本日、最高裁は労組法上の労働者性について、2本の重要判決を下しました。新国立劇場事件、INAX事件最高裁判決です。早速、asahi,comで以下のとおり報じられています(こちら)。
住宅設備のメンテナンス会社と業務委託契約を結ぶ個人事業主であっても、団体交渉が認められる「労働組合法上の労働者」に当たるかどうかが争点となった訴訟で、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は12日、「労働者に当たる」との判決を言い渡した。
似た形態の個人事業者についても、労働者としての権利を認める先例となりそうだ。
住宅設備会社「INAX」の子会社の「INAXメンテナンス」(IMT、愛知県常滑市)は一定の資格要件を満たした人と「カスタマーエンジニア」(CE)の契約を結び、製品修理などを委託している。
CEの労働組合は2004年9月、労働条件を変える際には事前協議を開くことなどを申し入れたが、同社が拒否。この対応を、中央労働委員会が不当労働行為と認定し、団体交渉に応じるよう命じたため、同社が命令の取り消しを求めて提訴していた。
2009年4月の一審・東京地裁判決は労働者と認定したが、同年9月の二審・東京高裁判決は労働者とは認めず、判断が一、二審で分かれていた。
また、この訴訟とは別に、新国立劇場のオペラ公演に1年間出演する契約を結んだ合唱団員が、同様に「労働組合法上の労働者」に当たるかが争われた訴訟の判決も12日にあり、第三小法廷は同じく労働者と認める判断を示した。一、二審判決は「労働者に当たらない」と判断していた。
先ほど最高裁HPを覗いてみると、すでに新国立劇場事件最高裁判決がUPされており、大変驚きました(こちら)。
労組法上の労働者性判断にあたり、有力学説は「組織への組み入れ」の有無を重視するよう論じていましたが、本最高裁もまさにその点について次のとおり判示し、労組法上の労働者性を肯定する要素の一つとして捉えているようです。
「契約メンバーは,上記各公演の実施に不可欠な歌唱労働力として被上告財団の組織に組み入れられていたものというべきである。」
まだざっくりとしか目を通しておりませんが、本最高裁判決を見ると、オペラ歌手に対する指揮命令の有無、場所的・時間的拘束性、報酬の労務代償性などいずれも強く肯定しています。同判示を見る限り、本件オペラ歌手は労組法上の労働者性のみならず、労基法上の労働者性をも肯定するかのように読めなくもありません(本判決上、明示していませんが)。
INAX事件最高裁判決は残念ながら掲載されておらず、今後、何らかの機会に目を通すことになりそうですが、2つの重要最高裁判決は労組法上の労働者性のみならず、労基法上の労働者概念に対しても相応の影響を与える可能性がないか。その点が最も個人的に関心あるところです。
2011年4月12日火曜日
2011年3月5日土曜日
最近勉強していることー社会保険をめぐる法律問題などー
最近、必要に迫られ「企業実務の観点からみた社会保険の法律問題」を勉強し直しております。大学院時代に社会保障法を専攻していた関係上、同分野に土地勘があるつもりでしたが、なかなかに難しい問題が山積しており、大変新鮮な気持ちで勉強しております。
例えば厚生年金・健康保険でいえば、解雇トラブル等係争中の被保険者資格喪失の可否、和解解決した場合における被保険者期間の取扱い(解雇から和解成立時点まで)、賃金差別事案確定判決後(男女賃金差別認定など想定)における各保険給付額変更の可否(標準報酬額への反映?)などなど。
教科書、解説書を机に引っ張り出しては、これら難問に悩みもだえる(それが楽しいのですが(笑))今日この頃ですが、本当に役立っている好書が掘勝洋先生の以下体系書です。
堀勝洋「年金保険法−基本理論と解釈・判例」(法律文化社) (アマゾンはこちら)
今後、年金保険を法的に論じる際には、同書籍がとにもかくにも、基本書と位置づけられることは間違いのないところと思われます(岩村正彦先生の「社会保障法Ⅱ」も首を長くしてお待ちしておりますが・・・すでに刊行済みの「社会保障法Ⅰ」はこちら)。
なお社会保障法の大枠と個別論点の概略を掴む上では、「社会保障法」(有斐閣アルマ こちら)をお勧めしております。今回の勉強でも、まず真っ先に同著を読み返し、予習・復習を致した次第。
例えば厚生年金・健康保険でいえば、解雇トラブル等係争中の被保険者資格喪失の可否、和解解決した場合における被保険者期間の取扱い(解雇から和解成立時点まで)、賃金差別事案確定判決後(男女賃金差別認定など想定)における各保険給付額変更の可否(標準報酬額への反映?)などなど。
教科書、解説書を机に引っ張り出しては、これら難問に悩みもだえる(それが楽しいのですが(笑))今日この頃ですが、本当に役立っている好書が掘勝洋先生の以下体系書です。
堀勝洋「年金保険法−基本理論と解釈・判例」(法律文化社) (アマゾンはこちら)
今後、年金保険を法的に論じる際には、同書籍がとにもかくにも、基本書と位置づけられることは間違いのないところと思われます(岩村正彦先生の「社会保障法Ⅱ」も首を長くしてお待ちしておりますが・・・すでに刊行済みの「社会保障法Ⅰ」はこちら)。
なお社会保障法の大枠と個別論点の概略を掴む上では、「社会保障法」(有斐閣アルマ こちら)をお勧めしております。今回の勉強でも、まず真っ先に同著を読み返し、予習・復習を致した次第。
2010年11月16日火曜日
宅直勤務の労働時間性否定(県立奈良病院事件高裁判決)
県立奈良病院事件の大阪高裁判決が出されたようです(こちら)。 以下産経新聞HPより
病院の当直勤務は割増賃金が支払われる「時間外労働」に当たる、として、県立奈良病院の産科医2人が県に相当額の支払いを求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は16日、計約1500万円の支払いを命じた一審奈良地裁判決と同様に「当直は労働時間」と認定。双方の控訴を棄却した。
産科医側の弁護士は「高裁では初めての判断。同様の問題は全国にあり、影響は大きい。労働環境の是正には医師を増やすしかなく、国レベルでの対応が必要だ」と話している。
判決理由で紙浦健二裁判長は、分娩の6割以上が当直時間帯だったことや、通常勤務と合わせて連続56時間勤務になることもあった過酷な労働実態に触れ「入院患者の正常分娩や手術を含む異常分娩への対処など、当直医に要請されるのは通常業務そのもので、労働基準法上の労働時間と言うべきだ」と指摘。
また、当直医は勤務を途中で離れられないことから「(実働時間以外も含む)当直勤務全体について割増賃金を支払う義務がある」とした。
呼び出しに備えて自宅などで待機する「宅直勤務」については、一審に続き労働時間と認めなかったが、紙浦裁判長は「負担が過重になっている疑いもある」と言及し、県知事らに実情調査と体制の見直しを促した。
判決によると、奈良病院の産婦人科では2004~05年、医師5人のうち1人が交代で夜間や休日の当直勤務を担当。産科医2人は2年間で各約210回、当直勤務に就いた。分娩に立ち会うことも多く、十分な睡眠時間が取りづらかったが、一回につき2万円の手当が支給されるだけで、時間外労働の割増賃金は支払われていなかった。
研究会で同地裁判決を議論した際、最も白熱したのが宅直勤務の「労働時間性」でした。この点について1審判決がは必ずしも説得的な理由付けを示していないように感じておりますので、高裁がどのような論旨で、労働時間性を否定したのかが気になります。
病院の当直勤務は割増賃金が支払われる「時間外労働」に当たる、として、県立奈良病院の産科医2人が県に相当額の支払いを求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は16日、計約1500万円の支払いを命じた一審奈良地裁判決と同様に「当直は労働時間」と認定。双方の控訴を棄却した。
産科医側の弁護士は「高裁では初めての判断。同様の問題は全国にあり、影響は大きい。労働環境の是正には医師を増やすしかなく、国レベルでの対応が必要だ」と話している。
判決理由で紙浦健二裁判長は、分娩の6割以上が当直時間帯だったことや、通常勤務と合わせて連続56時間勤務になることもあった過酷な労働実態に触れ「入院患者の正常分娩や手術を含む異常分娩への対処など、当直医に要請されるのは通常業務そのもので、労働基準法上の労働時間と言うべきだ」と指摘。
また、当直医は勤務を途中で離れられないことから「(実働時間以外も含む)当直勤務全体について割増賃金を支払う義務がある」とした。
呼び出しに備えて自宅などで待機する「宅直勤務」については、一審に続き労働時間と認めなかったが、紙浦裁判長は「負担が過重になっている疑いもある」と言及し、県知事らに実情調査と体制の見直しを促した。
