大内伸哉先生の新著「雇用改革の真実」(こちら)を一読しましたので、その備忘録を。
本書は解雇、限定正社員、無期転換制度、派遣法、政府による賃上げ要請、ホワイトカラーエグゼンプション、育児休業制度、定年延長など最近の雇用政策上のトピックスを取り上げ、労働法学者の視点から政策の当否等を解説するものです。
本書の大きな特徴として指摘できるのは、以下の問題意識に基づく雇用政策の再評価にあります。
大内先生がまず一例として挙げるのが労働契約法における無期転換制度の導入です。一般に当該制度の導入は、本来、無期雇用で働くべき労働者が使用者による濫用的な有期雇用の利用によって著しい不利益を受けていたものを、立法によって是正させたと評価する向きがあります。
これに対し、大内先生は有期雇用の多くは、企業側から見ると経済合理性に基づくもの(景気変動の調整弁としての利用を一例として挙げます)であり、「無期転換制度」による法の介入は、結果として「無期雇用が増えるのではなく、無期転換が起こらないように短期に雇用を打ち切るという企業の行動を誘発する危険がある」、「一見、労働者の保護のためになりそうな政策が逆効果となるおそれがある」とするものです。
企業の経済合理性に基づく行動を直視しつつ、「その中で、いかにして労働者が幸福に職業キャリアをまっとうできるかを考えていくことこそが、真の意味での労働者の保護」になるという立場から、雇用政策の再評価を行っているのが本書の大きな特徴といえます。
本文中の各雇用政策をめぐる評価は極めて刺激的であり、いずれも労働法制に係る議論再活性化を促すものです(時に「劇薬」にすぎると感じる面もありますが。特に第7章の「育児休業」)。
個人的には第3章「有期雇用を規制しても正社員が増えない」における「無期転換申込権の放棄」をめぐる議論に共鳴しました。賃金債権放棄に係る判例法理などを紹介の上、無期転換申込権の放棄も「労働者に不利な同意だからといって無効と決めつけず、それが真に自由な意思による同意であることを厳格なチェックの上で確認できれば、有効とする解釈の方が望ましいと言えないだろうか」とするものです。問題はこの「厳格なチェック」の中身と思われ、この点についての精査が重要と考えています。
思うに最近の裁判例(例えば、定額残業代をめぐるもの)等を見ると、労使による合意を重視(むしろ軽視?)しないものが一部見られ、違和感を感じていました。労使自治の重要性を強調される大内先生の一連の関連文献を改めて読み進めたいと思うところです。
2014年5月16日金曜日
2014年5月14日水曜日
企業労働法実務入門(日本リーダーズ協会)について
先日、盟友田代英治先生から倉重公太郎編「企業労働法実務入門」(日本リーダーズ協会)の献本を頂きました。誠にありがとうございます。本書は気鋭の若手弁護士である倉重先生、小山先生、岡村先生、石井先生、横山先生、田島先生と社労士の田代先生、原田先生が共同で執筆された労働法の入門書です。
初めての地に旅に出る時、優れたガイドブックが手元にあれば大変心強いものですが、良いガイドブックは概ね以下の条件を満たしてます。
・見やすい地図や索引が付いており、すぐに知りたい情報を入手できること
・情報が簡潔かつ分かりやすく記されていること
・旅を楽しくするコラムや写真などが要所要所に配置されていること
本書は分野は異なれど、上記条件を見事に満たしており、「企業労働法実務」の優れたガイドブックたりうるものです。
まずお薦めできるのが、本書の「目次」と巻末の用語集です。研究者の手による労働法の概説書は法を体系的に習得させる目的があるため(当然に体系的理解は重要、学生さんはきちんと勉強しましょう(自戒をこめて))、実務家から見て、章立てや目次、索引が使い勝手の良いものは少ないように思われます。
これに対し、本書は単独でメンタルヘルスの章(10章)や、派遣法などの重要な法規のみを取り上げる章(第12章)を設けるなど、章立てに周到な工夫が見られる上、巻末の用語集には「普通解雇・・懲戒解雇以外の解雇のこと ●p」などのとおり、用語解説と参照ページが記され、企業担当者のニーズに見事に応えています
