2011年4月28日木曜日

労基法Q&A(第3版)の発出からー非常時の時間外労働

 昨日付で東日本大震災に伴う労働基準法等のQ&A(第3版)が発出されています(こちら)。

 第3版は「労働基準法第24条(賃金の支払)、労働基準法第25条(非常時払)、労働基準法第33条(災害時の時間外労働等)、労働基準法第36条(時間外・休日労働協定)、労働基準法第39条(年次有給休暇)等についての記載を追加」しているものです。

 個人的に興味深いと思われましたのは、労基法33条(災害時の時間外労働等)のQ&Aです。これは災害等による臨時の必要がある場合に事業主は「その必要の限度において」時間外労働を命じることができる旨の定めですが、原則としては事前に労基署長の許可が必要です。しかしながら「事態急迫のため許可を受ける暇がないとき」については、事後的に届け出て許可に替えることも可能とされています(労基法33条1稿ただし書)。

 今回の震災の影響で、電気・水道・ガス・鉄道などはもちろん、一般の製造・運送・建設業、また流通・サービス業(特に小売流通・飲食など)も早期の事業復旧を目指し、3月〜4月においては相当な長時間労働を各従業員にお願いしているところと思われます。そのため、36協定に定める時間外労働時間数、さらには特別条項をも上回る時間外労働に従事させたとする事業場も見られるところです。

 これについて労基法33条の「事後届け」をなすべきか否かという問題がありますが、先のQ&Aは同届出を想定しているものではないようです(以下抜粋)。

Q8−1
 今回の震災により、被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインの早期復旧のため、被災地域外の他の事業者が協力要請に基づき作業を行う場合に、労働者に時間外・休日労働を行わせる必要があるときは、労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するでしょうか。

A (中略)御質問については、被災状況、被災地域の事業者の対応状況、当該労働の緊急性・必要性等を勘案して個別具体的に判断することになりますが、今回の震災による被害が甚大かつ広範囲のものであり、一般に早期のライフラインの復旧は、人命・公益の保護の観点から急務と考えられるので、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。
 ただし、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくまで必要な限度の範囲内に限り認められるものですので、過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を月45時間以内にするなどしていただくことが重要です。また、やむを得ず長時間にわたる時間外・休日労働を行わせた労働者に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じることが重要です。


 33条の「必要な限度の範囲内」について思いのほか、抑制的な解釈を示したものです(「・・・することが重要」としていますので、必ず45時間以内でなければ認めないとするものではありませんが・・)。33条の事後届出のハードルを上げてきた印象があります。

 いずれにしても、3月〜4月に長時間労働に従事させた従業員については、割増賃金の適正支払いはもちろん医師による面接指導の確実な実施と事後措置の検討・実施、更に衛生委員会における報告と再発防止対策の検討・実施が何よりも重要と思われます。

労働保険料・社会保険料免除制度創設の動向(震災関係)

 東日本大震災の被害が甚大である災害救助法適用地域等では、すでに労働保険料・社会保険料の納付期間延長又は申請猶予が取られてきました。しかしながら同制度は保険料納付が「延長」されているに過ぎず、いずれ納付することが求められます。震災によって甚大な被害を受けた事業主・従業員が同保険料を納付することが容易ではないものですが、「免除制度」についても、ようやく同立法措置の準備が動き出したようです。以下、細川厚生労働大臣の閣議後記者会見から(こちら)。

 今日は、閣議で東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律案が閣議決定されました。この法律案には厚生労働省関係としては医療機関や社会福祉施設などの各種施設の災害復旧に関する費用の補助、それから、健康保険や厚生年金の保険料の免除といった事項を盛り込んでおります。また、こうした阪神淡路大震災の際の事項に加えまして、今回新たに、通常1割負担とされている介護保険の利用者負担について市町村がこれを減免する場合にその減免分を国が負担すること、あるいは最大360日とされている雇用保険の基本手当についてその支給日数を個別に60日まで延長できるようにすること、また、被災者の死亡を要件とする遺族年金などについて、行方不明の方がたくさんおられますが、この要件というのが民法では1年となっている失踪宣告を待たずに震災から3ヶ月間不明であれば、これを支給出来るということとするといった内容が含まれているところです。厚生労働省としてはこの法律に基づいて、震災の復旧復興に全力で取り組んでいきたいと考えております。