判決によると、奈良病院の産婦人科では2004~05年、医師5人のうち1人が交代で夜間や休日の当直勤務を担当。産科医2人は2年間で各約210回、当直勤務に就いた。分娩に立ち会うことも多く、十分な睡眠時間が取りづらかったが、一回につき2万円の手当が支給されるだけで、時間外労働の割増賃金は支払われていなかった。
研究会で同地裁判決を議論した際、最も白熱したのが宅直勤務の「労働時間性」でした。この点について1審判決がは必ずしも説得的な理由付けを示していないように感じておりますので、高裁がどのような論旨で、労働時間性を否定したのかが気になります。
2010年9月17日金曜日
パワハラ問題と労働組合の対応~ある裁判例から~
濱口先生ブログの「職場の組合はどこへ行った?」(こちら)を拝読し、あるパワハラ裁判例を思い出しました。
A生命保険ほか事件 東京地判平成21年8月31日(労判995-80)。
同事件は試用期間満了前に解雇(本採用拒否)された中途採用社員が、会社に対して解雇無効・地位確認等を行うとともに、労働組合の書記長に対して民事損害賠償請求を提起したものです。
同損害賠償請求の理由として、原告側が挙げるのが「労働組合に上司等からの嫌がらせについて相談したが、解決につながるような特段の措置を講じなかったこと」です。これが債務不履行(原告と労働組合書記長間)にあたるとして、慰謝料20万円の請求を行っています。
これに対して同地裁判決では会社側に対する請求を斥けるとともに、組合書記長に対する訴えについては「被告D(書記長)は、原告から本件組合の書記長としての対応を求められたのであって、個人としては、原告との間で何らかの契約法上の法的義務を負うことはない」とし、こちらも請求棄却しました。
上記判示部分を見ると、書記長個人はともかく、労働組合と組合員の間において、適切にパワハラ等の相談に対応しないことが債務不履行(そもそも組合と労働組合員との間に如何なる債権・債務があるのかが問題)に該当する余地があるか否かは判断されていません。今後の検討課題ではないかと感じるところです。
A生命保険ほか事件 東京地判平成21年8月31日(労判995-80)。
同事件は試用期間満了前に解雇(本採用拒否)された中途採用社員が、会社に対して解雇無効・地位確認等を行うとともに、労働組合の書記長に対して民事損害賠償請求を提起したものです。
同損害賠償請求の理由として、原告側が挙げるのが「労働組合に上司等からの嫌がらせについて相談したが、解決につながるような特段の措置を講じなかったこと」です。これが債務不履行(原告と労働組合書記長間)にあたるとして、慰謝料20万円の請求を行っています。
これに対して同地裁判決では会社側に対する請求を斥けるとともに、組合書記長に対する訴えについては「被告D(書記長)は、原告から本件組合の書記長としての対応を求められたのであって、個人としては、原告との間で何らかの契約法上の法的義務を負うことはない」とし、こちらも請求棄却しました。
上記判示部分を見ると、書記長個人はともかく、労働組合と組合員の間において、適切にパワハラ等の相談に対応しないことが債務不履行(そもそも組合と労働組合員との間に如何なる債権・債務があるのかが問題)に該当する余地があるか否かは判断されていません。今後の検討課題ではないかと感じるところです。
2010年8月4日水曜日
セクハラ・パワハラ調査機関判断の意義とは? 京大セクハラ事件の報から
今朝の共同ニュースに大変、難しい問題が報じられています。
「女子大生が京大提訴 教授セクハラにも大学は「訓告」」(こちら)。
京都大経済学研究科の男性教授からセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)を受けたという女子学生の申告に、京都大の調査・調停委員会が7項目の不適切行為を指摘して懲戒相当と判断したのに対し、経済学研究科が2項目しか認定せずに訓告処分としていたことが、3日に分かった。女子学生は「関係者の影響力を排除し、全学の教職員による公正な手続きを保障した委員会設置の趣旨に反する」などと主張し、大学に約465万円の損害賠償を求めて京都地裁に提訴した。
訴状によると、京大の人権委員会ハラスメント専門委員会は2008年5月、女子学生の申し立てに基づき、複数の学部の5教員で構成する調査・調停委員会を設置した。同委員会は09年9月に(1)「大学院をやめてしまえ」という趣旨の発言(2)論文指導の拒否(3)飲食に付き合わせて体を触り、自宅に誘った-など7項目を「不適切な言動」と認め、「経済学研究科は懲戒手続きを開始するのが相当」と結論付けた。
これに対し、経済学研究科は今年3月、(1)と(2)のみを認め、教授を訓告処分とした。
京大は「対応を検討しているところです」とコメントし、調査・調停委員会と経済学研究科の判断が異なったことについては「処分内容は一切言えない」としている。
同記事では調査・調停委員会の判断が、その後の学部教授会の人事権行使にどのような意義を有するのか、特に報じられていません。恐らくは「諮問」的な役割を持たされており、懲戒権含む人事権行使の判断は教授会に委ねられていたのではないでしょうか。
人事権者が調停委員会における諮問内容のとおり、人事権(事実認定の上で懲戒権を行使)を行使しなければならないかどうか。この問題が裁判所において争われることになりそうですが、調停委員会判断に対し、規則等でどのような法的効力を付与しているのかがポイントになるように思います。
会社によっては、パワハラ・セクハラについて、相談・調査機関を人事部門と別に設置する例が見られますが、同機関の判断をどのように位置づけるか規程等で明確化していないと、同種問題が争われる懸念がありますね。
「女子大生が京大提訴 教授セクハラにも大学は「訓告」」(こちら)。
京都大経済学研究科の男性教授からセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)を受けたという女子学生の申告に、京都大の調査・調停委員会が7項目の不適切行為を指摘して懲戒相当と判断したのに対し、経済学研究科が2項目しか認定せずに訓告処分としていたことが、3日に分かった。女子学生は「関係者の影響力を排除し、全学の教職員による公正な手続きを保障した委員会設置の趣旨に反する」などと主張し、大学に約465万円の損害賠償を求めて京都地裁に提訴した。
訴状によると、京大の人権委員会ハラスメント専門委員会は2008年5月、女子学生の申し立てに基づき、複数の学部の5教員で構成する調査・調停委員会を設置した。同委員会は09年9月に(1)「大学院をやめてしまえ」という趣旨の発言(2)論文指導の拒否(3)飲食に付き合わせて体を触り、自宅に誘った-など7項目を「不適切な言動」と認め、「経済学研究科は懲戒手続きを開始するのが相当」と結論付けた。
これに対し、経済学研究科は今年3月、(1)と(2)のみを認め、教授を訓告処分とした。
京大は「対応を検討しているところです」とコメントし、調査・調停委員会と経済学研究科の判断が異なったことについては「処分内容は一切言えない」としている。
同記事では調査・調停委員会の判断が、その後の学部教授会の人事権行使にどのような意義を有するのか、特に報じられていません。恐らくは「諮問」的な役割を持たされており、懲戒権含む人事権行使の判断は教授会に委ねられていたのではないでしょうか。
人事権者が調停委員会における諮問内容のとおり、人事権(事実認定の上で懲戒権を行使)を行使しなければならないかどうか。この問題が裁判所において争われることになりそうですが、調停委員会判断に対し、規則等でどのような法的効力を付与しているのかがポイントになるように思います。
会社によっては、パワハラ・セクハラについて、相談・調査機関を人事部門と別に設置する例が見られますが、同機関の判断をどのように位置づけるか規程等で明確化していないと、同種問題が争われる懸念がありますね。
2010年7月26日月曜日
「ケータイを持たせて事業場外みなしが可能か」再論
以前、濱口桂一郎先生の「EU労働法政策雑記帳」ブログで「ケータイを持たせて事業場外みなしが可能か」について、ご指導を頂いたことがありました(こちら)。この問題が阪急トラベルサポート事件(東京地判平成22年7月2日(判例集未掲載))において、まさに論じられておりましたので、ご紹介まで。
同事件は先日の拙ブログ(こちら)において紹介したとおり、旅客添乗員の事業場外みなし適用を肯定した上で、裁判所が「必要時間数が11時間」であったと認定し、法定労働時間との差額分3時間(1日あたり)の残業手当請求を認容したものであり、過去の裁判例・行政解釈と比較しても大変に特異な判断を示したものであり注目していました。
同判決ではまず事業場外みなし労働は「事業場外での労働は労働時間の算定が難しいから、できるだけ実際の労働時間に近い線で便宜的な算定を許容しようという趣旨」とした上で、労働時間適正把握義務、4・6通達をひもとき、次のように指摘します。
