2008年11月29日土曜日

WLBと労使自治~育介法改正論議から~

 昨日、厚労省労働政策審議会雇用均等分科会を傍聴しておりました。育児介護休業法改正案についての審議が山場を迎えています。審議会は予定調和的なものが大半ですが、さにあらず。労働側が席を立つそぶりをみせたり、あるいは公益委員と事務方が叩き台の解釈について、やり取りするなど、傍聴者としては、聞きごたえ十分の審議会でした(笑)。
 その場で、個人的に最も聞き耳を立てたのは、表題の労使自治と育児介護休業法の両立支援との関係です。現行の育児介護休業法では、労使協定を締結することによって、専業主婦(夫)がいる従業員からの育児介護休業請求権を失わせることが可能とされています。大半の企業では、労使協定を締結し、これらの権利行使を排斥しているものですが、今回の改正法では男性の育児参加を促進するべく、同適用除外を撤廃する方向で叩き台が示されています。
 
 同日、使用者側委員からは、労使自治を尊重する立場から、法による「撤廃」は望ましくないのではないか、従来どおり労使で話し合いの上で、認めるか否か決すればよいのではないかとする意見が示されました。

 これに対して、公益委員の樋口先生が以下のような趣旨で見解を述べられました(近日中に厚労省HPに議事録が掲載されるものと思われます。以下は私のメモからまとめた要旨です)。

 (佐藤先生からの育児介護休業法を取り巻く環境が大きく変わっているとの趣旨の発言を引き取った上で)
 専業主婦(夫)を有する配偶者が育児休業を取り、子育てに参加したいという個人的な願いを、集団的な労使協定で排斥することには限界があるのではないか。労使自治は当然、大切ではあるが、それも法の枠内にあるものではないか。

 労働法学では、以前から労働協約の規範的効力の限界が論じられてきました。樋口先生のご見解は、その際の議論(西谷敏先生など)を思い起こさせました。近年の労働法制は高齢者雇用延長制度など、労使協定を様々な形で絡ませる傾向があります。今回の育児介護休業法改正の議論は、これに対する反省をもたらす可能性があるのか関心を持ちました。

 育児介護休業法改正案については、次回の審議会で事務方から「素案」が示される見通しです。昨年とは一変して、なかなか調整に難航しそうな雰囲気を感じた次第です。
 
 

2008年11月27日木曜日

映画「スワロウテイル」再見

 岩井監督のデビュー当初、食わず嫌いのわたくしは同作品を意識的に避けていました。まずもって邦画であるにもかかわらず、洋画エンディングの如く、キャストをローマ字表記横書きで出すところからして、鼻もちならん人と思っていました(笑)。

 それが社会人となり、友人から岩井作品を薦められてからは一転、岩井さんの最新作がかかるとなると、真っ先に映画館に駆けつけるようになってしまいました。岩井監督も私のいちゃもんを知ってか知らずか(知りません!)、「四月物語」では邦画らしく、漢字縦書きでキャスト紹介されたので、更に好感UPしたものです。

 ここ最近は「市川崑物語」などの小品を除いて、岩井監督の最新作がご無沙汰で少々、さびしい思いをしています。そのためか、ビデオ屋に寄っては、過去の岩井作品を借り出し、何度目かの再見を繰り返している今日この頃。先日は「スワロウテイル」を見返してましたが、今だに面白い。同作品の核はやはりYEN TOWN BANDの「Swallowtail Butterfly」。charaの歌声を聞くだけでも、わたくしなどは涙腺がゆるみっぱなしで、それだけでこの映画をみる価値があります。また再見で初めて魅了されたのは、三上博史さん演じるフェイホンという人物。初見の際は、全く同人物に感情移入できませんでしたが、四捨五入すると40になる年を迎えたせいからか、同人物の抱く夢や、その人間的弱さに強く惹かれるものを感じた次第。彼がcharaの看板を見上げるシーンがまたいいのです。公開時の「フジTV大量動員商法」に嫌悪感を覚え、避けてとおった方にこそ、強くお勧めをしたい映画の一つです。それにしても月並みですが、お金は怖いものですね。ちょうど岩井さんが売れ出した頃に撮られた作品であるからか、お金への違和感がとても素直に表現されていて、しんみりさせられました。最後に同作品に出ている伊藤歩、光石研、塩見三省、田口トモロウなど多くの出演者が今現在、活躍されていることが嬉しいですね。岩井さんの目の確かさを再認識させられるところです。

