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2011年6月8日水曜日

節電に向けた労働時間の見直しQ&Aについて

 厚労省から「節電に向けた労働時間の見直しQ&A」が発表されています(こちら)。

 夏季の節電対応策として、すでに検討が進んでいる始業・終業時間の繰り上げ、変形労働時間制、計画年休導入に伴う疑義応答が示されているものです。概ね従来からの通達を整理したものといえますが、新たな見解が示されているものとして、変形労働時間制の中途変更・解消および子の養育を行う労働者に対する所定労働時間の短縮措置に係るものが挙げられます。複雑難解な制度が同質疑応答によって更に混迷を深めている感がありますね。
 

2010年8月2日月曜日

事業場外みなしの典型的否定例?~某省大臣答弁から~

厚生労働大臣の記者会見(厚労省HP)を眺めておりましたら、以下のような興味深いご答弁がありました。

(記者)
 それに関連してですが、厚生労働省は以前から残業が非常に多い役所として有名だったのですが、新しい体制になって更に残業が増えたというデータが組合の調査で分かったのですが、これまで残業を減らすような努力を政務三役でされていたのか、もしもそうでなければこれからそういうことを考えて行くことがあるのか教えてください。

(大臣)
 そのアンケートを私も詳細には拝見しておりませんが、労働組合がやって厚生系は横ばい、労働系は残業時間が増えているという結果が出たということです。昨日も幹部と話をいたしましたが、労働系は新たな雇用施策を矢継ぎ早に打ち出しているのでその影響もあるのではないかということです。いずれにいたしましても、残業時間というのは多いと私も思っておりまして、我々も担当部局に改善を指示をして取り組んでいるところです。一番業務として指摘をされるのが、国会待機の問題があります。それについてはいちいち待機をしないでも、メールで連絡が常に取れる体制であればいいとか、いろいろ各部局で帰りの施錠時間を少しでも短縮しましょうということで、その目標を朝礼でも各部局から出していただいてどうすればいいのかという議論もしているところです(以下後述)。


 各部局で施錠がされた後、「メールで連絡が常に取れる体制」で、案件によっては即戻り執務に就くという状態は、労働法上、どのように評価されるのかは大変、気になるところではあります(今回問題となっている国家公務員(非現業)に労基法が適用されませんので、労基法の労働時間規制を論じる実益は実のところないのですが、国家公務員法上はどのように評価されうるのかも興味深い問題です)。濱口先生が懸案されていた事業場外みなし労働対象者に対する「携帯所持」も、まさにこのような状況での運用を指摘されていたのではないかと感じた次第です。

 なお大臣の以下の答弁続きは、全く正論だと感じました。この正論をいかにして実現していくかが、かねてから問われている訳ですが・・・。
必要のない業務、そして、無駄な事業をなくして行くことが重要でして、ある意味では省内事業仕分けを通じても無駄な事業をなくすことは職員の負荷も軽くなりますし、税金もそこで助かります。また、不必要な天下り団体があることで、そこで流れる金もありますし業務も付随して参りますので、それについて厳しくメスを入れて行くことで適正な業務量にして行きたいと思います。その一方で、部局間のばらつきも感じておりまして、法案を抱えている部局はその時期集中して忙しくなります。当初私も感じましたのは、縦割りでなかなか人がスムーズにそこに集中して、ある意味で助っ人として支援が回らないということもありました。それは我々も改善をすべく法案が集中する部局には、出来る限り人が回るような形をこれまでも実践して来ておりますので、そういうことを通じて少しでも改善する必要があります。
 もう一つは人材が不足している部分もありますので、社内の研修制度も充実して的確に業務が出来るような体制、今は部局の基礎知識がなく人事異動で放りこまれて、オン・ザ・ジョブ・トレーニングと言えば体裁はいいのですが、なかなかそこで業務がスムーズに行かないということもありまして、圧倒的に厚生労働省は研修が不足しておりますので、そういうことを含めて役所文化を変えることは、国民の皆様にとっても税金の無駄遣いがなくなるということでしょうし、職員の皆様にとっても不必要な業務がなくなるということですので、それについてはきちんと説明をしながら取り組んで行きたいと思います。

2010年7月26日月曜日

「ケータイを持たせて事業場外みなしが可能か」再論

 以前、濱口桂一郎先生の「EU労働法政策雑記帳」ブログで「ケータイを持たせて事業場外みなしが可能か」について、ご指導を頂いたことがありました(こちら)。この問題が阪急トラベルサポート事件(東京地判平成22年7月2日(判例集未掲載))において、まさに論じられておりましたので、ご紹介まで。

 同事件は先日の拙ブログ(こちら)において紹介したとおり、旅客添乗員の事業場外みなし適用を肯定した上で、裁判所が「必要時間数が11時間」であったと認定し、法定労働時間との差額分3時間(1日あたり)の残業手当請求を認容したものであり、過去の裁判例・行政解釈と比較しても大変に特異な判断を示したものであり注目していました。

 同判決ではまず事業場外みなし労働は「事業場外での労働は労働時間の算定が難しいから、できるだけ実際の労働時間に近い線で便宜的な算定を許容しようという趣旨」とした上で、労働時間適正把握義務、4・6通達をひもとき、次のように指摘します。

 「みなし労働時間制が適用される「労働時間を算定し難いとき」とは、労働時間把握基準が原則とする前記アおよびイ(※筆者注 上司の現認およびタイムカード等の客観的な記録による確認)の方法により労働時間を確認できない場合を指すと解される」。

 そのように判示した上で「自己申告制による労働時間を算定できる場合であっても「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合があると解される」旨明言しています。その理由として「自己申告制・・を排除するとすれば・・事業場外労働であって、自己申告制により労働時間を算定できない場合は容易に想像できず、労基法が事業場外みなし労働時間制を許容した意味がほとんどなくなってしまうから」とするものです。また原告が事業場外みなし労働時間制は実労働時間算定原則の例外規定であり、限定解釈すべきと主張した点については「しかし、この制度が実労働時間算定原則の例外であるとしても、労働者は実際の労働時間に即した算定を主張することができるから、必ずしも厳格に限定解釈をするべきとはいえない。」
 
