2010年5月31日月曜日

うつ病健診の動向(プロジェクトチーム報告書から)

 先週末、厚生労働省 自殺・うつ病対策プロジェクトチームが報告書を取りまとめています(こちら)。

 先般も取り上げました定期健康診断項目へのうつ病検査追加案について、以下の言及があります。

(3)職場におけるメンタルヘルス不調者の把握及び対応
労働安全衛生法に基づく定期健康診断において、労働者が不利益を被らないよう配慮しつつ、効果的にメンタルヘルス不調者を把握する方法について検討する。
また、メンタルヘルス不調者の把握後、事業者による労働時間の短縮、作業転換、休業、職場復帰等の対応が適切に行われるよう、メンタルヘルスの専門家と産業医を有する外部機関の活用、産業医の選任義務のない中小規模事業場における医師の確保に関する制度等について検討する。また、外部機関の質を確保するための措置についても検討する。特に、メンタルヘルス不調者の把握及び対応においては、実施基盤の整備が必要であることから、これらについて十分な検討を行う。
<プロジェクトチームでの意見>
○中小企業の社員へのメンタルヘルスケアが必要。(第2回河西氏)
○定期健康診断項目の追加検討が必要。(第2回清水氏)
○定期健康診断におけるメンタルヘルス不調の把握に当たっては、労働者が不利益を被らないようにすることが必要。(第3回生越氏)


 定期健康診断項目の追加検討の提案は、内閣府参与の清水康之氏によるものです。なお同氏はNPO法人自殺対策支援センター ライフリンク代表を務めておられるとの事。
 
 同報告書において的確に指摘されているとおり(太字部分)同問題は実施基盤の整備が重要ですが、その際、何よりも相当数の精神医学に精通した産業医・保健師・産業衛生スタッフの養成が不可避です。労使ともに、実のところ、メンタルヘルス問題について安心して相談できる産業医学の専門家を心待ちにしており、まず厚労省も基盤整備に優先して取り組んでいただきたいと思うところです。 

2010年5月28日金曜日

「専門26業務に関する疑義応答集」の発出

 本日付(5月28日)で、厚労省HPに「専門26業務に関する疑義応答集」が掲載されました(こちら)。

 ざっくりと眺めた限りにおいて、非常に重要と思われる記述として以下のものがあります(事務用機器操作関係)。

⑦Q:物の製造、製品の梱包等の業務をコンピュータ制御により行っているが、当該コン
ピュータの操作の業務は第5 号業務に該当するか。
A:製造工程の機械や梱包のための機械の操作の業務は、コンピュータを活用した場合
であっても、事務用機器操作に当たらず、第5 号業務には該当しない。

⑧Q:事務用機器操作の業務のほかに、会議室での会議の準備や後片付け、備品の発注、
銀行での振込等の業務も行うようないわゆる一般事務は、第5 号業務に該当するか。
A:いわゆる一般事務については第5 号業務に該当しない。

⑨Q:スキャナーを利用した読取業務は第5 号業務に該当するか。
A:専らスキャナーを利用して読取るだけの業務については、迅速かつ的確な操作に習熟を必要としないので、第5 号業務には該当しない。

⑩Q:メール送受信業務は第5 号業務に該当するか。
A:文字や数値の入力、ファイルの添付によりメール作成・送信する業務や、受信したメールの振り分け、転送等の業務は第5 号業務には該当しない。一方、データベース用のソフトを活用しての一斉送信等、ソフトウエア操作に関する専門的技術を活用して行うメール送受信業務については、第5 号業務に該当する。

⑪Q:文書作成ソフトにより、文字の入力、編集、加工、レイアウトを行うのみならず、文書とすべき内容を企画検討し、文書作成する場合は、第5 号業務に該当するか。
A:文書とすべき内容を企画検討し、文書を作成する業務は、企画業務であり、もはや事務用機器操作の業務とはいえないことから、第5 号業務には該当しない。

⑫Q:街頭の意識調査の一連の作業として、①意識調査の内容について企画・検討を行う業務、②街頭での意識調査を実施する業務も併せて行った場合、第5 号業務に該当するか。
A:質問の①のような企画・検討する業務や②のような調査の業務は、事務用機器の操作の過程で一体的に行われる準備及び整理の業務でないことから、事務用機器の操作の業務に併せてこれらの業務を行う場合は、第5 号業務には該当しない。

⑬Q: 事務用機器を操作し作成した書類を梱包し発送する業務は第5号業務に該当するか。
A:書類の梱包又は発送の業務は、一般的には、事務用機器の操作の過程において一体的に行われる準備及び整理の業務ではなく、事務用機器の操作の業務に伴って付随的に行う業務とも判断できないので、これらの業務を併せて行わせる場合は第5 号業務には該当しない。


 特に⑬をみると厳しすぎる印象を受けます。専門26業務の「付随的業務」に該当しない「全く無関係の業務」に係る厚労省判断ですが、そもそも上記の解釈を「疑義応答集」なるもので小出しに示していくのは如何なものか。本来は法・政省令、更には正式な通達で示すべきではないかと考えます。

 現在、某誌に掲載すべく「専門26業務派遣適正化プランの解説」を執筆中なのですが、いずれにしても頭の痛いものが締め切り前に出てきました(泣)。

派遣法案の衆院委員会強行採決は来週水か?