 同日、厚労省から発表された「日本はひとつ」しごとプロジェクト フェーズ2(第2段階)において、同免除制度の概要が示されています(こちら)。 

(イ)各種保険料等の免除等(補正予算・法律改正) 1,139 億円
 医療保険、介護保険、労働保険、厚生年金保険等に関し、被災地の事業所で、震災による被害を受けたことにより、賃金の支払に著しい支障が生じている場合に、保険料等の負担の免除や減免等を行い、被災事業所の業務の再開を支援する。


 先日開催された厚労省労働政策審議会職業安定分科会において、以下のとおり労働保険料の免除制度の概要が示されておりましたが、社会保険料免除も同様のものとなりそうです(審議会配布資料によれば、①かつ②を満たす事業主に対して保険料を免除)。
 ①平成23年3月11日に、適用事業場等が特定被災区域(特定被災区域とは、災害救助法(昭和2 2年法律第118号)が適用された市町村の区域(東京都を除く。))に所在
 ②震災被害により、労働者の賃金に著しい支障が生じている等の事情
 →免除対象期間は②が認められる間(最長平成23年3月〜翌2月まで)

 神戸大震災時の対応では、同免除期間についても被保険者期間とカウントし、さらに受給の際にも納付期間と同様の取扱いをしていました。詳細がまだ明らかにされておりませんが、同様の対応が取られることが予想されます。また標準報酬額の改定緩和なども併せて取られるものと思われます。

 同法案については、第一次補正予算と合わせて順調に国会において審議され、可決成立するものと期待されますが、なお問題は残ります。まずは免除を求める際、被災地域に所在している事業場であっても、「労働者の賃金に著しい支障が生じている等の事情」が求められる点です。同要件の結果、全国展開をしている企業が被災地域に支店を設けており、これが重大な被害を受けていたとしても、同社全体としてみれば当該事情に該当しないとされ、免除制度の利用ができない可能性が高いものと思われます(支店では困難としても、「全社」的な資金繰りで払えるのであれば、免除制度など利用できなくても良いのではないかというご見解も当然にありうるところですが・・・)。
 また特定被災区域以外に所在する事業場で、計画停電・風評被害・客数減・物流毀損等様々な要因で資金繰りに困難をきたしている場合については、今回の免除制度等の対象から外れています。企業にとって社会保険料額の負担は、かってないほど重くのしかかっており、今後は徴収上の困難が更に拡大することが予測されます。

 話は変わりますが、このような中、政府は更に「税と社会保障の一体改革」でパート(短時間労働者)の社会保険適用(「緩和」→事業主の視点からみると「拡大」)を検討しています(こちら 毎日jp記事)。労働・社会保険徴収・適用の動向は、同免除制度も含めて当面注視が必要です。

2011年4月20日水曜日

「持病の薬飲み忘れた」をどう考えるべきかー病気・障害と告知ー

 先日18日、クレーン車による痛ましい交通事故が起こりました。大変なショックと憤りを感じていたところ、以下の続報を目にしました(読売新聞(こちら))

「持病の薬飲み忘れた」6人死亡事故の運転手
読売新聞 4月20日(水)3時9分配信
 栃木県鹿沼市樅山(もみやま)町の国道293号で18日朝、集団登校中の同市立北押原(きたおしはら)小学校の児童6人がクレーン車にはねられ死亡した事故で、自動車運転過失傷害容疑で逮捕された同県日光市大沢町、運転手柴田将人容疑者(26)が、栃木県警の調べに対し、「持病の発作を抑える薬を飲み忘れていた」と供述していることが19日、捜査関係者への取材でわかった。

 県警は事故原因との関連について裏付け捜査を進めている。

 捜査関係者によると、柴田容疑者は「てんかんの持病があるが、この日は発作を抑える薬を飲み忘れていた」と供述。また、事故直前にハンドルに突っ伏し、事故後もしばらく車内で動かないでいる姿が目撃されており、県警は発作を起こし、意識を失っていた可能性もあるとみている。


