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2014年5月24日土曜日

【法案】過労死等防止対策推進法案の衆院委員会採決

 平成26年5月23日の衆院厚生労働委員会において、過労死等防止対策推進法案が委員長提案され、採決されたとの事。本通常国会内での成立目処がついたようです(yahooニュースはこちら)。

 報道によれば、同法案は過労死や過労自殺を社会の損失ととらえ、国の責任で防止対策を実施するよう促すとしており、具体的には①過労死の実態の調査・研究、②国民の関心と理解を深める啓発、③相談体制の整備、④民間団体の活動支援等が盛り込まれ、さらに地方自治体、事業主の協力、11月の啓発月間などが規定化されているようです

 法案の内容を確認しようと衆院HPを見ると、各党調整を経て委員長が上程したもののため今時点では未登載です(来週早々にはUPされるかと)。ちなみに衆議院提出法案を見ると、「過労死等防止対策基本法」がありますが(泉健太衆院議員(民主党)ほか提出)、法案のタイトル(「過労死等」→「過労死」、「基本」→「推進」)および法案内容が修正されているようで注意を要します(参考までに泉議員提出法案はこちら)。

 例えば泉議員提出法案では、対象とする「過労死等」について「業務における過重な身体的若しくは精神的な負荷による疾患を原因とする死亡(自殺による死亡を含む。)又は当該負荷による重篤な疾患」と定義していました。

 これが日経新聞報によると、採決された法案(過労死等防止対策推進法案)では、同法が対象とする「過労死」を「業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患や精神障害を原因とする死亡や自殺」と定義づけたとの事(こちら)。

 過重労働による重篤な疾患はさしあたり同法案の定義する「過労死」から外れることになります。この点、与野党間の調整経緯は分かりませんが、「重篤な疾患」の定義が難しく、同文言を見送った可能性があります。

 ただ産経新聞報(こちら)では、同法における調査研究では定義外のものも含めて幅広く取り扱うとしており、過重労働等による「重篤な疾患」の取扱いなども成立後の法施行に委ねられているものと思われます。

 思うに過労死の防止対策として、企業等の「過重労働防止」はもちろんですが、国民(従業員とその家族含めた)への意識啓発もやはり重要です(上記②)。また産業医はもちろん、従業員を実際に診療する開業医・勤務医の先生方はじめ地域の医療体制等は、今後ますます「過労死防止」のキーマンとなることが期待されうるものと思われます(上記③、④)。

 過重労働防止対策とともに、国民への啓蒙活動や地域の医療等を含めた産業保健の充実に、本法案が寄与することを願うものです。


(追記 2014.5.27)衆議院HPに過労死等防止対策推進法案がUPされました(こちら)。これを見ると、第2条の定義規定において、次のとおり定められています。「第二条 この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。」。

 同定義規定のみについて言えば、泉議員提出法案よりも、「過労死等」に該当する範囲は広がったものといえそうです。なお同法案は、本日(5月27日)の衆院本会議に上程されました。

2011年8月31日水曜日

社会保障と税の一体改革 by 細川厚労大臣

 内閣総辞職により、細川氏も厚労大臣を辞任されました。前大臣と比べ、手堅く確実に厚労行政を進めていただいたのではないかと感じております。1年間、誠にお疲れ様でした。ところで閣議後記者会見で「税と社会保障の一体改革」について次のとおりコメントしています(こちら)。

(記者)
 それから先程触れられました社会保障と税の一体改革、新体制でどう実現するかが問われていると思います。民主党の中には、消費税引き上げについて非常に慎重な意見もまだ根強くありまして、国の借金、次世代への先送りで社会保障制度がやっと維持されているというような現状への危機感があまりないように見受けられるんですけれども、今後、社会保障と税の一体改革をしっかりと実現していくためには、大臣としては何が必要だとお考えですか。
(大臣)
 私はこの間、社会保障と税の一体改革の議論をしてまいりまして、それについては、財務の関係をどう手当をしていくかということが大変重要な問題だったと思います。それについては消費税でしっかりやっていくということも、この成案の中にはありますし、そしてこれが進んでいくという風に思うのは、新しい総理が野田財務大臣でございますから、この社会保障と税の一体改革については、野田新総理は間違いなくしっかり進めていくということでございますから、ここは、厚生労働省も一体となってこれを進めていくと、特に工程表を着実にこなして、法律をつくっていくということが大事かと思っています。その時に国民のみなさんに出来るだけ詳しく色々とお話をさせていただく、国民のみなさんにお知らせをするということが大事だと思います。そういう工程表に従って、社会保障の改革を進めていく、それには、財源が必要だと、それを国民のみなさんに負担をしていただくということをこの法案を作る時など本当にあらゆる機会を通じて国民のみなさんに社会保障そのもののどういうところを改革していくのかということをよくお知らせをすることが大事だということを、説明して納得していただく。そしてそのためには、消費税の引き上げについて理解していただくということになろうかと思います。
(記者)
 大臣は今後、閣外でも協力していきたいとおっしゃいましたけれども、この社会保障の改革では今後どういったことをやっていくお考えでしょうか。

(大臣)
 これは多分党内あるいは国会でのいろいろな法案に対する対応というのが、これから大きな課題だろうと思います。そういう意味で、厚生労働省を離れましたら、民主党の中あるいは国会の中での対野党との関係などについて、色々と私なりに出来ることをしっかりやっていきたいと思います。 


 9月から12月までの4ヶ月が同改革案策定の正念場ですが、様々な利害が交錯する中で舵取りができるのかどうか。野田総理の手腕がまさに問われるところでしょう。

2011年4月28日木曜日

労働保険料・社会保険料免除制度創設の動向(震災関係)

 東日本大震災の被害が甚大である災害救助法適用地域等では、すでに労働保険料・社会保険料の納付期間延長又は申請猶予が取られてきました。しかしながら同制度は保険料納付が「延長」されているに過ぎず、いずれ納付することが求められます。震災によって甚大な被害を受けた事業主・従業員が同保険料を納付することが容易ではないものですが、「免除制度」についても、ようやく同立法措置の準備が動き出したようです。以下、細川厚生労働大臣の閣議後記者会見から(こちら)。