 従来の裁判例をみると、事業場外みなし制度は例外的な制度とし、限定解釈を行うことが通例でした。また自己申告によって労働時間数の把握が可能であれば、特段異論なく「労働時間を算定できる」と解し、事業場外みなし適用を否定してきたものであり、この点に本判決の大きな特徴があります。その上で原告に主張に答える形で本地裁は次のとおり答えます。

「また・・通信手段が相当発達しており、使用者は、労働者が今どこにいるかリアルタイムで把握することができ、思い立ったときには指示をし、報告を求めることができるから、事業場外みなし労働時間制は相当の僻地への出張など極めて限定された場合にのみ妥当すると主張する。」「しかし、電話やファクシミリなど必要な場合は連絡可能な設備が備え付けられている在宅勤務について、事業場外みなし労働時間制の適用があることを完全に否定することにもなりかねず、原告の主張は、採用できない。」
 その上で本判決ではあてはめにおいて、派遣先が貸与していた携帯電話が使用されていたか否かを検討し、いずれも本件においては「携帯電話により具体的な指示を受けたことはなかった」と評価しています。

 労基署どころか裁判所においても「ぶれ」が生じてしまった次第です。また本判決は濱口先生が指摘される「携帯電話の即応性」に答えるものではありません。もう少し理由付けを示していただきたかったところでありますが、本件は海外旅行の添乗員という性質上、日本国内から連絡がなされる可能性が低く、その点を考慮した事例判断と解する余地もあるやもしれません。

 いずれにしましても、同一会社のさほど事実関係が異ならない旅行添乗員(国外旅行の方が日程変更等の自由度が高いのは間違いないようですが・・)に対する事業場外みなし適用可否で判断が分かれておりますので、東京高裁にまとまった判断を示していただきたいところです。

 また同事件のニュースだけを見て、もう「事業場外みなし」の適用は法的リスクがないと思われた方もいらっしゃるやもしれませんが、仮に適用が肯定されたとしても、「必要時間数みなし」「賃金制度」の問題が残ります。本事件でも事業場外みなしの適用が肯定された一方、賃金制度の面で会社に厳しい判断が示されており、実質使用者側が一部敗訴しています。この問題については、事業場外みなしの適用可否のみならず、時間管理、賃金制度設計なども含めて対応策を検討していかなければならないことも、本判決が示唆するところです。


 

2010年7月5日月曜日

事業場外みなし労働をめぐる混乱(阪急トラベルサポート事件から)

 先週末、北大の社会法研究会で「阪急トラベルサポート事件」(東京地裁平成22年5月11日)の判例報告を行いました。旅行添乗員に対する事業場外みなし労働適用の可否等が争われた裁判例ですが、同判決では、みなし労働の適用を否定し、原告請求を全額認容しています(時間外割増賃金および付加金請求)。

 拙報告では、一部判旨に疑問を指摘するものの(携帯「所持」を否定要素とした点および飛行機搭乗中の労働時間性など)、概ね結論・理由を支持する報告を行いました。その席で先輩会員から「今朝の新聞に、同じ会社で事業場外みなし労働の適用を肯定した判決が登場した」とご紹介を受け、驚愕。

 慌ててインターネット検索をしたところ、確かに同判決が出たようです(時事通信社 こちら)。
添乗員みなし労働は妥当 HTSに逆の司法判断

 阪急トラベルサポート(HTS、大阪市)から「事業場外みなし労働制」の適用を理由に残業代を支給されなかったとして、派遣添乗員の女性が計約44万円の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁は2日、適用を妥当と判断した上で約24万円の支払いを命じた。

 事業場外みなし労働制は労働基準法で定められ、会社の指揮・監督が及ばず、労働時間の算定が困難な場合に一定時間働いたとみなされる。HTSをめぐっては5月に、別の添乗員の訴訟で東京地裁の別の裁判官が適用を否定する判決を出しており、判断が分かれる形となった。

 田中一隆裁判官は「原告は単独で業務を行い、旅先に到着後も会社に必ず連絡して指示を受けたりはしていない。日程も大まかで変更などもあった」と指摘、労働時間の算定が困難な場合に当たると判断した。

 その上で1日のみなし労働時間をHTS側の主張と同じく11時間と認定。労働基準法に基づき8時間を上回る3時間分と休日労働については時間外の割増賃金計約12万円、さらに同額の付加金も併せて支払うよう命じた。

 判決によると、女性は2007年12月~08年1月にかけ、ヨーロッパへの二つのツアーに参加した


 私が報告した事件は主に国内ツアーが中心(JR、バスなどを主として利用)でしたが、上記事案は国外ツアーの添乗業務に対する事業場外労働みなしが争われていたようです。

 上記2事案がかくも結論を異にしたのは、事案の相違性か(国内と国外の違い?)、あるいは事業場外みなし労働に係る規範とそのあてはめに起因するものか。東京地裁平成22年7月2日判決を早く確認し、分析したいところです。

2010年5月25日火曜日

「「日本海庄や」過労死訴訟、経営会社に賠償命令」と会社法429条

 マスコミ各紙において「「日本海庄や」過労死訴訟、経営会社に賠償命令」が大きく報じられています(以下、読売新聞)。同報道においても特記されているのが、役員の賠償責任を認めた点です。

5月25日11時27分配信 読売新聞

 全国チェーンの飲食店「日本海庄や」石山駅店(大津市)で勤務していた吹上元康さん(当時24歳)が急死したのは過重な労働を強いられたことが原因として、両親が経営会社「大庄」(東京)と平辰(たいらたつ)社長ら役員4人に慰謝料など約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、京都地裁であった。