 18日発生時点で会社側は容疑者がてんかんの持病があるとの認識を示していませんでした(こちら)。ここからは推測に過ぎませんが、同容疑者は自動車運転免許・クレーン免許取得の際、および同社採用の際、「てんかん」であり、かつ治療中である旨、告知していなかった可能性があります。

 自動車運転免許については法改正がされており、てんかんの既往症がある方についても運転に支障がない場合、個別に公安委員会から適性判断がなされた上で、免許交付を行うこととしています(日本てんかん協会発行「波」における詳細な解説はこちら)。これを見る限り、本件容疑者が公安委員会から適性判断を受けることは困難と思われます。では何故、免許を取得していたかですが、本人が自動車運転免許・大型特殊免許を受験する際、てんかんの既往症を告知していない可能性があります。この場合は同人の学科・技能試験等のみで免許が交付される事になります。

 また同人が建設重機関係の会社に採用面接を受ける際も、同既往症の告知をしなければ、会社として本人の既往症を知りようがありません。厚労省は「公正な採用選考について」において「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施」を原則として禁止しており(こちら)、一般に採用選考時に会社側が健康診断の受診を命じることは容認されていません。また健康診断書の提出を命じたとしても、診断書発行が同人の主治医でない限り、本人の申告がなければ、他の医師が初見診断のみで、同人がてんかんの既往症を有している旨診断することは一般に不可能でしょう。

 では何故、申告しないのかですが、それは「差別」を恐れている、これが大きいと思われます。「てんかん」に対し、正しい知識普及が今なお十分でない中、既往症を告知することが「差別」につながる可能性は残念ながら高いのではないでしょうか。

 答えが容易に見つからない問題ですが、日本てんかん協会発行の「やさしいてんかんハンドブック」に以下の記載がありました。たしかにその通りだと思います(こちら)。

就職面接の際にてんかん発作があることを面接者に伝えると、展開が厳しいのが現状です。年中発作があって仕事に支障が出ると考える人事担当者が多いようです。しかし、服薬さえきちっと守っていれば大きな発作が出ることはめったにないことも事実です。発作があったとしても、1年間に発作で仕事ができない時間は、他の病気で休む時間とくらべても特に長い時間でないのですが、いつ発作が起きるか予測がつかないことが否定的理由になるのかもしれません。発作があると就職できないということはありませんが、不採用になる大きな理由の一つになっていることはやはり否定できません。
 不採用になった場合、「人事担当者がてんかんに偏見があったか無理解であった」、「てんかん発作についての説明が不十分であった」、「発作の有無ではなく、適性や能力などに足りないものがあった」など、客観的に見つめ直さなければ、目標である「就職」は難しいのではないかと思います。
 イギリスや韓国などでは、てんかんなどの障害があることを理由に雇用の差別をすることは、障害者差別禁止法などで禁止されていますが、日本ではまだそのような法律はありません。
 (中略)
 
 自動車運転などの免許は、以前はてんかんであるという理由だけで取得できませんでした。現在は、発作の有無や抑制期間の長さなどの条件によっては取得できます。免許・資格の法令・規則等では、てんかんがあるからということではなく、その業務を行うのに発作があって支障があるかどうかで判断されます。
 自動車社会では、発作があっても運転免許を取得している人も現実にはあり、運転はしないが身分証明書に利用しているだけなら支障はありませんが、運転中に発作を起こし重大な事故を起こしてしまった例もあります。自分の症状と責任を自覚しましょう


 最近、皆が不安に感じている「もの」と同様に、病気・障害についても、ご本人、家族、周りの者、社会全体それぞれが「正しく恐れる」事が重要だと感じます。

 

 

2011年4月12日火曜日

労組法上の労働者性に係る最高裁判決ー新国立劇場事件・INAX事件ー

 本日、最高裁は労組法上の労働者性について、2本の重要判決を下しました。新国立劇場事件、INAX事件最高裁判決です。早速、asahi,comで以下のとおり報じられています(こちら)。

 住宅設備のメンテナンス会社と業務委託契約を結ぶ個人事業主であっても、団体交渉が認められる「労働組合法上の労働者」に当たるかどうかが争点となった訴訟で、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は12日、「労働者に当たる」との判決を言い渡した。

