2010年2月5日金曜日

朝青龍「退職」と労働法ーニシムラ事件からの示唆

 「朝青龍、突然の引退劇 解雇と迫られ、観念」(スポニチアネックス 10.2.5)の報、私もびっくりいたしました。小沢幹事長の問題がどこかに吹き飛んでしまった感があるほどです。

 同記事を読んでおりましたら、人事労務の観点から見ても大変、重要な問題である「退職」「懲戒解雇」の問題が潜在していることが見てとれます。

 外部機関である審議会が「引退勧告相当」との意見を理事会に示し、これを基に理事会の審議において「解雇」相当との意見が有力となる中で、九重親方がその意を伝え、暗に引退(退職)を促したところ、これに朝青龍側が応じたと報じられています(本当かどうか、私に確認のすべはございませんが・・・)。

 このように懲戒解雇相当と経営陣が判断した事案について、本人に退職勧奨を行うことは、相撲協会のみならず、企業においてもよく見られる対応と思われます。現に就業規則の懲戒処分事由の中に「諭旨解雇」なる処分が含まれていることが通例ですが、これなどまさに同対応を明文化したものといえます。

 しかしながら如何なる場合も、先のような対応が可能かといえば、さにあらず。ニシムラ事件(大阪地決昭和61.10.17 労判486-83)という興味深い下級審裁判例があります。

 事案の概要・判旨はさしあたり全基連データベースのこちらをご参照ください(こちら)。同判決において、「使用者の右懲戒権の講師や告訴自体が権利の濫用と評すべき場合に、懲戒解雇処分や告訴のあり得べきことを告知し、そうなった場合の不利益を説いて同人から退職届を提出させることは、労働者を畏怖させるに足りる脅迫行為・・・これによってなした労働者の退職の意思表示は瑕疵あるものとして取り消し得る」と判示した点が重要です。

 つまり懲戒解雇に該当しないような事案について、使用者側が「懲戒解雇になるぞ、処分前であれば退職届を受領し退職金を支払ってやる」とする対応は、後日、脅迫を理由に退職自体を取消しうるということです。

 それでは朝青龍は「懲戒解雇」相当であったのか。昨日の記者会見を見る限り、当人はマスコミ報道と事実が違うとの主張を繰り返していました。知人男性に対する暴行が仮に事実無根(酔っていたので、何かの拍子に手が当たってしまったなど)であれば、ニシムラ事件と同様の問題状況といえるのかもしれませんね。
 

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