2008年11月5日水曜日

職場内の飲酒を伴う会合後の災害は通勤災害か?

 国・中央労基署長(通勤災害)事件 東京高裁H.20.6.25(労判960-16)

事案の概要
  総務部門次長が、同部門主催の会社内会合終了後、帰宅途中に地下鉄入口下り階段から転落し、死亡したことが労災法上の通勤災害に該当するか否か争われた事案。労基署は通勤災害に該当しないとし、不支給決定処分としたところ、遺族が同不支給決定処分の取り消しを求めたもの。1審は遺族の請求を認め、不支給決定処分の取り消しを命じた。これに対して国側が控訴。

判決 原判決取り消し
 
コメント 
 職場内で飲酒を伴う会合がなされることは、以前に比べて少なくなったとはいえ、今なお多くの企業でみられるところです。本事案では、5時間近く続いた会合(17時ー22時)終了後、帰路についた総務部門次長の転倒事故が「通勤災害」に該当するか争われました。
 1審はこの会合すべてを「業務」と判断しました。同会合において、被災者が総務次長として、従業員からの様々な相談・不満を聞いていたことから「業務性」を認めたものです。これに対して、控訴審では一転して判断を異にしました。17時から19時前後までの会合までは業務性があるとしたものの、19時から22時までの会合は業務性のある参加ではないと判示しています。その根拠として、裁判所は①被災労働者が通常19時には退社していること、②開始時刻からの時間の経過等から、19時前後には本件会合の目的に従った行事は終了していたとするものです。

 これについて、1審判示の視点からみると、19時以降も従業員からの相談対応等を行っており、19時で「業務」と切断されることは相当ではないとの見解も成り立ちえます。控訴審では、この指摘に対して特段答えていませんが、察するに飲酒を伴う会合という特殊性を前提にすれば、2時間程度で業務と切断するのも、やむを得ないと考えます。

 自らの乏しい経験を思い起こしてみても、飲酒を伴う会合は通常2時間程度で終わるものであり、それを超える場合は、私的関係を含めたお付き合いの色彩が強まると思われます。もちろん2次会、3次会のかなり煮詰まった段階(酩酊状態)で、仕事の話をすることもありますが、それをすべて「業務」とし、終了後の帰路をすべて「通勤災害上のリスク」と扱えるかどうかは違和感があります。飲酒を伴う会合については、業務性が認められたとしても2時間程度とするのは、社会通念に照らして相当ではないでしょうか。
 また本件においては、控訴審段階で国側が新証拠を提出し、被災者が相当な酩酊状態にあったことが立証されています。強度の酩酊状態に陥っていた段階での転倒事故が、通勤災害上の保護対象となるか否かも疑問を感じるところです。したがって、控訴審の認定事実を前提とすれば、本判決の結論は相当と考えます。

 本判決が提示した別の論点として、国側の新証拠提出時期の問題があります。控訴審段階で新証拠提出が許されるのか、そもそも国側の処分において前提とされた事実とは異なる事由を、訴訟段階で持ち出すことが可能かどうか。行政訴訟法との関係で更に踏み込んだ検討が求められる課題ではないかと思われます。
 

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