2010年9月22日水曜日

細川厚労大臣の決意表明? 臨時国会における改正派遣法案の動向

 来月10月1日からの臨時国会開会が本決まりとなりました。人事労務畑では改正派遣法案の動向が気になるところですが、細川律夫新厚生労働大臣は今朝の日経新聞インタビューにおいて、改正派遣法案の成立に意欲を示しています(こちら)。

細川律夫厚生労働相は労働者派遣法改正案について「雇用のセーフティーネットを考えれば、どうしてもやらなければならない法案だ」と述べ、次の臨時国会での成立を目指す方針を示した。同法案は製造業派遣の原則禁止などを盛り込んでおり、先の通常国会で継続審議になっている。

 審議未了となった先の国会においても、派遣法案に関する国会答弁は主に細川氏が担当されていました(当時 副大臣)。また労働契約法等の修正にも携わった経緯等からも、民主党内にで労働法分野の第一人者と目されるところと思われますので、上記ご発言も当然かと。

 問題はいうまでもなく参議院における与野党合意の難しさですが、この点を踏まえて、法案修正に応じるのか、応じるとして、いかなる修正がなされるのか。臨時国会における審議状況が注目されるところです。

2010年9月21日火曜日

有期労働契約研究会報告書の公表について

 厚労省は先日(9月10日)、有期労働契約研究会報告書を取りまとめ、公表しました(こちら)。

 明日(9月22日)、弊事務所主催で三鷹労働法セミナーを開催いたしますが、同日のテーマとして、この有期労働契約研究会報告書の解説を予定しております(こちら 若干の空席有)。

 厚労省は今後、労働政策審議会で1年かけて有期雇用法制の在り方について審議を進め、平成23年度通常国会(再来年1月以降)での法案提出・成立を目指しているようです。同報告書において、とりわけ注目されるのが、有期雇用の締結事由あるいは更新回数・利用可能期間に対する規制の在り方に係る記述です。

 今後の法案動向を探る上で、同報告書の検討は不可欠であることは間違いのないところです。

2010年9月17日金曜日

パワハラ問題と労働組合の対応~ある裁判例から~

 濱口先生ブログの「職場の組合はどこへ行った?」(こちら)を拝読し、あるパワハラ裁判例を思い出しました。

 A生命保険ほか事件 東京地判平成21年8月31日(労判995-80)。

 同事件は試用期間満了前に解雇(本採用拒否)された中途採用社員が、会社に対して解雇無効・地位確認等を行うとともに、労働組合の書記長に対して民事損害賠償請求を提起したものです。

 同損害賠償請求の理由として、原告側が挙げるのが「労働組合に上司等からの嫌がらせについて相談したが、解決につながるような特段の措置を講じなかったこと」です。これが債務不履行(原告と労働組合書記長間)にあたるとして、慰謝料20万円の請求を行っています。

 これに対して同地裁判決では会社側に対する請求を斥けるとともに、組合書記長に対する訴えについては「被告D(書記長)は、原告から本件組合の書記長としての対応を求められたのであって、個人としては、原告との間で何らかの契約法上の法的義務を負うことはない」とし、こちらも請求棄却しました。

 上記判示部分を見ると、書記長個人はともかく、労働組合と組合員の間において、適切にパワハラ等の相談に対応しないことが債務不履行(そもそも組合と労働組合員との間に如何なる債権・債務があるのかが問題)に該当する余地があるか否かは判断されていません。今後の検討課題ではないかと感じるところです。

2010年9月16日木曜日

改正労働安全衛生法案の検討項目

 昨日(9月15日)、厚労省において労働政策審議会労働安全衛生分科会が開催されました。同日の主なテーマな労働安全衛生法の検討項目。来年1月からの通常国会での成立を目指し、労働安全衛生法の改正案策定が本格化したものです(改正に向けた検討項目はこちら)。

 今回の改正において、とりわけ注目されるのが、職場における受動喫煙防止対策とメンタルヘルス対策です。詳細については、今後の審議会での議論さらには国会での審議等に委ねられる訳ですが、昨日の議論を傍聴し、今後の議論の焦点になると感じたのが次の点です。

受動喫煙防止対策 
・レストラン・居酒屋等における受動喫煙防止のための施策をどのように設計するか。
・履行確保手段として、いかなるものを想定するのか(刑事罰を背景とした労基署の監督指導、刑事罰を背景としない指導、またはガイドラインにとどめるか)。