 今日は、閣議で東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律案が閣議決定されました。この法律案には厚生労働省関係としては医療機関や社会福祉施設などの各種施設の災害復旧に関する費用の補助、それから、健康保険や厚生年金の保険料の免除といった事項を盛り込んでおります。また、こうした阪神淡路大震災の際の事項に加えまして、今回新たに、通常1割負担とされている介護保険の利用者負担について市町村がこれを減免する場合にその減免分を国が負担すること、あるいは最大360日とされている雇用保険の基本手当についてその支給日数を個別に60日まで延長できるようにすること、また、被災者の死亡を要件とする遺族年金などについて、行方不明の方がたくさんおられますが、この要件というのが民法では1年となっている失踪宣告を待たずに震災から3ヶ月間不明であれば、これを支給出来るということとするといった内容が含まれているところです。厚生労働省としてはこの法律に基づいて、震災の復旧復興に全力で取り組んでいきたいと考えております。

 同日、厚労省から発表された「日本はひとつ」しごとプロジェクト フェーズ2(第2段階)において、同免除制度の概要が示されています(こちら)。 

(イ)各種保険料等の免除等(補正予算・法律改正) 1,139 億円
 医療保険、介護保険、労働保険、厚生年金保険等に関し、被災地の事業所で、震災による被害を受けたことにより、賃金の支払に著しい支障が生じている場合に、保険料等の負担の免除や減免等を行い、被災事業所の業務の再開を支援する。


 先日開催された厚労省労働政策審議会職業安定分科会において、以下のとおり労働保険料の免除制度の概要が示されておりましたが、社会保険料免除も同様のものとなりそうです(審議会配布資料によれば、①かつ②を満たす事業主に対して保険料を免除)。
 ①平成23年3月11日に、適用事業場等が特定被災区域(特定被災区域とは、災害救助法(昭和2 2年法律第118号)が適用された市町村の区域(東京都を除く。))に所在
 ②震災被害により、労働者の賃金に著しい支障が生じている等の事情
 →免除対象期間は②が認められる間(最長平成23年3月〜翌2月まで)

 神戸大震災時の対応では、同免除期間についても被保険者期間とカウントし、さらに受給の際にも納付期間と同様の取扱いをしていました。詳細がまだ明らかにされておりませんが、同様の対応が取られることが予想されます。また標準報酬額の改定緩和なども併せて取られるものと思われます。

 同法案については、第一次補正予算と合わせて順調に国会において審議され、可決成立するものと期待されますが、なお問題は残ります。まずは免除を求める際、被災地域に所在している事業場であっても、「労働者の賃金に著しい支障が生じている等の事情」が求められる点です。同要件の結果、全国展開をしている企業が被災地域に支店を設けており、これが重大な被害を受けていたとしても、同社全体としてみれば当該事情に該当しないとされ、免除制度の利用ができない可能性が高いものと思われます(支店では困難としても、「全社」的な資金繰りで払えるのであれば、免除制度など利用できなくても良いのではないかというご見解も当然にありうるところですが・・・)。
 また特定被災区域以外に所在する事業場で、計画停電・風評被害・客数減・物流毀損等様々な要因で資金繰りに困難をきたしている場合については、今回の免除制度等の対象から外れています。企業にとって社会保険料額の負担は、かってないほど重くのしかかっており、今後は徴収上の困難が更に拡大することが予測されます。

 話は変わりますが、このような中、政府は更に「税と社会保障の一体改革」でパート(短時間労働者)の社会保険適用(「緩和」→事業主の視点からみると「拡大」)を検討しています(こちら 毎日jp記事)。労働・社会保険徴収・適用の動向は、同免除制度も含めて当面注視が必要です。

2011年4月20日水曜日

「持病の薬飲み忘れた」をどう考えるべきかー病気・障害と告知ー

 先日18日、クレーン車による痛ましい交通事故が起こりました。大変なショックと憤りを感じていたところ、以下の続報を目にしました(読売新聞(こちら))

「持病の薬飲み忘れた」6人死亡事故の運転手
読売新聞 4月20日(水)3時9分配信
 栃木県鹿沼市樅山(もみやま)町の国道293号で18日朝、集団登校中の同市立北押原(きたおしはら)小学校の児童6人がクレーン車にはねられ死亡した事故で、自動車運転過失傷害容疑で逮捕された同県日光市大沢町、運転手柴田将人容疑者(26)が、栃木県警の調べに対し、「持病の発作を抑える薬を飲み忘れていた」と供述していることが19日、捜査関係者への取材でわかった。

 県警は事故原因との関連について裏付け捜査を進めている。

 捜査関係者によると、柴田容疑者は「てんかんの持病があるが、この日は発作を抑える薬を飲み忘れていた」と供述。また、事故直前にハンドルに突っ伏し、事故後もしばらく車内で動かないでいる姿が目撃されており、県警は発作を起こし、意識を失っていた可能性もあるとみている。


 18日発生時点で会社側は容疑者がてんかんの持病があるとの認識を示していませんでした(こちら)。ここからは推測に過ぎませんが、同容疑者は自動車運転免許・クレーン免許取得の際、および同社採用の際、「てんかん」であり、かつ治療中である旨、告知していなかった可能性があります。

 自動車運転免許については法改正がされており、てんかんの既往症がある方についても運転に支障がない場合、個別に公安委員会から適性判断がなされた上で、免許交付を行うこととしています(日本てんかん協会発行「波」における詳細な解説はこちら)。これを見る限り、本件容疑者が公安委員会から適性判断を受けることは困難と思われます。では何故、免許を取得していたかですが、本人が自動車運転免許・大型特殊免許を受験する際、てんかんの既往症を告知していない可能性があります。この場合は同人の学科・技能試験等のみで免許が交付される事になります。

 また同人が建設重機関係の会社に採用面接を受ける際も、同既往症の告知をしなければ、会社として本人の既往症を知りようがありません。厚労省は「公正な採用選考について」において「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施」を原則として禁止しており(こちら)、一般に採用選考時に会社側が健康診断の受診を命じることは容認されていません。また健康診断書の提出を命じたとしても、診断書発行が同人の主治医でない限り、本人の申告がなければ、他の医師が初見診断のみで、同人がてんかんの既往症を有している旨診断することは一般に不可能でしょう。

