2009年5月10日日曜日

ロックアウト法理についての雑感②

 前述のとおり、使用者によるロックアウトが法的に認められるものとして、その法的効果は如何なるものがあるのでしょうか。

 労働組合の争議戦術として、よく取られてきたのは、争議中の操業を防止すべく、ストライキ期間中の職場内占拠・滞留でした。まずロック・アウトを使用者側が通告することをもって、労働組合側に退去等の法的義務が生じるか否かが問題になります。過去の裁判例をみると、ロック・アウトからただちに同法的義務が生じるかのような判断を示した下級審判決も少なくありませんが、現在の通説ではおおむね否定説が有力です。ただし、使用者側が施設の所有権・占有権(施設管理権)等を根拠に、労働組合側に退去等を求め、これに従わないものに対して、裁判上の請求を行うことは当然許容されるものです。また職場占拠中、施設備品を毀損した場合に、損害賠償請求を行えることも当然です。

 次に問題となるのは、ロック・アウト期間中の賃金請求権です。これについては丸島水門製作所事件最高裁判決において、次のとおり判示されています。
 (使用者側ロックアウトの)「相当性を認めうる場合には、使用者は、正当な争議行為をしたものとして、右ロックアウト期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務をまぬかれるものといわなければならない。」

 ロックアウトの正当性が認められる限り、同期間中の賃金支払い義務は免れることになるものです。これに対して「争議期間中に賃金支払い義務はそもそもないはずだから、このような判示部分は意味がないのでは」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。実は私も初めて、このロック・アウトを勉強していた際、よく分からなかった点でした。
 これについては、前回ご紹介した争議戦術の多様性を思い出していただく必要があります。我が国の労働組合の争議は、全日ストライキだけではなく、波状スト、時限スト、部分ストから怠業、車両のキー保管戦術まで多種多様です。この戦術の中には、部分スト、怠業等のように、争議行為と労務提供が混在しているようなものが含まれています。

 この混在型の争議戦術の際、部分的な労務提供に対し、使用者に賃金支払い義務が生じるとすればどうでしょうか。これに対する対抗手段として、使用者側が正当な「ロックアウト」を行うことによって賃金支払い義務が生じないとすれば、同対抗措置は法的にも大いに意義あることとなります。

 しかしながら、その前提自体に疑問がない訳ではありません。そもそも、怠業、部分ストなど争議と労務提供が混在している場合における労務提供に、賃金支払い義務が生じるものといえるのでしょうか。もちろん事案によって異なるものですが、例えば1時間の労務提供のうち、最後の5分間の労務が決定的意義を有し、これを怠ることは55分間の労務提供を無価値にする性質のものも当然、存在します。一例を挙げれば、自動車教習所における教習時間において、教官が50分の教習を終えた後の最後の確認テストを「ストライキ」した場合、それ以前の50分間はすべての利害関係者にとって無価値になることは明らかです(学生にとっては、よい練習になったかもしれませんが、単位を取れないことには変わりありません・・・)。
 この場合における賃金請求権の問題をどう考えるかは、私にとって大学院入学以来の積み残し続けてきた課題です。裁判例の集積を待つとともに、勉強を深めていきたいと考えています。

 

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