2008年11月24日月曜日

今年の仕事(執筆・セミナー)棚卸中の誓い

 少々早い感もありますが、ブログ開設等に伴い、この3連休に今年の仕事の棚卸をしています。まずは「セミナー講演」と「執筆」この二つのみに絞って整理をしてみました(ブログ右欄下部に掲載)。

 概観してみると、会報執筆はバラエティに富んでおります。飲酒運転に対する懲戒処分から、就業規則周知、派遣問題など、なんでもありです。これ1本書くことはなかなか労多く・・・ですが、筋力トレーニングの一種と言い聞かせながら、汗をかいています(笑)。おかげさまで、だいぶ「筋力」とその稼働範囲が広がってきた気がしております。

 セミナー講演は数えてみると、40回程度やらせていただきました。テーマについても、これまた改正パート法、名ばかり管理職問題から、退職勧奨、労働行政など幅広い内容で講演させていただいています。いずれの講演も聴講者の方々には、ご清聴いただいた上、セミナー終了後、有益な示唆を数多く頂き、感謝に堪えないところです。

 この棚卸中、はたと気がついたのですが、実務担当者向けの労働法関係の良書はいずれも、セミナー後の質疑応答をうまく取り込んでいます。例えば安西愈先生の「労働時間・休日・休憩の法律実務」を読み返していると、安西先生とセミナー参加者の息遣いまでが聞こえてくるような気がするほどです。だからこそ、実務家が読んでいて「役に立つ」と感じられるものになるのでしょう。私も将来的には、そのようなものを作っていきたいとの念を強く致しました。まだまだ筋トレが足りないようではありますが・・。(その前にメタボ対策をしろなどと、忘年会シーズン前に無慈悲なことを仰らないよう切に希望します(笑))。 

2008年11月21日金曜日

退職手続きの違法性再論

 今週は先日ブログに書いたゴムノイナキ事件を別の場で2回、お話をさせていただく機会を得ました。どちらの機会ともに、参加者の方から有益なご示唆を頂くことが多く、ありがたい思いを致しました。

 その中でも実務経験豊富なベテラン社労士の先生からの示唆が大変、勉強になりました。同先生のお話によれば、労使間で対立が生じる可能性のある離職事由については、離職票に「勧奨退職」とのみ記載し提出するケースが多いとのことです。この記載であれば、ハローワークも特に異論なく「特定受給資格者」と取扱うこととなり、労使双方も大半は丸く収まるとのこと。

 この離職事由において、例えば「勤務成績不良を理由とした退職勧奨による退職」などと会社側が記載をしますと、それを受け取った従業員は当然良い顔をしませんし、ハローワークも対応に苦慮することになります。先日、私がハローワークに正面から確認した際、担当者が困惑してたことが思い出されます。実務処理の本流を知ることができ、大変ありがたい思いをいたしました。

 おそらく実務では大半が問題なく手続き処理されるのでしょうが、まれにトラブルが生じることがあります。そのまれなトラブルを解決することも、法の大きな役割だと考えています。その意味では、ゴムノイナキ事件判決に対する批判的検討の重要性は損なわれるものではないと思うところです。

2008年11月16日日曜日

社労士としてどのようなサービスをご提供できるのか?

