2009年5月21日木曜日

新型インフルエンザと時間外労働

 田代眞人監修・岡田晴恵編著「新型インフルエンザの企業対策」(日本経済新聞出版社)を斜め読みしました。強毒性の鳥インフルエンザを想定した書物のため、これがそのまま現状にあてはまる訳ではありませんが、インフルエンザの基礎知識から、パンデミック時のシュミレーション、企業の事業継続計画まで大変、読み応えのある一書です。

 その中で読みやすく、かつ参考になったのが、企業事例の紹介です。ここでは東京電力、イオン、大幸製薬の対策例が紹介されています。いずれもシュミレーションに基づく具体的な対策例ですので、他業種の担当者の方がみても、参考になるところが多いと思われます。

 そこで労基法がらみの問題で気になった点が1つ。同書206pに東京電力さんの企業事例が紹介されている中に、「パンデミック時には事業所に泊まり込みとなって少人数で業務を遂行する事態も想定されるが、その場合、時間外労働や休憩・休日など、労働基準法上の保護規定を完全に遵守することは難しいということである」との記述がありました。

 確かにパンデミック時には、欠勤者が2割あるいは4割にも及ぶとされており、電力供給を継続する場合、出勤者がその穴埋めのため、長時間・休日労働をせざるを得ないことが容易に想定されるところです。この場合、特に限度基準告示どおりの36協定であれば、それを超えた残業をさせざるを得ない恐れが生じます。おそらくはこの点をさして「労基法上の保護規定を完全に遵守することは難しい」と結論づけておられると思われます。

 その一方、労基法には「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等」(同法33条)という規定があります。この規定は災害等によって時間外労働等の臨時の必要性があり、かつ事態急迫のために労基署に事前許可を受ける暇はないときは、事後に届け出ることをもって、時間外労働を行わせることができるとするものです。例えば、鉄道事業等で想定しない積雪があり、夜を徹して除雪作業を行わなければならない場合など、その翌日にこの33条届が労基署に提出されることがあります。

 ここでいう災害は自然災害のみならず、火災、爆発などの非自然災害、あるいは内乱、暴動などの事変も含むとされています。つまり人の身体生命や企業の財産等の危害を及ぼす事故又はそのおそれのある事故を意味するとされており、先の新型インフルエンザの爆発的流行(パンデミック)も、ここにいう「災害」に含まれるものと考えます。

 特に生活インフラを支える電力、水道、鉄道、小売流通などの事業は、パンデミックの際も極力、事業の継続が社会的に強く要請されます。その観点から見れば、欠勤率が高い中、出勤者に対し、36協定を超える時間外労働を命じることは「臨時の必要性」「事態急迫性」が認められると思われます。したがって、同書の東京電力については、33条に基づく事後的届けをもって、労基法上も適法化しうる余地が高いと考えるものです。もちろん事後届けを忘れてはならないのは当然ですし、事態が沈静化した際は速やかに従前どおりに切り替えることが必要でしょう。

 幸いなことに現状においては、ここまで深刻な企業対応を考える要はないようです。いずれにしましても、新型インフルエンザ問題が一刻も早く収まることを願います。
 

1 件のコメント:

avanti さんのコメント...

現在原発事故対応中の作業員にも該当するのでしょうか.まさに東電.