 大島真一裁判長は「生命、健康を損なわないよう配慮すべき義務を怠った」として、同社と4人に対し、約7860万円の支払いを命じた。

 原告側の弁護士によると、過労死を巡る訴訟で、役員の賠償責任を認めた司法判断は珍しいという。

 判決によると、吹上さんは2007年4月に入社後、石山駅店に配属されたが、同8月11日未明、自宅で就寝中に急性心不全で死亡。死亡まで4か月間の時間外労働は月平均100時間以上で、過労死の認定基準(月80時間超)を上回り、08年12月に労災認定された。

 大島裁判長は、同社が当時、時間外労働が月80時間に満たない場合は基本給から不足分を控除すると規定していたと指摘。「長時間労働を前提としており、こうした勤務体制を維持したことは、役員にも重大な過失がある」と述べた。

 閉廷後に記者会見した母の隆子さん(55)は「従業員が過労死した企業には公表義務を課すなど、社会全体で厳しい目を向けて監視していく必要があると感じた」と語った。

 大庄広報室は「まだ判決が届いておらずコメントできないが、今後は内容を十分に検討して対応する」としている。


 役員の損害賠償責任を認めた根拠条文が報道では明らかではありませんが、恐らくは役員等の第三者に対する損害賠償責任を認めた会社法429条1項(旧商法266条の3)ではないかと思われます。

会社法429条1項 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

 同法を根拠に安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を取締役にも連帯して支払うよう命じた裁判例は、これが初めてではありません。おかざき事件(大阪高判平成19年1月18日 労判940-58)が挙げられます。同事案については、濱口桂一郎先生のブログにおいてもすでに紹介されています。(こちら)。

 おかざき事件は小規模会社における代表取締役の連帯責任が問われたものです。また本ブログにおいても、以前、残業手当請求に係る取締役の連帯責任を認めた裁判例を紹介したことがあります(こちら)。同事案も中小企業における取締役等の連帯責任が認められた事案です。

 これに対して、上記事案は東証一部上場企業における役員の連帯責任を認めたものであり、この点で大きく異なります。更に報道記事によれば、「長時間労働を前提とした勤務体制、賃金制度の構築」が取締役の重過失を構成すると判示したとの事です。同判示部分については先例的な意義を有するものであり、今後、これが会社法429条1項に係る判例法理として形成されていくのか否か。同判断基準の適否とその適用、その射程など今後注意深く見守っていく要がありそうです。まずは同判決文をじっくりと勉強しなければなりません。

2010年5月14日金曜日

旅行添乗員の事業場外みなし労働適用について

 先日(5月11日)、東京地裁で旅行添乗員の事業場外みなし労働の適用を否定し、未払い残業代とともに同額の付加金支払いを命じた裁判例が出されました。会社側は控訴するようです(asahi.comはこちら)。

 同問題については、すでに労基署においても、事業場外みなしの適用を否定し、是正勧告を交付する例が相次いでいる上、労働審判においても、同適用を否定する旨の審判が示されておりました。

 労基署の是正勧告書において、事業場外みなし適用を否定する理由の一つとして挙げられているのが、旅行日程です。私もたまに家族と国内バスツアーを利用することがありますが、どこに何時に立ち寄るか事細かに定められています。添乗員も当然に、その旅行日程を遵守するべくガイドされているものですが、この結果、同添乗員については「事業場外」とはいえ、その就労状況の把握は極めて容易といえます。また同添乗員が旅行日程に反した就労を行うことは、通常不可能といえます(旅行日程に反するということは、職場放棄を意味し、顧客からクレームが出ることが必至)。

 先日の東京地裁判決はまだ未入手ですが、報道を見る限り、同様の判断を行ったものと思われます。会社側は控訴する意向のようですが、かなり厳しいと思います。他方、事業場外みなしの適用が否定された場合、労働時間の把握が問題となります。これについては、旅行同行中における添乗員の「休憩時間」が論点となりうるでしょう。

 ところで先日、某国のバスツアーを楽しんだところ、同添乗員の対応に新鮮な驚きを受けました。目的地に着けば、もうお客任せ。何もアテンドいたしません。お客さんもそれに何ら不満なく、ぞろぞろと好きなところに行って、定刻までに帰ってきていました。日本の場合、あまりにお客に過保護すぎる(お客も甘えすぎる)ような気もいたします。バスツアーを愛用する立場からいえば、添乗員の長時間拘束(労働?)問題も、この辺りの問題がキーポイントであるように感じます。

 

2010年4月23日金曜日

管理監督者問題(日本マクドナルド事件)と菅野「労働法(第9版)」

 思い起こしますと一昨年、日本マクドナルド事件東京地裁判決において、店長の管理監督者性が否定され、企業実務にも大きな衝撃が走りました。

 その後、一部行政指導等の中には、同東京地裁判決を根拠に、管理監督者たるものは全社的な経営に関与していなければならず、店舗などの組織をいかに労務・経営管理していても管理監督者にあたらないとするものが散見され、大変強い違和感を感じておりました(以前述べたブログはこちら)。同判決の規範部分に対する批判的検討として、拙「ファーストフード店店長の管理監督者性」(季労222号)、峰隆之弁護士著「管理監督者問題とは何か」(労働法学研究会報2432号)などがありますが、少数説の感がありました。

 これに対して、今回の菅野「労働法(第9版)」では管理監督者問題に対して、相当に踏み込んだ記述がみられます(p284以下)。特に以下部分に大変刺激を受けました。
 「近年の裁判例を見ると・・・これを企業全体の運営への関与を要すると誤解しているきらいがあった。企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ、それらを連携統合しているのであって、担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが「経営者と一体の立場」であると考えるべきである。そして、当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば、その管理を通して経営に参画することが「経営に関する決定に参画し」にあたるとみるべきである」。