 さきほど昼ご飯を食べながら、衆院TVを眺めておりましたら(5月28日午後1時過ぎ)、衆院厚生労働委員会において、大村先生(自民党)が「派遣法案を来週水曜日に強行採決すると聞いているが、本当か」と重ねて、鉢呂吉雄委員長に質問しておりました(当然、鉢呂委員長からは強行採決する旨の言明はありませんが)。

 6月2日(水)厚生労働委員会での派遣法改正案強行採決の可能性が高まっているやもしれません。強行採決したとしても、残り2週間(会期末が6月16日)。会期延長せずに参院で可決できるかどうかは、やはり微妙ですね。

 

顔やけどの労災補償「女性との差は不合理」 男性差別に初の違憲認定

 昨日(5月27日)、京都地裁で障害補償等級の違憲性を理由に、障害補償給付不支給決定処分を取り消した裁判例が出されたようです(産経NEWS)。

顔などに著しい傷が残った際の労災補償で、男性より女性に高い障害等級を認めているのは違憲として、京都府内の男性(35)が国に障害補償給付処分の取り消しを求めた訴訟の判決が27日、京都地裁であった。瀧華聡之裁判長は「合理的な理由なく性別による差別的扱いをしており、憲法14条に違反する」として原告側の主張おおむねを認め、国に同処分の取り消しを命じた。原告側代理人によると、労災補償の障害等級の違憲性が認められたのは全国初という。

 判決理由で、瀧華裁判長は訴えの対象になっている障害等級の男女の差について「著しい外見の障害についてだけ、男女の性別で大きな差が設けられていることは不合理」と指摘。「法の下の男女平等」を定めた憲法14条に違反していると認めた。


 判決文の要旨が徳島新聞HPに掲載されています(こちら)。

労災障害補償給付の性差別をめぐる訴訟で、京都地裁が27日言い渡した判決の要旨は次の通り。
 【障害等級表の合憲性】
 障害等級表において、人に嫌悪の感を抱かせるほどではない外貌(外見)の醜状(けがなど)障害について、男女に差を設け、差別的取り扱いをしていることが憲法判断の対象となる。
 ▽労働力調査
 国は「労働力調査における産業別の女性比率や雇用者数によると、女性の就労実態として、接客など応接を要する職種への従事割合が男性に比べて高いと言える」と主張する。しかしこの「産業」は、就業者が実際にした「職業」とは異なる。
 サービス業全体で女性の雇用者数の増加が男性より大きいことも根拠となると主張するが、サービス業の中には廃棄物処理業などが含まれ、根拠となるとは言えない。
 ▽国勢調査
 国は「国勢調査の職業小分類別雇用者数データを分析すると、女性の接客を要する職種への従事割合が男性より高いと言える」と主張する。
 本件取り扱いの合理性を根拠付ける男女間の差は、外見の醜状障害で生じる本人の精神的苦痛などで就労機会が制約され、損失補てんが必要だと言えるような差である必要がある。多くの不特定の他人と接する機会が多い職業も含めて考えるのが相当で、少なくとも音楽家や美容師などを合計して分析すると、国勢調査の結果は実質的な差の根拠になり得るとは言えるものの、顕著なものとも言い難い。
 ▽精神的苦痛
 国は「化粧品の売り上げなどから、女性が男性に比べて外見に高い関心を持つ傾向があることがうかがわれ、外見の醜状障害による精神的苦痛の程度について明らかな差がある」と主張する。
 ただ男性でも苦痛を感じることもあり得ると考えられ、実際に原告が大きな苦痛を感じていることも明らかだ。外見への関心の程度や性別が精神的苦痛の程度と強い相関関係にあるとまでは言えない。
 ▽判例
 国は「外見の醜状障害に関する逸失利益などが問題となった交通事故の判例により、男女間に実質的な差があるという社会通念の存在が根拠づけられている」と主張する。確かに男女差を前提とするような記述が見受けられるが、記述自体の合理的根拠は必ずしも明らかではない。
 ▽まとめ
 本件差別的取り扱いの策定理由には根拠がないとは言えないが、男女の性別で(障害等級表では)5級の差がある。等級表では年齢や職種、経験など職業能力的条件について、障害の程度を決める要素となっていないが、性別がこれらの条件と質的に大きく異なるとは言い難く、外見の醜状障害についてだけ、性別によって大きな差が設けられている不合理さは著しいというほかない。
 【結論】
 本件は合理的な理由のない性別による差別的取り扱いで、障害等級表は憲法に違反すると判断せざるを得ない。処分は障害等級表の憲法に違反する部分に基づいてされたもので違法。取り消されるべきだ。


 たしかに現在の障害等級をみると、女性従業員の顔に著しい損傷が残った場合は、障害等級7級に該当し、障害補償年金が継続して支給される一方、男性従業員が同様の労災に被災したとしても、障害等級11級等に該当し、年金支給がなされません(一時金が支給)。大きな差があることは間違いありませんが、これが憲法14条に反する差別(性別を理由)にあたるとまでいえるのか否か。上記要旨をみると、一応は立法事実を踏まえた上で、同差異に合理的な理由があるのか否か判断しているようですが、高裁判決さらには場合によっては最高裁判決が待たれるところです。

