2010年7月27日火曜日

東京都主催労働セミナー「派遣労働者の人事・労務管理のポイント」講演について

 平成22年9月6日、13日(いずれも月、14時~16時、会場は飯田橋の東京しごとセンター9F、参加費無料)、東京都主催の労働セミナーで「派遣労働者の人事・労務管理のポイント」について講演いたします(詳細はこちら)。

 恐らく9月のセミナー講演時点でも、まだ改正派遣法案の命運は定まっていないと思われますが、その最新動向はもちろん、派遣法の基礎および最近、実務上大きな問題として浮上している「専門26業務適正化プラン」への対応なども解説する予定です。

 ぜひともご利用いただければ幸いです。

2010年7月26日月曜日

「ケータイを持たせて事業場外みなしが可能か」再論

 以前、濱口桂一郎先生の「EU労働法政策雑記帳」ブログで「ケータイを持たせて事業場外みなしが可能か」について、ご指導を頂いたことがありました(こちら)。この問題が阪急トラベルサポート事件(東京地判平成22年7月2日(判例集未掲載))において、まさに論じられておりましたので、ご紹介まで。

 同事件は先日の拙ブログ(こちら)において紹介したとおり、旅客添乗員の事業場外みなし適用を肯定した上で、裁判所が「必要時間数が11時間」であったと認定し、法定労働時間との差額分3時間(1日あたり)の残業手当請求を認容したものであり、過去の裁判例・行政解釈と比較しても大変に特異な判断を示したものであり注目していました。

 同判決ではまず事業場外みなし労働は「事業場外での労働は労働時間の算定が難しいから、できるだけ実際の労働時間に近い線で便宜的な算定を許容しようという趣旨」とした上で、労働時間適正把握義務、4・6通達をひもとき、次のように指摘します。

 「みなし労働時間制が適用される「労働時間を算定し難いとき」とは、労働時間把握基準が原則とする前記アおよびイ(※筆者注 上司の現認およびタイムカード等の客観的な記録による確認)の方法により労働時間を確認できない場合を指すと解される」。

 そのように判示した上で「自己申告制による労働時間を算定できる場合であっても「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合があると解される」旨明言しています。その理由として「自己申告制・・を排除するとすれば・・事業場外労働であって、自己申告制により労働時間を算定できない場合は容易に想像できず、労基法が事業場外みなし労働時間制を許容した意味がほとんどなくなってしまうから」とするものです。また原告が事業場外みなし労働時間制は実労働時間算定原則の例外規定であり、限定解釈すべきと主張した点については「しかし、この制度が実労働時間算定原則の例外であるとしても、労働者は実際の労働時間に即した算定を主張することができるから、必ずしも厳格に限定解釈をするべきとはいえない。」
 
 従来の裁判例をみると、事業場外みなし制度は例外的な制度とし、限定解釈を行うことが通例でした。また自己申告によって労働時間数の把握が可能であれば、特段異論なく「労働時間を算定できる」と解し、事業場外みなし適用を否定してきたものであり、この点に本判決の大きな特徴があります。その上で原告に主張に答える形で本地裁は次のとおり答えます。

「また・・通信手段が相当発達しており、使用者は、労働者が今どこにいるかリアルタイムで把握することができ、思い立ったときには指示をし、報告を求めることができるから、事業場外みなし労働時間制は相当の僻地への出張など極めて限定された場合にのみ妥当すると主張する。」「しかし、電話やファクシミリなど必要な場合は連絡可能な設備が備え付けられている在宅勤務について、事業場外みなし労働時間制の適用があることを完全に否定することにもなりかねず、原告の主張は、採用できない。」
 その上で本判決ではあてはめにおいて、派遣先が貸与していた携帯電話が使用されていたか否かを検討し、いずれも本件においては「携帯電話により具体的な指示を受けたことはなかった」と評価しています。

 労基署どころか裁判所においても「ぶれ」が生じてしまった次第です。また本判決は濱口先生が指摘される「携帯電話の即応性」に答えるものではありません。もう少し理由付けを示していただきたかったところでありますが、本件は海外旅行の添乗員という性質上、日本国内から連絡がなされる可能性が低く、その点を考慮した事例判断と解する余地もあるやもしれません。

 いずれにしましても、同一会社のさほど事実関係が異ならない旅行添乗員(国外旅行の方が日程変更等の自由度が高いのは間違いないようですが・・)に対する事業場外みなし適用可否で判断が分かれておりますので、東京高裁にまとまった判断を示していただきたいところです。

