2008年12月17日水曜日

定年送別会の事故と法的責任

 「定年送別会の胴上げで落下、同僚らを刑事告訴」という痛ましい事件が報じられていました(asahi.com08.12.16)。同報道に接し、真っ先に考えたのは会社側の法的責任です。マスコミ報道をみる限り、ご遺族が会社側に対してなんらかの法的請求を行ったか否かは定かではありません。

 仮にご遺族が労災認定を求めた場合、業務上認定がされ、遺族補償年金等が支給される可能性があるのでしょうか。また同僚3人らの不法行為に対する使用者責任(民法715条)を会社側に問える余地がないのでしょうか。先の報道された個別事案と離れて、この問題について法的論点の整理のみ行ってみます。

・会社主催の送別会ではどうか(なお先の報道事案は、有志主催とのこと) → 送別会参加に業務性があるとしても、「胴上げによる事故」が業務による送別会に内在するリスクといいうるのか? 故意に同僚が落下させたとすれば、業務起因性が否定されるか否か?

・会社主催ではないが、会社側が一定の費用負担を行ったり、参加案内等の便宜を図っていた場合、どうか

・社員が「退職後、開催された送別会で被災した」場合は、労災認定される余地はないか

・労災認定が不可としても、同送別会が職務との関連性を有する場合、同僚社員の不法行為に対し、会社側は使用者責任を負う可能性はあるか → 不法行為請求については、被害者が社員である必要なし(当然、被害者が業務で送別会に出ていたか否かも問題とならない)。

・使用者責任が認められるにしても、過失相殺の余地はあるか

・会社・加害社員との間の責任分担割合

 以前、アメリカの労災補償制度を勉強していた際、驚かされたのは、職場における上司・同僚・部下間の「暴力」が、労災補償認定において大きなテーマとされている点でした。日本においても、上記問題のほか、パワハラ等をめぐる労災認定が深刻化しつつあります。同問題については、大学院在学中から関心を持ち続けているテーマですので、来年は、ぜひともまとまったものを書きたいと思っています。そのためには基礎研究が不可欠。年末年始は、少し腰を落ち着けて、労災認定と民事損害賠償について研鑽を深めたいと考えています。

3 件のコメント:

56513 さんのコメント...

ブログたいへん興味深く拝見しました。
参考になるかわかりませんが、以前、タクシー会社の管理職が、約半年前に退職させた元乗務員に刺されて首に重傷を負うという事件がありました。営業所にて昼休憩中、刃物をもって乱入、あわや殺傷という事件でした。
この件、労災として認定されましたがやはり労務管理という業務に伴う潜在的危険の顕在化という枠にはとどまっているように思います。
その比較において、本件は、業務そのものとの関連性は気迫なのではないかとワタシには思われますがいかがでしょうか。
この点も含め、北岡先生のご研究に期待します。

56513 さんのコメント...

すみません。希薄がこもりすぎてしまいました(笑)

kitasharo さんのコメント...

ゴルゴ13様 コメントありがとうございます。また貴重な事案をご紹介いただき、感謝です。ご紹介いただいた事案から次のようにも考える次第です。被災した社員が加害社員の上司であり、職務に関連して様々な感情のいきちがいがあった場合は、「業務に伴う潜在的危険の顕在化」といいうる余地が生じてくるやもしれない。
 いずれにしても、日本ではまだオウムVXガス事件などを除いて、事案の集積が不十分です。他国の判断枠組みやその基準がとても参考になりそうな予感がしております。

 気迫をもって勉強せよということでしょうか(笑)。