先日から、私が企業人事を中心としたお客様にどのような社労士業務のサービスを提供できるのか考えています。さしあたり「今、ご提供できると思われること」を書き出してみました。未登録・未開業者の妄想にすぎないものですが・・・・。

1 労働基準監督署対応支援として
(1)労働基準法対応として
 ①労働基準監督署からの臨検監督準備および立会支援
 ②同監督指導後の是正対応支援(担当者との調整、是正報告)
 ③是正報告後のフォローアップ(是正報告内容の定着)
 ④36協定ほか各種届出・許認可作成・届け出代行・支援
 ⑤内部労務監査支援(各事業場パトロール、事前点検実施)
(2)労働安全衛生法対応として
 ⑤労働災害発生防止体制構築支援(安全・衛生管理体制構築等)
 ⑥労働安全衛生監督指導の準備・立会、是正対応支援
 ⑦安全衛生内部監査支援(各事業場パトロールほか)
 ⑧労働安全衛生是正後のフォローアップ

(3)労災対応として
 ⑧労災手続きの支援・手続き代行
 ⑨労災調査への準備・立会支援
 ⑩労働者死傷病報告書作成の支援・代行

2 就業規則作成・点検業務
 ⑪就業規則の新規作成・届け出業務
 ⑫既存規定点検および変更作成・届け出業務
 点検例)法改正対応、長時間在社・労働防止、休職・復職対応ほか
 ⑬就業規則施行後の周知(説明会等)、内部点検支援

3 労務案件個別相談・対応支援(労働局斡旋制度代理は特定資格取得後開始予定)
 ⑭募集・面接・内定・試用間の労務問題への助言・対応支援
 ⑮採用後生じる労務問題への助言・対応支援
 例)長時間労働、休職・復職、パート等雇用管理、パワハラほか
 ⑯雇用関係終了をめぐる労務相談への助言・対応支援
 例)退職勧奨、整理解雇、普通解雇、懲戒解雇その他

4 各種社内研修セミナー・新法動向等情報提供

 つらつらと書きだしてみましたが、これらをもう少し分かりやすくお示ししていく必要性を感じます。また他の労働行政(派遣請負、パート法等)はもちろん、社会保険・社会福祉分野に仕事を広げていきたいです。将来的には、労働保険・社会保険の支給請求、不服審査請求の経験を積み、社会保障法分野においても、一定の貢献ができるようになりたいものです。

2008年11月12日水曜日

労働契約法@松本講演(有田社労士主催)

 長野県松本市の有田社労士にお招きいただき、「労働契約法施行に伴う就業規則の規定と運用点検セミナー」を峰隆之弁護士とともにご講演させていただきました。この講演に備えて、久し振りに労働契約法を勉強しましたが、勉強すればするほど味が出る「するめ」のような法律(もちろんいい意味!)であることを実感しました。

 たとえば労働契約法7条、10条の但し書きで就業規則と特約を定めた個別契約との関係が定められています。一言でいえば、その特約は最低基準違反(就業規則)でない限り、優先させる旨の規定です。一見、当たり前のことが定められており、特段論ずべき問題がないようにも思えるところですが、さにあらず。例えば中途採用社員について、賃金その他労働条件を他の正社員と異なる厚遇で迎え入れることがあります。この場合、その者のために就業規則を別に定めることはなく、個別労働契約で済ませることが多いのではないでしょうか。

 景気あるいは本人業績が順調であれば何の問題もありませんが、最近のような急速な経済環境悪化に直面した場合、一般の正社員はもちろん、中途採用社員も含め、賃金等の引き下げを検討せざるを得ない局面が生じることとなります。この場合、一般の正社員については、就業規則の変更が合理的であり、かつその内容が周知等されているのであれば、変更内容が労働契約の内容となることが労働契約法10条で確認されています。

 それでは特約を結んだ中途採用社員の労働条件を就業規則変更で行うことができるのでしょうか。これについて、前述のとおり契約法10条但し書きが特約を優先する旨、規定していることから、就業規則変更による一律的対応が取れないということになります。

 そのような問題が生じることを念頭に置きながら、中途採用社員等の個別契約管理を周到に行うことを、労働契約法が求めていることになります。労働契約法の奥深さがわかる一例です。

 その他、労働契約法には様々な実務対応上の課題があります。同課題と実務対応上の留意点を3時間にわたって峰隆之弁護士とともに解説させていただいたものです。

 講演をご静聴いただいた企業人事の皆様、そして有田先生ありがとうございました。また山崎、須田両先生には、帰りの列車含めてお付き合いいただきました。感謝する次第です。それにしましても、松本の10割そばと「大信州」は美味でした(笑)。
 

