2010年8月12日木曜日

行政調査・指導・罰と刑事告発の関係性~証券等監視委委員長コメントから

 asahi.comの「法と経済のジャーナル」に証券等監視委の佐渡委員長インタビューが掲載されています(こちら)。

 佐渡氏の前職は検察官であり、金丸事件捜査などを担当されたとの事。当時の捜査、そして政治資金絡みの案件に対する興味深いコメント、経済事件における暴力団の暗躍(まさに「レディ・ジョーカー」の世界)など非常に読み応えあるインタビュー記事ですが、個人的にとても興味深かったのが、証券等監視委員会における行政調査・指導と刑事告発等案件の関係です。

 同委員会が設立されてから佐渡委員長が就任するまでは、内部告発案件などの貴重な情報を刑事告発等を担当する出向検事等が情報を囲い込んでしまい、行政調査・指導のセクションにうまく同情報が流れていかなかったとの事です。これを佐渡委員長が内部告発等の情報の流れをかえ、行政調査・指導担当部署に流し、調整することにしたようです。

 また同委員会は行政権限を拡充し、「課徴金」などの行政罰を充実させ、これと刑事罰の棲み分けを行う取組みを進めているとの事(以下コメントのとおり)。

「カギのひとつは課徴金だね。むしろ課徴金を活用することによって、犯則手続で処理すべき案件との境界線が明瞭になってきた。それまでは、課徴金で処理してもいいような事件まで検察に持ち込んでいた。なんでこんなものを持ち込んでいるんだ、とやめさせたケースもある。そんなものを犯則でやろうとしたら、検察との間でいろいろ議論になるに決まっている。そういうことでもごたごたしていた。犯則事件として取り掛かった以上は何とか告発したいという発想になっていた」

 「いまは、情報を、その情報処理に合った部門に適切に配転し適切に処理するようになった。だから、いまは、犯則で持ち込む事件はまったく問題がなくなった。課徴金をうんと活用してもらった方がいいんだ」


 この問題は労働・社会保障分野における行政権限と刑事罰との関係を考える上でも、大変に示唆的であるように思えます。労働基準法の罰則規定をぱらぱら読み直して、改めて感じる次第。

2010年8月11日水曜日

iPad書類管理に関する好解説

 iPadを用いた書類管理について、大変参考になる解説が日経ビジネスonlineに紹介されています(こちら)。

 この中で個人的に大変参考になったのが、iAnnotate PDFの活用法。前から使っておりましたが、ペンでの日本語表記がうまくいかず、ストレスの素でした。

 それが同解説を読むと「ポイントは、文字を書くときに表示をできるだけ拡大すること。倍率を上げて、余白に文字を大きく書こう。大きすぎると思っても、本来の倍率に戻すと、適度な大きさになって読みやすくなる。

 う~ん、こんな簡単な方法ですらすらと日本語がうまく書けるのですね。これは目から鱗でした。更に同アプリの使い勝手が良くなりそうです。

2010年8月6日金曜日

拙稿「派遣・請負をめぐる動向とビジネスチャンス」SR19号掲載の件

 「開業社会保険労務士専門誌 SR」(日本法令)の最新号(8月5日発売)に拙稿「派遣・請負をめぐる動向とビジネスチャンス」が掲載されました(こちら)。
 最近の派遣・請負をめぐる法動向と社労士が提供しうるサービス内容(一例に過ぎませんが)を解説したものです。ぜひご覧いただければ幸いです。

 また同誌には敬愛する田代英治先生の「トータルコンサルティング編」など参考になる実務解説が多く掲載されており、参考になりました。他の先生のお仕事ぶりを知ることは、良い刺激になりますね。

2010年8月5日木曜日

有期雇用チェックリストの執筆について1

毎年8月は「宿題」を自らに課すことにしていますが、今年は「有期雇用チェックリスト」(仮題)の執筆をまず第一の課題としました。

パート・アルバイト・契約社員など様々な有期雇用が企業各社において広く活用されていますが、顧問先等からのご相談を伺っていても、有期雇用管理をめぐるトラブルが非常に多いように思われます。

例えば、雇用契約書一つ取ってみても、例えば24時間365日営業のサービス業において、労働日・労働時間を毎月(あるいは1週〜4週)のシフト票で確定しているケースなど、「始業・終業」「休憩」「休日」を如何に明記すべきでしょうか。同じく、月によって営業時間、要員配置が異なり、労働時間数段が上下変動する可能性が高い場合なども、この「雇用契約書」の作成一つが実のところ容易ではありません。

この点について、特に配慮なく、既製の契約書(正社員用)等をそのまま有期雇用社員に用い、後日トラブルが生じる例が最近、増えているように思われます。

これらの問題に対して、ケーススタディと参考にしていただける契約書式等をお示しできるものを、ぜひ作ってみたいと考えております。現在のところ、まだ道なかばではありますが、今月中にめどをつけたいと考えている次第。このブログでも執筆の進捗状況を経過報告することをもって、自らに鞭打つつもりです(笑)。




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2010年8月4日水曜日

セクハラ・パワハラ調査機関判断の意義とは? 京大セクハラ事件の報から

 今朝の共同ニュースに大変、難しい問題が報じられています。
「女子大生が京大提訴 教授セクハラにも大学は「訓告」」(こちら)。

京都大経済学研究科の男性教授からセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)を受けたという女子学生の申告に、京都大の調査・調停委員会が7項目の不適切行為を指摘して懲戒相当と判断したのに対し、経済学研究科が2項目しか認定せずに訓告処分としていたことが、3日に分かった。女子学生は「関係者の影響力を排除し、全学の教職員による公正な手続きを保障した委員会設置の趣旨に反する」などと主張し、大学に約465万円の損害賠償を求めて京都地裁に提訴した。

