最近、お問い合わせが多い問題としてセクハラ(パワハラ)事案の社内調査があります。問題になる案件をみると、加害者が認めていたり、加害事実が現認されている場合は殊の外少なく、多くの同種事案は人事・ヘルプラインに相談が寄せられた段階では、事実関係が不明確です(まさに黒澤明監督「羅生門」の世界(芥川龍之介原作))。特に被害者・加害者とされる者のみが別室等にいた際に生じたとされる同種案件は、事実関係の認定が至極困難といえます。
厚労省は精神障害の労災認定迅速化を目指して、検討会を精力的に開催していますが、同検討会のセクハラ分科会でセクハラの労災認定に係る分科会報告書の素案を取りまとめています(こちら)。
同報告書の中でまさに上記困難事案に対する調査上の留意点が示されており、実務担当者に参考になる面があろうかと思われます。
「当事者にしか事実関係が明らかでない場合の調査 セクシャルハラスメント事案はその事実関係を当事者のみが知る場合も少なくなく、さらに事実関係を客観的に示す証拠がない等の事情により、行為者や一部の関係者がセクシャルハラスメントの事実を否認するものが多く見られる。事実関係が客観的に明らかでなく、当事者の主張に大きな相違がある事案の事実関係の把握は非常に困難を伴うものとなる。このような場合、次のような手法が有効である場合があることに留意すべきである。
・当事者の供述のほか、当時の日記、メモ等を収集し、それらの資料に基づき関連する出来事を時系列的に整理すること
・行為者及び被害者の主張を否定する関係者の聴取では、必要に応じ、具体的な情報を示しつつ、整合しない点の釈明を求めながら聴取を行うこと」
やはり基本はこの留意事項のとおりでしょう(私自身も今までそのように回答してきましたし、困難案件に係る外部調査受任時は同スタンスで調査してきました)。とはいえ、上記留意事項は「言うは易く、行うに難し」です。同調査を行うには、相応の知識・経験(特に実戦経験)が必要となります。同種事案対応の経験が少ない人事・ヘルプライン担当者等には、かなり酷な調査対応であり、同調査に限って外部の専門家に依頼するケースが今後も増加する可能性が高いように思われます。
なお同報告書には、セクハラの労災認定基準を見直すこと等が明らかにしていますが、これを見るとセクハラ発生後の会社側対応が業務上判断の重要な考慮要素とするなど、企業への実務的な影響が大きい見直しとなりそうです。今後の見直しの動向が注目されるところです(更に本検討会では、「労働時間数」の具体例を示すことが検討されており、こちらも重要)。
来月7月19日(火)、産労総合研究所・日本賃金研究センター共催「メンタルヘルス予防策・ラインケア充実への解決策セミナー」に於いてケース別検討の講師を務める予定ですが、その際にも上記問題は取り上げるべき課題の一つとなりそうです(セミナー案内はこちら)。
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