 似た形態の個人事業者についても、労働者としての権利を認める先例となりそうだ。

 住宅設備会社「INAX」の子会社の「INAXメンテナンス」(IMT、愛知県常滑市)は一定の資格要件を満たした人と「カスタマーエンジニア」(CE)の契約を結び、製品修理などを委託している。

 CEの労働組合は2004年9月、労働条件を変える際には事前協議を開くことなどを申し入れたが、同社が拒否。この対応を、中央労働委員会が不当労働行為と認定し、団体交渉に応じるよう命じたため、同社が命令の取り消しを求めて提訴していた。

 2009年4月の一審・東京地裁判決は労働者と認定したが、同年9月の二審・東京高裁判決は労働者とは認めず、判断が一、二審で分かれていた。

 また、この訴訟とは別に、新国立劇場のオペラ公演に1年間出演する契約を結んだ合唱団員が、同様に「労働組合法上の労働者」に当たるかが争われた訴訟の判決も12日にあり、第三小法廷は同じく労働者と認める判断を示した。一、二審判決は「労働者に当たらない」と判断していた。


 先ほど最高裁HPを覗いてみると、すでに新国立劇場事件最高裁判決がUPされており、大変驚きました(こちら)。

 労組法上の労働者性判断にあたり、有力学説は「組織への組み入れ」の有無を重視するよう論じていましたが、本最高裁もまさにその点について次のとおり判示し、労組法上の労働者性を肯定する要素の一つとして捉えているようです。

「契約メンバーは,上記各公演の実施に不可欠な歌唱労働力として被上告財団の組織に組み入れられていたものというべきである。」

 まだざっくりとしか目を通しておりませんが、本最高裁判決を見ると、オペラ歌手に対する指揮命令の有無、場所的・時間的拘束性、報酬の労務代償性などいずれも強く肯定しています。同判示を見る限り、本件オペラ歌手は労組法上の労働者性のみならず、労基法上の労働者性をも肯定するかのように読めなくもありません(本判決上、明示していませんが)。

 INAX事件最高裁判決は残念ながら掲載されておらず、今後、何らかの機会に目を通すことになりそうですが、2つの重要最高裁判決は労組法上の労働者性のみならず、労基法上の労働者概念に対しても相応の影響を与える可能性がないか。その点が最も個人的に関心あるところです。

2011年3月31日木曜日

大震災と労災保険ー厚労省Q&A、精神障害の労災認定をめぐる課題などー

 時事通信が「勤務中の震災被害、労災認定へ 厚労省方針」と報じております(こちら

 東日本大地震で事業所や作業場が倒壊、焼失したり、大津波で流失したりして勤務中に被害に遭った人について、厚生労働省が労災認定する方針を決めたことが31日、分かった。阪神大震災の時も同様の措置を取った。

 三陸地方は明治三陸地震(1896年)など、何度も津波被害を受けているため、津波による被害を「危険な環境下で仕事をしていた結果」として、災害と業務の因果関係を認めた。大地震の発生が午後2時46分ごろと平日の昼間で勤務中の人が多かったため、対象者はかなりの数に上るとみられる。

 厚労省によると、30日までに2件の労災申請があった。岩手、宮城、福島の各労働局は避難所などで労災に関する出張相談をする予定。厚労省は「事業主や医療機関の証明書がなくても受理する。近くの労働基準監督署に問い合わせを」と呼び掛けている。

 労災と認められるのは事業所、作業場の倒壊や水没、焼失で被災した場合や、避難中や救助中、通勤中に巻き込まれた場合。休憩時間中も適用される。認定されれば遺族年金や一時金、葬祭料のほか、けがの療養費や休業補償が支払われる。

 行方不明者については本来、不明になったときから1年後に死亡とみなされた場合に請求ができるが、今回は特例として1年以内でも認定することを検討している。

 阪神大震災は発生から1年で472人が労災申請し、申請者としての要件を満たさなかった2人を除く470人(うち通勤中86人)が認定された。発生時間が午前5時46分と多くの人が勤務時間前の早朝だったため、被災者数に比べ申請者は少なかった。


 厚労省はすでに震災関連の労災事務取扱いについて通達を発出しており(こちら)、さらに「震災と労災保険」Q&Aが新たにHP上でUPされています(こちら)。時事通信の記事はこれらを確認したものと思われますが、厚労省Q&Aのとりわけ以下回答が重要です。

Q1-1 仕事中に地震や津波に遭遇して、ケガをしたのですが、労災保険が適用されますか?