 では何故、申告しないのかですが、それは「差別」を恐れている、これが大きいと思われます。「てんかん」に対し、正しい知識普及が今なお十分でない中、既往症を告知することが「差別」につながる可能性は残念ながら高いのではないでしょうか。

 答えが容易に見つからない問題ですが、日本てんかん協会発行の「やさしいてんかんハンドブック」に以下の記載がありました。たしかにその通りだと思います(こちら)。

就職面接の際にてんかん発作があることを面接者に伝えると、展開が厳しいのが現状です。年中発作があって仕事に支障が出ると考える人事担当者が多いようです。しかし、服薬さえきちっと守っていれば大きな発作が出ることはめったにないことも事実です。発作があったとしても、1年間に発作で仕事ができない時間は、他の病気で休む時間とくらべても特に長い時間でないのですが、いつ発作が起きるか予測がつかないことが否定的理由になるのかもしれません。発作があると就職できないということはありませんが、不採用になる大きな理由の一つになっていることはやはり否定できません。
 不採用になった場合、「人事担当者がてんかんに偏見があったか無理解であった」、「てんかん発作についての説明が不十分であった」、「発作の有無ではなく、適性や能力などに足りないものがあった」など、客観的に見つめ直さなければ、目標である「就職」は難しいのではないかと思います。
 イギリスや韓国などでは、てんかんなどの障害があることを理由に雇用の差別をすることは、障害者差別禁止法などで禁止されていますが、日本ではまだそのような法律はありません。
 (中略)
 
 自動車運転などの免許は、以前はてんかんであるという理由だけで取得できませんでした。現在は、発作の有無や抑制期間の長さなどの条件によっては取得できます。免許・資格の法令・規則等では、てんかんがあるからということではなく、その業務を行うのに発作があって支障があるかどうかで判断されます。
 自動車社会では、発作があっても運転免許を取得している人も現実にはあり、運転はしないが身分証明書に利用しているだけなら支障はありませんが、運転中に発作を起こし重大な事故を起こしてしまった例もあります。自分の症状と責任を自覚しましょう


 最近、皆が不安に感じている「もの」と同様に、病気・障害についても、ご本人、家族、周りの者、社会全体それぞれが「正しく恐れる」事が重要だと感じます。

 

 

2011年4月12日火曜日

労組法上の労働者性に係る最高裁判決ー新国立劇場事件・INAX事件ー

 本日、最高裁は労組法上の労働者性について、2本の重要判決を下しました。新国立劇場事件、INAX事件最高裁判決です。早速、asahi,comで以下のとおり報じられています(こちら)。

 住宅設備のメンテナンス会社と業務委託契約を結ぶ個人事業主であっても、団体交渉が認められる「労働組合法上の労働者」に当たるかどうかが争点となった訴訟で、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は12日、「労働者に当たる」との判決を言い渡した。

 似た形態の個人事業者についても、労働者としての権利を認める先例となりそうだ。

 住宅設備会社「INAX」の子会社の「INAXメンテナンス」(IMT、愛知県常滑市)は一定の資格要件を満たした人と「カスタマーエンジニア」(CE)の契約を結び、製品修理などを委託している。

 CEの労働組合は2004年9月、労働条件を変える際には事前協議を開くことなどを申し入れたが、同社が拒否。この対応を、中央労働委員会が不当労働行為と認定し、団体交渉に応じるよう命じたため、同社が命令の取り消しを求めて提訴していた。

 2009年4月の一審・東京地裁判決は労働者と認定したが、同年9月の二審・東京高裁判決は労働者とは認めず、判断が一、二審で分かれていた。

 また、この訴訟とは別に、新国立劇場のオペラ公演に1年間出演する契約を結んだ合唱団員が、同様に「労働組合法上の労働者」に当たるかが争われた訴訟の判決も12日にあり、第三小法廷は同じく労働者と認める判断を示した。一、二審判決は「労働者に当たらない」と判断していた。


 先ほど最高裁HPを覗いてみると、すでに新国立劇場事件最高裁判決がUPされており、大変驚きました(こちら)。

 労組法上の労働者性判断にあたり、有力学説は「組織への組み入れ」の有無を重視するよう論じていましたが、本最高裁もまさにその点について次のとおり判示し、労組法上の労働者性を肯定する要素の一つとして捉えているようです。

「契約メンバーは,上記各公演の実施に不可欠な歌唱労働力として被上告財団の組織に組み入れられていたものというべきである。」

 まだざっくりとしか目を通しておりませんが、本最高裁判決を見ると、オペラ歌手に対する指揮命令の有無、場所的・時間的拘束性、報酬の労務代償性などいずれも強く肯定しています。同判示を見る限り、本件オペラ歌手は労組法上の労働者性のみならず、労基法上の労働者性をも肯定するかのように読めなくもありません(本判決上、明示していませんが)。

 INAX事件最高裁判決は残念ながら掲載されておらず、今後、何らかの機会に目を通すことになりそうですが、2つの重要最高裁判決は労組法上の労働者性のみならず、労基法上の労働者概念に対しても相応の影響を与える可能性がないか。その点が最も個人的に関心あるところです。

2011年3月31日木曜日

大震災と労災保険ー厚労省Q&A、精神障害の労災認定をめぐる課題などー

 時事通信が「勤務中の震災被害、労災認定へ 厚労省方針」と報じております(こちら

 東日本大地震で事業所や作業場が倒壊、焼失したり、大津波で流失したりして勤務中に被害に遭った人について、厚生労働省が労災認定する方針を決めたことが31日、分かった。阪神大震災の時も同様の措置を取った。

 三陸地方は明治三陸地震(1896年)など、何度も津波被害を受けているため、津波による被害を「危険な環境下で仕事をしていた結果」として、災害と業務の因果関係を認めた。大地震の発生が午後2時46分ごろと平日の昼間で勤務中の人が多かったため、対象者はかなりの数に上るとみられる。

 厚労省によると、30日までに2件の労災申請があった。岩手、宮城、福島の各労働局は避難所などで労災に関する出張相談をする予定。厚労省は「事業主や医療機関の証明書がなくても受理する。近くの労働基準監督署に問い合わせを」と呼び掛けている。

