2009年3月8日日曜日

改正労基法の代替休暇をめぐる法的問題(諮問案から)

 平成22年4月施行の改正労基法に関する施行規則案が、先日の労働政策審議会労働条件分科会において諮問されました(こちら)。今後、同審議会で審議の上、遅くとも4月~6月までには、改正労基法の施行規則および施行通達等が出そろう予定です。

 ここでは、先日示された施行規則案(諮問案)を通じて、新設される代替休暇をめぐる法的問題を考えてみたいと思います。

 昨年成立した改正労基法では、1か月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合、割増賃金率が5割以上(従前に比して2割5分増し)に引き上げられる旨、法律で明記されました(改正労基法37条1項但書き) (改正労基法に関する厚労省資料はこちら)。
 これに合わせて新設されたのが、代替休暇制度です。改正労基法37条3項において、使用者が労使協定を定めることによって、先の引き上げ部分については割増賃金の支払いに代えて、休暇取得を付与することを許容しました。その目的としては、長時間労働に従事した社員を労動から解放し、その健康確保を図ることにあるものです。

 代替休暇制度の詳細については不明な点が多かったところ、先般示された施行規則案を見ることによって、若干ではありますが代替休暇の制度設計(案)が見えてくるところがあります。ここでは主に代替休暇の単位と、その付与期間を取り上げます。

 まず第1は代替休暇の単位です。同制度は60時間を超える時間に対して設けられるものであり、数字だけを見ると、例えば1か月あたり61時間の時間外労働が生じた場合、これに対応して15分の代替休暇を与えることも考えられなくもありません。しかしながら、15分などの短い時間で代替休暇を付与することは、労使双方のニーズが未知数の上、その運用が煩雑になる恐れもないとはいえません。

 そのためか、施行規則案(諮問)を見ると、労使協定において定める代替休暇の単位は1日又は半日とすることを求めています。従って、1か月あたりの時間外労働時間が76時間の場合は半日、同じく92時間の場合は1日を引き上げられた割増賃金分の支払いに代えて、代替休暇付与に替えることが可能です。では、仮にある月の時間外労働時間が75時間あるいは91時間の場合はどのように考えるべきでしょうか。先の施行規則案を前提とすれば、半日あるいは1日に満たない部分は、3時間あるいは7時間等の形で代償休暇を付与することはできず、原則どおり割増賃金支払いが求められることとなります(※なお使用者側が端数を切り上げて、半日あるいは1日単位で付与すること自体は当然可能)

 問題はこの代替休暇は当月の時間外労働時間数ごと付与しなければならないのか、あるいは一定期間、時間外労働時間数を通算した上で付与することが可能かどうかです。先のケースでいえば、例えば1月は75時間、2月は77時間の場合、2か月の総和(60時間超過分)は32時間となることから、これを3月に代替休暇「1日」として付与することが許されるか否かが問題となります。この点については、先の施行規則案からは定かではなく、その後示される施行通達等に委ねられることになりますが、私見では、次に示すとおり代償休暇の付与が2か月以内ということからも、最低2か月以内の通算は許容されてしかるべきと考えるものです。

 第2は付与期間(いつまで付与すればよいか)です。制度設計上、代替休暇の付与期間については特に規制を設けず、労使自治に委ねることも考えられるところですが、1点考慮すべき事項として、健康確保の問題があります。つまり同代替休暇の目的は前述のとおり、労働者の健康確保にあることから、長時間労働状態からなるべく早い段階で休暇を与えることが本来的要請であるということです。

 この見地からか、施行規則案においても、付与期間について労使協定への縛りを設けることが示されています。つまり「時間外労働が1か月について60時間を超えた当該1か月の末日の翌日から2か月以内とする」というものです。

 「2か月以内」という数字は先の趣旨から理解できるところでありますが、実はこの施行規則案には大きな問題があると考えています。それは、付与の始期です。先の施行規則案にはその始期が「1か月について60時間を超えた当該1か月の末日の翌月」とされています。つまり、60時間を超過した当月内における代替休暇の付与は認めないという取扱いになっているものです。

 最近の企業における勤怠管理システムの中には、人事部等が当該月内において逐次、各社員の時間外労働状況を把握し、適宜残業抑制等の指示を行っている例も少なくありません。例えばある月において、76時間の時間外労働が生じた日の翌週に、代替休暇を付与することも、これらの企業では何ら不可能ではなく、現に行っているものといえます。これを厚労省が「代替休暇の付与は労使でどのように考えようが当月中はダメです。翌月に代替休暇を付与してください」ということを、何故、労使合意を排斥する施行規則上のルールとしようとするのか、理解に苦しむところです。

 むしろ、当月中に代替休暇を取らせるインセンティブを高めることの方が、法の目的である「労働者の健康確保」の面から有益と考える次第です。今後の労働政策審議会における議論が注目されるところです。 

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