また本書が何よりも優れているのは本文の内容です。優れた経営法曹、社労士による労働法・労務管理・社会保険に係る解説は、いずれも過不足なく、かつバランスが取れたものであり、安心して読める内容となっています。何よりも難しい法律・人事労務関係の用語が平易な表現で記されているのが素晴らしいと思います(これが本当に難しいのです)。
その上、本書を魅力的なものとしているのが、各章の「コラム」「一歩前へ」です。初心者はもちろん、中上級者から見ても読み応えがあり、例えば「未消化の有休休暇と会計処理」(131p)では、国際財務報告基準と残存有休の関係という最先端の問題が取り上げられています。私も思わず読みふけった次第。その他、読み応えあるものが多く、労働法への興味をかき立てる内容となっています。
以上のとおり、本書は「実務労働法」の素晴らしいガイドブックであり、ぜひ企業の人事労務担当者はデスクに1冊、常備されることをお薦めします。
なお同著「終わりに」には、「本書をマスターした方の「今後の勉強方法」」として、「まずは実務で現に問題となっている箇所の専門書」に目を通すこと等が推奨されています。さいごに我田引水ではありますが、以下の問題に更に関心をお持ちの方には、ぜひ拙書もご一読いただければ幸いです(笑)。
●ブラック企業と呼ばれないための企業対応にさらに関心がある方には
→「会社が泣きを見ないための労働法入門」(単著、日本実業出版社)
●メンタル不調による休職・復職に係る企業対応にさらに関心がある方には
→「企業におけるメンタルヘルス不調の法律実務」(峰隆之弁護士と共著、労務行政)
●精神障害の労災認定問題にさらに関心がある方には
→「精神障害の労災認定と企業の実務対応」(単著、日本リーダーズ協会)
●サービス残業・過重労働防止対策にさらに関心がある方には
→「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」(峰隆之弁護士と共著、日本法令)
初めての地に旅に出る時、優れたガイドブックが手元にあれば大変心強いものですが、良いガイドブックは概ね以下の条件を満たしてます。
・見やすい地図や索引が付いており、すぐに知りたい情報を入手できること
・情報が簡潔かつ分かりやすく記されていること
・旅を楽しくするコラムや写真などが要所要所に配置されていること
本書は分野は異なれど、上記条件を見事に満たしており、「企業労働法実務」の優れたガイドブックたりうるものです。
まずお薦めできるのが、本書の「目次」と巻末の用語集です。研究者の手による労働法の概説書は法を体系的に習得させる目的があるため(当然に体系的理解は重要、学生さんはきちんと勉強しましょう(自戒をこめて))、実務家から見て、章立てや目次、索引が使い勝手の良いものは少ないように思われます。
これに対し、本書は単独でメンタルヘルスの章(10章)や、派遣法などの重要な法規のみを取り上げる章(第12章)を設けるなど、章立てに周到な工夫が見られる上、巻末の用語集には「普通解雇・・懲戒解雇以外の解雇のこと ●p」などのとおり、用語解説と参照ページが記され、企業担当者のニーズに見事に応えています
また本書が何よりも優れているのは本文の内容です。優れた経営法曹、社労士による労働法・労務管理・社会保険に係る解説は、いずれも過不足なく、かつバランスが取れたものであり、安心して読める内容となっています。何よりも難しい法律・人事労務関係の用語が平易な表現で記されているのが素晴らしいと思います(これが本当に難しいのです)。
その上、本書を魅力的なものとしているのが、各章の「コラム」「一歩前へ」です。初心者はもちろん、中上級者から見ても読み応えがあり、例えば「未消化の有休休暇と会計処理」(131p)では、国際財務報告基準と残存有休の関係という最先端の問題が取り上げられています。私も思わず読みふけった次第。その他、読み応えあるものが多く、労働法への興味をかき立てる内容となっています。