 労災と認められるのは事業所、作業場の倒壊や水没、焼失で被災した場合や、避難中や救助中、通勤中に巻き込まれた場合。休憩時間中も適用される。認定されれば遺族年金や一時金、葬祭料のほか、けがの療養費や休業補償が支払われる。

 行方不明者については本来、不明になったときから1年後に死亡とみなされた場合に請求ができるが、今回は特例として1年以内でも認定することを検討している。

 阪神大震災は発生から1年で472人が労災申請し、申請者としての要件を満たさなかった2人を除く470人(うち通勤中86人)が認定された。発生時間が午前5時46分と多くの人が勤務時間前の早朝だったため、被災者数に比べ申請者は少なかった。


 厚労省はすでに震災関連の労災事務取扱いについて通達を発出しており(こちら)、さらに「震災と労災保険」Q&Aが新たにHP上でUPされています(こちら)。時事通信の記事はこれらを確認したものと思われますが、厚労省Q&Aのとりわけ以下回答が重要です。

Q1-1 仕事中に地震や津波に遭遇して、ケガをしたのですが、労災保険が適用されますか?

(A)
仕事中に地震や津波に遭い、ケガをされた(死亡された)場合には、通常、業務災害として労災保険給付を受けることができます。これは、地震によって建物が倒壊したり、津波にのみ込まれるという危険な環境下で仕事をしていたと認められるからです。「通常」としていますのは、仕事以外の私的な行為をしていた場合を除くためです。


 従前の通達をみると(昭和49年通達、平成7年通達)、地震による災害に係る業務上外の判断は原則として天災地変によるものであるため業務外ではあるが、「被災労働者が作業方法、作業環境、事業場施設の状況等からみて危険環境下にあることにより、被災したものと認められる場合」は業務に内在する危険が現実化したものであり、業務上の災害として取り扱うとします。従って、過去の通達を前提とすると、被災した際の作業方法、環境・施設等が「危険環境下」か否かが個別に問題となりえますが、先の時事通信記事によれば、特に津波災害について「三陸地方は明治三陸地震(1896年)など、何度も津波被害を受けているため、津波による被害を危険な環境下で仕事をしていた結果と捉えるとの事。同判断によって、就業・避難中さらには通勤中に被災地で津波に遭遇し、負傷等された場合は業務上とすることが明確になったものです(避難、通勤中の考え方についても先のQ&A参照)。同行政解釈を見ると、社会全体のリスクを労災保険で引き受けるという「政策的判断」がなされたと理解しえなくもないと感じるところです。

 同通達・Q&Aによって、大震災に伴う労働保険の取り扱いが相当程度明確にはなりましたが、様々な課題が山積しています。例えば同震災に遭遇した従業員(特に自らは負傷等していない場合)が精神疾患を発症させた場合、これが業務上となるのでしょうか。また海沿いの地域で就労・避難・帰宅中、津波被害を目撃した場合と、内陸部において震度6クラスの地震に遭遇(本人、周辺の人的被害なし)した場合で判断が異なりうるのかどうか。神戸大震災の際には大きな問題となりませんでしたが、精神障害の労災認定についても、これから申請事案の増加が予想されており、検討が必要です。
 

2011年3月22日火曜日

計画停電に伴う休業に関する大臣・副大臣会見

 今朝の厚労省HPに細川大臣党の会見内容がUPされています(こちら)が、先日来、拙ブログで取り上げているパート等に対する休業期間中の所得保障等に関し、以下のとおり注目すべき答弁がみられます。

(記者)
 労働関係のご質問なのですが、災害で労働基準法26条適用が、天災ということで企業さんの計画停電や被災に伴う企業の補償で、賃金の6割適用が外されましたが、それに伴って期間工や派遣社員の方が休業補償の適用を受けられず、そのまま無給状態になってしまう状態が発生しているのですが、これについて何か手当や対策を講じるようなお考えはありますでしょうか。

(大臣)
 計画的停電が長期化するか私どもも予測がつきませんが、そういう問題についてはそれで検討していきたいと思います。今のところ明確なお答えは差し引かえさせていただきます。

(副大臣)
 雇用調整助成金で対応するようなことは言っておりますので、いろいろなケースについてきちんと対応出来るように検討して、また総合的にお伝えしたいと思います。

(大臣)
 雇用調整助成金の方は休業した場合には、これはこれで対応出来ると思いますが、いろいろなケースが考えられますからもちろん検討していきたいと思います。


 失業保険給付あるいは雇用調整助成金の弾力的運用などが検討課題になるように思われます。今後の施策の動向が注目されます。

追記
 厚労省は新たに「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第1版) 」(平成22年3月18日付け)を発出しています(こちら)。基本的には従前から発表されているものを整理したものですが、雇用調整助成金の対象となる休業が「使用者の責めに帰すべき事由」のみならず、これに該当しない場合も含まれる旨、明言した点は個人的に参考になった次第。

2011年3月19日土曜日

計画停電時の休業に伴うパート等の生活保障と雇用調整助成金

 読売新聞に「計画停電で休業は補償義務なし・・組合が撤回要請」との記事が掲載されています(こちら)。

計画停電で休業した企業は休業手当を支払う義務はないとする厚生労働省の通知が生活不安を招いているとして、派遣労働者やパートなどでつくる労働組合「全国ユニオン」は18日、厚労省に通知の撤回などを要請した。
 労働基準法では、企業の都合で労働者を休業させた場合、企業は生活保障のため休業手当を支払うよう規定。しかし、厚労省は15日、「計画停電による休業に使用者責任はない」として、休業手当を支払わなくても同法違反には当たらないとする通知を全国の労働局に出した。
 これに対し同ユニオンは、「無給休業は労働者、特に収入の低い非正規労働者の生存権を脅かす」と反発。同ユニオンには、震災による経営悪化を理由に解雇通告された被災者からの相談も寄せられているという。
(2011年3月18日21時29分 読売新聞)