2008年11月11日火曜日

労働行政の予測可能性について

 たとえば自動車を運転していて、一時停止を無視したことを警察官に現認された場合、違反切符が切られることに違和感を覚えることは、まずないと思われます。

 これに対し、労働行政の予測可能性はどうでしょうか。一例を挙げれば、製造工場における派遣請負区分基準の指導が挙げられます。全国展開している会社であれば、全く同じ運用管理を行っているにもかかわらず、A県では厳しい指導され、B県では何のお咎めもなかったという話題に事欠かないのではないでしょうか。同様にサービス残業、管理監督者についても、同様の問題が指摘されます。

 これらの経験から、労働行政の予測可能性が低いとの感を持たれている方が多いのではないでしょうか。この予測可能性の低さは、結局のところ、法の実効性を失わしめるものであり、健全な法治国家として望ましいものではありません。今後、この予測可能性を明確にしていくことが、労行政全般の問題として指摘されるところと思われます。などと都内某所で生意気な話をさせていただきました。

 愚論をご清聴いただいた上、美味しい中華を御馳走いただきましたA大のF先生、門下生の皆様、ありがとうございました。

2008年11月9日日曜日

U35のための労働法?

 娘が通う保育園の父母会レクリエーションでK公園へ。焚き火で芋が焼かれていくのを眺めながら、同世代若しくは少し上のお父さん達と世間話に花を咲かせる。その中で、35歳程度を境に大きなジェネレーションギャップがあるのではないかとの話題。例えば調理人の世界では、35歳以上の世代は比較的、厳しい修行時代を経て、職業経験を積んでいる一方、それより下の世代は職業人生も含め「ゆとり教育」世代ではないかとのこと。その結果、良い面がある一方、メンタルヘルスなど難しい問題を抱えている者が増える傾向があるとのご指摘あり。データを踏まえたものではない、単なる世間話にすぎないが、周りを見渡してみると、頷ける感なきにしもあらず。
 それを前提として、U35への企業実務対応上のポイントは、普段U35世代と直接の対話に乏しい上級管理職層への教育ではないかと仮説を立ててみる。久し振りの焚き火に影響されてか、つらつらと世代傾向に対応した労働法なるものを妄想した次第。

 そのような妄想から現実に引き戻してくれるのは、U4の腕白ぶり。U4からの「攻撃」に伴う災害性疾病について、何らかの補償制度が創設されえないか?(嘘)。

 

 

「変更解約告知」の混乱ー関西金属工業事件ーほか

 関西金属工業事件 大阪高裁平成十九年五月十七日判決
事案の概要・判決内容・評釈については、金井幸子氏判例評釈(名大法政論集)が大変、有益ですので、こちらをご覧ください。

 同事件では、会社側は深刻な経営難に伴い、いったん社員を退職させた上で、新たな労働条件(賃金額が4割減など)による雇用契約の募集を行いました。同募集に応じた社員すべてを再雇用するものではない(6名リストラ予定)ことを当初から明らかにしておりましたが、同退職・募集申込(これを「変更解約告知」と称している)に応じなかった社員10名全てを解雇しています。
 この解雇の効力が争われたものですが、そもそもここで会社側が主張するものが、「変更解約告知」といえるのかが問題となりました。というのが、従来から論じられてきた変更解約告知は、労働条件変更に伴う雇用維持か、あるいは変更に従わないことによる解雇かいずれを従業員側に選択させることに大きな意義がありました。つまり、変更であれば雇用維持されることが前提でしたが、本件では変更に応じたとしても、雇用が維持されるか否か定かではないところに大きな特徴があります。

 同高裁判決では「変更解約告知」であることを明確に否定しないものの、整理解雇と変更解約告知を分けて論じることはできないと指摘した上で、専ら整理解雇法理に照らして、あてはめを行い、本件解雇を無効としました。主に4要件でいうところの人選基準に問題がある(6名で十分であるにもかかわらず、10名を解雇した点)としたものです。