 また同事件のニュースだけを見て、もう「事業場外みなし」の適用は法的リスクがないと思われた方もいらっしゃるやもしれませんが、仮に適用が肯定されたとしても、「必要時間数みなし」「賃金制度」の問題が残ります。本事件でも事業場外みなしの適用が肯定された一方、賃金制度の面で会社に厳しい判断が示されており、実質使用者側が一部敗訴しています。この問題については、事業場外みなしの適用可否のみならず、時間管理、賃金制度設計なども含めて対応策を検討していかなければならないことも、本判決が示唆するところです。


 

2010年7月23日金曜日

「スト続発!変わる中国の労働者」

昨夜のNHKクローズアップ現代で取り上げられていたのが「スト続発!変わる中国の労働者」(こちら)。大変、見応えのある番組でした。若い農民工たちの「より豊かになりたい」という強い思い、そして携帯電話・メールなどを用い、他社のスト情報を収集する姿が大変、印象的です。中国の地方政府も最低賃金の大幅増(前年比20パーセント増!)以外は静閑の姿勢を崩していないとの事。
企業側としても、ストライキ対応として色々な対策があるのでしょうが、中国における日本への感情のしこりがあるため、取れる対策に限りがあるように感じた次第。それにしましても、昨日のtvでは中国の正式な労働組合(工会)の存在感が薄かったですが、一体何をやっているんでしょうね。その点も大変気になりました。

2010年7月22日木曜日

改正派遣法案の動向ー前国会委員会審議にみる公明党とみんなの党の立場の近さー

先の通常国会における派遣法案の審議状況を確認しようと、衆議院hpの厚生労働委員会議事録を読みふけっておりましたところ、これからの派遣法案動向を左右する公明党、みんなの党の質問内容の近さに気がつきました(平成22年5月28日衆議院厚生労働委員会)。

公明党からは坂口力委員(前厚労大臣)が質問されていますが、そこで主に議題とされていたのが、派遣法規制強化による雇用市場全体への影響、とりわけ請負へのシフト化を前提とした請負会社の就労条件でした。政府側も請負会社に関する政府調査が十分に行われていない関係上、坂口委員の質問に十分に答えうるところではありませんでしたが、答弁によると概ね派遣社員と請負社員の労働条件に大きな相違性がないように思われました。

みんなの党は柿澤委員が答弁にたっていますが、そこでも指摘されていたのが、派遣規制強化による「請負へのシフト化」とこれに伴う当該従業員の労働条件低下への懸念でした。

同質疑からみると、9月以降の国会で改正派遣法案が審議される場合は、派遣規制強化に伴う「請負シフト化」への対応策が「国会対策上」も重要なポイントとなる可能性があるように思われます。

それはさておき、同委員会議事録をみておりますと、大臣答弁などで以下の注目すべき発言がみられます。改正法案が成立した場合は、通達、指針等の改正がすでに予定されているとみるべきでしょう(主に平成22年4月23日衆院厚生労働委員会議事録から)
・専門26業務の内容については再検討をおこない、登録型派遣の原則禁止(施行から3年以内)までに目処をつける
・常用雇用の定義から、日々雇用で1年以上の雇用見込みがあるものを除くこととする
・常用雇用の派遣労働者については、雇用契約書等で更新回数を明らかとするよう派遣元指針に明記し、指導。



2010年7月12日月曜日

みんなの党アジェンダにみる労働政策~派遣法案改正~

 昨日の選挙において、みんなの党が躍進しました。参議院の過半数を失った与党は今後、みんなの党を初めとした野党と連携を強めていくものと思われますが、同党の労働政策はどのようなものでしょうか。アジェンダをみると、以下の記述が見られます(こちら)。

2.格差を固定しない「頑張れば報われる」雇用・失業対策を実現する
原則として全ての労働者(非正規を含む)に雇用保険を適用。
同一労働同一待遇(賃金等)や正規・非正規社員間の流動性を確保。
雇用保険と生活保護の隙間を埋める新たなセーフティーネットを構築。雇用保険が切れた長期失業者、非正規労働者等を対象に職業訓練を実施。その間の生活支援手当の給付、医療保険の負担軽減策、住宅確保支援を実施。
民主党政権の「派遣禁止法案」は、かえって働き方の自由を損ない、雇用を奪うものであり反対。
景気や中小企業の経営状況を見極めながら、最低賃金を経済成長により段階的にアップ。残業割増率を先進国並みに引き上げ、サービス残業の取締りを強化(雇用拡大と子育て支援にも効果)。
ハローワークを原則民間開放。民間の職業紹介・訓練への助成を拡充。


 この中でとくに興味深いのが「民主党政権の派遣禁止法案」への明確な反対の姿勢です。改正派遣法案は次期国会において継続審議扱いとされていますが、みんなの党が明確に反対している状況では、現法案のまま可決成立する可能性は極めて低くなったと思われます。その一方、非正規労働者の格差問題是正に言及していますので、「派遣禁止」ではなく「派遣労働者の格差是正」には関心があるようです。