メンタルヘルス対策 
・パワハラ等のメンタルヘルス問題予防のための対応をどうするか(審議会では、分科会で検討はするものの、労働条件分科会等での議論が適切との事務局見解あり)
・1年1回の定期健診による問診をもって、実効性のあるメンタルヘルス対策が可能であるのか(使用者側委員からの質問)
 確かに同質問のとおり、今回のメンタルヘルス健診案は、その目的と実効性が今ひとつ判然としません。これに対して、事務局側はメンタルヘルス健診の目的を「疾病の発見よりも、従業員本人の気づきを促すこと」等と説明していました。

 従業員の気づきを促進する方法として定期健診の活用が適切か否かが、今後の大きな検討課題になりそうです。

2010年9月14日火曜日

地域別最低賃金(平成22年度) 各都道府県答申まとまる

 厚労省HPに平成22年度地域別最低賃金の答申状況がUPされています(こちら)。

 本日段階、多くの都道府県では答申に対する異議申立手続きを進めており正式発効していませんが、今月中には概ね同内容で決定するものと思われます(本日段階での決定状況はこちら)。

 個人的には長らく住み、愛着ある北海道の金額がどうしても目を引きます。ドライブ途中に寄った札幌市外のコンビニ等にも、当然に道地域別最低賃金額が適用されることになりますが、大丈夫でしょうか。もちろん生活保護費との均衡含め様々な考慮要素を基に公労使が審議を重ね答申が示されたものですが、なかなか厳しい印象を受けました。とはいえ一度決められたものは当然ながら守られなければなりません。最低賃金法の施行は年々、厳しさを増しています。

2010年9月9日木曜日

メンタルヘルス対策のための外部専門機関とは?ー事業場における産業保健活動の拡充に関する検討会の発足

 メンタルヘルス健診が論じられた当初、拙ブログにおいて次の指摘をしたことがありました(こちら)。

特に、メンタルヘルス不調者の把握及び対応においては、実施基盤の整備が必要であることから、これらについて十分な検討を行う。

同報告書において的確に指摘されているとおり(太字部分)同問題は実施基盤の整備が重要ですが、その際、何よりも相当数の精神医学に精通した産業医・保健師・産業衛生スタッフの養成が不可避です。労使ともに、実のところ、メンタルヘルス問題について安心して相談できる産業医学の専門家を心待ちにしており、まず厚労省も基盤整備に優先して取り組んでいただきたいと思うところです。 


 メンタルヘルス対策検討会報告書においても、同問題意識が共有されており、次の提言がなされていました。
メンタルヘルス対策を新たな枠組みで行うことが適当であるが、
・ メンタルヘルスに対応できる産業医の数は十分でない、
・ 嘱託産業医は専ら産業医の業務を行っていない状況等を踏まえると十分な対応が困難な場合もある、
・ 精神保健分野等様々な分野の複数の産業医を選任した場合に多くの経費を要する
等の問題が指摘され、メンタルヘルスに対応できる産業医等で構成される事業場外の組織(外部専門機関)を整備・育成し、メンタルヘルス不調者への対応等に関する産業医の職務を効率的かつ適切に実施可能とすることを検討することが必要である


 外部専門機関の整備・育成とはどのようなことを想定しているのか、よく分からなかったのですが、厚労省は同問題を検討すべく、新規に研究会を立ち上げるようです(こちら)。

 特に「事業場外組織の満たすべき要件について」などがどのように議論されるのか、注目されるところです。

2010年9月8日水曜日

健康診断の適用対象労働者拡大?ー職場におけるメンタルヘルス対策検討会報告書から

 「職場におけるメンタルヘルス対策検討会報告書」(こちら)を読み進めていたところ、次の記述が目につきました。

カ 健康診断の対象労働者の拡大
メンタルヘルス不調に影響を与えるストレス等の要因への対応が幅広く実施されるようにするため、健康診断の対象となる非正規労働者の範囲の拡大について別途検討が必要である。


 これをどのように読むべきでしょうか。短時間労働者に対する定期健診の取扱いについて、現行法では以下の取扱いとされています(愛知労働局HPの解説はこちら)。

 1年以上の雇用見込みがある者(有期でも見込みがあれば対象)で、かつ1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること

 上記研究会報告はそもそも定期健診等の適用対象拡大を検討課題としているのか、あるいはメンタルヘルス健診に限って適用対象を拡大しようとしているのか定かではありませんが、いずれにしても、適用対象者の拡大は企業にとって相応のコストと準備を要します。この点について、これから始まる労働政策審議会でどのように審議が進められていくのか、注視しておく要がありそうです。