 結論は良いとしても、この会社の対応を「変更解約告知」と称してよいのか、違和感を覚えます。本事案はそもそも整理解雇であり、その中に従業員の労働条件変更が含まれていたと位置づけるのが適切ではないでしょうか。本件の「変更解約告知」と称する会社側対応は、専ら解雇回避措置のところで考慮すれば、それで足りるものと思われます(但し労働条件引き下げによる雇用維持に向けた対応が、解雇回避措置として高く評価されるかは疑問。やはり希望退職募集等が重視されると考える)。
 とすれば、本件は人選基準を明らかにせずに、労働条件変更を拒絶したもののみを解雇対象者として選定した合理性を問えば、結論を同じく導き出せることとなります。

 裁判所の判断基準はさておき、本事案のようなケースにおいて、会社側がどのような対応を取るのが適切であったのかが、課題として残ります。いずれにしても本事案のように労働条件引き下げと整理解雇を同時に行おうとするのは適当ではなく、事前に周到な準備の上で、対応を検討しなければならないことが明らかにされた点が実務的にも参考になります。

 話は変わりまして、吉祥寺で久し振りに京都町内会バンドのライブを楽しみました。バンド結成から12年、前身を含めると20年。あまりの長い付き合いに感慨無量(笑)。

2008年11月8日土曜日

変更解約告知に実務的意義があるか?

 労働法学の一つの潮流として、人事労務管理の個別化への対応があるように思われます。たしかに周りを見渡してみても、一定の専門知識・技能を有するものが中途採用され、賃金などの労働条件が個別決定される例は年々、増加しているのではないでしょうか。同社員については、従来のような就業規則をもって労働条件を集合・画一決定するものではなく、個別労働契約によって決定される例が多いものです。
 仮に会社の経営環境変化に伴い、賃金等の労働条件引き下げを行いたい場合、上記中途社員の労働条件について、どのような変更方法が考えられるところでしょうか。就業規則変更では不可とすれば、個別に変更同意を取るほかないことになります。では、この変更同意が取れない場合については、どのような対応が考えられるのか。
 その場合は「変更解約告知」が一つの選択肢となるか否か、最近とても関心をもって勉強しておりました。変更解約告知の定義は難しいのですが、さしあたりJILのデータベース情報が大変、参考になります。

 しかしながら、実務において、どの程度そのニーズがあるのか、よく分からないところがあります。そもそも、中途採用社員の賃金制度に成果主義賃金制度等を導入しているのであれば、本人成績に連動した賃金支給で足りることとなり、何も労働条件の変更自体が不用です(なお本人が成績維持している場合は、賃金制度設計によるが、通常は従前どおりの賃金を支給する他なし)。また有期雇用契約であれば、期間終了まで従前どおり賃金支給するとしても、それ以降は期間満了による雇止めが可能になります(有期契約が反復更新、あるいは雇用継続を期待させる言動等がみられる場合は別)。
 実際のところ、変更解約告知がどの程度、実務的に使われる可能性があるのかどうか。今現在、私が抱えている大きな問題関心の一つです。
 

2008年11月7日金曜日

平成20年度社労士試験合格

 今年の夏休みは、毎年恒例のニセコ北大クールセミナーにも行かず、妻の里帰りにも同行せず、家でせっせせっせと試験勉強をしておりました。その苦労が報われ、無事、社労士試験に合格いたしました。今月中に手続きが済めば、来月早々から社会保険労務士という肩書を新たに持つことになります。これから、この資格と良い付き合いができるよう、日々切磋琢磨してまいる所存です。今後ともご指導の方、よろしくお願いいたします。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/11/h1107-1.html (社労士試験について 厚労省HP)

2008年11月6日木曜日

平成20年派遣法改正案の動向

どうする、どうなる派遣法改正案

 今、労働法制において最も注目されているのは、派遣法改正案に他なりません。
11月4日、政府は派遣法改正案を閣議決定し、本国会に政府案を提出いたしました。政府案として取りまとめるまでが大変な難産でしたが、ここから先もその苦難の道に変わりはありません。むしろ更なる断崖絶壁の山道をのぼっていく運命のようです。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/11/h1104-1.html 派遣法改正法案要綱(政府案)
http://www.roudou-kk.co.jp/archives/2008/09/20924.html 同改正法案の簡単なコメント