以上のとおり、本書は「実務労働法」の素晴らしいガイドブックであり、ぜひ企業の人事労務担当者はデスクに1冊、常備されることをお薦めします。
なお同著「終わりに」には、「本書をマスターした方の「今後の勉強方法」」として、「まずは実務で現に問題となっている箇所の専門書」に目を通すこと等が推奨されています。さいごに我田引水ではありますが、以下の問題に更に関心をお持ちの方には、ぜひ拙書もご一読いただければ幸いです(笑)。
●ブラック企業と呼ばれないための企業対応にさらに関心がある方には
→「会社が泣きを見ないための労働法入門」(単著、日本実業出版社)
●メンタル不調による休職・復職に係る企業対応にさらに関心がある方には
→「企業におけるメンタルヘルス不調の法律実務」(峰隆之弁護士と共著、労務行政)
●精神障害の労災認定問題にさらに関心がある方には
→「精神障害の労災認定と企業の実務対応」(単著、日本リーダーズ協会)
●サービス残業・過重労働防止対策にさらに関心がある方には
→「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」(峰隆之弁護士と共著、日本法令)
2014年5月12日月曜日
会社が「泣き」を見ないための労働法入門発刊のお知らせ
新著「会社が「泣き」を見ないための労働法入門」(日本実業出版社)が5月10日に発刊されました(amazonはこちら)。
同書はブラック企業等と指摘される恐れがある人事労務上の様々な課題について、事例形式で法令解説と実務対応策などを解説したものです。
1章では「ブラック企業」問題の背景と企業人事担当者として知っておくべきブラック企業論と厚労省指導との間の相違点を整理しています。
その上で第2章以下において、企業側が「泣き」をみないための労働法上のポイントを以下の流れで解説するものです。
サービス残業問題(第2章)、過重労働防止対策(第3章)、パワーハラスメント問題(第4章)、若年労働者等の使い捨て問題(第5章)、その他労働法上の課題(第6章)。最終章(第7章)ではブラック企業と指摘されないためのチェックリスト等を解説しています。
同書はブラック企業等と指摘される恐れがある人事労務上の様々な課題について、事例形式で法令解説と実務対応策などを解説したものです。
1章では「ブラック企業」問題の背景と企業人事担当者として知っておくべきブラック企業論と厚労省指導との間の相違点を整理しています。
その上で第2章以下において、企業側が「泣き」をみないための労働法上のポイントを以下の流れで解説するものです。
サービス残業問題(第2章)、過重労働防止対策(第3章)、パワーハラスメント問題(第4章)、若年労働者等の使い捨て問題(第5章)、その他労働法上の課題(第6章)。最終章(第7章)ではブラック企業と指摘されないためのチェックリスト等を解説しています。
本書が良好かつ規律のある職場環境と健全な労使関係づくりに日々取り組んでおられる会社の人事労務担当者、社労士の先生方などに役立つところがあれば誠に幸いです。
2014年1月5日日曜日
新年の御挨拶と事務所部屋移動のお知らせ
新年明けましておめでとうございます。
平成二六年は労働法制の大きな転換点になる年のようにも思われ、年初から身が引き締まる思いを感じております。
本年も各専門誌、セミナーそして本ブログその他様々な形でお世話になると思いますが、よろしくお願い致します。
なお昨年末に以下の通り事務所の部屋番号のみ移動しました。その他変更はございません。
(移動先)東京都港区西新橋1-6-12 アイオス虎ノ門506号(503号から移動)
平成二六年は労働法制の大きな転換点になる年のようにも思われ、年初から身が引き締まる思いを感じております。
本年も各専門誌、セミナーそして本ブログその他様々な形でお世話になると思いますが、よろしくお願い致します。
(移動先)東京都港区西新橋1-6-12 アイオス虎ノ門506号(503号から移動)
2013年10月18日金曜日