「みなし労働時間制が適用される「労働時間を算定し難いとき」とは、労働時間把握基準が原則とする前記アおよびイ(※筆者注 上司の現認およびタイムカード等の客観的な記録による確認)の方法により労働時間を確認できない場合を指すと解される」。
そのように判示した上で「自己申告制による労働時間を算定できる場合であっても「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合があると解される」旨明言しています。その理由として「自己申告制・・を排除するとすれば・・事業場外労働であって、自己申告制により労働時間を算定できない場合は容易に想像できず、労基法が事業場外みなし労働時間制を許容した意味がほとんどなくなってしまうから」とするものです。また原告が事業場外みなし労働時間制は実労働時間算定原則の例外規定であり、限定解釈すべきと主張した点については「しかし、この制度が実労働時間算定原則の例外であるとしても、労働者は実際の労働時間に即した算定を主張することができるから、必ずしも厳格に限定解釈をするべきとはいえない。」
従来の裁判例をみると、事業場外みなし制度は例外的な制度とし、限定解釈を行うことが通例でした。また自己申告によって労働時間数の把握が可能であれば、特段異論なく「労働時間を算定できる」と解し、事業場外みなし適用を否定してきたものであり、この点に本判決の大きな特徴があります。その上で原告に主張に答える形で本地裁は次のとおり答えます。
「また・・通信手段が相当発達しており、使用者は、労働者が今どこにいるかリアルタイムで把握することができ、思い立ったときには指示をし、報告を求めることができるから、事業場外みなし労働時間制は相当の僻地への出張など極めて限定された場合にのみ妥当すると主張する。」「しかし、電話やファクシミリなど必要な場合は連絡可能な設備が備え付けられている在宅勤務について、事業場外みなし労働時間制の適用があることを完全に否定することにもなりかねず、原告の主張は、採用できない。」
その上で本判決ではあてはめにおいて、派遣先が貸与していた携帯電話が使用されていたか否かを検討し、いずれも本件においては「携帯電話により具体的な指示を受けたことはなかった」と評価しています。
労基署どころか裁判所においても「ぶれ」が生じてしまった次第です。また本判決は濱口先生が指摘される「携帯電話の即応性」に答えるものではありません。もう少し理由付けを示していただきたかったところでありますが、本件は海外旅行の添乗員という性質上、日本国内から連絡がなされる可能性が低く、その点を考慮した事例判断と解する余地もあるやもしれません。
いずれにしましても、同一会社のさほど事実関係が異ならない旅行添乗員(国外旅行の方が日程変更等の自由度が高いのは間違いないようですが・・)に対する事業場外みなし適用可否で判断が分かれておりますので、東京高裁にまとまった判断を示していただきたいところです。
また同事件のニュースだけを見て、もう「事業場外みなし」の適用は法的リスクがないと思われた方もいらっしゃるやもしれませんが、仮に適用が肯定されたとしても、「必要時間数みなし」「賃金制度」の問題が残ります。本事件でも事業場外みなしの適用が肯定された一方、賃金制度の面で会社に厳しい判断が示されており、実質使用者側が一部敗訴しています。この問題については、事業場外みなしの適用可否のみならず、時間管理、賃金制度設計なども含めて対応策を検討していかなければならないことも、本判決が示唆するところです。
同事件は先日の拙ブログ(こちら)において紹介したとおり、旅客添乗員の事業場外みなし適用を肯定した上で、裁判所が「必要時間数が11時間」であったと認定し、法定労働時間との差額分3時間(1日あたり)の残業手当請求を認容したものであり、過去の裁判例・行政解釈と比較しても大変に特異な判断を示したものであり注目していました。
同判決ではまず事業場外みなし労働は「事業場外での労働は労働時間の算定が難しいから、できるだけ実際の労働時間に近い線で便宜的な算定を許容しようという趣旨」とした上で、労働時間適正把握義務、4・6通達をひもとき、次のように指摘します。
「みなし労働時間制が適用される「労働時間を算定し難いとき」とは、労働時間把握基準が原則とする前記アおよびイ(※筆者注 上司の現認およびタイムカード等の客観的な記録による確認)の方法により労働時間を確認できない場合を指すと解される」。
そのように判示した上で「自己申告制による労働時間を算定できる場合であっても「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合があると解される」旨明言しています。その理由として「自己申告制・・を排除するとすれば・・事業場外労働であって、自己申告制により労働時間を算定できない場合は容易に想像できず、労基法が事業場外みなし労働時間制を許容した意味がほとんどなくなってしまうから」とするものです。また原告が事業場外みなし労働時間制は実労働時間算定原則の例外規定であり、限定解釈すべきと主張した点については「しかし、この制度が実労働時間算定原則の例外であるとしても、労働者は実際の労働時間に即した算定を主張することができるから、必ずしも厳格に限定解釈をするべきとはいえない。」
従来の裁判例をみると、事業場外みなし制度は例外的な制度とし、限定解釈を行うことが通例でした。また自己申告によって労働時間数の把握が可能であれば、特段異論なく「労働時間を算定できる」と解し、事業場外みなし適用を否定してきたものであり、この点に本判決の大きな特徴があります。その上で原告に主張に答える形で本地裁は次のとおり答えます。
「また・・通信手段が相当発達しており、使用者は、労働者が今どこにいるかリアルタイムで把握することができ、思い立ったときには指示をし、報告を求めることができるから、事業場外みなし労働時間制は相当の僻地への出張など極めて限定された場合にのみ妥当すると主張する。」「しかし、電話やファクシミリなど必要な場合は連絡可能な設備が備え付けられている在宅勤務について、事業場外みなし労働時間制の適用があることを完全に否定することにもなりかねず、原告の主張は、採用できない。」
その上で本判決ではあてはめにおいて、派遣先が貸与していた携帯電話が使用されていたか否かを検討し、いずれも本件においては「携帯電話により具体的な指示を受けたことはなかった」と評価しています。
労基署どころか裁判所においても「ぶれ」が生じてしまった次第です。また本判決は濱口先生が指摘される「携帯電話の即応性」に答えるものではありません。もう少し理由付けを示していただきたかったところでありますが、本件は海外旅行の添乗員という性質上、日本国内から連絡がなされる可能性が低く、その点を考慮した事例判断と解する余地もあるやもしれません。
いずれにしましても、同一会社のさほど事実関係が異ならない旅行添乗員(国外旅行の方が日程変更等の自由度が高いのは間違いないようですが・・)に対する事業場外みなし適用可否で判断が分かれておりますので、東京高裁にまとまった判断を示していただきたいところです。
また同事件のニュースだけを見て、もう「事業場外みなし」の適用は法的リスクがないと思われた方もいらっしゃるやもしれませんが、仮に適用が肯定されたとしても、「必要時間数みなし」「賃金制度」の問題が残ります。本事件でも事業場外みなしの適用が肯定された一方、賃金制度の面で会社に厳しい判断が示されており、実質使用者側が一部敗訴しています。この問題については、事業場外みなしの適用可否のみならず、時間管理、賃金制度設計なども含めて対応策を検討していかなければならないことも、本判決が示唆するところです。
2010年7月10日土曜日
拙稿「専門26業務派遣における雇入申込み義務」労働法令通信掲載について
労働法令通信(2010.7.8号)に拙稿「判例研究 専門26業務派遣における雇入申込み義務」が掲載されました(こちら)。
三洋アクア事件を題材に専門26業務派遣における雇入申込み義務の解説を行ったものです。この問題は継続審議扱いとなった改正派遣法案と密接な関わりがありますし、また実務上も労使トラブルが増加傾向にあり、重要性を増しています。ご関心ある方はご一読いただければ幸いです。
判例実務研究会の報告内容を掲載いただいたものですが、同研究会では判例法理・行政運用および実務対応双方の面で、毎回、活発かつ深い議論が展開され、大変勉強になっている次第です。
三洋アクア事件を題材に専門26業務派遣における雇入申込み義務の解説を行ったものです。この問題は継続審議扱いとなった改正派遣法案と密接な関わりがありますし、また実務上も労使トラブルが増加傾向にあり、重要性を増しています。ご関心ある方はご一読いただければ幸いです。