 たしかに同記事のとおり、計画停電中の休業に使用者責任がないとすれば、とりわけ時間給で働くパート・アルバイトに所得減少が生じる事となります。これに対して、ユニオン側は使用者に休業手当支払いを求めるようですが、計画停電という社会的強制(ないし要請)によって被害を受けているのは従業員だけではありません。何よりも営業活動を継続したいにもかかわらず、電力の供給がストップした結果、操業を停止し、経済上甚大な不利益を受けているのは、他ならぬ使用者といえます(もちろん計画停電を口実に他の動機・目的で計画停電の前後不相応な長時間にわたって休業するような事案があれば、その休業の一部が「使用者の責めに帰すべき事由」による休業に該当し、休業手当の支払い義務を負う)。

 計画停電に伴う休業に対応したパート等への生活保障は大変に重要な問題ですが、同リスクは社会全体で引き受けるのが適切と考えます。そして、その要請に応えるのが、まさに社会保障制度の役割となりますが、残念ながら、現状では社会保障制度の方でうまく対応ができていないのが現実です。

 例えば雇用保険法では、計画停電によって経済上影響を受け、休業を余儀なくされた事業主に対して、雇用調整助成金が休業手当相当額の一部(中小企業で原則8割)を助成する制度がスタートしています(こちら)。パート・アルバイトの休業についても、事業主が同制度を活用してもらえれば良いのですが、同労働者の労働時間が週20時間未満である場合は、雇用保険の被保険者に該当しないため、同雇用調整助成金の対象とならない結果を招いています。そもそも同制度は正社員の雇用保障を目的に設計されている面が多々あり、非常に手続きが煩雑です。

 また大震災の被災地に所在する事業場では、雇用保険制度上、休職を離職とみなし、失業保険給付の対象とする特例措置が実施されています(こちら)。今のところ計画停電による一部休業については同様の対応は取られていませんが、計画停電時において同様の特例措置を講じることも検討に値します(一部休業への失業給付支給 現行制度との整合性が良いとはいえませんが)。以上のとおり社会保障制度とりわけ雇用保険法を中心に、パート等の休業に対する支援を手厚くする方策は大いに検討されて良いと考えるものです。

2011年3月18日金曜日

雇用調整助成金・雇用保険法の対応(大震災関係)

 東北関東大震災による甚大な被害は、雇用に対しても大きな悪影響を及ぼすことが懸念されています。これに対して、厚労省は雇用維持等を目的に、矢継ぎ早に雇用保険法上の施策を講じています。神戸大震災の教訓を活かしており、非常に迅速な対応であると評価して良いと考えます。

第一 失業保険給付について(厚労省HPにおける案内はこちら)。

①休業に対する「離職」みなし
 事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業を余儀なくされ、賃金を受けることができない状態にある場合は、実際に離職していなくても失業保険給付(基本手当)の支給を行う。 ※事業所が職安に「休業証明書」の提出必要
②再就職予定に対する「離職」みなし
 災害扶助法の指摘地域にある事業所が災害により事業が休止・廃止したために、離職を余儀なくされた場合、事業再開後の再雇用が予定されていたとしても離職と扱い、失業保険給付(基本手当)の支給を行う
③その他
   失業認定日の特例、失業給付の受給手続きの特例など

第2 雇用調整助成金について(厚労省HPはこちら

 震災被害に伴う経済上の理由により雇用調整助成金を利用する事業主のうち、当面、特に被害の大きかった青森、岩手、宮城、茨城の5県の災害救助法適用地域に所在する事業所の事業主については、支給要件の緩和(事業活動縮小の確認期間を3ヶ月から1ヶ月に短縮すること、生産量等が減少見込みの場合でも申請を可能とすること、計画届の事後提出を可能にすること)を実施等。その他、詳細については上記URL参照

2011年2月8日火曜日

派遣法案は予算関連法案成立のための約束手形?

 今朝の朝日新聞の報道(こちら)に以下の記事が掲載されています。

首相は7日、首相官邸で記者団に「社民党、国民新党とともに(2009年の)3党連立合意に盛り込んだ政策を実現したい」と語った。社民党が求める労働者派遣法の抜本改正と、国民新党がこだわる郵政改革法案を衆院「3分の2」に相当する318議席以上の賛成を得て再可決、成立させる姿勢を示すことで、予算関連法案への賛成を取り付けたい考えだ。


 派遣法案が予算関連法案成立のために、いわば約束手形として振り出される(「振り出され続けている」ともいえる)との事ですが、問題はその手形の支払い期日(成立日)です(これだけでは「お金」(議席)を貸していただけないようですが)。外野席から見ると、債権者・債務者ともに信頼関係が著しく失われているため、支払い期日を先に延ばすのは一般に難しいようにも思えます。
 年度末(さすがにないと思いますが)もしくは来年度当初の派遣法案強行採決があるかどうかが、当面気になるところです。

 それにしましても、労働者派遣法案そのものがきちんと顧みられず、名実ともに「政争の具」として扱われ続けている状況を憂慮するものです。先生方には法律の「製造責任」があることをお忘れなく(アメリカの立法(タフト・ハートレー法など)のように、法律に政治家の名前を付ければ、もう少しは製造責任を考えていただけるようにも思いますが如何に。派遣法であれば「福島・亀井・管」法でしょうか(笑))。

2011年2月4日金曜日

未払賃金立替払い制度の詐欺事件について

 先日、未払い賃金制度の詐欺事件が大きく報じられていました(読売新聞報はこちら)。

 会社の事業実態がなく、雇用する従業員、未払い賃金債権などあろうはずがないにもかかわらず、破産手続きを取った上で未払い賃金立替払い制度を詐取したとの事です。

 当然に許されるものではありませんが、そもそも国がそんな「古典的な」詐欺に何故引っかかるのか疑問に感じるところです。先の報道では、その疑問に対し、以下のように報じています。

同制度では、破産管財人などが作る未払い賃金の証明書や賃金台帳、元従業員の申請書などをもとに同機構が審査するが、担当職員は8人。1日の処理件数は数十件に上るといい、職員は「書類上不備がなければ通さないと、とても処理しきれない」と話している。