国家戦略特区における雇用規制緩和について
本日(10月18日)、政府は日本経済再生本部会合において、国家戦略特区における具体的な規制緩和内容を決定しました。ここ数日、新聞報道で報じられていた「雇用規制」に係る緩和案についても、官邸HPで「検討方針」が示されています(こちら)。
雇用面での規制緩和としては、まず総論で以下の方針が示されています。
「特区内で、新規開業直後の企業及びグローバル企業等が、優秀な人材を確保し、従業員が意欲と能力を発揮できるよう、以下の規制改革を認めるとともに、臨時国会に提出する特区関連法案の中に必要な規定を盛り込む。 」
項目としては(1)労働条件の明確化、(2)有期雇用の特例の2点が挙げられています。
まず(1)労働条件の明確化は、元々は国家戦略特区における「解雇権濫用法理の適用除外」等が想定されていたようですが、以下の内容に落ち着いています。
・ 新規開業直後の企業及びグローバル企業等が、我が国の雇用 ルールを的確に理解し、予見可能性を高めることにより、紛争を生じることなく事業展開することが容易となるよう、「雇用労働相談センター(仮称)」を設置する。
・ また、裁判例の分析・類型化による「雇用ガイドライン」を活用し、個別労働関係紛争の未然防止、予見可能性の向上を図る。
・ 本センターは、特区毎に設置する統合推進本部の下に置くものとし、本センターでは、新規開業直後の企業及びグローバル企業の投資判断等に資するため、企業からの要請に応じ、雇用管理や労働契約事項が上記ガイドラインに沿っているかどうかなど、具体的
事例に即した相談、助言サービスを事前段階から実施する。
・ 以上の趣旨を、臨時国会に提出する特区関連法案の中に盛り込む。
若干のコメントとして、雇用労働相談センターは「厚労省」ではなく、「特区の統合推進本部」の下に置くとした点は興味深いところです。問題は誰がどのように担うかでしょう。
また同センターが「事前段階」から雇用管理等について具体的事例に即した相談、助言サービスを行うことと明記されていますが、同相談・助言内容が法的な「お墨付き」となるのか(多分ならないでしょう)。実際に訴訟案件が生じ、同センターの助言に従った会社側が敗訴に至った場合、法的責任は生じうるのかどうか(当然に責任回避する方向で制度設計されると思いますが・・)。色々と煮詰めるべき問題が多いようにも思います。
次の(2)有期雇用の特例については、次の方針が示されています。
例えば、これからオリンピックまでのプロジェクトを実施する企業が、7年間限定で更新する代わりに無期転換権を発生させることなく高い待遇を提示し優秀な人材を集めることは、現行制度上はできない。
・ したがって、新規開業直後の企業やグローバル企業をはじめとする企業等の中で重要かつ時限的な事業に従事している有期労働者であって、「高度な専門的知識等を有している者」で「比較的高収入を得ている者」などを対象に、無期転換申込権発生までの期間の在り方、その際に労働契約が適切に行われるための必要な措置等について、全国規模の規制改革として労働政策審議会において早急に検討を行い、その結果を踏まえ、平成26年通常国会に所要の法案を提出する。
・ 以上の趣旨を、臨時国会に提出する特区関連法案の中に盛り込む。
若干のコメントですが、やはり労働契約法の改正については、厚労省に戻して、労政審経由で法案を仕上げろとのお達し。厚労省労働基準局労働条件政策課、ご苦労様です。水面下で調整できているのであればともかく、いきなり官邸から降ってきた感のある政策マターといえそうですので、連合の反応が大変注目されます。
いずれにしてもこの改正労働契約法案(そもそも来年の通常国会に閣法提出されるのかどうか疑わしいですが)が無事成立したとしても、「重要かつ時限的な事業」「高度な専門的知識」「比較的高収入」などを対象とした延長措置(5年から10年)に留まるため、企業実務への影響は小さいものといえそうです。
雇用面での規制緩和としては、まず総論で以下の方針が示されています。