 同スタンスが今後の派遣法案改正に対して、どのような影響を与えるのか注目されます。

2010年7月10日土曜日

拙稿「専門26業務派遣における雇入申込み義務」労働法令通信掲載について

 労働法令通信(2010.7.8号)に拙稿「判例研究 専門26業務派遣における雇入申込み義務」が掲載されました(こちら)。

 三洋アクア事件を題材に専門26業務派遣における雇入申込み義務の解説を行ったものです。この問題は継続審議扱いとなった改正派遣法案と密接な関わりがありますし、また実務上も労使トラブルが増加傾向にあり、重要性を増しています。ご関心ある方はご一読いただければ幸いです。

 判例実務研究会の報告内容を掲載いただいたものですが、同研究会では判例法理・行政運用および実務対応双方の面で、毎回、活発かつ深い議論が展開され、大変勉強になっている次第です。

2010年7月6日火曜日

(安衛法改正)受動喫煙防止のための保護具?

 先日、拙ブログにおいて「職場における受動喫煙防止に対する検討会報告」を取り上げましたが、具体的な提言の中で次の記述が気になっていました(拙ブログはこちら)。

3 具体的措置
・ 一般の事務所や工場においては、全面禁煙又は喫煙室の設置による空間分煙とすることが必要。
・ 顧客の喫煙により全面禁煙や空間分煙が困難な場合(飲食店等)であっても、換気等による有害物質濃度の低減、保護具の着用等の措置により、可能な限り労働者の受動喫煙の機会を低減させることが必要。


 この「保護具の着用」が何を指すのかイメージできなかったのですが、他国(ここではカナダ)では本当に着用している例があるようで、びっくりいたしました。時事ドットコムの特集記事はこちら
 それにしても、マスク着用のまま、バーテンダーはシェーカーを振り、カクテルを作ってくれるのでしょうか。謎が深まります(笑)。

 また同時事ドットコムの特集記事の中の道庁編(こちら)は、思わず泣きました(笑)。

2010年7月5日月曜日

事業場外みなし労働をめぐる混乱(阪急トラベルサポート事件から)

 先週末、北大の社会法研究会で「阪急トラベルサポート事件」(東京地裁平成22年5月11日)の判例報告を行いました。旅行添乗員に対する事業場外みなし労働適用の可否等が争われた裁判例ですが、同判決では、みなし労働の適用を否定し、原告請求を全額認容しています(時間外割増賃金および付加金請求)。

 拙報告では、一部判旨に疑問を指摘するものの(携帯「所持」を否定要素とした点および飛行機搭乗中の労働時間性など)、概ね結論・理由を支持する報告を行いました。その席で先輩会員から「今朝の新聞に、同じ会社で事業場外みなし労働の適用を肯定した判決が登場した」とご紹介を受け、驚愕。

 慌ててインターネット検索をしたところ、確かに同判決が出たようです(時事通信社 こちら)。
添乗員みなし労働は妥当 HTSに逆の司法判断

 阪急トラベルサポート(HTS、大阪市)から「事業場外みなし労働制」の適用を理由に残業代を支給されなかったとして、派遣添乗員の女性が計約44万円の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁は2日、適用を妥当と判断した上で約24万円の支払いを命じた。

 事業場外みなし労働制は労働基準法で定められ、会社の指揮・監督が及ばず、労働時間の算定が困難な場合に一定時間働いたとみなされる。HTSをめぐっては5月に、別の添乗員の訴訟で東京地裁の別の裁判官が適用を否定する判決を出しており、判断が分かれる形となった。

 田中一隆裁判官は「原告は単独で業務を行い、旅先に到着後も会社に必ず連絡して指示を受けたりはしていない。日程も大まかで変更などもあった」と指摘、労働時間の算定が困難な場合に当たると判断した。

 その上で1日のみなし労働時間をHTS側の主張と同じく11時間と認定。労働基準法に基づき8時間を上回る3時間分と休日労働については時間外の割増賃金計約12万円、さらに同額の付加金も併せて支払うよう命じた。

 判決によると、女性は2007年12月~08年1月にかけ、ヨーロッパへの二つのツアーに参加した


 私が報告した事件は主に国内ツアーが中心(JR、バスなどを主として利用)でしたが、上記事案は国外ツアーの添乗業務に対する事業場外労働みなしが争われていたようです。

 上記2事案がかくも結論を異にしたのは、事案の相違性か(国内と国外の違い?)、あるいは事業場外みなし労働に係る規範とそのあてはめに起因するものか。東京地裁平成22年7月2日判決を早く確認し、分析したいところです。