判例実務研究会の報告内容を掲載いただいたものですが、同研究会では判例法理・行政運用および実務対応双方の面で、毎回、活発かつ深い議論が展開され、大変勉強になっている次第です。
2010年5月25日火曜日
「「日本海庄や」過労死訴訟、経営会社に賠償命令」と会社法429条
マスコミ各紙において「「日本海庄や」過労死訴訟、経営会社に賠償命令」が大きく報じられています(以下、読売新聞)。同報道においても特記されているのが、役員の賠償責任を認めた点です。
5月25日11時27分配信 読売新聞
全国チェーンの飲食店「日本海庄や」石山駅店(大津市)で勤務していた吹上元康さん(当時24歳)が急死したのは過重な労働を強いられたことが原因として、両親が経営会社「大庄」(東京)と平辰(たいらたつ)社長ら役員4人に慰謝料など約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、京都地裁であった。
大島真一裁判長は「生命、健康を損なわないよう配慮すべき義務を怠った」として、同社と4人に対し、約7860万円の支払いを命じた。
原告側の弁護士によると、過労死を巡る訴訟で、役員の賠償責任を認めた司法判断は珍しいという。
判決によると、吹上さんは2007年4月に入社後、石山駅店に配属されたが、同8月11日未明、自宅で就寝中に急性心不全で死亡。死亡まで4か月間の時間外労働は月平均100時間以上で、過労死の認定基準(月80時間超)を上回り、08年12月に労災認定された。
大島裁判長は、同社が当時、時間外労働が月80時間に満たない場合は基本給から不足分を控除すると規定していたと指摘。「長時間労働を前提としており、こうした勤務体制を維持したことは、役員にも重大な過失がある」と述べた。
閉廷後に記者会見した母の隆子さん(55)は「従業員が過労死した企業には公表義務を課すなど、社会全体で厳しい目を向けて監視していく必要があると感じた」と語った。
大庄広報室は「まだ判決が届いておらずコメントできないが、今後は内容を十分に検討して対応する」としている。
役員の損害賠償責任を認めた根拠条文が報道では明らかではありませんが、恐らくは役員等の第三者に対する損害賠償責任を認めた会社法429条1項(旧商法266条の3)ではないかと思われます。
会社法429条1項 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
同法を根拠に安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を取締役にも連帯して支払うよう命じた裁判例は、これが初めてではありません。おかざき事件(大阪高判平成19年1月18日 労判940-58)が挙げられます。同事案については、濱口桂一郎先生のブログにおいてもすでに紹介されています。(こちら)。
おかざき事件は小規模会社における代表取締役の連帯責任が問われたものです。また本ブログにおいても、以前、残業手当請求に係る取締役の連帯責任を認めた裁判例を紹介したことがあります(こちら)。同事案も中小企業における取締役等の連帯責任が認められた事案です。
これに対して、上記事案は東証一部上場企業における役員の連帯責任を認めたものであり、この点で大きく異なります。更に報道記事によれば、「長時間労働を前提とした勤務体制、賃金制度の構築」が取締役の重過失を構成すると判示したとの事です。同判示部分については先例的な意義を有するものであり、今後、これが会社法429条1項に係る判例法理として形成されていくのか否か。同判断基準の適否とその適用、その射程など今後注意深く見守っていく要がありそうです。まずは同判決文をじっくりと勉強しなければなりません。
5月25日11時27分配信 読売新聞
全国チェーンの飲食店「日本海庄や」石山駅店(大津市)で勤務していた吹上元康さん(当時24歳)が急死したのは過重な労働を強いられたことが原因として、両親が経営会社「大庄」(東京)と平辰(たいらたつ)社長ら役員4人に慰謝料など約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、京都地裁であった。
大島真一裁判長は「生命、健康を損なわないよう配慮すべき義務を怠った」として、同社と4人に対し、約7860万円の支払いを命じた。
原告側の弁護士によると、過労死を巡る訴訟で、役員の賠償責任を認めた司法判断は珍しいという。
判決によると、吹上さんは2007年4月に入社後、石山駅店に配属されたが、同8月11日未明、自宅で就寝中に急性心不全で死亡。死亡まで4か月間の時間外労働は月平均100時間以上で、過労死の認定基準(月80時間超)を上回り、08年12月に労災認定された。
大島裁判長は、同社が当時、時間外労働が月80時間に満たない場合は基本給から不足分を控除すると規定していたと指摘。「長時間労働を前提としており、こうした勤務体制を維持したことは、役員にも重大な過失がある」と述べた。
閉廷後に記者会見した母の隆子さん(55)は「従業員が過労死した企業には公表義務を課すなど、社会全体で厳しい目を向けて監視していく必要があると感じた」と語った。
大庄広報室は「まだ判決が届いておらずコメントできないが、今後は内容を十分に検討して対応する」としている。
役員の損害賠償責任を認めた根拠条文が報道では明らかではありませんが、恐らくは役員等の第三者に対する損害賠償責任を認めた会社法429条1項(旧商法266条の3)ではないかと思われます。
会社法429条1項 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
同法を根拠に安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を取締役にも連帯して支払うよう命じた裁判例は、これが初めてではありません。おかざき事件(大阪高判平成19年1月18日 労判940-58)が挙げられます。同事案については、濱口桂一郎先生のブログにおいてもすでに紹介されています。(こちら)。
おかざき事件は小規模会社における代表取締役の連帯責任が問われたものです。また本ブログにおいても、以前、残業手当請求に係る取締役の連帯責任を認めた裁判例を紹介したことがあります(こちら)。同事案も中小企業における取締役等の連帯責任が認められた事案です。
これに対して、上記事案は東証一部上場企業における役員の連帯責任を認めたものであり、この点で大きく異なります。更に報道記事によれば、「長時間労働を前提とした勤務体制、賃金制度の構築」が取締役の重過失を構成すると判示したとの事です。同判示部分については先例的な意義を有するものであり、今後、これが会社法429条1項に係る判例法理として形成されていくのか否か。同判断基準の適否とその適用、その射程など今後注意深く見守っていく要がありそうです。まずは同判決文をじっくりと勉強しなければなりません。
2010年4月30日金曜日
「アモーレと労働法」松下PDP最高裁判決評釈に対する雑感
労働法関係で愛読しているブログの一つに神戸大の大内伸哉先生のブログ「アモーレと労働法」があります。 労働法関係はもちろん映画評、読書評を大変、楽しみに拝読しているのですが、本日のブログ(こちら)では、大内先生が松下PDP最高裁判決の評釈をジュリストに掲載する準備を進めておられることが綴られております。その同ブログの最後ですが、次のような謎が出されました。
「ところで,3月の東大の研究会で,この事件を報告したとき,私が見たところでは,どの解説でも指摘されていなかった論点がありました。判決が会社に損害賠償責任を認めた理由として,原告が労働局に偽装請負の申告をしたことに対する報復目的があるのですが,それなら,雇止めはそもそも無効となるのではないか,という点です。立教大学の竹内(奥野)寿君(括弧内は結婚前の旧姓です。クリス・エバート・ロイドみたいですね)が指摘してくれました。私は無効とならないと考えていますが,では,私はどういう理由をあげたでしょうか。その答えは,ジュリストの掲載号(何号か知りません)を御覧下さい。」
この謎については、拙ブログにおきましても、以前に次のような回答を仮案として出したことがあります(こちら)。大内先生のジュリスト評釈による「謎解き」が今から楽しみであります。
「ところで,3月の東大の研究会で,この事件を報告したとき,私が見たところでは,どの解説でも指摘されていなかった論点がありました。判決が会社に損害賠償責任を認めた理由として,原告が労働局に偽装請負の申告をしたことに対する報復目的があるのですが,それなら,雇止めはそもそも無効となるのではないか,という点です。立教大学の竹内(奥野)寿君(括弧内は結婚前の旧姓です。クリス・エバート・ロイドみたいですね)が指摘してくれました。私は無効とならないと考えていますが,では,私はどういう理由をあげたでしょうか。その答えは,ジュリストの掲載号(何号か知りません)を御覧下さい。」
