2009年1月25日日曜日

(読書)池澤夏樹「セーヌの川辺」

 池澤夏樹さんのフランス滞在記・日仏文化論・雑記録等。小説・エッセーともに読後感が心地よく、愛読している作家の一人です。これを読んでいて驚かされるのは、「ストライキ」がフランスの日常にごく根ざしたものであること。フランスの語学学校の課題で、午後からの会議に参加できない部下の弁明が課題として出ることがあるそうですが、そこでは「電車がストライキのため、遅れます」という答えが何ら違和感がなくなされるそうです。エッセーの中にも、たびたびストライキで電車がとまり、空路で国際会議に出たり、出張を諦めタクシーで帰宅するなどの話が出てきます。

 「よくそんな不便を我慢できますね」と聞きたくなるところですが、池澤さんは同書で繰り返し日本とフランスのサービスの違いを指摘します。たとえば駅の販売店。例えば日本では、多種多様な駅弁・菓子・飲み物が駅売店に用意されており、いつも何を選ぶか悩むところです。これに対しフランスの駅では、無造作にサンドイッチ数点、飲み物数点が置かれているのみとの事。フランスの交通ストライキは、同書を読む限り、唐突に発生するようですが、お客も慣れたもので、淡々とその後のフォローをそれぞれが行う様子が描かれています。JR中央線など人身事故で電車が止まっただけで、駅員につかみかかるお客をよく見かけますが、そのような方がフランスの交通ストに遭遇したら、失神しそうですね(笑)。

 日本から見れば、その効率・サービスの悪さにめまいを覚えますが、池澤さんは「(日本の)効率のよさは何につながっているのか、そこのところがよくわからない」と指摘します。同書ではストライキのため電車が動かなくなった中、偶然、居合わせたお客同士でストライキの目的となった労働法改正案(26歳までの若者雇用増進を目的に、雇い入れから2年以内の解雇を緩和する法案 結局のところ廃案)について意見が取り交わされた様子が綴られています。フランスでは総じて、ストライキ等を通じて、政策への異議申し立てがなされること自体は肯定的なようです。

 効率性・良質なサービスと社会・政治への参加申し立て、この優先順位が日本とフランスで違うということなのでしょうか。どちらが良い・悪いではないのですが、社会の在り方をつらつら考えさせられた次第。比較法は興味深いものです。

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