 ところで万が一、違憲判断が確定した場合(現大臣が地裁判断に従う旨の「ご英断」をされる可能性がない訳ではありません・・)ですが、後始末をどうするか問題が残ります。

 当該原告については不支給決定処分を取消し、障害補償年金を支給するとして、問題は他の請求案件をどうするか(同様の事案)。将来的に障害等級表を見直し、今後の請求案件について、男性も年金支給をするとしても、更に過去の確定分について、見直しの要がないのかどうか。すでに同様の事案で、障害補償一時金の支給を受け、これが確定した従業員は、現行法上、改めて障害補償年金不支給決定処分を争いようがありませんが、国に対して国家賠償請求を行い、障害補償年金と一時金の差額分支給を求めることが可能か否か(時効の問題?)。
 同違憲判断が仮に確定したとしても、様々な難問が残されることになりそうです。いずれにしましても、まずは国側が控訴するか否か見守る必要があります。

 

2010年5月27日木曜日

「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会」報告書について

 昨日(5月26日)、厚生労働省か「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会」報告書をプレス発表しました(こちら)。

 報告書のポイントとして次のものが挙げられています。

1 今後の職場における受動喫煙防止対策の基本的方向
・ 快適職場形成という観点ではなく、労働者の健康障害防止という観点から取り組むことが必要。
・ 労働安全衛生法において、受動喫煙防止対策を規定することが必要。

2 受動喫煙防止措置に係る責務のあり方
・ 労働者の健康障害防止という観点から対策に取り組むことが必要であることから、事業者の努力義務ではなく、義務とすべき。

3 具体的措置
・ 一般の事務所や工場においては、全面禁煙又は喫煙室の設置による空間分煙とすることが必要。
・ 顧客の喫煙により全面禁煙や空間分煙が困難な場合(飲食店等)であっても、換気等による有害物質濃度の低減、保護具の着用等の措置により、可能な限り労働者の受動喫煙の機会を低減させることが必要。

4 事業者に対する支援
・ 事業場の取組を促進するため、技術的支援及び財政的支援を行うことが必要。

5 今後の課題
・ 現状では直ちに禁煙とすることが困難な場合においても、国民のコンセンサスを得つつ、社会全体としての取組を計画的に進めていくことが必要。


 同研究会報告では、労働安全衛生法において、受動喫煙防止を事業主の「法的義務」とすることを提案しています。それでは、この法的義務として、如何なるものを想定しているのでしょうか。

 まず上記3で記載されているように、一般のオフィス・工場では全面禁煙または空間分煙とすること。またサービス業の店舗においては、換気、保護具(?)などの着用による受動喫煙の低減措置を法的に義務づけることなどが想定されているようです。また研究会報告書本文を見ると、サービス業店舗については、同低減措置を講じた上で「更なる上乗せの対策メニューとしては、ばく露時間短縮するための禁煙タイムの導入、人員配置に係るローテーションの導入等が考えられる」と提言されています。

 その他としては以下の措置を何らかの形で法制化することも提案されています。
「事業場内で行う受動喫煙防止対策の取組について、これを検討する組織や責任者を明確にするなど、体制を整備することが必要である。その際、労働衛生スタッフの参画や連携を図る他、既存の衛生委員会等の活用を行うことが考えられる。受動喫煙防止対策の取組を確実に実施するためには、喫煙区域又は禁煙区域を明確に示すことが重要であることから、区域分けの表示等を行い、労働者等に周知することが必要である。受動喫煙防止対策の取組を円滑かつ継続的に実施するためには、事業者及び労働者双方が対策の必要性を理解することが不可欠である。このため、事業者及び労働者に対して、受動喫煙による健康影響について教育を行うことが重要である。
 なお、建物内を全面禁煙にする事業場については、屋外に喫煙所等を設置することが考えられるが、その場合には、たばこ煙が屋内に流入しないことや付近を通る労働者がたばこ煙にばく露しないよう配慮することが必要である。」


 これから労働政策審議会において、受動喫煙防止に係る労働安全衛生法改正案の検討が本格化することになります。恐らくは来年の通常国会への法案提出を目指しているものと思われますが、同改正案は企業の総務部門、更にはサービス業(特に飲食・娯楽業)に対するインパクトが大です。法的義務とするとしてもその方法(具体的措置を全て労働安全衛生法、規則に明記するか、あるいは包括的な義務規定のみ定め、具体的な細則はガイドラインとするのか)、その履行確保手段が如何なるものとなるのか(罰則の有無、罰則規定を設けない場合の履行確保手段など)を含め、同法改正の動きに注目する要がありそうです。

2010年5月26日水曜日

労働関係の国際裁判管轄の明確化(民訴法改正案、衆院通過)

 昨日(5月25日)、衆院において全会一致で民訴法改正案が通過し、参院に送付されたようです(日経新聞記事

 国際的な取引や契約を巡る問題について、どのような際に国内で裁判ができるかのルールを定めた民事訴訟法改正案は25日の衆院本会議で全会一致で可決、参院に送付された。与党は今国会での成立を目指す。