この謎については、拙ブログにおきましても、以前に次のような回答を仮案として出したことがあります(こちら)。大内先生のジュリスト評釈による「謎解き」が今から楽しみであります。
2010年4月19日月曜日
過労死訴訟ー障害を考慮し労災認定
先日、名古屋高裁において、国の労災不支給決定処分が取り消される判決が出され、マスコミにおいて大きく報じられています(こちら)。
判決文をまだ見ておりませんので同判決の規範とその射程などをまだ評価できませんが、今年6月に筑波大学の判例研究会で報告を予定している高裁判決(福岡高判平成21.5.19)と規範定立の面で類似性があるように感じています。
労災認定における業務起因性と被災労働者の個体的要因との関係をどのように考えるべきか。また民事損害賠償請求において求められる使用者の予見可能性と労災認定の過重負荷との関係性はどうか。この設問自体の適否を含めて、6月までに検討を深めておきたいと考えています。私にとって大きな宿題です。
判決文をまだ見ておりませんので同判決の規範とその射程などをまだ評価できませんが、今年6月に筑波大学の判例研究会で報告を予定している高裁判決(福岡高判平成21.5.19)と規範定立の面で類似性があるように感じています。
労災認定における業務起因性と被災労働者の個体的要因との関係をどのように考えるべきか。また民事損害賠償請求において求められる使用者の予見可能性と労災認定の過重負荷との関係性はどうか。この設問自体の適否を含めて、6月までに検討を深めておきたいと考えています。私にとって大きな宿題です。
2010年4月12日月曜日
「残業代請求権の放棄」と労働者の自由な意思表示
先日、毎日JPで次のようなNEWSが報道されていました(こちら)。
残業代未払い訴訟において、会社側が残業代の権利放棄がなされたと主張するケースがままありますが、これに対して同事案の従業員側代理人は、同権利放棄を誘導したものであり、違法無効との反論を行ったようです。
「労基署を愚弄している」等のコメントが見られますが、それよりも法的に問題となるのは、同残業代放棄が労働者の「自由な意思に基づくものであることが明確であるのか」という点です(賃金債権放棄に係る先例として、シンガー・ソーイング・メシーン事件ほか)。同判断のポイントになるのが、労働者からの残業代放棄確認書提出までのプロセスですが、そもそも労働者が自らの残業代を放棄すること自体が不自然ですので、それを払拭するような合理的理由がありうるのか。
同事案が判決で示された場合には、また改めて注目したいと思います。
残業代未払い訴訟において、会社側が残業代の権利放棄がなされたと主張するケースがままありますが、これに対して同事案の従業員側代理人は、同権利放棄を誘導したものであり、違法無効との反論を行ったようです。
「労基署を愚弄している」等のコメントが見られますが、それよりも法的に問題となるのは、同残業代放棄が労働者の「自由な意思に基づくものであることが明確であるのか」という点です(賃金債権放棄に係る先例として、シンガー・ソーイング・メシーン事件ほか)。同判断のポイントになるのが、労働者からの残業代放棄確認書提出までのプロセスですが、そもそも労働者が自らの残業代を放棄すること自体が不自然ですので、それを払拭するような合理的理由がありうるのか。
同事案が判決で示された場合には、また改めて注目したいと思います。
2010年2月5日金曜日
朝青龍「退職」と労働法ーニシムラ事件からの示唆
「朝青龍、突然の引退劇 解雇と迫られ、観念」(スポニチアネックス 10.2.5)の報、私もびっくりいたしました。小沢幹事長の問題がどこかに吹き飛んでしまった感があるほどです。
同記事を読んでおりましたら、人事労務の観点から見ても大変、重要な問題である「退職」「懲戒解雇」の問題が潜在していることが見てとれます。
外部機関である審議会が「引退勧告相当」との意見を理事会に示し、これを基に理事会の審議において「解雇」相当との意見が有力となる中で、九重親方がその意を伝え、暗に引退(退職)を促したところ、これに朝青龍側が応じたと報じられています(本当かどうか、私に確認のすべはございませんが・・・)。
このように懲戒解雇相当と経営陣が判断した事案について、本人に退職勧奨を行うことは、相撲協会のみならず、企業においてもよく見られる対応と思われます。現に就業規則の懲戒処分事由の中に「諭旨解雇」なる処分が含まれていることが通例ですが、これなどまさに同対応を明文化したものといえます。
しかしながら如何なる場合も、先のような対応が可能かといえば、さにあらず。ニシムラ事件(大阪地決昭和61.10.17 労判486-83)という興味深い下級審裁判例があります。
事案の概要・判旨はさしあたり全基連データベースのこちらをご参照ください(こちら)。同判決において、「使用者の右懲戒権の講師や告訴自体が権利の濫用と評すべき場合に、懲戒解雇処分や告訴のあり得べきことを告知し、そうなった場合の不利益を説いて同人から退職届を提出させることは、労働者を畏怖させるに足りる脅迫行為・・・これによってなした労働者の退職の意思表示は瑕疵あるものとして取り消し得る」と判示した点が重要です。
つまり懲戒解雇に該当しないような事案について、使用者側が「懲戒解雇になるぞ、処分前であれば退職届を受領し退職金を支払ってやる」とする対応は、後日、脅迫を理由に退職自体を取消しうるということです。
それでは朝青龍は「懲戒解雇」相当であったのか。昨日の記者会見を見る限り、当人はマスコミ報道と事実が違うとの主張を繰り返していました。知人男性に対する暴行が仮に事実無根(酔っていたので、何かの拍子に手が当たってしまったなど)であれば、ニシムラ事件と同様の問題状況といえるのかもしれませんね。
同記事を読んでおりましたら、人事労務の観点から見ても大変、重要な問題である「退職」「懲戒解雇」の問題が潜在していることが見てとれます。
外部機関である審議会が「引退勧告相当」との意見を理事会に示し、これを基に理事会の審議において「解雇」相当との意見が有力となる中で、九重親方がその意を伝え、暗に引退(退職)を促したところ、これに朝青龍側が応じたと報じられています(本当かどうか、私に確認のすべはございませんが・・・)。
このように懲戒解雇相当と経営陣が判断した事案について、本人に退職勧奨を行うことは、相撲協会のみならず、企業においてもよく見られる対応と思われます。現に就業規則の懲戒処分事由の中に「諭旨解雇」なる処分が含まれていることが通例ですが、これなどまさに同対応を明文化したものといえます。
しかしながら如何なる場合も、先のような対応が可能かといえば、さにあらず。ニシムラ事件(大阪地決昭和61.10.17 労判486-83)という興味深い下級審裁判例があります。
事案の概要・判旨はさしあたり全基連データベースのこちらをご参照ください(こちら)。同判決において、「使用者の右懲戒権の講師や告訴自体が権利の濫用と評すべき場合に、懲戒解雇処分や告訴のあり得べきことを告知し、そうなった場合の不利益を説いて同人から退職届を提出させることは、労働者を畏怖させるに足りる脅迫行為・・・これによってなした労働者の退職の意思表示は瑕疵あるものとして取り消し得る」と判示した点が重要です。
つまり懲戒解雇に該当しないような事案について、使用者側が「懲戒解雇になるぞ、処分前であれば退職届を受領し退職金を支払ってやる」とする対応は、後日、脅迫を理由に退職自体を取消しうるということです。
それでは朝青龍は「懲戒解雇」相当であったのか。昨日の記者会見を見る限り、当人はマスコミ報道と事実が違うとの主張を繰り返していました。知人男性に対する暴行が仮に事実無根(酔っていたので、何かの拍子に手が当たってしまったなど)であれば、ニシムラ事件と同様の問題状況といえるのかもしれませんね。
2010年1月9日土曜日
来週の研究会報告(国・福岡東労基署長事件)についての頭の整理
来週水曜日に研究会で報告を予定している「国・福岡東労基署長事件」(労判964-35)について頭を悩ませております。
事案としては、ガソリンスタンドで現業職に従事していた中途入社社員が本人(父親?)の希望どおり、金融部門に配転されたのですが、共済等の新規営業開拓がうまくできない等から、配転2ヶ月未満で精神疾患に罹患、その後2ヶ月後に自殺し、その遺族が国に対して、労災遺族補償年金等の支給を求め提訴されたものです。国側は「同種労働者」から見て、業務による心理的負荷は業務上とするほど高くないと判断し、不支給決定処分としていましたが、福岡地裁がこの判断を覆しました(控訴も棄却され、地裁判断確定(上告せず))。