 現在、会期中の臨時国会は11月30日を会期末として予定しています。3週間以上残されてはいますが、衆参ねじれ状態の中、スムーズに法案審議、可決が進められていくかは定かではありません。与党側は民主党案に対し一定の譲歩を行い、修正案を取りまとめることにより、会期末までの成立を目指していたものと思われます。現に民主党案と政府案を比べてみると、日雇い派遣規制の対象を「30日」(政府案)とするか、「2か月」(民主党案)とするかが目立った相違点であり、その他の点については、さほど大きな対立点はないように思えます(労働法の視点からみると、民主党案にはその他、派遣先への労組の団交権保障、派遣先との均等待遇など目を引く点はあります)。
http://www.dpj.or.jp/news/?num=13148 民主党派遣法改正法案
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/post_4cfb.html (濱口桂一郎先生コメント)

 しかしながら民主党は党内で取りまとめていた民主党案をそのまま国会に提出するのではなく、他の野党との協議の上、改めて政府案への対立法案を提出するかまえを見せています。
http://www.47news.jp/CN/200811/CN2008110601000745.html 共同通信2008.11.06

 他野党は日雇い派遣規制のみならず、登録型派遣の全廃などを求めており、政府案との隔たりは大きいものです。民主党が他野党との「共闘」を意識すればするほど、本国会における派遣法改正案の成立は難しいと思われます。

 仮に派遣法改正案が本国会で先送りをされた場合はどうでしょうか。まず年末、年初の解散総選挙があった場合は、政府案(民主党等が対立法案を提出した場合は、同対立法案含む)は廃案となります。また改めて、閣議決定の上、出しなおす必要が生じますが、その際、どの政党が「与党」であるかは「神のみぞ知る」こととなります。
 これに対し、解散総選挙が先送りされた場合は、次の通常国会において、改めて審議されることとなりますが、先の構図がそのまま引き継がれます。

 審議がこの調子で先送りされ続けた場合は、最高裁が松下PDP事件、いよぎんスタッフサービス事件に対する判断を示す可能性が出てきます。この場合、同上告審判決が立法にも、相当程度影響を及ぼすものと思われるところです(最高裁がそのような「使われ方」を嫌って、あえて判決を先延ばしする可能性もあるとは思いますが・・)。

 いずれにしましても、派遣法は本年末から来年にかけて、大きく変わっていく過程にあることは間違いがなさそうです。
 

2008年11月5日水曜日

職場内の飲酒を伴う会合後の災害は通勤災害か?

 国・中央労基署長(通勤災害)事件 東京高裁H.20.6.25(労判960-16)

事案の概要
  総務部門次長が、同部門主催の会社内会合終了後、帰宅途中に地下鉄入口下り階段から転落し、死亡したことが労災法上の通勤災害に該当するか否か争われた事案。労基署は通勤災害に該当しないとし、不支給決定処分としたところ、遺族が同不支給決定処分の取り消しを求めたもの。1審は遺族の請求を認め、不支給決定処分の取り消しを命じた。これに対して国側が控訴。

判決 原判決取り消し
 
コメント 
 職場内で飲酒を伴う会合がなされることは、以前に比べて少なくなったとはいえ、今なお多くの企業でみられるところです。本事案では、5時間近く続いた会合(17時ー22時)終了後、帰路についた総務部門次長の転倒事故が「通勤災害」に該当するか争われました。
 1審はこの会合すべてを「業務」と判断しました。同会合において、被災者が総務次長として、従業員からの様々な相談・不満を聞いていたことから「業務性」を認めたものです。これに対して、控訴審では一転して判断を異にしました。17時から19時前後までの会合までは業務性があるとしたものの、19時から22時までの会合は業務性のある参加ではないと判示しています。その根拠として、裁判所は①被災労働者が通常19時には退社していること、②開始時刻からの時間の経過等から、19時前後には本件会合の目的に従った行事は終了していたとするものです。