「特区内で、新規開業直後の企業及びグローバル企業等が、優秀な人材を確保し、従業員が意欲と能力を発揮できるよう、以下の規制改革を認めるとともに、臨時国会に提出する特区関連法案の中に必要な規定を盛り込む。 」
項目としては(1)労働条件の明確化、(2)有期雇用の特例の2点が挙げられています。
まず(1)労働条件の明確化は、元々は国家戦略特区における「解雇権濫用法理の適用除外」等が想定されていたようですが、以下の内容に落ち着いています。
・ 新規開業直後の企業及びグローバル企業等が、我が国の雇用 ルールを的確に理解し、予見可能性を高めることにより、紛争を生じることなく事業展開することが容易となるよう、「雇用労働相談センター(仮称)」を設置する。
・ また、裁判例の分析・類型化による「雇用ガイドライン」を活用し、個別労働関係紛争の未然防止、予見可能性の向上を図る。
・ 本センターは、特区毎に設置する統合推進本部の下に置くものとし、本センターでは、新規開業直後の企業及びグローバル企業の投資判断等に資するため、企業からの要請に応じ、雇用管理や労働契約事項が上記ガイドラインに沿っているかどうかなど、具体的
事例に即した相談、助言サービスを事前段階から実施する。
・ 以上の趣旨を、臨時国会に提出する特区関連法案の中に盛り込む。
若干のコメントとして、雇用労働相談センターは「厚労省」ではなく、「特区の統合推進本部」の下に置くとした点は興味深いところです。問題は誰がどのように担うかでしょう。
また同センターが「事前段階」から雇用管理等について具体的事例に即した相談、助言サービスを行うことと明記されていますが、同相談・助言内容が法的な「お墨付き」となるのか(多分ならないでしょう)。実際に訴訟案件が生じ、同センターの助言に従った会社側が敗訴に至った場合、法的責任は生じうるのかどうか(当然に責任回避する方向で制度設計されると思いますが・・)。色々と煮詰めるべき問題が多いようにも思います。
次の(2)有期雇用の特例については、次の方針が示されています。
例えば、これからオリンピックまでのプロジェクトを実施する企業が、7年間限定で更新する代わりに無期転換権を発生させることなく高い待遇を提示し優秀な人材を集めることは、現行制度上はできない。
・ したがって、新規開業直後の企業やグローバル企業をはじめとする企業等の中で重要かつ時限的な事業に従事している有期労働者であって、「高度な専門的知識等を有している者」で「比較的高収入を得ている者」などを対象に、無期転換申込権発生までの期間の在り方、その際に労働契約が適切に行われるための必要な措置等について、全国規模の規制改革として労働政策審議会において早急に検討を行い、その結果を踏まえ、平成26年通常国会に所要の法案を提出する。
・ 以上の趣旨を、臨時国会に提出する特区関連法案の中に盛り込む。
若干のコメントですが、やはり労働契約法の改正については、厚労省に戻して、労政審経由で法案を仕上げろとのお達し。厚労省労働基準局労働条件政策課、ご苦労様です。水面下で調整できているのであればともかく、いきなり官邸から降ってきた感のある政策マターといえそうですので、連合の反応が大変注目されます。
いずれにしてもこの改正労働契約法案(そもそも来年の通常国会に閣法提出されるのかどうか疑わしいですが)が無事成立したとしても、「重要かつ時限的な事業」「高度な専門的知識」「比較的高収入」などを対象とした延長措置(5年から10年)に留まるため、企業実務への影響は小さいものといえそうです。
2013年8月15日木曜日
新制度「プロフェッショナル労働制」(仮称)と労働政策決定過程の雑感
日経新聞朝刊1面(8月14日)で、政府が新制度「プロフェッショナル労働制」(仮称)の創設を進めていることが報じられました(こちら)。
「政府は1日8時間、週40時間が上限となっている労働時間の規定に当てはまらない職種を新たにつくる方針だ。大企業で年収が800万円を超えるような課長級以上の社員が、仕事の繁閑に応じて柔軟な働き方をできるようにして、成果を出しやすくする。新たな勤務制度を2014年度から一部の企業に認める調整を始め、トヨタ自動車や三菱重工業などに導入を打診した。」