いわゆる「過労自殺」の労災認定に係る法的紛争については、従来「長時間労働」が問題とされてきました。長時間労働に慢性的に従事してはいるが、精神疾患発症の6ヶ月前までに目立つ「出来事」がない事案について、労基署は「出来事」の心理的負荷が低いことを理由に不支給決定処分としてきたものです。しかし、これについてはT自動車事件控訴審等において、一定の判断が示される(不支給決定処分取消)とともに、判断指針が変更され、運用(出来事とこれに対する修正、出来事後の変化等に長時間労働の実態を加味することにより、評価を上げること可)によって十分に対応が可能となりました。現に近時の審査事案を見ると、審査会レベルで支給決定に転じる例が多数見られます(こちら)。
これに対して、今回検討している事案は、長時間労働はさほど問題とされておらず(ただし所定時間終了後、本人が顧客回りを午後9時頃までしていた可能性はあり、この点地裁は一定程度評価)、焦点となった心理的負荷が、配転と年間目標、そして会社側の支援です。
同地裁は、まず本件被災労働者について、もともと営業職の適性に欠けると断じた上で(この点の判断は、実務担当者から見て相当違和感を覚える気が・・)、本人が同意するものの適性に欠く金融業務に配転させたことが、まず業務上の心理的負荷が相当重いとするものです。また年間目標についても、同社では新人以外は同じ営業目標を掲げており、月額給与にもその達成度合いを連動させていませんが、適性に欠く社員に対する目標としては高すぎるとし、その負荷が極めて高かったとします。最後に会社側の支援について、一定の研修・OJTの実施を認めるものの、適性に欠く社員に対する支援としては不十分であるとし、以上からその業務による心理的負荷が極めて大と結論づけたものです。
心理的負荷が過重か否かを判別するにあたり、「本人」にとって大であれば認めるのか、あるいは「平均的労働者」から見て大であれば認めるのか二つの考え方がありえます。これについて、厚労省は後者を採用しており、本地裁も後者の立場を取り、前者を取らない旨明言しています。
では、この「平均的労働者」をどのように設定するのか。以前からこの点について争われてきましたが、本地裁判決は従来の裁判例に照らし、どのように位置づけられるのか。またその射程は如何なるものか。そして同判断を前提とすることにより、精神疾患の労災認定実務、企業の労務管理にどのような影響があるのか。
ここが報告において、最大のポイントになるのではないかとうっすら考えておるところです。これをまとめるのが大変に一苦労ではありますが、労災法研究そして実務的にも大変、重要な問題と思われるものであり、もう少し突っ込んで勉強してみたいと思います。中間報告まで。
事案としては、ガソリンスタンドで現業職に従事していた中途入社社員が本人(父親?)の希望どおり、金融部門に配転されたのですが、共済等の新規営業開拓がうまくできない等から、配転2ヶ月未満で精神疾患に罹患、その後2ヶ月後に自殺し、その遺族が国に対して、労災遺族補償年金等の支給を求め提訴されたものです。国側は「同種労働者」から見て、業務による心理的負荷は業務上とするほど高くないと判断し、不支給決定処分としていましたが、福岡地裁がこの判断を覆しました(控訴も棄却され、地裁判断確定(上告せず))。
いわゆる「過労自殺」の労災認定に係る法的紛争については、従来「長時間労働」が問題とされてきました。長時間労働に慢性的に従事してはいるが、精神疾患発症の6ヶ月前までに目立つ「出来事」がない事案について、労基署は「出来事」の心理的負荷が低いことを理由に不支給決定処分としてきたものです。しかし、これについてはT自動車事件控訴審等において、一定の判断が示される(不支給決定処分取消)とともに、判断指針が変更され、運用(出来事とこれに対する修正、出来事後の変化等に長時間労働の実態を加味することにより、評価を上げること可)によって十分に対応が可能となりました。現に近時の審査事案を見ると、審査会レベルで支給決定に転じる例が多数見られます(こちら)。
これに対して、今回検討している事案は、長時間労働はさほど問題とされておらず(ただし所定時間終了後、本人が顧客回りを午後9時頃までしていた可能性はあり、この点地裁は一定程度評価)、焦点となった心理的負荷が、配転と年間目標、そして会社側の支援です。
同地裁は、まず本件被災労働者について、もともと営業職の適性に欠けると断じた上で(この点の判断は、実務担当者から見て相当違和感を覚える気が・・)、本人が同意するものの適性に欠く金融業務に配転させたことが、まず業務上の心理的負荷が相当重いとするものです。また年間目標についても、同社では新人以外は同じ営業目標を掲げており、月額給与にもその達成度合いを連動させていませんが、適性に欠く社員に対する目標としては高すぎるとし、その負荷が極めて高かったとします。最後に会社側の支援について、一定の研修・OJTの実施を認めるものの、適性に欠く社員に対する支援としては不十分であるとし、以上からその業務による心理的負荷が極めて大と結論づけたものです。
心理的負荷が過重か否かを判別するにあたり、「本人」にとって大であれば認めるのか、あるいは「平均的労働者」から見て大であれば認めるのか二つの考え方がありえます。これについて、厚労省は後者を採用しており、本地裁も後者の立場を取り、前者を取らない旨明言しています。
では、この「平均的労働者」をどのように設定するのか。以前からこの点について争われてきましたが、本地裁判決は従来の裁判例に照らし、どのように位置づけられるのか。またその射程は如何なるものか。そして同判断を前提とすることにより、精神疾患の労災認定実務、企業の労務管理にどのような影響があるのか。
ここが報告において、最大のポイントになるのではないかとうっすら考えておるところです。これをまとめるのが大変に一苦労ではありますが、労災法研究そして実務的にも大変、重要な問題と思われるものであり、もう少し突っ込んで勉強してみたいと思います。中間報告まで。
2009年7月18日土曜日
取締役の善管注意義務と時間外割増賃金について
企業における時間外割増賃金の法的リスクは、残業代の遡及払い、過労死・過労自殺などがよく指摘されるところですが、先日公刊されたある判決を見ると、更なる拡大の可能性が見られます。
S観光事件(代表取締役ら・割増賃金支払義務)事件(大阪地判平成21年1月15日 労判979-16)です。同事件では、従業員が会社の代表取締役および取締役を相手取り、商法上の善管注意義務ないし忠実義務違反を理由に未払い割増賃金についての損害賠償請求を行い、これが認められたものです(確定)。会社ではなく、役員の個人責任が法的に認められたという点で稀有な判決といえます。
今後、同判決の以下判示部分をどのように評価すべきであるのか。そして同判示部分が今後どのように判例法理として形成されていくのか(いかないのか)、大変注目されます。なお同事件については、別訴で従業員に対する割増賃金支払いが命じられているにもかかわらず、会社側が同確定判決を無視するなど特異な事情があり、結論として取締役の個人責任を問うて然るべき事案ではあったとは思われます。
「株式会社の取締役及び監査役は、会社に対する善管注意義務ないし忠実義務として、会社に労働基準法37条を遵守させ、被用者に対して割増賃金を支払わせる義務を負っているというべきである」
「商法266条の3(280条1項)にいう取締役及び監査役の善管注意義務ないし忠実義務は、会社資産の横領、背任、取引行為など財産的範疇に属する任務懈怠だけではなく、会社の使用者としての立場から遵守されるべき労働基準法上の履行に関する任務懈怠も包含すると解すべきである」
また労働基準法上の履行が取締役の善管注意義務にあたるとしても、第3者(従業員含む)に対する取締役の善管注意義務違反を理由とした損害賠償は「悪意又は重大な過失」がある場合に限られます(旧法266条の3(現行会社法第429条))。
本件については、取締役側が職務手当に時間外割増賃金が含まれていると当時理解していたことと、労基署の2度にわたる調査において割増賃金に係る是正勧告が行われないことをもって、「悪意又は重大な過失」がなかったと主張しました。これに対し、裁判所は少なくとも労基署が就業規則の周知義務違反を行政指導していたことをもって、職務手当に係る規定の周知とその趣旨どおりの運用が不十分であったことを役員が認識することは、「極めて容易なことであった」とし、その「悪意又は重大な過失」の成立をも認め、損害賠償請求を認容しています。
商法改正に際し、株式会社における内部統制構築が大きな課題でしたが、その際、労働法令遵守がこれに含まれるとの認識は比較的薄かったように思われます。しかし、本判決内容を前提にすると、時間外割増賃金などの労基法に係る法令遵守は、取締役の「株主」に対する善管注意義務に含まれ、明らかに内部統制事項に含まれることになります。そしてその義務不履行とその悪意又は重過失は上記裁判例を見る限り、比較的容易に認められる可能性があることが示唆されています。