 民事裁判の国際管轄を定めるものであり、いわゆる「国際私法」領域の問題となります。実はこの問題は人事労務分野においても、無縁ではありません。例えば海外工場で勤務している日本人社員と会社間の労使紛争を海外の裁判所または日本の裁判所いずれで争うべきか等の問題が生じた場合、解決指針が必要となります。この問題に対して、実定法でルールを明らかにしようとするのが、今回提出されている民訴法改正案になるものです。

 法務省HPに概要が掲載されています(こちら)。同資料の6頁以下に労働関係の国際裁判管轄に係る法案内容が紹介されておりますので、ご関心ある方はご覧ください。

2010年5月25日火曜日

「「日本海庄や」過労死訴訟、経営会社に賠償命令」と会社法429条

 マスコミ各紙において「「日本海庄や」過労死訴訟、経営会社に賠償命令」が大きく報じられています(以下、読売新聞)。同報道においても特記されているのが、役員の賠償責任を認めた点です。

5月25日11時27分配信 読売新聞

 全国チェーンの飲食店「日本海庄や」石山駅店(大津市)で勤務していた吹上元康さん(当時24歳)が急死したのは過重な労働を強いられたことが原因として、両親が経営会社「大庄」(東京)と平辰(たいらたつ)社長ら役員4人に慰謝料など約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、京都地裁であった。

 大島真一裁判長は「生命、健康を損なわないよう配慮すべき義務を怠った」として、同社と4人に対し、約7860万円の支払いを命じた。

 原告側の弁護士によると、過労死を巡る訴訟で、役員の賠償責任を認めた司法判断は珍しいという。

 判決によると、吹上さんは2007年4月に入社後、石山駅店に配属されたが、同8月11日未明、自宅で就寝中に急性心不全で死亡。死亡まで4か月間の時間外労働は月平均100時間以上で、過労死の認定基準(月80時間超)を上回り、08年12月に労災認定された。

 大島裁判長は、同社が当時、時間外労働が月80時間に満たない場合は基本給から不足分を控除すると規定していたと指摘。「長時間労働を前提としており、こうした勤務体制を維持したことは、役員にも重大な過失がある」と述べた。

 閉廷後に記者会見した母の隆子さん(55)は「従業員が過労死した企業には公表義務を課すなど、社会全体で厳しい目を向けて監視していく必要があると感じた」と語った。

 大庄広報室は「まだ判決が届いておらずコメントできないが、今後は内容を十分に検討して対応する」としている。


 役員の損害賠償責任を認めた根拠条文が報道では明らかではありませんが、恐らくは役員等の第三者に対する損害賠償責任を認めた会社法429条1項(旧商法266条の3)ではないかと思われます。

会社法429条1項 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

 同法を根拠に安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を取締役にも連帯して支払うよう命じた裁判例は、これが初めてではありません。おかざき事件(大阪高判平成19年1月18日 労判940-58)が挙げられます。同事案については、濱口桂一郎先生のブログにおいてもすでに紹介されています。(こちら)。

 おかざき事件は小規模会社における代表取締役の連帯責任が問われたものです。また本ブログにおいても、以前、残業手当請求に係る取締役の連帯責任を認めた裁判例を紹介したことがあります(こちら)。同事案も中小企業における取締役等の連帯責任が認められた事案です。

 これに対して、上記事案は東証一部上場企業における役員の連帯責任を認めたものであり、この点で大きく異なります。更に報道記事によれば、「長時間労働を前提とした勤務体制、賃金制度の構築」が取締役の重過失を構成すると判示したとの事です。同判示部分については先例的な意義を有するものであり、今後、これが会社法429条1項に係る判例法理として形成されていくのか否か。同判断基準の適否とその適用、その射程など今後注意深く見守っていく要がありそうです。まずは同判決文をじっくりと勉強しなければなりません。

2010年5月24日月曜日

今国会で派遣法案は成立するのか?(平成22年5月24日現在の個人的観測)

 本ブログにおいても、たびたび取り上げている改正派遣法案ですが、その法案審議が一向に聞こえてきません。衆議院のHPを見て、ようやく状況が見えてきました。

まず4月23日の衆議院厚生労働委員会において、自民党・改革クラブ等が欠席の中、改正派遣法案提案理由の説明(長妻大臣等)および社民党・民主党との質疑がなされています。

 その後ですが、5月12日の流会以後、同委員会では派遣法案の審議はなされておらず、児童扶養手当法案、厚生系の独立法人改革法案の審議が先に進められています(5月21日まで)。今週も恐らく水・金に厚生労働委員会が開催されると思われますが、独法改正案の審議終結・採決が行われた後、また「改正派遣法案」の審議入りに入るか否かが、大きな焦点となりそうです。

 衆院HPに5月14日の厚生労働委員会議事録が掲載されております。同日は主に児童扶養手当法案が審議されていましたが、その際、大村衆院議員(自民党 前厚生労働省副大臣)と長妻大臣の間で、次のようなやりとりがされており、4月末以降の経緯が「何となく」伺えるものです(衆院HP 厚生労働委員会議事録はこちら)。

