両者の関係について、産経NEWSに掲載された民主党政調幹部の言を借りれば、「われわれが選挙で国民に示して約束するのはマニフェストであり、政策集は公約ではない」(産経NEWS)とのことですが、政策集はマニフェストよりも、かなり詳細な記述がみられ、民主党の考え方を知る上で有意義です。
ここでは、主に民主党マニフェストにおける労働政策(雇用保険)の記述を中心に紹介することとし、同政策集は必要に応じて、合わせて言及することといたします。
マニフェストの3頁以下に、まず同工程表が掲載されています。この中には雇用対策として「雇用保険を非正規労働者に拡大適用、求職者支援等」が主要8項目の一つとして挙げられています。同工程表を見ると、この雇用対策については、平成22年に半分程度実施し、平成23年から同25年にかけて完全実施としており、予算規模として総額1.1兆円(4年)を見込んでいるようです。
マニフェストの20頁以下では、雇用・経済部門のマニフェストの一つである雇用保険適用拡大について、以下の記載が見られます(こちら)。
38.雇用保険を全ての労働者に適用する
【政策目的】
○セーフティネットを強化して、国民の安心感を高める。
○雇用保険の財政基盤を強化するとともに、雇用形態の多様化に対応する。
【具体策】
○全ての労働者を雇用保険の被保険者とする。
○雇用保険における国庫負担を、法律の本則である1/4 に戻す。
○失業後1年の間は、在職中と同程度の保険料負担で医療保険に加入できるようにする。
【所要額】
3000 億円程度
ところで現行では、週20時間以上でかつ6カ月以上の雇用見込みがある社員が雇用保険の適用対象者となります(こちら)が、「全て」とは具体的にどのような労働者まで想定しているのでしょうか。これについて、政策集p32には以下の記述が見られます(こちら)。
「現在、雇用保険の被保険者となることができるのは、原則として6月以上の雇用の見込みがある場合ですが、31日以上の雇用期間がある全ての労働者を原則として、雇用保険の一般被保険者とすることとし、雇用のセーフティネットから排除されてきた非正規労働者のセーフティネットを拡充します。」
同記述を前提とすれば、民主党案は週あたりの労働時間数を適用要件から除き、31日以上の雇用期間がある者全てを雇用保険の適用対象とすることを考えているようです。
最近のハローワークにおける窓口指導を見ると、すでに6カ月以上の雇用見込みがある週20時間以上のパート社員については、雇い入れ段階からの加入を事業主に促す方向での指導が強められつつあります(こちら)。非正規雇用の比率が高い企業においては、現行法を前提としても、雇用保険適用への対応が急務といえると思われます。
ところで民主党マニフェスト(雇用保険)の最後にある医療保険(失業後1年の間~)の記述は、趣旨・内容が分かりかねます(同指摘をすでに行っているものに、労務屋さんのブログ「吐息の日々~労働日誌~)(こちら))。
分からないなりに以下、私なりの推察を行ってみます。まず離職者の医療保険加入を整理すると、現行法においても、健康保険加入者(サラリーマン)が離職の際、「任意継続被保険者」となることを選択できます。その際の保険料額は退職時の標準報酬月額×8.2%(9月以降は各都道府県で決定 上限が現行で月額22960円(こちら)となります。
これに対し、任意継続を選ばず、離職者が市町村の国保に加入した場合、国保保険料の算出方法は、市町村の基準によって異なりますが、前年度年収が一定程度あれば、上限額年額47万円程度(月額で約4万円)になることが多いと思われます(保険料算出方法について、例えば札幌市であればこちら)。
いずれにしても離職者が健康保険の被保険者資格を喪失した場合、任意継続にせよ、国保にせよ、医療保険額が増額するのは間違いのないところです。民主党マニフェストはこれに対し、離職1年間は前年度と同程度の保険料を維持の上、「医療保険」に加入できるようにするとのことですが、この医療保険は健康保険(任意継続)、国民健康保険どちらを指すのでしょうか。財政上は当然、任意継続の方が負担が少なく済みます(※なお離職者のうち、任意継続被保険者を選択せず、国保に移行した方の中には、「離職後20日以内の手続き」が不知のため、自らにとって有利であった任意継続制度に移行できなかった例が少なくないように思われます。)
また健康保険料との差額は、いずれにしても月額で1万~3万円にも上ると思われますが、この差額をどこから手当するのでしょうか。全くの推測ですが、雇用保険の項目にこれが入っているということは、雇用保険の給付メニューに新たに同差額補てん分を追加することを想定されているのやもしれません。
社会保障制度はその時々の政治・経済情勢や国民のニーズに制度構築が影響されますが、分かりやすい制度体系の構築が求められることも、最近の年金制度をめぐる議論で明らかになったところと思われます。雇用保険制度についても、個別ニーズの対応とともに、制度全体の目的やその体系を見失うことのない改正論議を一介の実務担当者として望むものです。
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