 これについて、1審判示の視点からみると、19時以降も従業員からの相談対応等を行っており、19時で「業務」と切断されることは相当ではないとの見解も成り立ちえます。控訴審では、この指摘に対して特段答えていませんが、察するに飲酒を伴う会合という特殊性を前提にすれば、2時間程度で業務と切断するのも、やむを得ないと考えます。

 自らの乏しい経験を思い起こしてみても、飲酒を伴う会合は通常2時間程度で終わるものであり、それを超える場合は、私的関係を含めたお付き合いの色彩が強まると思われます。もちろん2次会、3次会のかなり煮詰まった段階(酩酊状態)で、仕事の話をすることもありますが、それをすべて「業務」とし、終了後の帰路をすべて「通勤災害上のリスク」と扱えるかどうかは違和感があります。飲酒を伴う会合については、業務性が認められたとしても2時間程度とするのは、社会通念に照らして相当ではないでしょうか。
 また本件においては、控訴審段階で国側が新証拠を提出し、被災者が相当な酩酊状態にあったことが立証されています。強度の酩酊状態に陥っていた段階での転倒事故が、通勤災害上の保護対象となるか否かも疑問を感じるところです。したがって、控訴審の認定事実を前提とすれば、本判決の結論は相当と考えます。

 本判決が提示した別の論点として、国側の新証拠提出時期の問題があります。控訴審段階で新証拠提出が許されるのか、そもそも国側の処分において前提とされた事実とは異なる事由を、訴訟段階で持ち出すことが可能かどうか。行政訴訟法との関係で更に踏み込んだ検討が求められる課題ではないかと思われます。
 

2008年11月4日火曜日

採用担当者への法務面からの支援を考える

 私は以前、新卒採用業務のお手伝いをしたことがある。その際、採用部門が求人募集先の選定、説明会開催の段取り、応募者へのフォロー、採用選考、内定通知、内定者へのフォロー、内定式そして入社式、入社後研修等々、無数の業務に追われている姿を目のあたりにして、その多忙ぶりに大変驚かされた。そのうえ新卒採用であれば、「お兄さん」「お姉さん」的な親しみやすさを持ちつつも、社内調整も的確に行える能力が必要とされる。どの会社もリクルーターに優秀な人材が配置される傾向があるが、その業務の多忙さ、難しさからして納得させられた次第である。

 以上のとおり、ただでさえ難しい業務であるところに、最近のコンプライアンス問題が採用業務にも持ち上がってきている。労働法のルールは明快さに欠ける面があり、何が正しいのか答えが一つでない問題が多い。たとえば、採用面接時のヒアリング事項がある。厚労省はあるパンフレットにおいて、採用面接時に聞いてはいけない事項を示している。その中には、本籍地など納得できるものが多い反面、「尊敬する人」「愛読している新聞、雑誌」など一般によく質問される事項も含めてヒアリングを行わないこととされている。同パンフのみをみれば、これら事項はいずれも「聞いてはいけない」ということになろうが、企業側として、新卒採用では、本人の適性を幅広い視点から見極める必要がある。その見地から「尊敬する人」等をヒアリングすることは、職務関連性を有する質問にあたると解することが一概に合理性に欠けると思えない。

 このようにTPOに応じて、対応を検討せざるを得ないところに人事労務の難しさそして奥深さがあると感じるところではあるが、多忙にして人事労務の専門家ではないリクルーターにとってみれば、わかりにくいことこの上ないところとも思われる。また限られた時間の中、選考・内定などの手続きを進めていかなければならない担当者へのコンプライアンス上の支援はいかにして行うべきか。Q&Aなどの事例集作成など有益な手段を積み上げていかなければならないところ。今後の大きな課題の一つである。

2008年11月3日月曜日

退職手続きの違法性とは?-ゴムノイナキ事件判決ー

 ゴムノイナキ事件(大阪地裁平成19.6.15 労判957-79)
(事案) 勤務態度不良を理由とした業務指導の過程で退職した社員について、会社側が「自己都合」退職を前提に退職金、失業保険給付手続きを行ったことが違法とされ、会社都合退職による退職金および特定受給資格に基づく失業保険給付との差額分支払を命じた例(控訴後和解)