 
 未払賃金立替払いの処理を行う独法自体の審査が甘いかのように読めなくもない記事ですが、ここでの問題はむしろ「破産管財人」または「労基署」の破産・事実上の倒産・未払い賃金の認定にあります。今回の事件は法律上の破産手続きを取り、破産管財人の選任を受けた事案のようですが、同管財人が何故、「事業実態」を認めたのか、また従業員とその未払い賃金を確認したのか、その点こそが大きな問題であると思います。おそらくは同事案の破産手続き処理が形式的な「書面」審査で通ってしまったという事でしょうが、労基署での処理も含めて、再発防止対策がどのように講じられるかに注目するところです。

 ところで現政権の「事業仕分け」やらで未払い賃金立替払い制度の存亡が危ぶまれておりましたが、その後どうなったのでしょうか。この事件が変に使われないか、その点を少し懸念していますが、制度の必要性自体は異論ないところと思います(労使関係者間では)。

2010年12月30日木曜日

改正労働安全衛生法案における受動喫煙防止対策

 先日(平成22年12月22日)、厚労省労働政策審議会は「今後の職場における安全衛生対策について」を取りまとめ、厚生労働大臣に対し建議しました(こちら)。同建議を受けて、厚労省は来年1月からの通常国会に「改正労働安全衛生法案」を政府提出法案として提出すべく、準備を進める予定です。

 今回の建議において、まず注目されているのが受動喫煙防止に係る建議です。従前から厚生労働省(労働基準関係)も受動喫煙防止対策をガイドライン等を通じて展開してきましたが、これは「快適な職場環境形成」を目的としたものであり、法律上、事業者に対し義務づけられる性格のものとしていませんでした。これが今回の建議では「労働者の健康障害防止」とその施策の目的を転換するとともに、労働安全衛生法において事業主に同措置を義務づけることが提案されています。具体的には事業主(事務所、製造業等)に対し、職場の全面禁煙、空間分煙が法的に義務づけられるものです。これは大きな政策転換にあたるといえるでしょう。ただし同義務付けに際し、当面はその施行は行政指導によることとし、「罰則規定」は設けないこととされました。

 確かに最近では多くのオフィス、工場では、全面禁煙、空間分煙(喫煙室の別途設置)が進んでおり、これが法律上義務化されるとしても、さほど大きな影響を与えないことが見込まれています。これに対して、飲食店などのサービス業では、顧客が煙草を楽しみながら、飲食を楽しむ姿が今なお一般的です。同サービス業においては、接客等を担当する従業員は顧客が喫煙する環境の中、業務に従事する事になりますが、この場合、上記問題をどのように考えるべきでしょうか。

 この点が同建議取りまとめに際しても、大きな問題となっていました。これについて同建議では、以下のように取りまとめを行っています。
 飲食店、ホテル・旅館等の顧客が喫煙できることをサービスに含めて提供している場所についても、労働者の受動喫煙防止という観点からは、全面禁煙や空間分煙の措置をとることを事業者の義務とすることが適当である。しかしながら、顧客の喫煙に 制約を加えることにより営業上の支障が生じ、全面禁煙や空間分煙の措置をとること が困難な場合には、当分の間、可能な限り労働者の受動喫煙の機会を低減させること を事業者の義務とする。具体的には、換気等による有害物質濃度の低減等の措置をとることとし、換気等を行う場合には、浮遊粉じん濃度又は換気量の基準を達成しなけ ればならないこととすることが適当である。

 以上のとおり、サービス業の一部については、全面禁煙・空間分煙の措置を講じることが困難な場合、当分の間として「労働者の受動喫煙の機会を低減させること」つまりは「換気等による有害物質濃度の低減等の措置」を講じることで、全面禁煙等の措置に代替することを許容するとします。

 問題はこの「換気等による有害物質濃度の低減等の措置」ですが、建議では基準として以下のものを挙げます。
 換気等による有害物質濃度の低減等の措置により、浮遊粉じん濃度又 は換気量の基準については、粉じん濃度:0.15mg/m3 以下、n 席客席がある喫煙区域 における 1 時間あたりの必要換気量:70.3×n m3/時間とすることが適当である。

 同濃度の測定方法、換気設備設置・維持費用の概算などが安全衛生分科会の資料として提出されています。同資料については、人事労務担当者はもちろん、総務担当者、店舗管理担当者も早急に確認・検討すべきものといえます。

受動喫煙防止対策に係る測定方法(こちら
飲食店における換気対策に係る試算について(こちら

 なお同建議では同義務化に伴い、中小企業等に対し一定の財政支援等の施策を講じるべきとしています。

現在の政治情勢をみると、この労働安全衛生法案の行方も全く不透明ではありますが、まずは情報の整理まで。

2010年9月22日水曜日

細川厚労大臣の決意表明? 臨時国会における改正派遣法案の動向

 来月10月1日からの臨時国会開会が本決まりとなりました。人事労務畑では改正派遣法案の動向が気になるところですが、細川律夫新厚生労働大臣は今朝の日経新聞インタビューにおいて、改正派遣法案の成立に意欲を示しています(こちら)。

細川律夫厚生労働相は労働者派遣法改正案について「雇用のセーフティーネットを考えれば、どうしてもやらなければならない法案だ」と述べ、次の臨時国会での成立を目指す方針を示した。同法案は製造業派遣の原則禁止などを盛り込んでおり、先の通常国会で継続審議になっている。

 審議未了となった先の国会においても、派遣法案に関する国会答弁は主に細川氏が担当されていました(当時 副大臣)。また労働契約法等の修正にも携わった経緯等からも、民主党内にで労働法分野の第一人者と目されるところと思われますので、上記ご発言も当然かと。

 問題はいうまでもなく参議院における与野党合意の難しさですが、この点を踏まえて、法案修正に応じるのか、応じるとして、いかなる修正がなされるのか。臨時国会における審議状況が注目されるところです。

2010年9月21日火曜日

有期労働契約研究会報告書の公表について

 厚労省は先日(9月10日)、有期労働契約研究会報告書を取りまとめ、公表しました(こちら)。

 明日(9月22日)、弊事務所主催で三鷹労働法セミナーを開催いたしますが、同日のテーマとして、この有期労働契約研究会報告書の解説を予定しております(こちら 若干の空席有)。

