先日、厚労省は改正労基法の施行通達を発出しました(平成21年5月29日付基発第0529001号 こちら)。同通達は厚生労働省本省が、改正労基法の施行にあたり留意すべき点を都道府県労働局長に示達したものです。
同通達の詳細と想定される労基署監督指導については、来週末予定しておりますセミナー(こちら)で講演を予定しておりますが、施行通達で特に気になったものとして、代償休暇の問題があります。
この通達が出るまでは、同休暇は使用者が同休暇を労働者に付与し、社員は原則としてこれを拒めない(取得義務あり)とする見解が示されてきました(例えば中田成徳「改正労基法案による特別割増賃金と代償休暇制度」 岩出誠編著「論点・争点現代労働法(改訂増補版)」(民事法研究会)273頁以下、岩出誠著「改正労働基準法と企業の実務対応」(日本法令)49頁以下など)。
私自身もそのように考えていましたが、前述の施行通達を見ると、以下の「新解釈」が示されておりました。「代替休暇を取得するかどうかは、労働者の判断による(法第37条第3項)ため、代替休暇が実際に与えられる日は、当然、労働者の意向を踏まえたものとなること」(施行通達p9)。
そこで慌てて、労基法37条3項を読み返してみますと、「・・当該割増賃金の支払いに変えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(※代替休暇を指す)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは・・同項但し書きの規定による割増し賃金を支払うことを要しない」と規定しています。
私は「与えること」の文言から、使用者による代替休暇「付与」と理解してきましたが、厚労省はその下の「取得したときは」の文言から、「代替休暇の取得は労働者の判断による」との解釈を示してきたものと思われます。
この問題については労働基準法施行規則などの政省令に定めはありませんので、法解釈に委ねられており、どちらの解釈も成り立ちうると思われるところです。何らかの形で、この解釈をめぐり裁判上の係争事案が生じた場合、裁判所が厚労省と異なる解釈を示す可能性はないとはいえません。
とはいえ当面、実務家としては、この厚労省の見解を基に対応を考えざるをえないでしょう。労働者の意向をその都度、確認の上、当月末から2ヶ月という短い間に取得していただくということですが、実際の導入はいよいよ難しいとお感じの企業実務担当者が多いように思われるところです。
また以前のブログで指摘していた代替休暇の付与始期(こちら)についても、懸念どおりの内容が施行通達で示されており、これも従業員の健康確保という観点から、制度の柔軟性を欠いています。
代替休暇導入を検討している企業は、これらハードルを前提の上で、導入準備を進めていく必要があります。前述のセミナーでは、これら代替休暇制度のほか、時間外割増賃金引き上げ、改正限度基準告示および時間単位年休付与をめぐる施行通達のポイントと予想される労基署監督指導の内容等をご解説する予定としております。お時間がございましたら、ぜひともご活用いただければ幸いです。
また社内、労組内での研修会、会議等でこの問題等について、出張講演させていただく機会も増えてまいりました。お気軽にご用命ください(講師派遣についてはこちら)。
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