 訴状によると、京大の人権委員会ハラスメント専門委員会は2008年5月、女子学生の申し立てに基づき、複数の学部の5教員で構成する調査・調停委員会を設置した。同委員会は09年9月に(1)「大学院をやめてしまえ」という趣旨の発言(2)論文指導の拒否(3)飲食に付き合わせて体を触り、自宅に誘った-など7項目を「不適切な言動」と認め、「経済学研究科は懲戒手続きを開始するのが相当」と結論付けた。

 これに対し、経済学研究科は今年3月、(1)と(2)のみを認め、教授を訓告処分とした。

 京大は「対応を検討しているところです」とコメントし、調査・調停委員会と経済学研究科の判断が異なったことについては「処分内容は一切言えない」としている。


 同記事では調査・調停委員会の判断が、その後の学部教授会の人事権行使にどのような意義を有するのか、特に報じられていません。恐らくは「諮問」的な役割を持たされており、懲戒権含む人事権行使の判断は教授会に委ねられていたのではないでしょうか。

 人事権者が調停委員会における諮問内容のとおり、人事権(事実認定の上で懲戒権を行使)を行使しなければならないかどうか。この問題が裁判所において争われることになりそうですが、調停委員会判断に対し、規則等でどのような法的効力を付与しているのかがポイントになるように思います。

 会社によっては、パワハラ・セクハラについて、相談・調査機関を人事部門と別に設置する例が見られますが、同機関の判断をどのように位置づけるか規程等で明確化していないと、同種問題が争われる懸念がありますね。

2010年8月2日月曜日

事業場外みなしの典型的否定例?~某省大臣答弁から~

厚生労働大臣の記者会見(厚労省HP)を眺めておりましたら、以下のような興味深いご答弁がありました。

(記者)
 それに関連してですが、厚生労働省は以前から残業が非常に多い役所として有名だったのですが、新しい体制になって更に残業が増えたというデータが組合の調査で分かったのですが、これまで残業を減らすような努力を政務三役でされていたのか、もしもそうでなければこれからそういうことを考えて行くことがあるのか教えてください。

(大臣)
 そのアンケートを私も詳細には拝見しておりませんが、労働組合がやって厚生系は横ばい、労働系は残業時間が増えているという結果が出たということです。昨日も幹部と話をいたしましたが、労働系は新たな雇用施策を矢継ぎ早に打ち出しているのでその影響もあるのではないかということです。いずれにいたしましても、残業時間というのは多いと私も思っておりまして、我々も担当部局に改善を指示をして取り組んでいるところです。一番業務として指摘をされるのが、国会待機の問題があります。それについてはいちいち待機をしないでも、メールで連絡が常に取れる体制であればいいとか、いろいろ各部局で帰りの施錠時間を少しでも短縮しましょうということで、その目標を朝礼でも各部局から出していただいてどうすればいいのかという議論もしているところです(以下後述)。


 各部局で施錠がされた後、「メールで連絡が常に取れる体制」で、案件によっては即戻り執務に就くという状態は、労働法上、どのように評価されるのかは大変、気になるところではあります(今回問題となっている国家公務員(非現業)に労基法が適用されませんので、労基法の労働時間規制を論じる実益は実のところないのですが、国家公務員法上はどのように評価されうるのかも興味深い問題です)。濱口先生が懸案されていた事業場外みなし労働対象者に対する「携帯所持」も、まさにこのような状況での運用を指摘されていたのではないかと感じた次第です。

 なお大臣の以下の答弁続きは、全く正論だと感じました。この正論をいかにして実現していくかが、かねてから問われている訳ですが・・・。
必要のない業務、そして、無駄な事業をなくして行くことが重要でして、ある意味では省内事業仕分けを通じても無駄な事業をなくすことは職員の負荷も軽くなりますし、税金もそこで助かります。また、不必要な天下り団体があることで、そこで流れる金もありますし業務も付随して参りますので、それについて厳しくメスを入れて行くことで適正な業務量にして行きたいと思います。その一方で、部局間のばらつきも感じておりまして、法案を抱えている部局はその時期集中して忙しくなります。当初私も感じましたのは、縦割りでなかなか人がスムーズにそこに集中して、ある意味で助っ人として支援が回らないということもありました。それは我々も改善をすべく法案が集中する部局には、出来る限り人が回るような形をこれまでも実践して来ておりますので、そういうことを通じて少しでも改善する必要があります。
 もう一つは人材が不足している部分もありますので、社内の研修制度も充実して的確に業務が出来るような体制、今は部局の基礎知識がなく人事異動で放りこまれて、オン・ザ・ジョブ・トレーニングと言えば体裁はいいのですが、なかなかそこで業務がスムーズに行かないということもありまして、圧倒的に厚生労働省は研修が不足しておりますので、そういうことを含めて役所文化を変えることは、国民の皆様にとっても税金の無駄遣いがなくなるということでしょうし、職員の皆様にとっても不必要な業務がなくなるということですので、それについてはきちんと説明をしながら取り組んで行きたいと思います。