 その上で菅野先生は日本マクドナルド事件の結論については、注22において「店長の権限と役割からは、店長の業務にのみ従事しているのであれば十分に管理監督者と認められえたが、シフト・マネージャーの業務が加わったことによって、労働時間規制を適用除外するには不適切になったと思われる」 とします。

 菅野先生の明快かつ周到な記述に及ばないにしても、日本マクドナルド事件東京地裁判決に対する見解自体は前述の拙評釈も比較的近いものがあると思われ、私的には大変勇気づけられました。峰論文と比較すると、更にその近時性を感じました。

 いずれにしましても、同菅野先生の記述を受けて、判例法理等において、管理監督者の判断基準が明確かつ妥当性を有し、何よりも予測可能性が高いものとなることを願います。 

2010年4月12日月曜日

「残業代請求権の放棄」と労働者の自由な意思表示

 先日、毎日JPで次のようなNEWSが報道されていました(こちら)。

 残業代未払い訴訟において、会社側が残業代の権利放棄がなされたと主張するケースがままありますが、これに対して同事案の従業員側代理人は、同権利放棄を誘導したものであり、違法無効との反論を行ったようです。

 「労基署を愚弄している」等のコメントが見られますが、それよりも法的に問題となるのは、同残業代放棄が労働者の「自由な意思に基づくものであることが明確であるのか」という点です(賃金債権放棄に係る先例として、シンガー・ソーイング・メシーン事件ほか)。同判断のポイントになるのが、労働者からの残業代放棄確認書提出までのプロセスですが、そもそも労働者が自らの残業代を放棄すること自体が不自然ですので、それを払拭するような合理的理由がありうるのか。

 同事案が判決で示された場合には、また改めて注目したいと思います。

2010年4月8日木曜日

サービス業における1ヶ月単位変形労働時間制の難しさ

 昨日の報道で、飲食店アルバイトに対する1ヶ月単位変形労働時間制の適用が否定された裁判例が報じられています(こちら)。

 報道によれば、同社では、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用するものの、あらかじめ決定していたのは半月分のシフトに過ぎなかったようです。

 同変形労働時間制は特定日・週に法定労働時間を超過したとしても、対象期間を平均して1週40時間以内に収まる場合、労働時間規制(労基法32条)および割増手当規制(労基法37条)が適用除外される制度です。しかし、同変形労働時間制を導入する際には、あらかじめ対象期間の労働日、労働時間を特定することが求められています。上記事案は、まさにその点に不備があったようです。したがって、同判決は従来からの行政解釈・裁判例に沿うものであり、特に先例的意義はありません。

 サービス業においては、天候、商品の売れ行きその他様々な不確定要素によって、業務量が変動するため、あらかじめ1ヶ月単位で完全にシフト表を組むことが難しい実情があるように思われます。そのため、本件のようなサービス業において、1ヶ月単位の変形労働時間制の適用が全く不可能にも思われるところですが、一つの対応策としては、シフト表が組める範囲内(例えば半月、2週間など)を平均して1週40時間に設定する方法もあります。

 このように変形対象期間を短くすることによって、変形労働時間制を適用することも考えられますが、実はサービス業において更なる難問が残っています。それは変形対象期間内における労働日・休日・労働時間の変更です。同変形労働時間制は前述のとおり、対象期間内の労働日、労働時間の特定を求めており、同対象期間内の融通無碍な労働日・労働時間の変更を前提としていません。あまりに融通無碍に同変更を行っていると、労働日・労働時間の「不特定」を理由に、変形労働時間制が違法とされる恐れがあるものです(先例として、JR東日本(横浜土木技術センター事件) 東京地判平成12.4.27 労判782-6)。

 サービス業については、やはり1ヶ月変形労働時間制の導入は容易ではありません。サービス業向けの変形労働時間制としては、他に1週間単位の非定型的変形労働時間制(法32条の5)という制度があります。小売・旅館、料理店および飲食店において、30人未満の事業場が対象となる制度であり、1週間平均40時間以内に収まる場合は、特定日が10時間(上限)であっても、労働時間・割増賃金規制が適用されない制度です。また同制度の場合は、労働日、労働時間数の特定は同週間が開始する前に書面で行うことで足りる上、緊急でやむをえない事由があれば、前日までに特定日の労働時間を変更することも許容されています(則12条の5 3項)。事業場規模で対象になるサービス業であれば、導入検討する価値はあろうかと思われます。

  

2009年9月3日木曜日

労働条件履行確保と事業許可取り消し(タクシー業)


 国土交通省が過重労働等を理由に、都内大手タクシー業者に対し事業許可取り消し処分を行ったことが報じられています(asahi.com 09.09.01)。

 同事案の詳細については、国土交通省関東運輸局HPでプレス発表をUPしていました(こちら)。それを見ると、指導の経緯と内容が一覧表の形で分かりやすく紹介されています。

 これをみると、A営業所が平成19年に陸運から指導されていたにもかからわず、その後、改善が見られず、労基署の監督指導⇒陸運への情報提供⇒陸運当局の2度目の厳しい指導 という流れが見てとれます。

 改善基準告示(参考資料としてこちら)における拘束時間、休息時間に係る指導に対する改善が見られなかったことが、今回の厳しい行政対応の背景にあるように思われます。とくに平成21年2月の指導にある「指導監督不適切」には、陸運当局の強い姿勢が感じられます(運輸規則条文はこちら)。

 本件とは別の動きですが、最近では、国土交通省は社会保険料未納付(健保・厚生年金・労災・雇用保険)についても、道路貨物運送業者等の監査事項としており、違反が見られた場合、車両停止などの行政処分を行っています(こちら)。

 省庁縦割りと言われ続けていますが、以上の動きにみられるとおり、厚生労働行政と国土交通行政が連携を取り、労働条件・社会保険制度監督への取り組みが見られるところです。柔軟かつ多様な「労働基準等」の履行確保手法の好例といえるでしょう。

