2008年12月13日土曜日

経済情勢の悪化を踏まえた適切な行政運営方針とは(有期雇用契約関係)

 有期雇用契約については、従来から様々な法規制あるいは指針上のルールが定められています。まず労働基準法において契約期間の上限(原則3年、例外5年)等が定められています(同法14条1項)。また平成20年3月に施行された労働契約法においても、「有期契約期間中の解雇はやむを得ない事由がなければできない」、「有期契約期間を必要以上に細切れにしないように努めること(同法17条)が明文化されました。
 これとともに、実務上重要であるのが「有期労働契約の締結・更新・雇止めに関する基準」(以下、雇止め指針)です。同指針には、有期契約締結時の明示事項(更新の有無、更新の判断基準など)、雇止めの際の予告ルール(有期労働契約が3回以上更新されているか、1年を超えて継続して雇用されている場合、少なくとも契約期間終了する日の30日前までに予告)などが定められています。同指針には法的拘束力はなく、労基署が同指針に基づき、助言指導を行うことができる(同法3項)形式でのルール実効性確保を図っています。しかしながら、同指針については、実のところさほど厳しい指導が展開されてきませんでした(なお有期契約労働者に係る法規制、指針その他ガイドラインを分かりやすくまとめたものとして、厚労省「有期契約労働者の雇用管理の改善に関するガイドライン」(2008))。

 これが先日、現下の厳しい雇用失業情勢とりわけ有期契約労働者等の雇い止めが深刻化する中、発出された新通達で流れが変わる可能性があります(「経済情勢の悪化を踏まえた適切な行政運営方針について」(平成20年12月9日)地発第1209001号、基発第1209001号参照)。まず同通達では、労使双方に対し、雇止め指針など有期契約労働者に係る労働ルールを周知徹底する旨、明確に打ち出されました。その上で、労基署における申告事案への優先的な対応として、「有期契約労働者に係る事案であっても、雇止め等に関する基準に適合していないおそれのあるものについては、必要な調査を行い、労働基準法第14条3項に基づく助言・指導等を行うこと」とされました。今後は先の雇止め指針に定める書面明示、雇止め予告等に係る企業への助言・指導例が急増することが予想されるところであり、各企業においては、改めて同雇止め指針に基づく有期雇用契約書及び運用双方の社内点検が求められます。

 これだけではありません。有期雇用契約については、判例法理において、以前から有期雇用契約を反復更新等していた場合、契約期間満了を理由とした雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されることがありました。これを受けて、先の新通達においても、「雇止め・・については、労働基準法等で定める法定労働条件を遵守することはもとより、労働契約法や裁判例等に照らして不適切な取扱いが行われることのないよう、事業主等にたいし・・周知を図り、適切な労務管理の必要性について啓発指導を行うこと」とされており、雇止め指針の指導とともに「事前に労使間での話合いや労働者への説明が十分に行うことが重要である旨説明すること」が全国の労働基準監督署に指示されています。

 雇止めの問題は、その予告を除いて、労基署がさほど指導実績が乏しい分野です。現下の厳しい経済環境を踏まえた上での通達ではありますが、この「啓発指導」の具体的内容と、それが企業実務に与える影響については、今後の労基署の動向を見守る必要があります。いずれにせよ、有期雇用契約の雇止め問題が、来年に向けて、労働法上、注目が高まる可能性を感じているものです。

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