(A)
仕事中に地震や津波に遭い、ケガをされた(死亡された)場合には、通常、業務災害として労災保険給付を受けることができます。これは、地震によって建物が倒壊したり、津波にのみ込まれるという危険な環境下で仕事をしていたと認められるからです。「通常」としていますのは、仕事以外の私的な行為をしていた場合を除くためです。


 従前の通達をみると(昭和49年通達、平成7年通達)、地震による災害に係る業務上外の判断は原則として天災地変によるものであるため業務外ではあるが、「被災労働者が作業方法、作業環境、事業場施設の状況等からみて危険環境下にあることにより、被災したものと認められる場合」は業務に内在する危険が現実化したものであり、業務上の災害として取り扱うとします。従って、過去の通達を前提とすると、被災した際の作業方法、環境・施設等が「危険環境下」か否かが個別に問題となりえますが、先の時事通信記事によれば、特に津波災害について「三陸地方は明治三陸地震(1896年)など、何度も津波被害を受けているため、津波による被害を危険な環境下で仕事をしていた結果と捉えるとの事。同判断によって、就業・避難中さらには通勤中に被災地で津波に遭遇し、負傷等された場合は業務上とすることが明確になったものです(避難、通勤中の考え方についても先のQ&A参照)。同行政解釈を見ると、社会全体のリスクを労災保険で引き受けるという「政策的判断」がなされたと理解しえなくもないと感じるところです。

 同通達・Q&Aによって、大震災に伴う労働保険の取り扱いが相当程度明確にはなりましたが、様々な課題が山積しています。例えば同震災に遭遇した従業員(特に自らは負傷等していない場合)が精神疾患を発症させた場合、これが業務上となるのでしょうか。また海沿いの地域で就労・避難・帰宅中、津波被害を目撃した場合と、内陸部において震度6クラスの地震に遭遇(本人、周辺の人的被害なし)した場合で判断が異なりうるのかどうか。神戸大震災の際には大きな問題となりませんでしたが、精神障害の労災認定についても、これから申請事案の増加が予想されており、検討が必要です。
 

2011年3月29日火曜日

雇用調整助成金と支店・営業所休業等との関係(東北関東大震災の特例)

 雇用調整助成金は、経済上の理由等から企業の経営状態が急速に悪化した際、雇用への影響を極力回避するべく設けられた国の大きなセーフティネットです(詳細はこちら)。

 通常、同制度を活用しようとする企業は、3ヶ月間の売り上げ等の低迷を受けて、あらかじめ休業等に係る計画書・労使協定等を用意し、ハローワークに対し事前提出することが必要です。雇用調整助成金は提出された後の休業等に対して、一定の助成がなされるものであり、計画書提出前に遡った助成はされません(原則)。しかしながら今回の東北・関東大震災は、被災地において突然に予期しない被害をもたらしており、あらかじめ同計画書等を作成の上、職安に提出することは不可能です。

 厚労省はその点を鑑みたのか、以下の事業所については、雇用調整助成金の申請に際し、計画書等の事後提出を認める通達を発出しています(こちら)。(制度概要はこちら、Q&Aはこちら

特例適用の対象事業主
 東北地方太平洋沖地震等被災地域事業主 
  青森県、岩手
県、宮城県、福島県、茨城県のうち災害救助法の適用を受けた地域に所在する事業所の事業主であって、以下のいずれかに 該当するもの (※災害救助法の適用対象地域についてはこちら なお上記5県以外は本特例の適用に含まれていない点に注意)

 イ 生産指標の最近1ヶ月間の値がその直前の1ヶ月又は前年同期に比べ5パーセント減少している事業所の事業主
 ロ 生産指標の震災後1ヶ月間の値がその直前の1ヶ月又は前年同期に比べ5パーセント以上減少する見込みである事業所の事業主
 ※平成23年6月16日まで また本助成金は経済上の理由により事業活動が縮小された場合が対象とされる点に注意(Q2参照(こちら))