「労働基準法は時間外労働への残業代の支払いのほか、休日や深夜労働に伴う割増賃金の支給を企業に義務づけている。この労働時間の規定を、いわゆるホワイトカラーの一部に適用しない「ホワイトカラー・エグゼンプション」を企業が実験的に採用できるようにする。秋の臨時国会に提出予定の産業競争力強化法案に制度変更を可能とする仕組みを盛り込む。」(同記事)
お盆休みの中、突如降って湧いてきた感のある記事です。秋から労働政策審議会がスタートし、裁量労働制、フレックスタイム制の見直しを検討する予定ですが、1年程度審議の上で、法案提出も順調に進んで再来年1月以降になると考えておりました。これが、同記事によると、秋の臨時国会で提出される産業競争力強化法案で「プロフェッショナル労働制」を先んじて立法措置を行うとの事。
同記事をどのように理解したら良いのか、かなり混乱しましたが、日経新聞記事で産業競争力強化法案の概要が書かれています(7月31日付け(こちら))。
「政府が成長戦略を実現するための具体策を盛り込んだ「産業競争力強化法案」の概要がわかった。国の法改正に先駆けて企業単位で規制を緩和できる「企業特区」制度の新設などが柱。政府は詳細を固めた上で、今秋に召集予定の臨時国会に同法案を提出する。(以下略)」「政府は産業競争力強化法により規制緩和を進めやすくした上で、各省庁に個別産業向けの支援策を追加するよう促す。秋の臨時国会では、電力システム改革を目指す電事法改正案や、再生医療の普及を目指す薬事法改正案を競争力強化法案と同時に提出し、6月に決定した成長戦略の肉づけを目指す。」
同記事によれば、経産省主導で「企業特区」制度を設けるとしても、具体的な規制緩和自体は「各省庁に個別産業向けの支援策を追加するよう促す」立場に留まるように読めます。とすれば、厚労省は産業競争力強化法案の成立後、「企業特区」に対し、労基法の労働時間規制緩和を「促される」立場になるのやもしれません。
この場合、法制面で「企業特区」のみに労基法の規制緩和を行いうるのか、また法技術的にどのような手法によるのか等、課題が山積しているように思われます。また労基法の改正を行う場合、労働政策審議会における審議が必須であるところ、本件は労働者側代表が大きく反発することが予想されます。同反発を無視して、急ぎ足で秋の臨時国会内で改正労基法案の提出を急げば、労政審のボイコット、大々的な反対運動も想定され、「通常ルート」での法案提出・成立自体は極めて困難と思われます。
ただ先の日経記事で気になるのは「秋の臨時国会に提出予定の産業競争力強化法案に制度変更を可能とする仕組みを盛り込む。」と報じている点です。日経記者の筆の誤りの可能性も否定できませんが、もし同記事のリーク元であろう経産省自体が「プロフェッショナル労働制」創設を労基法改正によることなく、産業競争力強化法案のみで進められると考えているとすれば、労働政策決定過程上、大問題となります。これは労基法改正の場合、必ず通るべき労働政策決定過程(公労使の3者構成)そのものを大きく変じうるものであり、労働団体はもちろん厚労省(労働系)の組織を挙げた反発も必至でしょう。賢明な使用者団体も、選挙結果によって逆の立場になることをありうることから、軽はずみに3者構成による政策決定過程を反故にすべきでないと理解しているものと思われます。
なお濱口桂一郎先生のHPに3者構成による労働政策決定過程の意義等が論じられた座談会記事が掲載されています(「労働政策決定過程の変容と労働法の未来」季刊労働法222号(こちら))。花見忠先生、山口浩一郎先生と濱口桂一郎先生が同問題を鼎談しており、大変勉強になるものです。ご参考までに。
「政府は1日8時間、週40時間が上限となっている労働時間の規定に当てはまらない職種を新たにつくる方針だ。大企業で年収が800万円を超えるような課長級以上の社員が、仕事の繁閑に応じて柔軟な働き方をできるようにして、成果を出しやすくする。新たな勤務制度を2014年度から一部の企業に認める調整を始め、トヨタ自動車や三菱重工業などに導入を打診した。」