(コメント)結論・理由ともに反対
 退職勧奨自体はこれまでも、その回数・頻度あるいはその言動等が不相当である場合、違法であるとされ、損害賠償の対象とされてきた。これに対して、上記事案では、退職勧奨の態様は問題ではないとされる一方、退職の手続きに違法性があるとされた珍しい例。損害賠償として、本来「会社都合」で退職手続きを講ずべきであったとして、差額退職金及び失業保険(特定受給資格)の支払を会社に命じている。

 よくわからないのが、会社側が「自己都合」で退職手続きを処理し、退職金・失業保険手続きをとったことが、何故、損害賠償の対象となる「違法性」を帯びるのかという点。本判決の認定事実によれば、会社側の退職勧奨に態様上、問題はなかったとされており(むしろ「具体的かつ丁重な」指導であったと評価されている!)、退職事由が「辞職ないし合意退職」であることに間違いはない。

 加えて本件についていえば、本人の勤務成績不良に伴う指導が契機となり、退職したものといえる。たしかに純然たる私的理由による退職ではないとしても、同退職手続きを「会社都合退職」で行うべきとする違法性があるといえるのか。そもそも、何が違法であるのか、判決文からは定かではない。強いて考えるとすれば、労働契約に付随する適正に「退職手続き」を行うべき配慮義務とでもなるのか。

 また退職金の制度設計は、基本的に会社側にゆだねられている。いかなる場合に会社都合、あるいは自己都合で退職金を支給するべきかについても同様である。本判決では会社側の内規、過去の運用経緯などを検証することなしに一足とびで、本件の退職は会社にとってもメリットがあった等とし、会社都合退職金を支給すべきであったとする。しかしながら、前述の内規・運用経緯を評価することなしに、このような判断がなされるべきか大変、疑問を感じる。

 最後に特定受給資格についても、本件がこれに該当するか否かは、はなはだ疑問。ハローワークの運用においても、同種事案であれば、おそらくは特定受給資格としないのではないか。その上、同失業保険手続きにあたり、従業員自体も退職事由を記載できる仕組みとなっており、労使の対立があれば、ハローワークが最終決定を行うこととしている。とすれば、会社側の失業保険手続きはその一部に過ぎず、退職事由の記載をもって「損害賠償の対象たる違法性」があるのか、改めて疑問の念を強くする。

2008年11月1日土曜日

「非正規レジスタンス」読了

石田衣良「非正規レジスタンス」(文藝春秋 2008.8)
 新聞記事をコピー&ペーストして、小説が書かれた印象ぬぐえず。確かに、それぞれのエピソードで非正規雇用等の抱える問題の深刻さ(母子家庭、ネットカフェ難民など)は描かれているが、いずれも当事者らの心境や背景がずしんと腹に落ちてくる感なし。最近、読み返していた鷺沢萠、高村薫などの一連の作品群と比べてしまうからかもしれない。
 いずれにしても、現在進行形の問題という困難さを克服して、いわゆる「格差問題」を的確に描き出す力量をもった小説・映画の登場が待たれる。視野を外国に転じれば、ケン・ローチ監督の一連の作品にその可能性が見出されるのではないだろうか(近作として「この自由な世界で」)。

生活者の利便と営業時間規制

 10月30日開催の経団連労働法セミナー(関西)を受講。テーマが労働時間問題のためか、参加者多数。お出しいただいた弁当のライス量の少なさに違和感を感じたのは私だけか?。

 シンポジウムで登壇された神戸大学大内先生に感服。一番最後に「生活者の利便 対 労働者の保護」の問題状況をさりげなく指摘された手際の良さにほれぼれする。この指摘が「営業時間規制」をはじめとした経済規制につながる可能性を含んでいることに会場の中で何人、気がつかれたのか興味あり(それにしても、大内先生ご自身が「営業時間規制」について、どのような見解をおもちなのだろうか。いずれご見解をお伺いしてみたい)

 和田肇先生が紹介された90年代以降のドイツ営業時間規制の展開について、関連文献調査の要がある。