 ただし、その基準が公平なものであり、かつ明確であることが必要不可欠と思われます。ここで基準自体に不公平感、不明確さが残れば、監督指導を受ける側には混乱と不満しか残りません。その点については、更に検討が必要でしょう。

2009年7月18日土曜日

取締役の善管注意義務と時間外割増賃金について


 企業における時間外割増賃金の法的リスクは、残業代の遡及払い、過労死・過労自殺などがよく指摘されるところですが、先日公刊されたある判決を見ると、更なる拡大の可能性が見られます。

 S観光事件(代表取締役ら・割増賃金支払義務)事件(大阪地判平成21年1月15日 労判979-16)です。同事件では、従業員が会社の代表取締役および取締役を相手取り、商法上の善管注意義務ないし忠実義務違反を理由に未払い割増賃金についての損害賠償請求を行い、これが認められたものです(確定)。会社ではなく、役員の個人責任が法的に認められたという点で稀有な判決といえます。

 今後、同判決の以下判示部分をどのように評価すべきであるのか。そして同判示部分が今後どのように判例法理として形成されていくのか(いかないのか)、大変注目されます。なお同事件については、別訴で従業員に対する割増賃金支払いが命じられているにもかかわらず、会社側が同確定判決を無視するなど特異な事情があり、結論として取締役の個人責任を問うて然るべき事案ではあったとは思われます。


「株式会社の取締役及び監査役は、会社に対する善管注意義務ないし忠実義務として、会社に労働基準法37条を遵守させ、被用者に対して割増賃金を支払わせる義務を負っているというべきである」

「商法266条の3(280条1項)にいう取締役及び監査役の善管注意義務ないし忠実義務は、会社資産の横領、背任、取引行為など財産的範疇に属する任務懈怠だけではなく、会社の使用者としての立場から遵守されるべき労働基準法上の履行に関する任務懈怠も包含すると解すべきである」

 また労働基準法上の履行が取締役の善管注意義務にあたるとしても、第3者(従業員含む)に対する取締役の善管注意義務違反を理由とした損害賠償は「悪意又は重大な過失」がある場合に限られます(旧法266条の3(現行会社法第429条))。
 本件については、取締役側が職務手当に時間外割増賃金が含まれていると当時理解していたことと、労基署の2度にわたる調査において割増賃金に係る是正勧告が行われないことをもって、「悪意又は重大な過失」がなかったと主張しました。これに対し、裁判所は少なくとも労基署が就業規則の周知義務違反を行政指導していたことをもって、職務手当に係る規定の周知とその趣旨どおりの運用が不十分であったことを役員が認識することは、「極めて容易なことであった」とし、その「悪意又は重大な過失」の成立をも認め、損害賠償請求を認容しています。

 商法改正に際し、株式会社における内部統制構築が大きな課題でしたが、その際、労働法令遵守がこれに含まれるとの認識は比較的薄かったように思われます。しかし、本判決内容を前提にすると、時間外割増賃金などの労基法に係る法令遵守は、取締役の「株主」に対する善管注意義務に含まれ、明らかに内部統制事項に含まれることになります。そしてその義務不履行とその悪意又は重過失は上記裁判例を見る限り、比較的容易に認められる可能性があることが示唆されています。

 時間外割増賃金支払いをはじめとした労働法令遵守は、もはや労務・人事などの部門に留まる問題ではなく、取締役が責任をもって対応しなければならない時代を迎えたといえるのかもしれません。

 なお時間外割増賃金をめぐる法的リスクとこれに対する実務対応について、北岡・峰隆之弁護士共著で単行本を出版することになりました。「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」(㈱日本法令)です(こちら)。同リスク問題を企業実務対応の視点から詳細に解説しておりますので、ぜひともお買い求めいただければ幸いです。

2009年7月15日水曜日

「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」発売決定(7月20日)について


 昨日、念願の単行本「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」(峰隆之弁護士・北岡大介共著㈱日本法令)が刷り上がり、感動の対面を果たしました(笑)。峰先生、編集の松本さん、誠にありがとうございました。

 今週末(17日頃)には、本屋さんに並ぶとのことでした。日本法令さんのHPにも、すでに案内が貼り付けられています(こちら)。ビジネスガイド8月号の案内をみて、すでに多数の予約を頂いている旨、伺いました。本当にありがたい次第です。

 読者の方に少しでもお役に立つところがあれば、筆者の一人として誠に幸いです。多くの方に読んでいただけることを願っております。

2009年6月30日火曜日

時間帯加算賃金と割増賃金について


Q  当社は小売流通業を展開しています。日中の基本時給を700円としていますが、夜22時から閉店26時までの深夜加算を250円と設定しているものです。パート社員に法定時間外労働が生じた場合、深夜時間帯においても、基本時給700円をベースに残業単価を算出しておりましたが、ある時、パート社員から時間帯加算給も含めて残業手当を支払うよう請求されました。このような請求に応じなければならないものでしょうか。
 また時間帯加算が深夜ではなく、午後7時~10時に夕方加算なるものが行われていた場合、どうか。

 小売・外食などの業界では、パートアルバイトの採用力確保などのために、時間帯によっては加算給を支払うケースが多いものです。この時間帯加算と残業手当の算定方法との関係は、非常に複雑であるためか、今なお誤解・混乱が多いところと思われます。

 設問1の深夜時間帯の加算についてみると、これは深夜午後10時~午前2時までの深夜時間帯に対して支払われているものであることは明らかです。同手当は労基法の定める深夜割増賃金であると認められるため、同加算給は当然、残業手当算定の基礎には含まれません。したがって、夜22時~26時までの時間帯に時間外労働をしていたとしても、残業単価の算出は1時間あたり700×1.25ということになります。