○大村委員 次に参ります。

 労働者派遣法の取り扱いについてでございます。これは一言だけ申し上げたいと思います。

 労働者派遣法の法案に入っていたかと思いましたら、今回はこの児童扶養手当の法律に入るということであります。与党側の要請でありますから、予算関連ということもあって我々は受け入れました。ということは、労働者派遣法については、この改正はあきらめたということでよろしいですか、長妻大臣。

○長妻国務大臣 これは、内閣として閣議決定をして国会に出させていただいておりますので、もう速やかに成立をしてくださいということをお願いしているところでございます。

○大村委員 どうやってやるんですか。では、この児童扶養手当をやめて派遣法にしましょうか。それでもよろしいんですか。お答えください。

○長妻国務大臣 基本的に、国会でその段取りというのは話し合っていただくことだと思いますけれども、私としては、これは内閣として閣議決定をして提出した法案でございますので、当然成立をお願いするという立場でございます。

○大村委員 いや、議院内閣制ですから、政府・与党一体で調整をしながらやっているというふうに承知をいたしております。そういう中で、与党側から、本来の派遣法を、重要広範議案である派遣法をやっているところをやめて、この児童扶養手当をやってくれということですから、それはそれで了解をしたわけでありますけれども、そういうことをやって、次はまた独法の法律をやるということで与党側から要請をいただいております。

 そういうことになってきますと、この派遣法についてやるということには、率直に言って、もう残りの会期を含めてはなかなか難しいと言わざるを得ないというふうに思います。ですから、この派遣法について、もうこの国会ではあきらめた、これはもういいんだということでよろしいかということを聞いているのでありますので、答弁をいただきたい。(発言する者あり)

○藤村委員長 静粛に願います。静粛に願います。

○長妻国務大臣 これは繰り返しでございますけれども、内閣として閣議決定をして、国会に審議をお願いしている法律でございますので、成立をお願いするという立場でございます。

○大村委員 では、この後、理事会で協議しましょうか。やめましょうか、これを。派遣法に戻しましょうか。やめましょう、それだったら。後ほど理事会協議しましょう。そういう不誠実な、あなた方からこの児童扶養手当そして独法をやってくれということを言ってきたから、本来イレギュラーだけれども、これを受け入れて、この児童扶養手当、そしてこの後独法ということを、日程協議もしながらやってきたわけです。そういう意味で、民主党を初め、この国会のルールというのを全く理解していない。その点については極めて問題だということを申し上げておきたいというふうに思います。

 この派遣法についてはもう事実上難しいということを正直に認めて、この後、では、この派遣法について、いろいろな課題、問題点がある。関係の皆さんは非常に不安になっている。実際、派遣で働いている人たちの雇用ももう維持できないんじゃないか、そういうふうな不安もある。中小企業の人材の確保もできないんじゃないか、そういういろいろな問題点があって、私は、事務方にもいろいろな資料も、データも含めてこれは要求しておりますけれども、そういったシミュレーション、それからそういった対策も全然出てこない。したがって、この派遣法については引き続き、さらにさらに、もっともっと問題を深掘りにして議論していこうということを申し上げているのでありますけれども、なかなかそのデータが出てこない。

 そういう中で、この法案を、こちらを先にやってくれということでありますから、私は、これはちょうどいい時間ができた、十分これから、まだ秋は通常国会があるかどうかわかりませんけれども、そのままいけば、また来年の通常国会ということになろうかと思いますが、それに向けて十分これは問題点を議論し、深掘りをしていきたい、そのことを申し上げておきたいと思います。


 なかなか盛り上がっています。これは実況中継を見たかったですね(笑)。それはともかく自民党側は同法案に対する強い疑念を示しており、慎重な審議を求めるスタンスを取っていることが明らかです。これに対し、民主党がどこまで同法案成立に熱意を持っているか(つまりは強行採決するか否か)。通常国会の会期延長がない限り、それは今週末に明らかとなりそうです。色々と現与党連立政権内における「政治的」に難しい問題も絡み、どうなることか予断を許しません。

 個人的には大村先生のご議論とりわけ「この派遣法については引き続き、さらにさらに、もっともっと問題を深掘りにして議論していこうということを申し上げている」とのご主張はもっともではないかと思うところではあります。

2010年5月21日金曜日

平成23年度労働基準監督官採用数半減か?

 本日(5月21日)、平成23年度の国家公務員採用削減の方針が閣議決定されたようです(時事通信)。

「国家公務員の新規採用39%減=11年度、半減目標達成できず-政府」

 政府は21日、2011年度の一般職国家公務員の新規採用数を閣議決定した。09年度(7845人)比で39%減の4783人にする。鳩山由紀夫首相は4月27日の閣僚懇談会でおおむね半減を目指すよう指示していたが、刑務官や海上保安官など専門職種を抱える府省から急激な採用抑制に対する異論が強く、当初目標は達成できなかった形だ。 
 海上保安官や刑務官など治安関係の4職種を除外すると、抑制率は47%となる。(2010/05/21-10:33)


 先ほど総務省にUPされた報道資料をみると、以下の記述が見られます(こちら)。
ⅲ 専門職種でその専門的な知識をいかして行政サービスを提供すること等を目的とする採用者 5割