「労働基準法は時間外労働への残業代の支払いのほか、休日や深夜労働に伴う割増賃金の支給を企業に義務づけている。この労働時間の規定を、いわゆるホワイトカラーの一部に適用しない「ホワイトカラー・エグゼンプション」を企業が実験的に採用できるようにする。秋の臨時国会に提出予定の産業競争力強化法案に制度変更を可能とする仕組みを盛り込む。」(同記事)
お盆休みの中、突如降って湧いてきた感のある記事です。秋から労働政策審議会がスタートし、裁量労働制、フレックスタイム制の見直しを検討する予定ですが、1年程度審議の上で、法案提出も順調に進んで再来年1月以降になると考えておりました。これが、同記事によると、秋の臨時国会で提出される産業競争力強化法案で「プロフェッショナル労働制」を先んじて立法措置を行うとの事。
同記事をどのように理解したら良いのか、かなり混乱しましたが、日経新聞記事で産業競争力強化法案の概要が書かれています(7月31日付け(こちら))。
「政府が成長戦略を実現するための具体策を盛り込んだ「産業競争力強化法案」の概要がわかった。国の法改正に先駆けて企業単位で規制を緩和できる「企業特区」制度の新設などが柱。政府は詳細を固めた上で、今秋に召集予定の臨時国会に同法案を提出する。(以下略)」「政府は産業競争力強化法により規制緩和を進めやすくした上で、各省庁に個別産業向けの支援策を追加するよう促す。秋の臨時国会では、電力システム改革を目指す電事法改正案や、再生医療の普及を目指す薬事法改正案を競争力強化法案と同時に提出し、6月に決定した成長戦略の肉づけを目指す。」
同記事によれば、経産省主導で「企業特区」制度を設けるとしても、具体的な規制緩和自体は「各省庁に個別産業向けの支援策を追加するよう促す」立場に留まるように読めます。とすれば、厚労省は産業競争力強化法案の成立後、「企業特区」に対し、労基法の労働時間規制緩和を「促される」立場になるのやもしれません。
この場合、法制面で「企業特区」のみに労基法の規制緩和を行いうるのか、また法技術的にどのような手法によるのか等、課題が山積しているように思われます。また労基法の改正を行う場合、労働政策審議会における審議が必須であるところ、本件は労働者側代表が大きく反発することが予想されます。同反発を無視して、急ぎ足で秋の臨時国会内で改正労基法案の提出を急げば、労政審のボイコット、大々的な反対運動も想定され、「通常ルート」での法案提出・成立自体は極めて困難と思われます。
ただ先の日経記事で気になるのは「秋の臨時国会に提出予定の産業競争力強化法案に制度変更を可能とする仕組みを盛り込む。」と報じている点です。日経記者の筆の誤りの可能性も否定できませんが、もし同記事のリーク元であろう経産省自体が「プロフェッショナル労働制」創設を労基法改正によることなく、産業競争力強化法案のみで進められると考えているとすれば、労働政策決定過程上、大問題となります。これは労基法改正の場合、必ず通るべき労働政策決定過程(公労使の3者構成)そのものを大きく変じうるものであり、労働団体はもちろん厚労省(労働系)の組織を挙げた反発も必至でしょう。賢明な使用者団体も、選挙結果によって逆の立場になることをありうることから、軽はずみに3者構成による政策決定過程を反故にすべきでないと理解しているものと思われます。
なお濱口桂一郎先生のHPに3者構成による労働政策決定過程の意義等が論じられた座談会記事が掲載されています(「労働政策決定過程の変容と労働法の未来」季刊労働法222号(こちら))。花見忠先生、山口浩一郎先生と濱口桂一郎先生が同問題を鼎談しており、大変勉強になるものです。ご参考までに。
2013年8月8日木曜日
ブラック企業集中取り締まりについて
厚労省は8月8日、来月9月をブラック企業の集中取り締まりを行う旨、発表しました。読売新聞ニュースでは以下のとおり報じています(こちら)。