時間外割増賃金支払いをはじめとした労働法令遵守は、もはや労務・人事などの部門に留まる問題ではなく、取締役が責任をもって対応しなければならない時代を迎えたといえるのかもしれません。
なお時間外割増賃金をめぐる法的リスクとこれに対する実務対応について、北岡・峰隆之弁護士共著で単行本を出版することになりました。「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」(㈱日本法令)です(こちら)。同リスク問題を企業実務対応の視点から詳細に解説しておりますので、ぜひともお買い求めいただければ幸いです。
2008年11月21日金曜日
退職手続きの違法性再論
今週は先日ブログに書いたゴムノイナキ事件を別の場で2回、お話をさせていただく機会を得ました。どちらの機会ともに、参加者の方から有益なご示唆を頂くことが多く、ありがたい思いを致しました。
その中でも実務経験豊富なベテラン社労士の先生からの示唆が大変、勉強になりました。同先生のお話によれば、労使間で対立が生じる可能性のある離職事由については、離職票に「勧奨退職」とのみ記載し提出するケースが多いとのことです。この記載であれば、ハローワークも特に異論なく「特定受給資格者」と取扱うこととなり、労使双方も大半は丸く収まるとのこと。
この離職事由において、例えば「勤務成績不良を理由とした退職勧奨による退職」などと会社側が記載をしますと、それを受け取った従業員は当然良い顔をしませんし、ハローワークも対応に苦慮することになります。先日、私がハローワークに正面から確認した際、担当者が困惑してたことが思い出されます。実務処理の本流を知ることができ、大変ありがたい思いをいたしました。
おそらく実務では大半が問題なく手続き処理されるのでしょうが、まれにトラブルが生じることがあります。そのまれなトラブルを解決することも、法の大きな役割だと考えています。その意味では、ゴムノイナキ事件判決に対する批判的検討の重要性は損なわれるものではないと思うところです。
その中でも実務経験豊富なベテラン社労士の先生からの示唆が大変、勉強になりました。同先生のお話によれば、労使間で対立が生じる可能性のある離職事由については、離職票に「勧奨退職」とのみ記載し提出するケースが多いとのことです。この記載であれば、ハローワークも特に異論なく「特定受給資格者」と取扱うこととなり、労使双方も大半は丸く収まるとのこと。
この離職事由において、例えば「勤務成績不良を理由とした退職勧奨による退職」などと会社側が記載をしますと、それを受け取った従業員は当然良い顔をしませんし、ハローワークも対応に苦慮することになります。先日、私がハローワークに正面から確認した際、担当者が困惑してたことが思い出されます。実務処理の本流を知ることができ、大変ありがたい思いをいたしました。
おそらく実務では大半が問題なく手続き処理されるのでしょうが、まれにトラブルが生じることがあります。そのまれなトラブルを解決することも、法の大きな役割だと考えています。その意味では、ゴムノイナキ事件判決に対する批判的検討の重要性は損なわれるものではないと思うところです。
2008年11月9日日曜日
「変更解約告知」の混乱ー関西金属工業事件ーほか
関西金属工業事件 大阪高裁平成十九年五月十七日判決
事案の概要・判決内容・評釈については、金井幸子氏判例評釈(名大法政論集)が大変、有益ですので、こちらをご覧ください。
同事件では、会社側は深刻な経営難に伴い、いったん社員を退職させた上で、新たな労働条件(賃金額が4割減など)による雇用契約の募集を行いました。同募集に応じた社員すべてを再雇用するものではない(6名リストラ予定)ことを当初から明らかにしておりましたが、同退職・募集申込(これを「変更解約告知」と称している)に応じなかった社員10名全てを解雇しています。
この解雇の効力が争われたものですが、そもそもここで会社側が主張するものが、「変更解約告知」といえるのかが問題となりました。というのが、従来から論じられてきた変更解約告知は、労働条件変更に伴う雇用維持か、あるいは変更に従わないことによる解雇かいずれを従業員側に選択させることに大きな意義がありました。つまり、変更であれば雇用維持されることが前提でしたが、本件では変更に応じたとしても、雇用が維持されるか否か定かではないところに大きな特徴があります。
同高裁判決では「変更解約告知」であることを明確に否定しないものの、整理解雇と変更解約告知を分けて論じることはできないと指摘した上で、専ら整理解雇法理に照らして、あてはめを行い、本件解雇を無効としました。主に4要件でいうところの人選基準に問題がある(6名で十分であるにもかかわらず、10名を解雇した点)としたものです。
結論は良いとしても、この会社の対応を「変更解約告知」と称してよいのか、違和感を覚えます。本事案はそもそも整理解雇であり、その中に従業員の労働条件変更が含まれていたと位置づけるのが適切ではないでしょうか。本件の「変更解約告知」と称する会社側対応は、専ら解雇回避措置のところで考慮すれば、それで足りるものと思われます(但し労働条件引き下げによる雇用維持に向けた対応が、解雇回避措置として高く評価されるかは疑問。やはり希望退職募集等が重視されると考える)。
とすれば、本件は人選基準を明らかにせずに、労働条件変更を拒絶したもののみを解雇対象者として選定した合理性を問えば、結論を同じく導き出せることとなります。
裁判所の判断基準はさておき、本事案のようなケースにおいて、会社側がどのような対応を取るのが適切であったのかが、課題として残ります。いずれにしても本事案のように労働条件引き下げと整理解雇を同時に行おうとするのは適当ではなく、事前に周到な準備の上で、対応を検討しなければならないことが明らかにされた点が実務的にも参考になります。
話は変わりまして、吉祥寺で久し振りに京都町内会バンドのライブを楽しみました。バンド結成から12年、前身を含めると20年。あまりの長い付き合いに感慨無量(笑)。
事案の概要・判決内容・評釈については、金井幸子氏判例評釈(名大法政論集)が大変、有益ですので、こちらをご覧ください。
同事件では、会社側は深刻な経営難に伴い、いったん社員を退職させた上で、新たな労働条件(賃金額が4割減など)による雇用契約の募集を行いました。同募集に応じた社員すべてを再雇用するものではない(6名リストラ予定)ことを当初から明らかにしておりましたが、同退職・募集申込(これを「変更解約告知」と称している)に応じなかった社員10名全てを解雇しています。
この解雇の効力が争われたものですが、そもそもここで会社側が主張するものが、「変更解約告知」といえるのかが問題となりました。というのが、従来から論じられてきた変更解約告知は、労働条件変更に伴う雇用維持か、あるいは変更に従わないことによる解雇かいずれを従業員側に選択させることに大きな意義がありました。つまり、変更であれば雇用維持されることが前提でしたが、本件では変更に応じたとしても、雇用が維持されるか否か定かではないところに大きな特徴があります。
同高裁判決では「変更解約告知」であることを明確に否定しないものの、整理解雇と変更解約告知を分けて論じることはできないと指摘した上で、専ら整理解雇法理に照らして、あてはめを行い、本件解雇を無効としました。主に4要件でいうところの人選基準に問題がある(6名で十分であるにもかかわらず、10名を解雇した点)としたものです。
結論は良いとしても、この会社の対応を「変更解約告知」と称してよいのか、違和感を覚えます。本事案はそもそも整理解雇であり、その中に従業員の労働条件変更が含まれていたと位置づけるのが適切ではないでしょうか。本件の「変更解約告知」と称する会社側対応は、専ら解雇回避措置のところで考慮すれば、それで足りるものと思われます(但し労働条件引き下げによる雇用維持に向けた対応が、解雇回避措置として高く評価されるかは疑問。やはり希望退職募集等が重視されると考える)。
とすれば、本件は人選基準を明らかにせずに、労働条件変更を拒絶したもののみを解雇対象者として選定した合理性を問えば、結論を同じく導き出せることとなります。
裁判所の判断基準はさておき、本事案のようなケースにおいて、会社側がどのような対応を取るのが適切であったのかが、課題として残ります。いずれにしても本事案のように労働条件引き下げと整理解雇を同時に行おうとするのは適当ではなく、事前に周到な準備の上で、対応を検討しなければならないことが明らかにされた点が実務的にも参考になります。
話は変わりまして、吉祥寺で久し振りに京都町内会バンドのライブを楽しみました。バンド結成から12年、前身を含めると20年。あまりの長い付き合いに感慨無量(笑)。
2008年11月5日水曜日
職場内の飲酒を伴う会合後の災害は通勤災害か?