 この専門職種に「労働基準監督官」は含まれるものですが、問題は上記報道にいう「治安4職種」です。これに労働基準監督官が該当するのであれば、来年度採用が5割減とならないことになります。
 色々とネット検索をしてみると「治安4職種」について、以下の報道がありました(読売新聞)。

政府は19日、2011年度の一般職国家公務員の新規採用数を09年度採用実績と比べて「おおむね半減」させるとした抑制目標について、刑務官や海上保安官など治安・安全業務に携わる専門職種に限り、削減幅を圧縮する例外を認める方針を固めた。

 抑制目標には、法務省が刑務官などを含む一律削減に反対していたが、特例措置によって同省も抑制目標を受け入れるため、21日にも閣議決定される見通しとなった。

 特例は「治安と安全には一定の業務水準を確保する必要がある」との判断から認めることとなった。削減幅の圧縮を認める専門職種はほかに、入国警備官と航空管制官とする方向だ。閣議決定では「原則は半減だが、総務相が特別に認める場合はこの限りでない」との規定を設け、対象を明示する。

 特例が認められる専門職種の09年度採用実績は、刑務官888人、入国警備官158人、海上保安官452人、航空管制官92人。総務省は当初、09年度実績比でいずれも5割削減を求めていたが、特例規定により、海上保安官と航空管制官はそれぞれ09年度実績並みの新規採用を認め、刑務官と入国警備官も新たな削減幅を調整している。

 
 やはりというべきか、労働基準監督官は「治安4職種」に該当しないようですね。とすれば、先の閣議決定のとおり、来年度の採用数は例年の100名前後から50名程度ということになりそうです。国家財政上の問題とはいえ、同専門職への新人採用が半減するということは、色々な面でマイナスが多いように思われるところです。

2010年5月19日水曜日

改正育児介護休業法関連の最新拙稿について

 書店発売中のビジネスガイド6月号(日本法令)に拙稿「改正育児・介護休業法に関するQ&A」から読み解く実務への影響(上)」が掲載されました(こちら)。

 今年2月に厚労省から示された「改正育児・介護休業法に関するQ&A」を解説するものです(同Q&A原文はこちら)。

 上ということは下もある訳ですが、この下が大変、くせものです。ゲラが先日上がってきまして、今見直しをしているところですが、なかなか読み応えあるものになりそうです。来月号のビジネスガイド(7月号)に掲載予定ですので、ご期待ください。

 また「パパ・ママ育休プラス」という難しい制度が新たに本年6月30日から施行されますが、これについては、労政時報6月上旬号に同解説が掲載される予定です。

 改正育児・介護休業法については、さほど話題になることもなく、まもなく施行を迎える訳ですが、考えれば考えるほど、人事労務担当者にとって思わぬ盲点が多い法改正です。今後、従業員の活用が増大すれば、色々と難しい法的トラブルが増加する懸念を持っています。また機会があれば、同改正法について、もう少し踏み込んで検討したものをどこかで書きたいですね。

2010年5月18日火曜日

改正独占禁止法が人事労務に与える影響

 先ほどYAHOO-NEWS(毎日新聞配信)で「<地位乱用>岡山のスーパーを初の立ち入り検査 公取委」が報じられておりました(こちら)。

 取引上の立場が弱い納入業者に対し不当な値引きや従業員を店舗に派遣させるなどしていたとして、公正取引委員会は18日、独占禁止法違反(優越的地位の乱用)の疑いで岡山市のスーパー「山陽マルナカ」を立ち入り検査した。1月施行の改正独禁法で「優越的地位の乱用」も課徴金の適用対象となり、施行後この容疑での立ち入り検査は初めて。

 関係者によると、立ち入り先は山陽マルナカ本社や店舗、納入業者など二十数カ所。納入業者に不当に値下げや返品を強いたり、従業員の派遣や協賛金を求めていた疑いが持たれている。

 同社は岡山、兵庫、広島県、大阪府に計71店舗を展開し、年商約1230億円。04年にも納入業者に不当な値引きや返品をしたなどとして公取委から排除勧告を受けている。

 1月施行の改正独禁法では、厳罰化を図るため違法行為に対する課徴金の適用範囲が広がり、不当廉売や不当な手段を用いて競争相手を市場から排除する「排除型私的独占」なども対象となった。「優越的地位の乱用」の課徴金額は、乱用行為を受けた事業者と違反行為者の取引額の1%。

 山陽マルナカは「公取委から立ち入りを受けたのは事実で、調査には全面的に協力する」と話している。【桐野耕一】


 改正独占禁止法が本年1月から施行されています(公正取引委員会の解説資料はこちら)。
一般には経済法と労働法は全く縁遠い法律のように思われるところですが、近年、様相が変わってきました。特に関わりが深くなるのが、いわゆる偽装請負問題です。人事労務部門は同問題については、もっぱら派遣請負区分告示(37号告示)の観点から構内請負等と発注者との関係を点検する事になりますが、法務部門との打ち合わせの際、間違いなく問題となるのが、独占禁止法、下請法との関係性です。