「企業名公表」のタイトルに少々驚かされましたが、読売新聞報によれば送検事例のプレス発表を意味するようです。とすれば、同公表自体は従前どおりの対応といえます。また長時間労働、サービス残業などの情報および過重労働等による労災が発生した事業場に対し、臨検監督を行うこと自体も従前から行われており、さほど新規性はありません。
今回の集中取り締まりの特徴は、何よりも「離職率の高い事業場」をピックアップして行う点にあります。離職率情報の入手をどのようにして行うのか記事上不明ですが、ハローワーク経由で情報収集するということでしょうか。そのようなやり取りを行うとすれば、職安と労基の連携という面でも注目すべきところです。ただ離職率は会社におけるセンシティブ情報にあたるため、当該情報を職安、労基署が如何なる根拠で活用しうるのか。法制面の整備を含め、確認しておきたい点です。
いずれにしても全国4000社を大々的に集中取り締まりするとの報は、各マスコミともに好意的に報じており、労働基準行政のPRという面では今のところ十分に効果があったといえそうです。問題は実際の取り締まりが意義あるものとなるか否かですが、9月の各指導内容が注目されます。
「企業名公表」のタイトルに少々驚かされましたが、読売新聞報によれば送検事例のプレス発表を意味するようです。とすれば、同公表自体は従前どおりの対応といえます。また長時間労働、サービス残業などの情報および過重労働等による労災が発生した事業場に対し、臨検監督を行うこと自体も従前から行われており、さほど新規性はありません。
今回の集中取り締まりの特徴は、何よりも「離職率の高い事業場」をピックアップして行う点にあります。離職率情報の入手をどのようにして行うのか記事上不明ですが、ハローワーク経由で情報収集するということでしょうか。そのようなやり取りを行うとすれば、職安と労基の連携という面でも注目すべきところです。ただ離職率は会社におけるセンシティブ情報にあたるため、当該情報を職安、労基署が如何なる根拠で活用しうるのか。法制面の整備を含め、確認しておきたい点です。
いずれにしても全国4000社を大々的に集中取り締まりするとの報は、各マスコミともに好意的に報じており、労働基準行政のPRという面では今のところ十分に効果があったといえそうです。問題は実際の取り締まりが意義あるものとなるか否かですが、9月の各指導内容が注目されます。
ブラック企業集中取り締まり…立ち入り、公表も
読売新聞 8月8日(木)13時30分配信
厚生労働省は8日、若者に極端な長時間労働を強いるなどする、いわゆる「ブラック企業」への集中取り締まりを実施すると発表した。
若手社員の離職率が極端に高かったり、過重労働が続いていたりする疑いのある全国約4000社に対し、9月の1か月間に立ち入り調査する。悪質な労働基準法違反などが確認されれば書類送検し、社名を公表する。
対象は、平均的な離職率を上回っている企業など。同省によると、大卒の3年以内の離職率は平均で28・8%で、業種や企業の規模も参考にする。サービス残業や労使の合意を超える残業が横行しているとの相談がある企業や、過去に労災を起こした企業も含める。
実態把握のため、9月1日には無料の電話相談(0120・794・713)を実施する。時間は午前9時から午後5時まで。
若手社員の離職率が極端に高かったり、過重労働が続いていたりする疑いのある全国約4000社に対し、9月の1か月間に立ち入り調査する。悪質な労働基準法違反などが確認されれば書類送検し、社名を公表する。
対象は、平均的な離職率を上回っている企業など。同省によると、大卒の3年以内の離職率は平均で28・8%で、業種や企業の規模も参考にする。サービス残業や労使の合意を超える残業が横行しているとの相談がある企業や、過去に労災を起こした企業も含める。
実態把握のため、9月1日には無料の電話相談(0120・794・713)を実施する。時間は午前9時から午後5時まで。
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