懇親会の席で、先生の近著である「労働組合の変貌と労使関係法」(こちら)を頂きました。これまで色々な場で先生からご指導頂いた事と最終講義を思い返しながら、大事に読み返したいと思います。
 道幸先生は北大退官後も引き続き研究・教育・公務それぞれの場で重職に就かれ、ご多忙の日々が続くことになりますが、先生のご健康を心より祈念しています。
 

君、ちゃんと勉強しているのか? by クラーク先生

 先週末、恩師道幸哲也先生の退官講義・懇親会があり、久々に北大へ。構内のクラーク先生銅像にご挨拶したところ、厳しくも慈愛に満ちた眼差し。「君、ちゃんと勉強しているのか?」と仰っておられるように感じられて、頭を垂れるとともに、背筋が伸びる思いを致した次第。

2011年1月25日火曜日

ある本屋さんの書棚から



 昨日、東京駅丸の内の丸善で見かけた書棚です。平積みで拙書を並べて頂いており、大変有り難い次第。尊敬する安西先生、水谷英夫先生、湧井先生の書籍近くに配置していただき誠に光栄です。
 アマゾンにも拙書の在庫が入荷したようです(こちら)。

ー追記(平成23年1月28日)ー
 昨日、峰隆之先生から、拙書(峰先生監修)が弁護士会館ブックセンターにて、平積み陳列されている画像をご送付いただきました。画像だけみると、凄く売れているようにみえますが如何に(いやいや在庫が少ないだけかも(笑))。

2011年1月22日土曜日

有期雇用のトラブル対応実務チェックリストの発刊


 今週末に拙書「有期雇用のトラブル対応実務チェックリスト」(日本法令)が発刊されました。先日、書籍に対面しましたが、やはり我が子のようで、嬉しいものです。自分で申し上げるのも恥ずかしいのですが、本作は内容・価格ともに大変、意欲的なものとなっておりますので、ぜひお買い求め頂ければ幸いです。監修をお願いした峰隆之弁護士、編集企画・レイアウトに大変ご尽力を頂いた日本法令の田中さんに改めて感謝申し上げる次第。

日本法令HPの案内はこちら(著者名が1月21日現在では若干、間違っておりますが・・)

amazonはこちら(1月21日段階では未入荷のようですが・・)

2011年1月14日金曜日

労政時報セミナー講演のご案内

 来月2月2日(水)、(財)労務行政研究所主催の労政時報セミナーで講演することになっております。

テーマは「パワハラ問題対応のための法的基礎知識と実務対応」。

特に副題で記載させて頂いたとおり「上司の叱責・教育指導と「パワハラ」の問題」について力点を置いてご解説する予定としております(案内はこちら)。


 先日、セミナーご担当者様から伺ったところ、お申し込み状況は満席まであと少しとの事。誠に有り難い次第です。ご関心ございましたら、ぜひお申し込みを頂ければ幸いです。

第1回虎ノ門人事労務セミナーのお知らせ(2月7日)

 来月2月から拙事務所定例セミナーを東京虎ノ門で開催することと致しました。第1回目は来年度の規定・協定見直し作業にあたり、確認しておきたい法改正事項及び規定のブラッシュアップポイントを解説いたします。ぜひともご利用ください。

タイトル 「平成23年度 人事諸制度・協定見直しのポイント解説」
内容  ・平成23年改正法・改正法案の動向と対応上の留意点
      (改正労働安全衛生法案などの法案改正動向ふくむ)
    ・メンテナンスの必要な各種規定について
      (労働時間、メンタルヘルス、有期雇用等)

日時 平成23年2月7日(月) 午後6時半〜8時半
場所 TKP新橋ビジネスセンター カンファレンスルーム3E
   東京都港区新橋1−1−1日比谷ビルディング3階(こちら

セミナー会費
   顧問先企業様等 無料
   企業人事担当者様(お一人) 10、000円
(案内PDFはこちら
   

お申し込みは以下メールアドレス宛に会社・参加者名・住所・連絡先をご明記の上、参加申込み願います。
(申込み先メール kdkitaokasharo@gmail.com)
申込み頂きましたら、郵送等にてご請求書(顧問先様除く)をご送付致します。当日は直接、会場にお越しください。お待ちしております。

事務所移転のお知らせ(平成23年2月1日付)

 
拙事務所は本年2月1日付けをもって、以下に移転することとなりました。
移転後も引き続き、よろしくお願い致します。まずは取り急ぎ以下ご案内にて。

〒105-0003 東京都港区西新橋1−6−2 アイオス虎ノ門501号
電話番号 03−6273−3430 (2月1日開通)
FAX   042−439ー5973 (同上)

2011年1月7日金曜日

新年明けましておめでとうございます

 新年明けましておめでとうございます。東京での正月は小春日和が続き、誠に穏やかでした。

 本年は政治情勢の見通しがきかない中ではありますが、改正派遣法案、有期雇用法制など今後の中長期的な企業の労務管理に大きな影響を与える動きが顕著に見られます。また労務管理の現場では、メンタルヘルス・パワハラ問題、パート・契約・派遣社員との間の労務トラブルなど労務リスクに事欠きません。

 本年も引き続き、書籍・専門誌・セミナー・本HP等による情報提供と労務トラブルに対する依頼主様へのご支援などのサービスを展開してまいります。

 今年も引き続き、よろしくお願い致します。