 先のニュースでも、納入業者が自社の社員をスーパーに「派遣した」と報じられておりますが、恐らくは派遣法に基づく適正な派遣ではなく、形式上も業務委託の形であろうかと思われます。従来はこれが「偽装請負」にあたるか否かが問題視されてきましたが、先の報道では、これが更に改正独占禁止法が規制する「排除型私的独占」に該当し、取引額の1㌫もの課徴金が課される可能性があるとの事。企業実務的には相当にインパクトある処分になろうかと思われます。

 これからの人事労務は労働法のみならず、独占禁止法、下請法さらには商法までも見据えて対応策を検討する要があるようです。なかなか骨がおれます(笑)。

2010年5月17日月曜日

日本労働法学会(2010春学会)

 昨日、名古屋大学で開催された日本労働法学会に出席しました。個別報告(戸谷会員「フランスにおける企業倒産と解雇」)、シンポジウムいずれも大変に勉強になり、刺激を受けました(こちら)。

 今回のシンポジウムは東アジアの個別労働紛争解決制度がテーマとなり、韓国、台湾、中国、日本の4国の各制度の現状と課題について、勉強させていただきました。同シンポジウムで印象的であったのが、日本の労使紛争件数の少なさです。以前からヨーロッパ諸国との比較で日本の労使紛争件数の少なさが指摘されるところでしたが、野田進先生の報告では、中国、韓国、台湾と比べてもその少なさが顕著であることが指摘されています。

 その後の質疑応答の中で、野田先生からは日本の労使紛争解決制度が今なお十分ではないことが、件数が少ないことの主要原因ではないかとのコメントがありました。確かにその面もあろうかと思いますが、一つの仮説として、我が国では企業内の自主的な労使紛争解決(一例として、会社側が労働者からの苦情を聞き、一定の対応を講じようとする傾向が高いということ等)が相応に機能している面もその要因の一つに挙げられないか。同仮説の立証を社会科学分野(法社会学の分野でしょうか?)において行うことは大変、難しいとは思いますが、そのような雑感を感じた次第。

2010年5月14日金曜日

旅行添乗員の事業場外みなし労働適用について

 先日(5月11日)、東京地裁で旅行添乗員の事業場外みなし労働の適用を否定し、未払い残業代とともに同額の付加金支払いを命じた裁判例が出されました。会社側は控訴するようです(asahi.comはこちら)。

 同問題については、すでに労基署においても、事業場外みなしの適用を否定し、是正勧告を交付する例が相次いでいる上、労働審判においても、同適用を否定する旨の審判が示されておりました。

 労基署の是正勧告書において、事業場外みなし適用を否定する理由の一つとして挙げられているのが、旅行日程です。私もたまに家族と国内バスツアーを利用することがありますが、どこに何時に立ち寄るか事細かに定められています。添乗員も当然に、その旅行日程を遵守するべくガイドされているものですが、この結果、同添乗員については「事業場外」とはいえ、その就労状況の把握は極めて容易といえます。また同添乗員が旅行日程に反した就労を行うことは、通常不可能といえます(旅行日程に反するということは、職場放棄を意味し、顧客からクレームが出ることが必至)。

 先日の東京地裁判決はまだ未入手ですが、報道を見る限り、同様の判断を行ったものと思われます。会社側は控訴する意向のようですが、かなり厳しいと思います。他方、事業場外みなしの適用が否定された場合、労働時間の把握が問題となります。これについては、旅行同行中における添乗員の「休憩時間」が論点となりうるでしょう。

 ところで先日、某国のバスツアーを楽しんだところ、同添乗員の対応に新鮮な驚きを受けました。目的地に着けば、もうお客任せ。何もアテンドいたしません。お客さんもそれに何ら不満なく、ぞろぞろと好きなところに行って、定刻までに帰ってきていました。日本の場合、あまりにお客に過保護すぎる(お客も甘えすぎる)ような気もいたします。バスツアーを愛用する立場からいえば、添乗員の長時間拘束(労働?)問題も、この辺りの問題がキーポイントであるように感じます。

 

2010年5月13日木曜日

自転車通勤中の事故は通勤災害に該当するか?

 先日の日経新聞(2010.5.11)に「ゴールドウィン社 自転車通勤容認」との記事が掲載されていました。同社では通勤距離が2~20kmの社員を対象に自転車通勤を容認することとし、通勤手当もその距離数に応じて支給する事にしたようです。また同対象者には任意保険の加入を義務づけるとの事。

 都内における朝の通勤電車を思うと、自転車通勤はとても魅力的に見えます。健康にも良いですし、電車賃もかからない事などから、いいことだらけに思えますが、企業サイドからの懸念として、駐輪場の確保と事故対応の問題があります。特に問題となるのが、通勤途上に本人が交通事故にあった場合に、通勤労災の対象となるのか否かです。

 通勤労災の判断基準の一つとして、通勤が「合理的な経路および方法」による移動であることが求められます(労災法7条2項)。問題は自転車通勤が合理的な経路および方法によるといえるか否かです。特に通勤経路に他の交通機関があり、それが迅速かつ低廉な価格で用意されており、本人もそれを長期間利用していた場合、自転車通勤が「合理的な経路および方法」と言いうるのか