 これに対して次の夕方加算は難問です。この加算については、深夜割増賃金等とはいえません。「同時間帯の作業」において、時間外労働が生じた場合は、残業単価の算出方法は基本時給+夕方加算を基に原則として算出することになるものです(参考資料として、東京労働局資料(こちら))。

 これに対して、仮に午前10時からシフトに入っているパート社員が午後7時以降、残務業務を30分行っていた場合はどうでしょうか(休憩1時間)。厚労省の労働基準法コンメンタールをみると、例えば特殊作業手当を残業単価の基礎に含めるか否かは、「割増賃金を支払うべき時間にいわゆる特殊作業に従事した場合において、特殊作業についていわゆる特殊作業手当が加給される定めになっているときは・・含まれる」(昭和23年11月23日 基発第1681号)としています。

 この解釈を前提とすれば、時間帯加算給についても、残業時間における業務内容とこれに対する賃金制度によっては、先の時間帯加算が残業単価に含まれないとの判断も導き出せるものと思われます。

 

2009年6月11日木曜日

改正労基法施行通達にみる代償休暇の考え方

 
 先日、厚労省は改正労基法の施行通達を発出しました(平成21年5月29日付基発第0529001号 こちら)。同通達は厚生労働省本省が、改正労基法の施行にあたり留意すべき点を都道府県労働局長に示達したものです。

 同通達の詳細と想定される労基署監督指導については、来週末予定しておりますセミナー(こちら)で講演を予定しておりますが、施行通達で特に気になったものとして、代償休暇の問題があります。

 この通達が出るまでは、同休暇は使用者が同休暇を労働者に付与し、社員は原則としてこれを拒めない(取得義務あり)とする見解が示されてきました(例えば中田成徳「改正労基法案による特別割増賃金と代償休暇制度」 岩出誠編著「論点・争点現代労働法(改訂増補版)」(民事法研究会)273頁以下、岩出誠著「改正労働基準法と企業の実務対応」(日本法令)49頁以下など)。

 私自身もそのように考えていましたが、前述の施行通達を見ると、以下の「新解釈」が示されておりました。「代替休暇を取得するかどうかは、労働者の判断による(法第37条第3項)ため、代替休暇が実際に与えられる日は、当然、労働者の意向を踏まえたものとなること」(施行通達p9)。

 そこで慌てて、労基法37条3項を読み返してみますと、「・・当該割増賃金の支払いに変えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(※代替休暇を指す)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは・・同項但し書きの規定による割増し賃金を支払うことを要しない」と規定しています。

 私は「与えること」の文言から、使用者による代替休暇「付与」と理解してきましたが、厚労省はその下の「取得したときは」の文言から、「代替休暇の取得は労働者の判断による」との解釈を示してきたものと思われます。

 この問題については労働基準法施行規則などの政省令に定めはありませんので、法解釈に委ねられており、どちらの解釈も成り立ちうると思われるところです。何らかの形で、この解釈をめぐり裁判上の係争事案が生じた場合、裁判所が厚労省と異なる解釈を示す可能性はないとはいえません。

 とはいえ当面、実務家としては、この厚労省の見解を基に対応を考えざるをえないでしょう。労働者の意向をその都度、確認の上、当月末から2ヶ月という短い間に取得していただくということですが、実際の導入はいよいよ難しいとお感じの企業実務担当者が多いように思われるところです。
 また以前のブログで指摘していた代替休暇の付与始期(こちら)についても、懸念どおりの内容が施行通達で示されており、これも従業員の健康確保という観点から、制度の柔軟性を欠いています。

 代替休暇導入を検討している企業は、これらハードルを前提の上で、導入準備を進めていく必要があります。前述のセミナーでは、これら代替休暇制度のほか、時間外割増賃金引き上げ、改正限度基準告示および時間単位年休付与をめぐる施行通達のポイントと予想される労基署監督指導の内容等をご解説する予定としております。お時間がございましたら、ぜひともご活用いただければ幸いです。

 また社内、労組内での研修会、会議等でこの問題等について、出張講演させていただく機会も増えてまいりました。お気軽にご用命ください(講師派遣についてはこちら)。
 

2009年4月24日金曜日

改正労基法における「代償休日」の謎

 先日、改正労基法の政省令要綱案が取りまとめられました(こちら)。残るは施行通達の策定です。同通達は、おそらくは5月~6月中には策定・公表され、今回の法改正に係る第一次資料はほぼ出そろうことになります。

 以前、本コラムにおいて代償休日についてコメントをいたしましたが(こちら)、審議会資料を見ておりますと、同制度はいよいよ混沌としてきた感があります。

 厚労省は審議会(09.3.27)における説明資料として、「代償休日の取得と割増賃金の支払い日」を配布しています(こちら)。これを見ると、代償休日に係る労使協定を締結している事業場において、賃金締切日に月間60時間を超過した残業が生じていた場合、社員に対して「代償休日を取得する意思があるか否か」早期に確認することとしています。その上で意思がある場合は翌月から2か月以内に取得させる一方、取得意思がない場合は5割増の割増賃金を支払うこととしています。

 同資料の図は理解できますが、企業実務において、このようなことが果たして可能なのでしょうか。素朴に疑問を感じるところです。例えば、以下A君のつぶやきをどう考えるべきでしょうか(大多数を占める声と個人的には考えておりますが)。

A君 この3か月は大規模なプロジェクトに参加しており、とても忙しい。今月は残業が60時間を超えており、人事から10日以内に(20日締め、当月末日払)に代償休日なるものを取得するのか、残業代を取るのか選択してほしいとの問い合わせが来ている。できれば休みを取りたいが、忙しいので、翌月・翌々月にそのような休日を取れるのか否かはっきりしない。どうすればいいのか。

 年休取得すら半分を切っている現状を見ると、社員本人の取得意思に重きを置く制度設計では、いよいよ活用が少なくなるものと思われます。むしろ同休日をどうしてもやるとするならば、会社側が健康配慮の観点からイニシアチブを取って、取得候補日を示し、本人同意の上で取得させる仕組みの方が、円滑に活用されるのではないでしょうか。施行通達の内容に期待したいところです。  

