2009年5月18日月曜日

新型インフルエンザと休業手当(労基法)

 先週末から関西地方を中心に、新型インフルエンザ問題への対応が深刻化しつつあります。企業によっては、すでに「出張抑制」、「手洗い・マスク着用の上でのサービス提供」、「時差出勤」など、一定の対応を取りつつあるようです(nikkei net 09.05.18)。

 このような企業人事対応の中で、悩ましいのは休業手当の問題ではないかと思われます。ある都市銀行では、窓口担当者の発症を受け、行員70名を自宅待機とした旨、報じられています(産経ニュース 同)。発症した社員は私傷病を理由とした休業であり、諸規定に基づき対応することは当然として、問題となるのは、それ以外の社員に対する休業です。

 また今回のインフルエンザは若年者に対する感染が目立つため、学校の一時休校が相次いでいます。中高生であれば、一人でお留守番させることは可能であるとしても、保育園・小学校低学年の場合は、休校の際、親も休まざるをえません(その場合も無認可保育園に預けるということもありえますが、やはり難しくなってきているようです 関連NEWS)。
 このように本人が発症していないものの、同僚の発症を受けて感染が疑われる場合、または子の休校の場合における休業に対して、賃金支払いをどのように考えるべきでしょうか。

 労基法では、同法26条において次のとおり、規定を設けています。「使用者の責に帰すべき事由による休業においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の60以上の手当を支払わなければならない」。ここでいう「使用者の責に帰すべき事由」について、厚労省は「第一に使用者の故意、過失又は信義則上これと同視すべきものより広く、第二に不可抗力によるものは、含まれない」としています。

 先の休業がこれに該当する場合、使用者は休業手当の支払い義務を負うことになりますが、まず子の休校に伴う休業については、いかに考えても「使用者の責に帰すべき事由」にあたりません。したがって、この場合は無給でも法的に問題はありませんが、従業員の「子育て支援」対策の観点から、対応を行うことも一方では望まれるところです。

 これに対して、従業員感染に伴う他社員への対応は難しい問題です。新型インフルエンザは2~3日の潜伏期間後、症状が出るとのことです。また潜伏期間中も感染させる恐れがあるとされていることから、他社員・顧客・通勤時の周辺者等への感染を防止する意味でも、潜伏期間中の一時待機は十分に合理的なものと思われます。このように、同一時待機の目的が、感染防止という社会的危機への対応と捉えれば、その休職はやはり「不可抗力」にあたるものといわざるを得ず、一時待機に対する休業手当の支払い義務は生じないものと考えます。

 しかしながら、この議論の前提としては、他社員への感染の可能性があります。別フロアーの社員で、すべての行動範囲からみて感染の恐れがないにもかかわらず、一時待機を命じるような場合は、その待機に合理的理由がなく、休業期間中の賃金支払い義務が生じる可能性もあります。デリケートで、かつ迅速な対応が望まれるところではありますが、感染の恐れがあるか否かについては、産業医など専門家の意見を聞きながら判断を行う要がありそうです。

 また法的にはともかく、潜伏期間中の一時待機期間を無給とすると、従業員(感染社員含めて)が会社に対して、適切な報告を躊躇し、早期対応が図れない懸念もあります。会社出入り口で体温を測定するなどの動きも見られますが、やはり自己申告が新型インフルエンザの早期発見・対応にあたり、不可欠であることは論を待ちません。発症前の潜伏期間中の休業については、この見地から、特別に会社側が賃金を支給することも、新型インフル対策上、十分に検討されるべきと思われます。

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