 同事業主については平成23年6月16日までの間に提出された場合、平成23年3月11日(震災当日)に遡って「事前に届け出られたものして取り扱って差し支えない」とするものです。また前述のイ、ロのとおり、支給要件についても生産指標の確認期間を3ヶ月から1ヶ月に短縮するとともに、平成23年6月16日までの間は生産指標の値が減少する見込みでも受け付けるなどの緩和がなされています。

 それでは本社が東京等にあり、支店・事業所が上記被災地域に所在する場合はどのように取り扱われるのでしょうか。多くの企業では同支店等の労働保険手続きについては、その便宜上、本社事業場等の「継続事業の一括」として取扱っています。

 前述の通達では「地域に所在する事業所の事業主」としていますので、継続事業の一括であろうとも、個々の事業場・支店が指定被災地に所在する限りにおいて、同特例の適用対象と読めなくもありません。

 これに対して先の通達は特段、答えるものではありませんが、昨日(3月28日)、東京労働局のハローワーク助成金事務センターに電話で照会を行ったところ、概略以下の回答がなされています(要旨)。

・継続事業の一括の場合、被災地にある事業所は本社等の事業所として取り扱われるため、特例適用は原則として不可
・同取り扱いについて、批判があることは承知している。本省もそれを踏まえて以下の例外を認めることにしている
・継続事業の一括であっても、被災地に所在する事業所における売り上げ等が全社の3分の1を占める(※以上か超か未確認)場合は例外として特例適用を認めることとした
・特例適用対象についての要望は本省に適宜伝えている

 担当者によって同回答にブレがみられ、労働局自体も混乱している印象を受けています。いずれにしても同回答を前提とすると、被災地において甚大な被害を受けた支店、営業所等において、その雇用を維持し、休業手当を支給していたとしても、3月11日に遡及して雇用調整助成金を受けることはできないという事になります(これからの申請・助成金給付(原則どおり)は要件を満たせば当然可)。被災地にある支店、営業所の苦境と雇用維持への尽力を伺っていると、特例適用に係る取り扱いが柔軟かつ適切に運用できないのか思うところです。

追記
 政府は「被災者等就労支援・雇用創出推進会議」を立ち上げ、被災者雇用対策について検討を進めるとの事(asahi.comはこちら 、また政府の同会議資料はこちら

 「厚労省が中心となり、近く編成する補正予算案に盛り込む雇用対策や法改正などを検討する。・・・助成金の要件緩和や手続きの簡略化など、予算を必要とせず緊急的にできることについては来週中にまとめる方針だ。」

 来週以降の動向に注目いたします。

2011年3月28日月曜日

被災地における未払賃金立替払制度の申請簡略化

 東北関東大震災に伴う厚労省の対応の中に「未払賃金立替払制度の申請簡略化」が含まれています(こちら)。地味ではありますが、実務的に重要性が高いと思われるため参考までにご紹介を。

 被災地に本拠をおく事業場においては、震災によって事業活動が停止し、今月分の給料支払いに困難をきたすところも少なくないと思われます。国は震災前から、未払賃金立替払制度を設け、賃金未払いの被害にあった従業員に対し、給料を一部立替払いする制度が設けられています(所掌は主に労基署 詳細はこちら)が、同制度は「会社が事実上倒産し、賃金支払い能力がないこと」の認定と、各労働者の未払い賃金額等の確認に際し、資料収集・調査が必要です。これを今回の被災地にそのままあてはめてしまうと、各種帳簿等含め関係書類が散逸している事業場等で勤務する従業員に対し、救済が得られない結果を招きます。

 そこで新たに示された通達では、賃確法施行規則9条3項但し書き(認定)、同14条2項但し書き(確認)を活用し、以下の事業場については申請簡略化を図るよう示達しています。
 地震に伴い、災害扶助法2条の規定に基づきその適用の対象とされた地域(※帰宅困難者対応として適用された東京都除く)に本社機能を有する事業場が所在している中小企業事業主であって、地震による建物の倒壊等の直接的な被害(以下「地震被害」という)により事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ、賃金支払い能力がないものとすること。

 同通達によれば、罹災証明書などをもって、極力現地の実情に沿った認定・確認業務を進めるとの事です。詳細については、各労働基準監督署にご相談ください(被災地における監督署の開庁・相談窓口状況はこちら