2009年4月10日金曜日

平成21年度労働行政運営方針と管理監督者問題

 先日、厚労省HPに平成21年度労働行政運営方針がUPされました。同方針は、その年度の労働行政を運営するにあたっての重点施策が示されているものです。これをみれば、平成21年度に労働基準監督署その他労働行政が何を重点事項とし、定期監督を初めとした行政活動を展開しようとしているのか自ずから明らかとなります。
 詳細については、5月19日に労働法学研究会例会で講演する予定としております(こちら)。ご関心ある方はぜひお申し込み頂ければ幸いです。本ブログでは、本年度行政運営方針の中で大変、興味深い一節のみをご紹介いたします。

労動基準行政の重点施策の中に次の記載がありました(p23参照)。

「さらに、多店舗展開する小売業、飲食業等の比較的小規模の店舗における管理監督者の範囲については、その適正化を積極的に推進する。」

 過重労働に対する監督指導の強化はここ数年来、継続して取り上げられている重点施策ですが、その中に、上記記載が新たに追加されたものです。

 チェーン展開している小売・飲食業界全体の傾向として、店舗店長その他社員を労基法上の管理監督者として取り扱う例が多く見られたものですが、本年度、労働基準行政は昨年示された通達に基づいた監督指導を「積極的に推進」することを明らかにしました。昨今の雇用不安の影響からか、同問題に対するマスコミ等での報道は下火になりつつありました。しかし労働基準行政は少なくとも通達に基づく監督指導を強化していく方向であることは、十分に注意すべきと思われます。早め早めの対応が肝要です。

<筆者HPはこちら。ぜひお立ち寄りください。>

2009年3月21日土曜日

日本マクドナルド事件控訴審和解の報から思うこと

 先日、「名ばかり管理職」問題の端緒ともいえる日本マクドナルド事件が、控訴審において和解が成立した旨、報じられています(東京新聞)。労使双方ともに大変な事件であったと推察されるだけに、関係者にとって和解成立は本当に喜ばしいことと思います。

  しかしながら、同事件は労使利害関係者の手を離れ、社会的に大きな影響を与えた事案です。その見地から見ると、地裁判決に対する東京高裁判断が明らかとならなかった点は残念です。使用者側が和解に応じた点をみれば、東京高裁も地裁判決を維持する方向であったことが推察されるところではありますが、その理由付けが地裁判決と異なった可能性もあったのではないか個人的には考えております。

 いずれにしましても、同事件は収束しました。しかし、今なお同業他社あるいはその他業種含め、会社側が位置づける管理職と労基法上の管理監督者性の齟齬は多く残されたままです。当面、労基署が昨年発出した通達に基づく行政監督の形で、同問題が顕在化する可能性があり、企業実務担当者の着実な準備・検討が求められ続ける課題と思われます。

2009年3月8日日曜日

改正労基法の代替休暇をめぐる法的問題(諮問案から)

 平成22年4月施行の改正労基法に関する施行規則案が、先日の労働政策審議会労働条件分科会において諮問されました(こちら)。今後、同審議会で審議の上、遅くとも4月~6月までには、改正労基法の施行規則および施行通達等が出そろう予定です。

 ここでは、先日示された施行規則案(諮問案)を通じて、新設される代替休暇をめぐる法的問題を考えてみたいと思います。

 昨年成立した改正労基法では、1か月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合、割増賃金率が5割以上(従前に比して2割5分増し)に引き上げられる旨、法律で明記されました(改正労基法37条1項但書き) (改正労基法に関する厚労省資料はこちら)。
 これに合わせて新設されたのが、代替休暇制度です。改正労基法37条3項において、使用者が労使協定を定めることによって、先の引き上げ部分については割増賃金の支払いに代えて、休暇取得を付与することを許容しました。その目的としては、長時間労働に従事した社員を労動から解放し、その健康確保を図ることにあるものです。

 代替休暇制度の詳細については不明な点が多かったところ、先般示された施行規則案を見ることによって、若干ではありますが代替休暇の制度設計(案)が見えてくるところがあります。ここでは主に代替休暇の単位と、その付与期間を取り上げます。

 まず第1は代替休暇の単位です。同制度は60時間を超える時間に対して設けられるものであり、数字だけを見ると、例えば1か月あたり61時間の時間外労働が生じた場合、これに対応して15分の代替休暇を与えることも考えられなくもありません。しかしながら、15分などの短い時間で代替休暇を付与することは、労使双方のニーズが未知数の上、その運用が煩雑になる恐れもないとはいえません。

 そのためか、施行規則案(諮問)を見ると、労使協定において定める代替休暇の単位は1日又は半日とすることを求めています。従って、1か月あたりの時間外労働時間が76時間の場合は半日、同じく92時間の場合は1日を引き上げられた割増賃金分の支払いに代えて、代替休暇付与に替えることが可能です。では、仮にある月の時間外労働時間が75時間あるいは91時間の場合はどのように考えるべきでしょうか。先の施行規則案を前提とすれば、半日あるいは1日に満たない部分は、3時間あるいは7時間等の形で代償休暇を付与することはできず、原則どおり割増賃金支払いが求められることとなります(※なお使用者側が端数を切り上げて、半日あるいは1日単位で付与すること自体は当然可能)

 問題はこの代替休暇は当月の時間外労働時間数ごと付与しなければならないのか、あるいは一定期間、時間外労働時間数を通算した上で付与することが可能かどうかです。先のケースでいえば、例えば1月は75時間、2月は77時間の場合、2か月の総和(60時間超過分)は32時間となることから、これを3月に代替休暇「1日」として付与することが許されるか否かが問題となります。この点については、先の施行規則案からは定かではなく、その後示される施行通達等に委ねられることになりますが、私見では、次に示すとおり代償休暇の付与が2か月以内ということからも、最低2か月以内の通算は許容されてしかるべきと考えるものです。

 第2は付与期間(いつまで付与すればよいか)です。制度設計上、代替休暇の付与期間については特に規制を設けず、労使自治に委ねることも考えられるところですが、1点考慮すべき事項として、健康確保の問題があります。つまり同代替休暇の目的は前述のとおり、労働者の健康確保にあることから、長時間労働状態からなるべく早い段階で休暇を与えることが本来的要請であるということです。

 この見地からか、施行規則案においても、付与期間について労使協定への縛りを設けることが示されています。つまり「時間外労働が1か月について60時間を超えた当該1か月の末日の翌日から2か月以内とする」というものです。

 「2か月以内」という数字は先の趣旨から理解できるところでありますが、実はこの施行規則案には大きな問題があると考えています。それは、付与の始期です。先の施行規則案にはその始期が「1か月について60時間を超えた当該1か月の末日の翌月」とされています。つまり、60時間を超過した当月内における代替休暇の付与は認めないという取扱いになっているものです。

 最近の企業における勤怠管理システムの中には、人事部等が当該月内において逐次、各社員の時間外労働状況を把握し、適宜残業抑制等の指示を行っている例も少なくありません。例えばある月において、76時間の時間外労働が生じた日の翌週に、代替休暇を付与することも、これらの企業では何ら不可能ではなく、現に行っているものといえます。これを厚労省が「代替休暇の付与は労使でどのように考えようが当月中はダメです。翌月に代替休暇を付与してください」ということを、何故、労使合意を排斥する施行規則上のルールとしようとするのか、理解に苦しむところです。

 むしろ、当月中に代替休暇を取らせるインセンティブを高めることの方が、法の目的である「労働者の健康確保」の面から有益と考える次第です。今後の労働政策審議会における議論が注目されるところです。 

2009年3月4日水曜日

ダラダラ残業について考える③

「ダラダラ残業」は法律上の「労働時間」にあたるのか否か。

 よく酒場で話題にのぼるのが、この問題です。この問いに対しては、もう少し条件設定が必要です。
  ①上司等が明確な指示をなし、残業に行っているものの、その成果物の質・量が労働時間に比して低い場合
  ②上司等が明確な指示をしていないが仕事を続けており、その成果物の量・質が労働時間に比して低い場合

 まず①のケースについては、明確な指示があるため、労働時間性があることは法的に異論ないものです。仮に使用者側がその成果物やその過程に不満を有するのであれば、これに対して逐次、指示し、その改善を求め、なお問題が残る場合は懲戒処分等のステップを考えていくことになります(※懲戒処分の適法性には注意する要あり)。

 実は①のケースについては、ホワイトカラー正社員層において稀であり、むしろ次の②が大半です。これについては、よく「明確な指示」がないことをもって、「使用者の指揮命令下」にないので、労働時間にあたらないという見解が示されることがあります。

 しかしながら、多くのケース②では、上司が職場にいて、部下の所定時間外在社を「現認」しています。あるいは、その業務量を把握しているものです。これをもって「黙認」といいうるのか、そして事前ないし事後に上司から明確な指示がなくても、「黙示の指揮命令関係」が認められるか否かが問題となりえます。これについては、すでに裁判例の中でも黙示の指揮命令に基づく労働時間性を肯定した事案があります(ユニコンエンジニアリング事件・東京地裁平成16年6月25日労経速1882号3頁ほか)。

 このように現状の結論からいえば①、②いずれのケースも「労働時間性」が認められやすい状況にあります。しかしながら、使用者側から見ると、事前の許可なく会社に残り、しかも仕事をしているかしていないのか分からないものを何故、「労働時間」と把握し、時間外割増賃金を支払わなければならないのか腑に落ちないところがあると思われます。

 同問題のポイントとして、実は「休憩時間」の問題があります。次はダラダラ残業と休憩時間の関係を考えてみます。

2009年3月3日火曜日

ダラダラ残業について考える②

「何故、ダラダラ残業が生じるのか?」雑感

 ダラダラ残業は当然のことながら、法律用語ではありません。さしあたり定義をするとすれば、「労務提供の量・質が低い状態で、所定乃至法定時間を越えて在社し続けている状態」になると考えています。

 このようなダラダラ残業はおそらく、昔に比べれば激減したとはいえ、多くの職場において今なお見受けられるところではないでしょうか。では、このようなダラダラ残業は何故、あるのでしょうか。

 従業員が残業代ほしさでこのようなことをやっていると指摘する向きがありますが、従来はこれら在社に対して、残業代を請求する社員は稀でした(もちろん退職後に請求する例あり)。

 先日、紹介した大竹論文ではワーカーホリックになりやすい社員の特性に着目して、「後回し行動」傾向のある者が長時間労働に陥りやすいと指摘します。もちろん、そのような面もありますが、それだけともいえない気がいたします。

 何よりも職場、上司が所定時間後の在社にどのような評価を行っているのか、その点も大きな要因と思われるところです。例えば上司等が夜10時ぐらいに部下(もちろん午前9時出社のケース)が机でかりかり「何か」をしている姿を見て、どのようなに感じ、それをどのように表現しているのか。仮に「よしよし、よく頑張っている」と評価し、それが賞与等に反映されるのであれば、残業代が出ようが出まいが夜遅くまで在社すること自体が従業員の経済合理性にかなうことになります。

 このように考えると、最後は人事考課の問題に行きつくのかもしれません。人事考課制度は情意評価から成果評価へとシフトチェンジが進んできましたが、成果主義賃金制度に移行後も、なお情意評価の部分は残されてるケースが多いと思われます。その中で長時間在社をどのように評価していくべきか。ここがダラダラ残業問題を考える上で、実務的に大きなポイントになる気がしています。