最近、毎日のように製造業を中心とした大手企業の一時帰休が報道されています。全世界的な受注減の影響ですが、一つ気になるのが、休業期間中の賃金保障の問題です。
休業期間中の賃金を全額保障している場合もありますが、その多くは平均賃金の6割~8割の保障に留まる例が多いのではないでしょうか。もちろん、平均賃金の6割以上であれば、労基法26条に定める休業手当の水準をクリアーしているため、労基署から労基法違反であるとの指導を受けることはありません。
しかしながら、民法536条2項の問題が残ります。同条には「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」と定められています。これによれば「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」で労働者側が労務履行ができない場合、休業期間中の賃金債権「全額」を請求する権利を有することになります。
問題は不況に伴う生産・在庫調整による一時帰休が「使用者の責めに帰すべき」休業に当たるか否かです。この点について、参考となる下級審裁判例(池貝事件・横浜地判平12.12.14 労判802-27)がありましたので、拙稿「雇用環境悪化下の残業抑制・一時帰休を考える」労働法学研究会報2.15号(来月号)で同事案の概要・判決内容と実務的に示唆を得られる点をまとめております。ご参考にして頂ければ幸いです。
その上で、更に難問が残されています。あらかじめ就業規則等で一時帰休時の休業手当額を「平均賃金の6割」あるいは「8割」等と定めていた場合、これが民法536条2項とどのような関係になるのか。民法536条は通常、任意規定と理解されていますので、個別特約があれば、こちらが優先されることになります。一時帰休を行う際に個別契約あるいは労働協約で、休業手当のルールを労基法に反しない形で定める限り、民法536条との問題は生じませんが、あらかじめ定めた就業規則の規定1本でそのような特約と認めることが許されるのか。この問題について、何らかの結論を出したいと最近、悪戦苦闘しております。試論としては、就業規則の規定をあらかじめ設けていたとしても、法的紛争にいたった場合は、池貝事件に見られるような司法審査がなされることになるのではないかと考えています。
いずれにせよ、実務的には一時帰休中の賃金を全額支払わず、平均賃金の6割~9.9割に留めるのであれば、労働協約あるいは個別同意を書面で得ておくことが、コンプライアンス上有効な対応と考える次第です。
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