 厚労省は今後、労働政策審議会で1年かけて有期雇用法制の在り方について審議を進め、平成23年度通常国会(再来年1月以降)での法案提出・成立を目指しているようです。同報告書において、とりわけ注目されるのが、有期雇用の締結事由あるいは更新回数・利用可能期間に対する規制の在り方に係る記述です。

 今後の法案動向を探る上で、同報告書の検討は不可欠であることは間違いのないところです。

2010年9月16日木曜日

改正労働安全衛生法案の検討項目

 昨日(9月15日)、厚労省において労働政策審議会労働安全衛生分科会が開催されました。同日の主なテーマな労働安全衛生法の検討項目。来年1月からの通常国会での成立を目指し、労働安全衛生法の改正案策定が本格化したものです(改正に向けた検討項目はこちら)。

 今回の改正において、とりわけ注目されるのが、職場における受動喫煙防止対策とメンタルヘルス対策です。詳細については、今後の審議会での議論さらには国会での審議等に委ねられる訳ですが、昨日の議論を傍聴し、今後の議論の焦点になると感じたのが次の点です。

受動喫煙防止対策 
・レストラン・居酒屋等における受動喫煙防止のための施策をどのように設計するか。
・履行確保手段として、いかなるものを想定するのか(刑事罰を背景とした労基署の監督指導、刑事罰を背景としない指導、またはガイドラインにとどめるか)。

メンタルヘルス対策 
・パワハラ等のメンタルヘルス問題予防のための対応をどうするか(審議会では、分科会で検討はするものの、労働条件分科会等での議論が適切との事務局見解あり)
・1年1回の定期健診による問診をもって、実効性のあるメンタルヘルス対策が可能であるのか(使用者側委員からの質問)
 確かに同質問のとおり、今回のメンタルヘルス健診案は、その目的と実効性が今ひとつ判然としません。これに対して、事務局側はメンタルヘルス健診の目的を「疾病の発見よりも、従業員本人の気づきを促すこと」等と説明していました。

 従業員の気づきを促進する方法として定期健診の活用が適切か否かが、今後の大きな検討課題になりそうです。

2010年9月14日火曜日

地域別最低賃金(平成22年度) 各都道府県答申まとまる

 厚労省HPに平成22年度地域別最低賃金の答申状況がUPされています(こちら)。

 本日段階、多くの都道府県では答申に対する異議申立手続きを進めており正式発効していませんが、今月中には概ね同内容で決定するものと思われます(本日段階での決定状況はこちら)。

 個人的には長らく住み、愛着ある北海道の金額がどうしても目を引きます。ドライブ途中に寄った札幌市外のコンビニ等にも、当然に道地域別最低賃金額が適用されることになりますが、大丈夫でしょうか。もちろん生活保護費との均衡含め様々な考慮要素を基に公労使が審議を重ね答申が示されたものですが、なかなか厳しい印象を受けました。とはいえ一度決められたものは当然ながら守られなければなりません。最低賃金法の施行は年々、厳しさを増しています。

2010年9月8日水曜日

健康診断の適用対象労働者拡大?ー職場におけるメンタルヘルス対策検討会報告書から

 「職場におけるメンタルヘルス対策検討会報告書」(こちら)を読み進めていたところ、次の記述が目につきました。

カ 健康診断の対象労働者の拡大
メンタルヘルス不調に影響を与えるストレス等の要因への対応が幅広く実施されるようにするため、健康診断の対象となる非正規労働者の範囲の拡大について別途検討が必要である。


 これをどのように読むべきでしょうか。短時間労働者に対する定期健診の取扱いについて、現行法では以下の取扱いとされています(愛知労働局HPの解説はこちら)。

 1年以上の雇用見込みがある者(有期でも見込みがあれば対象)で、かつ1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること

 上記研究会報告はそもそも定期健診等の適用対象拡大を検討課題としているのか、あるいはメンタルヘルス健診に限って適用対象を拡大しようとしているのか定かではありませんが、いずれにしても、適用対象者の拡大は企業にとって相応のコストと準備を要します。この点について、これから始まる労働政策審議会でどのように審議が進められていくのか、注視しておく要がありそうです。

2010年8月12日木曜日

行政調査・指導・罰と刑事告発の関係性~証券等監視委委員長コメントから

 asahi.comの「法と経済のジャーナル」に証券等監視委の佐渡委員長インタビューが掲載されています(こちら)。

 佐渡氏の前職は検察官であり、金丸事件捜査などを担当されたとの事。当時の捜査、そして政治資金絡みの案件に対する興味深いコメント、経済事件における暴力団の暗躍(まさに「レディ・ジョーカー」の世界)など非常に読み応えあるインタビュー記事ですが、個人的にとても興味深かったのが、証券等監視委員会における行政調査・指導と刑事告発等案件の関係です。

 同委員会が設立されてから佐渡委員長が就任するまでは、内部告発案件などの貴重な情報を刑事告発等を担当する出向検事等が情報を囲い込んでしまい、行政調査・指導のセクションにうまく同情報が流れていかなかったとの事です。これを佐渡委員長が内部告発等の情報の流れをかえ、行政調査・指導担当部署に流し、調整することにしたようです。

 また同委員会は行政権限を拡充し、「課徴金」などの行政罰を充実させ、これと刑事罰の棲み分けを行う取組みを進めているとの事(以下コメントのとおり)。

「カギのひとつは課徴金だね。むしろ課徴金を活用することによって、犯則手続で処理すべき案件との境界線が明瞭になってきた。それまでは、課徴金で処理してもいいような事件まで検察に持ち込んでいた。なんでこんなものを持ち込んでいるんだ、とやめさせたケースもある。そんなものを犯則でやろうとしたら、検察との間でいろいろ議論になるに決まっている。そういうことでもごたごたしていた。犯則事件として取り掛かった以上は何とか告発したいという発想になっていた」

 「いまは、情報を、その情報処理に合った部門に適切に配転し適切に処理するようになった。だから、いまは、犯則で持ち込む事件はまったく問題がなくなった。課徴金をうんと活用してもらった方がいいんだ」


 この問題は労働・社会保障分野における行政権限と刑事罰との関係を考える上でも、大変に示唆的であるように思えます。労働基準法の罰則規定をぱらぱら読み直して、改めて感じる次第。