2010年9月7日火曜日

職場におけるメンタルヘルス対策検討会報告書に対する実務対応上の疑問

 厚労省HPに「職場におけるメンタルヘルス対策検討会報告書」がUPされました(こちら)。定期健診時に医師が問診を行った際、労働者のストレスに関連する症状・不調を確認し、必要と認められるものについて医師による面接を受けられるしくみを導入すること等が提案されています。今後は同研究会報告を基に、労働政策審議会で審議が開始され、来年の通常国会に改正労働安全衛生法案が提出される見込みです。

 すでに濱口先生がブログで迅速にコメントUPされておられますが(こちら)、当初同問題に関し懸念していた「労働者のプライバシー」については、以下のとおり相当配慮した形で報告書が取りまとめられています(拙ブログでの指摘はこちら)。

・医師は労働者のストレスに関連する症状・不調の状況、面接の要否等について事業者に通知しない

・医師による面接の結果、必要な場合には労働者の同意を得て事業者に意見を提出

 ざっと見た限り、企業における実際の運用に際して、以下の点に疑問が生じました。法制定の際には、そのうちの幾つかはクリアになるとは思いますが、さしあたり疑問点を挙げます。

1 定期健診を実施した医師が面接の要否等を直接、労働者に連絡することとされたが、その方法をどうするか(従来の定期健診の結果通知は医師→会社→労働者本人ルートで問題なし。医療機関等が直接本人宛送付している事例有)。

2 面談する医師を会社側があらかじめ指名しておくこととされているが(産業医をイメージしている模様)、同医師は精神科医でなくても良いのか(恐らくは良いとするのでしょうが、外科医・内科医の産業医が実際に実効性のある(※提案趣旨からすると自殺予防含む)面談を行うことができるか否か)。

3 同面談に対する費用負担は会社若しくは本人(会社との折半など)、あるいは労災保険・健保による負担が想定されているのか(健保の場合、自己負担分があるのか否か)。会社が負担する場合、「通知しない」こととの整合性を如何に保つか。

4 労働者側が同面談の受診拒絶、又は同面談に伴う意見提出を拒絶した場合、何らかの法的影響があるのか否か(安全配慮義務、労災の業務上外判断等)。

5 上記改正案によって、会社側の安全配慮義務又は労災の業務上外認定判断に何らかの影響がありうるのか。

 4、5については法改正がなされた後の判例法理の動向を見守る他ないところではありますが、大変に気になるところです。また1~3は企業が実務対応する際、必ず問題となる点と思われます(すでに研究会の中で議論されているところとも思われますが)。

 今後の労働政策審議会における議論が注目されます。

2010年9月1日水曜日

東京都最低賃金引き上げの答申と企業実務対応上の準備

 8月末、東京地方最低賃金審議会が東京労働局長に対して、東京都最低賃金額の引き上げを答申しています(こちら)。

 本年度地域別最低賃金(791円)から30円引き上げて、821円
 発効は平成22年10月24日

 昨年であれば答申が8月5日、その後の公示手続き等を経て8月31日付けで局長決定、翌日官報掲載の上で、10月1日付け発効でしたが、本年は中央最低賃金審議会における地域最低賃金額目安の答申が8月6日(こちら)であり、その分、地域別最低賃金審議会の答申・公示手続き・決定・発効予定時期が遅れているものです。今後の流れとしては、公示手続き等の上、9月24日前後に局長決定・官報掲載、10月24日発効が考えられます。

 1時間あたりの時給単価が30円増ということですが、1ヶ月の所定労働時間が1ヶ月173.8時間(ほぼ法定労働時間)、年間労働時間数2085時間で算出した場合、月額賃金で5214円、年間で62550円の引き上げ額になります。

 同引き上げを前提に、パート・アルバイト社員の時給見直しの準備を今から進めておく要がありますが、それとともに注意しておきたいのが、月額給与の対象者です。最近、正社員とともに契約社員に対しても月額給与を導入している場合が多いものですが、ここ数年の大幅な最低賃金額引き上げの結果、月額給与の設定額によっては、最低賃金割れを起している懸念があります。

 東京都に限ってみると、平成18年度地域別最低賃金額が719円であったところ、この4年間で100円以上の引き上げがなされることになります。特に契約社員等に係る初任月給額が821円の時給単価を下回る可能性がないか、再確認しておく要があるものです(月所定労働時間が173.8時間とすれば、単純計算で月額給与が142、690円以上である要有。対象賃金等については以下URL参照)。

 チェックの方法については、厚生労働省HPが参考になります(こちら