2012年7月5日木曜日

厚生年金基金の代行割れと解散問題(有識者報告書)

厚生労働省がAIJ投資顧問事件を受けて、再発防止対策等を検討するために参集した「厚生年金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議報告書」が先月29日にまとまっています(研究会資料はこちら)。

 同報告書を読んで改めて衝撃を受けたのが、基金(総合型)の代行割れ(保有資産が最低責任準備金に満たない状況)が平成22年末時点で全体の約4割にも及んでいるとの記述です。代行割れの基金が解散しようにも、母体企業が不足分を納付しなければならない上、特例で認められた分割納付中に一部の企業が倒産すると、不足分債務が残った事業所に連帯責任が求められることになります(兵庫県乗用自動車厚生年金基金の事例が報じられた日経記事はこちら)。

 同問題に対し、今回の報告書では次の提言がなされています(p12)。

○代行部分の積立不足は母体企業が責任をもって負担することが前提であるが、一方で中小企業の連鎖倒産等による地域経済・雇用への影響、さらに基金を構成する企業が全て倒産した場合には結果的には厚生年金保険本体の財政へ影響を与えることなどを踏まえれば、問題を先延ばしせず早急に制度的な対応を行う必要がある。


○具体的には、モラルハザードの防止に留意し、厚生年金保険の被保険者の納得が十分に得られる仕組みであることを前提に、基金の自主的な努力を支援するとの観点から、特例解散における現行の納付額の特例措置や連帯債務の仕組みを見直すことを検討すべきである。この場合、連帯債務の問題については、解散後も国と基金との間の債権・債務関係が続く現在の仕組みを見直して、解散時に各事業所の債務が確定できるようにすることを検討すべきである。(以下略)。


 解散における納付額の特例措置(分割納付等)や連帯債務の仕組みの見直しが提言されていますが、具体的な中身までは踏み込んでいません。日経報道によれば、この中身として、以下のものが想定されているようです(こちら)。

財政悪化に苦しむ基金に限って、解散を促す。解散するときに国に返還が義務づけられている積立金は減額し、加入企業の負担を減らす。厚労相が解散命令を機動的に発動することも検討する。
 積み立て不足を連帯して返済する制度は廃止する。いまは仮に基金の加入企業1社が倒産しても、その分は残った企業がかぶる仕組みで、返還金の支払いに耐えきれず、連鎖倒産を誘発するおそれがあった。ただ、返還金を減額した分や倒産企業の積み立て不足分は、厚生年金財政で穴埋めする形になり、企業やサラリーマン全体に影響が及ぶ。

 来年の通常国会提出に向けて、今後、厚労省は細部を詰めていくとの事ですが、厚生年金本体の財政に影響を及ぼす問題でもあり、なかなか調整は難航しそうです。AIJ問題が発端になりましたが、以前から同問題に頭を抱えている中小企業が多く、大変な難題だと感じていました。法改正の動向を注視する要があります。

 なお本問題について、的確な解説を行ったブログとして、森本紀行氏によるものがあります。とくにコラム「厚生年金基金の相互扶助原理」は大変有益でした(こちら)。

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