2010年7月26日月曜日

「ケータイを持たせて事業場外みなしが可能か」再論

 以前、濱口桂一郎先生の「EU労働法政策雑記帳」ブログで「ケータイを持たせて事業場外みなしが可能か」について、ご指導を頂いたことがありました(こちら)。この問題が阪急トラベルサポート事件(東京地判平成22年7月2日(判例集未掲載))において、まさに論じられておりましたので、ご紹介まで。

 同事件は先日の拙ブログ(こちら)において紹介したとおり、旅客添乗員の事業場外みなし適用を肯定した上で、裁判所が「必要時間数が11時間」であったと認定し、法定労働時間との差額分3時間(1日あたり)の残業手当請求を認容したものであり、過去の裁判例・行政解釈と比較しても大変に特異な判断を示したものであり注目していました。

 同判決ではまず事業場外みなし労働は「事業場外での労働は労働時間の算定が難しいから、できるだけ実際の労働時間に近い線で便宜的な算定を許容しようという趣旨」とした上で、労働時間適正把握義務、4・6通達をひもとき、次のように指摘します。

 「みなし労働時間制が適用される「労働時間を算定し難いとき」とは、労働時間把握基準が原則とする前記アおよびイ(※筆者注 上司の現認およびタイムカード等の客観的な記録による確認)の方法により労働時間を確認できない場合を指すと解される」。

 そのように判示した上で「自己申告制による労働時間を算定できる場合であっても「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合があると解される」旨明言しています。その理由として「自己申告制・・を排除するとすれば・・事業場外労働であって、自己申告制により労働時間を算定できない場合は容易に想像できず、労基法が事業場外みなし労働時間制を許容した意味がほとんどなくなってしまうから」とするものです。また原告が事業場外みなし労働時間制は実労働時間算定原則の例外規定であり、限定解釈すべきと主張した点については「しかし、この制度が実労働時間算定原則の例外であるとしても、労働者は実際の労働時間に即した算定を主張することができるから、必ずしも厳格に限定解釈をするべきとはいえない。」
 
 従来の裁判例をみると、事業場外みなし制度は例外的な制度とし、限定解釈を行うことが通例でした。また自己申告によって労働時間数の把握が可能であれば、特段異論なく「労働時間を算定できる」と解し、事業場外みなし適用を否定してきたものであり、この点に本判決の大きな特徴があります。その上で原告に主張に答える形で本地裁は次のとおり答えます。

「また・・通信手段が相当発達しており、使用者は、労働者が今どこにいるかリアルタイムで把握することができ、思い立ったときには指示をし、報告を求めることができるから、事業場外みなし労働時間制は相当の僻地への出張など極めて限定された場合にのみ妥当すると主張する。」「しかし、電話やファクシミリなど必要な場合は連絡可能な設備が備え付けられている在宅勤務について、事業場外みなし労働時間制の適用があることを完全に否定することにもなりかねず、原告の主張は、採用できない。」
 その上で本判決ではあてはめにおいて、派遣先が貸与していた携帯電話が使用されていたか否かを検討し、いずれも本件においては「携帯電話により具体的な指示を受けたことはなかった」と評価しています。

 労基署どころか裁判所においても「ぶれ」が生じてしまった次第です。また本判決は濱口先生が指摘される「携帯電話の即応性」に答えるものではありません。もう少し理由付けを示していただきたかったところでありますが、本件は海外旅行の添乗員という性質上、日本国内から連絡がなされる可能性が低く、その点を考慮した事例判断と解する余地もあるやもしれません。

 いずれにしましても、同一会社のさほど事実関係が異ならない旅行添乗員(国外旅行の方が日程変更等の自由度が高いのは間違いないようですが・・)に対する事業場外みなし適用可否で判断が分かれておりますので、東京高裁にまとまった判断を示していただきたいところです。

 また同事件のニュースだけを見て、もう「事業場外みなし」の適用は法的リスクがないと思われた方もいらっしゃるやもしれませんが、仮に適用が肯定されたとしても、「必要時間数みなし」「賃金制度」の問題が残ります。本事件でも事業場外みなしの適用が肯定された一方、賃金制度の面で会社に厳しい判断が示されており、実質使用者側が一部敗訴しています。この問題については、事業場外みなしの適用可否のみならず、時間管理、賃金制度設計なども含めて対応策を検討していかなければならないことも、本判決が示唆するところです。


 

2010年7月22日木曜日

改正派遣法案の動向ー前国会委員会審議にみる公明党とみんなの党の立場の近さー

先の通常国会における派遣法案の審議状況を確認しようと、衆議院hpの厚生労働委員会議事録を読みふけっておりましたところ、これからの派遣法案動向を左右する公明党、みんなの党の質問内容の近さに気がつきました(平成22年5月28日衆議院厚生労働委員会)。

公明党からは坂口力委員(前厚労大臣)が質問されていますが、そこで主に議題とされていたのが、派遣法規制強化による雇用市場全体への影響、とりわけ請負へのシフト化を前提とした請負会社の就労条件でした。政府側も請負会社に関する政府調査が十分に行われていない関係上、坂口委員の質問に十分に答えうるところではありませんでしたが、答弁によると概ね派遣社員と請負社員の労働条件に大きな相違性がないように思われました。

みんなの党は柿澤委員が答弁にたっていますが、そこでも指摘されていたのが、派遣規制強化による「請負へのシフト化」とこれに伴う当該従業員の労働条件低下への懸念でした。

同質疑からみると、9月以降の国会で改正派遣法案が審議される場合は、派遣規制強化に伴う「請負シフト化」への対応策が「国会対策上」も重要なポイントとなる可能性があるように思われます。

それはさておき、同委員会議事録をみておりますと、大臣答弁などで以下の注目すべき発言がみられます。改正法案が成立した場合は、通達、指針等の改正がすでに予定されているとみるべきでしょう(主に平成22年4月23日衆院厚生労働委員会議事録から)
・専門26業務の内容については再検討をおこない、登録型派遣の原則禁止(施行から3年以内)までに目処をつける
・常用雇用の定義から、日々雇用で1年以上の雇用見込みがあるものを除くこととする
・常用雇用の派遣労働者については、雇用契約書等で更新回数を明らかとするよう派遣元指針に明記し、指導。