2011年4月20日水曜日

「持病の薬飲み忘れた」をどう考えるべきかー病気・障害と告知ー

 先日18日、クレーン車による痛ましい交通事故が起こりました。大変なショックと憤りを感じていたところ、以下の続報を目にしました(読売新聞(こちら))

「持病の薬飲み忘れた」6人死亡事故の運転手
読売新聞 4月20日(水)3時9分配信
 栃木県鹿沼市樅山(もみやま)町の国道293号で18日朝、集団登校中の同市立北押原(きたおしはら)小学校の児童6人がクレーン車にはねられ死亡した事故で、自動車運転過失傷害容疑で逮捕された同県日光市大沢町、運転手柴田将人容疑者(26)が、栃木県警の調べに対し、「持病の発作を抑える薬を飲み忘れていた」と供述していることが19日、捜査関係者への取材でわかった。

 県警は事故原因との関連について裏付け捜査を進めている。

 捜査関係者によると、柴田容疑者は「てんかんの持病があるが、この日は発作を抑える薬を飲み忘れていた」と供述。また、事故直前にハンドルに突っ伏し、事故後もしばらく車内で動かないでいる姿が目撃されており、県警は発作を起こし、意識を失っていた可能性もあるとみている。


 18日発生時点で会社側は容疑者がてんかんの持病があるとの認識を示していませんでした(こちら)。ここからは推測に過ぎませんが、同容疑者は自動車運転免許・クレーン免許取得の際、および同社採用の際、「てんかん」であり、かつ治療中である旨、告知していなかった可能性があります。

 自動車運転免許については法改正がされており、てんかんの既往症がある方についても運転に支障がない場合、個別に公安委員会から適性判断がなされた上で、免許交付を行うこととしています(日本てんかん協会発行「波」における詳細な解説はこちら)。これを見る限り、本件容疑者が公安委員会から適性判断を受けることは困難と思われます。では何故、免許を取得していたかですが、本人が自動車運転免許・大型特殊免許を受験する際、てんかんの既往症を告知していない可能性があります。この場合は同人の学科・技能試験等のみで免許が交付される事になります。

 また同人が建設重機関係の会社に採用面接を受ける際も、同既往症の告知をしなければ、会社として本人の既往症を知りようがありません。厚労省は「公正な採用選考について」において「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施」を原則として禁止しており(こちら)、一般に採用選考時に会社側が健康診断の受診を命じることは容認されていません。また健康診断書の提出を命じたとしても、診断書発行が同人の主治医でない限り、本人の申告がなければ、他の医師が初見診断のみで、同人がてんかんの既往症を有している旨診断することは一般に不可能でしょう。

 では何故、申告しないのかですが、それは「差別」を恐れている、これが大きいと思われます。「てんかん」に対し、正しい知識普及が今なお十分でない中、既往症を告知することが「差別」につながる可能性は残念ながら高いのではないでしょうか。

 答えが容易に見つからない問題ですが、日本てんかん協会発行の「やさしいてんかんハンドブック」に以下の記載がありました。たしかにその通りだと思います(こちら)。

就職面接の際にてんかん発作があることを面接者に伝えると、展開が厳しいのが現状です。年中発作があって仕事に支障が出ると考える人事担当者が多いようです。しかし、服薬さえきちっと守っていれば大きな発作が出ることはめったにないことも事実です。発作があったとしても、1年間に発作で仕事ができない時間は、他の病気で休む時間とくらべても特に長い時間でないのですが、いつ発作が起きるか予測がつかないことが否定的理由になるのかもしれません。発作があると就職できないということはありませんが、不採用になる大きな理由の一つになっていることはやはり否定できません。
 不採用になった場合、「人事担当者がてんかんに偏見があったか無理解であった」、「てんかん発作についての説明が不十分であった」、「発作の有無ではなく、適性や能力などに足りないものがあった」など、客観的に見つめ直さなければ、目標である「就職」は難しいのではないかと思います。
 イギリスや韓国などでは、てんかんなどの障害があることを理由に雇用の差別をすることは、障害者差別禁止法などで禁止されていますが、日本ではまだそのような法律はありません。
 (中略)
 
 自動車運転などの免許は、以前はてんかんであるという理由だけで取得できませんでした。現在は、発作の有無や抑制期間の長さなどの条件によっては取得できます。免許・資格の法令・規則等では、てんかんがあるからということではなく、その業務を行うのに発作があって支障があるかどうかで判断されます。
 自動車社会では、発作があっても運転免許を取得している人も現実にはあり、運転はしないが身分証明書に利用しているだけなら支障はありませんが、運転中に発作を起こし重大な事故を起こしてしまった例もあります。自分の症状と責任を自覚しましょう


 最近、皆が不安に感じている「もの」と同様に、病気・障害についても、ご本人、家族、周りの者、社会全体それぞれが「正しく恐れる」事が重要だと感じます。

 

 

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