国・中央労基署長(通勤災害)事件 東京高裁H.20.6.25(労判960-16)
事案の概要
総務部門次長が、同部門主催の会社内会合終了後、帰宅途中に地下鉄入口下り階段から転落し、死亡したことが労災法上の通勤災害に該当するか否か争われた事案。労基署は通勤災害に該当しないとし、不支給決定処分としたところ、遺族が同不支給決定処分の取り消しを求めたもの。1審は遺族の請求を認め、不支給決定処分の取り消しを命じた。これに対して国側が控訴。
判決 原判決取り消し
コメント
職場内で飲酒を伴う会合がなされることは、以前に比べて少なくなったとはいえ、今なお多くの企業でみられるところです。本事案では、5時間近く続いた会合(17時ー22時)終了後、帰路についた総務部門次長の転倒事故が「通勤災害」に該当するか争われました。
1審はこの会合すべてを「業務」と判断しました。同会合において、被災者が総務次長として、従業員からの様々な相談・不満を聞いていたことから「業務性」を認めたものです。これに対して、控訴審では一転して判断を異にしました。17時から19時前後までの会合までは業務性があるとしたものの、19時から22時までの会合は業務性のある参加ではないと判示しています。その根拠として、裁判所は①被災労働者が通常19時には退社していること、②開始時刻からの時間の経過等から、19時前後には本件会合の目的に従った行事は終了していたとするものです。
これについて、1審判示の視点からみると、19時以降も従業員からの相談対応等を行っており、19時で「業務」と切断されることは相当ではないとの見解も成り立ちえます。控訴審では、この指摘に対して特段答えていませんが、察するに飲酒を伴う会合という特殊性を前提にすれば、2時間程度で業務と切断するのも、やむを得ないと考えます。
自らの乏しい経験を思い起こしてみても、飲酒を伴う会合は通常2時間程度で終わるものであり、それを超える場合は、私的関係を含めたお付き合いの色彩が強まると思われます。もちろん2次会、3次会のかなり煮詰まった段階(酩酊状態)で、仕事の話をすることもありますが、それをすべて「業務」とし、終了後の帰路をすべて「通勤災害上のリスク」と扱えるかどうかは違和感があります。飲酒を伴う会合については、業務性が認められたとしても2時間程度とするのは、社会通念に照らして相当ではないでしょうか。
また本件においては、控訴審段階で国側が新証拠を提出し、被災者が相当な酩酊状態にあったことが立証されています。強度の酩酊状態に陥っていた段階での転倒事故が、通勤災害上の保護対象となるか否かも疑問を感じるところです。したがって、控訴審の認定事実を前提とすれば、本判決の結論は相当と考えます。
本判決が提示した別の論点として、国側の新証拠提出時期の問題があります。控訴審段階で新証拠提出が許されるのか、そもそも国側の処分において前提とされた事実とは異なる事由を、訴訟段階で持ち出すことが可能かどうか。行政訴訟法との関係で更に踏み込んだ検討が求められる課題ではないかと思われます。
事案の概要
総務部門次長が、同部門主催の会社内会合終了後、帰宅途中に地下鉄入口下り階段から転落し、死亡したことが労災法上の通勤災害に該当するか否か争われた事案。労基署は通勤災害に該当しないとし、不支給決定処分としたところ、遺族が同不支給決定処分の取り消しを求めたもの。1審は遺族の請求を認め、不支給決定処分の取り消しを命じた。これに対して国側が控訴。
判決 原判決取り消し
コメント
職場内で飲酒を伴う会合がなされることは、以前に比べて少なくなったとはいえ、今なお多くの企業でみられるところです。本事案では、5時間近く続いた会合(17時ー22時)終了後、帰路についた総務部門次長の転倒事故が「通勤災害」に該当するか争われました。
1審はこの会合すべてを「業務」と判断しました。同会合において、被災者が総務次長として、従業員からの様々な相談・不満を聞いていたことから「業務性」を認めたものです。これに対して、控訴審では一転して判断を異にしました。17時から19時前後までの会合までは業務性があるとしたものの、19時から22時までの会合は業務性のある参加ではないと判示しています。その根拠として、裁判所は①被災労働者が通常19時には退社していること、②開始時刻からの時間の経過等から、19時前後には本件会合の目的に従った行事は終了していたとするものです。
これについて、1審判示の視点からみると、19時以降も従業員からの相談対応等を行っており、19時で「業務」と切断されることは相当ではないとの見解も成り立ちえます。控訴審では、この指摘に対して特段答えていませんが、察するに飲酒を伴う会合という特殊性を前提にすれば、2時間程度で業務と切断するのも、やむを得ないと考えます。
自らの乏しい経験を思い起こしてみても、飲酒を伴う会合は通常2時間程度で終わるものであり、それを超える場合は、私的関係を含めたお付き合いの色彩が強まると思われます。もちろん2次会、3次会のかなり煮詰まった段階(酩酊状態)で、仕事の話をすることもありますが、それをすべて「業務」とし、終了後の帰路をすべて「通勤災害上のリスク」と扱えるかどうかは違和感があります。飲酒を伴う会合については、業務性が認められたとしても2時間程度とするのは、社会通念に照らして相当ではないでしょうか。
また本件においては、控訴審段階で国側が新証拠を提出し、被災者が相当な酩酊状態にあったことが立証されています。強度の酩酊状態に陥っていた段階での転倒事故が、通勤災害上の保護対象となるか否かも疑問を感じるところです。したがって、控訴審の認定事実を前提とすれば、本判決の結論は相当と考えます。
本判決が提示した別の論点として、国側の新証拠提出時期の問題があります。控訴審段階で新証拠提出が許されるのか、そもそも国側の処分において前提とされた事実とは異なる事由を、訴訟段階で持ち出すことが可能かどうか。行政訴訟法との関係で更に踏み込んだ検討が求められる課題ではないかと思われます。
2008年11月3日月曜日
退職手続きの違法性とは?-ゴムノイナキ事件判決ー
ゴムノイナキ事件(大阪地裁平成19.6.15 労判957-79)
(事案) 勤務態度不良を理由とした業務指導の過程で退職した社員について、会社側が「自己都合」退職を前提に退職金、失業保険給付手続きを行ったことが違法とされ、会社都合退職による退職金および特定受給資格に基づく失業保険給付との差額分支払を命じた例(控訴後和解)
(コメント)結論・理由ともに反対
退職勧奨自体はこれまでも、その回数・頻度あるいはその言動等が不相当である場合、違法であるとされ、損害賠償の対象とされてきた。これに対して、上記事案では、退職勧奨の態様は問題ではないとされる一方、退職の手続きに違法性があるとされた珍しい例。損害賠償として、本来「会社都合」で退職手続きを講ずべきであったとして、差額退職金及び失業保険(特定受給資格)の支払を会社に命じている。
よくわからないのが、会社側が「自己都合」で退職手続きを処理し、退職金・失業保険手続きをとったことが、何故、損害賠償の対象となる「違法性」を帯びるのかという点。本判決の認定事実によれば、会社側の退職勧奨に態様上、問題はなかったとされており(むしろ「具体的かつ丁重な」指導であったと評価されている!)、退職事由が「辞職ないし合意退職」であることに間違いはない。
加えて本件についていえば、本人の勤務成績不良に伴う指導が契機となり、退職したものといえる。たしかに純然たる私的理由による退職ではないとしても、同退職手続きを「会社都合退職」で行うべきとする違法性があるといえるのか。そもそも、何が違法であるのか、判決文からは定かではない。強いて考えるとすれば、労働契約に付随する適正に「退職手続き」を行うべき配慮義務とでもなるのか。
また退職金の制度設計は、基本的に会社側にゆだねられている。いかなる場合に会社都合、あるいは自己都合で退職金を支給するべきかについても同様である。本判決では会社側の内規、過去の運用経緯などを検証することなしに一足とびで、本件の退職は会社にとってもメリットがあった等とし、会社都合退職金を支給すべきであったとする。しかしながら、前述の内規・運用経緯を評価することなしに、このような判断がなされるべきか大変、疑問を感じる。
最後に特定受給資格についても、本件がこれに該当するか否かは、はなはだ疑問。ハローワークの運用においても、同種事案であれば、おそらくは特定受給資格としないのではないか。その上、同失業保険手続きにあたり、従業員自体も退職事由を記載できる仕組みとなっており、労使の対立があれば、ハローワークが最終決定を行うこととしている。とすれば、会社側の失業保険手続きはその一部に過ぎず、退職事由の記載をもって「損害賠償の対象たる違法性」があるのか、改めて疑問の念を強くする。
(事案) 勤務態度不良を理由とした業務指導の過程で退職した社員について、会社側が「自己都合」退職を前提に退職金、失業保険給付手続きを行ったことが違法とされ、会社都合退職による退職金および特定受給資格に基づく失業保険給付との差額分支払を命じた例(控訴後和解)
(コメント)結論・理由ともに反対
退職勧奨自体はこれまでも、その回数・頻度あるいはその言動等が不相当である場合、違法であるとされ、損害賠償の対象とされてきた。これに対して、上記事案では、退職勧奨の態様は問題ではないとされる一方、退職の手続きに違法性があるとされた珍しい例。損害賠償として、本来「会社都合」で退職手続きを講ずべきであったとして、差額退職金及び失業保険(特定受給資格)の支払を会社に命じている。
よくわからないのが、会社側が「自己都合」で退職手続きを処理し、退職金・失業保険手続きをとったことが、何故、損害賠償の対象となる「違法性」を帯びるのかという点。本判決の認定事実によれば、会社側の退職勧奨に態様上、問題はなかったとされており(むしろ「具体的かつ丁重な」指導であったと評価されている!)、退職事由が「辞職ないし合意退職」であることに間違いはない。
加えて本件についていえば、本人の勤務成績不良に伴う指導が契機となり、退職したものといえる。たしかに純然たる私的理由による退職ではないとしても、同退職手続きを「会社都合退職」で行うべきとする違法性があるといえるのか。そもそも、何が違法であるのか、判決文からは定かではない。強いて考えるとすれば、労働契約に付随する適正に「退職手続き」を行うべき配慮義務とでもなるのか。
また退職金の制度設計は、基本的に会社側にゆだねられている。いかなる場合に会社都合、あるいは自己都合で退職金を支給するべきかについても同様である。本判決では会社側の内規、過去の運用経緯などを検証することなしに一足とびで、本件の退職は会社にとってもメリットがあった等とし、会社都合退職金を支給すべきであったとする。しかしながら、前述の内規・運用経緯を評価することなしに、このような判断がなされるべきか大変、疑問を感じる。
最後に特定受給資格についても、本件がこれに該当するか否かは、はなはだ疑問。ハローワークの運用においても、同種事案であれば、おそらくは特定受給資格としないのではないか。その上、同失業保険手続きにあたり、従業員自体も退職事由を記載できる仕組みとなっており、労使の対立があれば、ハローワークが最終決定を行うこととしている。とすれば、会社側の失業保険手続きはその一部に過ぎず、退職事由の記載をもって「損害賠償の対象たる違法性」があるのか、改めて疑問の念を強くする。
登録:
投稿 (Atom)