2009年5月9日土曜日

ロックアウト法理についての雑感①

 最近、暇をみつけては勉強をしているのが、労働組合法におけるロックアウト法理です。ロックアウトとは、労働組合によるストライキなどの争議戦術に対抗して、使用者側が同労組の労務提供不受理もしくは事業場閉鎖などを行うことを指します。昭和30~40年までは、人事労務実務そして労働法学などで非常に関心を持たれていましたが、著名な最高裁判決(丸島水門事件 最3小判昭和50年4月25日)以降、労働法学上の論争が下火になるとともに争議件数自体の低下に伴い、ここ何十年かは、あまり関心を持たれてこなかったテーマです。しかしながら今年に入り、労働組合とりわけ地域労働組合が積極的な活動を行っています(最近では京品ホテルにおける生産管理闘争など)。改めて労組の争議戦術とこれに対する使用者側の対抗手段を法的に振り返っておく意義が高まっていると感じており、整理をしている次第です。

 ロックアウトが昭和30年代などに実務で行われていた背景としては、当時の労働組合の多様な争議戦術がありました。ストライキ一つとっても、終日行うものから、時限スト(時間を区切って行う)、指名スト(指名された組合員のみのスト)、波状スト(争議を波状的に繰り返す)、部分スト(争議組合員の一部がストをし、それ以外の作業部門を計画的に麻痺またはストップさせること)などがありました。
 またその他、争議戦術として、怠業(能率を低下させるサポタージュ)、納金スト、車両のキー保管戦術、さらには極端なものとして、生産管理(労働組合が生産設備等を自己の占有下におき、自らの管理下で企業経営を行うこと)がなされていました。

 これら多様な争議戦術の中には、波状スト、時限ストのようにストライキの時間自体は短くとも、企業経営に対し、非常に深刻なダメージを与えるものが含まれていました。たとえばテレビ局の例でみると、番組放送は行うも、コマーシャル放送の2~3分のみストライキとして、放送を行わないとすればどうでしょうか。このようなケースにおいて、使用者側の争議対抗手段として取られてきたのが、ロックアウトでした。このロックアウトはそもそも労働組合法上、何らの規定がなく、わずかに労働関係調整法において「作業場閉鎖」の名称で規定化されているにすぎませんでした。ロックアウトが果たして使用者側の争議対抗手段として法認されるのか否か長い論争が繰り広げられていましたが、その終止符を打ったのが、先の丸島水門事件です。同最高裁判決は以下のとおり判示します。

「労働者の提出する労務の受領を集団的に拒否するいわゆるロックアウト(作業所閉鎖)は、使用者の争議行為の一態様として行われるものであるから、それが正当な争議行為として是認されるかどうか、換言すれば、使用者が一般市民法による制約から離れて右のような労務の受領拒否をすることができるかどうかも、右に述べたところに従い、個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度、経過、組合側の争議行為の態様、それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし、衡平の見地から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうかによってこれを決すべく、このような相当性を認めうる場合には、使用者は、正当な争議行為をしたものとして、右ロックアウト期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務をまぬかれるものといわなければならない。 前記二のような見地からすれば、前記三のような具体的事情のもとにおいてされた本件ロックアウトは、衡平の見地からみて、労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当であると認めることができる。」(全基連HP 参照

 以上のとおり衡平の見地から使用者側のロックアウトの相当性を判断する基準は、同最判によって確立しており、現在においてもその基準に変化はありません(個別判断の積み重ねあり)。

 では、このロックアウトが認められたとして、その法的効果はどのようなものがあるのでしょうか。この問題は次回改めて整理してみます。

0 件のコメント: