2011年3月31日木曜日

大震災と労災保険ー厚労省Q&A、精神障害の労災認定をめぐる課題などー

 時事通信が「勤務中の震災被害、労災認定へ 厚労省方針」と報じております(こちら

 東日本大地震で事業所や作業場が倒壊、焼失したり、大津波で流失したりして勤務中に被害に遭った人について、厚生労働省が労災認定する方針を決めたことが31日、分かった。阪神大震災の時も同様の措置を取った。

 三陸地方は明治三陸地震(1896年)など、何度も津波被害を受けているため、津波による被害を「危険な環境下で仕事をしていた結果」として、災害と業務の因果関係を認めた。大地震の発生が午後2時46分ごろと平日の昼間で勤務中の人が多かったため、対象者はかなりの数に上るとみられる。

 厚労省によると、30日までに2件の労災申請があった。岩手、宮城、福島の各労働局は避難所などで労災に関する出張相談をする予定。厚労省は「事業主や医療機関の証明書がなくても受理する。近くの労働基準監督署に問い合わせを」と呼び掛けている。

 労災と認められるのは事業所、作業場の倒壊や水没、焼失で被災した場合や、避難中や救助中、通勤中に巻き込まれた場合。休憩時間中も適用される。認定されれば遺族年金や一時金、葬祭料のほか、けがの療養費や休業補償が支払われる。

 行方不明者については本来、不明になったときから1年後に死亡とみなされた場合に請求ができるが、今回は特例として1年以内でも認定することを検討している。

 阪神大震災は発生から1年で472人が労災申請し、申請者としての要件を満たさなかった2人を除く470人(うち通勤中86人)が認定された。発生時間が午前5時46分と多くの人が勤務時間前の早朝だったため、被災者数に比べ申請者は少なかった。


 厚労省はすでに震災関連の労災事務取扱いについて通達を発出しており(こちら)、さらに「震災と労災保険」Q&Aが新たにHP上でUPされています(こちら)。時事通信の記事はこれらを確認したものと思われますが、厚労省Q&Aのとりわけ以下回答が重要です。

Q1-1 仕事中に地震や津波に遭遇して、ケガをしたのですが、労災保険が適用されますか?

(A)
仕事中に地震や津波に遭い、ケガをされた(死亡された)場合には、通常、業務災害として労災保険給付を受けることができます。これは、地震によって建物が倒壊したり、津波にのみ込まれるという危険な環境下で仕事をしていたと認められるからです。「通常」としていますのは、仕事以外の私的な行為をしていた場合を除くためです。


 従前の通達をみると(昭和49年通達、平成7年通達)、地震による災害に係る業務上外の判断は原則として天災地変によるものであるため業務外ではあるが、「被災労働者が作業方法、作業環境、事業場施設の状況等からみて危険環境下にあることにより、被災したものと認められる場合」は業務に内在する危険が現実化したものであり、業務上の災害として取り扱うとします。従って、過去の通達を前提とすると、被災した際の作業方法、環境・施設等が「危険環境下」か否かが個別に問題となりえますが、先の時事通信記事によれば、特に津波災害について「三陸地方は明治三陸地震(1896年)など、何度も津波被害を受けているため、津波による被害を危険な環境下で仕事をしていた結果と捉えるとの事。同判断によって、就業・避難中さらには通勤中に被災地で津波に遭遇し、負傷等された場合は業務上とすることが明確になったものです(避難、通勤中の考え方についても先のQ&A参照)。同行政解釈を見ると、社会全体のリスクを労災保険で引き受けるという「政策的判断」がなされたと理解しえなくもないと感じるところです。

 同通達・Q&Aによって、大震災に伴う労働保険の取り扱いが相当程度明確にはなりましたが、様々な課題が山積しています。例えば同震災に遭遇した従業員(特に自らは負傷等していない場合)が精神疾患を発症させた場合、これが業務上となるのでしょうか。また海沿いの地域で就労・避難・帰宅中、津波被害を目撃した場合と、内陸部において震度6クラスの地震に遭遇(本人、周辺の人的被害なし)した場合で判断が異なりうるのかどうか。神戸大震災の際には大きな問題となりませんでしたが、精神障害の労災認定についても、これから申請事案の増加が予想されており、検討が必要です。
 

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