 先日、労基署の担当者と雑談いたしましたが、同種事例は扱ったことがないようです(全国においては、すでに同種事案があるやもしれませんが)。たとえ話として、ある社員が2~3駅早めに下車して、ランニングして会社に向かう途中、事故に被災した場合、通勤災害にあたるか否かについては、担当者見解では該当しないとの事。同じように健康保持増進目的で自転車で通勤した場合は、他の適切な通勤経路・方法がある限り、認められないとする考え方は成り立ちうるものです。

 その一方、厚労省は省を挙げて、健康保持増進に取り組んでいます。この動きから見れば、会社が公認する限り、通勤災害として認めるべきとの価値判断があってもおかしくはありません。

 いずれにしても、当面はこの問題について、新たな行政解釈の登場を見守る必要がありそうです。それまでは任意保険の加入(被害者対応+自転車運転者本人分)を強制し、事故対応を行う他ないでしょう。問題は任意保険の適用・給付範囲ですが、これは労災保険と比べると、見劣りするのは間違いないところです。

2010年5月9日日曜日

映画「南極料理人」

 南極調査隊の料理人(海上保安庁派遣)と調査隊メンバー7名(むさ苦しい男ばかり!)の南極での1年を「食」の視点から物語化した作品(同作品のHPはこちら)。

 料理人役の堺雅人その他キャスティングが絶妙。男どもを見ていると、寮生時代を思い出します。男ばかりの共同生活はやはり、どこか似てくるものですね(笑)。

 本作の何よりの主人公は、やはり食べ物。おむすび、豚汁、ぶりの照り焼き、卵焼き、伊勢エビフライ(?)、そして凄いのが苦心の末、作り上げた「ラーメン」。オーロラが出ようが出まいが、久方ぶりのラーメンに夢中になる姿は、ある種感動的です。

 見れば気持ちよくお腹が減ってくる好作品でした。

2010年5月7日金曜日

警察から会社への通知(痴漢逮捕)について

 5月6日付け東京新聞夕刊に以下の記事が掲載されていました(こちら)。

「電車の痴漢 会社員が過半数 先月、首都圏で一斉摘発」

首都圏の四都県警が四月に実施した電車内の痴漢一斉取り締まりで、摘発された七十七人中四十八人の職業が「会社員」で、このうち二十一人は過去にも痴漢で摘発された経験があったことが警察庁のまとめで分かった。

 通勤電車内で痴漢を繰り返すサラリーマンが存在する実態が垣間見えた形。摘発された際の警察から勤務先への通知は、現在は身元確認が必要な場合などに限られているが、再犯を防ぐ目的で拡大も検討されそうだ。 (以下略)


 痴漢が許し難い犯罪行為であり、厳正な対応が必要であることは言うまでもありません。その一方、近時、痴漢の冤罪・無罪事案なども相次いでおり、警察の送致、検察の起訴で100㌫同人の有罪が確定する訳ではありません(当たり前のことではあるのですが・・)。

 この問題を考える際、いつも思い出すのが、周防正行監督の「それでもボクはやっていない」です(公式サイトはこちら)。警察段階で大森南朋扮する刑事が、被疑者の取り調べを行うのですが、開口一番「やったんでしょう。調書捺印したら、早く帰れるから」(※実際はそのような調べはないと思いたいのですが・・・)。
 仮に冤罪事案で被疑者がこの警察官の「誘い」にのってしまい、かつ同情報が警察から会社に通知された場合、会社としてはどのように対応すべきでしょうか。

 恐らく会社としても懲戒処分を検討せざるを得ないと思われますが、その際、当人が冤罪などと主張されれば、対応はとても難しいものになります。

 JRの設置した防犯カメラ等によって、痴漢行為自体が全て記録化できれば、先のような問題も解消されるのでしょうが、通知に伴う会社の対応は当面、慎重たるべきでしょう。

 あとは素朴な疑問として、警察が会社に通知できる法的根拠はどこにあるのでしょうか。冤罪事件で警察が会社に通知、会社が同通知を根拠に解雇された労働者が、国家賠償請求を行い認められる余地は十分に残されているとも思います。

2010年5月6日木曜日

三鷹労働法セミナー第5回「平成22年度労働行政運営方針の解説」

 弊事務所主催の5月三鷹労働法セミナーは「平成22年度労働行政運営方針」を取り上げることとしました。

 同方針は毎年、厚生労働省本省から各都道府県労働局に示されるものであり、企業で例えて言えば「年間経営方針、経営計画」を指す大変重要な文書です(同文書はこちら)。

 同セミナーでは本年の労働行政運営方針、特に労働基準監督行政の運営方針を中心に解説いたします。同文書は一見だけでは、毎年代わり映えしないようにも思えるものですが、子細に内容を見ていきますと、毎年新たな「発見」があります。本年度の労働行政運営方針も然り。特に労働安全衛生分野においては、注目すべき記述が見られるものです。

 ご関心ある方はぜひともご利用いただければ幸いです。

開催日時 5月27日(木)午後6時~8時

場所 三鷹産業プラザ7階会議室 702号室

その他詳細はこちら  参加申し込みはこちら又はFAXで